(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナーおよびトナーカートリッジ
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20220915BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20220915BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20220915BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220915BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20220915BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/087 333
G03G9/097 365
G03G9/087
C08L67/00
C08L63/00 A
C08L91/06
C08K5/09
(21)【出願番号】P 2020076652
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504005035
【氏名又は名称】三笠産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】特許業務法人 クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野上 修
【審査官】塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-101069(JP,A)
【文献】特開2017-032980(JP,A)
【文献】特開2007-240831(JP,A)
【文献】特開2002-311641(JP,A)
【文献】特開2016-061886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00 - 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂およびエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物と、
高級脂肪酸およびワックスを含有する離型剤と、を含み、
前記ポリエステル系樹脂は、カルボジイミド基を有する化合物で修飾されている、静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂が、ポリエステル樹脂またはポリエステル系ウレタン樹脂であり、
前記エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、
前記高級脂肪酸が、12-ヒドロキシステアリン酸である、請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記ポリエステル系樹脂のガラス転移点が45℃以上70℃以下であり、
前記エポキシ樹脂のガラス転移点が20℃以上45℃未満である、請求項1または2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記ワックスの含有量が、前記ポリエステル系樹脂100重量部に対して4重量部以上8重量部以下であり、
前記高級脂肪酸の含有量が、前記ポリエステル系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上2重量部以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
前記樹脂組成物の130℃における貯蔵弾性率G’が10
3Pa以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナーを収容したトナーカートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法または静電記録法等に用いられる静電荷像現像用トナーおよびトナーカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、省エネルギー化に関連して、レーザープリンターおよびLEDプリンターにおいて低温定着性が要求されている。また、プロセスの高速度化、環境配慮の観点から、低温定着性に優れたトナーの開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2017-054115号公報)には、低温定着性と光沢性および耐ホットオフセット性を両立しつつ、トナーの流動性、耐熱保存性、帯電安定性、粉砕性、画像強度、耐折り曲げ性およびドキュメントオフセット性のすべてを満足する優れたトナーバインダーおよびトナーが提案されている。
【0004】
特許文献1に記載のトナーバインダーは、非線形ポリエステル変性樹脂(A)を含有するトナーバインダーであって、非線形ポリエステル変性樹脂(A)が、アルコール成分(y)と不飽和カルボン酸成分(z)と、イソシアネート化合物(b1)、オキサゾリン化合物(b2)、カルボジイミド化合物(b3)、エポキシ化合物(b4)およびアジリジン化合物(b5)からなる群から選ばれる1種以上の化合物(b)とを構成原料とするポリエステル変性樹脂であって、かつ非線形ポリエステル変性樹脂(A)が特定の化学構造を有するものである。
【0005】
また、特許文献2(特開平4-250464号公報)には、フラッシュ定着に適した静電荷現像用トナーが提案されている。
【0006】
特許文献2に記載のトナーは、少くともバインダ樹脂及び着色剤を含有するトナーにおいて、バインダ樹脂にエポキシ樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含有するものである。
【0007】
また、特許文献3(特開2017-161863号公報)には、低温定着性と耐オフセット性を両立し、色再現性、光沢性が良好な画像が得られ、且つ帯電安定性、保存安定性にも優れる電子写真用トナーが得られるトナー樹脂組成物及びこの組成物を用いた電子写真用トナーが提案されている。
【0008】
特許文献3に記載の電子写真用トナー樹脂の製造方法は、(1)多塩基酸及び多価アルコールを縮合重合させてポリエステル樹脂(A)を調製する工程、及び(2)前記ポリエステル樹脂(A)、エポキシ化合物、二価フェノール、及び一価カルボン酸又は一価フェノールを共重合させることによりポリエーテル変性ポリエステル樹脂(AB)を調製する工程、を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-054115号公報
【文献】特開平4-250464号公報
【文献】特開2017-161863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、低温定着に優れたトナーは、融点が低く熱ロールに移行しやすく、他の用紙を汚して耐オフセット性が悪くなるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、低温定着においても高い定着性と、高い耐オフセット性とを両立する静電荷像現像用トナーを提供することである。
本発明の他の目的は、低温定着においても高い光沢性と、高い定着性と、高い耐オフセット性とを両立する静電荷像現像用トナーおよびトナーカートリッジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)
一局面に従う静電荷像現像用トナーは、ポリエステル系樹脂およびエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物と、高級脂肪酸およびワックスを含有する離型剤と、を含み、ポリエステル系樹脂は、カルボジイミド基を有する化合物で修飾されているものである。
【0013】
これにより、比較的融点の低いエポキシ樹脂と比較的融点の高いポリエステル系樹脂とが非相溶状態で混合された樹脂組成物が調製される。これによって、トナーを低温定着(通常120℃以上150℃以下)する場合であっても、樹脂組成物のうちエポキシ樹脂が融解してトナーが用紙に確実に定着する。
さらに、離型剤は高級脂肪酸およびワックスを含有するため、目的に応じた温度で高い離型性を確保することができる。
また、本発明で使用するポリエステル系樹脂は、カルボジイミド基を有する化合物で修飾されるため、樹脂組成物の130℃における貯蔵弾性率G’を向上させることができ、耐オフセット性を確保することができる。すなわち、高温で樹脂が溶けすぎることがオフセットに繋がるため、カルボジイミド基を有する化合物で弾性率を向上させることで耐オフセット性を確保することができる。
【0014】
(2)
第2の発明に係る静電荷像現像用トナーは、一局面の発明に係る静電荷像現像用トナーであって、ポリエステル系樹脂が、ポリエステル樹脂またはポリエステル系ウレタン樹脂であり、エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、高級脂肪酸が、12-ヒドロキシステアリン酸であってよい。
【0015】
これにより、低温定着においてもより高い定着性とより高い耐オフセット性とを両立したトナーとすることができる。
【0016】
(3)
第3の発明に係る静電荷像現像用トナーは、一局面または第2の発明に係る静電荷像現像用トナーであって、ポリエステル系樹脂のガラス転移点が45℃以上70℃以下であり、エポキシ樹脂のガラス転移点が20℃以上45℃未満であってもよい。
【0017】
これにより、120℃以上150℃以下という低温定着においても、高い定着性を発揮するトナーとすることができる。
【0018】
(4)
第4の発明に係る静電荷像現像用トナーは、一局面から第3のいずれかの発明に係る静電荷像現像用トナーであって、ワックスの含有量が、ポリエステル系樹脂100重量部に対して4重量部以上8重量部以下であり、高級脂肪酸の含有量が、ポリエステル系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上2重量部以下であってもよい。
【0019】
これにより、120℃以上150℃以下という低温定着においても、高い耐オフセット性を備えたトナーとすることができる。
【0020】
(5)
第5の発明に係る静電荷像現像用トナーは、一局面から第4のいずれかの発明に係る静電荷像現像用トナーであって、樹脂組成物の130℃における貯蔵弾性率G’が103Pa以上であってもよい。
【0021】
これにより、高濃度のワックスを含有しても、高い高温オフセット性を有するトナーとすることができる。
【0022】
(6)
第6の発明に係る静電荷像現像用トナーは、一局面から第5のいずれかの発明に係る静電荷像現像用トナーであって、60g/m2用紙における定着率が97%以上かつ光沢率が16以上であり、157g/m2用紙における定着率が95%以上かつ光沢率が12以上であってもよい。
【0023】
これにより、高い定着率と高い光沢率とを併せ持つ静電荷像現像用トナーが得られる。
【0024】
(7)
他の局面に従うトナーカートリッジは、一局面から第6のいずれかの発明に係る静電荷像現像用トナーを収容したトナーカートリッジである。
【0025】
これにより、低温定着においても高い定着性と、高い耐オフセット性とを両立する静電荷像現像用トナーが収容されたトナーカートリッジとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、実施例1の静電荷像現像用トナーを定着させた紙の断面の写真である。
【
図2】
図2は、比較例1の静電荷像現像用トナーを定着させた紙の断面の写真である。
【
図3】
図3は、実施例1および比較例3の定着率の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本実施の形態の静電荷像現像用トナーは、樹脂組成物と離型剤と顔料と荷電調整剤とを含むものであって、樹脂組成物はポリエステル系樹脂とエポキシ樹脂とを含有する。また、離型剤は、高級脂肪酸およびワックスを含有し、ポリエステル系樹脂は、カルボジイミド基を有する化合物で修飾されたものである。
以下に、本実施の形態の静電荷像現像用トナーを詳細に説明する。
【0028】
(樹脂組成物)
本実施の形態の静電荷像現像用トナーには、トナーバインダーとして、ポリエステル系樹脂とエポキシ樹脂とを含有する樹脂組成物が用いられる。
電子写真の現像においては通常、感光体上に形成された静電潜像からトナー像を形成し、トナー像を用紙に転写して、熱圧ローラ等でトナー像を用紙に定着させる。静電荷像現像用トナーの樹脂組成物としては、ガラス転移点の比較的低いエポキシ樹脂とガラス転移点の比較的高いポリエステル系樹脂とが非相溶状態で混合されていることによって、低温定着であってもトナーが用紙に確実に定着することができる。
【0029】
本実施の形態における樹脂組成物においては、ポリエステル系樹脂のガラス転移点は45℃以上70℃以下であることが好ましく、45℃以上55℃以下であることがさらに好ましく、48℃以上52℃以下であることが最も好ましい。また、エポキシ樹脂のガラス転移点は20℃以上45℃未満であることが好ましく、30℃以上40℃以下であることがより好ましい。これにより、低温定着であってもトナーが用紙に確実に定着するとともに、耐オフセット性に優れたトナーとすることができる。
【0030】
(ポリエステル系樹脂)
本実施の形態におけるポリエステル系樹脂は、ポリエステル樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂またはその混合物であってもよい。ポリエステル系ウレタン樹脂を含有する樹脂組成物を用いると、やや高粘度のトナーが形成されるため高温オフセット性は良好になる。
【0031】
ポリエステル樹脂としては、高分子成分、低分子成分のブレンドでも良く、分子量分布の広範なポリエステル樹脂がより好ましい。
また、ポリエステル樹脂としては、例えば線形ポリエステル樹脂及び非線形ポリエステル樹脂等が挙げられ、保存安定性、耐ホットオフセット性、帯電安定性及び耐久性の観点から、非線形ポリエステル樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂はポリエステルを炭素-炭素結合により架橋した構造を有する樹脂であってもよい。ここでいうポリエステルは特に限定はなく、炭素-炭素結合による架橋をできるものであればどのようなポリエステルでもよい。なかでも架橋構造を形成し易いという観点から、好ましくは炭素-炭素二重結合を有するポリエステルである。
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、2000以上6000以下が好ましく、3000以上5000以下がさらに好ましい。最も好ましいポリエステル樹脂の数平均分子量は4000程度である。
ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、8000以上40000以下が好ましく、10000以上30000以下がさらに好ましい。最も好ましいポリエステル樹脂の重量平均分子量は12000以上20000以下である。
【0032】
なお、ポリエステル樹脂の数平均分子量および重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。例えば、テ卜ラヒドロフランや水等の溶媒を溶離液とし、ポリメチルメタクリレート換算分子量として求めることができる。
【0033】
ポリエステル系ウレタン樹脂は、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とがウレタン結合を繰り返すことによって得られるポリマー(プレポリマーを含む)であって、ポリイソシアネート化合物およびポリオール化合物の少なくとも一方がポリエステル鎖を含有するものである。
本実施の形態におけるポリエステル系ウレタン樹脂は、ポリエステルの末端のヒドロキシル基とポリイソシアネート化合物のイソシアネートとを反応させてウレタン伸長させることにより、表面だけでなくポリエステルの分子鎖中にウレタン結合を有していることが好ましい。
ポリエステル系ウレタン樹脂の末端基はイソシアネート基またはヒドロキシル基のいずれの基であってもよい。
ポリエステル系ウレタン樹脂の数平均分子量は、2000以上6000以下が好ましく、3000以上5000以下がさらに好ましい。最も好ましいポリエステル系ウレタン樹脂の数平均分子量は、4000程度である。
ポリエステル系ウレタン樹脂の重量平均分子量は、8000以上40000以下が好ましく、10000以上30000以下がさらに好ましい。最も好ましいポリエステル系ウレタン樹脂の重量平均分子量は、12000以上20000以下である。
なお、ポリエステル系ウレタン樹脂の数平均分子量および重量平均分子量の測定は、上記ポリエステル樹脂の場合と同様に実施することができる。
ポリエステル系ウレタン樹脂を含有する樹脂組成物を用いると、やや高粘度のトナーが形成されるため高温オフセット性は良好になる。
【0034】
(カルボジイミド化合物の修飾)
本実施の形態におけるポリエステル系樹脂は、カルボジイミド基を有する化合物で修飾されている。これにより、高温耐性が高まり耐オフセット性が向上する。ポリエステル系樹脂をカルボジイミド基を有する化合物で修飾するには、ポリエステル樹脂および/またはポリエステル系ウレタン樹脂と、カルボジイミド基を有する化合物とを混合し、加熱することにより得ることができる。
カルボジイミド基を有する化合物としては、分子内にカルボジイミド基を有し、ポリエステル系樹脂のカルボキシル基との反応によって、アシルウレア結合を形成するものであれば、特に限定されるものではないが、たとえば、カルボジイミド基を1個含有する化合物、又は2個以上有する化合物が挙げられる。
【0035】
本実施の形態で用いられるカルボジイミド基を有する化合物としては、分子中に2個以上のカルボジイミド基を有する化合物を用いることが耐ホットオフセット性の点でより好ましい。
カルボジイミド基を2個以上有するカルボジイミド基を有する化合物の具体例としては、カルボジライト(登録商標)(日清紡ケミカル株式会社製)V-02B、V-03、V-05、V-09、E-02などが挙げられる。
【0036】
本実施の形態におけるポリエステル系樹脂の修飾は、ポリエステル系樹脂100重量部に対して、カルボジイミド化合物0.1重量部以上3重量部以下とすることが好ましい。また、カルボジイミド化合物0.5重量部以上1重量部以下とすることがさらに好ましい。
これにより、耐オフセット性に優れた静電荷像現像用トナーとすることができる。
【0037】
(エポキシ樹脂)
本実施の形態におけるエポキシ樹脂は、芳香族ジオール(例えばビスフェノールA)とエピクロルヒドリンとをアルカリの存在下に反応させることにより得られる樹脂であり、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等が挙げられる。
本実施の形態においては、低温定着およびその他のトナー物性条件を満たす、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂または液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、本実施の形態におけるエポキシ樹脂は、作業性の観点から、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることがより好ましい。
【0038】
なお、本発明においては、エポキシ樹脂のみに限定されず、ポリエステル系樹脂に対して、非相溶の性質を有し、かつポリエステル系樹脂と比較してガラス転移点が十分に低ければ、さらに他の樹脂を樹脂組成物に含有させることができる。
樹脂組成物に使用可能な他の樹脂としては、例えば、スチレンアクリル樹脂、環状オレフィンコポリマー等を使用することができる。なお、これらの樹脂は、エポキシ樹脂と比較してポリエステル系樹脂に対する非相溶性が強いため、画像品質に影響を及ぼさないよう、エポキシ樹脂を用いる場合より含有量を少なくすることが好ましい。
【0039】
(離型剤)
本実施の形態における静電荷像現像用トナーは、離型剤を含む。離型剤は熱定着時に画像表面に染み出し、光沢度を高める作用がある。
本実施の形態における離型剤は、ワックスと高級脂肪酸とを含む混合物である。これにより定着性と高い離型性とを両立することができる。
また、離型剤の融点は、電子写真方式におけるトナーの低温定着性、離型性および光沢度の観点から、60℃以上120℃以下であることが好ましく、70℃以上90℃以下であることがより好ましい。
【0040】
(高級脂肪酸)
離型剤に用いられる高級脂肪酸としては、オレイン酸、ミスチリン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、カプリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸等を使用することができる。このうち、12-ヒドロキシステアリン酸が好ましい。
【0041】
(ワックス)
離型剤に用いられるワックスとしては、植物系ワックス(カルナバワックス、綿ロウ、木ロウ、ライスワックス等)、動物系ワックス(ミツロウ、ラノリン等)、鉱物系ワックス(オゾケライト、セルシン等)、石油ワックス(パラフィン、マイクロクリスタリン、ペトロラタム等)等のロウ類及びワックス類;合成炭化水素ワックス(フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス等)、合成ワックス(エステル、ケトン、エーテル等)等の天然ワックス以外のものを試用することができる。
【0042】
これらのうち、シャープメルトの点で合成ワックスが好ましい。合成ワックスとしては、公知のポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス、エステルワックス、長鎖炭化水素型フィッシャーロプシュワックス、モンタンワックス、アマイドワックスを使用することができる。
このうち、エステルワックスが定着時の不必要な揮発性有機化合物の発生が少ないという点でより好ましい。
【0043】
(顔料)
本実施の形態における顔料としては、特に制限はなく、公知の着色顔料から目的に応じて適宜選択することができる。本実施の形態では、ブラックトナー、シアントナー、マゼンタトナー及びイエロートナーから選択される少なくとも1種とすることができ、各色のトナーは着色顔料の種類を適宜選択することにより得ることができる。
【0044】
イエロー顔料としては、例えば、Pigment Yellow 180、Pigment Yellow 185、Pigment Yellow 74、Pigment Yellow 155等を使用することができる。シアン顔料としては、例えば、Pigment Blue 15、Pigment Blue 15:2、Pigment Blue 15:3、Pigment Blue 15:4等を使用することができる。マゼンタ顔料としては、例えば、Pigment Red 122、Pigment Red 184、Pigment Red 238、Pigment Red 254、Pigment Red 269、Pigment Red 257等を使用することができる。
黒色顔料としては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックを使用することができ、磁性トナーであればマグネタイト等を使用することができる。
【0045】
(荷電調整剤)
本実施の形態における荷電調整剤としては、現像プロセスに応じて負帯電用荷電調整剤または正帯電用荷電調整剤を適宜選択することができる。
負帯電用荷電調整剤としては、公知のアルキルサリチル酸系錯体、ホウ素系錯体、樹脂系錯体、ニグロシン染料またはその併用品を使用することができるが、色変化がない制御剤が好ましい。アルキルサリチル酸系錯体としては、金属種はクロム、亜鉛、アルミニウム、ジルコニウム、カリウム等が使用できる。
また、正帯電用荷電調整剤としては、公知の四級アンモニウム塩等が使用でき、また帯電性能が十分である際は正負に関わらず、荷電調整剤は無添加でもよい。
【0046】
(外添剤)
電子写真に使用される樹脂組成物の表面には、トナーの流動性、帯電性、クリーニング性等の性能向上のため、外添剤を適宜添加することが好ましい。
外添剤の粒子径は特に制限されないが、数平均一次粒子径が2~800nm程度の無機微粒子や数平均一次粒子径が10~2000nm程度の有機微粒子等の粒子が好ましい。
【0047】
外添剤としては、公知のアモルファスシリカ、コロイダルシリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、スチレン系、エポキシ系メラミンアルデヒド系、ビニル系、アクリル系などの有機樹脂微粒子、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウムなどのペロブスカイト型酸化物、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム等の潤滑剤、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、フッ素系シリコーンオイル等が使用できる。
【0048】
外添剤のシリカ微粒子は、疎水化とするための表面処理をされていることが好ましい。シリカ微粒子の表面を疎水性にすることにより、トナーの流動性および帯電性がさらに向上する。シリカ微粒子の表面処理は、シリコーンオイル、変性シリコーンオイルシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、フッ素系シランカップリング剤、フッ素系シリコーンオイル、アミノシランカップリング、第四級アンモニウム塩カップリング等が使用できるが、それらに限定されるものではない。大粒径の疎水性シリカ微粒子としては、日本触媒(株)製の球状アモルファスシリカ(KE-E40、平均粒径180nm)、(KE-E30、平均粒径280nm)等が例示される。
トナー粒子の外添処理は、例えば、トナー粒子と外添剤とをヘンシェルミキサーにて混合し外添剤を粒子に均一に分散付着させる方法がある。
【0049】
樹脂組成物の130℃における貯蔵弾性率G’は103Pa以上が好ましく、さらに好ましくは103Pa以上105Pa以下であり、最も好ましくは103Pa以上104Pa以下である。
樹脂組成物の130℃における貯蔵弾性率G’が103Pa未満の場合には、高温で樹脂が溶けすぎるため耐オフセット性が低下する場合がある。また、貯蔵弾性率G’が105Paを超える場合には、溶けずに低温オフセットする場合がある。
なお、貯蔵弾性率G’は、以下の方法に従って測定することができる。
例えば、動的粘弾性測定装置(Rheosol-G3000、UBM社製)を用いて測定できる。測定の際の周波数は、1Hzである。
本実施の形態における樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂100重量部に対し、エポキシ樹脂10重量部以上50重量部以下配合することが好ましく、エポキシ樹脂20重量部以上30重量部以下配合することがさらに好ましい。これにより、低温定着性を確保することができる。
【0050】
上記樹脂組成物のポリエステル系樹脂100重量部に対して、ワックス4重量部以上8重量部以下配合することが好ましく、高級脂肪酸0.5重量部以上2重量部以下配合することがさらに好ましい。これにより、定着性と高い離型性を確保することができる。
ワックスの含有量が、ポリエステル系樹脂100重量部に対して4重量部未満の場合には適切な定着性、離型性が得られない傾向にあり、8重量部を超えると、ワックスブリード(表面露出)により帯電阻害、プリンター部材の汚れを引き起こす傾向にある。
また、高級脂肪酸の含有量が、ポリエステル系樹脂100重量部に対して0.5重量部未満の場合には離型効果が十分に得られない傾向にあり、2重量部を超えるとトナーの適切な帯電量を阻害する傾向にある。
この樹脂組成物と離型剤との混合物に、顔料および荷電調整剤を適宜混合することができる。
【0051】
顔料は、トナー重量に基づき、好ましくは0.5重量%以上20重量%以下、さらに好ましくは1重量%以上10重量%以下である。
荷電制御剤はトナー重量に基づき、好ましくは0.1重量%以上10重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以上7.5重量%以下である。
【0052】
トナーは、さらに外添剤、流動化剤などを含有することができる。
得られたトナーの体積平均粒径(D50)は、好ましくは5~10μmである。
【0053】
(トナーの製造方法)
本実施の形態における静電荷像現像用トナーは、例えば、以下のようにして製造することができる。
樹脂組成物として、カルボジイミド化合物で修飾されたポリエステル系樹脂と、エポキシ樹脂とを混合する。本実施の形態における樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂100重量部に対し、エポキシ樹脂10重量部以上50重量部以下とすることが好ましく、エポキシ樹脂20重量部以上30重量部以下とすることがさらに好ましい。
【0054】
次に、得られた樹脂組成物に対して、さらに、離型剤として、ワックスおよび高級脂肪酸を混合する。本実施の形態における離型剤は、ポリエステル系樹脂100重量部に対して、ワックス4重量部以上8重量部以下とすることが好ましく、高級脂肪酸0.5重量部以上2重量部以下とすることが好ましい。
この樹脂組成物と離型剤との混合物に、顔料および荷電調整剤を適宜混合し、二軸押し出し機で混練して樹脂成型体を得る。
【0055】
得られた樹脂成型体をジェットミルで粉砕し、さらに、外添剤を適宜加えて混合し、さらに分級することで、静電荷像現像用トナーを得ることができる。
得られたトナーの体積平均粒径(D50)は、好ましくは5~10μmであり、流動化剤を適宜混合することができる。
【0056】
本発明のトナーは、複写機、プリンター等により支持体(紙、ポリエステルフィルム等)に定着して記録材料とされる。支持体に定着する方法としては、公知の熱ロール定着方法、フラッシュ定着方法等が適用できる。
本発明のトナーを用いることにより、60g/m2用紙における定着率は97%以上かつ光沢率は16以上であり、157g/m2用紙における定着率は95%以上かつ光沢率は12以上である。好ましくは、60g/m2用紙における定着率が98%以上かつ光沢率が20以上であり、157g/m2用紙における定着率が97%以上かつ光沢率が20以上である。
【実施例】
【0057】
以下、マゼンタトナー作成の実施例を説明する。ただし、本発明の構成は以下の例示によって限定されるものではない。
【0058】
<実施例1>
樹脂組成物のポリエステル系樹脂として、ポリエステル樹脂を100重量部用意した。樹脂組成物のエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を30重量部用意した。カルボジイミド化合物としてカルボジライト(登録商標)を0.5重量部用意した。顔料として、マゼンタ顔料ナフトール(冨士色素社製FUJI FAST CARMINE500)を4重量部用意した。離型剤のワックスとして、天然エステルワックス(日本ワックス社製 カルナバワックス1号粉末)を5重量部用意した。離型剤の高級脂肪酸として、12-ヒドロキシステアリン酸(富士フィルム和光純薬社製 12-ヒドロキシステアリン酸)を1重量部用意した。荷電調整剤として、サリチル酸亜鉛錯体(オリヱント化学工業社製 E-84)を1重量部用意した。
【0059】
これらのポリエステル系樹脂、エポキシ樹脂、カルボジイミド化合物、顔料、ワックス、高級脂肪酸および荷電調整剤を混合し、二軸押し出し機で混練(温度80~120℃、速度200rpm)して樹脂成型体を得た。得られた樹脂成型体をジェットミルで平均粒径7μmに粉砕した。
その後、外添剤として、アモルファスシリカ1重量部、酸化チタン0.5重量部をさらに加え、ヘンシェルミキサーで混合して外添を行い、マゼンタの静電荷像現像用トナーを得た。
【0060】
<実施例2>
樹脂組成物のポリエステル系樹脂として、ポリエステル系ウレタン樹脂を100重量部用いたことを除いて、実施例1と同様にして静電荷像現像用トナーを得た。
【0061】
<比較例1>
樹脂組成物にエポキシ樹脂を添加しなかったことを除いて、実施例1と同様にして静電荷像現像用トナーを得た。
【0062】
<比較例2>
樹脂組成物にエポキシ樹脂を添加せず、さらに離型剤に高級脂肪酸を添加しなかったことを除いて、実施例1と同様にして静電荷像現像用トナーを得た。
【0063】
<比較例3>
樹脂組成物のポリエステル系樹脂として、ポリエステル系ウレタン樹脂を100重量部用い、さらに樹脂組成物にエポキシ樹脂を添加しなかったことを除いて、実施例1と同様にして静電荷像現像用トナーを得た。
【0064】
<比較例4>
離型剤に高級脂肪酸を添加しなかったことを除いて、実施例1と同様にして静電荷像現像用トナーを得た。
【0065】
以下に、実施例1、2および比較例1-4で得られた静電荷像現像用トナーの光沢度測定、かぶり濃度評価、定着率測定、およびオフセット評価の方法を示す。
上記実施例1、2および比較例1-4で得られた静電荷像現像用トナーをそれぞれ低温定着印刷機(プリンターラインスピードは、A4 20~60ページ/分である。)に充填した。そして、常温常湿下(23℃、湿度60%)において、白色上質紙(68g/m2)にマゼンタトナーを用いて印刷し、評価サンプル(印刷物)を得た。
【0066】
得られた評価サンプルを裁断し、断面を走査型電子顕微鏡(日本電子社製 FE-SEM JSM-7000F)で観察した。実施例1のトナーを用いた評価サンプルを
図1に示し、比較例1のトナーを用いた評価サンプルを
図2に示す。
図1では、図中の左から順に、上質紙にエポキシ樹脂(低融点樹脂)の層が形成され、さらにエポキシ樹脂の層にポリエステル系樹脂(メイン樹脂)の層が形成されている。したがって、エポキシ樹脂がアンカーとなって上質紙とポリエステル系樹脂とを接着しているためトナーの定着性が高い。
一方、
図2では、図中の左から順に、上質紙に融点の高いポリエステル系樹脂(メイン樹脂)が直接積層されているため、特に低温定着をした場合はトナーの定着性が低い。
【0067】
A.<光沢度測定>
BYKガートナー社製 マイクロ-グロス(75°)(実機:日本電色社製 PG-1)を用い、感光体の軸方向に3点測定し、これらの値を平均して各画像の光沢度(単位:%)を算出した。マゼンタトナーで印刷した評価サンプルの光沢度測定の結果を表1に示す。
【0068】
B.<かぶり濃度評価>
評価サンプルの作成において、白地部分を有する画像を出力した。そして白地部分を有する画像について、白地部分を有する画像の白地部分の白色輝度と、白色用紙の白色輝度とをそれぞれ測定し、以下の式を用いてかぶり濃度(%)を算出した。なお、白色度は、分光光度計(日本電色社製 RF-333)により測定した。
かぶり濃度(%)=(白色用紙輝度-白地印刷輝度)÷白色用紙輝度
そして、かぶり濃度が70%未満のものを「〇」と評価し、かぶり濃度が70%以上85%未満のものを「△」と評価し、かぶり濃度が80%以上のものを「×」と評価した。
【0069】
C.<定着率測定>
定着率測定用画像は、ベタ黒画像100%(トナー付着量0.6g/cm2)として上記印刷機で転写および定着をした。
定着率は、2.5cm角のベタ黒画像を定着率測定用画像から採取し、メンディングテープ(住友3M株式会社製 スコッチメンディングテープ)を貼り付けて、1kg分銅で押さえつけた状態で3往復させたのち、テープ剥離を行った。
【0070】
そしてテープ剥離前後の画像濃度を分光光度計(日本電色社製 RF-333)で測定し、下記式から求めた。
定着率(%)=(剥離後の画像濃度÷剥離前の画像濃度)×100
【0071】
D.<オフセット評価>
上記評価サンプルの作成において、2cm×15cmの長方形のベタ画像をトナーの付着量が0.40mg/cm2となるように形成した。このとき、定着ローラの表面温度を変化させ、ベタ画像の現像残画像が所望の場所以外の場所に定着されるコールドオフセットが発生するかどうかを観察し、耐オフセット性を評価した。なお、用いたプリンターは、45ページ/分のラインスピードであった。
オフセット評価基準としては、120℃で適切に溶けた場合を「〇」と評価し、120℃で溶けない場合を「×」と評価した。
【0072】
【0073】
評価の結果、樹脂組成物にエポキシ樹脂を添加しなかった比較例1は、実施例と比較して定着率が悪い結果となった。
また、樹脂組成物にエポキシ樹脂を添加せず、さらに離型剤に高級脂肪酸を添加しなかった比較例2は、実施例と比較して定着率が悪く、オフセット性も悪く、さらに光沢率が低い結果となった。
また、樹脂組成物にエポキシ樹脂を添加しなかった比較例3は、実施例と比較して定着率が悪い結果となった。
また、離型剤に高級脂肪酸を添加しなかった比較例4は、定着率がやや低く、さらにオフセット性が悪い結果となった。
【0074】
次に、実施例1のトナーと、比較例3のトナーを用いた上述の評価サンプルの作成において、白色上質紙の表面粗さを適宜変えて印刷を行い、定着率の測定を行った。白色上質紙の表面粗さは、接触式表面粗さ測定器(キーエンス社製 デジタルマイクロスコープKH-7700型番)で測定した。
測定結果を
図3に示す。
【0075】
測定の結果、実施例1は表面粗さの全ての範囲において、比較例3よりも定着率が高い結果となった。
【0076】
次に、新規製法トナー(実施例1のトナー)と、従来粉砕トナー(比較例2のトナー)を用いた上述の評価サンプルの作成において、白色上質紙の厚みを60g/m2と157g/m2とで比較して定着率、オフセット、光沢率の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0077】
【0078】
その結果、実施例1は定着率および光沢率が比較例2と比較して高い評価結果となった。
【0079】
本発明の好ましい一実施の形態は上記の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神の範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。