(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】高速カロリメトリーを用いた熱硬化性樹脂のガラス転移温度の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/20 20060101AFI20220915BHJP
G01K 17/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
G01N25/20 A
G01K17/00 A
(21)【出願番号】P 2018233119
(22)【出願日】2018-12-13
【審査請求日】2020-12-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 展示日 平成30年11月2日 展示会名 日本熱測定学会主催の熱分析・熱測定に関する討論会(第54回熱測定討論会) 開催場所 東京工業大学 すずかけ台キャンパス(神奈川県横浜市緑区長津田町4259)
(73)【特許権者】
【識別番号】000151243
【氏名又は名称】株式会社東レリサーチセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】古島 圭智
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-523060(JP,A)
【文献】特開平08-178878(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0238465(US,A1)
【文献】特開平07-181154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/20
G01K 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
等温、または、非等温、または、それらを組み合わせて
、測定プロファイルが、試料調製するパートとガラス転移温度の測定パートが交互に繰り返され、熱硬化性樹脂を測定の対象として、設定温度
を室温~300℃、および、走査速度を
500~3000℃/sに設定し、
高速カロリメトリーを用いた熱硬化性樹脂のガラス転移温度の測定方法。
【請求項2】
熱硬化性樹脂の硬化中の、請求項1に記載の高速カロリメトリーを用いた熱硬化性樹脂のガラス転移温度の測定方法。
【請求項3】
試料調製するパートが、設定温度、設定時間、走査速度を任意に決める請求項
1または2に記載の高速カロリメトリーを用いた熱硬化性樹脂のガラス転移温度の測定方法。
【請求項4】
ガラス転移温度の測定パートが、
ガラス転移の全容を捉えることができる温度範囲で実施する請求項
1または2に記載の高速カロリメトリーを用いた熱硬化性樹脂のガラス転移温度の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速カロリメトリー(以下、FSCと記すことがある。)を用いた熱硬化性樹脂のガラス転移温度の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速カロリメトリーは、示差走査型熱量計法(以下、DSCと記すことがある。)の一種であるが、従来のDSCよりも高速(数万℃/s)で昇温、冷却が可能であり、温度の高速走査時の熱の出入りを調べることができる手法である(非特許文献1-3)。また、DSC曲線からのガラス転移温度の読み取りについては、ASTM E1356-03などの国際規格がある(非特許文献4)。
【0003】
従来は、熱処理途中で反応を止めた試料を調製しようとした際には、DSCや加熱炉内で熱処理を施した後、素早くとり出し、液体窒素などの冷媒に浸漬させる方法や空冷がとられていた。この方法では、冷却時の温度遅れや処理時間を制御することができないため、従来の方法で調製した試料をDSC測定した場合には、試料片間の硬化進行の変動や、試料組成のムラ、測定間の変動等を反映し、正確なガラス転移温度を捉えることが難しかった。
【0004】
高速カロリメトリーは、産業における高速の熱処理プロセスを分析装置内で模擬し、その際の熱挙動を調べることが可能となる。
【0005】
高分子材料については、主に熱可塑性樹脂のガラス転移、結晶化、融解における熱量、温度、速度論を調べるのに有効な手法として活用されてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】C. Schick, V. Mathot, Eds., Fast Scanning Calorimetry, Springer, Switzerland (2016).
【文献】古島 圭智, 戸田 昭彦, 高速カロリメトリーを用いた高分子結晶の融解挙動の解析, 熱測定Vol.45, no.3 (2018)106-111.
【文献】Yoshitomo Furushima, Akihiko Toda, Christoph Schick, Crystallization, recrystallization, and melting of polymer crystals on heating and cooling examined with fast scanning calorimetry, Polymer Crystallization 1(2018)e10005, 1-10.
【文献】ASTM E1356-03
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、FSCを熱硬化性樹脂の分析に用いた事例は報告されていなかった。その理由として、熱硬化性樹脂では硬化熱量や硬化物のガラス転移温度を調べることが主目的とされることが多く、それらの値は汎用のDSCでも十分に検出できるたことが考えられる。本発明は高速カロリメトリーを用いた熱硬化性樹脂の硬化中のガラス転移温度の変化を測定することを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。つまり、等温、または、非等温、または、それらを組み合わせた高速カロリメトリーを用いた熱硬化性樹脂のガラス転移温度の測定方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明における測定プロファイルを熱硬化性樹脂に適用することで、硬化反応を制御することが可能となり、同一の試料片を用いて反応進行に伴うガラス転移温度の変化をリアルタイムで追跡することが可能となる。
【0010】
本発明では、代表的な熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂について、未硬化の状態の-80℃から硬化温度(当該樹脂では130℃)の間を高速(2000℃/s)で昇降温させるとガラス転移温度が変化しないことが確認できる。これは、加熱冷却を高速で行うことにより硬化の進行が抑制されることを意味する。この現象を応用し、FSC内で熱硬化性樹脂を等温あるいは非等温で熱処理させている途中でガラス転移温度以下まで急冷することで反応進行を止めることができる。この状態から再度高速で昇温させ、FSC曲線からガラス転移温度を読み取ることができる。このガラス転移温度はそれ以前の等温または非等温の熱処理の履歴を受けた試料の硬化状態を反映し、硬化が進行していれば、ガラス転移温度は上昇する。等温あるいは非等温での熱処理、急冷、再昇温の順でサイクル測定を繰り返すことにより、等温あるいは非等温での熱処理時の反応進行に伴うガラス転移温度の変化をリアルタイムで追跡することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】高速の昇温、冷却時にガラス転移温度が変わらないことを確認するためのFSCの測定プロファイルの一例である。
【
図2】エポキシ樹脂の未硬化物に対して、
図1の測定プロファイルでFSC測定を実施した結果である。
【
図3】等温でのガラス転移温度の変化を調べるためのFSCの測定プロファイルの一例である。
【
図4】
図3の測定プロファイルで実施した硬化温度における累計時間の異なるFSC曲線の重ね合わせである。
【
図5】硬化温度における等温時間とガラス転移温度の関係である。
【
図6】非等温でのガラス転移温度の変化を調べるためのFSCの測定プロファイルの一例である。
【
図7】2℃/minで昇温中のガラス転移温度の変化である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、高速カロリメトリーとして、10~10000℃/s間での昇温・冷却が可能なものが好ましい。等温の設定温度として室温~300℃間が好ましく、保持時間としては、材料生産における熱処理プロセスの条件に応じて1s~6時間程の間が好ましい。非等温とは昇温や冷却を意味し、走査速度としては材料生産における熱処理プロセスの条件に応じて1℃/min~3000℃/s間が好ましく例示される。測定雰囲気として、大気流、窒素ガス流、ヘリウムガス流が好ましく、流速としては10mL/min~200mL/minの間が例示される。等温および非等温を組み合わせた条件とは、材料生産における熱処理プロセスの条件に合わせて上述の等温および非等温の条件を交互に繋げることを意味する。
【0013】
分析の対象としては、未硬化または部分硬化した熱硬化性樹脂であり、具体的にはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂が好ましい。なかでも、エポキシ樹脂が好ましい。
【0014】
本発明における試料調製するパートとは、樹脂の硬化条件であり、設定温度・設定時間・走査速度は樹脂の種類に応じて自由に設定できる。例えば、エポキシ樹脂では、設定温度として室温~300℃間、走査速度1℃/min~3000℃/sが好ましく例示される。
【0015】
本発明におけるガラス転移温度の測定パートにおいては、未硬化状態の試料のガラス転移温度よりも-10℃以上低温まで冷却することが好ましい。再昇温時にはFSC曲線にガラス転移の階段状シグナルの全容が捉えられる温度、例えば300℃までが望ましい。再昇温時には冷却する直前の温度よりも高くなってもよく、その場合は、昇温測定後に冷却過程する直前の温度まで急冷する。例えば、エポキシ樹脂では、走査速度500~3000℃/sが好ましく例示される。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により説明する。測定にはMETTLER TOLEDO社製の高速カロリメトリーの装置であるFlash DSC 1を使用した。測定雰囲気として、10mL/minの窒素ガス流で実施した。
【0017】
高速での昇温および冷却時に硬化反応が進行しないことを確認するため、エポキシ樹脂の未硬化物に対して、
図1の測定プロファイルでFSC測定を実施した結果を
図2に示す。本実施例では、硬化温度(Tiso)は130℃とし、ガラス転移温度以下まで冷却される温度として、-80℃を採用した。
図2には昇温時のFSC曲線を示しており、1から20回目の昇降温のサイクルで、FSC曲線の形状は完全に一致しており、非特許文献4の方法で読み取ったガラス転移温度(Tg)も一致する。この結果から、
図1に記載の測定プロファイルで測定を行っても、Tgに変化を生じるほどの反応は進行していないことが確認できる。なお、一連の測定に用いる試料重量は1μg以下が好ましく、試料重量は非特許文献1の1.3.5(39頁~)に記載の方法に従い算出する。試料重量が変動すると熱遅れの影響により測定結果の再現性が低下する場合がある。測定後に試料の直上に標準物質を乗せて融解開始温度の確認および温度補正をすることが好ましい。標準物質としては高純度インジウムが好ましく、融解開始温度としては156.6℃を用い、温度補正は156.6℃から実測の高純度インジウムの融解開始温度(単位は℃)を差し引いた値について、FSC曲線の実測温度に加えて曲線全体を平行移動させる。10℃以上FSC曲線を平行移動する必要がある場合は、測定結果を非採用とし、試料重量を半分以下にして再測定することが好ましい。試料重量や測定の方法については、非特許文献1および非特許文献2を参考にすることが好ましい。
【0018】
図3にはTisoで任意の時間、例えば、5s等温させたFSCの測定プロファイル、
図4には昇温時のFSC曲線を示しており、Tisoでの累計時間(Dt
total)が長いほど、Tgが高温側へ変化していることが確認できる。これは、高温保持により硬化反応が進行したことを意味する。
図5にはTisoを変えて実施したFSC測定より得られるTgとDt
totalの関係を示す。高温ほどTgが短時間で上昇することが確認でき、これは高温ほど硬化が速く進行したことを意味する。
図6には非等温でのTgの変化を調べるためのFSCの測定プロファイルを示しており、
図7には2℃/minで昇温中のTgの変化を示す。材料生産における熱処理プロセスの条件に合うように
図3と
図6の測定プロファイルを組合せることにより、等温および非等温での熱処理中のガラス転移温度変化を調べることが可能となる。