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  • 特許-米菓製品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】米菓製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 3/34 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
A23G3/34 104
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021035835
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135785
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000142562
【氏名又は名称】株式会社栗山米菓
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】須貝 吉栄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】相馬 茂男
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-293346(JP,A)
【文献】特開2015-100308(JP,A)
【文献】たのしく、たべて、健康に! 「脳を鍛えるドリル付き 玄米せんべい(うすしお味)」,ベフコ, 2020年9月4日,p.1-3
【文献】栗山米菓 玄米せんべい うすしお味 80g,Amazon, 2020年9月7日,p.1-5,https://www.amazon.co.jp/栗山米菓-玄米せんべい-うすしお味-80g/dp/B08G1PRC3C, 検索日:2022年2月3日
【文献】せんべいの作り方はとても簡単!自宅でも作れるその方法とは?,オリーブオイルをひとまわし, 2020年12月20日,p.1-3,https://www.olive-hitomawashi.com/column/2020/12/post-12990.html, 検索日:2022年2月3日
【文献】簡単!玄米粉のつくり方 [意外と使える!玄米粉の活用レシピ その1],SMART AGRI, 2020年4月28日,p.1-4,https://smartagri-jp.com/food/1354, 検索日:2022年2月3日
【文献】*素材*手作り玄米粉,クックパッド, 2016年,p.1-2,https://cookpad.com/recipe/3711439, 検索日:2022年2月3日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00-9/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄米を主原料とする米菓本体を含む米菓製品を製造する方法において、
前記玄米を120℃以上、250℃以下の温度範囲内において前記玄米の糠中に存在する酵素リパーゼを失活させる程度の時間にわたって加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の後に、前記玄米を破砕して玄米グリッツを形成する破砕工程と、
前記玄米グリッツを蒸練することにより生地を形成する蒸練工程と、を備え、
前記生地を用いて前記米菓本体を製造するものであり
前記破砕工程において、0.7mm以上、1.4mm以下の粒径の前記玄米グリッツが全体の半数以上となるように前記玄米を破砕する、
米菓製品の製造方法。
【請求項2】
前記米菓本体は、前記玄米のみを原料とするものである、
請求項1に記載の米菓製品の製造方法。
【請求項3】
前記米菓本体は、せんべいである、
請求項1または請求項2に記載の米菓製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄米を主原料とする米菓本体を含む米菓製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米菓製品としては、うるち米を用いたせんべいがある。こうしたせんべいの製造方法が特許文献1及び特許文献2に記載されている。
従来一般のせんべいの製造方法においては、精白米を用いて、洗米、製粉、蒸練、冷却、練り、成型、第1乾燥、寝かせ、第2乾燥、焼成、及び味付けが順に行われる。
【0003】
近年、健康志向に対応した米菓製品として、玄米を主原料とする玄米せんべいが注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-293346号公報
【文献】特開2007-209255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、玄米せんべいの主原料である玄米の外周部位には、脂質を含む糠が存在する。玄米せんべいにおいては、この糠に含まれる脂質の劣化により、製品の劣化が早くなる。そのため、上述した従来の製造方法により製造された玄米せんべいでは、長期の賞味期間を確保することが難しいという問題がある。
【0006】
なお、こうした問題は、玄米せんべいに限定されるものではなく、玄米を主原料とする米菓本体を含む米菓製品においては、共通して生じるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための米菓製品の製造方法は、玄米を主原料とする米菓本体を含む米菓製品を製造する方法である。同方法は、前記玄米を破砕して玄米グリッツを形成する破砕工程と、前記玄米グリッツを蒸練することにより生地を形成する蒸練工程と、を備え、前記生地を用いて前記米菓本体を製造する。
【0008】
玄米の糠中に存在する脂質の劣化を促す要因としては、糠において脂質を閉じ込めているスフェロゾームが破壊されることによって、脂質が漏出して分解されやすくなることが挙げられる。
【0009】
この点、上記方法によれば、蒸練工程に先立ち、玄米を微粉化して玄米粉にするのではなく、玄米を破砕して玄米グリッツを形成する。そして、玄米グリッツを蒸練することにより生地を形成する。このように、上記方法によれば、玄米粉よりも粒度の大きい玄米グリッツを用いているため、玄米粉を用いる場合に比べてスフェロゾームが破壊されにくい。これにより、脂質(主にトリアシルグリセロール)の漏出を抑制することができる。よって、糠中に存在する酵素リパーゼによって脂質が分解されること、ひいては遊離脂肪酸が増加することを抑制できる。したがって、脂質の劣化の進行を遅らせることで米菓製品の保存性を向上できる。
【0010】
上記米菓製品の製造方法において、前記破砕工程の前に、前記玄米を加熱する加熱工程を備えることが好ましい。
玄米の糠中に存在する脂質の劣化を促す要因としては、糠中に存在する酵素リパーゼにより脂質が分解されることで遊離脂肪酸が増加することが挙げられる。
【0011】
この点、上記方法によれば、破砕工程に先立ち、玄米を加熱することによって、糠中に存在する酵素リパーゼの活性を弱める、あるいは酵素リパーゼを失活させることができる。したがって、酵素リパーゼによる脂質の分解、ひいては遊離脂肪酸の増加を一層抑制することができる。
【0012】
上記米菓製品の製造方法において、前記米菓本体は、前記玄米のみを原料とするものであることが好ましい。
米菓本体の原料に占める玄米の割合が多くなるほど、糠に含まれる脂質が多くなる。そのため、玄米のみを原料とする米菓本体を含む米菓製品においては、脂質の劣化により製品の劣化が早くなるという課題が最も顕著となる。
【0013】
この点、本発明によれば、玄米のみを原料とする米菓本体を含む米菓製品において、脂質の劣化の進行を遅らせることで、米菓製品の保存性を向上できる。
上記米菓製品の製造方法において、前記米菓本体は、せんべいであることが好ましい。
【0014】
同方法によれば、脂質の劣化の進行を遅らせることで、玄米を主原料とするせんべいの保存性を向上できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、脂質の劣化の進行を遅らせることで米菓製品の保存性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態におけるせんべいの製造手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1を参照して、本発明を具体化した一実施形態について説明する。
本実施形態の米菓製品の製造方法は、玄米を主原料とする米菓本体を含む米菓製品を製造する方法である。詳しくは、米菓本体は、玄米のみを原料とするせんべいである。
【0018】
図1に示すように、米菓製品(せんべい製品)の製造方法においては、まず、玄米を加熱する(加熱工程)。
加熱工程においては、120℃~250℃の温度範囲内において、玄米の糠中に存在する酵素リパーゼを失活させることができる程度の時間にわたって玄米を加熱することが好ましい。加熱方法としては、例えば高圧過熱水蒸気を用いる方法や、ドラム式焼成による方法などを採用することができる。
【0019】
次に、玄米を破砕して玄米グリッツを形成する(破砕工程)。
破砕工程においては、0.7mm~1.4mmの粒径の玄米グリッツが全体の半数以上となるように玄米を破砕することが好ましい。
【0020】
次に、玄米グリッツを蒸練することにより生地を形成する(蒸練工程)。
蒸練工程においては、蒸練機によって、玄米グリッツに蒸気を投入するとともに、玄米グリッツを掻き回しながら練ることで生地を形成する。
【0021】
次に、生地を冷却する(冷却工程)。
次に、冷却された生地を練ることで生地の粗さを調節する(練り工程)。
次に、成形機によって、生地を平らにするとともに所定の形状に型抜きして成形する(成型工程)。
【0022】
次に、乾燥機によって、生地を乾燥させる(第1乾燥工程)。
次に、生地の内側に多く存在する水分を生地全体に行き渡らせるために、生地を寝かせる(寝かせ工程)。
【0023】
次に、焼成前の生地の水分を調整するために、乾燥機によって、生地を乾燥させる(第2乾燥工程)。
次に、運行釜などを用いて、生地を焼成する(焼成工程)。
【0024】
最後に、焼成された生地に醤油などの調味料を付加することにより味付けを行う(味付け工程)。
<第1実施例>
第1実施例では、加熱工程において、高圧過熱水蒸気を用いて、250℃にて5秒間、玄米を加熱した。また、破砕工程において、0.7mm~1.4mmの粒径の玄米グリッツが全体の75%となるように玄米を破砕した。
【0025】
<第2実施例>
第2実施例では、加熱工程を省略した。また、破砕工程において、0.7mm~1.4mmの粒径の玄米グリッツが全体の75%となるように玄米を破砕した。
【0026】
<比較例>
比較例では、加熱工程において、高圧過熱水蒸気を用いて、250℃にて5秒間、玄米を加熱した。また、破砕工程に代えて、従来一般の製粉工程を行った。製粉工程においては、0.15mm~0.25mmの粒径の玄米粉が全体の97.4%となるように玄米を製粉した。
【0027】
次に、第1実施例、第2実施例、及び比較例のそれぞれの製造方法によって製造されたせんべいの保存性を評価する試験を行った。
この試験は、せんべい製品中の油脂の劣化指数である過酸化物価(peroxide value;POV)を測定した。詳しくは、45℃の恒温庫に、せんべい製品を保管することで、1日当たり4.3日相当となる加速試験を行った。
【0028】
この試験の結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
表1に示すように、210日後相当においては、第1実施例のせんべい製品のPOVが19.7となった。また、第2実施例のせんべい製品のPOVが25.5となった。また、比較例のせんべい製品のPOVが31.3となった。なお、食品衛生法においては、米菓製品のPOVの基準値が30に定められている。
【0030】
第1実施例、すなわち、加熱工程及び破砕工程の双方を備える製造方法によって製造されたせんべい製品のPOV(油脂の劣化指数)は、3つの中で最も低い結果となった。
また、第2実施例、すなわち加熱工程を備えず、破砕工程を備える製造方法によって製造されたせんべい製品のPOV(油脂の劣化指数)は、3つの中で2番目に低い結果となった。
【0031】
また、加熱工程を備えるとともに、破砕工程に代えて従来一般の製粉工程を備える製造方法によって製造されたせんべい製品の油脂の劣化指数は、3つの中で最も高い結果となった。
【0032】
ちなみに、第1実施例のせんべい製品のPOVは、290日後相当において30.7となった。
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0033】
玄米の糠中に存在する脂質の劣化を促す要因としては、糠において脂質を閉じ込めているスフェロゾームが破壊されることによって、脂質が漏出して分解されやすくなることが挙げられる。
【0034】
この点、本実施形態の製造方法によれば、蒸練工程に先立ち、玄米を微粉化して玄米粉にするのではなく、玄米を破砕して玄米グリッツを形成する。そして、玄米グリッツを蒸練することにより生地を形成する。このように、本実施形態の製造方法によれば、玄米粉よりも粒度の大きい玄米グリッツを用いているため、玄米粉を用いる場合に比べてスフェロゾームが破壊されにくい。これにより、脂質(主にトリアシルグリセロール)の漏出を抑制することができる。よって、糠中に存在する酵素リパーゼによって脂質が分解されること、ひいては遊離脂肪酸が増加することを抑制できる(以上、作用1)。
【0035】
また、玄米の糠中に存在する脂質の劣化を促す要因としては、糠中に存在する酵素リパーゼにより脂質が分解されることで遊離脂肪酸が増加することが挙げられる。
この点、本実施形態の製造方法によれば、破砕工程に先立ち、玄米を加熱することによって、糠中に存在する酵素リパーゼの活性を弱める、あるいは酵素リパーゼを失活させることができる(以上、作用2)。
【0036】
以上説明した本実施形態に係る米菓製品の製造方法によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)米菓製品の製造方法は、玄米を破砕して玄米グリッツを形成する破砕工程と、玄米グリッツを蒸練することにより生地を形成する蒸練工程とを備え、同生地を用いて米菓本体を製造する。
【0037】
こうした方法によれば、上記作用1を奏する。したがって、脂質の劣化の進行を遅らせることで米菓製品の保存性を向上できる。
(2)米菓製品の製造方法は、破砕工程の前に、玄米を加熱する加熱工程を備える。
【0038】
こうした方法によれば、上記作用2を奏する。したがって、酵素リパーゼによる脂質の分解、ひいては遊離脂肪酸の増加を一層抑制することができる。
(3)米菓本体は、玄米のみを原料とするものである。
【0039】
米菓本体の原料に占める玄米の割合が多くなるほど、糠に含まれる脂質が多くなる。そのため、玄米のみを原料とする米菓本体を含む米菓製品においては、脂質の劣化により製品の劣化が早くなるという課題が最も顕著となる。
【0040】
この点、本発明によれば、玄米のみを原料とする米菓本体を含む米菓製品において、脂質の劣化の進行を遅らせることで、米菓製品の保存性を向上できる。
(4)米菓本体は、せんべいである。
【0041】
こうした方法によれば、脂質の劣化の進行を遅らせることで、玄米を主原料とするせんべいの保存性を向上できる。
<変形例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0042】
・加熱工程においてドラム式焼成による加熱方法を用いる場合、例えば120℃にて20分以上、玄米を加熱することが、玄米の糠中に存在する酵素リパーゼを失活させる上で好ましい。
【0043】
・加熱工程は必須ではなく、省略することもできる。この場合であっても、上記作用1を奏するため、上記効果(1)に準じた効果を奏することができる。
・米菓本体は玄米のみを原料とするものに限定されない。米菓本体としては、玄米を主原料とするのであればよく、原料全体に占める玄米の含有率を、90%、80%、70%など適宜変更することもできる。
【0044】
・米菓本体は、せんべいに限定されない。例えば、本発明に係る加熱工程、破砕工程、及び蒸練工程を経て形成された生地を揚げるなどしてスナック菓子など他の米菓本体を製造することもできる。この場合であっても、上記作用1及び上記作用2を奏することから、実施形態の効果(1)及び(2)に準じた効果を奏することができる。また、この場合においても加熱工程を省略することができることは上述したとおりである。
図1