(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】窒化物半導体素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/40 20100101AFI20220915BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20220915BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H01L33/40
H01L33/32
H01L21/28 301R
H01L21/28 301B
(21)【出願番号】P 2018210729
(22)【出願日】2018-11-08
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2017216599
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】横山 彩
(72)【発明者】
【氏名】萩原 好人
【審査官】小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-110140(JP,A)
【文献】特開2017-112313(JP,A)
【文献】特開2013-004961(JP,A)
【文献】特開2002-313749(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0224812(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/46
H01L 21/28 - 21/288
H01L 21/44 - 21/445
H01L 29/40 - 29/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された第一導電型の第一窒化物半導体層と、
前記第一窒化物半導体層上に形成された第一電極層と、
を有し、
前記第一電極層は
、アルミニウムとニッケルとを含む合金層と、前記合金層以外のアルミニウム含有層を含み、
前記第一電極層の前記第一窒化物半導体層に対する接触面または前記接触面の近傍に、少なくともアルミニウムおよびアルミニウムとニッケルとを含む合金の両方が存在し、
前記接触面内または前記接触面の近傍面内に、前記合金層の前記第一窒化物半導体層側の面である第一領域、および前記アルミニウム含有層の前記第一窒化物半導体層側の面である第二領域が存在し、
前記接触面内または前記近傍面内に、前記第二領域で囲まれている前記第一領域を有する窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記接触面の少なくとも一部には、Ti、Mo、V、Au、W、Pt、Pd、Si、およびZrから選択される一以上の元素が存在する請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記接触面の少なくとも一部にはTiまたはAuの少なくとも一以上の元素が存在する請求項1または2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記接触面の少なくとも一部にはTiが存在する請求項1または2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記接触面または前記接触面の近傍面におけるアルミニウムおよびアルミニウムとニッケルとを含む合金の合計存在率が60面積%以上であり、
前記接触面または前記近傍面
における前記第一領域および前記第二領域の合計面積に対する前記第二領域の面積の比率が30%以上である請求項1~4のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記接触面または前記接触面の近傍面におけるアルミニウムおよびアルミニウムとニッケルとを含む合金の合計存在率が70面積%以上である請求項5に記載の窒化物半導体素子。
【請求項7】
前記アルミニウム含有層の厚さは1nm以上150nm以下である請求項5に記載の窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記アルミニウム含有層の厚さは1nm以上100nm以下である請求項5に記載の窒化物半導体素子。
【請求項9】
前記合金層の厚さは100nm以上1000nm以下である請求項5~7のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項10】
前記合金層の厚さは100nm以上600nm以下である請求項5~7のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項11】
前記基板に垂直で、平面視で前記基板の中心を通り前記基板の一端から他端まで延びる直線に沿った断面において、
前記合金層と前記アルミニウム含有層との面積比が、前記合金層:前記アルミニウム含有層=1:2~400:1を満たす請求項5~9のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項12】
前記基板に垂直で、平面視で前記基板の中心を通り前記基板の一端から他端まで延びる直線に沿った断面において、
前記合金層と前記アルミニウム含有層との面積比が、前記合金層:前記アルミニウム含有層=2:35~400:1を満たす請求項5~9のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項13】
前記第一窒化物半導体層はAl
xGa
(1-x)N(0≦x≦1)を含む請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子であって、
前記第一窒化物半導体層上の一部に形成され、第二導電型の第二窒化物半導体層を含む窒化物半導体積層体と、
前記窒化物半導体積層体の前記第二窒化物半導体層上に形成された第二電極層と、
を有し、
前記窒化物半導体積層体は、前記第二窒化物半導体層よりも前記第一窒化物半導体層側に窒化物半導体発光層を含み、前記窒化物半導体発光層は波長が300nm以下の紫外線を発光する紫外線発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
AlN、GaN、InN、AlGaNなどの窒化物半導体は、III族金属元素(Al、Ga、In)の混晶比を変えることでエネルギーバンドギャップを多様に変化させることができる魅力的な材料である。
特に、AlGaNは、深紫外光の受発光素子やAlGaN/GaN系トランジスタやパワーデバイス等の様々なデバイスに用いられている。しかし、Al組成の高いAlGaNは、電極材料とのオーミックコンタクトが取りにくく、かつ電極との界面の抵抗が高くなるという課題がある。また、電極は複数の金属材料からなる積層体を加熱処理することで形成されるため、この加熱処理中に合金が形成されるが、形成された合金の抵抗が高いと、電極のバルク抵抗が上昇することがある。なお、ここでは、半導体と電極との界面の抵抗およびバルク抵抗の和を、コンタクト抵抗と定義する。
【0003】
AlGaNを例えば発光素子の材料として用いた場合、コンタクト抵抗が高くなると、発光素子の駆動電圧が高くなるため発熱量が多くなり、出力低下や寿命低下が生じる。そのため、Al組成の高いAlGaNを用いた発光素子では、AlGaNと電極とのコンタクト抵抗を低くすることが求められている。コンタクト抵抗を低くすることで駆動電圧を低くすることができる。
Al組成の高いAlGaNを用いた発光素子のコンタクト抵抗を低くする方法としては、例えば特許文献1に記載された方法が挙げられる。この方法では、n型AlxGa(1-x)N層上に、電極用の金属層として例えばTi/Al/Ti/Au層をそれぞれ20nm/100nm/50nm/100nmの膜厚で蒸着し、瞬間熱アニール処理を行うことで電極層を形成している。そして、熱処理温度をn型AlxGa(1-x)N層のAl組成に応じて適正な温度に設定することで、コンタクト抵抗を低くしている。つまり、熱処理温度を、n型AlxGa(1-x)N層のAl組成に応じてコンタクト抵抗が最も低くなるように設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された方法では、コンタクト抵抗の低減効果が不十分であり、更なるコンタクト抵抗低減効果が求められている。
本発明の課題は、Al組成の高いAlGaNを用いた発光素子の場合でもコンタクト抵抗の低減効果が高い窒化物半導体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明の一態様は、下記の構成(1)~(3)を有する窒化物半導体素子を提供する。
(1)基板と、基板上に形成された第一導電型の第一窒化物半導体層と、第一窒化物半導体層上に形成された第一電極層と、を有する。
(2)第一電極層はアルミニウムとニッケルを含む。
(3)第一電極層の第一窒化物半導体層に対する接触面または接触面の近傍に、少なくともアルミニウムおよびアルミニウムとニッケルとを含む合金の両方が存在する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の窒化物半導体素子によれば、Al組成の高いAlGaNを用いた場合でもコンタクト抵抗の低減効果が高くなることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の窒化物半導体素子を示す平面図である。
【
図2】実施形態の窒化物半導体素子を示す断面図であり、
図1のA-A断面を示している。
【
図3】
図1の窒化物半導体素子でパッド電極および絶縁層が形成される前の状態を示す平面図である。
【
図4】実施形態の窒化物半導体素子を構成する第一電極層の第一窒化物半導体層に対する接触面の一例を示す平面図である。
【
図5】実施形態の窒化物半導体素子を構成する第一電極層を示す断面図であり、例えば、
図3のB-B断面の一部に対応する。
【
図6】第一電極層および第二電極層が
図3とは異なる平面形状を有する窒化物半導体素子で、パッド電極および絶縁層が形成される前の状態を示す平面図である。
【
図7】実施例で、第一電極層および第二電極層が
図3の平面形状を有する場合に得られた結果を示すグラフである。
【
図8】実施例で、第一電極層および第二電極層が
図6の平面形状を有する場合に得られた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[一態様の窒化物半導体素子]
一態様の窒化物半導体素子においては、上記構成(1)~(3)を含み、上記接触面の少なくとも一部にTi、Mo、V、Au、W、Pt、Pd、Si、およびZrから選択される一以上の元素が存在していてもよいし、接触面の少なくとも一部にTiまたはAuの少なくとも一以上の元素が存在していてもよい。また、一態様の窒化物半導体素子においては、接触面の少なくとも一部にTiが存在していてもよい。
【0010】
一態様の窒化物半導体素子は、上記構成(1)~(3)を含み、下記の構成(4)および(5)を有することが好ましい。
(4)上記接触面または上記接触面の近傍面におけるアルミニウムおよびアルミニウムとニッケルとを含む合金の合計存在率が60面積%以上または70面積%以上である。
(5)上記接触面または上記近傍面は、アルミニウムとニッケルとを含む合金層の第一窒化物半導体層側の面である第一領域、および上記合金層以外のアルミニウム含有層の第一窒化物半導体層側の面である第二領域を有し、第一領域および第二領域の合計面積に対する第二領域の面積の比率が30%以上である。
【0011】
なお、上記合金層および上記アルミニウム含有層と第一窒化物半導体層との間にこれらの層以外の層が存在する場合に、これらの層の下面は第一窒化物半導体層との接触面とならない。この場合には、(4)の合計存在率は、接触面における存在率ではなく接触面の近傍面における存在率であり、上記合金層および上記アルミニウム含有層が第一窒化物半導体層に接触する場合は、接触面における存在率である。
【0012】
上記接触面の近傍とは、第一電極層の第一窒化物半導体層に近い部分ではあるが、第一窒化物半導体層に接触しない部分であって、例えば、第一電極層内で上記接触面から3nm離れた位置より上記接触面に近い部分を意味する。具体的には、例えば、30kVのGa+を用いたFIB(集束イオンビーム)法で、窒化物半導体素子の第一電極層を含む部分の基板に垂直な所定断面を100nm以下の厚さで切り出し、この断面を、STEM(走査透過電子顕微鏡)により加速電圧200kVで観察して得たBF(明視野)またはHAADF(高角散乱環状暗視野)像から、第一窒化物半導体層の表面からの高さを測定した際に、その高さが3nm以下となる領域を、上記接触面の近傍とする。
また、上記接触面の近傍面とは、上記接触面に平行な第一電極層内の面であって上記接触面から3nm離れた面と上記接触面との間の領域にある面を意味する。
【0013】
第一態様の窒化物半導体素子は、上記構成(1)~(3)を含み、上記構成(4)および(5)を有する場合、下記の構成(6)~(8)の一部または全てを有することが好ましい
(6)上記アルミニウム含有層の厚さは1nm以上150nm以下または1nm以上100nm以下である。
(7)上記合金層の厚さは100nm以上1000nm以下または100nm以上600nm以下である。
(8)上記基板に垂直で、平面視で上記基板の中心を通り上記基板の一端から他端まで延びる直線に沿った断面において、上記合金層と上記アルミニウム含有層との面積比が、合金層:アルミニウム含有層=1:2~400:1または2:35~400:1を満たす。
一態様の窒化物半導体素子において、第一窒化物半導体層は、AlxGa(1-x)N(0≦x≦1)を含むものとすることができる。
【0014】
[紫外線発光素子]
一態様の窒化物半導体素子は、下記の構成(9)を有する紫外線発光素子を構成することができる。
(9)上記第一窒化物半導体層上の一部に形成され、第二導電型の第二窒化物半導体層を含む窒化物半導体積層体と、上記窒化物半導体積層体の上記第二窒化物半導体層上に形成された第二電極層と、を有する。上記窒化物半導体積層体は、上記第二窒化物半導体層よりも上記第一窒化物半導体層側に窒化物半導体発光層を含み、上記窒化物半導体発光層は波長が300nm以下の紫外線を発光する。
【0015】
[紫外線発光モジュール]
第一態様の窒化物半導体素子に含まれる紫外線発光素子を備えた発光装置は、紫外線発光モジュールとして使用することができる。紫外線発光モジュールは、例えば、医療・ライフサイエンス分野、環境分野、産業・工業分野、生活・家電分野、農業分野、その他分野の装置に適用可能である。
第一態様の窒化物半導体素子に含まれる紫外線発光素子または第二態様の窒化物半導体発光素子に含まれる紫外線発光素子を備えた発光装置は、薬品や化学物質の合成・分解装置、液体・気体・固体(容器、食品、医療機器等)殺菌装置、半導体等の洗浄装置、フィルム・ガラス・金属等の表面改質装置、半導体・FPD・PCB・その他電子部品製造用の露光装置、印刷・コーティング装置、接着・シール装置、フィルム・パターン・モックアップ等の転写・成形装置、紙幣・傷・血液・化学物質等の測定・検査装置に適用可能である。
【0016】
液体殺菌装置の例としては、冷蔵庫内の自動製氷装置・製氷皿および貯氷容器・製氷機用の給水タンク、冷凍庫、製氷機、加湿器、除湿器、ウォーターサーバの冷水タンク・温水タンク・流路配管、据置型浄水器、携帯型浄水器、給水器、給湯器、排水処理装置、ディスポーザ、便器の排水トラップ、洗濯機、透析用水殺菌モジュール、腹膜透析のコネクタ殺菌器、災害用貯水システム等が挙げられるがこの限りではない。
気体殺菌装置の例としては、空気清浄器、エアコン、天井扇、床面用や寝具用の掃除機、布団乾燥機、靴乾燥機、洗濯機、衣類乾燥機、室内殺菌灯、保管庫の換気システム、靴箱、タンス等が挙げられるがこの限りではない。固体殺菌装置(表面殺菌装置を含む)の例としては、真空パック器、ベルトコンベヤ、医科用・歯科用・床屋用・美容院用のハンドツール殺菌装置、歯ブラシ、歯ブラシ入れ、箸箱、化粧ポーチ、排水溝のふた、便器の局部洗浄器、便器フタ等が挙げられるがこの限りではない。
【0017】
[実施形態]
以下、この発明の実施形態について説明するが、この発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、この発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定はこの発明の必須要件ではない。
この実施形態では、本発明の一態様の窒化物半導体素子が紫外線発光素子に適用された例が記載されている。
【0018】
<全体構成>
先ず、
図1~
図3を用いて、この実施形態の紫外線発光素子10の全体構成を説明する。
図1および
図2に示すように、紫外線発光素子10は、基板1と、n型窒化物半導体層(第一導電型の第一窒化物半導体層)2と、窒化物半導体積層体3と、第一電極層4と、第二電極層5と、第一パッド電極6と、第二パッド電極7と、絶縁層8を有する。
n型窒化物半導体層2は、基板1の一面11上に形成されている。窒化物半導体積層体3は、n型窒化物半導体層2上の一部に形成されたメサ部であり、側面30が斜面となっている。
図2に示すように、窒化物半導体積層体3は、基板1側から、n型窒化物半導体層31、窒化物半導体発光層32、およびp型窒化物半導体層(第二導電型の第二窒化物半導体層)33が、この順に形成されたものである。
【0019】
なお、
図2に示すように、窒化物半導体積層体3のn型窒化物半導体層31は、n型窒化物半導体層2上に連続して成膜されたものである。窒化物半導体積層体3を形成するためのメサエッチングで、第一電極層4が形成される部分に存在していた積層体がn型窒化物半導体層の厚さ方向の途中で除去されている。
第一電極層4は、n型窒化物半導体層2上に例えば
図3に示す平面形状で形成されている。つまり、第二電極層5は、基板1の中心Cを中心とした円形の平面形状を有し、第一電極層4は、第二電極層5の外側に配置され、第二電極層5の円より径の大きい同心円を開口する形で、その同心円を平面形状の内側形状線として有する。第一パッド電極6は、第一電極層4上に第一電極層4と同じ平面形状で形成されている。第二パッド電極7は、第二電極層5上に第二電極層5と同じ平面形状で形成されている。
紫外線発光素子10は、例えば、波長が300nm以下の紫外線を発光する素子である。
【0020】
基板1は、一面11上に窒化物半導体層を形成することが可能なものであれば特に制限されない。基板1を形成する材料の具体例としては、サファイア、Si、SiC、MgO、Ga2O3、Al2O3、ZnO、GaN、InN、AlN、あるいはこれらの混晶等が挙げられる。これらのうち、GaNおよびAlNおよびAlGaN等の窒化物半導体で形成された基板又はサファイア基板を用いることが好ましい。GaNおよびAlNおよびAlGaN等の窒化物半導体で形成された基板では、基板1上に形成される各窒化物半導体層との格子定数差や熱膨張係数差が小さいため欠陥の発生の少ない窒化物半導体層を成長できるため好ましい。また、サファイア基板では横方向成長技術や高品質テンプレートなどを用いることで欠陥の発生の少ない窒化物半導体を成長することができるため好ましい。その中でもAlN基板を用いることがより好ましい。また、基板1を形成する材料には不純物が混入していてもよい。
【0021】
窒化物半導体を材料とする基板には、窒化物半導体を基板として使用できる厚さに単結晶成長させたものや、サファイア基板などの上に窒化物半導体を結晶成長させたものが挙げられる。
n型窒化物半導体層2およびn型窒化物半導体層31を形成する材料は、AlN、GaN、InNの単結晶および混晶であることが好ましく、具体例としてはn-AlxGa(1-x)N(0≦x≦1)が挙げられる。また、これらの材料には、P、As、SbといったN以外のV族元素や、C、H、F、O、Mg、Siなどの不純物が含まれていてもよい。
【0022】
また、n型窒化物半導体層2を形成するn-AlxGa(1-x)NのAl組成xは、0.30≦x<0.95であることが好ましく、0.50≦x<0.95であることがより好ましい。n型窒化物半導体層2は、基板1上に直接ではなく、例えばバッファ層などn型窒化物半導体層2以外の層を介して形成されていてもよく、上記バッファ層の材料や膜厚は特に限定されない。
窒化物半導体発光層32は、単層構造でも多層構造であっても良いが、多層構造の例としては、AlGaNからなる量子井戸層とAlGaNまたはAlNからなる電子バリア層とからなる多重量子井戸構造(MQW)が挙げられる。また、窒化物半導体発光層32には、P、As、SbといったN以外のV族元素や、C、H、F、O、Mg、Siなどの不純物が含まれていてもよい。
【0023】
p型窒化物半導体層33としては、例えば、p-GaN層またはp-AlGaN層などが挙げられ、Mg、Cd、Zn、Be、C等の不純物が含まれていてもよい。
また、n型窒化物半導体層2とp型窒化物半導体層33の間にキャリア防壁層や組成傾斜層を含んでいても良い。光出力向上の観点では窒化物半導体発光層32とp型窒化物半導体層33の間にキャリア防壁層が、キャリア防壁層とp型窒化物半導体層33の間に組成傾斜層が含まれることが好ましい。
第一電極層4の材料については後述する。
【0024】
第二電極層5の材料としては、窒化物半導体素子に正孔(ホール)を注入することが目的であれば、一般的な窒化物半導体発光素子のp型電極層と同じ材料を使用することが可能であり、例えばNi、Au、Pt、Ag、Rh、Pd、Pt、Cuおよびその合金、またはITO等が適用される。p型電極層は、窒化物半導体層とのコンタクト抵抗が小さいNi、Auもしくはこれらの合金、またはITOが好ましい。
第一パッド電極6および第二パッド電極7の材料としては、例えばAu、Al、Cu、Ag、Wなどが挙げられるが、導電性の高いAuが望ましい。パッド電極の密着性向上のため界面にTiを含んでいても良い。
【0025】
絶縁層8は、n型窒化物半導体層2の第一電極層4で覆われていない部分と、窒化物半導体積層体3の第二電極層5で覆われていない部分と、第一電極層4の第一パッド電極6で覆われていない部分と、第二電極層5の第二パッド電極7で覆われていない部分と、第一パッド電極6および第二パッド電極7の下部の側面に形成されている。絶縁層8は第一パッド電極6および第二パッド電極7の上部の一部を覆うこともある。絶縁層8としては、例えば、SiN、SiO2、SiON、Al2O3、ZrO層などの酸化物や窒化物が挙げられる。
【0026】
<第一電極層の構成>
第一電極層4は、アルミニウムとニッケルを含む材料で形成されている。第一電極層4の材料としては、アルミニウムとニッケルに加えて、電極の密着性の向上、電極材料の酸化防止などの効果があり、かつn-AlGaNとのコンタクト抵抗が低くなる材料を用いてもよい。このような材料としては、例えば、Ti、Mo、V、Au、W、Pt、Pd、Si、Zrなどが挙げられる。第一電極層4は、より好ましくは、チタン、アルミニウム、ニッケル、および金を含む材料で形成されているのが良い。
【0027】
第一電極層4のn型窒化物半導体層2に対する接触面41または接触近傍面に、アルミニウム単体およびアルミニウムとニッケルとを含む合金の両方が存在する。接触面41におけるアルミニウム単体およびアルミニウムとニッケルとを含む合金の合計存在率は60%以上、より好ましくは70面積%以上である。つまり、第一電極層4がn型窒化物半導体層2を覆う面の60%以上、より好ましくは70%以上にアルミニウム単体およびアルミニウムとニッケルとを含む合金が存在する。
【0028】
例えば
図4に示すように、第一電極層4の接触面41内には、第一の領域411、第二の領域412、および第三の領域413が存在する。
第一の領域411は、アルミニウムとニッケルとを含む合金層である第一の層4aの下面(n型窒化物半導体層2側の面)である。この下面に存在する成分は、アルミニウムとニッケルとを含む合金がほとんどであるが、例えば、Ti、Mo、V、Au、W、Pt、Pd、Si、Zrなどが含まれていても良い。より好ましくはTi、V、Zr、Au、更に好ましくはTi、V、Au更に好ましくはTi、Au更に好ましくはTiが界面に含まれており、半導体との界面の抵抗を下げる効果がある。
【0029】
第二の領域412は第二の層4bの下面である。第二の層4bは、アルミニウムとニッケルとを含む合金層以外のアルミニウム含有層である。ここで、アルミニウム含有層とは、含まれている成分のほとんどがアルミニウム単体であるが、アルミニウム以外の電極材料を極微量(面積を推定する際の断面にて数nm以内)含む場合もある。第二の層4bには、例えば、Ti、Mo、V、Au、W、Pt、Pd、Si、Zrなどが含まれていても良い。より好ましくはTi、V、Zr、Au、更に好ましくはTi、V、Au、更に好ましくはTi、Au、更に好ましくはTiが界面に含まれており、半導体との界面の抵抗を下げる効果がある。
【0030】
第三の領域413は、第三の層4cの下面である。第三の層4cには、アルミニウムとニッケルとを含む合金以外の合金、電極材料として用いた金属が各々単体で微粒子化しているものなどが混在している。
そして、アルミニウムとニッケルとを含む合金層の下面である第一の領域411の面積と、第二の層4bの下面である第二の領域412に存在するアルミニウム単体の面積と、の合計値が、好ましくは接触面41の面積(第一の領域411、第二の領域412、および第三の領域413の合計面積)の60%以上になっている。更に好ましくは70%以上になっており、更に好ましくは80%以上になっており、さらに好ましくは90%以上になっている。
【0031】
第一の層4aは、例えば、アルミニウムとニッケルの二成分合金層であり、合金層中のアルミニウムとニッケルの存在比に制限はない。第一の層4aは、アルミニウムおよびニッケルとともにこれら以外の元素を含む層であってもよい。つまり、第一の層4aは、アルミニウムとニッケルとを含む三成分以上の化合物または混合物を含む層や、三成分以上の金属の合金層になっていてもよい。第一の層4aには、例えば、AlとNiに加え、Ti、Mo、V、Au、W、Pt、Pd、Si、Zrなどが含まれていても良い。
また、第一の領域411と第二の領域412の合計面積に対する第二の領域412の面積の比率(以下、「アルミニウム含有率」と称する。)が、30%以上になっている。好ましくは40%以上になっており、さらに好ましくは50%以上になっている。
【0032】
また、第一の領域411に含まれている成分は、アルミニウムとニッケルとを含む合金がほとんどであるが、例えば、Ti、Mo、V、Au、W、Pt、Pd、Si、Zrなどが含まれていても良い。より好ましくはTi、V、Zr、Au、更に好ましくはTi、V、Au、更に好ましくはTi、Au、更に好ましくはTiが界面に含まれており、半導体との界面の抵抗を下げる効果がある。
また、第二の領域412では、アルミニウム単体が連続層になっていてもよいし、アルミニウム単体が他の元素と混合された状態で存在していてもよいし、アルミニウムと他の元素との化合物が存在していてもよいし、ニッケル以外の金属とアルミニウムとの合金が存在していてもよい。第二の領域412には、例えば、Ti、Mo、V、Au、W、Pt、Pd、Si、Zrなどが含まれていても良い。より好ましくはTi、V、Zr、Au、更に好ましくはTi、V、Au、更に好ましくはTi、Au、更に好ましくはTiが界面に含まれており、半導体との界面の抵抗を下げる効果がある。
【0033】
図5に示すように、
図4のA-A断面では、第一電極層4の幅方向中央部に第一の層4aが存在し、その左右に、第二の層4bとその上に形成された第三の層4cとの積層部が存在する。
図4のA-A断面は、基板1に垂直で、平面視で基板1の中心を通り基板1の一端から他端まで延びる直線に沿った断面である。つまり、
図5に示す第一電極層4が複数横方向に連続した状態が、例えば
図3のB-B断面に対応する。また、
図4に示す接触面41が複数横方向に連続した状態が、
図3のB-B断面に示す第一電極層4の下面に対応する。
図1および
図3において、直線Lは、平面視で基板1の中心Cを通り基板1の一端から他端まで延びる直線の一例である。
【0034】
第一の層4aの厚さは、100nm以上1000nm以下、より好ましくは100nm以上600nm以下である。第二の層4bの厚さは、1nm以上150nm以下、より好ましくは1nm以上100nm以下である。第三の層4cの厚さに制限はないが、好ましくは第一の層4aの厚さより薄く、第二の層4bの厚さより厚い。基板1に垂直で、平面視で基板1の中心を通り基板1の一端から他端まで延びる直線Lに沿った断面において、第一の層(アルミニウムとニッケルとを含む合金層)4aと、第二の層(アルミニウム含有層)4bとの面積比が、第一の層4a:第二の層4b=1:2~400:1、より好ましくは2:35~400:1を満たしている。
【0035】
<第一電極層の構成により得られる作用、効果>
実施形態の紫外線発光素子10は、第一電極層4のn型窒化物半導体層2に対する接触面41または接触面41の近傍に、アルミニウム単体およびアルミニウムとニッケルとを含む合金の両方が存在することで、n型窒化物半導体層2がn-AlxGa(1-x)N(0.50≦x<0.95)である場合でも、コンタクト抵抗を大幅に低減することが期待できる。コンタクト抵抗が低減できることで駆動電圧を低減できるため、紫外線発光素子10は、発熱量が少なくなり、熱による出力低下や寿命低下が抑制される。
【0036】
そして、紫外線発光素子10の発熱量が少なくなることで、紫外線発光素子10を用いた窒化物半導体発光装置のヒートシンクを縮小できるため、窒化物半導体発光装置の小型化が可能になる。
実施形態の紫外線発光素子10では、接触面41または接触面41の近傍に存在するアルミニウム単体により、第一電極層4のn型窒化物半導体層2との界面及びその近傍に導電率の高い層が形成されるため、第一電極層4の面内で電流が流れやすくなり、コンタクト抵抗の低減及び電流集中の抑制が可能になる。また、第一電極層4のn型窒化物半導体層2に対する接触面41または接触面近傍にアルミニウム単体が存在することで、第一電極層4のn型窒化物半導体層2との界面及びその近傍での反射率が高くなるため、発光出力が向上する。これらの効果はアルミニウムを含む合金中のアルミニウムでも得ることができるが、アルミニウム単体の方が得られる効果が高い。
【0037】
実施形態の紫外線発光素子10では、第一電極層4のn型窒化物半導体層2に対する接触面41または接触面近傍にアルミニウムとニッケルとを含む合金が存在する。このような第一電極層4は、接触面41にアルミニウムとニッケルとを含む合金が形成され、例えばアルミニウムと金の合金等のような高抵抗の合金が形成されないような条件で形成される。その結果、高抵抗の合金の形成が抑制されるため、コンタクト抵抗の低減効果が得られる。
また、第一電極層4のn型窒化物半導体層2に対する接触面41または接触面41近傍にアルミニウムとニッケルとを含む合金が存在することにより、第一電極層4の上面(接触面41の反対側の面)が凹凸状となる。これに伴い、第一電極層4とパッド電極6との密着性が向上するため、紫外線発光素子10の寿命を長くすることができる。この効果は、接触面41または接触面41近傍にアルミニウムが存在することによっても得ることができるが、アルミニウムとニッケルとを含む合金が存在する場合に高い効果が得られる。
【0038】
第一電極層4の第一の層(アルミニウムとニッケルとを含む合金層)4aの厚さは、上述のコンタクト抵抗の低減およびパッド電極6との密着性の観点から100nm以上であることが好ましい。また、第一の層4aの厚さが厚すぎると、第一電極層4内の凹凸が激しくなりすぎるため、その上部に形成されるパッド電極6や絶縁膜8の被覆性が悪くなり、信頼性不良のリスクが高くなることから、1000nm以下であることが好ましく、600nm以下であることがより好ましい。これらの観点から、実施形態の紫外線発光素子10では、第一電極層4の第一の層4aの厚さを100nm以上1000nm以下としている。第一電極層4の第一の層4aの厚さは100nm以上600nm以下であることがより好ましい。
【0039】
また、第一電極層4の第二の層(アルミニウム含有層)4bの厚さは、上述のコンタクト抵抗の低減および反射率の向上という観点から、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。また、第二の層4bの厚さが厚すぎると、第三の層4cの厚さが相対的に薄くなることで第二の層4bが酸素と接触しやすくなるため、第一電極層4の酸素との接触を低減するという観点から、第二の層4bの厚さは150nm以下であることが好ましく、100nm以下がより好ましい。これらの観点から、実施形態の紫外線発光素子10では、第一電極層4の第二の層4bの厚さを1nm以上150nm以下としている。第一電極層4の第二の層4bの厚さ1nm以上100nm以下であることがより好ましい。
【0040】
また、上述のコンタクト抵抗の低減、反射率の向上と、パッド電極との密着性とを両立するという観点から、第一電極層4の第一の層4aと第二の層4bとの面積比は、第一の層4a:第二の層4b=1:2~400:1を満たすことが好ましく、第一の層4a:第二の層4b=2:35~400:1を満たすことがより好ましい。この観点から、実施形態の紫外線発光素子10では、面積比を第一の層4a:第二の層4b=1:2~400:1の範囲としている。第一電極層4の第一の層4aと第二の層4bとの面積比は、第一の層4a:第二の層4b=2:35~1:300を満たすことがより好ましい。
なお、第一電極層4および第二電極層5の平面形状の例としては、
図3に示す例以外に、
図6に示す例が挙げられる。
【0041】
図6の例では、第二電極層5は、基板1をなす長方形の一辺に沿った三本の同じ長さの棒状部51,52,53と、隣り合う棒状部51と棒状部52との間に位置する繋ぎ部54と、隣り合う棒状部52と棒状部53との間に位置する繋ぎ部55と、からなる平面形状を有する。また、第二電極層5の平面形状は、基板1の中心Cを中心として二回回転対称である。第一電極層4は、第二電極層5の外側に配置され、第二電極層5の外形線に対して一定隙間を介して沿う線を、平面形状の内側形状線として有する。
図6の例では、
図3の例よりも、第一電極層4の平面形状の内側形状線、すなわち周辺長が長い。また、
図6のB-B断面は、
図3のB-B断面と同様に、
図5に示す状態になっている場合がある。
【0042】
図6の例と
図3の例を比較すると、
図6の例の方が、第一電極層4の平面形状の内側形状線すなわち周辺長が長いことで、紫外線発光素子のコンタクト抵抗を下げることができる。このように、コンタクト抵抗を下げる観点からは、窒化物半導体積層体3、第一電極層4、第二電極層5、第一パッド電極、および第二パッド電極の、平面視における周辺長が長いことが好ましい。
なお、この実施形態では、本発明の一態様の窒化物半導体素子を紫外線発光素子に適用した例を説明しているが、他の例としては、発光波長が紫外線に限定されない窒化物半導体発光素子、窒化物半導体受光素子、トランジスタ、パワーデバイスなどの電子デバイスが挙げられる。
【実施例】
【0043】
<実施例1>
実施形態に記載された構造の紫外線発光素子10を、第一電極層4の形成工程以外は既知の材料を用い既知の方法を採用して作製した。
先ず、基板1の全面にn型窒化物半導体層2を形成した後、n型窒化物半導体層2の全面に窒化物半導体発光層32を形成した。次に、窒化物半導体発光層32の全面に、p型窒化物半導体層33を形成した。これにより、基板1上に積層体が形成された構造体を得た。
基板1としては、AlN基板を用いた。n型窒化物半導体層2としては、Siを不純物として用いたn型Al0.7Ga0.3N層を形成した。窒化物半導体発光層32としては、AlGaN(量子井戸層)とAlGaN(バリア層)とからなる多重量子井戸構造の発光層を形成した。p型窒化物半導体層33としては、Mgを不純物として用いたp型GaN層を形成した。
【0044】
次に、基板1上の積層体に対して、面内の一部を所定深さで除去するエッチングを行うことにより、
図2に示す窒化物半導体積層体3を形成した。エッチング深さは、n型窒化物半導体層2が一部除去される深さであり、このエッチングにより平面視でn型窒化物半導体層2の一部が露出する。エッチングされない部分が窒化物半導体積層体3のn型窒化物半導体層31として残る。エッチング方法としては、誘導結合型プラズマ方式の装置を用いたドライエッチングを行った。その後、硫酸と過酸化水素水の混合溶液を用いた表面処理を行う方法を採用した。
次に、この状態の基板1の窒化物半導体層3が形成されている面の全体に絶縁層8を形成した後、面内の一部の絶縁層8を除去してn型窒化物半導体層2の一部を露出するためにBHFによるエッチングを行った。
次に、n型窒化物半導体層2の平面視で露出面となった領域に、以下の方法で第一電極層4を形成する。
【0045】
先ず、この領域に
図3に示す第一電極層4の平面形状で、チタン(Ti)層、アルミニウム(Al)層、ニッケル(Ni)層、金(Au)層を、この順に20nm/130nm/35nm/50nmの厚さに蒸着法で形成することで、金属積層体を得た。次に、この状態の基板1を熱処理装置に入れて、金属積層体をRTA(Rapid Thermal Annealing)法で加熱処理した。加熱処理は、基板1の温度を850℃に保持し、熱処理装置内に150℃の窒素ガスを導入して2分間行った。窒素ガスの温度はガス配管にヒーターを取り付けて調整した。
【0046】
次に、第一電極層4が形成された後の基板1に対して、窒化物半導体積層体3のp型窒化物半導体層33の一部を露出するため、BHFによるエッチングを行った。
次に、この状態の基板1を蒸着装置に入れ、窒化物半導体積層体3のp型窒化物半導体層33上に、
図3に示す第二電極層5の平面形状で、ニッケル(Ni)層、金(Au)層をこの順に形成した後、既知の加熱処理を行って第二電極層5を形成した。
次に、この状態の基板1の第一電極層4、ドライエッチング後に形成された絶縁層8、第二の電極層5が形成されている面の全体に絶縁層8を形成した後、絶縁層8に第一パッド電極6および第二パッド電極7を形成する開口部を形成した。
次に、第一パッド電極6および第二パッド電極7をTiとAuとの積層膜で形成した。
【0047】
得られた紫外線発光素子10の第一電極層4について、接触面41及び接触面41近傍でのアルミニウム単体およびアルミニウムとニッケルとを含む合金の合計存在率と、接触面41及び接触面41近傍でのアルミニウム含有率、第一の層4aの厚さ、第二の層4bの厚さ、所定断面(基板1に垂直で、平面視で基板1の中心を通り基板1の一端から他端まで延びる直線に沿った断面)における第一の層4aと第二の層4bとの面積比を調べた。
具体的には、先ず、30kVのGa+を用いたFIB(集束イオンビーム)法で、紫外線発光素子10の第一電極層4を含む部分の基板1に垂直な所定断面を100nm以下の厚さで切り出した。次に、切り出した切片を、STEM(走査透過電子顕微鏡)により加速電圧200kVで観察し、切り出した切片のBF(明視野)およびHAADF(高角散乱環状暗視野)像を得て、その一部についてSTEM-EDX(エネルギー分散型X線分光分析法)分析を行った。
【0048】
更に、得られたSTEM-EDX分析結果とBFおよびHAADF像のコントラストから、第一電極層4の各領域に含まれる元素の種類を推定した上でHAADF像を測長し、第一の層4aの厚さ、第二の層4bの厚さ、切り出した断面における第一の層4aとn型半導体層2との境界線の長さ、切り出した断面における第二の層4bとn型半導体層2との境界線の長さ、切り出した断面における第一電極層4全体の長さを測定した。なお、第一の層4aもしくは第二の層4bとn型半導体層2の間に3nm以下の厚みで中間層がある場合は、第一の層4aと中間層の境界の長さ及び第二の層4bと中間層の境界の長さを測定した。
測定した結果を用い、接触面41またはその近傍における存在率(面積比率)と断面積比を算出した。この時の解析範囲は20μmとした。また、接触面41または接触面41近傍におけるAlとNi以外の混在元素の有無はSTEM-EDX分析結果から推定した。
【0049】
また、得られた紫外線発光素子10に対して、100mAから700mAまでの範囲の各値の電流を流し、駆動電圧を測定した。駆動電圧の測定は、四探針法を採用し、針と電極との間の接触抵抗の影響が小さくなるようにした。得られた各駆動電圧の測定値について、駆動電流が100mAの場合の駆動電圧を1とした相対値を算出した。さらに、駆動電流100mAでの駆動電圧に対する、駆動電流500mAでの駆動電圧の比を、駆動電圧増加率として算出した。
さらに、上記と同じ方法で、第一電極層4の平面形状、窒化物半導体積層体3の平面形状および第二電極層5の平面形状が
図6に示す形状である紫外線発光素子10を、
図3に示す形状の場合と同一のチップサイズ(一辺が800μmの正方形)で作製し、上記と同じ方法で上述の各測定を行うとともに駆動電圧の相対値および増加率を算出した。
【0050】
<実施例2~7>
実施例2~7では、以下の点以外は実施例1と同じ方法で、第一電極層4、窒化物半導体積層体3および第二電極層5の平面形状が
図3に示す例であるものと
図6に示す例であるものの両方で、紫外線発光素子10を作製した。具体的には、表1に示すように、第一電極層4の形成条件を構成する熱処理条件のうちの基板温度、窒素温度、および加熱時間のいずれかを、実施例1とは異なる値に変化させた。
【0051】
<実施例8~12>
実施例8~12では、以下の点以外は実施例1と同じ方法で、第一電極層4および第二電極層5の平面形状が
図3に示す例であるものと
図6に示す例であるものの両方で、紫外線発光素子10を作製した。具体的には、表1に示すように、第一電極層4の形成条件を構成する金属積層構成を、実施例1とは異なるものにした。また、熱処理条件のうち窒素温度の制御は行わなかった。また、実施例9,10では基板温度を、実施例11,10では加熱時間を、実施例1とは異なる値に変化させた。
【0052】
実施例8では、第一電極層4の形成の際に、先ず、チタン(Ti)層、アルミニウム(Al)層、ニッケル(Ni)層を、この順に20nm/130nm/35nmの厚さに蒸着法で形成することで、金属積層体を得た。次に、この状態の基板1を熱処理装置に入れて、金属積層体をRTA(Rapid Thermal Annealing)法で加熱処理した。加熱処理は、基板1の温度を850℃に保持し、熱処理装置内に温度制御がなされていない窒素ガスを導入して2分間行った。また、加熱処理後に更に50nmのAuを蒸着法にて成膜した。
実施例9~12の第一電極層4の形成方法は、実施例8の方法と基板温度または加熱時間が異なるだけである。
実施例8~12では、このような方法で第一電極層4を形成したため、第一電極層4は、アルミニウムと金の合金等のような高抵抗の合金を含んでいない。
【0053】
<実施例13~17>
実施例13~17では、以下の点以外は実施例1と同じ方法で、第一電極層4および第二電極層5の平面形状が
図3に示す例であるものと
図6に示す例であるものの両方で、紫外線発光素子10を作製した。具体的には、表1に示すように、第一電極層4の形成条件を構成する熱処理条件のうちの基板温度および加熱時間を、実施例1とは異なる値に変化させた。
【0054】
<実施例18,19>
実施例18,19では、以下の点以外は実施例1と同じ方法で、第一電極層4および第二電極層5の平面形状が
図3に示す例であるものと
図6に示す例であるものの両方で、紫外線発光素子10を作製した。具体的には、表1に示すように、第一電極層4の形成条件を構成する金属積層構成を、実施例1とは異なるものにした。
実施例18では、第一電極層4の形成の際に、先ず、バナジウム(V)層、アルミニウム(Al)層、ニッケル(Ni)層、金(Au)層を、この順に20nm/130nm/35nm/50nmの厚さに蒸着法で形成することで、金属積層体を得た。その後、実施例1と同じ熱処理を行った。
実施例19では、第一電極層4の形成の際に、先ず、ジルコニウム(Zr)層、アルミニウム(Al)層、ニッケル(Ni)層、金(Au)層を、この順に20nm/130nm/35nm/50nmの厚さに蒸着法で形成することで、金属積層体を得た。その後、実施例1と同じ熱処理を行った。
【0055】
<比較例1>
比較例1では、以下の点以外は実施例1と同じ方法で、第一電極層4および第二電極層5の平面形状が
図3に示す例であるものと
図6に示す例であるものの両方で、紫外線発光素子を作製した。具体的には、表1に示すように、第一電極層4の形成条件を構成する熱処理条件のうち、窒素温度の制御は行わなかった。
そして、実施例2~19および比較例1についても、実施例1と同じ方法で第一電極層4の接触面41でのアルミニウム単体およびアルミニウムとニッケルとを含む合金の合計存在率などを測定した。また、実施例1と同じ方法で第一電極層4の駆動電圧を測定し、駆動電流が100mAの場合の駆動電圧を1とした相対値を算出した。さらに、駆動電流100mAでの駆動電圧に対する、駆動電流500mAでの駆動電圧の比を、駆動電圧増加率として算出した。
これらの測定結果および駆動電圧増加率を、第一電極層4の形成条件とともに表1に示す。
なお、表1の「Al+AlNi」は、アルミニウム単体およびアルミニウムとニッケルとを含む合金の合計を、「Al分」はアルミニウム存在率を、「AlNi層」は第一の層を、「含Al層」は第二の層をそれぞれ示す。
【0056】
また、表1には、各値が下記の構成(a)~(e)にそれぞれ該当する場合を「該当」、該当しない場合を「非該当」と表示した。
(a)接触面41及び接触面41近傍におけるアルミニウム単体およびアルミニウムとニッケルとを含む合金の合計存在率(Al+AlNi)が60面積%以上である。
(b)接触面41及び接触面41近傍におけるアルミニウム含有率(Al分)が30面積%以上である。
(c)アルミニウム含有層(含Al層)4bの厚さが1nm以上150nm以下である。
(d)第一の層(AlNi層)4aの厚さが100nm以上1000nm以下である。
(e)第一の層(AlNi層)4aとアルミニウム含有層(含Al層)4bとの、第一の層4aの断面積:アルミニウム含有層4bの断面積=1:2~400:1を満たす。
また、接触面及び接触面近傍にAlとNi以外の混在元素がある場合は、表1に、その元素記号を記載した。
【0057】
【0058】
さらに、実施例1と比較例1について、第一電極層4の平面形状および第二電極層5の平面形状が
図3に示す形状である場合の駆動電流と駆動電圧(相対値)との関係を
図7にグラフで示し、第一電極層4の平面形状および第二電極層5の平面形状が
図6に示す形状である場合の駆動電流と駆動電圧(相対値)との関係を
図8にグラフで示す。
表1において、実施例1~19の紫外線発光素子10の駆動電圧増加率は、比較例1の紫外線発光素子の駆動電圧増加率よりも小さくなっている。駆動電圧増加率はコンタクト抵抗が高いほど大きくなるため、駆動電圧増加率が小さいほどコンタクト抵抗が低いことを意味する。よって、表1の結果から、実施例1~19の紫外線発光素子10は比較例1の紫外線発光素子よりもコンタクト抵抗が低いことが分かる。
【0059】
また、
図7および
図8のグラフから分かるように、実施例1の紫外線発光素子10は比較例1の紫外線発光素子よりも、駆動電流の上昇に伴う駆動電圧の上昇度合いを低くできている。つまり、実施例1の紫外線発光素子10は比較例1の紫外線発光素子よりも、駆動電流が大きい場合でのコンタクト抵抗を低くできることが分かる。
さらに、
図7のグラフと
図8のグラフの比較から、実施例1の紫外線発光素子10および比較例1の紫外線発光素子でも、第一電極層4および第二電極層5の平面形状が
図6に示す形状である場合の方が、
図3に示す形状である場合よりも、同じ駆動電流での駆動電圧(つまり、コンタクト抵抗)を低減できることが分かる。これは、平面視における第一電極層4、窒化物半導体積層体3、第二電極層5の周辺長が、
図6の例で
図3の例よりも長いことによる効果であり、周辺長の長い素子を設計することがコンタクト抵抗を下げる上で好ましいことを意味している。
【0060】
一方、
図8のグラフの(つまり、第一電極層4、窒化物半導体層3、第二電極層5の平面形状が
図6に示す形状である)比較例1の紫外線発光素子と、
図7のグラフの(つまり、第一電極層4、窒化物半導体層3、第二電極層5の平面形状が
図3に示す形状である)実施例1の紫外線発光素子10とを比較した場合、
図7のグラフの実施例1の紫外線発光素子10の方が同じ駆動電流での駆動電圧(つまり、コンタクト抵抗)を低減できることが分かる。これは、上述の周辺長を長くする素子設計だけでは、得られる駆動電圧低減効果は不十分であり、第一電極層4が上記構成(a)~(e)を満たすことで、より大きな駆動電圧低減効果が得られることを意味している。
【符号の説明】
【0061】
1 基板
2 n型窒化物半導体層(第一導電型の第一窒化物半導体層)
3 窒化物半導体積層体
31 n型窒化物半導体層
32 窒化物半導体発光層
33 p型窒化物半導体層(第二導電型の第二窒化物半導体層)
4 第一電極層
4a 第一電極層を構成する第一の層
4b 第一電極層を構成する第二の層
4c 第一電極層を構成する第三の層
41 第一電極層のn型窒化物半導体層に対する接触面
411 接触面の第一の領域
412 接触面の第二の領域
413 接触面の第三の領域
5 第二電極層
51 棒状部
52 棒状部
53 棒状部
54 繋ぎ部
55 繋ぎ部
6 第一パッド電極
7 第二パッド電極
8 絶縁層
10 紫外線発光素子(窒化物半導体発光素子)