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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】チタン酸アルカリ土類金属結晶積層体
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20220915BHJP
   B01J 23/02 20060101ALI20220915BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20220915BHJP
   B01J 37/10 20060101ALI20220915BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C01G23/00 C
B01J23/02 M
B01J35/02 J
B01J37/10
H01G4/12 270
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019542302
(86)(22)【出願日】2018-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2018034156
(87)【国際公開番号】W WO2019054474
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2017177321
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成29年3月18日 「日本化学会第97春季年会(2017)コラボレーション企画 CREST&さきがけ「超空間制御」合同シンポジウム(JST)要旨集,第15頁」、及び「CREST&さきがけ「超空間制御」合同シンポジウム(JST)~「超空間」が拓く革新的機能と新素材~」(慶應義塾大学 日吉キャンパス)にて発表 (2)平成29年4月6日 「Angewandte Chemie International Edition」に発表 (3)平成29年4月10日 http://www.ist.go.jp/pr/announce/20170410/index.html
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立川 貴士
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-048251(JP,A)
【文献】特開平06-333772(JP,A)
【文献】特開2012-188335(JP,A)
【文献】立川貴士 ほか,チタン酸ストロンチウムメソ結晶光触媒における特異な電荷移動挙動,光化学討論会要旨集,2017年09月04日,1C18,特に[実験]、[結果と考察]、Fig.1
【文献】立川貴士 ほか,チタン酸ストロンチウムメソ結晶の合成と水分解光触媒への応用,第36回 光がかかわる触媒化学シンポジウム 要旨集,2017年06月30日,第23-24頁,特に[実験]、[結果および考察]、図1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
B01J 23/02
B01J 35/02
B01J 37/10
H01G 4/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸アルカリ土類金属の結晶を構成単位とする結晶積層体であって、前記構成単位となる結晶が立方晶、正方晶又は直方晶であり、前記構成単位となる結晶の1次粒子径が500nm以下であり、かつ前記結晶が、その{100}面方向に配向して積層されており、前記結晶積層体の平均幅が1μm以上であり、前記結晶積層体の平均厚みが50nm以上であり、平均幅の平均厚みに対する比(平均幅/平均厚み)は10~100であり、前記結晶積層体表面に存在する結晶の1次粒子径が、前記結晶積層体内部に存在する結晶の1次粒子径よりも2~20倍大きいことを特徴とする結晶積層体。
【請求項2】
前記結晶積層体の比表面積が10m2/g以上である、請求項に記載の結晶積層体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の結晶積層体の表面上に、チタン酸アルカリ土類金属結晶ナノ粒子を有する構造体であって、前記ナノ粒子の結晶配向が、前記結晶積層体と同一方向に配向しており、前記ナノ粒子の1次粒子径が、前記結晶積層体表面に存在する結晶の1次粒子径の2倍以上であり、前記結晶積層体の表面上のチタン酸アルカリ土類金属結晶ナノ粒子の割合が、表面の被覆率で2割~8割であることを特徴とする構造体。
【請求項4】
前記結晶積層体の表面上のチタン酸アルカリ土類金属結晶ナノ粒子の割合が、表面の被覆率で4割~6割である、請求項3記載の構造体。
【請求項5】
前記ナノ粒子の1次粒子径が、50nm以上である、請求項3又は4記載の構造体。
【請求項6】
チタン酸アルカリ土類金属の結晶積層体構造体の製造方法であって、
(1)酸化チタンナノ粒子が規則的に積層された酸化チタンメソ結晶と、アルカリ土類金属原子源とを、反応時間が3時間以上であり、かつ、反応温度が100℃以上300℃以下であり、かつ、水の量は、前記酸化チタンメソ結晶と前記アルカリ土類金属原子源との合計のモル数に対して、モル比で、5以上1000以下である条件下で水熱反応に供することにより、請求項1記載の結晶積層体を生成させる第一工程(ここで、第一工程で用いられる酸化チタンメソ結晶の平均幅の平均厚みに対する比(平均幅/平均厚み)が、5~50であり、かつ、前記酸化チタンメソ結晶の細孔径が5nm~15nmである。)と、
(2)さらに、結晶積層体の表面上にチタン酸アルカリ土類金属結晶ナノ粒子を成長させるために、第一工程で生成された結晶積層体を、第一工程での反応時間を含む全反応時間が24時間以上であり、かつ、反応温度が100℃以上300℃以下である条件下で水熱反応に継続して供することにより、請求項3記載の構造体を生成させる第二工程と
を含むことを特徴とする、前記結晶積層体構造体の製造方法。
【請求項7】
第一工程において水熱反応に用いられる水の量が、前記モル比で50以上200以下である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
第一工程での反応時間が5時間以上であり、かつ、第二工程における第一工程での反応時間を含む全反応時間が36時間以上であることを特徴とする請求項6又は7記載の製造方法。
【請求項9】
第二工程における第一工程での反応時間を含む全反応時間が240時間以下であることを特徴とする請求項6~8のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸アルカリ土類金属結晶積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等のチタン酸アルカリ土類金属は、光触媒活性や高誘電性を有し、光水分解、セラミックコンデンサ、圧電素子等に用いられる。しかしながら、チタン酸金属類のナノ粒子は、無秩序に凝集しやすく、そのために生じる表面積の低下、界面の不整合等により、光触媒活性、光エネルギー変換効率が低下するという問題がある。
【0003】
この問題を解決するための手段として、金属酸化物ナノ粒子に関しては、金属酸化物ナノ粒子が自己組織化した超構造体である金属酸化物メソ結晶とする手段が報告された(非特許文献1、2)。さらに、本発明者らは、酸化チタンに代表される金属酸化物のメソ結晶を簡便に得るべく検討したところ、金属酸化物前駆体、アンモニア塩及び水、又は金属酸化物前駆体、アンモニア塩、界面活性剤及び水を含む水溶液を用いて焼成することにより、サイズ及び比表面積の大きな金属酸化物メソ結晶が得られることを見出した(特許文献1、2)。また2種類以上の金属種を含む複合酸化物のメソ結晶も得ることができることを見出した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/115213号
【文献】国際公開第2014/119117号
【非特許文献】
【0005】
【文献】R.-Q. Song et al., Adv. Mater. 22, 1301-1330(2010)
【文献】L. Zhou et al., J. Phys. Chem. Lett. 3, 620-628(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のメソ結晶製造技術は、主として単一の金属種についての金属酸化物メソ結晶の製造に関するものであり、チタン酸アルカリ土類金属のような2種類以上の金属種を含む酸化物(以下、複合酸化物)に適用した場合、固溶体を形成することがあり、組成の制御が困難であった。また得られた複合酸化物は、結晶のサイズと比表面積は大きくなるが、触媒反応、特に光触媒反応に適した結晶系および電子構造を有しておらず、その触媒活性は未だ十分満足できるものではなかった。
【0007】
従って、本発明の課題は、触媒活性の向上したチタン酸アルカリ土類金属の新しい形態の結晶積層体及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、チタン酸アルカリ土類金属ナノ粒子を制御された方向に成長した結晶積層体を得るべく検討した結果、まず、前記特許文献1及び2の方法により酸化チタンメソ結晶を得た後、次にこの結晶にアルカリ土類金属源を添加して水熱反応させれば、酸化チタンメソ結晶をテンプレートとしてチタン酸アルカリ土類金属結晶がエピタキシャルに成長し、結晶が{100}面方向に配向した結晶積層体、及び当該結晶積層体の表面にチタン酸アルカリ土類金属ナノ粒子を有する構造体が得られた。そして当該結晶積層体及び構造体による光水分解反応活性が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔9〕を提供するものである。
〔1〕チタン酸アルカリ土類金属の結晶を構成単位とする結晶積層体であって、
前記構成単位となる結晶が立方晶、正方晶又は直方晶であり、
前記構成単位となる結晶の1次粒子径が500nm以下であり、
かつ前記結晶が、その{100}面方向に配向して積層されている
ことを特徴とする結晶積層体。
〔2〕前記結晶積層体の平均幅が、1μm以上である、〔1〕に記載の結晶積層体。
〔3〕前記結晶積層体の平均厚みが、50nm以上である、〔1〕又は〔2〕に記載の結晶積層体。
〔4〕前記結晶積層体表面に存在する結晶の1次粒子径が、前記結晶積層体内部に存在する結晶の1次粒子径よりも大きいことを特徴とする、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の結晶積層体。
〔5〕前記結晶積層体の比表面積が10m2/g以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の結晶積層体。
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の結晶積層体の表面上に、チタン酸アルカリ土類金属結晶ナノ粒子を有する構造体であって、
前記ナノ粒子の結晶配向が、前記結晶積層体と同一方向に配向していることを特徴とする構造体。
〔7〕前記ナノ粒子の1次粒子径が、前記結晶積層体表面に存在する結晶の1次粒子径の2倍以上である、〔6〕に記載の構造体。
〔8〕前記ナノ粒子の1次粒子径が、50nm以上である、〔6〕又は〔7〕に記載の構造体。
〔9〕チタン酸アルカリ土類金属の結晶積層体の製造方法であって、
酸化チタンナノ粒子が規則的に積層された酸化チタンメソ結晶と、アルカリ土類金属原子源とを水熱反応に供することを特徴とする、結晶積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の結晶積層体及び構造体は、チタン酸アルカリ土類金属ナノ粒子に比べて触媒活性が飛躍的に向上しており、光水分解反応、光水素生成反応の触媒として有用である。また、本発明の結晶積層体及び構造体は、酸化チタンメソ結晶をテンプレートとして容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】チタン酸アルカリ土類金属メソ結晶の生成及び成長過程を示す図である。
図2】酸化チタンメソ結晶(TMC)、SMC-12、SMC-24、SMC-36、SMC-48、SMC-60、チタン酸ストロンチウムナノ結晶(Nano)、TiO2及びSrTiO3のXRDパターンを示す。
図3】TMC、SMC-12、SMC-24、SMC-36、SMC-48及びSMC-60のTEM像を示す。
図4】TMC、SMC-12、SMC-24、SMC-36、SMC-48、SMC-60及びNanoの比表面積測定結果を示す。
図5】実施例2のメソ結晶(SMC-48)におけるナノ結晶のHRTEM像を示す。
図6】TMC及びチタン酸ストロンチウムメソ結晶(SMC-12、SMC-24、SMC-36、SMC-48、SMC-60)の平均厚みを示す。
図7】実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶(SMC-48)のSEM像(a)及び結晶サイズの分布(b)を示す。
図8】実施例2のチタン酸ストロンチウム(SMC-48)のEDX像を示す。
図9】実施例2のチタン酸ストロンチウム(SMC-48)の定常状態拡散反射スペクトルを示す。
図10】実施例1~5のチタン酸ストロンチウムメソ結晶の光触媒活性を示す。
図11】実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶を用いた水光分解反応による水素発生量を示す。
図12】実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶を用いた光水素生成における外部量子効率の励起波長依存性を示す。
図13】実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶又は比較例1(Nano)の結晶を用いた光水分解反応における水素と酸素の発生比率を示す。
図14】実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶を用いた光水分解反応を連続して行った場合の活性を示す。
図15】実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶の時間分解反射分光測定結果を示す。
図16】実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶の捕捉電子の寿命を示す。
図17】実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶の単一粒子発光イメージングを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の結晶積層体は、チタン酸アルカリ土類金属の結晶を構成単位とする結晶積層体である。
【0013】
チタン酸アルカリ土類金属としては、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ラジウムが挙げられるが、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウムがより好ましく、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムがさらに好ましく、チタン酸ストロンチウムがさらに好ましい。前記のチタン酸アルカリ土類金属は1種類でも2種類以上を含んでいてもよいが、1種類であることが好ましい。1種類のものの方が、光触媒としての活性向上が見込めるためである。また1種類のものの方が、2種類以上のものに比べ固溶体が生成しにくいためである。
【0014】
本発明の結晶積層体中のチタン酸アルカリ土類金属結晶は、立方晶系、正方晶系又は直方晶系の単位格子を持つ。具体的にはSrTiO3は、通常立方晶であり、BaTiO3は、通常正方晶であり、CaTiO3は、通常直方晶系である。好ましくはSrTiO3、BaTiO3等のようにペロブスカイト構造を有する。このペロブスカイト構造は、チタン酸アルカリ土類金属結晶が、酸化チタンメソ結晶をテンプレートとしたエピタキシャル成長によって形成される(図1)。
具体的には、酸化チタンメソ結晶の{001}面を結晶の成長点とし、酸化チタンメソ結晶中の空間に、アルカリ土類金属原子が入り込み、ぺロブスカイト構造を形成し、本発明のチタン酸アルカリ土類金属の結晶積層体となる。換言すると、生じた結晶積層体は、「チタン酸アルカリ土類金属のメソ結晶」ということができる。
ここで「メソ結晶」とは、いわゆるメソサイズの粒子径を有する結晶粒子が、一定の秩序を有して形成される超構造体をいう。ここでメソサイズとは、通常、10nm以上、好ましくは100nm以上、通常1000μm以下、好ましくは10μm以下程度の大きさをいう。超構造体とは、通常、粒子又は結晶が、規則的に配列した構造をいう。
そして前記メソ結晶は、通常、粒子又は結晶が、3次元的に高い規則性をもって配列しているものであり、その点でナノ粒子の無秩序な凝集体とは異なる。具体的には走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像から規則性のある配列が観察できることや、透過型電子顕微鏡(TEM)の測定結果の解析から規則的に配列していること、具体的には均一な格子縞が観察できる等により、その構造が確認できるものである。
本発明の結晶積層体は、チタン酸アルカリ土類金属の結晶が、後述する規則性をもって配向し、積層した構造を有している。
なお上記の結晶系は、特に限定はされないが、通常は、各チタン酸アルカリ土類金属の結晶が安定な状態での結晶系をいう。
【0015】
本発明の結晶積層体の構成単位であるチタン酸アルカリ土類金属結晶の1次粒子径は、特に限定はされないが、通常5nm以上であり、好ましくは10nm以上であり、より好ましくは20nm以上であり、更に好ましくは30nm以上であり、通常500nm以下であり、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは100nm以下である。前記範囲内であることにより、適切なバンドギャップとなり、光吸収量が大きくなるためであり、好ましくは光触媒として利用する際に、量子閉じ込め効果による紫外光の吸収効率の低下を防ぐことができるためである。従って、本発明の結晶積層体のチタン酸アルカリ土類金属結晶の1次粒子は、ナノ粒子である。
【0016】
本発明における結晶の1次粒子径は例えば、粉末X線回折(シェラーの式を用いて)により測定することができる。また1次粒子径はTEM等の顕微鏡にて測定することができる。測定方法は特に限定されないが、通常、1次粒子径は、粉末X線回折において、シェラーの式を用いて求められる平均粒子径を用いる。この平均粒子径を、「平均1次粒子径」ということができる。
【0017】
また、本発明の結晶積層体において、チタン酸アルカリ土類金属結晶は、{100}面方向に配向して積層されている。すなわち、チタン酸アルカリ土類金属結晶の1次粒子が{100}面方向に配向した層が、複数積層された形態を有している(図1)。このような{100}面を結晶面として有することにより、光触媒活性等を向上させることができる。
【0018】
本発明の結晶積層体においては、前記結晶積層体表面に存在する結晶(以下、表面結晶という)の1次粒子径は、結晶積層体内部に存在する結晶(以下、内部結晶という)の1次粒子径よりも大きいことが好ましい。前記内部結晶の1次粒子径は5nm~100nmが好ましく、10nm~80nmがより好ましく、10nm~50nmがさらに好ましい。前記範囲内であることにより、適切なバンドギャップをとることができ、光触媒に用いた際には光の吸収量が大きくなるためである。一方、前記表面結晶の1次粒子径は30nm~500nmが好ましく、40nm~500nmがより好ましく、50nm~500nmがさらに好ましい。なお内部結晶の1次粒子径は、粉末X線回折(XRD)パターン又は電子顕微像の解析により決定される。このように前記表面結晶と前記内部結晶の1次粒子径が相違することにより、前記表面結晶は、複数の前記内部結晶と接触界面を形成することができる。このような前記表面結晶と複数の前記内部結晶との接触界面の形成により、固液界面で伝導帯と価電子帯のバンド屈曲が起こり、前記表面結晶に移動した電子は界面で形成される障壁により、前記内部結晶に戻りにくくなると考えられる。
【0019】
なお前記表面結晶は、本発明の結晶積層体の最表面に存在する結晶である。そして前記表面結晶の1次粒子径は、通常、走査型電子顕微鏡により観測される。具体的には、走査型電子顕微鏡により得られた像(SEM像)を観察し、目視で前記結晶積層体の最表面に存在する粒子のうち、その半分以上の面積が観察できるものを選び、それらの粒子のSEM像から粒子径を求める。
また前記内部結晶の1次粒子径は、前記表面結晶を除外して得られるTEM像、または本発明の結晶積層体を物理的に破壊し前記表面結晶が存在しない部分のSEM像を観察するか、この部分に対し前記したシェラーの式から1次粒子径を求めることができる。前記内部結晶は、通常、前記表面結晶に比べて1次粒子径は均一である。
【0020】
本発明の結晶積層体は、厚みに対して幅が大きい。具体的には、平均幅の平均厚みに対する比(平均幅/平均厚み)は、好ましくは10~100、より好ましくは20~50である。このような平均幅/平均厚みの比の大きさにより、無秩序な凝集が抑制されており、規則的な配列を実現できる。
結晶積層体の平均幅は1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、1μm~10μmがさらに好ましく、2μm~10μmがさらに好ましい。平均厚みは50nm以上が好ましく、50nm~2μmがより好ましく、50nm~1μmがさらに好ましい。
【0021】
なお、本発明の結晶積層体では、平均幅とは、表面が正方形又は長方形である板状結晶と見立てた場合において、見立てた正方形又は長方形の辺の平均値を意味する。また、本発明の結晶積層体の平均厚みとは、板状結晶の場合にはその厚みの平均値、板状でない場合には板状結晶と見立てた場合の厚みの平均値である。これらの幅及び厚みは、例えば、電子顕微鏡観察(SEM等)により測定することができる。
【0022】
本発明の結晶積層体の比表面積は、特に限定はされないが、光触媒活性、光電流の点から通常10m2/g以上であり、10m2/g以上150m2/g以下が好ましく、10m2/g以上50m2/g以下がより好ましく、10m2/g以上30m2/g以下がさらに好ましい。本発明の結晶積層体の比表面積は、BET法等により測定することができる。
【0023】
また、本発明の結晶構造体は、前記結晶積層体の表面上に、チタン酸アルカリ土類金属結晶ナノ粒子を有するものであり、前記チタン酸アルカリ土類金属のメソ結晶の表面上に、チタン酸アルカリ土類金属結晶ナノ粒子を有するものということができる。また前記結晶構造体における当該ナノ粒子の結晶配向が前記結晶積層体と同一方向に配向している構造体であってもよい(図1)。このように、板状の結晶積層体の表面にチタン酸アルカリ土類金属結晶ナノ粒子を有することにより、光触媒活性がさらに向上する。ここで、ナノ粒子の結晶配向が、前記結晶積層体と同一方向に配向しているとは、{100}面方向に配向していることをいう。
【0024】
前記結晶積層体表面上のナノ粒子の1次粒子径は、前記結晶積層体内部に存在する結晶の1次粒子径の2倍以上であるのが、光触媒活性、結晶性等の点で好ましい。その1次粒子径は、前記結晶積層体表面の結晶の2~20倍が好ましく、5~10倍がより好ましい。具体的なナノ粒子の1次粒子径は50nm以上が好ましく、60nm~500nmがより好ましく、80nm~500nmがさらに好ましく、100nm~300nmがさらに好ましい。
【0025】
前記結晶積層体表面上のナノ粒子の割合は、表面の被覆率で2割~8割が好ましく、4割~6割がより好ましい。
【0026】
本発明の結晶積層体及び前記構造体は、例えば、酸化チタンナノ粒子が規則的に積層された酸化チタンメソ結晶と、アルカリ土類金属源とを水熱反応させることにより製造できる。
ここで本発明で用いられる酸化チタンメソ結晶とは、特許文献1又は2に記載される酸化チタンの結晶であり、酸化チタンのナノ粒子が、規則的に配向して積層された超構造体である。具体的には、酸化チタンのナノ粒子が、その{001}面で配向して規則正しく配列、積層された酸化チタンの結晶をいう。
前記の酸化チタンメソ結晶は、特に限定はされないが、その平均幅は、通常10nm以上、好ましくは100nm以上であり、通常10μm以下であり、好ましくは2μm以下である。前記酸化チタンメソ結晶は、その平均幅の平均厚みに対する比が大きく、通常5~50であり、好ましくは10~20である。なお酸化チタンメソ結晶の平均幅及び平均厚みは、前記の本発明の積層体における平均幅及び平均厚みと同じである。
前記酸化チタンメソ結晶の比表面積は、通常10~150m2/gである。
また前記酸化チタンメソ結晶は、その構造中に細孔を有し、その細孔径は、通常5~15nmである。
【0027】
原料である酸化チタンメソ結晶は、特許文献1又は2記載の方法により製造できる。すなわち、(1)TiF4、NH4NO3、NH4F及び水を含み、かつTiF4とNH4NO3との含有比率1:1~9(モル比)である前駆体水溶液を、酸素雰囲気下400~700℃条件下に焼成する工程を備える方法、あるいは(2)酸化チタン前駆体、アンモニア塩、界面活性剤、及び水を含む前駆体水溶液を、300~600℃の条件下に焼成する工程を備える方法により製造することができる。
【0028】
(1)の製造方法においては、まず、前記の前駆体水溶液を、空気雰囲気又は酸素雰囲気下250~700℃の条件下に焼成する工程(第1工程)を行ってもよい。具体的には、前駆体水溶液からなる液層を基板上に形成し、空気雰囲気又は酸素雰囲気下250~700℃の条件下に焼成してもよい。基板としては、例えば、シリコン、各種ガラスが挙げられる。この第1焼成により、NH4TiOF3結晶が得られる。
得られたNH4TiOF3結晶を、酸素雰囲気下400~700℃の条件下に焼成する(本焼成)。この本焼成により、トポタクティック反応を起こさせ、酸化チタンメソ結晶が得られる。この際、上記の空気雰囲気下での焼成と同じ炉で行ってもよいし、異なる炉で行ってもよい。なお、第1焼成において、酸素雰囲気下で400~700℃の条件で焼成した場合には、本焼成を行わずに酸化チタンメソ結晶を得ることも可能である。なお、本発明において、酸素雰囲気とは、100%の酸素ガスもしくは酸素濃度が90%以上の酸素と空気の混合ガス雰囲気が好ましい。
【0029】
(2)の製造方法においては、酸化チタン前駆体(例えばTiF4)、アンモニア塩、界面活性剤、及び水を含む前駆体水溶液を、300~600℃の条件下に焼成すればよい。具体的には、この前駆体水溶液からなる液層を基板上に形成し、300~600℃の条件下に焼成すればよい。
基板としては、シリコン、ガラス等が挙げられる。アンモニア塩としては、NH4NO3、NH4Cl、NH4ClO4、(NH42SO4、(NH42CO3等が挙げられる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレン骨格を有するポリエーテル、例えばポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマーが好ましい。
焼成温度は、300~600℃、さらに400~500℃が好ましい。
【0030】
得られた酸化チタンメソ結晶と、アルカリ土類金属源とを水熱反応に供することにより、本発明の結晶積層体及び構造体が得られる。
ここで水熱反応とは、通常、高温高圧下で、主として水を溶媒とした溶液を用いた反応をいう。具体的には例えば、水溶性の原料を、水に溶解させ水溶液とし、この水溶液を耐圧容器に入れ、自己発生圧下で水の沸点以上の温度で反応させる方法が挙げられる。
【0031】
本発明における製造方法では、目的物に用いられるアルカリ土類金属の金属源(以下、アルカリ土類金属源)を含む水溶液を、前記酸化チタンメソ結晶と共存させ、水熱反応を行なう。
前記アルカリ土類金属源としては、特に限定はされず、水熱反応に通常用いることのできるアルカリ土類金属や、それを含む化合物を用いることができるが、例えば水酸化アルカリ土類金属、アルカリ土類金属塩化物、炭酸アルカリ土類金属、硫酸アルカリ土類金属、硝酸アルカリ土類金属等が挙げられる。具体的には、水酸化ストロンチウム、塩化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム等が挙げられる。
【0032】
用いる酸化チタンメソ結晶とアルカリ土類金属源のモル比は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定はされないが、通常、用いる酸化チタンメソ結晶とアルカリ土類金属イオンの量が、ほぼ同じモル比で用いる。具体的には、アルカリ土類金属イオンが、酸化チタンメソ結晶に対し過剰である方が、結晶中のアルカリ土類金属イオンの空孔が生じにくく、光触媒活性の向上が見込めるため好ましく、アルカリ土類金属イオンと酸化チタンメソ結晶の比では、(アルカリ土類金属):(酸化チタンメソ結晶)(モル比)=1.1:1がより好ましく、1:1が更に好ましい。前記の比率にすることで固溶体の生成を防ぐことができるためである。
【0033】
水熱反応条件は、特に限定はされず、本発明の効果が損なわれない限りにおいて、公知の水熱反応の条件を適宜用いることができる。
水熱反応の際に用いる溶媒は、通常、水を主成分とする溶媒を用い、水熱反応を阻害しない限り、アルコール等の水以外の溶媒を併用することもできる。
水熱合成に用いる水の量は、特に限定はされないが、酸化チタンメソ結晶及びアルカリ土類金属源の合計のモル数に対しモル比で、通常5以上、好ましくは10以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは100以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下である。
【0034】
水熱反応時に併用する水以外の溶媒としては、特に限定されないが、通常は親水性の有機溶媒を使用することができ、例えばメタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類が挙げられる。
上記の溶媒の使用量は、水熱反応を阻害しない限り限定はされないが、通常、水に対して、モル比で7×10-5以上、0.06以下である。
水熱反応時には、酸化チタン結晶表面におけるチタン酸アルカリ土類金属の結晶化を促進する目的で、本発明で用いられるアルカリ土類金属源以外に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物を用いてもよい。このとき用いるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の種類は、本発明で用いられるアルカリ土類金属と同じでも異なっていてもよい。
【0035】
本発明の製造方法においては、前記アルカリ土類金属源を含む水溶液と、酸化チタンメソ結晶を共存させた混合物を、加熱し、水熱反応に供する。
水熱反応は、特に限定はされないが、通常、自己発生圧下、又は本発明の目的物の生成を阻害しない気体加圧下で、通常は、水の沸点以上の温度に加熱し、所定の反応温度で保持することにより行なう。また水熱反応時は攪拌を伴っても、静置して反応を行ってもよい。
水熱反応の反応温度は特に限定はされないが、通常100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上であって、通常300℃以下、好ましくは250℃以下である。
水熱反応は、特に限定されないが、前記の通り、通常、自己発生圧下、又は気体加圧下で行われるため、通常は耐圧容器内で行なう。耐圧容器は特に限定はされないが、通常反応スケール等に応じたオートクレーブ等が用いられる。
【0036】
水熱反応に供する反応時間は、本発明の目的物が得られる範囲においては特に限定はされないが、通常3時間以上、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上である。水熱合成により、まず前記結晶積層体が生成する。引き続き反応させていくと、前記結晶積層体の表面上にチタン酸アルカリ土類金属ナノ粒子が成長し、前記構造体が生成する(図1)。
前記構造体は、通常、通算の反応時間が24時間以上、好ましくは36時間以上、より好ましくは48時間以上反応させることにより生成する。反応時間の上限は、所望の結晶積層体により適宜設定でき、特に限定はされないが、通常240時間以下である。
水熱反応は、前記積層体を生成させてから、前記構造体が生成するまで一貫で行なっても、途中でいったん取り出してもよいが、通常は、一貫して行う。
【0037】
本発明の製造方法は、酸化チタンメソ結晶とアルカリ土類金属源とを用いて水熱反応を行なうことにより、酸化チタンメソ結晶をテンプレートとしてチタン酸アルカリ土類金属結晶がエピタキシャル成長したものが得られる。そして得られた結晶積層体は、その結晶が{100}面方向に配向した結晶積層体が得られるものである(図1)。また、水熱反応の進行により、結晶積層体の表面にチタン酸アルカリ土類金属の結晶が同一方向に配向して生成し、前記構造体が得られる。
前記構造体は、前記積層体の表面に存在する粒子同士が溶出、成長を繰り返すことで形成される。
【0038】
水熱反応終了後、生成した前記積層体又は構造体は、水熱反応に供した混合物から分離する。分離の方法は特に限定されないが、通常、ろ過又はデカンテーション等により分離する。分離後の積層体又は構造体は、適宜公知の方法により、取り出すことができる。通常は、水洗による洗浄や、室温以上の温度で乾燥を経て取り出し、前記積層体又は構造体を得ることができる。
【0039】
本発明のチタン酸アルカリ土類金属の結晶積層体及び構造体は、上記のように、比表面積が大きいとともに、チタン酸アルカリ土類金属結晶を規則的に配列したものであり、且つ、サイズも大きく凝集を抑制できることから、光触媒活性、フォトルミネッセンス特性、光誘起電荷分離特性が高く、導電性も高いものである。また、本発明によれば、非常に簡便な方法でチタン酸アルカリ土類金属の結晶積層体を製造することができるため、大量生産性にも優れる。そのため、環境浄化光触媒、水素発生光触媒、色素増感太陽電池、リチウムイオンバッテリー等、種々様々な用途に適用することが可能であり、環境浄化光触媒、水素発生光触媒に好適である。
【実施例
【0040】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
実施例において用いた分析装置及び分析条件を以下に示す。
【0041】
(粉末X線回折:XRD)
装置 :株式会社リガク社製 Smartlab
測定電圧:40kV
測定電流:200mA
光源 :CuKα
(透過型電子顕微鏡:HRTEM)
装置 :日本電子株式会社製 JEM-ARM200F
加速電圧:200kV
(制限視野電子線回折)(SAED)
装置 :日本電子株式会社製 JEM-ARM200F
(電界放出型電子顕微鏡:FESEM)
装置 :日本電子株式会社製 JSM-6330FT
(EDX)
装置 :日本電子株式会社製 JSM-6330FT
(BET比表面積測定)
窒素吸着法により測定
装置 :ベルジャパン社製 BELSORPmax
条件 :77K
(細孔容積及び細孔直径分布)
BJH法により測定
(定常UV可視拡散反射スペクトル)
装置 :島津製作所製 UV-3600
(水素生成及び光水分解反応)
装置 :島津製作所製 ガスクロマトグラフ GC-8A
カラム :島津ジーエルシー製 Molecular Sieve 5A
光源 :朝日分光株式会社製 POT-365
[分析条件]
光触媒粉末の量 :1mg
溶液の量 :2mL
励起波長 :365nm
励起光強度 :100mW/cm2
【0042】
(合成例1)
(酸化チタンメソ結晶(TiO2)の合成)
SrTiO3メソ結晶を合成する際の原料として、まず酸化チタンメソ結晶を、国際公開第2013/115213号に記載の方法に準拠して合成した。
フッ化アンモニウム(NH4F:和光純薬工業株式会社製)2g、フッ化チタン(TiF4:シグマ・アルドリッチ社製)1.6g、硝酸アンモニウム(NH4NO3:和光純薬工業株式会社製)7gを、28mLの蒸留水に溶解し、無色の混合溶液を得た。この混合溶液をシリコンウェハ上に滴下し、電気炉中で焼成した。焼成は、常温より10℃/分で500℃まで温度上昇させた後、500℃で2時間焼成し、その後、常温になるまで冷却し、白色の粉末を得た。当該粉末を蒸留水で3回洗浄した後、乾燥機にて、80℃で8時間空気乾燥し、酸化チタンメソ結晶(以下、TMCということがある。)を得た。
得られた酸化チタンメソ結晶の粉末X線回折(XRD)パターンを図2に、また透過型電子顕微鏡(TEM)像を図3(a)に示した。
図2の粉末X線回折(XRD)パターンから、酸化チタンメソ結晶はアナターゼ型であることが確認された。
【0043】
図3(a)に示した透過型電子顕微鏡(TEM)像から、酸化チタンメソ結晶は板状の多孔性結晶であり、また、制限視野電子線回折(SAED)パターンから、{001}面に沿った単結晶のアナターゼ型酸化チタンであることが確認された。
【0044】
(実施例1)
(チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)メソ結晶の合成)
合成例1で得た前記酸化チタンメソ結晶1gを、10mLのエタノールに懸濁させた。20mLの蒸留水に、水酸化ストロンチウム八水和物(Sr(OH)2・8H2O:和光純薬工業株式会社製)3.3gを加えた溶液に、撹拌をしながら前記酸化チタンメソ結晶の懸濁液を徐々に注いだ。次に攪拌を継続しながら、5M 水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液10mL、ポリエチレングリコール(質量平均分子量Mw 400、0.8質量% in water:和光純薬工業株式会社製)水溶液10mL、水10mLを、順に上記の懸濁液に加えた。得られた懸濁液を100mLのテフロン(登録商標)製容器に入れ、アルゴンガスを溶液中に約30分吹き込み、密封した。当該容器をステンレス製の耐圧容器に入れ、電気炉中で加熱し、水熱反応を行った。水熱反応は、常温より1℃/分で200℃まで昇温した後、引き続き200℃で24時間反応させた。反応終了後、常温まで冷却した後、テフロン(登録商標)製容器内の生成物を収集した。当該生成物を蒸留水で数回洗浄した後、乾燥機にて、80℃で8時間空気乾燥し、粉末状物質を得た。得られた粉末状物質を、以下、SMC-24という。
前記SMC-24のXRDパターンを図1に、またTEM像を図3(c)に示した。
【0045】
(実施例2)
実施例1において、200℃での反応時間(水熱反応時間)を48時間にした以外は、実施例1と同様に合成を行ない、粉末状物質(以下、SMC-48)を得た。
前記SMC-48のXRDパターンを図1に、またTEM像を図3(e)に示した。
【0046】
(実施例3)
実施例1において、200℃での反応時間を12時間にした以外は、実施例1と同様に合成を行ない、粉末状物質(以下、SMC-12)を得た。
前記SMC-12のXRDパターンを図1に、またTEM像を図3(b)に示した。
【0047】
(実施例4)
実施例1において、200℃での反応時間を36時間にした以外は、実施例1と同様に合成を行ない、粉末状物質(以下、SMC-36)を得た。
前記SMC-36のXRDパターンを図1に、またTEM像を図3(d)に示した。
【0048】
(実施例5)
実施例1において、200℃での反応時間を60時間にした以外は、実施例1と同様に合成を行ない、粉末状物質(以下、SMC-60)を得た。
前記SMC-60のXRDパターンを図1に、またTEM像を図3(f)に示した。
【0049】
(比較例1)
チタン酸ストロンチウムナノ結晶(粒子径20~40nm、シグマ・アルドリッチ社製:以下、Nanoという)を、実施例同様にXRDを測定し、結果を図2に示した。
【0050】
<評価>
試験例1:比表面積
合成例1、実施例1~5及び比較例1の結晶の比表面積を前記したBET法により測定した。結果を図4及び表1に示した。
【0051】
【表1】
【0052】
試験例2:細孔径及び細孔容積
合成例1、実施例1~5及び比較例1の結晶の細孔径及び細孔容積をBJH法により測定した。結果を図4の挿入図及び表1に示す。
【0053】
試験例3:X線回折
実施例1~5及び比較例1の結晶の特性を粉末XRDにより測定した。また、合成例1、実施例1~5及び比較例1の結晶について、XRDピークの線幅から、シェラーの式を用いて、各結晶を構成するチタン酸ストロンチウム及び酸化チタンナノ結晶の粒子径を評価した。結果を図2及び表1に示す。
【0054】
試験例4:電子顕微鏡観察
実施例1~5及び比較例1のチタン酸ストロンチウムメソ結晶の構造をTEMにより観察した。結果を図3b~fに示す。いずれもチタン酸ストロンチウムナノ結晶が規則的に並んでいた。また、数nmから数十nmの細孔が生じていた。メソ結晶上のSAEDパターンから、{100}面に沿った立方晶結晶が確認された。
【0055】
図5に、実施例2のメソ結晶におけるナノ結晶の高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)像を示す。単結晶格子が0.276nm程度の格子間隔を有する(110)結晶面の原子面を示したことから、本発明のチタン酸ストロンチウムメソ結晶では、構成するほぼすべてのナノ結晶が{100}面を表面に露出した状態で規則的に並んでいることが確認された。また、表面には多数の欠陥や孔が形成されていた(図5)。
【0056】
走査型電子顕微鏡(SEM)像の解析から、実施例1のチタン酸ストロンチウムメソ結晶の平均厚みは、約250nmであり、200~300nmの範囲で分布していた(図6)。実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶の平均厚みは約300nmであった。実施例3~5、比較例1との比較から、水熱反応の時間によりメソ結晶の平均厚みが増加していることが確認された。
【0057】
実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶のSEM像を図7aに示す。メソ結晶内部のナノ結晶の1次粒子径が30~60nmであるのに対し、表面及び表面近傍の結晶の1次粒子径は数百ナノメートル、具体的には50nm~500nmに成長していることが確認された(図7b)。
【0058】
試験例5:元素分析
エネルギー分散型X線分析(EDX)により、実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶の元素分析を行った(図8)。その結果、チタン酸ストロンチウムメソ結晶の構成元素以外の元素は検出されなかった。
【0059】
試験例6:光吸収特性
定常状態拡散反射スペクトルから、実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶のバンドギャップは約3.2eVと算出された。比較例1のチタン酸ストロンチウムナノ結晶のバンドギャップと同程度であるので、このことからも、実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶には不純物が混入していないことが示唆されている。
【0060】
試験例7:光水素生成
正孔捕捉剤であるメタノールの存在下、紫外光照射下における光水素生成量を測定した。
【0061】
1mgの実施例1~5及び比較例1の結晶を、それぞれ、メタノールを20質量%含む蒸留水もしくは5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液2mLに加え、各分散液を石英キュベット中に移した。石英キュベットを10分間振とうした後、アルゴンガスを分散液中に20分吹き込み、ゴム栓で密封した。光水素生成反応を、室温で紫外光を照射して開始させた。反応中は分散液を攪拌した。1時間毎に石英キュベットの上部空間の気体をシリンジによって0.1mL抽出し、ガスクロマトグラフィによって定量分析した。
【0062】
結果を図10に示す。実施例1~5のチタン酸ストロンチウムメソ結晶において、比較例1のチタン酸ストロンチウムナノ結晶よりも優れた光触媒活性が観測された。なかでも、48時間の水熱反応時間で合成した実施例2が、最も優れた光触媒活性を示した。溶媒には、メタノールを20質量%含む蒸留水を用いた。
【0063】
図11に示したように、実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶をメノウ乳鉢を用いて粉砕することで水素生成量が著しく減少したことから、光触媒作用におけるメソ結晶構造の重要性が確認された。溶媒には、メタノールを20質量%含む5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いた。
【0064】
キセノン光源(HAL-320W:朝日分光株式会社製)からの光をスペクトル幅10nmのバンドパスフィルター(Thorlabs社製)で単色化し、分散液に照射することで、光水素生成における外部量子効率(EQE)の励起波長依存性を調べた。実施例2及び比較例1について得られた結果を図12に示す。EQEの励起波長依存性は結晶の拡散反射スペクトルとほぼ一致したことから、チタン酸ストロンチウムの光触媒作用によって水素が生成したことが確認された。
【0065】
試験例8:水の光分解
水素生成助触媒であるロジウム-クロム複合酸化物を担持し、紫外光照射下における水の光分解によって生じる水素及び酸素の生成を測定した。光エネルギー変換効率は入射した光子の数に対して反応に利用された光子の割合と定義した。
【0066】
0.3gの実施例2及び比較例1の結晶を、それぞれ塩化ロジウムナトリウム(Na3RhCl6:シグマ・アルドリッチ社製)及び硝酸クロム九水和物(Cr(NO3)3・9H2O:和光純薬工業社製)を含む蒸留水3mLに加えた。その分散液をガラス容器に入れ、ホットプレート上で加熱、攪拌しながら溶媒を完全に蒸発させた。得られた残留固形物を、電気炉を用いて空気中、350℃で1時間焼結することで、ロジウム-クロム複合酸化物をそれぞれの結晶表面に担持させた。担持量は、触媒担体に対し1質量%とした。
【0067】
ロジウム-クロム複合酸化物を担持した実施例2及び比較例1の結晶1mgを、それぞれ、蒸留水2mLに加え、各分散液を石英キュベット中に移した。石英キュベットを10分間振とうした後、アルゴンガスを分散液中に20分吹き込み、ゴム栓で密封した。水の光分解反応を、室温で紫外光を照射して開始させた。反応中は分散液を攪拌した。1時間毎に石英キュベットの上部空間の気体をシリンジによって0.1mL抽出し、ガスクロマトグラフィによって定量分析した。
【0068】
結果を図13に示す。実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶は、紫外光照射下、約7%の光エネルギー変換効率で水分解反応が進行した。生成した水素及び酸素の物質量は2対1であったことから、化学量論的に水分解反応が起こったことが確認された。メソ結晶化していない比較例1のチタン酸ストロンチウムナノ結晶について実験を行った場合、効率は1%に満たなかったことから、メソ結晶化により反応効率が1桁向上したことになる。
【0069】
図14に示されるように、実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶について、5時間の光水分解反応を5回続けて行った場合でも反応効率に変化がみられなかったことから、メソ結晶光触媒の高い安定性が確認された。
【0070】
試験例9:時間分解拡散反射分光測定
電荷分離状態の寿命を評価するため、時間分解反射分光測定を行った。この測定は、光触媒反応の効率の評価基準である。
【0071】
時間分解拡散反射スペクトルはポンプ-プローブ法によって測定した。チタンサファイア再生増幅器(Spitfire:Spectra-Physics製)により得られたパルス光を2つに分け、一方をポンプ光、もう一方をプローブ光に変換した。ポンプ光には、光パラメトリック増幅器(OPA-800CF-1:Spectra-Physics製)により得られた330nmの紫外光(5μJ/パルス)を用いた。プローブ光には、サファイア結晶を用いて発生させた広帯域白色光を用いた。試料粉末によって散乱されたプローブ光は、ポリクロメーター(MS3504:Solar製)によって分光した後、InGaAsアレイ検出器によって検出した。実験は全て室温で行った。
【0072】
図15に示されるように、実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶において、近赤外領域の広い波長範囲で過渡吸収が確認された。この過渡吸収は、主として捕捉電子によるものである。
【0073】
図16に示されるように、実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶における捕捉電子は、比較例1のナノ結晶と比べ、著しく長寿命化しており、メソ結晶の高い光触媒活性の要因のひとつとなっている。
【0074】
試験例10:単一粒子発光
光生成した電子と正孔の再結合により、可視光帯にフォトルミネッセンスが観測される。チタン酸ストロンチウムメソ結晶のフォトルミネッセンス特性を評価するため、単一粒子発光イメージングを行った。発光イメージングは、高い空間分解能で表面反応を観測することができる強力な手法である。
【0075】
単一粒子発光イメージは、株式会社ニコンインステック製Ti-E倒立蛍光顕微鏡を用いて行った。試料は、対物レンズ(CFI Plan Apo λ 100×H:株式会社ニコンインステック製)によって集光した405nmの連続波レーザー光(OBIS 405LX:Coherent製)によって励起した。フォトルミネッセンスは電子増倍機能CCDカメラ(Evolve512:Photometrics製)によって検出した。散乱光はロングパスフィルター(BLP01-458R:Semrock製)を用いて取り除いた。
【0076】
図17(a)に示されるように、実施例1のチタン酸ストロンチウムメソ結晶においては、発光強度は結晶端で若干高いものの、結晶全体でほぼ均一であった。一方、図17(b)に示した表面の粒子が数百ナノメートルに成長した実施例2のチタン酸ストロンチウムメソ結晶においては、非常に高い発光強度を示す数百ナノメートル程度の領域が複数観測された。これらの結果は、光照射によって生じた電子は構造規則性の高いメソ結晶内部を拡散し、表面に存在する大きな結晶に捕捉されやすいことを示している。
【0077】
表面の結晶と内部結晶の1次粒子径が相違することにより、表面の結晶は、複数の内部結晶と接触界面を形成することができる。このような表面の結晶と複数の内部結晶との接触界面の形成により、固液界面で伝導帯と価電子帯のバンド屈曲が起こり、表面の結晶に移動した電子は界面で形成される障壁により、内部結晶に戻りにくくなると考えられる。電荷を輸送するサイトと触媒反応が起こるサイトを空間的に分離し、さらに、電荷を反応サイトに集積させることが高効率な光エネルギー変換系の構築に有効であると考察される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17