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特許7141701金属材料の表面観察方法を用いた金属材料の化成処理性評価方法
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  • 特許-金属材料の表面観察方法を用いた金属材料の化成処理性評価方法 図1
  • 特許-金属材料の表面観察方法を用いた金属材料の化成処理性評価方法 図2
  • 特許-金属材料の表面観察方法を用いた金属材料の化成処理性評価方法 図3
  • 特許-金属材料の表面観察方法を用いた金属材料の化成処理性評価方法 図4
  • 特許-金属材料の表面観察方法を用いた金属材料の化成処理性評価方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】金属材料の表面観察方法を用いた金属材料の化成処理性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/208 20190101AFI20220915BHJP
   G01Q 60/30 20100101ALI20220915BHJP
   C23C 22/07 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
G01N33/208
G01Q60/30
C23C22/07
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018217191
(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公開番号】P2020085556
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】早川 正夫
(72)【発明者】
【氏名】長島 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】升田 博之
(72)【発明者】
【氏名】長井 寿
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/011743(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02416165(EP,A1)
【文献】特開2003-329564(JP,A)
【文献】特開2007-162078(JP,A)
【文献】船津恵介 ほか,Mg合金中の微視的異材界面における表面電位差が初期ガルバニック腐食現象へ及ぼす影響,日本機械学会論文集A編,2012年10月25日,Vol.78, No.794,pp.1432-1445
【文献】第31回NBCI-NIMS合同連携セミナー,RCSM,2018年05月,[online],[令和4年4月20日検索],インターネット<URL:https://www.nims.go.jp/KO-ZO/events/20180510.html>
【文献】SABABI, M. et al.,Microstructure influence on corrosion behavior of a Fe-Cr-V-N tool alloy studied by SEM/EDS, scanning Kelvin force microscopy and electrochemical measurement,Corrosion Science,2012年09月21日,Vol.66,pp.153-159
【文献】PAN, T,Corrosion behavior of a duplex stainless steel under cyclic loading:a scanning Kelvin probe force microscopy (SKPFM) based microscopic study,Journal of Applied Electrochemistry,米国,2012年12月,Vol.42,No.12,pp.1049-1056
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/20
G01Q 60/30
C23C 22/07
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材金属中に異種金属粒子を含む金属材料の化成処理性評価方法であって、
最大高低差が200nm以下である金属材料表面の観察面を、ケルビンフォース顕微鏡を用いて、上記異種金属粒子とその周辺との電位差を観察し、この電位差から金属材料の化成処理性を評価する化成処理性評価方法。
【請求項2】
イオンミリングにより上記観察面を作製する工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の化成処理性評価方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の表面観察方法に係り、更に詳細には、母材金属中に異種金属粒子を含む金属材料の表面観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料を用いた金属製品は、一般に耐食性などの機能向上のために、化成処理膜などによる表面処理が施されている。しかし、金属材料の化成処理性が低く表面処理に欠陥が生じると、その欠陥から鉄が腐食してしまう。
したがって、均一かつ微細で欠陥のない化成処理膜を形成できる化成処理性に優れる金属材料の開発が要望される。
【0003】
上記化成処理の反応は、金属材料表面の母材金属と異種金属粒子などとで形成される局部電池により駆動される。
【0004】
例えば、鉄鋼の化成処理反応においては、図1に示すように、鉄鋼表面のアノード点では、下地の鉄(Fe)の溶解反応が起こることで電子が発生し、カソード点では、上記アノード点で発生した電子により酸化剤の還元反応が起こる。そして、化成処理液が酸性溶液である場合は、水素イオンが還元されて鉄鋼表面近傍のpHが上昇し、これに伴って表面に化成処理膜を形成する化合物が析出する。
【0005】
したがって、金属材料の化成処理性を評価するには、金属材料の表面に存在するカソード点やアノード点の観察が不可欠である。
【0006】
従来から、金属材料の表面形状を観察する手段として、SEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)、AFM(原子間力顕微鏡)、光学顕微鏡などが用いられている。(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本表面科学会著「表面分析図鑑」共立出版株式会社、1994年5月30日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、金属材料の表面形状を観察する方法では、局部電池の反応が進行して金属材料中のFeなどが溶出し、金属材料の表面に上記反応の影響があらわれた後でなければ観察することができず、予め金属材料の化成処理性を知ることはできない。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、局部電池の反応が起こる前に金属材料の化成処理性を評価できる金属材料の表面観察方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、金属材料表面の異種金属粒子とその周辺との電位差を直接観察することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、上記課題は、本発明の以下の金属材料の化成処理性評価方法によって解決される。
(1)母材金属中に異種金属粒子を含む金属材料の化成処理性評価方法であって、
最大高低差が200nm以下である金属材料表面の観察面を、ケルビンフォース顕微鏡を用いて、上記異種金属粒子とその周辺との電位差を観察し、この電位差から金属材料の化成処理性を評価する化成処理性評価方法。
(2)イオンミリングにより上記観察面を作製する工程を備えることを特徴とする上記第(1)項に記載の化成処理性評価方法
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属材料表面の異種金属粒子とその周辺との電位差を観察することとしたため、局部電池の反応が起こる前に金属材料の化成処理性を評価できる金属材料の表面観察方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】化成処理の反応を説明する図である。
図2】実施例1の化成処理面に対して縦断面のマイクロカソードが存在する領域のKFM像(A)とAFM像(B)である。最大高低差(図のグレースケール)は200nmである。
図3】実施例2の金属材料にマイクロカソードが存在する領域のKFM像(A)とAFM像(B)である。最大高低差(図のグレースケール)は100nmである。
図4】実施例3の金属材料のマイクロカソードが存在する領域のSEM像(A)とその拡大図(B)、それらの同一場所におけるKFM像(D)とその拡大図(C)である。
図5】表面研削前の化成処理膜のSEM像(A)と表面研削後の化成処理膜(B)と、表面研削前の金属材料のKFM像(C)である。(C)の観察面には(B)の化成処理前に当該する金属断面も含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<表面観察方法>
本発明の表面観察方法について詳細に説明する。
上記表面観察方法は、母材金属中に異種金属粒子を含む金属材料の表面を観察する方法であり、最大高低差が200nm以下である金属材料の観察面を、ケルビンフォース顕微鏡を用いて、上記異種金属粒子とその周辺との電位差を観察する。
【0016】
母材金属中に異種金属粒子が分散し、異種金属同士が接触した金属材料に電解質溶液を接触させると局部電池が形成される。
【0017】
本発明の表面観察方法によれば、局部電池の反応が進む前に、上記局部電池の反応性を知ることができ、金属材料の化成処理性を予測することができる。
【0018】
上記ケルビンフォース顕微鏡は、探針で試料表面を走査し、励振電圧による静電気力成分の振幅がゼロとなる電圧をフィードバックし、このフィードバック電圧により試料表面の電位を計測して表面電位像を形成する顕微鏡である。
【0019】
このようなケルビンフォース顕微鏡における、上記フィードバック電圧は、試料表面と探針との距離の変化の影響を受け易く、観察面に大きな凹凸が存在すると表面電位像がぼやけて、異種金属粒子とその周辺との電位差を充分観察することができない。
【0020】
本発明においては、観察面の最大高低差を200nm以下にしたため、観察面の凹凸による上記フィードバック電圧の影響が小さく、鮮明な表面電位像を得ることができる。
【0021】
上記観察面の最大高低差が100nm以下であると、より鮮明な表面電位像を得ることができ、異種金属粒子とその周辺との電位差を観察することができる。
【0022】
上記観察面は、観察面の最大高低差を200nm以下にできれば、アルミナ粒子、ダイヤモンド粒子、コロイダルシリカなどを用いたバフによる鏡面研磨であってもよいが、イオンミリングにより上記観察面を作製することが好ましい。
【0023】
イオンミリングは、収束させないアルゴンイオンビームを試料に照射し、スパッタリング現象を利用して応力をかけずに試料表面を研磨して観察面を作製する方法である。
アルゴンイオンビームを試料表面に対して斜めに照射し、アルゴンイオンビームの中心と試料回転の中心を偏心させることによって広範囲を加工して平滑な観察面を作製することができる。
【0024】
アルゴンイオンビームの照射角度(θ)を80°以上に設定して観察面を作製することが好ましい。アルゴンイオンビームの照射角度(θ)が80°以上であると、イオンビームの照射角度が試料の加工面に対して平行に近づき、結晶方位や組成のエッチングレート差による凹凸形成を低減した平滑な観察面を作製できる。
【0025】
<化成処理性評価方法>
【0026】
本発明の金属材料の評価方法は、上記表面観察方法により金属材料の表面を観察して金属材料の化成処理性を評価する。
【0027】
化成処理反応は、上記のように金属材料の表面に形成される局部電池により駆動される。しかし、金属材料の表面が、粗大なカソード点で覆われていると、アノード点で発生した電子が粗大なカソード点の中央部まで行きわたらず、カソード点とアノード点との境界近傍でしか上記還元反応が起こらないため、カソード点の周縁しか化成処理膜で覆うことができず、化成処理膜に欠陥が生じ易く化成処理性が低下する。
【0028】
したがって、上記異種金属粒子により形成されるカソード点又はアノード点との電位差から、母材金属の溶出し易さ、すなわち化成処理反応の起こり易さを評価することができ、また、上記カソード点又はアノード点を形成する異種金属粒子の粒径や、その分布状態などから、形成される化成処理膜の均一性、緻密性を評価することができる。
【0029】
化成処理性は、金属材料の種類や、化成処理の反応条件などにもよるが、例えば、カソード点となる異種金属粒子の最大粒径が2μm以下であると、カソード点が化成処理膜で覆われ易く、また、上記異種金属粒子が、800個/mm以上200,000個/mm以下であると均一かつ緻密な化成処理膜を形成できる。
【0030】
上記化成処理としては、リン酸被膜処理や、メッキなど鋼材の耐食性を向上させる処理を挙げることができる。
【実施例
【0031】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
金属材料の表面をイオンミリングしで観察面を作製し、該観察面の同一視野をケルビンフォース顕微鏡(株式会社日立ハイテックサイエンス製:マルチ対応小型プローブ顕微鏡ユニットAFM5200S)と原子間力顕微鏡を用いて観察した。化成処理面に対して縦断面のKFM像を図2(A)、AFM像を図2(B)に示す。
【0033】
図2(A)のKFM像では、周辺より電位が高くカソード点となる箇所が黒く写っており、異種金属を母材金属との電位差を観察することができた。また、図2(B)のAFM像では最大高低差(図のグレースケール)は200nmであった。
【0034】
[実施例2]
金属材料の表面をイオンミリングで観察面を作製し、該観察面の同一視野をケルビンフォース顕微鏡と原子間力顕微鏡を用いて観察した。KFM像を図3(A)、AFM像を図3(B)に示す。
【0035】
図3(A)のKFM像では、周辺より電位が高くカソード点となる箇所が、図2(A)のKFM像よりも黒く鮮明に写っており、異種金属と母材金属との電位差を観察することができた。また、図3(B)AFM像では最大高低差(図のグレースケール)は100nmであった。
【0036】
[実施例3]
また、イオンミリングした金属材料の観察面の同一視野を走査電子顕微鏡とケルビンフォース顕微鏡とを用いて観察した。SEM像を図4(A)、該図4(A)の拡大画像を図4(B)、KFM像を図4(D)、該図4(D)の拡大画像を図4(C)に示す。
【0037】
図4より、KFM像ではSEM像で異種粒子が確認された位置は電位が異なる部分であることが確認され、また、電位が異なる部分の明度が異なっており、異種粒子の電位によって、周囲との電位差が異なることが確認された。
【0038】
[実施例4]
実施例2の金属材料をリン酸マンガン処理し、形成された被膜を観察した。この被膜のSEM像を図5(A)に示す。
また、実施例2の金属材料の表面を研削してカソード点を除去した後、リン酸マンガン処理し、形成された被膜を観察した。この被膜のSEM像を図5(B)に示す。研削後では被膜が十分に形成されていない。また、表面研削前の金属材料のKFM像を図5(C)に示す。破線左側が研削された金属材料でカソード点が観察されるのに対して、破線右側の研削除去後の金属材料ではカソード点が観察されない。
【0039】
図5より、KFM像で周辺電位差を観察することで、金属材料の化成処理性を評価できることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5