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  • 特許-粘着シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20220915BHJP
   C09J 7/40 20180101ALI20220915BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220915BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220915BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/40
B32B27/00 M
B32B27/32 Z
C09J201/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018231612
(22)【出願日】2018-12-11
(65)【公開番号】P2020094099
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100195888
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 裕一
(72)【発明者】
【氏名】加茂 雅康
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-16350(JP,U)
【文献】特開平5-171118(JP,A)
【文献】特開2010-229377(JP,A)
【文献】特開2008-80626(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0213738(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着シート用基材、粘着剤層、剥離剤層、及び剥離材用基材がこの順で積層された積層構造を有する粘着シートであって、
前記剥離剤層が、非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)を主剤として含み、かつシリル化ポリオレフィン(B)を含む剥離剤組成物から形成された層であり、
前記粘着剤層が、球状粘着剤(C)を含む粘着剤組成物から形成された層である、粘着シート。
【請求項2】
非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)が、シリル化ポリオレフィン(B)以外のオレフィン系樹脂(A1)である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)の含有量に対するシリル化ポリオレフィン(B)の含有量の質量比(B/A)が、1/99~30/70である、請求項1又は2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記粘着剤層から前記剥離剤層を剥離する際の剥離力が200~800mN/25mmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関する。さらに詳述すると、本発明は、再剥離性の粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
再剥離性の粘着シートは、例えば、物流管理用ラベルや事務用品といった様々な用途で利用されている。
再剥離性の粘着シートは、通常、粘着性と剥離性という、相反する性能の両立が求められる。例えば、使用時には、ダンボールのような粗面に対しても十分な粘着性を発揮しながらも、容易に剥がれることのない性能が求められる。そして、再剥離性の粘着シートを被着体から剥離する際には、被着体への糊残りや被着体の破損等を生じさせることなく、きれいに剥離できる性能が求められる。また、被着体への貼付と剥離とを繰り返し行うことができる性能が求められることもある。
【0003】
再剥離性の粘着シートとして、球状粘着剤を含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有するものが挙げられる。このような粘着剤層を用いることによって、被着体に対する適度な粘着性と剥離性とを両立させることができる。
例えば、特許文献1には、球状粘着剤として粘着性のエラストマー状共重合体を用いた再剥離性の粘着シートが開示されており、球状粘着剤の一部を粘着剤層の表面から露出させることによって、粘着剤層と被着体とを接触させたときの接触面積を抑え、粘着シートの貼着性、剥離性さらに再貼着性を両立するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭50-2736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、再剥離性の粘着シートが製品として流通する際には、粘着剤層を保護するために、剥離材用基材上に剥離剤層が設けられた剥離材が粘着剤層上に積層される。従来、再剥離性の粘着シートは、剥離材の剥離剤層がシリコーン系の剥離剤組成物により形成されていることが一般的である。
しかしながら、シリコーン系の剥離剤組成物により形成された剥離剤層は剥離性に優れ、それゆえ、剥離剤層に接する粘着剤層の粘着力が低い場合は積層状態を維持するのが困難であった。例えば、粘着シートに何らかの加工を施すため巻き返しを行う際、粘着シートがガイドロールを通過するだけで当該ガイドロールの軸方向に平行にかつ直線状に粘着剤層から剥離材が浮き上がる、いわゆるトンネリング現象が起こることがあった。特に、粘着剤組成物に球状粘着剤が用いられる場合は、粘着剤層と剥離剤層とが点接触で保持されるため、このようなトンネリング現象の発生が顕著であった。粘着シートにトンネリングが生じると、粘着シートを加工することが不可能となったり粘着剤層の表面に塵芥が付着して所望の粘着物性が得られなくなったりするといった問題が生じる。
【0006】
また、剥離材の剥離剤層がシリコーン系の剥離剤組成物により形成される場合、製造工程中において剥離材をロール状に巻き取る過程で、剥離材用基材の剥離剤層積層面とは反対側の面(以下、「剥離材用基材表面」ともいう)と剥離剤層とが接触し、シリコーン系の剥離剤組成物由来のシリコーン化合物が剥離材用基材表面に付着することがある。
そして、当該剥離材を粘着剤層に積層し、積層体をロール状に巻き取る過程で、剥離材用基材表面に付着しているシリコーン化合物が、粘着剤層を支持する粘着シート用基材の粘着剤層積層面とは反対側の面(以下、「粘着シート用基材表面」ともいう)に付着することがある。
粘着シート用基材表面は、印刷・印字面あるいは筆記面として使用し得る。したがって、粘着シート用基材表面にシリコーン化合物が付着していると、インクのはじき等が生じやすくなり、印刷・印字不良や筆記不良が生じ得る。
【0007】
本発明は、剥離剤層と粘着剤層との界面でのトンネリング現象の発生を抑えながらも、粘着シート用基材表面へのシリコーン化合物の付着を抑えることのできる粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、剥離剤層を、非シリコーン系の熱可塑性樹脂を主剤として含み、かつシリル化ポリオレフィンを含む剥離剤組成物から形成された層とすることによって、上記の課題を解決し得ることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]に関する。
[1]粘着シート用基材、粘着剤層、剥離剤層、及び剥離材用基材がこの順で積層された積層構造を有する粘着シートであって、前記剥離剤層が、非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)を主剤として含み、かつシリル化ポリオレフィン(B)を含む剥離剤組成物から形成された層であり、前記粘着剤層が、球状粘着剤(C)を含む粘着剤組成物から形成された層である、粘着シート。
[2]非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)が、シリル化ポリオレフィン(B)以外のオレフィン系樹脂(A1)である、上記[1]に記載の粘着シート。
[3]非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)の含有量に対するシリル化ポリオレフィン(B)の含有量の質量比(B/A)が、1/99~30/70である、上記[1]又は[2]に記載の粘着シート。
[4]前記粘着剤層から前記剥離剤層を剥離する際の剥離力が200~800mN/25mmである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の粘着シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、剥離剤層と粘着剤層との界面でのトンネリング現象の発生を抑えながらも、粘着シート用基材表面へのシリコーン化合物の付着を抑えることのできる粘着シートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様の粘着シートの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「有効成分」とは、組成物中に含まれる成分のうち、希釈溶媒を除いた成分を指す。
また、本発明において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
【0013】
本発明の粘着シートは、粘着シート用基材、粘着剤層、剥離剤層、及び剥離材用基材がこの順で積層された積層構造を有する粘着シートであって、前記剥離剤層が、非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)を主剤として含み、かつシリル化ポリオレフィン(B)を含む剥離剤組成物から形成された層であり、前記粘着剤層が、球状粘着剤(C)を含む粘着剤組成物から形成された層である、粘着シートである。
以下、本発明の粘着シートの構成について説明した後、本発明の粘着シートを構成する粘着シート用基材、粘着剤層、剥離剤層、及び剥離材用基材について説明する。その後、さらに、本発明の粘着シートの特性、製造方法、及び用途について説明する。
【0014】
[粘着シートの構成]
本発明の粘着シートは、粘着シート用基材、粘着剤層、剥離剤層、及び剥離材用基材がこの順で積層された積層構造を有する。
図1は、本発明の一態様の粘着シートを示す概略断面図である。粘着シート1は、粘着シート用基材11、粘着剤層12、剥離剤層13、及び剥離材用基材14がこの順で積層された積層構造を有する。換言すれば、粘着シート1は、粘着シート用基材11、粘着剤層12、並びに剥離剤層13及び剥離材用基材14を有する剥離材15がこの順で積層され、剥離材15の剥離剤層13側が粘着剤層12に直接接触した積層構造を有する。
なお、図1に示す粘着シート1は、粘着シート用基材11と粘着剤層12、粘着剤層12と剥離剤層13、剥離剤層13と剥離材用基材14が、他の層を介することなく直接積層されている。すなわち、図1に示す粘着シート1は、粘着シート用基材11、粘着剤層12、剥離剤層13、及び剥離材用基材14のみからなる粘着シートである。但し、本発明の粘着シートは、このような実施形態には限定されず、粘着シート用基材11と粘着剤層12との間、粘着剤層12と剥離剤層13との間、及び剥離剤層13と剥離材用基材14との間の少なくともいずれかに、他の層が設けられていてもよい。また、粘着シート用基材11の表面及び剥離材用基材14の表面との少なくともいずれかに、他の層が設けられていてもよい。
【0015】
[粘着シート用基材]
本発明の粘着シートが有する粘着シート用基材は、少なくとも粘着剤層用の支持体として機能するものであれば、特に制限がなく、従来の粘着シートにおいて使用される粘着シート用基材の中から、粘着シートの使用目的等に応じて適宜選択される。
このような粘着シート用基材としては、例えば、クラフト紙、上質紙、グラシン紙、パーチメント紙、レーヨン紙、コート紙、及び合成繊維紙等の紙類;ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂等の樹脂フィルム;合成紙等が挙げられる。
粘着シート用基材は、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。
また、粘着シート用基材表面には、コート層が設けられていてもよい。コート層としては、例えば各種表示のための印刷適正を考慮した印刷受理層が挙げられるが、必ずしも印刷受理層に限定されるものではなく、擦過性、保存性、防水性、及び意匠性等を考慮した各種コート層が設けられていてもよい。
なお、コート層は、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。
【0016】
粘着シート用基材の厚さは、粘着シートの使用目的等に応じて適宜選択されるが、取扱性の観点から、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~150μm、更に好ましくは30~100μmである。
【0017】
また、粘着シート用基材として合成樹脂を用いる場合、粘着シート用基材の粘着剤層に接する側の面には、粘着シート用基材と粘着剤層との密着性を向上させるために、所望により酸化法や凹凸化法等の方法により表面処理を施すことができる。
酸化法としては、例えば、コロナ放電表面処理、クロム酸表面処理(湿式)、火炎表面処理、熱風表面処理、オゾン・紫外線照射表面処理等が挙げられる。また、凹凸化法としては、例えば、サンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は、粘着シート用基材の種類に応じて適宜選定されるが、一般には、コロナ放電表面処理法が効果及び操作性の観点から、好ましく用いられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
なお、粘着シート用基材表面にコート層を設ける場合、粘着シート用基材表面に対してこれらの表面処理を行ってもよい。
【0018】
[粘着剤層]
本発明の粘着シートが有する粘着剤層は、球状粘着剤(C)を含む粘着剤組成物から形成される。
再剥離性の粘着シートにおいて、粘着剤層は、被着体に軽く押し付けて接着させたときの接着力が比較的高く、かつ強く押し付けて接着させたときにも接着力がそれほど上昇せずに比較的小さな力で剥離され得る性能が望まれる。また、剥離した際に被着体表面に粘着剤層の一部が転着して糊残りが生じたり、被着体が破損したりするのを抑制し得る性能も望まれる。さらには、剥離後に再び他の被着体に良好な接着性をもって接着し得る性能も望まれる。
かかる観点から、本発明では、球状粘着剤(C)を含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層が用いられる。このような粘着剤層は、粘着剤組成物に含まれている球状粘着剤(C)に由来する粘着性微球粒子の一部が粘着剤層の表面に露出している。したがって、被着体を粘着剤層と接触させたときに、被着体と粘着剤層との接触面積が抑えられる。そのため、被着体に対する粘着剤層の適度な粘着性と剥離性とが両立され、上記性能が確保され得る。
【0019】
なお、本発明の一態様の粘着剤組成物は、必要に応じて粘着剤用添加剤を含んでいてもよい。
以下、粘着剤層の形成材料である粘着剤組成物に含まれる各成分について説明する。
【0020】
<球状粘着剤(C)>
粘着剤組成物は、球状粘着剤(C)を含む。
球状粘着剤(C)は、球状の微小な粒子からなる粘着剤であれば、特に限定されず、再剥離性の粘着シートの粘着剤層を形成する際に通常用いられる公知の球状粘着剤を用いることができる。
球状粘着剤(C)の具体例としては、アクリル系球状粘着剤及びゴム系球状粘着剤等が挙げられる。
球状粘着剤(C)は、一種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、被着体に対する適度な粘着性や剥離性を制御し易くする観点から、アクリル系球状粘着剤(C1)を用いることが好ましい。
【0021】
アクリル系球状粘着剤(C1)は、アクリル系重合体からなる球状粘着剤である。アクリル系重合体としては、アクリル系単量体の一種を重合させることで得られるアクリル系単独重合体、アクリル系単量体の二種以上を重合させることで得られるアクリル系共重合体、及び、アクリル系単量体とアクリル系単量体以外の単量体を重合させることで得られるアクリル形共重合体が挙げられる。
アクリル系球状粘着剤(C1)において、アクリル系重合体及びアクリル系共重合体は、一種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
アクリル系単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数が1~20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドなどのアクリルアミド類;メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸モノ又はジアルキルアミノアルキル;(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の双方を指し、他の類似の用語についても同様である。
【0023】
アクリル系単量体以外の単量体の具体例としては、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類;塩化ビニル、ビニリデンクロリドなどのハロゲン化オレフィン類;スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体;ブタジエン、イソブレン、クロロブレンなどのジエン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル系単量体等が挙げられる。
【0024】
ここで、アクリル系球状粘着剤(C1)を構成する重合体は、内部架橋剤や外部架橋剤によって架橋されていてもよい。
内部架橋剤とは、重合時に、重合体分子内に架橋構造を導入し得る反応性単量体をいう。
外部架橋剤とは、重合体分子内に存在する架橋性官能基と反応して架橋構造を導入し得る化合物をいう。
【0025】
内部架橋剤の具体例としては、多官能性エチレン性不飽和単量体、ケト基含有エチレン性不飽和単量体等が挙げられる。
内部架橋剤は、一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
内部架橋剤を用いる場合、内部架橋剤を単量体混合物中に配合する。内部架橋剤の配合量は、単量体成分100質量部に対して、5質量部以下が好ましい。
【0026】
外部架橋剤の具体例としては、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、メラミン系化合物、アジリジン(エチレンイミン)系化合物、ヒドラジド系化合物、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド系化合物、尿素系化合物、ジアルデヒド系化合物、金属キレート化合物、金属アルコキシド、金属塩等が挙げられる。
外部架橋剤は、一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
外部架橋剤を用いる場合、外部架橋剤を、得られた重合反応溶液または分散液に配合する。外部架橋剤の配合量は、重合体100質量部に対して5質量部以下が好ましい。
【0027】
アクリル系球状粘着剤は、懸濁重合法や、溶液重合後水中に懸濁させる方法などの従来公知の方法によって球状粘着剤の水懸濁液として得ることができる。
【0028】
粘着剤組成物に配合される球状粘着剤(C)の粒子の平均粒径は、通常1~200μm、好ましくは10~100μm、更に好ましくは15~50μmである。粘着剤組成物に配合される球状粘着剤(C)の粒子の平均粒径が上記範囲にあると、粘着剤層を被着体に軽く押し付けて接着させたときの接着力を比較的高くしやすく、かつ強く押し付けて接着させたときにも接着力がそれほど上昇せずに比較的小さな力で剥離しやすい。また、剥離した際に被着体表面に粘着剤層の一部が転着して糊残りが生じたり、被着体が破損したりすることを抑制しやすい。加えて、剥離後に再び他の被着体に良好な接着性をもって接着しやすい。
【0029】
粘着剤組成物に配合される球状粘着剤(C)の粒子の平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡写真からランダムに100個程度の粒子を選び、それらの粒子径を測ってその平均値を算出することで求めることができる。また、粒子が真球でない場合は、長径と短径を求め、その平均値をその粒子の粒子径と仮定すればよい。
【0030】
<バインダー粘着剤>
粘着剤組成物は、球状粘着剤(C)とともに、バインダー粘着剤を含む。
バインダー粘着剤は、球状粘着剤(C)を粘着シート用基材に固定することができる粘着剤であれば特に限定されない。
バインダー粘着剤の具体例としては、(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含有するエマルションを主成分とする粘着剤等(以下、「アクリル系エマルション型粘着剤」ともいう)が挙げられる。
ここで、「主成分」とは、バインダー粘着剤中で含有量(質量比)が最も大きい成分を意味し、好ましくはバインダー粘着剤の全量(100質量%)基準で50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上を占める成分を意味している。
【0031】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、通常のアクリル系粘着剤において使用される(メタ)アクリル酸エステル系重合体の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
このような(メタ)アクリル酸エステル系重合体の具体例としては、アクリル酸エステル系単量体一種以上を重合させることで得られる単独重合体若しくは共重合体、またはアクリル酸エステル系単量体とアクリル酸エステル系単量体以外の単量体を重合させることで得られる共重合体が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル系重合体を製造する際に用いる単量体の具体例としては、アクリル系球状粘着剤(C1)の中で示したものと同様のものが挙げられる。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、内部架橋剤や外部架橋剤によって架橋されていてもよい。
内部架橋剤や外部架橋剤の具体例としては、球状粘着剤(C)の説明の中で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0033】
アクリル系エマルション型粘着剤は、公知の方法によって製造することができる。
例えば、乳化剤を含む水性媒体中に、所定の単量体を加えて乳化処理を行い、重合開始剤の存在下に乳化重合を行うことで、アクリル系エマルション型粘着剤を製造することができる。
アクリル系エマルション型粘着剤中のミセルの平均粒径は特に制限されない。平均粒径の範囲は、通常、100~2000nm、好ましくは120~1500nm、特に好ましくは150~500nmである。
【0034】
<その他の添加剤>
本発明の一態様において、粘着剤組成物は、必要に応じて、粘着剤用添加剤を含んでいてもよい。
粘着剤用添加剤としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、充填剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防カビ剤、染料、顔料、香料等が挙げられる。
これら添加剤の含有量は、粘着剤組成物の全量(100質量部)に対して、通常、10質量部以下、好ましくは、1~5質量部である。
【0035】
<粘着剤組成物中の各成分の含有量と含有比率>
本発明の一態様において、粘着剤組成物に含まれる球状粘着剤(C)とアクリル系エマルション型粘着剤の有効成分の質量比(球状粘着剤(C):アクリル系エマルション型粘着剤)は、好ましくは100:75~100:250、より好ましくは100:80~100:220である。
粘着剤組成物に含まれる球状粘着剤(C)とアクリル系エマルション型粘着剤の有効成分の質量比を上記範囲とすることで、粘着シート用基材と粘着剤層との密着性を良好なものとし易い。また、被着体に対する再貼付性を良好なものとし易い。
【0036】
<希釈溶媒>
粘着剤組成物は、例えば水で希釈して水溶液の形態で用いられる。
具体的には、球状粘着剤(C)の水懸濁液、アクリル系エマルション型粘着剤、及び上記の添加
剤等を混合することで、粘着剤組成物の水溶液を得ることができる。
水の量は、粘着剤組成物が塗布時に適度な粘度を有する量となるように適宜選定すればよい。
【0037】
[剥離剤層]
本発明の粘着シートが有する剥離剤層は、非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)を主剤として含み、かつシリル化ポリオレフィン(B)を含む剥離剤組成物から形成された層であればよく、当該剥離剤組成物は、必要に応じて剥離剤用添加剤を含んでいてもよい。
本発明の一態様において、剥離剤組成物中における上述の成分(A)及び(B)の合計含有量は、剥離剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上である。
以下、剥離剤層の形成材料である剥離剤組成物に含まれる各成分について説明する。
【0038】
<非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)>
剥離剤組成物は、非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)を主剤として含む。
なお、本明細書において、「主剤」とは、剥離剤組成物の中で含有量(質量比)が最も大きい成分を意味し、好ましくは剥離剤組成物の全量(100質量%)基準で50質量%以上を占める成分を意味している。
本発明の一態様において、剥離剤層の剥離力を適切な値に制御しやすくする観点から、剥離剤組成物中における非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)の含有量は、剥離剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは50~99質量%、より好ましくは60~97質量%、更に好ましくは65~95質量%である。
【0039】
非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)は、シリコーン化合物を実質的に含まない熱可塑性樹脂であれば、特に限定されない。
なお、本明細書において、「シリコーン化合物を実質的に含まない熱可塑性樹脂」とは、ある特定の動機をもってシリコーン化合物を意図的に配合してなる熱可塑性樹脂を除外することを意味している。具体的には、シリコーン化合物の含有量が、剥離剤層の全量(100質量%)基準で、好ましくは1.0質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満であることを意味している。
【0040】
非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)の具体例としては、オレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;エチレン酢酸ビニル共重合体;エチレン・メタクリル酸メチル共重合体;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリアミド;ABS樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリイミド;ポリウレタン;ポリ乳酸;が挙げられる。
なお、非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)は、一種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
ここで、本発明の一態様において、剥離剤層の剥離力を適切な値に制御しやすくする観点から、非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)は、オレフィン系樹脂(A1)であることが好ましい。
なお、オレフィン系樹脂(A1)には、シリル化ポリオレフィン(B)は含まれない。すなわち、オレフィン系樹脂(A1)は、シリル化ポリオレフィン(B)以外のオレフィン系樹脂である。
【0042】
オレフィン系樹脂(A1)は、オレフィンモノマー(a1’)に由来の構成単位(a1)を主体とする重合体である。
但し、後述する一般式(1)を構成単位として1つ以上含むヒドロシラン化合物(b1’)に由来する構成単位(b1)は含まない。
ここで、「オレフィンモノマー(a1’)に由来の構成単位(a1)を主体とする重合体」とは、オレフィン系樹脂(A1)に含まれる構成単位のうち、最も多く含まれる構成単位がオレフィンモノマー(a1’)に由来の構成単位(a1)であることを意味する。
オレフィンモノマー(a1’)としては、炭素数2~8のオレフィンが好ましい。炭素数2~8のオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、1-ヘキセン等が挙げられる。
本発明の一態様において、オレフィンモノマー(a1’)は、炭素数2~4のオレフィンであるエチレン、プロピレン、ブチレンであることがより好ましく、炭素数2~3のオレフィンであるエチレン、プロピレンであることが更に好ましい。
オレフィンモノマー(a1’)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用して共重合体としてもよい。
【0043】
オレフィン系樹脂(A1)を具体的に例示すると、超低密度ポリエチレン(VLDPE、密度:880kg/m以上910kg/m未満)、低密度ポリエチレン(LDPE、密度:910kg/m以上915kg/m未満)、中密度ポリエチレン(MDPE、密度:915kg/m以上942kg/m未満)、高密度ポリエチレン(HDPE、密度:942kg/m以上)、直鎖状ポリエチレン等のポリエチレン樹脂;ポリプロピレン樹脂(PP);ポリブテン樹脂(PB);エチレン-プロピレン共重合体;オレフィン系エラストマー(TPO);エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA);エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA);エチレン-プロピレン-(5-エチリデン-2-ノルボルネン)等のオレフィン系三元共重合体;等が挙げられ、好ましくはポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリブテン樹脂(PB)であり、より好ましくはポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)である。
オレフィン系樹脂(A1)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
なお、オレフィン系樹脂(A1)中における、構成単位(a1)の含有量は、オレフィン系樹脂(A1)の全構成単位(100質量%)に対して、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%、更になお好ましくは90~100質量%である。
【0045】
また、オレフィン系樹脂(A1)中における、炭素数2~3のオレフィンに由来する構成単位の含有量は、オレフィン系樹脂の全構成単位(100質量%)に対して、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%、更になお好ましくは90~100質量%である。
【0046】
<シリル化ポリオレフィン(B)>
剥離剤組成物は、シリル化ポリオレフィン(B)をさらに含む。
剥離剤層を非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)からなる剥離剤組成物で形成すると、剥離力が大きくなりすぎて、粘着剤層から剥離材を剥離することが困難になる。また、従来のように剥離剤層をシリコーン系の熱可塑性樹脂(A)からなる剥離剤組成物で形成すると、剥離力が小さすぎて剥離剤層と粘着剤層との界面でトンネリング現象が生じやすくなる。そのため、加工性が悪化したり、粘着剤層を剥離材で保護できなかったりする問題等が生じやすい。
これらの状況に対し、本発明者らは、非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)を主剤として含み、かつシリル化ポリオレフィン(B)を含む剥離剤組成物から形成された剥離剤層を用いることによって、剥離力を適切にコントロールして剥離剤層と粘着剤層との界面でのトンネリング現象の発生を抑制できること、さらには、シリコーン化合物の移行の問題も解決できることを見出した。
【0047】
シリル化ポリオレフィン(B)は、下記一般式(1)を構成単位として1つ以上含むヒドロシラン化合物(b1’)(以下、「モノマー(b1’)」ともいう)に由来する構成単位(b1)と、末端二重結合含有ポリオレフィン(b2’)(以下、「モノマー(b2’)」ともいう)に由来する構成単位(b2)とを有する共重合体である。
シリル化ポリオレフィン(B)は、ヒドロシラン化合物(b1’)中の-Si-Hと、末端二重結合含有ポリオレフィン(b2’)中の-C=C(ビニル基)とが反応した、-Si-C-C-構造を含む。
ヒドロシラン化合物(b1’)と末端二重結合含有ポリオレフィン(b2’)との共重合体の重合形態は特に限定されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれであってもよいが、ブロック共重合体であることが好ましい。
【0048】
【化1】
【0049】
上記一般式(1)中、Rは、炭化水素基またはケイ素含有基を表す。Rは、好ましくは炭化水素基であり、より好ましくは脂肪族炭化水素基であり、更に好ましくはアルキル基であり、より更に好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
は、酸素原子、硫黄原子またはNR(Nは窒素原子であり、Rは水素原子または炭化水素基を表す)を表す。Yは、好ましくは酸素原子である。
及びYが複数ある場合はそれぞれ同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
ここで、ヒドロシラン化合物(b1’)は、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0050】
【化2】
【0051】
上記一般式(2)中、R及びYは上記一般式(1)と同様のものを表す。
1bは、炭化水素基を表し、好ましくは脂肪族炭化水素基であり、更に好ましくはアルキル基であり、より更に好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
は、酸素原子、硫黄原子またはNR(Nは窒素原子であり、Rは水素原子または炭化水素基を表す)を表す。Yは、好ましくは酸素原子である。
mは、1~20の整数であり、好ましくは1~6の整数である。
nは、0~20の整数であり、好ましくは0又は1である。
nが1以上の場合、Zは下記一般式(4)で表される2価の連結基を表す。
nが0の場合、Zは下記一般式(4)で表される2価の連結基、又はYとR1cの直接結合を表す。
1a及びR1cは、炭化水素基又は下記一般式(3)で表される基を表す。炭化水素基は、好ましくは脂肪族炭化水素基であり、より好ましくはアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。但し、nが0の場合、R1cは、水素原子であってもよい。R、R1a、R1b、及びR1cが複数存在する場合、これらはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
及びYが複数存在する場合、これらはそれぞれ同一であっても異なっていてもよいが、全て酸素原子であることが好ましい。
【0052】
【化3】
【0053】
上記一般式(3)中、R21は、炭化水素基を表し、好ましくは脂肪族炭化水素基であり、より好ましくはアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。複数存在するR21はそれぞれ同一でも異なっていても良いが、これらは同一であることが好ましい。
yは1~100の整数であり、好ましくは1である。
【0054】
【化4】
【0055】
上記一般式(4)中、R11は、炭化水素基を表し、好ましくは脂肪族炭化水素基であり、より好ましくはアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
複数存在するR11はそれぞれ同一でも異なっていても良いが、これらは同一であることが好ましい。
lは、0~500の整数である。
【0056】
また、ヒドロシラン化合物(b1’)は、以下の一般式(5)で表される構造のものであってもよい。
なお、下記一般式(5)中、lは上記一般式(4)と同様である。
【0057】
【化5】
【0058】
末端二重結合含有ポリオレフィン(b2’)は、ビニル基を1つ以上含む末端二重結合含有ポリオレフィンである。
末端二重結合含有ポリオレフィン(b2’)は、末端二重結合含有ポリオレフィンのビニル基以外の部分が、エチレン単独重合鎖、プロピレン単独重合鎖、または炭素数2~50のオレフィンからなる群から選択される2種以上のオレフィンの共重合鎖であることが好ましい。
これらの中でも、エチレン単独重合鎖、プロピレン単独重合鎖、またはエチレン、プロピレン、ブテン、ビニルノルボルネン、二個以上の二重結合を有する環状ポリエンおよび二個以上の二重結合を有する鎖状ポリエンからなる群から選択される2種以上のオレフィンの共重合鎖であることが好ましく、特にエチレン単独重合鎖、プロピレン単独重合鎖、オレフィンとジエンとの共重合鎖、エチレンとプロピレンとの共重合鎖、エチレンとノルボルネンとの共重合鎖が好ましい。
また、末端二重結合含有ポリオレフィン(b2’)の数平均分子量は100~500,000であることが好ましい。
なお、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0059】
シリル化ポリオレフィン(B)は、例えば、ヒドロシラン化合物(b1’)と末端二重結合含有ポリオレフィン(b2’)を、例えば特開2010-37555公報や特開2011-26448号公報に記載されているように、ヒドロシラン化合物(b1’)及びハロゲン化遷移金属から調製される遷移金属触媒組成物の存在下で反応させることにより得られる。
【0060】
ヒドロシラン化合物(b1’)と末端二重結合含有ポリオレフィン(b2’)の量比については、生成しようとするシリル化ポリオレフィン(B)の構造によって異なるが、通常、末端二重結合含有ポリオレフィン(b2’)中のビニル基とヒドロシラン化合物(b1’)中のSi-H結合との当量比として0.01~10当量倍の範囲であり、好ましくは0.1~2当量倍の範囲である。
【0061】
シリル化ポリオレフィン(B)の具体例としては、以下の一般式(6)~(8)で表されるポリオルガノシロキサンブロック(シリコーンブロック)をもつ構造のオレフィン-シリコーン共重合体が挙げられる。但し、シリル化ポリオレフィン(B)は、これらに限定されるものではない。
なお、下記一般式(6)~(8)中、l及びmは上記一般式(2)及び(4)で説明したl及びmと同様の数値である。なお、剥離剤層の剥離力を適切な値に制御しやすくする観点から、lの値は好ましくは5~200、より好ましくは10~100である。
また、pは、1以上の整数であり、好ましくは100~100000、より好ましくは200~10000である。
また、下記一般式(6)~(8)中、末端二重結合含有ポリオレフィン(b2’)中の2つのR31は、互いに独立して、水素原子又は炭化水素基を表す。R31はポリオレフィンを構成するオレフィン単位の残基である。オレフィンがエチレンである場合、2つのR31はともに水素原子である。オレフィンがプロピレンである場合、2つのR31は水素原子とメチル基の組み合わせである。pが複数存在する場合、それそれのpの値は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0062】
【化6】
【0063】
【化7】
【0064】
【化8】
【0065】
本発明の一態様において、剥離剤層の剥離力を適切な値に制御しやすくする観点から、剥離剤組成物中におけるシリル化ポリオレフィン(B)の含有量は、剥離剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは1~30質量%、より好ましくは3~20質量%、更に好ましくは5~20質量%、より更に好ましくは7~20質量%である。
【0066】
<その他の添加剤>
本発明の一態様において、剥離剤組成物は、必要に応じて、上述の成分(A)及び(B)以外に、剥離剤用添加剤を含んでいてもよい。
このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、光開始剤、及び光安定剤等が挙げられる。
これら添加剤の含有量は、剥離剤組成物の全量(100質量部)に対して、通常、10質量部以下、好ましくは、1~5質量部である。
また、本発明の一態様において、剥離剤組成物は、上述した各種有効成分に希釈溶媒を加えて、溶液塗工が可能な形態としてもよい。
【0067】
<剥離剤組成物中の各成分の含有量と含有比率>
本発明の一態様において、剥離剤層の剥離力を適切な値に制御しやすくする観点から、非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)の含有量に対するシリル化ポリオレフィン(B)の含有量の質量比(B/A)は、1/99~30/70であることが好ましく、3/97~20/80であることがより好ましく、5/95~20/80であることが更に好ましく、7/93~20/80であることがより更に好ましい。
【0068】
<剥離剤層の厚さ>
剥離剤層の厚さは、特に制限はないが、通常5~70μmであればよく、好ましくは5~50μm、より好ましくは5~40μm、更に好ましくは5~30μm、より更に好ましくは10~20μmである。
剥離剤層の厚さは、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0069】
[剥離材用基材]
本発明の粘着シートが有する剥離材用基材は、剥離剤層を支持する支持体として機能するものであれば、特に制限がなく、従来の剥離材において使用される剥離材用基材の中から適宜選択される。
具体的には、粘着シート用基材として用いられる上述の紙基材、樹脂フィルム又はシート、紙基材を樹脂でラミネートした基材等が挙げられる。
剥離材用基材は、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。
剥離材用基材の厚さは、特に制限はないが、通常10~300μmであればよく、好ましくは20~200μmである。剥離材用基材の厚さが10~300μmであれば、剥離材を用いた粘着シート等に、印刷、裁断、貼付等の加工を施すのに適したコシや強度を与えることができる。
【0070】
また、剥離材用基材として合成樹脂を用いる場合、剥離材用基材の剥離層を設ける表面には、剥離材用基材と剥離層との密着性を向上させるために、所望により酸化法や凹凸化法等の方法により表面処理を施すことができる。
酸化法としては、例えば、コロナ放電表面処理、クロム酸表面処理(湿式)、火炎表面処理、熱風表面処理、オゾン・紫外線照射表面処理等が挙げられる。また、凹凸化法としては、例えば、サンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は、剥離材用基材の種類に応じて適宜選定されるが、一般には、コロナ放電表面処理法が効果及び操作性の観点から、好ましく用いられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
【0071】
[粘着シートの特性]
本発明の粘着シートは、粘着剤層と剥離剤層との界面でのトンネリング現象が生じ難い。そのため、使用時まで粘着剤層が剥離材によりしっかりと保護される。
しかも、粘着シート用基材表面にシリコーン化合物が移行しないので、当該面を印刷・印字面として利用したり、筆記面として利用したりする場合に、印刷・印字不良や筆記不良が起こり難い。
また、シリコーン化合物が粘着剤層に移行することもなく、シリコーン化合物の移行により生じ得る粘着剤層のタック低下も抑えられる。
加えて、本発明の粘着シートが有する粘着剤層は、粘着性と剥離性という、相反する性能が両立されている。したがって、使用時には、粗面に対しても十分な粘着性を発揮しながらも、容易に剥がれることがない。しかも、粘着シートを被着体から剥離する際には、被着体への糊残りや被着体の破損等を生じさせることなく、きれいに剥離することができる。また、被着体への貼付と剥離とを繰り返し行うこともできる。
【0072】
<剥離力>
本発明の一態様の粘着シートにおいて、剥離剤層の粘着剤層に対する剥離力を適度な大きさにして、剥離剤層と粘着剤層との界面でのトンネリング現象の発生を抑え易くする観点から、剥離剤層の粘着剤層に対する剥離力は、好ましくは200~800mN/25mm、より好ましくは300~600mN/25mm、更に好ましくは330~550mN/25mmである。
剥離力は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0073】
[粘着シートの製造方法]
<剥離材の製造方法>
本発明の粘着シートが有する剥離材の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記の剥離剤組成物を剥離材用基材上に押し出す方法、上記の剥離剤組成物を用いて形成した剥離剤層を剥離材用基材と貼り合せる方法、上記の剥離剤組成物に希釈溶媒を加えて塗工可能に調製した溶液を剥離材用基材上に塗布する方法等が挙げられる。
上記の剥離剤組成物に希釈溶媒を加えて塗工可能に調製した溶液を剥離材用基材上に塗布する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ダイコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、リップコート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0074】
ここで、上記の剥離剤組成物から形成される剥離剤層は、他の層へのシリコーン化合物の移行が起こらない。そのため、剥離材を巻き取る際の剥離剤層と剥離材用基材表面との接触によって、剥離材用基材表面にシリコーン化合物が移行しない。
【0075】
<粘着シートの製造方法>
本発明の粘着シートの製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記の粘着剤組成物の水溶液を調製し、当該粘着剤組成物の水溶液を粘着シート用基材に塗布して粘着剤層を形成し、剥離材の剥離剤層と粘着剤層とを貼り合せて粘着シートを製造する方法が挙げられる。
【0076】
粘着シート用基材上に、粘着剤組成物の水溶液を塗布する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ダイコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、リップコート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0077】
ここで、上記の通り、本発明の粘着シートが有する剥離材用基材表面には、シリコーン化合物が移行しない。そのため、粘着シートを巻き取る際の剥離材用基材表面と粘着シート用基材との接触によって、粘着シート用基材にシリコーン化合物が移行しない。したがって、粘着シート用基材には印刷・印字不良又は筆記不良を生じさせ得るシリコーン化合物が付着せず、粘着シート用基材の印刷・印字及び筆記状態を良好なものとできる。
【0078】
[粘着シートの用途]
本発明の粘着シートによれば、粘着性と剥離性という、相反する性能が両立されている。したがって、使用時には、粗面に対しても十分な粘着性を発揮しながらも、容易に剥がれることがない。しかも、粘着シートを被着体から剥離する際には、被着体への糊残りや被着体の破損等を生じさせることなく、きれいに剥離することができる。また、被着体への貼付と剥離とを繰り返し行うこともできる。
したがって、本発明の一態様の粘着シートは、かかる被着体への貼付と剥離を繰り返し行い得る特性を利用して、例えば物品管理用ラベル、工程管理用ラベル、物流管理用ラベル等の管理用途、目隠しラベルやファンシーラベル等の文具事務用品、POP用ラベルなどの広告宣伝用途、あるいは遊具用途等として用いることができる。
【実施例
【0079】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、「質量%」は、組成物全量に対する有効成分換算での質量%を意味している。
【0080】
[物性値]
以下の実施例及び比較例における物性値は、以下の方法により測定した値である。
【0081】
<各層の厚さの測定>
株式会社テクロック製の定圧厚さ測定器(型番:「PG-02J」、標準規格:JIS K6783、Z1702、Z1709に準拠)を用いて測定した。
但し、剥離剤層の厚さについては、分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン株式会社製、商品名:分光エリプソメトリー 2000U)を用いて測定した。
【0082】
[実施例及び比較例]
実施例1~4及び比較例1~2の剥離材を、以下の手順で作製した。
【0083】
<実施例1>
非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)として、オレフィン系樹脂であるポリエチレン樹脂(住友化学株式会社製、商品名:スミカセン L-405)を用いた。以降の説明では、当該ポリエチレン樹脂を「PE樹脂」ともいう。
シリル化ポリオレフィン(B)として、ポリエチレン-シリコーン-ポリエチレントリブロック共重合体をポリエチレンで希釈した希釈品(三井化学株式会社製、商品名「イクスフォーラ PEマスターバッチ」、シリル化ポリオレフィン含有比率:30質量%)を用いた。以降の説明では、当該希釈品を「イクスフォーラ」ともいう。
なお、本実施例において、「イクスフォーラ」に含まれる希釈剤としてのポリエチレンは、非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)分として加算した。
PE樹脂90質量部に対し、イクスフォーラ10質量部をドライ状態で混合して剥離剤組成物を調製した。
次いで、当該剥離剤組成物を用い、グラシン紙(日本製紙株式会社製、商品名:ジョウシツY-5Kシール64.0G、厚さ:73μm、坪量:64g/m)を剥離材用基材として、当該剥離材用基材上に厚さ20μmの剥離剤層を、ラミネート法による押出し加工により形成し、剥離材を得た。
【0084】
<実施例2~4>
剥離剤組成物におけるPE樹脂とイクスフォーラの配合量を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で剥離材を得た。
(実施例2)
・PE樹脂:83質量%
・イクスフォーラ:17質量%
(実施例3)
・PE樹脂:75質量%
・イクスフォーラ:25質量%
(実施例4)
・PE樹脂:30質量%
・イクスフォーラ:70質量%
【0085】
<比較例1>
イクスフォーラを配合することなく、PE樹脂のみで剥離剤組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で剥離材を得た。
【0086】
<比較例2>
付加型ポリオルガノシロキサン(信越化学工業株式会社製、商品名:KS835)100質量部をトルエンで希釈して10質量%の溶液を調製し、これに白金触媒(信越化学工業株式会社製、商品名:PL-50T)を2質量部添加して、剥離剤組成物の塗布液を調製した。
次いで、実施例1と同様のグラシン紙を剥離材用基材とし、剥離剤組成物の塗布液を当該剥離材用基材上に塗布した。塗布量は1.0g/mとした。その後、150℃で1分間加熱乾燥処理し、剥離剤層の厚さが1μmの剥離材を得た。
【0087】
[測定及び評価]
実施例1~4及び比較例1~2の剥離材について、以下の測定及び評価を実施した。
【0088】
<剥離力測定>
実施例1~4及び比較例1~2の剥離材を、粘着剤層に球状粘着剤を含有する再剥離粘着ラベル(リンテック株式会社製、商品名:リピール1720)に2kgローラーで貼付し、粘着シートを得た。
次いで、圧力0.5MPaで3時間プレスした後、サンプル25mm幅、剥離速度300mm/min、剥離角度180°で剥離材を剥離したときの剥離力を測定した。
【0089】
<シリコーン転着量の評価>
実施例1~4及び比較例1~2の剥離材を15cm×15cmにカットし、その剥離材面に、ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱社製、商品名:ダイヤホイールPET38T-100、15cm×15cm)を接触させ、圧力10MPaで24時間プレスした。プレス開放後、剥離材と接触していたポリエチレンテレフタレートフィルムの表面のSi量を、蛍光X線分析計(株式会社リガク製、卓上波長分散蛍光X線分析系「Mini-Z」)を用いて測定した。
そして、Si量が検出限界以下(0.5cps以下)であったものを、シリコーン転着なし(○)とし、Si量が検出限界超(0.5cps超)であったものを、シリコーン転着あり(×)とした。
【0090】
<剥離材の浮き>
剥離力測定の際に作製した粘着シートを150mm×400mmにカットして剥離材の浮き評価用のサンプルとし、評価用に直径60mmのポリエチレン製の丸棒を用意した。
粘着シートのサンプルの粘着シート用基材の側を内面、剥離材の側を外面にして、サンプルの長尺方向を丸棒の側面に沿って巻き付け、2時間固定した。その後巻き付けを解き、粘着シート用基材側を上側、剥離材を下側にして、水平なテーブルにサンプルを静置した。
5分後にサンプルの状態を観察し、サンプルに剥離材の浮き(トンネリング)が発生していないものを○、発生したものを×とした。
【0091】
結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1より、以下のことがわかる。
比較例1から、非シリコーン系の熱可塑性樹脂(A)のみで剥離剤層を形成すると、粘着剤層へのシリコーン転着や剥離材の浮き等はみられなかったものの、剥離力が大きすぎることがわかる。
また、比較例2から、シリコーン系の熱可塑性樹脂のみで剥離剤層を形成すると、剥離力が小さすぎるとともに、粘着剤層へのシリコーン転着や剥離材の浮きがみられることがわかる。
これらに対し、実施例1~4では、剥離力が適切な範囲(200~800mN/25mm)に調整されており、しかも、粘着剤層へのシリコーン転着や剥離材の浮き等もみられないことがわかる。
【符号の説明】
【0094】
1 粘着シート
11 粘着シート用基材
12 粘着剤層
13 剥離剤層
14 剥離材用基材
15 剥離材
図1