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特許7141618非水電解液系二次電池用負極および非水電解液系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】非水電解液系二次電池用負極および非水電解液系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20220915BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220915BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M10/0566
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018159322
(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公開番号】P2020035571
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(72)【発明者】
【氏名】坂口 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】薄井 洋行
(72)【発明者】
【氏名】小廣 和哉
(72)【発明者】
【氏名】大谷 政孝
(72)【発明者】
【氏名】久武 由典
(72)【発明者】
【氏名】岡添 智宏
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-096016(JP,A)
【文献】Gregory S. Hutchings et al.,Stnthesis and Electrochemistry of Nanocrystalline M-TiO2(M=Mn, Fe, Co, Ni, Cu) Anatase,Journal of Electrochemical Society,2013年01月23日,Vol. 160, No. 3,A511-A515
【文献】Morihiro Saito et al.,Improvement of tap density of TiO2(B) powder as high potential negative electrode for lithium ion batteries,Journal of Power Sources,2013年05月08日,Vol.244,p.50-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンナノ粒子からなる一次粒子が凝集してなる多孔質で球状の酸化チタン二次粒子であって、ドーパント元素を含む前記酸化チタン二次粒子を負極活物質として含み、
前記負極活物質の結晶構造がアナターゼ型であり、
前記ドーパント元素がNb、Ta、Mo、W、Te、Sb、Ru、Ge、Sn、Bi、Al、Hf、Si、Zr、Cr、N、Pd、Pt、Ag、Au、Zn、V、Re、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Y、PおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素である、 非水電解液系二次電池用負極。
【請求項2】
前記ドーパント元素が、Nbである請求項1記載の非水電解液系二次電池用負極。
【請求項3】
前記負極活物質が一般式Ti1-xNb(0<x≦0.2)で表される請求項1または2に記載の非水電解液系二次電池用負極。
【請求項4】
前記酸化チタン二次粒子の平均粒径が50~1000nmである、請求項1~のいずれか1項に記載の非水電解液系二次電池用負極。
【請求項5】
前記一次粒子の平均粒径が、2~40nmである、請求項1~のいずれか1項に記載の非水電解液系二次電池用負極。
【請求項6】
請求項1記載の非水電解液系二次電池用負極を含む非水電解液系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液系二次電池用負極およびそれを用いた非水電解液系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な非水電解液系二次電池であるリチウムイオン二次電池は高電圧、高容量を有することから、携帯電話やノートパソコン等の小型電子機器だけでなく、電気自動車やハイブリッド自動車等の自動車用電源や電力貯蔵用の分散電源として広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、その正極にリチウム含有遷移金属複合酸化物を用い、電解質塩にも種々のリチウム塩を用いている。しかし、リチウムはその産地が偏在する稀少金属元素であり、リチウムに代わる、より安価で入手の容易な材料が求められている。これに対し、同じアルカリ金属元素であるナトリウムを用いたナトリウムイオン二次電池に対する期待が高まっている。
【0004】
ナトリウムイオン二次電池では、正極活物質には、例えばナトリウムイオンの挿入・脱離が可能なナトリウム含有無機化合物が用いられている。一方、負極活物質には、ナトリウム単体を用いた場合、デンドライトの生成により内部短絡が発生し安全確保が困難であるという問題があることから、合金化反応に基づき高い充放電容量を示すSnやPを用いることが検討されている。しかし、SnやPでは充放電時の体積変化が大きくサイクル特性が十分でないという問題がある。これに対し、吸蔵-脱離反応に基づく酸化チタンは、容量はSnやPほどではないもののサイクル特性が比較的優れていることから、ナトリウムイオン二次電池の負極活物質として検討がなされている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】S. Passerini et al., J. Power Sources, 251 (2014), 379-385.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の酸化チタンを用いた負極では容量およびサイクル特性が未だ十分とは言えず、一層の高容量化およびサイクル特性の向上が必要とされている。
【0007】
そこで、本発明は、高容量化およびサイクル特性の向上が可能となる非水電解液系二次電池用負極およびそれを用いた非水電解液系二次電池を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の非水電解液系二次電池用負極は、酸化チタンナノ粒子からなる一次粒子が凝集してなる球状の酸化チタン二次粒子であって、ドーパント元素を含む前記酸化チタン二次粒子を負極活物質として含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の非水電解液系二次電池は、上記の非水電解液系二次電池用負極を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高容量化およびサイクル特性の向上が可能となる非水電解液系二次電池用負極およびそれを用いた非水電解液系二次電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】中実の未ドープ酸化チタン二次粒子のX線回折(XRD)パターンの一例を示す図である。
図2】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量4at%)のXRDパターンの一例を示す図である。
図3】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量7at%)のXRDパターンの一例を示す図である。
図4】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量10at%)のXRDパターンの一例を示す図である。
図5】中空の未ドープ酸化チタン二次粒子のXRDパターンの一例を示す図である。
図6】市販酸化チタンのXRDパターンを示す図である。
図7】中実の未ドープ酸化チタン二次粒子のSEM写真である。
図8】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量4at%)のSEM写真である。
図9】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量7at%)のSEM写真である。
図10】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量10at%)のSEM写真である。
図11】中空の未ドープ酸化チタン二次粒子のSEM写真である。
図12】市販酸化チタンのSEM写真である。
図13】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量4at%)を含む負極を用いたナトリウムイオン二次電池の充放電曲線の一例を示す図である。
図14】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量7at%)を含む負極を用いたナトリウムイオン二次電池の充放電曲線の一例を示す図である。
図15】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子を含む負極を用いたナトリウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量の関係を示す図である。
図16】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量4at%)を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池の充放電曲線の一例を示す図である。
図17】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量7at%)を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池の充放電曲線の一例を示す図である。
図18】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量10at%)を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池の充放電曲線の一例を示す図である。
図19】中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面等を参照して本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の非水電解液系二次電池用負極は、酸化チタンナノ粒子からなる一次粒子が凝集してなる球状の酸化チタン二次粒子であって、ドーパント元素を含む前記酸化チタン二次粒子を負極活物質として含むことを特徴とするものである。
【0014】
(負極)
本発明の負極は、集電体と、該集電体上に形成された負極活物質層とを有する。負極活物質には、酸化チタンナノ粒子からなる一次粒子が凝集してなる球状の酸化チタン二次粒子であって、ドーパント元素を含む前記酸化チタン二次粒子を用いる。
【0015】
本発明に用いる球状の酸化チタン二次粒子とは、酸化チタンナノ粒子からなる一次粒子が分離することなく凝集した、多孔質の酸化チタン粒子である。本発明者の一部は、この球状の酸化チタン二次粒子を、超臨界流体中で合成できることを報告している(例えば、国際公開第2013/061621号)。例えば、超臨界流体として超臨界メタノールを用い、超臨界メタノール中でチタンイソプロポキシドとカルボン酸とを反応させることで合成することができる。
【0016】
本発明に用いる球状の酸化チタン二次粒子は、ドーパント元素を含んでいる。ドーパント元素としては、酸化チタンにドーピング可能であれば特に限定されず、Nb、Ta、Mo、W、Te、Sb、Fe、Ru、Ge、Sn、Bi、Al、Hf、Si、Zr、Co、Cr、Ni、N、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、V、Mn、Re、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Y、PおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素を挙げることができる。好ましくは、Ti4+(Shanonの6配位半径:60.5pm)よりも大きなイオン半径を有する元素である、Nb、Ta、Mo、W、Te、Sb、Fe、Ru、Ge、Sn、Bi、Hf、Zr、Co、Cr、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、V、Mn、Re、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、DyまたはYである。より好ましくは、Nb、Ta、W、Fe、Zr、Pt、Cu、Ag、La、CeまたはNd、さらに好ましくはNb、Ta、Fe、Zr、LaまたはCe、さらに好ましくはNbまたはCeである。これらの元素のドープにより、格子定数が増大し、酸化チタン中のリチウムイオンやナトリウムイオンの拡散経路が拡大し、充放電反応の可逆性がさらに向上するものと考えられる。ここで、上記のTi4+よりも大きなイオン半径を有する元素のShanonの6配位半径は、以下の通りである。
Nb5+(64pm)、Ta3+(72pm)、Mo3+(69pm)、W4+(66pm)、Te4+(97pm)、Sb3+(76pm)、Fe3+(64.5pm)、Ru3+(68pm)、Ge2+(73pm)、Sn4+(69pm)、Bi3+(103pm)、Hf4+(71pm)、Zr4+(72pm)、Co3+(61pm)、Cr3+(61.5pm)、Ni2+(69pm)、Pd2+(86pm)、Pt2+(80pm)、Cu2+(73pm)、Ag(115pm)、Au(137pm)、Zn2+(74pm)、V3+(64pm)、Mn2+(83pm)、Re4+(63pm)、La3+(103pm)、Ce3+(101pm)、Pr3+(99pm)、Nd3+(98.3pm)、Sm3+(95.8pm)、Eu3+(94.7pm)、Gd3+(93.8pm)、Dy3+(91.2pm)、Y3+(90pm)。
【0017】
ドーパント元素の濃度(以下、ドーピング量ともいう)は、酸化チタンの導電性の観点から、0~20at%(原子数パーセント)が好ましい。例えば、ドーパント元素にNbを用いる場合、1~18at%、好ましくは3~11at%、より好ましくは5~10at%である。ここで、ドーパント元素にNbを用いる場合、一般式Ti1-xNb(0<x≦0.2)で表すことができ、このxは上記のat%に対応するものであり、好ましくは0.03≦x≦0.11、より好ましくは0.05≦x≦0.10である。ただし、TiOの結晶構造においてTi4+をNb5+が置換する場合には、電荷補償のためO2-が過剰になるか、Ti4+が欠損するため、それぞれの一般式はTi1-xNb2-x/2もしくはTi1-2xNbとなる。これらの表記は煩雑なため、本発明ではTi1-xNbとして記載する。なお、ドーパント元素の濃度は、エネルギー分散型蛍光X線分析法(XRF)を用いて分析することができる。
【0018】
本発明に用いる球状の酸化チタン二次粒子には、アナターゼ型の結晶構造を有するもの(以下、アナターゼ構造という)を用いることができる。
【0019】
ドーパント元素を含むアナターゼ型酸化チタン二次粒子のa軸方向の格子定数は、リチウムイオンやナトリウムイオンの拡散性の観点から、0.3783~0.3812nm、好ましくは0.3787~0.3808nm、より好ましくは、0.3790~0.3805nmである。また、c軸方向の格子定数は、0.9506~0.9610nm、好ましくは0.9510~0.9606nm、より好ましくは、0.9512~0.9604nmである。なお、格子定数は、XRDパターンから算出することができる。
【0020】
また、ドーパント元素を含む酸化チタン二次粒子の結晶子径は、1~100nm、好ましくは5~50nm、より好ましくは5~16nmである。結晶子径は、アナターゼ型については(101)面の回折ピークの半値幅から算出したものを用いることができる。
【0021】
また、ドーパント元素を含む酸化チタン二次粒子の平均粒径は、50nm~1000nm、好ましくは150nm~550nmである。粒径は、電界放射型走査電子顕微鏡(日本電子製JSM-6701F)により測定することができる。
【0022】
また、ドーパント元素を含む酸化チタン二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径は、2nm~40nm、好ましくは3nm~20nmである。粒径は、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM-2100F)により測定することができる。
【0023】
また、ドーパント元素を含む酸化チタン二次粒子の比表面積は、100~450m/g、好ましくは150~350m/gである。比表面積はBET法による測定することができる。
【0024】
また、ドーパント元素を含む酸化チタン二次粒子は、未ドープの酸化チタン二次粒子の場合と同様に、超臨界流体中で合成することができる。例えば、超臨界流体として超臨界メタノールを用い、超臨界メタノール中でチタンイソプロポキシドとカルボン酸とを反応させ、さらにドーパント源、例えばドーパント元素のアルコキシドあるいは塩を加えて反応させることで合成することができる。ドープ量は、ドーパント源の量を変えることで変化させることができる。
【0025】
負極の作製方法は特に限定されない。例えばスラリー法を用いることができる。この場合、上記の負極活物質に、バインダー、溶媒、必要に応じて炭素材等の導電材を添加して混練して電極スラリーを調製し、それを集電体上に塗布し、その後乾燥することにより負極を作製することができる。電極スラリー中の負極活物質は40重量%以上とすることが好ましい。バインダーには、フッ化ビニリデン重合体やその共重合体等の公知のフッ素含有重合体、ポリアクリル酸およびそのNa塩並びにその共重合体等のアクリル酸系重合体、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体を用いることができる。
【0026】
電極スラリーの調製には、公知のミリング法、例えばボールミリング法やビーズミリング法を用いることができる。
【0027】
以下、本発明の負極活物質を用いた非水電解液系二次電池の製造方法について説明するが、本発明の負極活物質はナトリウムイオン二次電池のみならずリチウムイオン二次電池の負極にも用いることができる。
【0028】
(正極)
正極は、正極活物質、集電体、および電極活物質を集電体に結着させるバインダー、および必要に応じて導電材とから構成される。
【0029】
ナトリウムイオン二次電池の場合、正極活物質は、ナトリウムイオンの挿入・脱離が可能であれば特に限定されないが、ナトリウム含有遷移金属複合酸化物が好ましい。例えば、ナトリウムマンガン複合酸化物、ナトリウム鉄複合酸化物、ナトリウムニッケル複合酸化物、ナトリウムコバルト複合酸化物、ナトリウムマンガンチタン複合酸化物、ナトリウムニッケルチタン複合酸化物、ナトリウムニッケルマンガン複合酸化物、ナトリウム鉄マンガン複合酸化物、等を挙げることができる。また、ナトリウム鉄リン酸化合物、ナトリウムマンガンリン酸化合物、ナトリウムコバルトリン酸化合物等も挙げることができる。
【0030】
リチウムイオン二次電池の場合、正極活物質は、リチウムイオンの挿入・脱離が可能であれば特に限定されないが、リチウム含有遷移金属複合酸化物が好ましい。例えば、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム鉄複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムマンガンチタン複合酸化物、リチウムニッケルチタン複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウム鉄マンガン複合酸化物等を挙げることができる。また、リチウム鉄リン酸化合物、リチウムマンガンリン酸化合物、リチウムコバルトリン酸化合物等も挙げることができる。
【0031】
正極は、例えば、正極活物質と導電剤とバインダーとを溶剤を用いて混練分散して電極スラリーを得、該スラリーを集電体に塗布することによって作製できる。バインダーには、フッ化ビニリデン重合体やその共重合体等の公知のフッ素含有重合体、ポリアクリル酸およびそのNa塩並びにその共重合体等のアクリル酸系重合体、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体を用いることができる。
【0032】
(電解液)
電解液には、電解質を有機溶媒に溶解した非水電解液を用いる。有機溶媒には、環状カーボネート、環状エステルおよび鎖状カーボネートから選択される1種の溶媒または2種以上の混合溶媒を用いることができる。環状カーボネートとしては、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートを挙げることができる。また、環状エステルとしては、γ―ブチロラクトンを挙げることができる。また、鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネートを挙げることができる。
【0033】
ナトリウムイオン二次電池の電解質には、NaPF、NaBF、NaClO、NaAsF、NaCFSO、Na(CFSON、Na(CSON、およびNa(CFSOC等から選択される1種以上の電解質を用いることができる。電解液の塩濃度は、0.5~3mol/Lが好適である。また、非水電解液に代えて、その非水電解液を含有する高分子ゲル電解質や、ナトリウムイオン導電性を有する高分子固体電解質に上記の電解質を含有させた高分子固体電解質を用いることもできる。
【0034】
また、リチウムイオン二次電池の電解質には、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF6、LiCFSO、LiCFCOO、LiN(CFSO等から選択される1種以上の電解質を用いることができる。電解液の塩濃度は、0.5~3mol/Lが好適である。また、非水電解液に代えて、その非水電解液を含有する高分子ゲル電解質や、ナトリウムイオン導電性を有する高分子固体電解質に上記の電解質を含有させた高分子固体電解質を用いることもできる。
【0035】
また、本発明においては、電解液にフルオロ基を有する飽和環状カーボネートを添加してもよい。サイクル特性を向上させることが可能となる。フルオロ基を有する飽和環状カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等を挙げることができる。フルオロ基を有する飽和環状カーボネートの割合は、電解液の少なくとも1体積%、好ましく5~30体積%である。
【0036】
(セパレータ)
セパレータには、微多孔膜や不織布を用いることができ、組成としてはポリエステル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、エーテル系ポリマー、ガラス繊維等を挙げることができる。
【0037】
(ナトリウムイオン二次電池の製造方法)
本発明の負極を用いてナトリウムイオン二次電池を作製することができる。ナトリウムイオン二次電池は、少なくとも、正極と負極、正極と負極を隔離するセパレータ、電解液、および電池容器で構成される。
【0038】
ナトリウムイオン二次電池の製造は公知の方法を用いて行うことができる。例えば、正極と負極をセパレータを介して積層し、平面状の積層体あるいは巻き取って巻回体とする。その積層体または巻回体を金属製または樹脂製の電池容器に収容し、密封する。密封時に開口部を設けて、電解液を注入してその開口部を封止して二次電池を得る。
【0039】
(リチウムイオン二次電池の製造方法)
リチウムイオン二次電池も、上記のナトリウムイオン二次電池の製造方法と同様の方法で製造することができる。
【実施例
【0040】
合成例1(未ドープの酸化チタン二次粒子の製造)
ギ酸3.35mL(88.8mmol)をメタノール175mLに加え2分間撹拌した。この溶液に、4.97mL(16.8mmol)のチタンプロポキシドを激しく攪拌しながら加えた。この溶液をオートクレーブに移し、密封した。反応温度300℃まで加熱し,さらに300℃に保ったまま約10分間加熱した。その後室温まで放冷した。メタノールを用いて生成物を遠沈管に移し、ボルテックス、超音波照射、遠心分離(6600rpm、15分、20℃)を行い、デカンテーション(上澄み除去操作)により固体と液体を分離した。メタノールを加えてこの操作を3回繰り返した後、固体を30℃で12時間真空乾燥した。これにより、中実で、未ドープの酸化チタン二次粒子が得られた。
【0041】
(分析)
製造した酸化チタン二次粒子のX線回折(XRD)測定は、X線回折装置(リガク製:UltimaIV)を用いて行った。また、ドーピング量の分析はエネルギー分散型蛍光X線分析(XRF)装置(島津製作所製:EDX-720)を用いて行った。また、比表面積測定は、(マイクロトラック・ベル株式会社製:BELSORP-miniII)を用いて行った。また、酸化チタン二次粒子の平均全体粒子径は、走査型電子顕微鏡観察および透過型電子顕微鏡観察により測定した。
【0042】
合成例2(ニオブドープの酸化チタン二次粒子の製造)
ギ酸3.35mL(88.8mmol)をメタノール175mLに加え2分間撹拌した。この溶液に、4.97mL(16.8mmol)のチタンプロポキシドを激しく攪拌しながら加えた。そこに、ニオブエトキシド0.176mL(0.701mmоl)を加え、2分間攪拌した。この溶液をオートクレーブに移し、密封した。反応温度300℃まで加熱し,さらに300℃に保ったまま約10分間加熱した。その後、室温まで放冷した。メタノールを用いて生成物を遠沈管に移し、ボルテックス、超音波照射、遠心分離(6600rpm、15分、20℃)を行い、デカンテーション(上澄み除去操作)により固体と液体を分離した。メタノールを加えてこの操作を3回繰り返した後、固体を30℃で12時間真空乾燥した。これにより、中実で、ニオブドープの酸化チタン二次粒子が得られた。分析の結果、得られた酸化チタン二次粒子の組成は、Ti0.96Nb0.04であった。
【0043】
合成例3(ニオブドープの酸化チタン二次粒子の製造)
仕込み比をTi:Nb=93:7(モル比)とした以外は、合成例2の場合と同様にしてニオブドープの酸化チタン二次粒子を製造した。分析の結果、得られた酸化チタン二次粒子の組成は、Ti0.93Nb0.07であった。
【0044】
合成例4(ニオブドープの酸化チタン二次粒子の製造)
仕込み比をTi:Nb=90:10(モル比)とした以外は、合成例2の場合と同様にしてニオブドープの酸化チタン二次粒子を製造した。分析の結果、得られた酸化チタン二次粒子の組成は、Ti0.90Nb0.10であった。
【0045】
合成例5(未ドープの酸化チタン二次粒子の製造)
ギ酸67μL(1.75mmol)を3.5mLのメタノールに溶かし,その溶液にチタンテトライソプロポキシドを加えて撹拌した。ニオブ(V)エトキシドを加えて撹拌し,この溶液をSUS316製反応管に移し、スウェージロックにより密封した。加熱速度5.4℃/分で反応温度300℃まで加熱し,さらに300℃に保ったまま約10分間加熱した。その後、反応管を氷水に投入して、急冷した。メタノールを用いて生成物を遠沈管に移し、ボルテックス、超音波照射、遠心分離(6600rpm、15分、20℃)を行い、デカンテーション(上澄み除去操作)により固体と液体を分離した。メタノールを加えてこの操作を3回繰り返した後、固体を30℃で12時間真空乾燥した。これにより、中空で、未ドープの酸化チタン二次粒子が得られた。
【0046】
(負極の製造)
負極活物質には、合成例1~5の酸化チタン二次粒子と、市販の酸化チタン(アナターゼ型、富士フイルム和光純薬製)を用いた。
導電助剤にアセチレンブラック(AB)を用い、バインダーにカルボキシメチルセルロース(CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)を用い、以下の重量比で混合した。
負極活物質:AB:CMC:SBR=70:15:10:5
得られた1gの混合物に100℃の純水5mLを加え、15分間ボールミル混合をすることで負極スラリーを調製した。ボールミル混合には、メノウ(密度2.65g/cm)製の容器およびボールを用いた。得られた負極スラリーを厚さ18μmの銅箔に塗布し、120℃で乾燥して負極を得た。負極の活物質層の厚さは約20μm、目付量は1.0~1.2mg/cmとした。なお、比較のため、ジルコニア(密度5.7g/cm)製の容器およびボールも用いてボールミル混合を行った。
【0047】
(コインセル作製)
ナトリウムイオン二次電池の場合、上記の負極と、対極として金属ナトリウム箔(厚さ約1mm)、セパレータとしてガラス繊維フィルタ(ワットマン製GF/A、透気度4.3s/100mL)を用い、電解液を注入して、2032型コインセルを作製した。電解液には、1M ナトリウム-ビス(フルオロスルホニル)アミド(以下、NaFSAと略す)/プロピレンカーボネート(以下、PCと略す)を用いた。以下、製造したナトリウムイオン二次電池コインセルをNIBコインセルという。
【0048】
また、リチウムイオン二次電池の場合、上記の負極と、対極として金属リチウム箔(厚さ約1mm)、セパレータとしてガラス繊維フィルタ(ワットマン製GF/A、透気度4.3s/100mL)を用い、電解液を注入して、2032型コインセルを作製した。電解液には、1M リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(以下、LiTFSAと略す)/PCを用いた。以下、製造したリチウムイオン二次電池コインセルをLIBコインセルという。
【0049】
上記のコインセル作製は、すべて、露点-100℃以下、酸素濃度1ppm以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス中で行った。
【0050】
(充放電測定)
ナトリウムイオン二次電池(以下、NIBと略す)の場合、室温で、電位範囲0.005~3.000V(vs.Na/Na+)、電流密度50mA/g(0.15C)で行った。
【0051】
リチウムイオン二次電池(以下、LIBと略す)の場合、室温で、電位範囲1.000~3.000V(vs.Li/Li+)、電流密度335mA/g(1C)で行った。
【0052】
(結果)
図1は、中実の未ドープ酸化チタン二次粒子のXRDパターンの一例を示す図である。また、図2は中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量4at%)のXRDパターンの一例を示す図である。また、図3は中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量7at%)のXRDパターンの一例を示す図である。また、図4は中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量10at%)のXRDパターンの一例を示す図である。また、図5は中空の未ドープ酸化チタン二次粒子のXRDパターンの一例を示す図である。また、図6は市販酸化チタンのXRDパターンを示す図である。出現した回折ピークはすべてアナターゼ相の標準回折ピークと一致し、アナターゼ型の結晶構造を有することを確認した。また、表1に、ニオブドープ量、平均全体粒子径、結晶子径、比表面積の値を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
図7は、中実の未ドープ酸化チタン二次粒子のSEM写真である。また、図8は中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量4at%)のSEM写真である。また、図9は中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量7at%)のSEM写真である。また、図10は中実のニオブドープ酸化チタン二次粒子(ドープ量10at%)のSEM写真である。また、図11は中空の未ドープ酸化チタン二次粒子のSEM写真である。また、図12は市販酸化チタンのSEM写真である。合成例1~5の酸化チタン二次粒子は、いずれも球状の外観形状を有していた。一方、市販酸化チタンの二次粒子の形状は不定形であった。
【0055】
図13は、負極活物質に合成例2の酸化チタン二次粒子を用いたNIBの3サイクル目までの充放電曲線を示す。また、図14は、負極活物質に合成例3の酸化チタン二次粒子を用いたNIBの3サイクル目までの充放電曲線を示す。充電側1.2V以下、および放電側0.7V~1.7Vにかけて、Naの挿入-脱離に起因する電位の傾きを確認した。図15に、NIBにおける、サイクル数と放電容量の関係を示す。合成例1~5の酸化チタン二次粒子を用いたNIBは、市販酸化チタン粒子を用いたNIBに比べ、サイクルを繰り返しても高い容量を維持しており、優れたサイクル特性を有していた。さらに、合成例1の未ドープ酸化チタン二次粒子を用いたNIBに比べて、ニオブをドープした合成例2,3の酸化チタン二次粒子を用いたNIBは優れサイクル特性を有しており、ニオブのドープ量が7at%である合成例3が最も優れたサイクル特性を有していた。また、合成例3では、250mAh/gという非常に高い初回放電容量が得られた。また、中実の酸化チタン二次粒子(合成例1)を用いたNIBは、中空の酸化チタン二次粒子(合成例5)を用いたNIBに比べサイクル特性が優れていた。
【0056】
図15は、負極活物質に合成例2の酸化チタン二次粒子を用いたLIBの3サイクル目までの充放電曲線を示す。また、図17は、負極活物質に合成例3の酸化チタン二次粒子を用いたLIBの3サイクル目までの充放電曲線を示す。また、図18は、負極活物質に合成例4の酸化チタン二次粒子を用いたLIBの1サイクル~3サイクルの充放電曲線を示す。充電側1.7Vと放電側1.9Vにおいて、Liの挿入-脱離に起因する電位のプラトーを確認した。図19に、LIBにおけるサイクル数と放電容量の関係を示す。合成例1~5の酸化チタン二次粒子を用いたLIBは、市販酸化チタン粒子を用いたLIBに比べ、サイクルを繰り返しても高い容量を維持しており、優れたサイクル特性を有していた。さらに、合成例1の未ドープ酸化チタン二次粒子を用いたLIBに比べて、ニオブをドープした合成例2,3,4の酸化チタン二次粒子を用いたLIBは優れたサイクル特性を有していた。また、中実の酸化チタン二次粒子(合成例1)を用いたLIBは、中空の酸化チタン二次粒子(合成例5)を用いたLIBに比べサイクル特性が優れていた。
【0057】
上記の通り、ニオブをドープした酸化チタン二次粒子を用いたNIBおよびLIBは優れたサイクル特性を有していた。これは、酸化チタンにニオブをドープすることで、Nb5+(Shanonの6配位半径:64pm)がTi4+(60.5pm)のサイトを置換固溶し、結合に関与しない余った電子が伝導電子となることで、酸化チタンの電子伝導性が大幅に向上、活物質の利用率が高まったことによるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の非水電解液系二次電池用負極を用いることで、高容量と優れたサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池を提供することが可能となる。本発明で得られる効果は電気自動車用の電源のみならず再生可能エネルギー向けの定置用蓄電池にも適用でき、いずれも低炭素社会の実現につながるものである。
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