(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】電磁波吸収体用組成物、電磁波吸収体三次元造形物、それを用いた電子部品及び電子機器、並びにその電子部品及び電子機器の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/113 20060101AFI20220914BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20220914BHJP
C01G 49/06 20060101ALI20220914BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
H01F1/113
H05K9/00 M
C01G49/06 Z
C01G49/00 C
(21)【出願番号】P 2020506409
(86)(22)【出願日】2019-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2019008327
(87)【国際公開番号】W WO2019176612
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2018043987
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山田 幸憲
(72)【発明者】
【氏名】廣井 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】藤田 真男
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-077198(JP,A)
【文献】特開2016-111341(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221992(WO,A1)
【文献】特開2000-328006(JP,A)
【文献】特開2001-297905(JP,A)
【文献】特開2017-045946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00-49/08
H01F 1/00- 1/44
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波吸収材料とバインダ樹脂とを含む電磁波吸収体三次元造形物であって、
前記電磁波吸収材料は、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する鉄酸化物であり、
前記電磁波吸収体三次元造形物は、電子部材を被覆可能な薄肉構造に造形されており、
前記電磁波吸収体三次元造形物は、厚肉部と、薄肉部とを有し、
前記薄肉部に含まれる前記電磁波吸収材料の含有量が、前記厚肉部に含まれる前記電磁波吸収材料の含有量より少なく、
前記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚をd(mm)、前記電磁波吸収体三次元造形物に含まれる
前記電磁波吸収材料の体積含率をV(%)とすると、d×V
1/3>0.4の関係式が成立し、
ミリ波帯域以上の周波数帯域での電磁波透過減衰量が、10dB以上である電磁波吸収体三次元造形物。
【請求項2】
体積抵抗率が、10
10Ωcm以上である請求項
1に記載の電磁波吸収体三次元造形物。
【請求項3】
請求項
1又は
2に記載の電磁波吸収体三次元造形物によって被覆された電子部材を含む電子部品。
【請求項4】
前記電磁波吸収体三次元造形物は、前記電子部材の表面に接触して追従している請求項
3に記載の電子部品。
【請求項5】
前記電磁波吸収体三次元造形物は、前記電子部材の表面に対して非接触部を有する請求項
3に記載の電子部品。
【請求項6】
前記電子部材が、回路素子と、伝送路とを含む請求項
3~
5のいずれか1項に記載の電子部品。
【請求項7】
請求項
3~
6のいずれか1項に記載の電子部品を含む電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯の電磁波を吸収する電磁波吸収体に関し、更に詳しくは、電磁波吸収体用組成物、電磁波吸収体三次元造形物、それを用いた電子部品及び電子機器、並びにその電子部品及び電子機器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される無線通信技術の発達に伴い、様々な機器やセンサが無線によってネットワークにつながりつつある。また、医療分野でも感染予防の観点から機器のコードレス化が進み、医療機器が無線でつながり始めている。これらの通信には比較的短距離での高速大容量通信が求められており、利用周波数が高い。この様な高周波数を利用する機器の増加に伴い、機器から発生するノイズによる動作不良や、上記ノイズと利用電磁波との干渉等によって電子機器や通信に不具合が起こる危険性が増大している。更に、近年、自動車の衝突事故防止を目的としたミリ波レーダの搭載も始まっている。これら医療、自動車分野の機器での不具合は人命に影響を与えるため、誤動作があってはならない。そこで、機器のノイズや干渉による不具合の防止、いわゆるEMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性)対策としての電磁波吸収体を、ミリ波帯の電磁波を発受信する回路素子や伝送路に適用する必要性が高まっている。
【0003】
高い周波数のノイズを抑制するためには、従来用いられてきた磁性材料の磁気損失を利用した電磁波吸収シートでは効果が低く、導電材料を利用した共振型電磁波吸収シートが必要となる(特許文献1、非特許文献1)。しかしながら、導電材料が導通のある回路素子や伝送路に直接触れることは、短絡の原因となるため不向きである。また、回路素子や伝送路に貼付するための粘着剤によって共振型電磁波吸収シートの導電層が回路素子や伝送路に直接触れることを回避したとしても、シートを所望のサイズに切断・打抜きをして使用する場合、切断面には導電層が露出することになり、この部分が接触することにより回路を短絡させる危険性がある。更に、導電材料の脱落による回路短絡の危険性も払拭できない。
【0004】
一方、鉄酸化物磁性体は非導電材であり、回路短絡の危険性がない。近年、イプシロン型酸化鉄がミリ波帯の電磁波吸収能を持ち、置換元素とその置換量によって吸収周波数をコントロール可能であることが見いだされた(特許文献2、3)。更に、六方晶フェライトもミリ波帯の電磁波吸収能を持つことが知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-81119号公報(特許第5481613号公報)
【文献】特開2008-60484号公報(特許第4787978号公報)
【文献】特開2008-277726号公報(特許第4859791号公報)
【文献】特開2007-250823号公報(特許第4674380号公報)
【非特許文献】
【0006】
【文献】東京都立産業技術研究センター研究報告,第9号,2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、シート状の電磁波吸収体をノイズの発生源もしくはノイズの影響を防ぎたい回路素子あるいは伝送路に粘着剤等によって貼り合せてノイズを抑制する場合、通常、電磁波吸収体シートの形状は、回路素子あるいは伝送路の表面形状に追従させることが困難な形状であるため、シートが剥がれてしまうことがある。また、回路素子あるいは伝送路のサイズが小さいために、電磁波吸収体シートのハンドリングが困難なことがある。更に、回路素子の表面の材質や粗度によっては、粘着剤が貼りつかないことや、粘着剤が接触することによって回路素子あるいは伝送路に悪影響を及ぼすこともある。
【0008】
また、ノイズの抑制効果は、ノイズとなる電磁波の進行方向における電磁波吸収材料の存在量と相関があり、電磁波吸収材料の存在量が多いほどノイズ抑制効果が高い。従って、電磁波吸収体の厚さや電磁波吸収材料の偏在によってノイズ抑制効果が低減し、ノイズが漏洩することがある。
【0009】
本発明は、上記従来の課題を解決し、ノイズの発生源に対し、又はノイズの影響を防ぎたい回路素子あるいは伝送路に対し、電磁波吸収体をノイズが漏洩することなく確実に装着できる電磁波吸収体三次元造形物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電磁波吸収体用組成物は、ミリ波帯域以上の周波数帯域での電磁波透過減衰量が10dB以上である電磁波吸収体三次元造形物を形成するために使用される電磁波吸収体用組成物であって、電磁波吸収材料とバインダ樹脂とを含み、前記電磁波吸収材料は、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する鉄酸化物であり、前記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚をd(mm)として形成する場合、前記電磁波吸収体用組成物における前記電磁波吸収材料の体積含率をV(%)とすると、d×V1/3>0.4の関係式が成立する。
【0011】
本発明の電磁波吸収体三次元造形物は、上記本発明の電磁波吸収体用組成物を使用して造形された電磁波吸収体三次元造形物であって、前記電磁波吸収体三次元造形物は、電子部材を被覆可能な薄肉構造に造形されており、前記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚をd(mm)、前記電磁波吸収体三次元造形物に含まれる電磁波吸収材料の体積含率をV(%)とすると、d×V1/3>0.4の関係式が成立し、ミリ波帯域以上の周波数帯域での電磁波透過減衰量が、10dB以上である。
【0012】
本発明の電子部品は、上記本発明の電磁波吸収体三次元造形物によって被覆された電子部材を含む。
【0013】
本発明の電子機器は、上記本発明の電子部品を含む。
【0014】
本発明の電子部品の製造方法は、上記本発明の電磁波吸収体用組成物を準備する工程と、前記電磁波吸収体用組成物を用いて、電磁波吸収体三次元造形物を形成する工程と、前記電磁波吸収体三次元造形物を、電子部材に接合して被覆する工程とを含む。
【0015】
本発明の電子機器の製造方法は、上記本発明の電子部品の製造方法で製造した電子部品を電子機器に組み込む工程を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、非導電材である鉄酸化物を電磁波吸収材料として用いて、薄肉構造を有する電磁波吸収体三次元造形物を形成し、上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚と、上記電磁波吸収体三次元造形物中の上記電磁波吸収材料の体積含率とを特定の関係に制御することにより、短絡が発生せず、且つ、ノイズ漏洩のない電磁波吸収体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本実施形態の電磁波吸収体三次元造形物の一例を示す模式断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の電磁波吸収体三次元造形物の他の例を示す模式断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の電子部品の一部分の一例を示す模式断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の電子部品の一部分の他の例を示す模式断面図である。
【
図5】
図5は、実施例及び比較例の電磁波吸収体の周波数76GHzにおける電磁波透過減衰量を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例1及び比較例3の電磁波吸収体の電磁波吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願で開示する電磁波吸収体用組成物は、ミリ波帯域以上の周波数帯域での電磁波透過減衰量が10dB以上である電磁波吸収体三次元造形物を形成するために使用される電磁波吸収体用組成物であり、電磁波吸収材料とバインダ樹脂とを含み、上記電磁波吸収材料が、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する鉄酸化物であり、上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚をd(mm)として形成する場合、上記電磁波吸収体用組成物における上記電磁波吸収材料の体積含率をV(%)とすると、d×V1/3>0.4の関係式が成立する。
【0019】
上記電磁波吸収体用組成物を用いて、薄肉構造を有する電磁波吸収体三次元造形物を形成し、上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚と、上記電磁波吸収体三次元造形物中の上記電磁波吸収材料の体積含率とを上記関係に制御することにより、短絡が発生せず、且つ、ノイズ漏洩のない電磁波吸収体を提供することができる。
【0020】
上記電磁波吸収材料は、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む六方晶フェライトであることが好ましい。また、上記電磁波吸収材料は、Srを含む六方晶フェライトであり、上記Srを含む六方晶フェライトのFeサイトの一部が、Alで置換されていることが更に好ましい。上記六方晶フェライトは、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する非導電性の鉄酸化物であり、Srを含む六方晶フェライトのFeサイトの一部をAlで置換することにより、電磁波吸収を担う磁気共鳴周波数を変化させることができ、更に熱的安定性に優れているからである。
【0021】
また、上記電磁波吸収材料は、イプシロン型酸化鉄であり、上記イプシロン型酸化鉄のFeサイトの一部が、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていることが好ましい。上記イプシロン型酸化鉄は、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する非導電性の鉄酸化物であり、Feサイトの一部を、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1種で置換することにより、電磁波吸収を担う磁気共鳴周波数を変化させることができるからである。
【0022】
上記バインダ樹脂は、活性エネルギー線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂及びゴム状樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。上記バインダ樹脂を用いることにより、各種の方法により、薄肉構造を有する電磁波吸収体三次元造形物を形成することができるからである。
【0023】
また、本願で開示する電磁波吸収体三次元造形物は、上記で開示した電磁波吸収体用組成物を使用して造形された電磁波吸収体三次元造形物であり、上記電磁波吸収体三次元造形物は、電子部材を被覆可能な薄肉構造に造形されており、上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚をd(mm)、上記電磁波吸収体三次元造形物に含まれる電磁波吸収材料の体積含率をV(%)とすると、d×V1/3>0.4の関係式が成立し、ミリ波帯域以上の周波数帯域での電磁波透過減衰量が、10dB以上である。
【0024】
上記電磁波吸収体用組成物を用いて、薄肉構造を有する電磁波吸収体三次元造形物を形成し、上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚と、上記電磁波吸収体三次元造形物中の上記電磁波吸収材料の体積含率とを上記関係に制御することにより、造形時に上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚が変化しても、一定以上の電磁波吸収性能を確保することができ、ノイズ漏洩のない電磁波吸収体を提供することができる。
【0025】
上記電磁波吸収体三次元造形物の体積抵抗率は、1010Ωcm以上であることが好ましい。これにより、短絡の発生を確実に防止できるからである。
【0026】
また、本願で開示する電子部品は、上記で開示した電磁波吸収体三次元造形物によって被覆された電子部材を含む電子部品である。上記電磁波吸収体三次元造形物を用いて電子部材を被覆することにより、電子部品のEMC(電磁両立性)を確保できる。即ち、上記電子部品について、それから発する電磁波が他のどのような機器、システムに対しても影響を与えず、また、他の機器、システムからの電磁波を受けても自身も満足に動作する耐性を確保することができる。
【0027】
上記電磁波吸収体三次元造形物は、上記電子部材の表面に接触して追従していることが好ましい。これにより、ノイズ漏洩をより確実に防止して、電子部品のEMC(電磁両立性)をより向上できるからである。
【0028】
上記電磁波吸収体三次元造形物は、上記電子部材の表面に対して非接触部を有していてもよい。上記電子部材の表面形状によっては、上記電磁波吸収体三次元造形物を上記電子部材の表面に対して接触させる形状に造形することが困難な場合があるからである。
【0029】
上記電子部材としては、例えば、回路素子、伝送路等が含まれる。
【0030】
また、本願で開示する電子機器は、上記で開示した電子部品を含む電子機器である。上記電子部品を備えることにより、電子機器のEMC(電磁両立性)を確保できる。
【0031】
また、本願で開示する電子部品の製造方法は、上記で開示した電磁波吸収体用組成物を準備する工程と、上記電磁波吸収体用組成物を用いて、電磁波吸収体三次元造形物を形成する工程と、上記電磁波吸収体三次元造形物を、電子部材に接合して被覆する工程とを含む。上記製造方法により、EMC(電磁両立性)の高い電子部品を製造できる。
【0032】
また、本願で開示する電子機器の製造方法は、上記で開示した電子部品の製造方法で製造した電子部品を電子機器に組み込む工程を含む。上記製造方法により、EMC(電磁両立性)の高い電子機器を製造できる。
【0033】
(電磁波吸収体用組成物の実施形態)
先ず、電磁波吸収体用組成物の実施形態を説明する。本実施形態の電磁波吸収体用組成物は、ミリ波帯域以上の周波数帯域での電磁波透過減衰量が10dB以上である電磁波吸収体三次元造形物を形成するために使用され、電磁波吸収材料とバインダ樹脂とを含み、上記電磁波吸収材料が、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する鉄酸化物であり、上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚をd(mm)として形成する場合、上記電磁波吸収体用組成物における上記電磁波吸収材料の体積含率をV(%)とすると、d×V1/3>0.4の関係式が成立する。
【0034】
以下、上記電磁波吸収体用組成物に含まれる各成分について説明する。
【0035】
<電磁波吸収材料>
上記電磁波吸収材料は、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する鉄酸化物であり、具体的には、下記六方晶フェライト又は下記イプシロン型酸化鉄を使用できる。上記電磁波吸収体用組成物における上記電磁波吸収材料の体積含率V(%)は、上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚をd(mm)として形成する場合、d×V1/3>0.4の関係式が成立するように調整する。
【0036】
[六方晶フェライト]
上記六方晶フェライトとしては、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む六方晶フェライトが使用できる。また、Srを含む六方晶フェライトのFeサイトの一部がAlで置換されていることがより好ましい。上記六方晶フェライトは、マグネトブランバイト型結晶構造を有し、一般式:AFe12O19で示され、一般式中のAは、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種を示す。上記六方晶フェライトは、Feサイトの一部を、3価のAl金属元素で置換することにより、電磁波吸収を担う磁気共鳴周波数を変化させることができる。
【0037】
上記六方晶フェライトについては、前述の特許文献4(特開2007-250823号公報)に詳細が開示されている。
【0038】
[イプシロン型酸化鉄]
上記イプシロン型酸化鉄としては、Feサイトの一部が、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されているイプシロン型酸化鉄が使用できる。上記イプシロン型酸化鉄は、ε相結晶構造を有し、一般式:ε-Fe2O3で示され、Feサイトの一部を、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1種で置換することにより、電磁波吸収を担う磁気共鳴周波数を変化させることができる。
【0039】
上記イプシロン型酸化鉄については、前述の特許文献2(特開2008-60484号公報)及び特許文献3(特開2008-277726号公報)に詳細が開示されている。
【0040】
<バインダ樹脂>
上記バインダ樹脂は、上記電磁波吸収材料を分散させて固定して、電磁波吸収体三次元造形物を形成する際のマトリックス材として使用するものであり、具体的には、活性エネルギー線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂及びゴム状樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用できる。
【0041】
[活性エネルギー線硬化性樹脂]
上記活性エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート、アクリル樹脂アクリレート、エポキシアクリレート等を使用できる。上記バインダ樹脂として、上記活性エネルギー線硬化性樹脂を用いる場合には、三次元プリンタを用いた光造形法により電磁波吸収体三次元造形物を作製することができる。
【0042】
より具体的には、二官能以上の多官能エチレン性不飽和単量体が使用でき、例えば、炭素数10~25の直鎖又は分岐のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルキレングリコールトリ(メタ)アクリレート〔例えば、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等〕、炭素数10~30の脂環含有ジ(メタ)アクリレート〔例えば、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等〕等を使用できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
[熱硬化性樹脂]
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン等を使用できる。上記バインダ樹脂として、上記熱硬化性樹脂を用いる場合には、加熱圧縮成形法により電磁波吸収体三次元造形物を作製することができる。
【0044】
[熱可塑性樹脂]
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート等を使用できる。上記バインダ樹脂として、上記熱可塑性樹脂を用いる場合には、射出成形法により電磁波吸収体三次元造形物を作製することができる。
【0045】
[ゴム状樹脂]
上記ゴム状樹脂としては、例えば、熱硬化性エラストマであるウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を使用できる。上記バインダ樹脂として、上記ゴム状樹脂を用いる場合には、加熱圧縮成形法により電磁波吸収体三次元造形物を作製することができる。
【0046】
<光重合開始剤>
上記バインダ樹脂として、上記活性エネルギー線硬化性樹脂を用いる場合には、上記電磁波吸収体用組成物には、光重合開始剤が添加される。上記光重合開始剤は、活性エネルギー線によって単量体の重合反応又は架橋反応を開始させるものであり、上記電磁波吸収体用組成物が上記光重合開始剤を含むことにより、例えば、三次元プリンタを用いて放出された上記電磁波吸収体用組成物を活性エネルギー線の照射によって硬化させることができる。
【0047】
上記光重合開始剤に照射される活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、近紫外線、可視光線、赤外線、遠赤外線等から適宜選択して使用することができる。
【0048】
上記光重合開始剤としては、低エネルギーで重合を開始させることができれば特に限定されず、炭素数14~18のベンゾイン化合物〔例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等〕、炭素数8~18のアセトフェノン化合物〔例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン等〕、炭素数14~19のアントラキノン化合物〔例えば、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、2-アミルアントラキノン等〕、炭素数13~17のチオキサントン化合物〔例えば、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等〕、炭素数16~17のケタール化合物〔例えば、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等〕、炭素数13~21のベンゾフェノン化合物〔例えば、ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、4,4’-ビスメチルアミノベンゾフェノン等〕、炭素数22~28のアシルフォスフィンオキサイド化合物〔例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等〕、これらの化合物の混合物等を使用できる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0049】
上記光重合開始剤の添加量は、上記電磁波吸収体用組成物の全質量を100質量部とすると、3.0~15質量部とすればよい。上記光重合開始剤を2種類以上併用する場合は、上記添加量は、各光重合開始剤の添加量の合計として定める。
【0050】
<表面調整剤>
上記バインダ樹脂として、上記活性エネルギー線硬化性樹脂を用いる場合には、上記電磁波吸収体用組成物には、表面調整剤が添加される。これにより、上記電磁波吸収体用組成物の表面張力を適切な範囲に調整することができる。上記電磁波吸収体用組成物の表面張力を適切な範囲に調整することにより、寸法精度が良好な光造形品を得ることができる。この効果を得るため、上記表面調整剤の添加量は、上記電磁波吸収体用組成物の全質量を100質量部とすると、0.005~3.0質量部とすればよい。
【0051】
上記表面調整剤としては、シリコーン系化合物等が使用でき、シリコーン系化合物としては、例えば、ポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物等が挙げられる。具体的には、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリアラルキル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。より具体的には、商品名として、ビックケミー社製のBYK-300、BYK-302、BYK-306、BYK-307、BYK-310、BYK-315、BYK-320、BYK-322、BYK-323、BYK-325、BYK-330、BYK-331、BYK-333、BYK-337、BYK-344、BYK-370、BYK-375、BYK-377、BYK-UV3500、BYK-UV3510、BYK-UV3570;エボニック・ジャパン社製のTEGO-Rad2100、TEGO-Rad2200N、TEGO-Rad2250、TEGO-Rad2300、TEGO-Rad2500、TEGO-Rad2600、TEGO-Rad2700;共栄社化学社製のグラノール100、グラノール115、グラノール400、グラノール410、グラノール435、グラノール440、グラノール450、B-1484、ポリフローATF-2、KL-600、UCR-L72、UCR-L93等を使用できる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。上記表面調整剤を2種類以上併用する場合は、上記添加量は、各表面調整剤の添加量の合計として定める。
【0052】
上記電磁波吸収体用組成物には、更に下記のフィラー及び分散剤を添加することができる。
【0053】
<フィラー>
上記フィラーを添加することにより、電磁波吸収体の電磁波吸収特性を向上できる。上記フィラーとしては、例えば、表面を絶縁体層で被覆した金属粒子、金属繊維、カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル等を使用できる。
【0054】
<分散剤>
上記分散剤を添加することにより、電磁波吸収体中に前述の電磁波吸収材料を偏在なく均一に配置できるため、電磁波吸収体の電磁波吸収特性が向上する。上記分散剤としては、Mwが1,000以上の高分子分散剤を使用することが好ましい。上記高分子分散剤としては、商品名として、BYKケミー社製のDISPERBYK-101、DISPERBYK-102等;エフカアディティブ社製のEFKA4010、EFKA4046等;サンノプコ社製のディスパースエイド6、ディスパースエイド8等;Noveon社製のソルスパース(SOLSPERSE)3000、5000等の各種ソルスパース分散剤;ADEKA社製のアデカプルロニックL31、F38等;三洋化成工業社製のイオネットS-20;楠本化成社製のディスパロン KS-860、873SN等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
上記分散剤の添加量は、上記電磁波吸収体用組成物の全質量を100質量部とすると、0.05~15質量部であることが好ましい。上記分散剤を2種類以上併用する場合は、上記添加量は、各分散剤の添加量の合計として定める。
【0056】
上記電磁波吸収体用組成物は、上記各成分を均一に分散して混合することにより作製できる。上記各成分を均一に分散することにより、上記電磁波吸収材料の偏在を防止でき、ノイズ漏洩のない電磁波吸収体を作製することができる。上記混合方法は特に限定されないが、例えば、ニーダ、エクストルーダ、ロールミル等を用いた混合方法が好ましい。
【0057】
(電磁波吸収体三次元造形物の実施形態)
次に、電磁波吸収体三次元造形物の実施形態を説明する。本実施形態の電磁波吸収体三次元造形物は、前述の実施形態で開示した電磁波吸収体用組成物を使用して造形された電磁波吸収体三次元造形物であり、電子部材を被覆可能な薄肉構造に造形されており、上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚をd(mm)、上記電磁波吸収体三次元造形物に含まれる電磁波吸収材料の体積含率をV(%)とすると、d×V1/3>0.4の関係式が成立し、ミリ波帯域以上の周波数帯域での電磁波透過減衰量が、10dB以上である。
【0058】
上記電磁波吸収体用組成物を用いて、電磁波吸収体三次元造形物を形成する場合、上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚を常に完全に均一とすることは困難である。そのため、上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚に変動が生じる場合がある。即ち、上記電磁波吸収体三次元造形物に薄肉部と厚肉部とが生じることがある。この場合、薄肉部に含まれる電磁波吸収材料の含有量は、厚肉部に含まれる電磁波吸収材料の含有量より少なくなり、上記薄肉部における電磁波吸収特性が低下する。即ち、薄肉部を電磁波が通過する場合、電磁波が通過する厚さが薄くなるため電磁波吸収効果が低下する。その結果、機器の内側から外部に不要な電磁波が漏れてしまい、外部の機器に悪影響を与えるおそれがある。
【0059】
これに対して、上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚をd(mm)、上記電磁波吸収体三次元造形物に含まれる電磁波吸収材料の体積含率をV(%)とした場合、d×V1/3>0.4の関係式が成立すると、たとえ造形時に上記電磁波吸収体三次元造形物の肉厚が変化しても、上記電磁波吸収体三次元造形物の全領域において一定以上の電磁波吸収性能を確保することができ、ノイズ漏洩の小さい電磁波吸収体を実現できる。具体的には10dB以上の電磁波透過減衰量を確保した電磁波吸収体を実現できる。電磁波透過減衰量が10dBより小さいと、ノイズ漏洩により周辺の電子機器に影響を与える恐れが高くなる。
【0060】
上記関係式は、本発明者らが、実験等により導いたものであるが、例えば、肉厚dを一定とした場合には、体積含率Vを一定以上に設定することを意味し、また、体積含率Vを一定とした場合には、肉厚dを一定以上に設定することを意味する。
【0061】
また、上記電磁波吸収体三次元造形物は、各種の電子部材や電子部材の筐体の表面形状に合わせて、事前に形成できるため、上記電磁波吸収体三次元造形物を電磁波吸収体として電子部材にいつでも装着できる。
【0062】
非導電性の鉄酸化物とバインダ樹脂とを含む上記電磁波吸収体用組成物を用いて上記電磁波吸収体三次元造形物を形成することにより、上記電磁波吸収体三次元造形物の体積抵抗率を1010Ωcm以上とすることができる。これにより、上記電磁波吸収体三次元造形物を非導電材とすることができ、短絡の発生を確実に防止できる。
【0063】
上記電磁波吸収体三次元造形物の製造方法は特に限定されないが、前述の電磁波吸収体用組成物に使用するバインダ樹脂の種類に応じて各種の製造方法の中から選択することができる。例えば、光造形法により電磁波吸収体三次元造形物を作製する場合は、活性エネルギー線硬化性樹脂、光重合開始剤、表面調整剤、更に必要に応じてフィラーや分散剤を適宜組み合わせて用いることができる。この場合、三次元プリンタとしてインクジェットプリンタを用いたインクジェット光造形法(MJM造形法)により、電磁波吸収体三次元造形物を高い造形精度で、且つ、簡便に形成することができる。この場合、上記電磁波吸収体用組成物の粘度をインクジェットプリンタの吐出適正粘度に調整する必要がある。
【0064】
上記バインダ樹脂として、前述の熱硬化性樹脂及びゴム状樹脂を用いる場合には、加熱圧縮成形法により電磁波吸収体三次元造形物を作製することができる。また、上記バインダ樹脂として、前述の熱可塑性樹脂を用いる場合には、射出成形法により電磁波吸収体三次元造形物を作製することができる。
【0065】
次に、上記電磁波吸収体三次元造形物の実施形態を図面に基づき説明する。
図1A、B及び
図2A、Bは、特定の電子部材の表面形状に合わせて製造した本実施形態の電磁波吸収体三次元造形物の具体例を示す模式断面図である。上記電磁波吸収体三次元造形物の製造方法は特に限定されず、前述の電磁波吸収体用組成物に使用するバインダ樹脂の種類に応じて、三次元プリンタを用いた光造形法、加熱圧縮成形法、射出成形法等の中から適宜選択できる。
【0066】
図1A、Bに示す電磁波吸収体三次元造形物11及び12は、薄肉構造を有し、電子部材を被覆できるようにカップ状に形成さている。
図1A、Bに示す電磁波吸収体三次元造形物11及び12の肉厚dは、ほぼ均一に形成されている。
【0067】
一方、
図2A、Bに示す電磁波吸収体三次元造形物21及び22は、薄肉構造を有し、電子部材を被覆できるようにカップ状に形成さているが、電磁波吸収体三次元造形物21及び22は、肉厚部21a、22aと、薄肉部21b、22bとをそれぞれ有している。
【0068】
図1A、B及び
図2A、Bに示した電磁波吸収体三次元造形物11、12、21、22は、肉厚d(mm)と、電磁波吸収体三次元造形物11、12、21、22に含まれる電磁波吸収材料の体積含率V(%)との間に、d×V
1/3>0.4の関係式が成立しているので、
図2A、Bに示すように造形時に肉厚が変化しても、上記電磁波吸収体三次元造形物の全領域において、ミリ波帯域以上の周波数帯域での電磁波透過減衰量が10dB以上の電磁波吸収性能を確保することができ、ノイズ漏洩のない電磁波吸収体とすることができる。
【0069】
(電子部品及び電子機器の実施形態)
続いて、電子部品の実施形態について説明する。本実施形態の電子部品は、前述の実施形態で開示した電磁波吸収体三次元造形物によって被覆された電子部材を備えている。また、本実施形態の電子機器は、本実施形態の電子部品を備えている。
【0070】
上記電子部品を構成する上記電子部材は、上記電磁波吸収体三次元造形物によって被覆されているので、上記電子部品のEMC(電磁両立性)を確保できる。また、上記電子機器は、EMCを確保した上記電子部品を備えているので、電子機器全体としても、EMCを確保できる。
【0071】
上記電磁波吸収体三次元造形物によって被覆される電子部材としては、例えば、回路素子、伝送路等が該当する。上記回路素子としては、例えば、トランジスタ、ダイオード、抵抗器、キャパシタ、インダクタ、電池等が該当する。上記伝送路としては、例えば、配線、プリント基板、コネクタ、ソケット等が該当する。また、上記電子部品としては、例えば、回路素子、伝送路等を備えた回路基板が該当する。
【0072】
上記電子機器としては、例えば、無線通信技術を利用した通信機器、センサ、医療機器、ミリ波レーダ等が該当する。
【0073】
次に、上記電子部品の実施形態を図面に基づき説明する。
図3A、B及び
図4A、Bは、電磁波吸収体三次元造形物により被覆された回路素子を備えた本実施形態の電子部品(例えば、回路基板)の一部分を示す模式断面図である。
図3Aでは、回路素子13が、
図1Aで示した電磁波吸収体三次元造形物11により被覆された電子部品の一部分を示している。
図3Bでは、回路素子14が、
図1Bで示した電磁波吸収体三次元造形物12により被覆された電子部品の一部分を示している。
図4Aでは、回路素子23が、
図2Aで示した電磁波吸収体三次元造形物21により被覆された電子部品の一部分を示している。
図4Bでは、回路素子24が、
図2Bで示した電磁波吸収体三次元造形物22により被覆された電子部品の一部分を示している。より具体的には、
図3及び
図4は、例えば、回路基板の一部を示す。
【0074】
図3A及び
図4Aでは、電磁波吸収体三次元造形物11及び21が、回路素子13及び23の表面に接触して追従している。一方、
図3B及び
図4Bでは、電磁波吸収体三次元造形物12及び22が、回路素子14及び24の表面に対してそれぞれ非接触部を有している。
【0075】
次に、電子部品の製造方法の実施形態について説明する。本実施形態の電子部品の製造方法は、前述の実施形態で開示した電磁波吸収体用組成物を準備する工程と、上記電磁波吸収体用組成物を用いて、電磁波吸収体三次元造形物を形成する工程と、上記電磁波吸収体三次元造形物を、電子部材に接合して被覆する工程とを含んでいる。上記製造方法により、EMC(電磁両立性)の高い電子部品を製造できる。また、上記製造方法では、上記電磁波吸収体三次元造形物を、電子部材とは別工程で作製できるので、上記電磁波吸収体三次元造形物を製造する際の熱や加圧の影響が電子部材に及ぶことがない。更に、上記電磁波吸収体三次元造形物は、導電性層を含まず、体積抵抗率が1010Ωcm以上であることから、回路素子や伝送路に接触しても短絡の恐れがない。
【0076】
続いて、電子機器の製造方法の実施形態について説明する。本実施形態の電子機器の製造方法は、上記の実施形態で開示した電子部品の製造方法で製造した電子部品を電子機器に組み込む工程を含んでいる。上記製造方法により、EMC(電磁両立性)の高い電子機器を製造できる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
<電磁波吸収体用組成物の作製>
下記成分を加圧式の回分式ニーダで混練し、電磁波吸収材料である六方晶フェライト磁性粉の体積含率Vが51%となる本実施例の電磁波吸収体用組成物Aを作製した。下記組成式の六方晶フェライト磁性粉は、電磁波吸収を担う磁気共鳴周波数を76G(Hz)に調整したものである。
(1)六方晶フェライト磁性粉(組成式:SrFe10.56Al1.44O19)
(2)シリコーンゴム(信越化学株式会社製、商品名“KE-541-U”)
【0079】
<電磁波吸収体三次元造形物の作製>
上記で作製した電磁波吸収体用組成物Aを用いて、油圧プレス機を用いた温度165℃の加熱圧縮成形法により、縦:12cm、横:12cm、厚さd:2mmのシート状の電磁波吸収体三次元造形物(電磁波吸収体)を作製した。本実施例の電磁波吸収体のd×V1/3の値は、1.60となる。
【0080】
(実施例2)
<電磁波吸収体用組成物の作製>
下記成分を加圧式の回分式ニーダで混練し、電磁波吸収材料であるイプシロン型酸化鉄磁性粉の体積含率Vが40%となる本実施例の電磁波吸収体用組成物Bを作製した。下記組成式のイプシロン型酸化鉄磁性粉は、電磁波吸収を担う磁気共鳴周波数を76G(Hz)に調整したものである。
(1)イプシロン型酸化鉄磁性粉(組成式:ε-Ga0.46Fe1.54O3)
(2)シリコーンゴム(信越化学株式会社製、商品名“KE-541-U”)
【0081】
<電磁波吸収体三次元造形物の作製>
上記で作製した電磁波吸収体用組成物Bを用いて、油圧プレス機を用いた温度165℃の加熱圧縮成形法により、縦:12cm、横:12cm、厚さd:2mmのシート状の電磁波吸収体三次元造形物(電磁波吸収体)を作製した。本実施例の電磁波吸収体のd×V1/3の値は、1.47となる。
【0082】
(実施例3)
<電磁波吸収体用組成物の作製>
下記成分を加熱式エクストルーダで混練し、電磁波吸収材料である六方晶フェライト磁性粉の体積含率Vが47%となる本実施例の電磁波吸収体用組成物Cを作製した。下記六方晶フェライト磁性粉は、実施例1で使用したものと同じである。
(1)六方晶フェライト磁性粉(組成式:SrFe10.56Al1.44O19)
(2)ポリカーボネート(帝人株式会社製、商品名“パンライト”)
【0083】
<電磁波吸収体三次元造形物の作製>
上記で作製した電磁波吸収体用組成物Cを用いて、射出成形法により、縦:12cm、横:12cm、厚さd:1mmのシート状の電磁波吸収体三次元造形物(電磁波吸収体)を作製した。本実施例の電磁波吸収体のd×V1/3の値は、0.78となる。
【0084】
(比較例1)
電磁波吸収体三次元造形物(電磁波吸収体)の厚さdを0.5mmに変更した以外は、実施例1と同様にして電磁波吸収体三次元造形物を作製した。本比較例のd×V1/3の値は、0.40となる。
【0085】
(比較例2)
電磁波吸収体三次元造形物の厚さdを0.5mmに変更した以外は、実施例2と同様にして電磁波吸収体三次元造形物(電磁波吸収体)を作製した。本比較例のd×V1/3の値は、0.37となる。
【0086】
(比較例3)
電磁波吸収体三次元造形物の厚さdを0.5mmに変更した以外は、実施例3と同様にして電磁波吸収体三次元造形物(電磁波吸収体)を作製した。本比較例のd×V1/3の値は、0.39となる。
【0087】
次に、実施例1~3及び比較例1~3で作製した電磁波吸収体三次元造形物(電磁波吸収体)の電磁波透過減衰量をフリースペース法を用いて測定した。具体的には、アンリツ株式会社製のミリ波ネットワークアナライザー“ME7838A”(製品名)を用いて、送信アンテナから誘電体レンズを介して電磁波吸収体に所定の周波数の入力波(ミリ波)を照射し、電磁波吸収体の裏側に配置された受信アンテナで透過する電磁波を計測した。照射される電磁波の強度と透過した電磁波の強度とをそれぞれ電圧値として把握し、その強度差から電磁波透過減衰量をdB単位で求めた。
【0088】
以上の結果として、周波数76GHzにおける電磁波透過減衰量を表1及び
図5に示す。表1では、電磁波透過減衰量に加えて、電磁波吸収材料及びバインダ樹脂の種類、電磁波吸収体の厚さd、電磁波吸収材料の体積含率V及びd×V
1/3の値も併記した。また、
図6に実施例1と比較例3の電磁波吸収スペクトルを示す。
【0089】
【0090】
表1及び
図5から、d×V
1/3の値が0.4を超えた実施例1~3の電磁波透過減衰量は、10dB以上と高く、被覆した電子部材からの電磁波が被覆外の電子部材に影響することも、被覆外の電子部材からの電磁波が侵入して被覆した電子部材に影響することもないのに対し、d×V
1/3の値が0.4以下の比較例1~3の電磁波透過減衰量は、9dB以下と低く、被覆した電子部材からの電磁波が被覆外の電子部材に影響し、被覆外の電子部材からの電磁波が侵入して被覆した電子部材に影響することが分かる。これは、d×V
1/3の値が0.4を超えることにより、電磁波吸収体の厚さが変化しても電磁波吸収体内の電磁波吸収材料の量を一定以上確保できるため、一定量以上の電磁波透過減衰量を達成できたものと考えられる。
【0091】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、上記以外の形態としても実施が可能である。本出願に開示された実施形態は一例であって、これらに限定はされない。本発明の範囲は、上述の明細書の記載よりも、添付されている請求の範囲の記載を優先して解釈され、請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更は、請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本願で開示する電磁波吸収体用組成物及び電磁波吸収体三次元造形物は、ミリ波帯域以上の高い周波数帯域の電磁波を吸収し、ノイズ漏洩がなく、且つ、非導電性の電磁波吸収体を提供することができ、EMCに優れた電子部品及び電子機器を作製するのに有用である。
【符号の説明】
【0093】
11、12、21、22 電磁波吸収体三次元造形物
21a、22a 厚肉部
21b、22b 薄肉部
13、14、23、24 回路素子