(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】表面実装対応の焦電型赤外線センサ用の焦電性磁器材料
(51)【国際特許分類】
C04B 35/472 20060101AFI20220915BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20220915BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20220915BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C04B35/472
G01J1/02 Y
C01G51/00 A
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2018131471
(22)【出願日】2018-07-11
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000229081
【氏名又は名称】日本セラミック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古郡 想悟
(72)【発明者】
【氏名】松崎 智昭
(72)【発明者】
【氏名】福永 信二
(72)【発明者】
【氏名】高尾 文雄
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-191051(JP,A)
【文献】特開平04-097947(JP,A)
【文献】特開昭63-151667(JP,A)
【文献】特開平02-174276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/472
G01J 1/02
C01G 51/00
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式が(Pb
wCa
xLa
y){Ti
(1―z)(Co
1/2W
1/2)
z}O
3(ただし、0.75≦w<1.00、0.10≦x≦0.20、0<y<0.05、0.02≦z≦0.15)
を主成分とし、添加物として当該成分100モルに対しMn、Cr、
Ni、Alをそれぞれ0.01~3.00%含有し、さらに260℃以上のキュリー温度
を有することを特徴とした焦電性磁器組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦電性磁器組成物に関し、特に、表面実装対応の焦電型赤外線センサに用いて好適な焦電性磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、照明機器、空調機器、防犯機器等の人感センサとして焦電型の赤外線センサが用いられ、赤外線センサに使用される受光素子には焦電性磁器組成物が使用されている。
【0003】
赤外線センサの性能は焦電体磁器組成物の有する特性に起因し、高性能な赤外線センサを得るためには、焦電係数が大きく、適度な比誘電率を有し、熱容量の小さな焦電性磁器組成物が要求される。
【0004】
また、赤外線センサは他の電子部品と組み合わせて用いられることが多いため小型化が求められており、プリント基板上に表面実装可能な赤外線センサが要求されている。そのためにはリフロー処理時の高温(例えば、260℃以上)に曝されても特性が劣化しない、高いキュリー温度を有する焦電性磁器組成物が求められる。
【0005】
特許文献1では、Pbの一部を20~30モル%の範囲でCaに置換した二成分系のPbTiO3-Pb(Co1/2W1/2)O3によって良好な特性の焦電性磁器組成物を得ることに成功している。Pbの一部をCaに置換することで赤外線センサに適した検出感度を実現し、Tiの一部を(Co1/2W1/2)に置換することで焼結性の向上と分極条件の緩和を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の焦電性磁器組成物は有するキュリー温度が260℃以下であるため、この焦電性磁器組成物を用いた焦電素子をリフロー処理すると、焦電特性が劣化し、赤外線センサの性能が低下する場合があるという問題があった。
【0008】
さらに、焦電型赤外線センサの検出感度は、焦電性磁器組成物の比誘電率εrが小さく、焦電係数λが大きいほど高くなるが、比誘電率が小さすぎても赤外線検出器の外部回路の浮遊容量の影響を受けてノイズが大きくなる。そのため、適度な比誘電率並びに大きな焦電係数を示す焦電性磁器組成物の開発が急がれている。
【0009】
このような背景から本発明では、高いキュリー温度を有しながらも適度な比誘電率並びに大きな焦電係数を示す二成分系PbTiO3-Pb(Co1/2W1/2)O3の焦電性磁器組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
焦電性磁器組成物のキュリー温度を高くするためには、Pbに対するCaの置換量、及びTiに対する(Co1/2W1/2)の置換量を減らす事が必須となる。しかしながら、Ca及び(Co1/2W1/2)の置換量を減らすと比誘電率の増加並びに焦電係数が小さくなることにより赤外線センサの感度が低下する。
【0011】
そこで本発明では、Pbの一部をCaに加えて少量のLaにも置換することで、Caの置換量を減らしてキュリー温度を高くしながら焦電係数を大きくすることを可能にしている。また、添加物としてMn、Ni、Cr、Alを含有させることで比誘電率及び焦電係数を赤外線検出器に適した値に制御している。これにより、リフロー処理にも耐え得る高いキュリー温度と適度な比誘電率並びに大きな焦電係数を有する、優れた焦電特性を示す焦電性磁器組成物を提供することができる。
【0012】
より具体的には、一般式(PbwCaxLay){Ti(1―z)(Co1/2W1/2)z}O3(ただし、0.75≦w<1.00、0.10≦x≦0.20、0<y<0.05、0.02≦z≦0.15)で表される化合物を主成分とし、添加物として当該成分100モルに対しMn、Cr、Ni、Alをそれぞれ0.01~3.00%含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、一般式(PbwCaxLay){Ti(1―z)(Co1/2W1/2)z}O3(ただし、0.75≦w<1.00、0.10≦x≦0.20、0<y<0.05、0.02≦z≦0.15)で表される化合物を主成分とし、添加物として当該成分100モルに対しMn、Cr、Ni、Alをそれぞれ0.01~3.00%含有しているため、リフロー処理にも耐え得る高いキュリー温度と適度な比誘電率並びに高い焦電係数を有する、優れた焦電特性を示す焦電性磁器組成物を得ることができる。
【0014】
また、本発明の焦電素子はTiの一部を(Co1/2W1/2)に置換しているため、焼結性が高く、分極が容易であることも特徴としている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の焦電性磁器組成物は、一般式(PbwCaxLay){Ti(1―z)(Co1/2W1/2)z}O3(ただし、0.75≦w<1.00、0.10≦x≦0.20、0<y<0.05、0.02≦z≦0.15)で表される化合物を主成分とし、添加物として当該成分100モルに対しMn、Cr、Ni、Alを0.01~3.00%含有されていることを特徴とする。wの値はPbの含有量であり、wの値を操作することで+3価のLaに置換したことによりずれたペロブスカイト構造のAサイトのイオンのバランスを整え、赤外線検出器として適切な抵抗値となるよう調節している。x、yの値はそれぞれPbに対するCa、Laの置換量であり、xの値が0.20を超える、yの値が0.05以上になるとキュリー温度が260℃未満に低下し、リフロー処理に耐えられない。一方、xの値が0.10未満、yの値が0になると比誘電率の増加及び焦電係数の低下により良好な焦電特性が得られない上に、磁器組成物の焼結性が低下し、緻密な焼結体が得られなくなる。また、zの値はTiに対する(Co1/2W1/2)の置換量であり、zの値が0.15を超えるとキュリー温度が260℃未満に低下し、リフロー処理に耐えられない。一方、0.02未満になると磁器組成物の焼結性の低下及び分極に高温、高電圧が必要になり、特性の安定した焦電体が得られなくなる。さらに、添加物の含有量が0.01~3.00モル%の範囲外であるとき、焦電体の特性向上効果は薄くなり、適度な比誘電率並びに大きな焦電係数を有する焦電体が得られなくなる。
【0017】
本発明の焦電性磁器組成物の製造方法について説明する。主成分の原料として、PbO、CaCO3、La2O3、TiO2、CoO、WO3、添加物の原料としてMn3O4、Cr2O3、NiO、Al2O3を所定量秤量する。そして、この原料粉末を粉砕媒体及び水と共にボールミルに投入して湿式混合を行う。その後、乾燥処理を行い、900~1100℃で所定時間仮焼した。次に、この仮焼粉末を再びボールミル中で湿式粉砕し、乾燥処理を行う。この粉砕粉末にバインダーを加えて造粒し、所定の大きさに加圧成型する。そして、この成型体を1000~1200℃で所定時間焼成し、焼結体の鏡面研磨・加工処理を行った後、電極を焦電体に形成させる。そして、この焦電体を所定温度に加熱された絶縁性溶液中で所定の直流電圧を印加して分極を行うことで、焦電素子を製造することができる。
【実施例1】
【0018】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0019】
まず、主成分の原料としてPbO、CaCO3、La2O3、TiO2、CoO、WO3、添加物の原料としてMn3O4、Cr2O3、NiO、Al2O3を準備し、表1に示す組成となるように秤量した。次に、これらの原料粉末をジルコニアボール及び水と共にボールミルに投入し、湿式で十二分に混合した。混合原料を乾燥させた後、この混合原料を大気雰囲気下、900~1100℃の温度で約2時間仮焼を行った。次に、この仮焼物をジルコニアボールと水と共にボールミルに投入し、約18時間湿式で粉砕後、乾燥した。この粉末に5.5重量%の水を添加して造粒を行った後、40メッシュの篩を使用して整粒し、得られた粉末を2.0~3.0×108Paの圧力でプレス成型し、23mm×23mm×10mmの成型体を作製した。
【0020】
この成型体を1000~1200℃で1~10時間保持し、本焼成を行なった。この焼結体を研磨加工した後、銀ペーストで電極を形成した。そして、50~120℃の絶縁性の溶液中で1~8kV/mmの直流電流を10~30分印加して分極処理を行った。これにより、表1の試料を得た。
【0021】
各試料の比誘伝率εrは、LFインピーダンス・アナライザ4192A(横川ヒューレット・パッカード製)を用いて各試料の静電容量を測定し、静電容量と各試料の厚さから計算して求めた。
【0022】
また、各試料の比誘伝率εrの温度特性を測定し、比誘電率が極大値を示す温度を各試料のキュリー温度Tcとした。
【0023】
各試料の焦電係数λは、各試料を恒温槽に入れ、35℃から70℃まで温度を変化させてデジタル・エレクトロメータTR8652(アドバンテスト製)で各試料の焦電電流Iを測定、下記の式を用いることで求めた。
λ=I/(S・ΔT)
S:試料の電極面積(cm2) ΔT:温度変化量(K)
【0024】
表1は、試料番号の組成、及び測定結果を示している。
【0025】
【0026】
試料番号1~5より、Pbに対するCaの置換量が0.20を超えると比誘電率εrが大きくなるとともに、キュリー温度Tcが260℃以下となり、赤外線センサの感度が劣化してしまうことが分かった。一方、置換量が0.10未満になると焼結性が低下し、緻密な焼成体を得ることが困難であった。また、焦電係数λが3以下と小さくなるため、赤外線センサの感度が低くなり、好ましくない。従って、Caの置換量としては0.10≦x≦0.20が好ましい。
【0027】
試料番号3及び6~8より、Pbに対するLaの置換量が増加するに従って、焦電係数が大きく向上することが分かる。しかし、置換量が0.05以上になるとキュリー温度Tcが260℃以下となり、リフロー処理により焦電体の焦電特性が大きく劣化してしまう。従って、Laの置換量としては0<y<0.05が好ましい。
【0028】
さらに、Pbに対するCa及びLaの置換量がそれぞれ0.10≦x≦0.20、0<y<0.05であることから、Aサイトのイオンバランスを整えるためには主成分中に含まれるPbの量が0.75≦w<1.00であることが好ましい。
【0029】
試料番号3及び9~12より、Tiに対する(Co1/2W1/2)の置換量が増加するに従って焦電係数λが向上するが、置換量が0.15を超えるとキュリー温度Tcが260℃以下となり、リフロー処理により焦電体の焦電特性が大きく劣化することが分かった。また、置換量が0.02未満になると焼結性が低下し、緻密な焼成体を得ることが困難であった。従って、(Co1/2W1/2)の置換量としては0.02≦z≦0.15が好ましい。
【0030】
試料番号13では、Mnを添加しなかったために緻密な焼結体を得ることができなかった。試料番号3及び14より、Ni並びにCrを添加することにより比誘電率εrが200程度まで増加し、赤外線センサのノイズ耐性が向上することが分かった。試料番号3及び15より、Alを添加することにより比誘電率εrが低下し、赤外線センサの検出感度が向上することが分かった。また、試料番号16~22より、(PbwCaxLay){Ti(1―z)(Co1/2W1/2)z}O3に対し、Mn、Cr、Ni、Alを0.01~3.00モル%添加した組成は、比誘電率εrが適度に低く、焦電係数λが大きな焦電体を与えることが分かった。
【0031】
以上の結果より、PbをCa及びLaに適切な量で置換した二成分系のPbTiO3-Pb(Co1/2W1/2)O3に、さらに添加物としてMn、Cr、Ni、Alを適切な量を添加することで高いキュリー温度を有し、リフロー処理による焦電特性の劣化が無く、適度な比誘電率並び大きな焦電係数を示す、表面実装対応可能な焦電型赤外線センサ用の焦電性磁器組成物を得た。