(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】金属製丸線材の加工方法、金属製丸線材用加工装置及び配電部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20220915BHJP
H02K 15/04 20060101ALI20220915BHJP
B21F 1/00 20060101ALI20220915BHJP
B21F 1/02 20060101ALI20220915BHJP
B21F 5/00 20060101ALI20220915BHJP
B21D 53/00 20060101ALI20220915BHJP
B21D 11/02 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01B13/00 501Z
H02K15/04 Z
B21F1/00 Z
B21F1/02 B
B21F5/00
B21D53/00 D
B21D11/02
(21)【出願番号】P 2019193979
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】594183299
【氏名又は名称】株式会社松尾製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】関冨 勇治
(72)【発明者】
【氏名】竹内 邦人
(72)【発明者】
【氏名】戸田 守
【審査官】鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-221551(JP,A)
【文献】特開2014-161872(JP,A)
【文献】特開2017-055486(JP,A)
【文献】特開2003-045231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H02K 15/04
B21F 1/00
B21F 1/02
B21F 5/00
B21D 53/00
B21D 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面円形の単線からなると共に、所定の三次元形状に曲げ加工され、電気機器の所定の位置に導線として設けられる金属製丸線材の加工方法であって、
前記金属製丸線材のコイル状素材を直線状に矯正する矯正工程と、
前記矯正工程により直線状に矯正された前記金属製丸線材の少なくとも一箇所に、直径方向の断面形状が非円形の断面非円形部を形成する断面非円形部形成工程と、
曲げ加工機の線材保持部に、前記断面非円形部を保持させて、前記三次元形状に曲げ加工する曲げ加工工程と
を有することを特徴とする金属製丸線材の加工方法。
【請求項2】
前記断面非円形部形成工程では、前記断面非円形部を、前記曲げ加工機の線材保持部の当接面に面接触する平坦面を備えた形状に加工する請求項1記載の金属製丸線材の加工方法。
【請求項3】
前記矯正工程後であって前記断面非円形部形成工程前、又は、前記断面非円形部形成工程後のいずれかのタイミングにおいて、前記金属製丸線材を所定長さに切断する請求項1又は2記載の金属製丸線材の加工方法。
【請求項4】
電気機器の所定の位置に導線として設けられる断面円形の単線を、所定の三次元形状に曲げ加工するための金属線丸線材用加工装置であって、
前記金属製丸線材のコイル状素材を、直線状に矯正する矯正用加工機と、
前記矯正機器により直線状に矯正された前記金属製丸線材の少なくとも一箇所に、直径方向の断面形状が非円形の断面非円形部を形成する断面非円形部形成用加工機と、
線材保持部に、前記断面非円形部を保持させて、前記三次元形状に曲げ加工する曲げ加工機と、
前記金属製丸線材を切断する切断加工機と
を有することを特徴とする金属製丸線材用加工装置。
【請求項5】
前記断面非円形部形成用加工機が、前記断面非円形部を、前記曲げ加工機の線材保持部の当接面に面接触する平坦面を形成する押圧部を有している請求項4記載の金属製丸線材用加工装置。
【請求項6】
さらに、前記矯正後であって前記断面非円形部の形成前、又は、前記断面非円形部の形成後であって前記曲げ加工前のいずれかのタイミングにおいて、前記金属製丸線材を所定長さに切断するように前記切断加工機を制御する切断加工機用制御部を有する請求項4又は5記載の金属製丸線材の加工装置。
【請求項7】
断面円形の単線からなると共に、所定の三次元形状に曲げ加工されてなる金属製丸線材の加工品と、前記加工品に一体的に取り付けられた樹脂部材とを備えてなり、電気機器の所定の位置に設けられる配電部品の製造方法であって、
前記請求項1~3のいずれか1に記載の金属製丸線材の加工方法により加工された前記金属製丸線材の加工品の前記断面非円形部の外周に、前記樹脂部材を固定することを特徴とする配電部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の所定位置に導線として設けられる金属製丸線材の加工方法及び加工装置、並びに、金属製丸線材に樹脂部材が一体化されてなる配電部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電気機器の導線として断面円形の単線からなる金属製丸線材が用いられている。金属製丸線材は、断面角形の角形線材と比較して安価であり、引張や曲げの強度に優れ、また、電気機器に取り付け時には角形よりも所望の方向に曲げやすい等の利点がある。このような利点に着目し、例えば、特許文献1では、モータ等の三相回転電機に電力を供給するための動力線として金属製丸線材を用いている。その一方、3本の動力線を個別に端子に接続したのでは、動力線の可撓性によって端子への締結時に位置ずれが生じるなどの問題があり、特許文献1では、かかる位置ずれを防止するために、3本の動力線を挿通する3つの挿通孔を備えた動力線用固定部材を用いることが提案されている。このような動力線用固定部材を用いることで、位置ずれが抑制されることは確かであるが、動力線の断面が円形であるため、動力線用固定部材の挿通孔内で軸心を中心として回転する。その結果、端子との締結時の位置決めの困難さや振動による位置ずれは完全には解消できていなかった。この点に鑑み、特許文献2では、動力線の所定部位をジグで潰して断面非円形とし、この部位に動力線固定部材である樹脂部材を一体成形する技術が開示されている。断面非円形の部位に樹脂部材が一体化されるため、動力線と樹脂部材との間での相対的な回転が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-128095号公報
【文献】特開2017-55486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2の場合、動力線固定部材としての樹脂部材を一体化する前にジグにより動力線に断面非円形の部位を形成している。銅等からなる金属製丸線材は可撓性を有するため、上記のようにモータなどへの組み付け時にある程度曲げて取り付け部位の形状に合わせることは可能であるが、実際には、取り付け部位に合わせ、曲げ角度、長さなどが予め規定された三次元形状で形成された動力線が使用されている。特許文献2の動力線も同様であり、所定の設計仕様で加工された三次元形状の動力線の所定の部位を追加加工でジグで潰し、樹脂部材を一体化させている。
【0005】
このような、所定の設計仕様、精度で加工された金属製丸線材に対し、一部をジグで潰す加工を施すことは、三次元形状になっている金属製丸線材の曲げ角度や曲げ位置等に影響を与え、樹脂部材による回り止めという目的は達成できても、金属製丸線材自体の寸法精度、形状精度が設計仕様に対して劣ることになるおそれがある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、追加加工を施すことなく所定の部位に断面非円形部を有し、かつ、所定の寸法精度、形状精度を有する三次元形状の金属製丸線材を加工できる金属製丸線材の加工方法、金属製丸線材用加工装置及び配電部品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の金属製丸線材の加工方法は、
断面円形の単線からなると共に、所定の三次元形状に曲げ加工され、電気機器の所定の位置に導線として設けられる金属製丸線材の加工方法であって、
前記金属製丸線材のコイル状素材を直線状に矯正する矯正工程と、
前記矯正工程により直線状に矯正された前記金属製丸線材の少なくとも一箇所に、直径方向の断面形状が非円形の断面非円形部を形成する断面非円形部形成工程と、
曲げ加工機の線材保持部に、前記断面非円形部を保持させて、前記三次元形状に曲げ加工する曲げ加工工程と
を有することを特徴とする。
【0008】
前記断面非円形部形成工程では、前記断面非円形部を、前記曲げ加工機の線材保持部の当接面に面接触する平坦面を備えた形状に加工することが好ましい。
前記矯正工程後であって前記断面非円形部形成工程前、又は、前記断面非円形部形成工程後のいずれかのタイミングにおいて、前記金属製丸線材を所定長さに切断することが好ましい。
【0009】
また、本発明の金属製丸線材用加工装置は、電気機器の所定の位置に導線として設けられる断面円形の単線を、所定の三次元形状に曲げ加工するための金属線丸線材用加工装置であって、
前記金属製丸線材のコイル状素材を、直線状に矯正する矯正用加工機と、
前記矯正機器により直線状に矯正された前記金属製丸線材の少なくとも一箇所に、直径方向の断面形状が非円形の断面非円形部を形成する断面非円形部形成用加工機と、
線材保持部に、前記断面非円形部を保持させて、前記三次元形状に曲げ加工する曲げ加工機と、
前記金属製丸線材を切断する切断加工機と
を有することを特徴とする。
【0010】
前記断面非円形部形成用加工機が、前記断面非円形部を、前記曲げ加工機の線材保持部の当接面に面接触する平坦面を形成する押圧部を有していることが好ましい。
さらに、前記矯正後であって前記断面非円形部の形成前、又は、前記断面非円形部の形成後であって前記曲げ加工前のいずれかのタイミングにおいて、前記金属製丸線材を所定長さに切断するように前記切断加工機を制御する切断加工機用制御部を有することが好ましい。
【0011】
また、本発明の配電部品の製造方法は、
断面円形の単線からなると共に、所定の三次元形状に曲げ加工されてなる金属製丸線材の加工品と、前記加工品に一体的に取り付けられた樹脂部材とを備えてなり、電気機器の所定の位置に設けられる配電部品の製造方法であって、
前記金属製丸線材の加工方法により加工された前記金属製丸線材の加工品の前記断面非円形部の外周に、前記樹脂部材を固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属線丸線材を所定の三次元形状に加工する中途工程において、少なくとも一箇所に、断面形状が非円形の断面非円形部が形成される。曲げ加工の際には、曲げ加工機の線材保持部に、この断面非円形部を保持させて、所定の三次元形状に曲げ加工する。断面非円形部を保持することにより、該断面非円形部と線材保持部との軸心を中心とした相対回転が、断面円形の場合と比較して抑制される。特に、この断面非円形部を曲げ加工機の線材保持部の当接面に面接触する平坦面を備えた形状に加工することにより、該断面非円形部と線材保持部との相対回転がより抑制される。その結果、三次元形状への曲げ加工精度が向上する。また、曲げ加工機の線材保持部の保持位置にずれがなくなるため、加工品間の誤差も低減する。また、通常、曲げ加工後、加工品に対して光学顕微鏡などを利用した寸法測定が行われる。このとき、断面円形の場合、長手方向に沿った接線へのピント合わせが行いにくく、光学顕微鏡の基準線への位置合わせが困難であるが、断面非円形部を有することにより、好ましくは平坦面を有することにより外形線が明確になるため、ピントが合いやすく位置合わせが容易となり、寸法測定精度も向上する。
【0013】
従って、本発明によれば、高い寸法精度、形状精度を有する三次元形状の金属製丸線材の加工品を得た後、断面非円形部を形成するための追加加工を行う必要がなく、高い寸法精度等を保ったまま、そのまま回り止め等の部材と組み合わせることができる。また、インサート成形により樹脂部材と一体化した配電部品も、追加加工を行うことなく、断面非円形部をそのまま利用して容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態にかかる金属製丸線材加工装置を用いて加工された金属製丸線材の線材加工品(加工完成品)の一例を示した斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)のA-A線拡大断面図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1に示した線材加工品に回り止め用の樹脂部材を一体成形して取り付けた配電部品の一例を示した斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)のB-B線拡大断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一の実施形態に係る金属製丸線材加工装置の概略構成を示した図である。
【
図4】
図4は、矯正後、断面非円形部を形成する前に金属製丸線材を切断する態様における各加工機の概略構成を加工工程別に示した図である。
【
図5】
図5は、断面非円形部の形成後、曲げ加工前に金属製丸線材を切断する態様における各加工機の概略構成を加工工程別に示した図である。
【
図6】
図6(a)は、曲げ加工機の線材保持部の一例を示した図であり、
図6(b)は、曲げ加工機の線材保持部の他の例を示した図である。
【
図7】
図7は、
図4の態様における金属製丸線材の加工工程の一例を示したフローチャートである。
【
図8】
図8は、
図5の態様における金属製丸線材の加工工程の一例を示したフローチャートである。
【
図9】
図9は、本発明の一の実施形態にかかる配電部品の製造方法の工程の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
図1(a)は、本発明の一の実施形態にかかる金属製丸線材加工装置1(
図3参照)を用いて加工された金属製丸線材100の加工品(以下、「線材加工品」という)100Aを示している。この線材加工品100Aは、例えば、特許文献1,2に示されたようなモータ等の動力線として用いられるものであり、両端部に端子等に接続される接続部101,101と、複数の屈曲部102,102と、それらの間の直線部103,103とを備えた三次元形状に形成されている。そして、この線材加工品100Aのいずれかの部位に、本実施形態では、全長の中間付近の直線部103の範囲に、金属製丸線材100の直径方向(金属製丸線材100の長手方向(軸心方向)に直交する方向)の断面形状が非円形の断面非円形部105が形成されている。断面非円形部105の形状は、本実施形態では、
図1(b)に示したように、外周面に4つの平坦面105a~105dを有する長方形に形成されている。なお、この断面非円形部105の形状についてはさらに後述する。
【0016】
線材加工品100Aは、金型にセットされ、インサート成形により樹脂部材200が一体化される(
図2(a)参照)。このとき、
図2(b)に示したように、樹脂部材200は、断面非円形部105の周囲に隙間なく一体化される。断面非円形部105は、4つの平坦面105a~105dを有するため、その周囲を隙間なく被覆する樹脂部材200との間に相対回転が生じることがなくなる。その結果、モーター等の端子との締め付け時あるいは外部振動の作用等によって金属製丸線材100の線材加工品100Aが軸方向に回転してずれることがなくなる。なお、特許文献1,2に示されているように、例えば、三相モータ等に用いる場合、金属製丸線材100の線材加工品100Aを3つ一緒にインサート成形し、共通の樹脂部材200で被覆して相互の位置ずれを防止する構造としたりすることができることはもちろんである。
【0017】
次に、上記のように使用される金属製丸線材100の加工方法及び加工装置について説明する。
図3は、金属製丸線材加工装置1の概略構成を模式的に示した図であり、
図4及び
図5は加工工程別の各加工機を模式的に示した図である。これらの図に示したように、本実施形態の金属製丸線材加工装置1は、矯正用加工機10、断面非円形部形成用加工機20、曲げ加工機30及び切断加工機40を有して構成される。
【0018】
矯正用加工機10は、
図4及び
図5に示したように、例えば、対向配置される複数本の矯正用ローラ11を有して構成される。加工対象の金属製丸線材100は、表面がエナメルで被覆された銅等の金属製で断面円形の単線からなり、コイル状に巻回されたコイル状素材として提供される。コイル状に巻回されているため、その巻き癖を矯正するために設けられる。ここで、
図1に示した線材加工品100Aは、各端部が接続部101,101となっており、これらの接続部101,101ではエナメルの皮膜が除去されている。エナメル皮膜は、矯正加工後、例えば、表面を削るかあるいは薬品を用いるなどして除去される。
【0019】
断面非円形部形成用加工機20は、矯正用加工機10によって直線状に加工された金属製丸線材100の所定の部位を、金属製丸線材100の直径方向の断面形状で非円形に形成する。断面非円形部形成用加工機20の具体的な構造は限定されるものではないが、例えば、
図4及び
図5に示したように、金属製丸線材100を直径方向に沿って両側に挟む押圧部21を有するプレス加工機から構成される。押圧部21における金属製丸線材100に向き合う対向面21aは、当該金属製丸線材100に離接する曲げ加工機30の線材保持部31の当接面31aにほぼ合致する形状を有している(
図6(a),(b)参照)。具体的には、例えば、線材保持部31は、金属製丸線材100への当接面31aを少なくとも2面有しており、その少なくとも1面が平坦面からなるため、少なくとも一方の押圧部21の押圧面21aも平坦面に形成されている。
【0020】
本実施形態では、断面非円形部形成加工機20の180度対向する両側の押圧部21,21の対向面21a,21aをともに平坦面としている。よって、これらの押圧部21,21を相互に接近させると、断面非円形部105となる対向する一方の組の平坦面105a,105cが形成され、次いで、金属製丸線材100を90度軸心を中心として回転させ、再び押圧部21,21を相互に接近させることで、対向する他方の組の平坦面105b,105dが形成され、直径方向の断面が略長方形の断面非円形部105が形成される。
【0021】
但し、断面非円形部105の断面形状は円形でなければよく、例えば、平坦面が1面のみ、対向する2面のみに形成されたものでもよい。3面、あるいは5面以上形成されたものでもよい。しかしながら、円に近くなるほど、曲げ加工機230の線材保持部31との間の相対回転や、
図2に示した樹脂部材200を一体成形した場合の両者の相対回転が生じやすくなったりするため、8面以下とすることが好ましい。このほか、一部に断面四角や三角等の任意の凹部や凸部を有する異形断面であってもよい。いずれにしても、これらの面は、曲げ加工機30の線材保持部31の当接面31aに面接触可能な平坦面を少なくとも1面有する形状であればよい。少なくとも1面の平坦面を有すれば、曲げ加工機30の線材保持部31の当接面31aが面接触するため、曲げ加工時に金属製丸線材100が軸心を中心として回転することを防ぐことができる。
【0022】
曲げ加工機30は、例えば、
図6(a)に示したように、三次元に可動するロボットアーム32の先端に線材保持部(チャック)31が設けられたものや、
図6(b)に示したような相互に離接可能な対向する一対のプレート(プレス金型のワークを保持する部分に相当)を備えた線材保持部31を有するものなどを用いることができる。これらの線材保持部31は、金属製丸線材100を保持する面の少なくとも1面(本実施形態では対向する2面)が平坦面となっている。よって、断面非円形部形成加工機20によって平坦面105a~105dが形成された金属製丸線材100をこれらの線材保持部31にセットすれば、金属製丸線材100は、断面非円形部105以外の部分が断面円形であるにも拘わらず、軸心を中心とした回転をしない。
【0023】
曲げ加工機30は、
図6(a)の場合には、線材保持部(チャック)31と、金属製丸線材100に接触する加工部(図示せず)とを有し、これらのいずれか一方又は両方が三次元に動くことで、金属製丸線材100に所定方向に所定角度屈曲されるなどして、設計仕様に沿った所定の三次元形状に加工される。
図6(b)の場合には、例えば、2つのプレートからなる線材保持部31の一対の当接面31a,31a間に金属製丸線材100を保持させ、線材保持部31から突出している部位に対して、加工具33(
図4及び
図5の「曲げ加工工程」参照)がいずれかの方向から接近して接触することで所定の形状に加工される。そして金属製丸線材100の向きを変えたり、あるいは、当該加工具として異なる向きから接近できるものを用いたりすることにより三次元形状が付与される。なお、曲げ加工機30の具体的な構造は、金属製丸線材100を曲げ加工できるものであれば全く限定されるものではない。
【0024】
切断加工機40は、金属製丸線材100を設計仕様に従って、所定長さで切断する。金属製丸線材100を切断できる限り、その構造は全く限定されるものではない。本実施形態では、切断加工機40を自動で作動させる切断加工機用制御部50を有している(
図3参照)。切断加工機用制御部50は、予め設定された設計仕様に従って所定長さに切断動作するように切断加工機40を制御する。切断加工機用制御部50は、切断長さを制御するだけのものであってもよいが、本実施形態ではさらに、切断加工機40の作動のタイミングも自動で制御可能となっている。具体的には、上記の矯正用加工機10により矯正された後、断面非円形部形成加工機20に移送される前のタイミング(
図4の態様)、又は、断面非円形部105の形成後、曲げ加工機30に移送される前のタイミング(
図5の態様)のいずれかにおいて切断加工機40を作動させ、金属製丸線材100を所定長に切断する。
【0025】
切断加工機40により切断するタイミングは、金属製丸線材100に付与する三次元形状の種類、求められる寸法精度等によって任意に設定できる。
図4に示したように、矯正加工後に切断すると、断面非円形部105の形成箇所を各端部、中間部のいずれにする場合もその位置決めが容易であり、その後の曲げ加工も取り扱いが容易となる。また、曲げ加工後に切断する場合、切断時のショックにより変形が生じる場合もあるが、予め切断しておくとそのようなおそれがない。
【0026】
図5に示したように、断面非円形部105の形成後、曲げ加工前に切断する場合、曲げ加工は行いやすくなるものの、断面非円形部105の形成は長尺のままで行うため断面非円形部105の形成箇所の位置決めがそれ以前に切断した場合よりも行いにくくなる。その一方、断面非円形部105を形成すると、直径方向への変形により長さ方向の寸法に多少の影響がでる場合もある。また、曲げ加工後の切断は上記のように変形が生じる場合もある。そこで、寸法精度がより厳密に要求される場合等において、断面非円形部105の形成までは長尺のまま行い、曲げ加工前に切断することも考えられる。
【0027】
次に、金属製丸線材100の加工方法の一例について
図4及び
図7に基づいて説明する。本実施形態の加工方法は、上記のように、コイル状で提供される素材を金属製丸線材用加工装置1の矯正用加工機10に移送し、直線状に矯正する(
図7のS1)。その後、線材加工品100Aの仕様に従って、取り付け場所における端子等への接続端101,101が形成されるように、所定の間隔毎にエナメル被覆を剥離する。
【0028】
次に、例えば、直線状に矯正された金属製丸線材100を切断加工機40によって所定長に切断する(
図7のS2)。この時点で切断することにより、後の加工の取り扱いが容易となる等の利点があることは上記のとおりである。次いで、所定長に切断された金属製丸線材100を断面非円形部形成用加工機20に移送し、断面非円形部105を形成する(
図7のS3)。断面非円形部105は、少なくとも一箇所に形成される。断面非円形部105は、曲げ加工機30における線材保持部31で保持した際の回転方向への動きを防止するために設けられているが、線材保持部31による保持部位を異ならせる場合、あるいは、複数の曲げ加工機30を使用する場合等においては、それに応じて複数箇所に断面非円形部105を形成することができる。
【0029】
次に、曲げ加工機30の線材保持部31により断面非円形部105を保持し、設計仕様に従った三次元形状を付与する(
図7のS4)。この際、複数台の曲げ加工機30を使用する場合には、例えば、最初の曲げ加工機30では、ある所定の位置の断面非円形部105を線材保持部31で保持して曲げ加工を施し、しかる後、次の曲げ加工機30では、それとは異なる位置に形成された断面非円形部105を線材保持部31で保持して曲げ加工を施したりすることができる。
【0030】
これにより、線材加工品100Aが完成される。なお、切断工程のタイミングは、このように矯正後の断面非円形部の形成前に限らず、
図5に示したように、断面非円形部の形成後でも可能であることは上記のとおりである。
図8はその場合の加工工程の一例を示したフローチャートであり、矯正工程後(
図8のS5)、断面非円形部を形成し(
図8のS6)、しかる後切断して(
図8のS7)、曲げ加工工程を施して(
図8のS8)、線材加工品100Aを得る。
【0031】
本実施形態によれば、金属製丸線材100に対し、曲げ加工前に断面非円形部105を形成している。そのため、線材保持部31がこの断面非円形部105を保持して曲げ加工を行うことができ、曲げ加工時における軸心を中心とした回転方向の動きなどを防止でき、曲げ加工精度を上げることができる。また、線材保持部31の保持位置が安定するため、製品間の加工精度のばらつきも小さくなる。また、金属製丸線材100は、各加工機間を送りローラ(図示せず)によって移送されるが、断面非円形部105の形成後は、送りローラに対する滑りが抑制され、送り量のばらつきを要因とする加工精度の悪化も抑制できる。
【0032】
また、加工された線材加工品100Aの光学顕微鏡を用いた寸法測定の際には、断面非円形部105、特に平坦面に加工された面の外形線が見やすくなる。すなわち、円形断面の場合には、光学顕微鏡で観察した際に円形断面の接線へのピント合わせが難しく寸法測定精度に影響がでる場合があったが、本実施形態によれば平坦面等の外形線へピント合わせが容易となり、寸法測定精度が上がる。
【0033】
次に、本実施形態の線材加工品100Aを、例えば、配電部品として用いるため、取り付け部位への回り止め等の機能を果たす樹脂部材200に一体化する場合には、
図9に示したように、インサート成形により、断面非円形部105に樹脂部材200を一体化し(S10)、配電部品300(
図2参照)を得る。得られた配電部品300は、断面非円形部105に樹脂部材200が一体化されているため、相互に回転することがない。本発明によれば、従来のように線材加工品の完成後に、追加加工で断面非円形部を形成する必要がなく、追加加工に伴う寸法精度への影響や変形を防止できる。
【0034】
以上より、本発明により得られる金属製丸線材100の線材加工品100A及び配電部品300は、角形線材と比較して安価な丸線材でありながら、高い寸法精度、形状精度等の要求される用途に特に適している。
【符号の説明】
【0035】
1 金属製丸線材用加工装置
10 矯正用加工機
11 矯正用ローラ
20 断面非円形部形成用加工機
21 押圧部
21a 対向面
30 曲げ加工機
31 線材保持部
31a 当接面
40 切断加工機
50 切断加工機用制御部
100 金属製丸線材
100A 線材加工品(金属製丸線材の加工完成品)
105 断面非円形部
105a,105b,105c,105d 平坦面
200 樹脂部材
300 配電部品