(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】希土類金属の分離
(51)【国際特許分類】
C22B 59/00 20060101AFI20220915BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20220915BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20220915BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220915BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20220915BHJP
C01F 17/00 20200101ALI20220915BHJP
B01D 11/04 20060101ALI20220915BHJP
C01F 17/20 20200101ALI20220915BHJP
C01F 17/271 20200101ALI20220915BHJP
【FI】
C22B59/00
C22B3/06
C22B3/26
C22B3/44 101Z
C22B7/00 G
C01F17/00
B01D11/04 B
C01F17/20
C01F17/271
(21)【出願番号】P 2019532078
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(86)【国際出願番号】 GB2017053754
(87)【国際公開番号】W WO2018109483
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-12-14
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】315002690
【氏名又は名称】ザ クイーンズ ユニバーシティ オブ ベルファスト
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】ノックマン ピーター
(72)【発明者】
【氏名】リテシュ ルヘラ
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/071028(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/128536(WO,A1)
【文献】特許第5889455(JP,B1)
【文献】特許第5279938(JP,B1)
【文献】特表2010-518019(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103961978(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 3/00-3/46
C22B 59/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は2種以上の希土類金属の混合物から希土類金属を抽出する方法であって、前記希土類金属の酸性溶液を、イオン液体を含む組成物と接触させて、水性相、及びその中に前記希土類金属が選択的に抽出された非水性相を形成するステップを含み、前記イオン液体が、式:
[Cat
+][X
-]
[式中、
[Cat
+]は、構造:
【化1】
(式中、[Y
+]は、アンモニウム、ベンズイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、ボロリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、ジアザビシクロ-ウンデセニウム、ジチアゾリウム、フラニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、モルホリニウム、オキサボロリウム、オキサホスホリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ-オキサゾリウム、オキソチアゾリウム、ホスホリウム、ホスホニウム、フタラジニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、ピラニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソ-キノリニウム、キノキサリニウム、キヌクリジニウム、セレナゾリウム、スルホニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ-チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ-チアゾリウム、チオフェニウム、チウロニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、イソ-トリアゾリウム及びウロニウム基から選択される基を含み;
各EDGは、電子供与基を表し;
L
1は、C
1-10アルカンジイル、C
2-10アルケンジイル、C
1-10ジアルカニルエーテル及びC
1-10ジアルカニルケトン基から選択される連結基を表し;
各L
2は、C
1-2アルカンジイル、C
2アルケンジイル、C
1-2ジアルカニルエーテル及びC
1-2ジアルカニルケトン基から独立して選択される連結基を表す)
を有するカチオン種を表し;及び
[X
-]は、アニオン種を表す]
を有する、前記方法。
【請求項2】
酸性ストリッピング溶液でのストリッピングによって、非水性相から希土類金属を回収するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2又は3種以上の希土類金属の混合物から希土類金属を抽出するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
酸性溶液が第1及び第2の希土類金属を含み、
(a)前記第1の希土類金属を非水性相に優先的に分配し、
前記非水性相を前記酸性溶液から分離するステップ;及び
(b)前記第1の希土類金属が枯渇した前記酸性溶液を、イオン液体を含む組成物と接触させ、前記第2の希土類金属をそれから回収するステップ;
を含み、
ステップ(a)において、前記第1の希土類金属が前記非水性相から回収され、かつ、ステップ(b)において、前記非水性相がリサイクルされ、前記組成物として用いられる、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
第1の希土類金属がジスプロシウムであり、第2の希土類金属がネオジムであるか、若しくは
第1の希土類金属がランタンであり、第2の希土類金属がユーロピウムであり;及び/又は
ステップ(a)において、酸性溶液が3.5未満のpHを有し、ステップ(b)において、酸性溶液が3.5超のpHを有する;
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
希土類金属を抽出する酸性溶液が、2~4のpHを有する、及び/又は
組成物を希土類金属の酸性溶液と接触させるに先立って、組成物が、希土類金属の酸性溶液と同一のpHを有する酸性溶液で平衡化される、
請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
組成物を、0.5:1~2:1の容量比で酸性溶液に加える、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
希土類金属の酸性溶液と組成物とを、10~40分間接触させるステップを含む、
及び/又は
希土類金属の酸性溶液と組成物とを接触させ、物理的に混合するステップを含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
L
1を各L
2に連結する窒素及びEDGの1つが、共に、金属に配位する場合、窒素、L
2、EDG、及び金属によって形成された環が、5又は6員環である、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
[Y
+]が:
[-N(R
a)(R
b)(R
c)]
+、[-P(R
a)(R
b)(R
c)]
+及び[-S(R
a)(R
b)]
+
[式中、R
a、R
b及びR
cは、各々、独立して、置換されていてもよいC
1-30アルキル、C
3-8シクロアルキル及びC
6-10アリール基から選択される]
から選択される非環式カチオンを表す;
あるいは
【化2】
[式中、R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eは、各々、独立して、水素及び置換されていてもよいC
1-30アルキル、C
3-8シクロアルキル及びC
6-10アリール基から選択されるか、又は隣接炭素原子に結合したR
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうちいずれか2つは、qが3から6である置換されていてもよいメチレン鎖-(CH
2)
q-を形成する]
から選択される環式カチオンを表す;或いは
環式アンモニウム、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、モルホリニウム、環式ホスホニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、キヌクリジニウム、及び環式スルホニウムから選択される飽和複素環式カチオンを表す、
請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうちの1つが、置換されたC
1-5アルキル基であり、R
a、R
b、R
c、R
d及びR
eのうちの残りが、独立して、H及び非置換のC
1-5アルキル基から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
[Y
+]が:
【化3】
から選択される環式カチオン、
R
fが、置換されたC
1-5アルキル基であって、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e及びR
fのうちの残りが、独立して、H及び非置換のC
1-5アルキル基から選択される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
L
1が、C
1-10アルカンジイル及びC
1-10アルケンジイル基から選択される連結基を表す、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
各L
2が、C
1-2アルカンジイル及びC
2アルケンジイル基から独立して選択される連結基を表す、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
各EDGが、-C(O)NR
yR
zである電子供与基を表し、式中、R
y及びR
zは、各々、独立して、C
1-6アルキルから選択される、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
[X
-]が、水酸化物、ハロゲン化物、過ハロゲン化物、擬ハロゲン化物、スルフェート、スルファイト、スルホネート、スルホンイミド、ホスフェート、ホスファイト、ホスホネート、メチド、ボレート、カルボキシレート、アゾレート、カルボネート、カルバメート、チオホスフェート、チオカルボキシレート、チオカルバメート、チオカルボネート、キサンテート、チオスルホネート、チオスルフェート、ニトレート、ニトライト、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート及びペルクロレート、ハロメタレート、アミノ酸、及びポリフルオロアルコキシアルミネートから選択される1又は2以上のアニオン種を表す、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
[Cat
+]が、構造:
【化4】
[式中、[Z
+]は、アンモニウム、ベンズイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、ボロリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、ジアザビシクロ-ウンデセニウム、ジチアゾリウム、フラニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、モルホリニウム、オキサボロリウム、オキサホスホリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ-オキサゾリウム、オキソチアゾリウム、ホスホリウム、ホスホニウム、フタラジニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、ピラニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソ-キノリニウム、キノキサリニウム、キヌクリジニウム、セレナゾリウム、スルホニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ-チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ-チアゾリウム、チオフェニウム、チウロニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、イソ-トリアゾリウム及びウロニウム基から選択される基を表す]
を有する1又は2以上のイオン種を表す、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
組成物が、さらに、より低い粘度のイオン液体を含む、
請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
より低い粘度のイオン液体のアニオンが、水酸化物、ハロゲン化物、過ハロゲン化物、擬ハロゲン化物、スルフェート、スルファイト、スルホネート、スルホンイミド、ホスフェート、ホスファイト、ホスホネート、メチド、ボレート、カルボキシレート、アゾレート、カルボネート、カルバメート、チオホスフェート、チオカルボキシレート、チオカルバメート、チオカルボネート、キサンテート、チオスルホネート、チオスルフェート、ニトレート、ニトライト、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート及びペルクロレート、ハロメタレート、アミノ酸、及びポリフルオロアルコキシアルミネートから選択され、及び/又は
組成物が、合計アニオンの割合として、25%未満のハロゲン化物又は擬ハロゲン化物アニオンを含む、及び/又は
組成物が、さらに、1又は2種以上の有機溶媒を含む、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
イオン液体が、少なくとも0.001Mの濃度で、組成物に存在する、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
酸性溶液が、酸を用いて
希土類金属の源から希土類金属を浸出することによって得ることができる、請求項1~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
式:
[Cat
+][X
-]
[式中、
[Cat
+]は、構造:
【化5】
[式中、[Y
+]は、アンモニウム、ベンズイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、ボロリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、ジアザビシクロ-ウンデセニウム、ジチアゾリウム、フラニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、モルホリニウム、オキサボロリウム、オキサホスホリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ-オキサゾリウム、オキソチアゾリウム、ホスホリウム、ホスホニウム、フタラジニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、ピラニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソ-キノリニウム、キノキサリニウム、キヌクリジニウム、セレナゾリウム、スルホニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ-チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ-チアゾリウム、チオフェニウム、チウロニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、イソ-トリアゾリウム及びウロニウム基から選択される基を含み;
各EDGは、電子供与基を表し;
L
1は、C
1-10アルカンジイル、C
2-10アルケンジイル、C
1-10ジアルカニルエーテル及びC
1-10ジアルカニルケトン基から選択される連結基を表し;
各L
2は、C
1-2アルカンジイル、C
2アルケンジイル、C
1-2ジアルカニルエーテル及びC
1-2ジアルカニルケトン基から独立して選択される連結基を表す)
を有するカチオン種を表し;及び
[X
-]は、アニオン種を表す]
を有する、1又は2種以上の希土類金属の酸性溶液から希土類金属を抽出するためのイオン液体。
【請求項23】
各EDGが、-C(O)NR
yR
zを表し、式中、R
y及びR
zは、各々、C
1-6アルキルから選択され、又は、各-L
2-EDGが、
【化6】
【化7】
から独立して選択される電子供与基であり、R
y=R
zであり、R
y及びR
zはそれぞれC
3-6アルキルから選択される、
請求項22に記載のイオン液体。
【請求項24】
請求項22又は23に記載のイオン液体を含む組成物。
【請求項25】
さらに、より低い粘度のイオン液体を含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
さらに、希土類金属を含む、請求項24又は25に記載の組成物。
【請求項27】
請求項22又は23に記載のイオン液体を調製する方法であって、
【化8】
を
【化9】
[式中、LGは脱離基を表す]
と反応させるステップを含む、前記方法。
【請求項28】
希土類金属を抽出するための、請求項22若しくは23に記載のイオン液体、又は請求項24若しくは25に記載の組成物の使用。
【請求項29】
イオン液体又は組成物が、第1及び第2の希土類金属を含む溶液から第1の希土類金属を優先的に抽出するのに用いられる、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
希土類金属の電着のための、請求項26に記載の組成物の使用。
【請求項31】
希土類金属の沈殿のための、請求項26に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類金属の抽出及び分離に関する。特に、本発明は、特別に設計されたイオン液体を用いる希土類金属の抽出及び分離に関する。
【背景技術】
【0002】
ランタニド(La~Lu)、Y、及びScを含む希土類金属は、それらを、風車、LCD/LEDディスプレイ、蛍光体、磁気駆動(ハードディスク)その他などの多数のハイテク製品及び環境技術の極めて重要な構成要素とするユニークな物理化学的特性を有する。これらの応用は、現在、これらの金属の天然鉱石を採鉱し、加工することによって満足される、高純度希土類金属の産業への連続供給を要求する。しかしながら、これらの金属の指数関数的に増大する要求は、今後の供給を上回る懸念があり、従って、これらの価値ある金属の他の二次的な源を探索するのは魅力的なものとなる。1つのそのような源は、大きな挑戦ではあるが、希土類金属の実現可能性を秘めた連続供給を提供できる、(しばしば、「都市鉱山」という)使用済み及び製造廃棄材料からの希土類金属の回収である。都市鉱山の最も重要な要件のうちの1つは、互いの希土類金属の選択的かつ有効な分離(グループ内分離)を可能として、高純度の希土類金属を提供する、費用効果がありかつ頑強な分離プロセス/技術の開発である。
【0003】
最近50年間の間に、液液抽出(例えば、Rhone-Poulenc社プロセス)、イオン交換及び沈殿などの種々のプロセスが開発されてきた。種々の利用可能な技術の中で、液液抽出は、そのスケーラビリティ、適応性、及びリサイクル性のため最も適切な商業的プロセスであることが判明している。加えて、今日用いられている液液抽出プロセスは、個々の希土類金属に対して特異的な選択性を保有せず、それにより、希土類金属を互いに分離するための多数の段階の原因となる(表1参照)商業的有機リン抽出剤を使用する。さらに、希土類金属を高純度で回収するには、一般的に、追加の加工ステップが必要とされる。これらの因子は、加工コストの多大な増大を引き起こし、それにより、消費者製品の総コストに負担をかけている。また、希土類金属の分離のために最も使用される方法は、それらの毒性、揮発性及び引火性のため、環境に優しいと考えられない有機溶媒の使用を必要とする。
【0004】
希土類金属のグループ内分離で利用可能な現在用いられる産業的液液抽出プロセス(例えば、ネオジムからのジスプロシウムの分離)のいくつかが、表1で比較されている。
【0005】
個々の希土類金属対に対する分離係数は、希土類金属の分配比(DM)の比として表され、ここで、個々の希土類金属の分配比は、水性相における濃度に対する非水性相における濃度の比、すなわち、DM=[M]N-Aq/[M]Aqとして決定される。例えば、ネオジムに対するジスプロシウムの分離係数 =DDy/DNdである。
【0006】
【0007】
最も普通に使用される有機リン抽出剤のもう1つ、P507(2-エチルヘキシルリン酸モノ(2-エチルヘキシル)エステル)もまた、低い分離係数を与え、重希土類金属に対する選択性は、一般には、軽希土類金属に対するよりも低い(例えば、Tm/Er(3.34)、Yb/Tm(3.56)、及びLu/Yb(1.78))。P507などの多くの通常の希土類金属抽出剤のもう1つの重要な欠陥は、より高い酸度においてさえ、特にTm(III)、Yb(III)、及びLu(III)に対して、重希土類金属を完全に取り除くのが困難なことである。希土類金属に対する低い選択性の結果、有効な分離に必要なあまりにも多くの段階がもたらされ、希土類金属の低い抽出性は、抽出剤のより高い濃度の使用を要求する。有機リン抽出剤の製造もまた、有害な出発材料から出発する複雑な合成手法を必要とし、これらの抽出剤の安定性及びリサイクル性は制限される。抽出剤の乳化及び浸出は、もう1つの共通の問題として確認されてきた。
【0008】
シリカ支持体に結合されたキレート化ジアミド抽出剤は、ランタニドの分離について、Fryxell et al.によって報告された(Inorganic Chemistry Communications, 2011, 14, 971-974)。しかしながら、このシステムは、酸性条件(pH<5)下で希土類金属を抽出できず、重要なことには、希土類金属の間で非常に低い取込み及び分離係数を示した。
【0009】
イオン液体も、希土類金属のための将来性がある抽出剤として用いられてきた。Binnemans et al.は、ベタイニウムビス(トリフルオロメチル-スルホニル)イミドイオン液体での、遷移金属化合物の混合物からのNd及びDy又はY及びEuの抽出を報告した(Green Chemistry, 2015, 17, 2150-2163; Green Chemistry, 2015, 17, 856-868)。しかしながら、このシステムは、希土類金属の間のグループ内分離を選択的に行うことができなかった。
【0010】
Chai et al.は、希土類金属の分離のための、トリオクチルメチルアンモニウムカチオンと共に2-エチルヘキシルホスホン酸モノ(2-エチルヘキシル)エステル(P507)に基づくイオン液体を使用することを報告した(Hydrometallurgy, 2015, 157(C), 256-260)。この場合、低い分配係数及び分離係数のみが観察され、抽出性及び選択性の欠如を示す。加えて、イオン液体からの希土類金属の回収の間に、加えた酸は、酸-塩基対イオン液体を分解し、これは、次いで、メタセシスによって再生されなければならない。
【0011】
Nd及びDyの分離が、Schelter et al.によって報告されており、それにより、ベンゼンへの異なる溶解性を持つNd及びDy複合体を形成するための三脚型ニトロキシド配位子を用いる沈殿によって分離が達成された。しかしながら、沈殿は、商業的に実行可能なプロセスであるとは考えられず、加えて、該プロセスは、特異的な希土類金属前駆体、及び商業的なスケールアップにはかなり非現実的である、不活性な無水分環境の使用を必要とする。この方法もまた、非常に毒性な溶媒である、高分離を達成するためのベンゼンの使用に依拠している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Fryxell et al., Inorganic Chemistry Communications, 2011, 14, 971-974
【文献】Binnemans et al., Green Chemistry, 2015, 17, 2150-2163
【文献】Binnemans et al., Green Chemistry, 2015, 17, 856-868
【文献】Chai et al., Hydrometallurgy, 2015, 157(C), 256-260
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、環境汚染を最小化しつつ、分離の選択性及び抽出性を高める効果的なプロセスの開発に対する要望が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
特別な特徴を有するカチオンを有するイオン液体を用いることによって、種々の抽出剤を用いる公知の方法と比較して増大した選択性及び抽出性で、希土類金属を抽出し、互いに分離することができることが判明した。該方法はイオン液体を用いるので、抽出剤は揮発性及び引火性の減少も提供することができ、より安全でより環境に優しい希土類金属抽出につながる実現可能性を秘めている。
【0015】
かくして、第1の局面において、本発明は、1又は2種以上の希土類金属の混合物から希土類金属を抽出する方法であって、該希土類金属の酸性溶液を、イオン液体を含む組成物と接触させて、水性相、及びその中に該希土類金属が選択的に抽出された非水性相を形成するステップを含み、該イオン液体が、式:
[Cat+][X-]
[式中、
[Cat+]は、構造:
【0016】
【0017】
(式中、[Y+]は、アンモニウム、ベンズイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、ボロリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、ジアザビシクロ-ウンデセニウム、ジチアゾリウム、フラニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、モルホリニウム、オキサボロリウム、オキサホスホリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ-オキサゾリウム、オキソチアゾリウム、ホスホリウム、ホスホニウム、フタラジニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、ピラニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソ-キノリニウム、キノキサリニウム、キヌクリジニウム、セレナゾリウム、スルホニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ-チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ-チアゾリウム、チオフェニウム、チウロニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、イソ-トリアゾリウム及びウロニウム基から選択される基を含み;
各EDGは、電子供与基を表し;及び
L1は、C1-10アルカンジイル、C2-10アルケンジイル、C1-10ジアルカニルエーテル及びC1-10ジアルカニルケトン基から選択される連結基を表し;
各L2は、C1-2アルカンジイル、C2アルケンジイル、C1-2ジアルカニルエーテル及びC1-2ジアルカニルケトン基から独立して選択される連結基を表す)
を有するカチオン種を表し;及び
[X-]は、アニオン種を表す]
を有する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書中で用いる場合、用語「イオン液体」は、塩を融解させることによって生じさせることができる液体をいい、そのように生じさせた場合、イオンのみからなる。イオン液体は、1種類のカチオン及び1種類のアニオンを含む均質な物質から形成させることができるか、又は1を超える種類のカチオン及び/又は1を超える種類のアニオンから構成できる。かくして、イオン液体は、1を超える種類のカチオン及び1種類のアニオンから構成され得る。イオン液体は、さらに、1種類のカチオン及び1又は2種類以上のアニオンから構成され得る。なおさらに、イオン液体は、1を超える種類のカチオン及び1を超える種類のアニオンから構成され得る。
【0019】
用語「イオン液体」は、双方の高い融点を有する化合物、及び例えば、室温の又は室温未満の低い融点を有する化合物を含む。かくして、多くのイオン液体は、200℃未満、特に100℃未満、室温前後(15~30℃)、又は0℃未満さえの融点を有する。30℃前後未満の融点を有するイオン液体は、通常、「室温イオン液体」といい、しばしば、窒素含有複素環式カチオンを有する有機塩に由来する。室温イオン液体において、カチオン及びアニオンの構造は、秩序立った結晶性構造の形成を妨げ、従って該塩は室温において液体である。
【0020】
イオン液体は、溶媒として最も広く公知である。多くのイオン液体は、無視できる蒸気圧、温度安定性、低い引火性及びリサイクル性を有することが示されている。入手可能な非常に多数のアニオン/カチオン組合せのため、イオン液体の物理的特性(例えば、融点、密度、粘度、及び水又は有機溶媒との混和性)を微妙に調整して、特別な応用の要件に合致させることが可能である。
【0021】
典型的には、希土類金属が、鉱石又は廃棄材料などの源から抽出される場合、得られる生成物は、水性酸性溶液に溶解された希土類金属の混合物である。本発明による方法において、希土類金属は、水性酸性供給物から直接的に選択的に抽出でき、抽出に先立っての供給物への重要な処理を適用する必要性を無くする。
【0022】
酸性溶液と接触させたときに水性相及び非水性相を形成するためには、イオン液体を含む組成物は、相分離が水性溶液及び組成物の間で起こるように十分に疎水性とすることが認識されるであろう。
【0023】
第1の局面に従って定義されたイオン液体を含む組成物の使用によって、驚くべきことに、酸性溶液からの希土類金属の抽出において、増大した選択性及び抽出性を得ることができることが判明した。(分配比によって示される)高い抽出性と(分離係数によって示される)選択性との組合せが、商業的に効果的な分離プロセスに対して鍵となる。何故ならば、純度を犠牲とすることなく、生成物を生じさせるのに必要な分離段階の数を低下させることができるからである。例えば、本発明の方法によると、1回の接触で、ジスプロシウム及びネオジムの混合物を1000:1を超える選択性(分離係数)で分離することができる。これは、表1に報告された公知のシステムを上回る実質的な増加を表す。
【0024】
いかなる特定の理論に拘束されるつもりはないが、イオン液体中における中心窒素ドナー原子の存在は、ランタニド収縮による異なるイオン半径の結果として、異なる希土類金属に対する異なる結合強度を可能にすると考えられる。このように、いくつかの希土類金属は、疎水性イオン液体抽出剤によって優先的に結合され、その結果、希土類金属の効果的なグループ内分離がもたらされる。イオン液体の一部としてのこの可変窒素結合の配置は、本明細書中に記載された希土類金属の特に効果的な抽出を提供すると考えられる。それにも拘わらず、窒素ドナーを含むイオン液体は、十分な抽出性を提供するためには、異なる希土類金属の間を区別しつつ、追加の電子供与基を有しなければならないと認識されるであろう。
【0025】
好ましくは、該方法は、さらに、非水性相から希土類金属を回収するステップを含む。この回収はいかなる適切な手段を用いて行うこともできるが、希土類金属は、酸性ストリッピング液でのストリッピングによって非水性相から回収されるのが好ましい。
【0026】
酸性ストリッピング溶液は、希土類金属をイオン液体から遊離させるいかなる酸性溶液とすることもできると認識されるであろう。ほとんどの実施形態において、酸性ストリッピング溶液は、水性酸性ストリッピング溶液とすることとなり、該酸は、引き続いてイオン液体との接触に際して水性相に実質的に残存することとなろう。好ましくは、水性ストリッピング溶液は、塩酸水溶液又は硝酸水溶液を含む。
【0027】
希土類金属のストリッピングは、いかなる適切な方法で行うこともできる。好ましくは、イオン液体は2回以上のストリッピングサイクルの間、酸性ストリッピング溶液と接触させて、希土類金属を完全に取り去り、より好ましくは、2又は3回のストリッピングサイクルが用いられる。いくつかの実施形態において、1回のストリッピングサイクルを用いることができる。本明細書中において言及される「ストリッピングサイクル」は、典型的には、酸性ストリッピング溶液を組成物と接触させ、一定長さの時間の間、例えば、15~30分間平衡化させ、水性及び有機相を分離するステップを含むこととなろう。第2のサイクルは、組成物を、希土類金属を実質的に含まないもう1つの酸性ストリッピング溶液と接触させることによって行うことができる。
【0028】
第1の局面に関連して記載したイオン液体抽出剤の1つの利点は、希土類金属を、比較的高いpHにおいてイオン液体から取り除くことができることである。これは、希土類金属をイオン液体から取り除くのに必要な酸の量及び強度、並びにそのような強酸を取り扱うのに必要な機器の双方に関連するコストを削減する。加えて、比較的高いpHにおいて、希土類金属をイオン液体から完全に取り除くことが可能である一方で、P507などの多くの公知の抽出剤については、低いpHにおいてさえ、重希土類金属(例えば、Tm(III)、Yb(III)、Lu(III))を完全に取り除くのは困難である。
【0029】
かくして、酸性ストリッピング溶液は、好ましくは、0以上のpHを有する。好ましい実施形態において、酸性ストリッピング溶液は、1以下のpHを有する。
【0030】
好ましい実施形態において、該方法は、2又は3種以上の希土類金属の混合物から希土類金属を抽出するステップを含む。好ましくは、酸性溶液は、第1及び第2の希土類金属を含み、該方法は:
(a)第1の希土類金属を非水性相に優先的に分配するステップ
を含む。
【0031】
好ましくは、該方法は、さらに、ステップ(a)において、酸性溶液から非水性相を分離するステップ;及び
(b)第1の希土類金属が枯渇した酸性溶液を、イオン液体を含む組成物と接触させ、任意にそれから第2の希土類金属を回収するステップ
を含む。
【0032】
いくつかの好ましい実施形態において、第1の希土類金属は、ステップ(a)において、非水性相から回収され、該非水性相はリサイクルされ、ステップ(b)における組成物として用いられる。
【0033】
特定の希土類金属に対する抽出性(分配係数)はpHと共に変化する故に、異なる希土類金属を異なるpHレベルで抽出するのが好ましいであろうと認識されるであろう。例えば、酸性溶液は、ステップ(b)におけるそれと比較して、ステップ(a)においてより低いpHを有することができる。好ましくは、酸性溶液は、ステップ(a)において、3.5未満のpHを有し、酸性溶液は、ステップ(b)において、3.5よりも大きなpHを有する。典型的には、2又は3回の抽出サイクルが特定のpHにおいて行われることとなろう。上記実施形態は2つの異なるpH値のみにおける抽出を記載するが、希土類金属の分離は、通常、pHの漸増及び多数の抽出ステップを伴って、pH値の一定範囲にわたって行われることとなろうと認識されるであろう。例えば、3又は4種以上の希土類金属が分離される場合、複数の分離ステップを、特定のpH範囲にわたって、例えば、pH1~4で行うことができる。
【0034】
希土類金属がそれから抽出される酸性溶液は、いかなる適切なpHを有することもできる。好ましくは、希土類金属は、1を超えるpHにおいて、より好ましくは、2~4のpHにおいて抽出される。
【0035】
希土類金属の酸性溶液のpHレベルは、当業者に周知であるように、いかなる適切な方法で調整することもできる。例えば、酸性溶液のpHレベルは、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア、CO2、アミン又はアルコールを含む弱アルカリ性溶液などの酸スカベンジャーの添加によって変化させることができる。
【0036】
上記実施形態は、変化するpHレベルにおいて、希土類金属の酸性溶液から、直接的に、特定の希土類金属をもう1つの希土類金属から分離することに言及する。しかしながら、いかなる適切な抽出順序を用いて希土類金属を分離することもできると理解されるであろう。例えば、2又は3種以上の希土類金属は、より高いpHにおいて、同時に、酸性溶液から非水性相へ抽出することができ、続いて、より低いpHを有する酸性溶液での非水性相の逆抽出を行って、個々の希土類金属を分離することができる。かくして、酸性溶液に存在する希土類金属の全て又はいくつかのみを、イオン液体を含む組成物を用いて酸性溶液から最初に抽出することができる。
【0037】
希土類金属のある対の分離は、価値ある廃棄材料からのそれらの同時回収のため特に重要なものであると認識されるであろう。例えば、Nd及びDyは、ハードディスク、MRIスキャナー、電気自動車及び発電機などの多数の応用のために永久磁石において広く用いられている。La及びEuもまた、ランプ蛍光体でのそれらの通常の使用のため重要な対であり、他の蛍光体は、Y及びEu(YOX蛍光体);La、Ce及びTb(LAP蛍光体);Gd、Ce及びTb(CBT蛍光体);及びCe、Tb(CAT蛍光体)を含む。
【0038】
かくして、好ましい実施形態において、第1の希土類金属はジスプロシウムであり、第2の希土類金属はネオジムである。他の好ましい実施形態において、第1の希土類金属はランタンであり、第2の希土類金属はユーロピウムである。なお他の好ましい実施形態において、第1の希土類金属はテルビウムであり、第2の希土類金属はセリウムである。
【0039】
組成物は、希土類金属の交換が水性と非水性相の間で達成されるように、任意の適切な方法で、かつ任意の適切な比で、酸性溶液と接触させることができる。
【0040】
組成物は、好ましくは、0.5:1~2:1、好ましくは0.7:1~1.5:1、より好ましくは0.8:1~1.2:1、例えば、1:1の容量比で酸性溶液に加えられる。それにも拘わらず、容量比は、酸性溶液をイオン液体を含む組成物と接触させる方法に依存して変化するであろうと認識されるであろう。
【0041】
好ましくは、組成物を希土類金属の酸性溶液と接触させるに先立って、組成物は、希土類金属の酸性溶液と同一のpHを有する酸性溶液で平衡化させる。このように、組成物及び酸性溶液の混合物は、一般には、抽出の間において、望まれるpHレベルのままとなろう。
【0042】
組成物は、希土類金属を抽出するのに適切ないかなる条件下で、希土類金属の酸性溶液と接触させることもできる。
【0043】
酸性溶液の、イオン液体を含む組成物との接触の間に使用される温度は、いかなる適切な温度とすることもでき、イオン液体を含む組成物の粘度に従って変化させることができると認識されるであろう。例えば、より高い粘度の組成物を用いる場合、最適な結果を得るためには、より高い温度を必要とし得る。
【0044】
好ましくは、酸性溶液は、周囲温度にて、すなわち、外部加熱又は冷却なく、組成物と接触される。それにも拘わらず、組成物を酸性溶液と接触させた結果として、抽出の間に、温度変化が自然に起こり得ると認識されるであろう。
【0045】
組成物は、希土類金属の非水性相への抽出を容易とするのに適切な任意の長さの時間の間、希土類金属の酸性溶液と接触させることができる。好ましくは、時間の長さは、平衡化が達成され、水性及び非水性相中の希土類金属の割合が一定となるようにすることとなろう。好ましい実施形態において、該方法は、希土類金属の酸性溶液及び組成物を10~40分間、好ましくは15~30分間接触させるステップを含む。
【0046】
好ましくは、該方法は、希土類金属の酸性溶液及び組成物を接触させ、物理的に混合するステップを含む。そのような混合は、通常、希土類金属の抽出をスピードアップさせるであろう。いかなる適切な装置を用いて、これを達成することもでき、混合装置は当該分野で周知である。例えば、混合物は、アジテーター又はスターラーを用いて混合することができる。混合装置は、高剪断デバイスなどの多相混合のために特別に設計された機器を含むことができる。別法として、混合は、例えば、リストアクションシェーカーを用いて混合物を振盪するステップを含むことができる。
【0047】
水性相と非水性相の分離は、任意の適切な方法、例えば、分離漏斗又はCraig社製装置などの小規模な装置の使用によって行うことができる。相は、通常、分離に先立って沈降させることとなると認識されるであろう。沈降は、重力下とすることができ、好ましくは、遠心機などの追加の機器の使用によって加速させることができる。別法として、水性相と非水性相は、相を接触させ、分離する機器、例えば、遠心抽出器、パルスカラム、又はミキサー-沈降機の組合せの使用によって分離することができる。
【0048】
いくつかの希土類金属を抽出し、又は分離するためには、多数回の抽出及び分離を行うことができると理解されるであろう。これは、希土類金属の酸性溶液の組成物での多数回の抽出、又は非水性相の水性酸性溶液での多数回の逆抽出を含むことができる。本発明によると、典型的には従前のシステムにおいて見出されたものを超える分離係数及び分配比を与えるイオン液体抽出剤のため、希土類金属を分離するのに必要なのはより少数のステップである。
【0049】
電子供与基(EDG、electron donating group)という用語は、本明細書中で用いる場合、アクセプターと配位結合を形成するのに利用できる電子の対を有するいかなる基も含むと理解されるであろう。特に、本明細書中で定義される電子供与基とは、希土類金属に配位して、金属-配位子錯体を形成することができる電子の利用可能な対を有する基をいうと認識されるであろう。また、EDGは、典型的には、それから電子が供与されて、結合を形成する単一の原子を有すると理解されるであろう。しかしながら、電子は、別法として、原子の間の1又は2個以上の結合から供与することができ、すなわち、EDGは2または3以上のハプト数を持つ配位子を表すことができる。
【0050】
EDG及びリンカーL2の配置は、EDG及び中心窒素原子が、同時に、希土類金属に配位できるようなものであると理解されるであろう。
【0051】
好ましくは、L1を各L2に連結する窒素およびEDGの1つの両方が金属に配位する場合、該窒素、L2、該EDG及び該金属によって形成される環は、5又は6員環、好ましくは5員環である。
【0052】
好ましい実施形態において、[Y+]は:
[-N(Ra)(Rb)(Rc)]+、[-P(Ra)(Rb)(Rc)]+及び[-S(Ra)(Rb)]+
[式中、Ra、Rb及びRcは、各々、独立して、置換されていてもよいC1-30アルキル、C3-8シクロアルキル及びC6-10アリール基から選択される]
から選択される非環式カチオンを表す。
【0053】
他の好ましい実施形態において、[Y+]は:
【0054】
【0055】
[式中、Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfは、各々、独立して、水素及び置換されていてもよいC1-30アルキル、C3-8シクロアルキル及びC6-10アリール基から選択されるか、又は隣接炭素原子に結合したRa、Rb、Rc、Rd及びReのうちのいずれか2つは、qが3~6である、置換されていてもよいメチレン鎖-(CH2)q-を形成する]
から選択される環式カチオンを表す。
【0056】
適切には、好ましい実施形態において、Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfのうちの少なくとも1つは、-CO2Rx、-OC(O)Rx、-CS2Rx、-SC(S)Rx、-S(O)ORx、-OS(O)Rx、-NRxC(O)NRyRz、-NRxC(O)ORy、-OC(O)NRyRz、-NRxC(S)ORy、-OC(S)NRyRz、-NRxC(S)SRy、-SC(S)NRyRz、-NRxC(S)NRyRz、-C(O)NRyRz、又は-C(S)NRyRzで置換されたC1-5アルキル基であり、これらの式中、Rx、Ry及びRzは、独立して、水素及びC1-6アルキルから選択される。
【0057】
本発明のもう1つの好ましい実施形態において、[Y+]は、環式アンモニウム、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、モルホリニウム、環式ホスホニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、キヌクリジニウム、及び環式スルホニウムから選択される飽和複素環式カチオンを表す。
【0058】
好ましくは、[Y+]は、式:
【0059】
【0060】
[式中、Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfは、先に定義した通りである]
を有する飽和複素環式カチオンを表す。
【0061】
好ましくは、Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfのうちの少なくとも1つは、-CO2Rx、又は-C(O)NRyRzで置換されたC1-3アルキル基であり、これらの式中、Rx、Ry及びRzは、各々、独立して、C3-6アルキルから選択される。
【0062】
より好ましくは、Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfのうちの少なくとも1つは:
【0063】
【0064】
[式中、Ry=Rzであり、Rx、Ry及びRzは、各々、C3-6アルキル、好ましくはC4アルキル、例えば、i-Buから選択される]
から選択される基を表す。
【0065】
なおより好ましくは、Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfのうちの少なくとも1つは:
【0066】
【0067】
[式中、Ry=Rzであり、Ry及びRzは、C3-6アルキル、好ましくはC4アルキル、例えば、i-Buから選択される]
から選択される基を表す。
【0068】
好ましい実施形態において、Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfのうちの1つは、置換されたC1-5アルキル基であり、Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfのうちの残りは、独立して、H及び非置換のC1-5アルキル基から選択され、好ましくは、Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfのうちの残りはHである。
【0069】
好ましくは、[Y+]は:
【0070】
【0071】
から選択される環式カチオンを表し;
より好ましくは、[Y+]は環式カチオン:
【0072】
【0073】
を表し;
好ましくは、式中、Rfは置換されたC1-5アルキル基であり、Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfのうちの残りは、独立して、H及び非置換のC1-5アルキル基から選択される。
【0074】
好ましい実施形態において、L1は、C1-10アルカンジイル及びC1-10アルケンジイル基から選択され、より好ましくは、C1-5アルカンジイル及びC2-5アルケンジイル基から選択され、最も好ましくは、C1-5アルカンジイル基から選択される連結基、例えば、-CH2-、-C2H4-及びC3H6-から選択される連結基を表す。
【0075】
好ましい実施形態において、各L2は、独立して、C1-2アルカンジイル及びC2アルケンジイル基から選択され、好ましくはC1-2アルカンジイル基から選択され、例えば、-CH2-及び-C2H4-から独立して選択される連結基を表す。
【0076】
各EDGは、希土類金属とで配位結合を形成して、金属-配位子錯体を形成することができるいかなる適切な電子供与基とすることもできる。
【0077】
好ましくは、各EDGは、-CO2Rx、-OC(O)Rx、-CS2Rx、-SC(S)Rx、-S(O)ORx、-OS(O)Rx、-NRxC(O)NRyRz、-NRxC(O)ORy、-OC(O)NRyRz、-NRxC(S)ORy、-OC(S)NRyRz、-NRxC(S)SRy、-SC(S)NRyRz、-NRxC(S)NRyRz、-C(O)NRyRz、及び-C(S)NRyRzから独立して選択される電子供与基を表し、これらの式中、Rx、Ry及びRzは、独立して、H又はC1-6アルキルから選択される。より好ましくは、各EDGは、-CO2Rx及び-C(O)NRyRzから独立して選択される電子供与基を表し、これらの式中、Rx、Ry及びRzは、各々、独立して、C3-6アルキルから選択される。
【0078】
好ましい実施形態において、各-L2-EDGは:
【0079】
【0080】
[式中、Ry=Rzであり、Rx、Ry及びRzは、各々、C3-6アルキル、好ましくはC4アルキル、例えば、i-Buから選択される]
から独立して選択される電子供与基を表す。
【0081】
より好ましくは、各-L2-EDGは:
【0082】
【0083】
[式中、Ry=Rzであり、Ry及びRzは、C3-6アルキル、好ましくはC4アルキル、例えば、i=Buから選択される]
から独立して選択される電子供与基を表す。
【0084】
先に記載されたように、希土類金属の抽出は、イオン液体のカチオンの特異的官能性によって提供されると認識されるであろう。かくして、いかなる適切なアニオン種[X-]も、本発明の方法において使用されるイオン液体の一部として用いることができる。
【0085】
好ましくは、[X-]は、水酸化物、ハロゲン化物、過ハロゲン化物、擬ハロゲン化物、スルフェート、スルファイト、スルホネート、スルホンイミド、ホスフェート、ホスファイト、ホスホネート、メチド、ボレート、カルボキシレート、アゾレート、カルボネート、カルバメート、チオホスフェート、チオカルボキシレート、チオカルバメート、チオカルボネート、キサンテート、チオスルホネート、チオスルフェート、ニトレート、ニトライト、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート及びペルクロレート、ハロメタレート、アミノ酸、ボレート、及びポリフルオロアルコキシアルミネートから選択される1又は2以上のアニオン種を表す。
【0086】
例えば、[X-]は、好ましくは:
a)F-、Cl-、Br-、及びI-から選択されるハロゲン化物アニオン;
b)[I3]-、[I2Br]-、[IBr2]-、[Br3]-、[Br2C]-、[BrCl2]-、[ICl2]-、[I2Cl]-、及び[Cl3]-から選択される過ハロゲン化物アニオン;
c)[N3]-、[NCS]-、[NCSe]-、[NCO]-、及び[CN]-から選択される擬ハロゲン化物アニオン;
d)[HSO4]-、[SO4]2-、及び[R2OSO2O]-から選択されるスルフェートアニオン;
e)[HSO3]-、[SO3]2-、及び[R2OSO2]-から選択されるスルファイトアニオン;
f)[R1SO2O]-から選択されるスルホネートアニオン;
g)[(R1SO2)2N]-から選択されるスルホンイミドアニオン;
h)[H2PO4]-、[HPO4]2-、[PO4]3-、[R2OPO3]2-、及び[(R2O)2PO2]-から選択されるホスフェートアニオン;
i)[H2PO3]-、[HPO3]2-、[R2OPO2]2-、及び[(R2O)2PO]-から選択されるホスファイトアニオン;
j)[R1PO3]2-、及び[R1P(O)(OR2)O]-から選択されるホスホネートアニオン;
k)[(R1SO2)3C]-から選択されるメチドアニオン;
l)[ビスオキサラトボレート]、[ビスマロナトボレート]、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、及びテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートから選択されるボレートアニオン;
m)[R2CO2]-から選択されるカルボキシレートアニオン;
n)[3,5-ジニトロ-1,2,4-トリアゾレート]、[4-ニトロ-1,2,3-トリアゾレート]、[2,4-ジニトロイミダゾレート]、[4,5-ジニトロイミダゾレート]、[4,5-ジシアノイミダゾレート]、[4-ニトロイミダゾレート]、及び[テトラゾレート]から選択されるアゾレートアニオン;
o)チオカルボネート(例えば、[R2OCS2]-)、チオカルバメート(例えば、[R2
2NCS2]-)、チオカルボキシレート(例えば、[R1CS2]-)、チオホスフェート(例えば、[(R2O)2PS2]-)、チオスルホネート(例えば、[RS(O)2S]-)、及びチオスルフェート(例えば、[ROS(O)2S]-)から選択される硫黄含有アニオン;
p)ニトレート([NO3]-)又はニトライト([NO2]-)アニオン;
q)テトラフルオロボレート([BF4
-])、ヘキサフルオロホスフェート([PF6
-])、ヘキサフルオロアンチモネート([SbF6
-])又はペルクロレート([ClO4
-])アニオン;
r)[CO3]2-、[HCO3]-、及び[R2CO3]-から選択されるカルボネートアニオン;好ましくは、[MeCO3]-;
s)RFが1又は2個以上のフルオロ基によって置換されたC1-6アルキルから選択される[Al(ORF)4
-]から選択されるポリフルオロアルコキシアルミネートアニオン;
から選択される1又は2以上のアニオン種を表し、
式中、R1及びR2は、その各々が:フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、C1-C6アルコキシ、C2-C12アルコキシアルコキシ、C3-C8シクロアルキル、C6-C10アリール、C7-C10アルカリール、C7-C10アラルキル、-CN、-OH、-SH、-NO2、-CO2Rx、-OC(O)Rx、-C(O)Rx、-C(S)Rx、-CS2Rx、-SC(S)Rx、-S(O)(C1-C6)アルキル、-S(O)O(C1-C6)アルキル、-OS(O)(C1-C6)アルキル、-S(C1-C6)アルキル、-S-S(C1-C6アルキル)、-NRxC(O)NRyRz、-NRxC(O)ORy、-OC(O)NRyRz、-NRxC(S)ORy、-OC(S)NRyRz、-NRxC(S)SRy、-SC(S)NRyRz、-NRxC(S)NRyRz、-C(O)NRyRz、-C(S)NRyRz、-NRyRz、及び複素環式基から選択される1又は2個以上の基によって置換されていてもよい、C1-C10アルキル、C6アリール、C1-C10アルキル(C6)アリール及びC6アリール(C1-C10)アルキルからなる群から独立して選択され、これらの式中、Rx、Ry及びRzは、水素及びC1-C6アルキルから独立して選択され、これらの式中、R1はフッ素、塩素、臭素又はヨウ素であってもよい。
【0087】
[X-]はいかなる適切なアニオンであってもよいが、[X-]は非配位性アニオンを表すのが好ましい。イオン液体及び金属配位化学の分野において普通である、本明細書中で用いる用語「非配位性アニオン」は、金属の原子若しくはイオンと配位しないか、又は弱くのみそうするアニオンを意味することが意図される。典型的には、非配位性アニオンは、それらの配位能力を有意に制限する分子における複数の原子にわたって分散したそれらの電荷を有する。これは、アニオンと、希土類金属を伴うカチオン[Cat+]の選択的配位との効果干渉を制限する。
【0088】
かくして、より好ましくは、[X-]は:ビストリフルイミド、トリフレート、トシレート、ペルクロレート、[Al(OC(CF3)3)4
-]、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロアンチモネート及びヘキサフルオロホスフェートアニオンから;最も好ましくは、ビストリフルイミド及びトリフレートアニオンから選択される1又は2以上の非配位性アニオン種を表す。
【0089】
いくつかの好ましい実施形態において、[Cat+]は、構造:
【0090】
【0091】
[式中、[Z+]は、アンモニウム、ベンズイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、ボロリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、ジアザビシクロ-ウンデセニウム、ジチアゾリウム、フラニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、モルホリニウム、オキサボロリウム、オキサホスホリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ-オキサゾリウム、オキソチアゾリウム、ホスホリウム、ホスホニウム、フタラジニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、ピラニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソ-キノリニウム、キノキサリニウム、キヌクリジニウム、セレナゾリウム、スルホニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ-チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ-チアゾリウム、チオフェニウム、チウロニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、イソ-トリアゾリウム及びウロニウム基から選択される基を表す]
を有する1又は2以上のイオン種を表す。
【0092】
組成物は、希釈剤と組み合わせて上記定義のイオン液体を含むことができると理解されるであろう。典型的には、希釈剤は、イオン液体が、液液抽出におけるその現実的使用を制限する高い粘度を有する組成物の粘度を減少させるために用いることができる。希釈剤は、希釈剤がイオン液体よりも製造するのが安価であるコストを削減するのにも用いることができる。組成物に加えられたいかなる希釈剤も、組成物と希土類金属の酸性溶液との水性及び非水性相への分離を可能とするように十分に疎水性とされるであろうことは理解されるであろう。いくつかの実施形態において、希釈剤は、組成物の疎水性を高めることができる。
【0093】
かくして、好ましい実施形態において、組成物は、さらに、より低い粘度のイオン液体を含む。用語「より低い粘度のイオン液体」は、このイオン液体が、先に記載したイオン液体抽出剤よりも低い粘度を有することを意味すると理解されるであろう。述べたように、より低い粘度のイオン液体は、組成物と希土類金属の酸性溶液との水性及び非水性相への分離を可能とするように十分に疎水性とされるであろうことは理解されるであろう。疎水性が、より低い粘度のイオン液体のカチオン又はアニオンのいずれかによって、又は双方によって提供され得ることも認識されるであろう。
【0094】
希釈剤としてのイオン液体の使用によって、イオン液体抽出剤によって供された揮発性及び引火性の減少を維持して、より安全でより環境に優しい実現可能性を秘めた希土類金属抽出プロセスを与えることができる。
【0095】
好ましい実施形態において、より低い粘度のイオン液体のカチオンは、アンモニウム、ベンズイミダゾリウム、ベンゾフラニウム、ベンゾチオフェニウム、ベンゾトリアゾリウム、ボロリウム、シンノリニウム、ジアザビシクロデセニウム、ジアザビシクロノネニウム、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニウム、ジアザビシクロ-ウンデセニウム、ジチアゾリウム、フラニウム、グアニジニウム、イミダゾリウム、インダゾリウム、インドリニウム、インドリウム、モルホリニウム、オキサボロリウム、オキサホスホリウム、オキサジニウム、オキサゾリウム、イソ-オキサゾリウム、オキソチアゾリウム、ホスホリウム、ホスホニウム、フタラジニウム、ピペラジニウム、ピペリジニウム、ピラニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、キナゾリニウム、キノリニウム、イソ-キノリニウム、キノキサリニウム、キヌクリジニウム、セレナゾリウム、スルホニウム、テトラゾリウム、チアジアゾリウム、イソ-チアジアゾリウム、チアジニウム、チアゾリウム、イソ-チアゾリウム、チオフェニウム、チウロニウム、トリアジニウム、トリアゾリウム、イソ-トリアゾリウム及びウロニウム基から選択される。
【0096】
好ましくは、より低い粘度のイオン液体のカチオンは、ホスホニウム、イミダゾリウム及びアンモニウム基から選択される。
【0097】
いくつかの好ましい実施形態において、より低い粘度のイオン液体のカチオンは:
[N(R3)(R4)(R5)(R6)]+及び[P(R3)(R4)(R5)(R6)]+
[式中、R3、R4、R5及びR6は、各々、独立して、置換されていてもよいC1-20アルキル、C3-8シクロアルキル及びC6-10アリール基から選択される]
から選択される。
【0098】
より好ましい実施形態において、より低い粘度のイオン液体のカチオンは、R3、R4、及びR5がC1-10アルキル、好ましくはC2-6アルキルから選択され、R6がC4-20アルキル、好ましくはC8-14アルキルから選択される[P(R3)(R4)(R5)(R6)]+である。例えば、より低い粘度のイオン液体のカチオンは、トリエチルオクチルホスホニウム(P222(8)]+)、トリブチルオクチルホスホニウム(P444(8)]+)、トリヘキシルオクチルホスホニウム(P666(8)]+)、トリヘキシルデシルホスホニウム(P666(10)]+)、及びトリヘキシルテトラデシルホスホニウム(P666(14)]+)から選択することができる。
【0099】
他のより好ましい実施形態において、より低い粘度のイオン液体のカチオンは、R3、R4、及びR5がC4-14アルキル、好ましくはC6-10アルキルから選択され、R6がC1-4アルキル、好ましくはC1-2アルキルから選択される[N(R3)(R4)(R5)(R6)]+である。例えば、より低い粘度のイオン液体のカチオンは、トリオクチルメチルアンモニウム、トリス(2-エチルヘキシル)メチルアンモニウム、及びテトラブチルアンモニウムから選択することができる。
【0100】
他の好ましい実施形態において、より低い粘度のイオン液体のカチオンは、1又は2個以上のC1-20アルキル、C3-8シクロアルキル及びC6-10アリール基で置換された、好ましくは2個のC1-10アルキル基で置換された、より好ましくは1個のメチル基及び1個のC1-10アルキル基で置換されたイミダゾリウムカチオンから選択される。例えば、より低い粘度のイオン液体のカチオンは、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム及び1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムから選択することができる。
【0101】
いかなる適切なアニオン基も、より低い粘度のイオン液体のアニオンとして用いることができると理解されるであろう。好ましくは、より低い粘度のイオン液体のアニオンは、アニオン基[X-]に関連して先に記載した通りである。例えば、より低い粘度のイオン液体のアニオンは、先に記載したように、非配位性アニオンであるのが最も好ましい。イオン液体抽出剤と比較して、より低い粘度のイオン液体からの過剰のアニオンがあってよいと認識されるであろう。従って、より低い粘度のイオン液体のアニオンは非配位性アニオンであるのが特に好ましい。
【0102】
この理由で、組成物中のハロゲン化物又は擬ハロゲン化物アニオンの合計量を制限するのが好ましい。例えば、好ましい実施形態において、組成物は、合計アニオンの割合として、25%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、最も好ましくは10%未満、例えば、5%未満のハロゲン化物又は擬ハロゲン化物アニオンを含む。いくつかの実施形態において、組成物は、ハロゲン化物又は擬ハロゲン化物アニオンを実質的に含まない。
【0103】
組成物は、別法として、又は加えて、さらに、1又は2種以上の非イオン液体希釈剤を含むことができる。例えば、いくつかの好ましい実施形態において、組成物は、さらに、1又は2種以上の有機溶媒を含む。適切な有機溶媒は疎水性かつ非配位性溶媒を含むこととなろうと理解されるであろう。金属配位化学の分野において普通である、本明細書中で用いる用語「非配位性溶媒」は、金属の原子又はイオンに配位しない、又は弱くのみそうする溶媒を意味することが意図される。
【0104】
適切な有機溶媒は、限定されるものではないが、C1-20アルカン、アルケン及びシクロアルカンなどの炭化水素溶媒、トルエン及びベンゼンなどの芳香族溶媒、n-ヘキサノールなどのC6+アルコール、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル及びメチル-t-ブチルエーテルなどのエーテル溶媒、又はテトラクロロメタン、テトラクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、及びフルオロベンゼンなどのハロゲン化溶媒を含む。好ましくは、有機溶媒は炭化水素溶媒である。
【0105】
イオン液体は、希土類金属を抽出するのに適したいかなる濃度で組成物に存在させることもでき、この濃度は、特定の応用及びpHに依存して変化するであろうことが認識されるであろう。特に、希土類金属の分離のためには、競合分離が望ましいと認識されるであろう。例えば、イオン液体の濃度は、存在する全ての希土類金属の抽出を回避するのに十分低くすべきである。従って、イオン液体の濃度は、典型的には、抽出されるべき希土類金属の濃度、及び分離が行われるpHに依存するであろう。いくつかの好ましい実施形態において、イオン液体は、少なくとも0.001M、好ましくは0.005M~0.01Mの濃度で組成物に存在させる。
【0106】
他の実施形態において、組成物は、本質的にイオン液体からなることができる。
【0107】
組成物におけるイオン液体の濃度は、組成物に対して特定の目標粘度を達成するために変化させることができると認識されるであろう。より低い粘度のイオン液体又は他の希釈剤の特徴は、特定の粘度レベルを得るために変化させることができることも認識されるであろう。
【0108】
好ましい実施形態において、組成物がより低い粘度のイオン液体中にイオン液体の溶液を含む場合、組成物の粘度は、298Kにおいて50~500mPa.sの範囲にある。イオン液体が有機溶媒の溶液中にある場合、組成物は、同様に、より低い粘度、例えば、50mPa.s未満を有するであろうと認識されるであろう。粘度は、いかなる適切な方法によって測定することもでき、例えば、粘度は、可変温度を伴う回転ディスク粘度計を用いて測定することができる。
【0109】
いくつかの実施形態において、酸性溶液は、酸、例えば、塩酸、硝酸、過塩素酸及び硫酸などの鉱酸、典型的には、塩酸又は硝酸を用いてその源から希土類金属を浸出することによって得ることができる。好ましくは、希土類金属の源は、鉱物又は廃棄材料である。しかしながら、希土類金属又は希土類金属の混合物の酸性溶液は、いかなる希土類金属源からも、いかなる適切な方法にても得ることができると認識されるであろう。
【0110】
酸性溶液中の希土類金属の濃度は、典型的には、60ppm~2000ppmである。それにも拘わらず、酸性溶液中の希土類金属のいかなる適切な濃度を用いることもできると認識されるであろう。
【0111】
典型的には、希土類金属は、特定の鉱石に依存して、種々の方法によって採鉱され、加工される希土類鉱石から得られる。そのようなプロセスは、当該分野で周知である。通常、以下の採鉱のそのようなプロセスは、粉砕、カルボネートを除去するための焙焼、化学的加工(例えば、アルカリ/水酸化物処理)、及び最後に、希土類金属の混合物を含有する水性酸性溶液を得るための酸での浸出などのステップを含むことができる。
【0112】
希土類鉱石に含有された希土類金属担持鉱物の例は、エシナイト、褐廉石、アパタイト、バストネス石、ブランネル石、ブリト石、ユージアライト、ユークセン石、フェルグソン石、ガドリン石、異常石、ロパライト、モナズ石、パリス石、ペロブスカイト、パイロクロール、ゼノタイム、イットロセライト、黄河石、セバアイト、フローレンス石、シンキス石、サマルスキー石、及びミッパイトである。
【0113】
希土類金属は、次第に、リサイクルされた材料からも得ることができるようになっている。希土類金属に対する世界的な要望が増えるにつれ、特に、採鉱可能な希土類鉱石が欠如した国においては、リサイクルされた廃棄材料から土類金属を得るのがますます魅力的となっている。希土類廃棄材料は、種々の源、例えば、消費者使用前製造からの希土類スクラップ/残渣の直接的リサイクリング、使用済み製品を含有する希土類の「都市鉱山」、又は希土類を含有する都市及び産業廃棄物の埋立地採鉱から得ることができる。希土類金属が消費者製品でますます用いられるにつれて、そのような廃棄材料から得ることができる希土類金属の量も増大している。
【0114】
希土類金属を含有することができる廃棄材料は、磁性切屑及び不合格品磁石、金属製造/リサイクリングからの希土類含有残渣(例えば、リン石膏及び赤泥などのポスト精錬所(postsmelter)及び電気アーク炉残渣又は産業残渣)、蛍光灯、LED、LCDバックライト、プラズマスクリーン及び陰極線管中のものなどの蛍光体、自動車、携帯電話、ハードディスクドライブ、コンピュータ及び周辺装置、電子キッチン用具、手持ち式工具、電気カミソリ、産業用電動機、電気自転車、電動車両及びハイブリッド車両モーター、並びに風力タービン発電機において使用されるものなどの永久磁石(例えば、NdFeB)、再充電可能な電池並びに電気及びハイブリッド車両電池で用いられるものなどのニッケル-金属水素化物電池、ガラス研磨粉、流動クラッキング触媒及び光学ガラスを含む。価値の観点からの希土類の主な使用済み廃棄材料源は、永久磁石、ニッケル-金属水素化物電池及びランプ蛍光体、並びに磁性切屑廃棄物の形態であるスクラップである。
【0115】
希土類金属は、通常、鉱酸での浸出、及び遷移金属などの不純物を除去するための任意のさらなる加工によって、廃棄材料から抽出されることとなろう。この結果、希土類金属の酸性溶液がもたらされ、これは、個々の希土類金属の分離及び精製用の源として用いることができる。
【0116】
かくして、便宜には、鉱石又は廃棄材料の抽出プロセスから得ることができる希土類金属の酸性溶液から、希土類金属を、高い選択性及び抽出性で、直接的に抽出することができるのは、本発明の利点である。
【0117】
本発明のさらなる局面において、本明細書中において先に実質的に記載したイオン液体([Cat+][X-])が提供される。
【0118】
本発明のさらなる局面において、本明細書中において先に実質的に記載した組成物が提供される。
【0119】
いくつかの好ましい実施形態において、該組成物は、さらに、希土類金属を含む。希土類金属を含む組成物は、それ自体が価値ある資源となることができ、例えば、酸でのストリッピングによって希土類金属を分離するのは常には望ましくはないであろうことが認識されるであろう。
【0120】
例えば、さらに希土類金属を含む組成物は、希土類金属の電着又は1若しくは2種以上の希土類金属の(例えば、シュウ酸での)沈殿で用いることができる。
【0121】
イオン液体からの希土類金属の電着、及び溶液からの希土類金属の沈殿は当該分野で周知であり、いずれも、当業者によって認識されるように、いかなる適切な方法によって行うこともできる。
【0122】
本発明のさらなる局面において、希土類金属の電着のための、希土類金属をさらに含む組成物の使用が提供される。
【0123】
本発明のさらなる局面において、希土類金属の沈殿のための、希土類金属をさらに含む組成物の使用が提供される。
【0124】
本発明のさらなる局面において、請求項59に記載のイオン液体を調製するための方法であって、
【0125】
【0126】
を
【0127】
【0128】
[式中、LGは脱離基を表す]
と反応させるステップを含む方法が提供される。
【0129】
「脱離基」は、本明細書中で用いる場合、求核中心との反応によって分子から追い出され得る基を意味すると理解され、特に、脱離基は、ヘテロリシス結合開裂において電子の対と共に外れるであろう。脱離基は、通常、結合ヘテロリシスに由来する追加の電子密度を安定化させることができるものである。そのような基は、化学の分野で周知である。
【0130】
基[Z]は、脱離基を追い出して、本明細書中において先に定義された[Z+]カチオンを形成することができるいかなる基とすることもできると理解されるであろう。
【0131】
本明細書中で定義された脱離基は、L1によって[Z]にカップリングされた第1級アミンが脱離基を追い出して、窒素とL2基との間に結合を形成することができるような、かつ基[Z]が脱離基を追い出して、[Z]とL2基との間に結合を形成することができるようなものであると認識されるであろう。
【0132】
脱離基は、例えば、二窒素、ジアルキルエーテル、トリフレート、トシレート及びメシレートなどのペルフルオロアルキルスルホネート、Cl、Br及びIなどのハロゲン、水、アルコール、ニトレート、ホスフェート、チオエーテル及びアミンから選択される基を含むことができる。好ましくは、脱離基LGは、ハロゲン化物から選択され、より好ましくは、脱離基LGはClである。
【0133】
本明細書中に記載されたそのような置換反応は当該分野で周知であり、当業者は困難無くして行うことができるであろう。
【0134】
この方法によってイオン液体を調製することによって、有利な希土類金属抽出特性を有するイオン液体は、便宜には、1回のステップで合成することができ、多数のステップ合成に関連する増大したコストを低減化する。
【0135】
本発明のさらなる局面において、希土類金属を抽出するための、本明細書中に記載されたイオン液体、又は希土類金属をさらに含む組成物の使用が提供される。好ましくは、イオン液体又は組成物は、第1及び第2の希土類金属を含む溶液から第1の希土類金属を優先的に抽出するのに用いられる。
【0136】
さて、以下の実施例によって、図面を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態による希土類金属の選択物の抽出のための分配係数を示すグラフであり、
【
図2】
図2は、NdCl
3
.6H
2Oを含有する酸性(HCl)溶液からの抽出後における、Ndに配位する[MAIL]
+カチオンの結晶構造を示す図である。[実施例]
【実施例1】
【0138】
イオン液体の合成
本発明の実施形態によるイオン液体の合成のための一般的手法
3モルのN,N-ジアルキル-2-クロロアセトアミド及び構造H2N-L1-[Z]を有する基質を含む反応混合物を、ハロゲン化溶媒(例えば、CHCl3、CH2Cl2等)又は芳香族溶媒(例えば、トルエン、キシレン等)中で、60~70℃にて7~15日間撹拌した。冷却後、固体を濾別し、水性相が弱酸性度(pH≧2)を示すまで、有機相を0.1~0.2MのHClで反復して洗浄した。次いで、有機相を0.1MのNa2CO3で洗浄し(2~3回の洗浄)、最後に、水性相が中性pHを示すまで、脱イオン水で洗浄した。溶媒を高真空下で除去して、(塩化物アニオンを持つ)イオン液体生成物を高度に粘性の液体として得た。このイオン液体は、そのまま用いることができるか、又は塩化物アニオンは、例えば、有機溶媒中で所望のアニオンのアルカリ金属塩をイオン液体と反応させることによって、慣用的なメタセシス経路を用いて異なるアニオン(例えば、ビストリフルイミド、トリフレート、ヘキサフルオロホスフェート等)と交換することができた。
【0139】
イミダゾリウムイオン液体の合成
【0140】
【0141】
1-(3-アミノプロピル)-イミダゾール(0.05モル)を、500mlの三つ口丸底フラスコ中のN,N-ジイソブチル-2-クロロアセトアミド(0.15モル)に加えた。次いで、トリエチルアミン(0.11モル)をクロロホルム(200ml)と共に加えた。反応物を室温にて6時間撹拌し、次いで、60~70℃にて7日間撹拌した。次いで、反応混合物を冷却し、濾過の後、それを、順次、(一般的手法に記載されたように)0.1MのHCl、0.1MのNa2CO3及び脱イオン水で洗浄した。8ミリバール(6mmHg)にて、最後に、60℃において0.067ミリバール(0.05mmHg)にて、溶媒を中和された有機相から除去した。イオン液体[MAIL+]Cl-は、高度に粘性の黄色液体として回収された。
【0142】
イオン液体[MAIL+]Cl-(0.025モル)をクロロホルムに溶解させ、リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンアミド(LiNTf2)(0.03モル)を加えた。反応混合物を1時間撹拌し、有機相を脱イオン水で反復して洗浄した。最後に、65℃にて真空(0.13ミリバール、0.1mmHg)下で溶媒を有機相から除去して、イオン液体のビストリフルイミドアニオン形態([MAIL+]「NTf2
-])を得た。
【実施例2】
【0143】
[MAIL+][NTf2
-]を用いる希土類金属の液液抽出
希土類金属の抽出のための一般的手法
各容量(2~5ml)のイオン液体抽出剤([P666(14)
+][NTf2
-]中の[MAIL+][NTf2
-])、及びHCl中の希土類金属を含有する酸性水性供給物溶液を、リストアクションシェーカーで15~30分間平衡化させた。相を遠心し、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES、inductively coupled plasma optical emission spectroscopy)を用いて水性相を希土類金属含有量について分析したが、いかなる適切な分析技術を用いることもできると認識されるであろう。イオン液体(有機)相へ抽出された希土類金属の割合は、ICP-OES測定を用いて質量バランスによって決定した。
【0144】
個々の希土類金属の分配比は、水性相(ラフィネート(raffinate))中のそれの濃度に対するイオン液体相におけるその濃度の比として決定した。DM=[M]IL/[M]Aqであり、式中、ILはイオン液体相を表し、Aqは水性相(ラフィネート)を表す。
【0145】
個々の希土類金属対に関連する分離係数(SF)は、第2の希土類金属の分配比に対する第1の希土類金属の分配比の比として表される。例えば、ネオジムに対するジスプロシウムの分離係数は、DDy/DNdである。独立して得られた分配比から見積もられた分離係数は、(以下に例示する)競合分離の間に、希土類金属の混合物の分離の間に得られた実際の分離係数よりも低いであろうと認識されるであろう。
【0146】
[P
666(14)
+][NTf
2
-]中の0.0075Mの[MAIL
+][NTf
2
-]、及び関連希土類金属塩化物の200mg/l(ppm)のHCl溶液(200ppmとは、溶液中の元素金属の濃度をいう)を用い、上記一般的手法に従い、個々の希土類金属についての分配比を別々の抽出で得た。
図1は、pHの関数としての、各希土類金属についての分配比のプロットを示し、これは、本発明によるイオン液体を用いて、pH値の一定範囲にわたって希土類金属を抽出することができることを示す。
【0147】
Dy及びNdの分離
pH3のDyCl3.6H2O(60mg/l(ppm)Dy)及びNdCl3.6H2O(1400mg/l(ppm)Nd)を含有するHCl水溶液を、上記一般的手法に従い、イオン液体抽出剤([P666(14)
+][NTf2
-]中0.005Mの[MAIL+][NTf2
-])で抽出した。1回の接触(抽出)は、DDy=13.45、DNd=0.0124を与え、1085のSFDy-Ndを与えた。
【0148】
この分離係数(1085)は、表1に示された先行技術におけるシステムによるDy/Nd分離で得られた分離係数(最大239)よりもかなり高い。
【0149】
Eu及びLaの分離
pH3のEuCl3.6H2O(65mg/l(ppm)Eu)及びLaCl3.7H2O(470mg/l(ppm)La)を含有するHCl水溶液を、上記一般的手法に従い、イオン液体抽出剤([P666(14)
+][NTf2
-]中0.005Mの[MAIL+][NTf2
-])で抽出した。1回の接触(抽出)は、DEu=9.3、DLa=0.044を与え、211のSFEu-Laを与えた。
【0150】
Tb及びCeの分離
pH3のTbCl3.6H2O(530mg/l(ppm)Tb)及びCeCl3.6H2O(950mg/l(ppm)Ce)を含有するHCl水溶液を、上記一般的手法に従い、イオン液体抽出剤([P666(14)
+][NTf2
-]中0.0075Mの[MAIL+][NTf2
-])で抽出した。1回の接触(抽出)は、DTb=11.2、DCe=0.068を与え、162のSFTb-Ceを与えた。
【実施例3】
【0151】
[MAIL+][NTf2
-]からの希土類金属のストリッピング
2回の連続接触において、Dy(III)(200ppm)を、[P666(14)
+][NTf2
-]中の[MAIL+][NTf2
-](0.005M)を含むpH3の有機相から取り去った。有機相を各容量のHCl水溶液(0.2M)と接触させ、リストアクションシェーカーで、15~30分間平衡化させた。140ppmのDy(III)を1回目の接触で取り去り、55ppmを2回目の接触で取り去った。
【0152】
同様に、
図1における分配比の観察から、Tm、Yb及びLuなどの重希土類金属は、増大する酸性度で、分配係数を有意に低下させたことは明らかである。かくして、重希土類金属は、比較的高いpH値において、本発明のイオン液体から取り除くことができることも予測される。
【0153】
上記実施例は、カギとなる希土類金属対の間における分離係数の大きな増加が、本発明によるイオン液体の使用によって得ることができることを示す(例えば、Nd/Dy:Nd-Dy磁石、Eu/La:白色ランプ蛍光体、Tb/Ce:緑色ランプ蛍光体)。希土類金属は、先行技術のシステムと比較して、有利には、比較的高いpHにおいて、イオン液体から取り除くこともできる。
【0154】
いかなる特定の理論に拘束されるつもりはないが、一重に配位した希土類金属種M.([MAIL+][NTf2
-])よりもより疎水性の二重に配位した種M.([MAIL+][NTf2
-])2の形成の増大の結果として、分配比のより顕著な増加が、より軽い希土類金属よりもより重い希土類金属で観察されると考えられる。より疎水性の種は、分離の間により容易に有機相に抽出されることとなり、増大した分配比をもたらすと考えられる。
【0155】
核磁気共鳴、赤外線及び質量分光測定法の検討は、二重に配位した種は、La及びイオン液体の溶液に比較して、Lu及びイオン液体の溶液においてより豊富であることを示し、これは、本発明のイオン液体によって達成された重及び軽希土類金属の間の区別を強調する。
【0156】
さらに、錯体LaCl3.([MAIL+][Cl-])2及びLuCl3.([MAIL+][Cl-])2の最適化された形状は、イオン液体カチオンの第三級中心窒素及び当該金属の間の距離が、Luの場合(~2.6Å、結合)におけるよりもLaの場合(~2.9Å、非結合)においてかなり長いことを示し、これは、より軽い希土類金属に対するイオン液体のより弱い結合をやはり裏付ける。同時に、窒素原子に連結された電子供与基、この場合アミドは、双方の場合において非常に似た方法で金属に結合する。この結果は、第三級窒素ドナーを有するイオン液体カチオンの中心モチーフが、より重い及びより軽い希土類金属の間で得られた区別、及びそれから得られる改良された選択性で重要であることを示す。