(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
H02P 21/06 20160101AFI20220915BHJP
【FI】
H02P21/06
(21)【出願番号】P 2017243888
(22)【出願日】2017-12-20
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】船越 秀一
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 康昌
(72)【発明者】
【氏名】中川 幸典
(72)【発明者】
【氏名】大重 成希
(72)【発明者】
【氏名】園田 康行
(72)【発明者】
【氏名】勝本 紘至
(72)【発明者】
【氏名】吉田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】上野 智憲
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-123767(JP,A)
【文献】特開2009-033929(JP,A)
【文献】特開2009-118663(JP,A)
【文献】特開2007-288989(JP,A)
【文献】特開2008-167557(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0225885(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータの内外にインナーロータ及びアウターロータを備え、該インナーロータ及びアウターロータが互いに独立して回転駆動されるモータであって、
前記モータの運転時に、q軸電流に加えて、d軸に電流を印加する制御部と
、
前記インナーロータ及び前記アウターロータの位相差を検出する位相検出手段を備え、
前記制御部は、前記インナーロータ及び前記アウターロータが互いに反対方向に回転する相反運転時に、q軸電流に加えて、前記位相検出手段で検出された位相差に応じた電流をd軸に印加する
ことを特徴とするモータ。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御部は、前記インナーロータ及び前記アウターロータのうちの一方
をdq制御軸として、以下の式(1)で計算される電流駆動を行う
ことを特徴とするモータ。
【数1】
式中、
id*:d軸電流指令
iq*:q軸電流指令
iq*_1:
アウターロータのq軸電流指令
iq*_2:
インナーロータのq軸電流指令
θerr:
インナーロータと
アウターロータとの位相差。
θinner:インナーロータの位相角
θouter:アウターロータの位相角
【請求項3】
請求項
2において、
前記ステータは1つであり、かつ、該1つのステータが前記インナーロータ及び前記アウターロータで共用されている
ことを特徴とするモータ。
【請求項4】
請求項
3において、
前記制御部は、前記式(1)における位相差θerrが+90°以上または-90°以下になった場合に、前記
アウターロータ及び前記
インナーロータのうちの進み側のロータの電流が0になるように制御する
ことを特徴とするモータ。
【請求項5】
請求項
4において、
前記制御部は、前記式(1)における位相差θerrが+90°以上のとき、
iq*_2×cosθerr=0
となるように制御する
ことを特徴とするモータ。
【請求項6】
請求項
4において、
前記制御部は、前記式(1)における位相差θerrが-90°以下のとき、
iq*_1=0
となるように制御する
ことを特徴とするモータ。
【請求項7】
請求項
4において、
前記制御部は、前記進み側のロータの電流を0にするときに、前記位相差θerrに応じて徐々に電流を減少させる
ことを特徴とするモータ。
【請求項8】
請求項1において、
前記制御部は、前記インナーロータ及び前記アウターロータのうちの一方である第1ロータ側をdq制御軸として電流駆動を行い、該第1ロータ側のdq制御軸で起動失敗を所定回数以上繰り返した場合に、前記インナーロータ及び前記アウターロータのうちの他方である第2ロータ側のdq制御軸で電流駆動を行う
ことを特徴とするモータ。
【請求項9】
請求項
8において、
前記制御部は、前記第2ロータ側のdq制御軸で電流駆動をする場合に、所定の回転数に到達するまでの間、所定のd軸電流を印加する
ことを特徴とするモータ。
【請求項10】
請求項
9において、
前記所定のd軸電流の印加をする場合に、互いに異なる方向に相反回転させる正逆転運転を少なくとも1回以上起動させる
ことを特徴とするモータ。
【請求項11】
請求項
10において、
前記正逆転運転が所定の回数以上成功した場合に、以下の式(1)で計算される電流駆動を行う
ことを特徴とするモータ。
【数1】
式中、
id
*:d軸電流指令
iq
*:q軸電流指令
iq
*_第1:
アウターロータのq軸電流指令
iq
*_第2:
インナーロータのq軸電流指令
θ
err:
インナーロータと
アウターロータとの間の位相差。
θinner:インナーロータの位相角
θouter:アウターロータの位相角
【請求項12】
請求項
8において、
前記
他方のdq制御軸での電流駆動により所定の回転数に到達し、かつ、相反運転している場合に、以下の式(1)で計算される電流駆動を行う
ことを特徴とするモータ。
【数1】
式中、
id
*:d軸電流指令
iq
*:q軸電流指令
iq
*_第1:
アウターロータのq軸電流指令
iq
*_第2:
インナーロータのq軸電流指令
θ
err:
インナーロータと
アウターロータとの間の位相差。
θinner:インナーロータの位相角
θouter:アウターロータの位相角
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デュアルロータ型のモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、1つのステータの内外にインナーロータ及びアウターロータを備えるデュアルロータ型のモータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようなデュアルロータ型のモータでは、インナーロータとアウターロータとの位相差がある場合に、インナーロータとアウターロータの一方を制御軸として電流を流した場合に、他方のロータでトルクが不足する場合がある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、デュアルロータ型のモータにおいて、位相ずれしたロータのトルクを補完することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1態様に係るモータは、ステータの内外にインナーロータ及びアウターロータを備え、該インナーロータ及びアウターロータが互いに独立して回転駆動されるモータであって、前記モータの運転時に、q軸電流に加えて、d軸に電流を印加する制御部を備えていることを特徴とする。
【0007】
この態様によると、モータの運転時に、q軸電流に加えて、d軸に電流を印加するようにしているので、位相ずれしたロータのトルクを補完することができる。
【0008】
本発明の第2態様では、第1態様において、前記インナーロータ及び前記アウターロータの位相差を検出する位相検出手段を備え、前記制御部は、前記インナーロータ及び前記アウターロータが互いに反対方向に回転する相反運転時に、q軸電流に加えて、前記位相検出手段で検出された位相差に応じた電流をd軸に印加することを特徴とする。
【0009】
この態様によると、インナーロータとアウターロータとの位相差θerrに応じた電流をd軸に印加することにより、位相差のcosθerrまたはsinθerrに応じた電流がq軸に対して追加されるので、位相ずれしたロータのトルクを補完することができる。
【0010】
本発明の第3態様では、第1態様において、前記制御部は、前記インナーロータ及び前記アウターロータのうちの一方である第1ロータ側をdq制御軸として、以下の式(1)で計算される電流駆動を行うことを特徴とする。
【0011】
【0012】
式中、
id*:d軸電流指令(制御軸:第1ロータ)
iq*:q軸電流指令(制御軸:第1ロータ)
iq*_1:第1ロータのq軸電流指令
iq*_2:第2ロータのq軸電流指令
θerr:第1ロータと第2ロータとの間の位相差。
【0013】
この態様によると、アウターロータを制御軸とした場合において、モータの相反運転時において、アウターロータとインナーロータとの位相差θerrがある場合に、式(1)に基づいて、位相差θerrに応じたd軸電流指令id*_outを与えるようにしている。これにより、位相ずれしたロータのトルクを補完することができる。
【0014】
本発明の第4態様では、第3態様において、前記ステータは1つであり、かつ、該1つのステータが前記インナーロータ及び前記アウターロータで共用されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の第5態様では、第4態様において、前記制御部は、前記式(1)における位相差が+90°以上または-90°以下になった場合に、前記第1ロータ及び前記第2ロータのうちの進み側のロータの電流が0になるように制御することを特徴とする。
【0016】
本発明の第6態様では、第5態様において、前記制御部は、前記式(1)における位相差θerrが+90°以上のとき、
iq*_2×cosθerr=0
となるように制御することを特徴とする。
【0017】
本発明の第7態様では、第5態様において、前記制御部は、前記式(1)における位相差θerrが-90°以下のとき、
iq*_1=0
となるように制御することを特徴とする。
【0018】
これらの第4、第5、第6乃至第7態様によると、遅れ側のロータが進み側のロータに追いつくように動作するので、インナーロータとアウターロータとの位相差θerrが+90°から-90°の範囲に入るように、モータを動作させることができる。
【0019】
本発明の第8態様では、第5態様において、前記制御部は、前記進み側のロータの電流を0にするときに、前記位相差に応じて徐々に電流を減少させる、ことを特徴とする。
【0020】
これにより、不連続な制御になることを回避することができる。
【0021】
本発明の第9態様では、第1態様において、前記制御部は、前記インナーロータ及び前記アウターロータのうちの一方である第1ロータ側をdq制御軸として電流駆動を行い、該第1ロータ側のdq制御軸で起動失敗を所定回数以上繰り返した場合に、前記インナーロータ及び前記アウターロータのうちの他方である第2ロータ側のdq制御軸で電流駆動を行うことを特徴とする。
【0022】
これにより、モータがロックした虞がある場合に、ロック状態からの脱出を図ることができる。
【0023】
本発明の第10態様では、第9態様において、前記制御部は、前記第2ロータ側のdq制御軸で電流駆動をする場合に、所定の回転数に到達するまでの間、所定のd軸電流を印加することを特徴とする。
【0024】
これにより、モータがロック状態を脱して起動ができている可能性が高いことを把握することができる。
【0025】
本発明の第11態様では、第10態様において、前記所定のd軸電流の印加をする場合に、互いに異なる方向に相反回転させる正逆転運転を少なくとも1回以上起動させることを特徴とする。
【0026】
このように、正逆転運転を行うことで、負荷の状態をより変化させやすくし、モータのロック状態を脱しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、デュアルロータ型のモータにおいて、位相ずれしたロータのトルクを補完することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本実施形態に係る洗濯機の構成を示す側断面図である。
【
図2】
図1のモータ部分を拡大した拡大側断面図である。
【
図3】モータの主な部材の構成を示す斜視図である。
【
図4】モータ及び制御部の構成を示すブロック図である。
【
図5】d軸電流指令とq軸電流指令について説明するための図である。
【
図6】モータの制御動作の一例を示すフロー図である。
【
図7】d軸電流指令とq軸電流指令について説明するための図である。
【
図8】d軸電流指令とq軸電流指令について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
<第1実施形態>
-洗濯機の全体構成-
図1、
図2に、本実施形態の洗濯機1(ドラム式洗濯機)を示す。洗濯機1は、筐体10、水槽20、ドラム30、パルセータ40、モータ50(駆動装置)、コントローラ60(制御装置)などで構成されていて、洗い、濯ぎ、脱水の各行程が、設定されたプログラムに従って自動的に行えるように構成されている(全自動式)。
【0031】
筐体10は、上面部10a、下面部10b、左右一対の側面部10c,10c、前面部10d、及び後面部10eを有する矩形箱形状をしている。前面部10dの略中央には、扉11で開閉される円形の投入口12が形成されている。洗濯物は、この投入口12を通じて出し入れされる。前面部10dの上部には、スイッチ等が配置された操作部13が設置されており、その後方にコントローラ60が内蔵されている。
【0032】
水槽20は、一端に内径よりも小径の開口20aを有する有底円筒状の容器であり、その開口20aを投入口12に向け、その中心線が前後の略水平方向に延びるように横置きにした状態で、筐体10の内部に設置されている。洗い時や濯ぎ時には、水槽20の下部に洗浄水や濯ぎ水が貯留される。
【0033】
ドラム30は、一端に開口部30aを有し、他端に底部を有する有底円筒状の容器であり、その開口部30aを前方に向けた状態で水槽20に収容されている。開口部30aは、ドラムの胴部よりも小さい内径を有している。ドラム30は、前後方向に延びる回転軸Jを中心に回転可能となっており、ドラム30に洗濯物が収容された状態で、洗い、濯ぎ、脱水等の各行程は実行される。
【0034】
パルセータ40は、頭頂の低い略円錐形をした前面を有する円板状の部材であり、ドラム30の底部に配置されている。パルセータ40は、ドラム30と独立して回転軸Jを中心に回転可能となっている。
【0035】
図2に詳しく示すように、インナーシャフト71及びアウターシャフト72からなる二重シャフト70が、回転軸Jを中心に水槽20の底面を貫通した状態で設置されている。アウターシャフト72は、インナーシャフト71よりも軸長が短い円筒状のシャフトである。インナーシャフト71は、内部軸受73を介してアウターシャフト72の内部に回転自在に軸支されている。アウターシャフト72は、外部軸受74を介して水槽20のベアリングハウジングに回転自在に軸支されている。
【0036】
ドラム30は、アウターシャフト72の上端部に連結されて支持されており、パルセータ40はインナーシャフト71の上端部に連結されて支持されている。これらアウターシャフト72及びインナーシャフト71は、水槽20の後側に配置されたモータ50に連結されている。
【0037】
コントローラ60は、CPUやメモリ等のハードウエアと、制御プログラム等のソフトウエアとで構成されており、洗濯機1を総合的に制御しており、操作部13で入力される指示に従って、洗い、濯ぎ、脱水等の各行程を自動的に運転する。
【0038】
-モータの構成-
図2に示すように、モータ50は、直径が水槽20よりも小さい扁平な円柱状の外観を有し、縦軸が回転軸Jの中心を通るように水槽20の底部に組み付けられている。
【0039】
モータ50は、アウターロータ53、インナーロータ52、インナーシャフト71、アウターシャフト72、ステータ51などで構成されている。すなわち、このモータ50は、1つのステータ51の内外にインナーロータ52、アウターロータ53を備えており(デュアルロータ)、これらロータ52,53が、クラッチや加減速機などを介在することなくパルセータ40やドラム30に連結されていて、これらを直接駆動するように構成されている(ダイレクトドライブ)。
【0040】
これら2つのロータ52,53は、1つのインバータ111(
図4参照)で駆動制御されている。アウターロータ53及びインナーロータ52の各々は、ステータ51のコイル(図示省略)を共用しており、このコイルに電流を供給することにより、独立して回転駆動できるようになっている。このモータ50の場合、2つのロータ52,53が同じ方向に回転する時と逆の方向に回転する時とで、両ロータの回転数の比は、例えば1:1、1:-2のように固定された値となる。同一方向と反対方向の各回転の切り替えは、着磁によって行われ、同一方向と反対方向のそれぞれで回転数の比は異なる。
【0041】
アウターロータ53は、扁平な有底円筒状の部材であり、中心部分が開口した底壁部121と、底壁部121の周縁に立設されたロータヨーク122と、円弧形状の永久磁石からなる複数のアウターマグネット124とを有している。底壁部121及びロータヨーク122は、バックヨークとして機能するように、鉄板をプレス加工して形成されている。
【0042】
本実施形態では、アウターロータ53は、コンシクエント型のロータであり、16個のアウターマグネット124が、周方向に間隔をあけてS極が並ぶように配置され、ロータヨーク122の内面に固定されている。なお、アウターマグネット124の磁極を反転させることで、アウターロータ53の磁極数を、16極と32極との間で切り換え可能となっている。ここで、本実施形態において、アウターマグネット124の減磁耐力は、20A程度に設定されている。
【0043】
インナーロータ52は、アウターロータ53よりも外径が小さい扁平な円筒状の部材であり、中心部分が開口した内側支持壁部131と、内側支持壁部131の周囲に立設された内側周壁部132と、矩形板状の永久磁石からなる複数のインナーマグネット134とを有している。
【0044】
本実施形態では、インナーロータ52は、スポーク型のロータであり、32個のインナーマグネット134が、周方向に間隔をあけて放射状に並ぶように配置され、内側周壁部132に取り付け固定されている。インナーマグネット134の間にはロータコア133が周方向に配置されている。
【0045】
インナーシャフト71は、円柱状の軸部材であり、内部軸受73、アウターシャフト72、及びボールベアリングを介して軸受ブラケット70に回転自在に支持されている。インナーシャフト71の下端部は、アウターロータ53に連結されている。インナーシャフト71の上端部は、パルセータ40に連結されている。
【0046】
アウターシャフト72は、インナーシャフト71よりも短く、インナーシャフト71の外径よりも大きな内径を有する円筒状の軸部材であり、上下の内部軸受73,73、インナーシャフト71、及び外部軸受74を介して軸受ブラケット70に回転自在に支持されている。アウターシャフト72の下端部は、軸支部24に支持されている。アウターシャフト72の上端部は、ドラム30のフランジシャフト34に連結されている。
【0047】
ステータ51は、アウターロータ53の内径よりも外径が小さくてインナーロータ52の外径よりも内径が大きい円環状の部材で形成されている。ステータ51は、複数のティース161やコイル(図示省略)などが、樹脂に埋設された状態で備えられている。
【0048】
図3に示すように、本実施形態のステータ51には、24個のI型のティース161及び各ティース161に巻回されたコイル(図示省略)が備えられている。コイルは、ティース161毎に、絶縁材を介して絶縁材で被覆された3本のワイヤを、所定の順序及び構成で連続して巻回することにより形成されている。コイルが形成された一群のティース161は、各径側端面だけを露出させた状態で、モールド成形によって熱硬化性樹脂に埋設されており、絶縁された状態で一定の配置に固定されている。ティース161は、縦断面がI形状を有する薄板状の鉄部材であり、各々が等間隔で放射状に並ぶようにして、ステータ51の全周に独立した状態で配置されている。ティース161の内周側及び外周側の側端部は、その両隅から周方向に鍔状に張り出している。
【0049】
隣接するティース161の間には、インナーロータ52の速度を検出するインナー速度検出部108と、アウターロータ53の速度を検出するアウター速度検出部109が配設されている。インナー速度検出部108は、インナーロータ52寄りの位置に配設されている。アウター速度検出部109は、アウターロータ53寄りの位置に配設されている。インナー速度検出部108及びアウター速度検出部109は、速度を検出可能なものであれば特に限定されず、例えば、ホールセンサ等の速度センサを用いることができる。
【0050】
図4に示すように、モータ50には、3相のインバータ111が1つ、接続されている。このモータ50では、ステータ51のコイル163に通電されたとき、ティース161のアウター側とインナー側には、同時に、相異なる極が発生し、回転磁界に伴って、アウターロータ53とインナーロータ52がそれぞれ独立して回転する。
【0051】
このように、ステータ51をアウターロータ53とインナーロータ52とで共用して、1つのインバータ111によって、アウターロータ53とインナーロータ52を複数の回転モードで回転駆動させることができる。
【0052】
-モータ制御(1)-
次に、モータ50の制御について説明する。まず、「モータ制御(1)」において、インナーロータ52とアウターロータ53との位相差θerrが、+90°未満または-90°より大きい場合の制御について説明する。
【0053】
図4は、モータ制御に関するモータ12及びコントローラ60の構成要素のうちで、運転時に係る要素を中心に記載したブロック図である。
【0054】
モータ50には、電流検出部112が接続されており、インバータ111の各相に流れる相電流Iuvwを検出する。電流検出部112で検出された相電流Iuvwは、UVW/dq変換部117において、q軸電流及びd軸電流の合成電流Idqに変換される。
【0055】
インナー速度検出部108で検出されたインナーロータ52の速度ωinnerは、インナー位相演算器113及びインナー速度制御部115に送信される。同様に、アウター速度検出部109で検出されたアウターロータ53の速度ωouterは、アウター位相演算器114及びアウター速度制御部116に送信される。
【0056】
インナー位相演算器113は、インナー速度検出部108による検出速度ωinnerを角度θに変換する機能を有し、例えば、積分器で実現することができる。アウター位相演算器114は、アウター速度検出部109による検出速度ωouterを角度θに変換する機能を有し、例えば、積分器で実現することができる。そして、インナー位相演算器113とアウター位相演算器114のそれぞれの変換結果に基づいて、インナーロータ52とアウターロータ53との位相差θerrが演算され、dq軸電流指令演算部118に与えられる。
【0057】
ここで、位相検出手段は、インナーロータ52の位相を検出するインナー位相検出手段と、アウターロータ53の位相を検出するアウター位相検出手段からなる。そして、インナー位相検出手段は、インナー速度検出部108及びインナー位相演算器113から構成され、アウター位相検出手段は、アウター速度検出部109及びアウター位相演算器114から構成される。なお、インナー位相検出手段及びアウター位相検出手段は、速度の検出結果に基づいて位相を検出するものとしているが、これに限定されず、位相を直接検出するようにしてもよい。また、位相検出手段を、単一の素子で実現するようにしてもよい。
【0058】
インナー速度制御器115は、インナー速度検出手段108から受けた検出速度ωinnerと、通常運転時の速度プロファイルに従う速度指令値ωinner
*とに基づいて、インナーロータ52の回転速度が速度指令値ωinner
*となるようなトルク指令値iq
*
_inを演算して出力する。アウター速度制御器116は、アウター速度検出部109から受けた検出速度ωouterと、通常運転時の速度プロファイルに従う速度指令値ωouter
*とに基づいて、アウター速度検出部109からの差分を受け、アウターロータ53の回転速度が速度指令値ωouter
*となるようなトルク指令値iq
*
_outを出力する。
【0059】
dq軸電流指令演算部118は、運転時(例えば、相反運転時)において、q軸電流に加えて、インナーロータ52とアウターロータ53との位相差θerr位に応じた電流をd軸に印加する。具体的に、インナー速度制御器115及びアウター速度制御器116からトルク指令値iq
*
_out,iq
*
_inを受け、以下の式(2)に基づいたd軸電流指令値id
*及びq軸電流指令値iq
*を出力する。なお、dq軸電流指令演算部118は、インナーロータ52及びアウターロータ53のうちのいずれか一方をdq制御軸として電流駆動を行うものであり、以下の式(2)の例では、アウターロータ53をdq制御軸として電流駆動を行う例を示している。なお、相反運転とは、インナーロータ52及びアウターロータ53が互いに反対方向に回転する運転モードである。
【0060】
【0061】
ここで、id*はd軸電流指令(制御軸:アウターロータ)、iq*はq軸電流指令(制御軸:アウターロータ)、iq*_outはアウターロータ53のq軸電流指令、iq*_inはインナーロータ52のq軸電流指令である。
【0062】
図5では、アウターロータ53に対して、インナーロータ52の位相が位相差θ
err遅れている例を示している。これは、アウターロータ53がパルセータ40に接続され、インナーロータ52がドラム30に接続されているので、アウターロータ53よりインナーロータ52の負荷が重いことに基づいている。
【0063】
図5に示すように、アウターロータ53を制御軸としてq軸電流指令iq
*_
outで駆動すると、インナーロータ52には、q軸電流指令iq
*_
inとして、
iq
*_
in=iq
*_
out×cosθ
err ・・・(3)
が印加される。すなわち、インナーロータ52のトルクが、位相差θ
errに応じた分だけ減少(不足)することになる。そこで、本実施形態では、アウターロータ53に、位相差θ
errに応じたd軸電流指令id
*_
outを与えることで、「id
*_
out×sinθ
err」で示される電流分のトルクをインナーロータ52に追加するようにしている。これにより、インナーロータ52のトルクを補完することができる。そして、このようにして計算されたd軸電流指令I
d
*及びq軸電流指令I
q
*の合成電流指令I
dq
*(制御軸:アウターロータ)を後段の電流制御部119に出力する。
【0064】
電流制御器119では、dq軸電流指令演算部118から受けた合成電流指令Idq
*と、UVW/dq変換部117から受けた合成電流Idqとに基づいて、モータ12のq軸電流及びd軸電流が合成電流指令Idq
*になるような電圧指令値Vdq
*をインバータ111に出力する。
【0065】
以上のように、本実施形態によると、アウターロータを制御軸とした場合において、モータ50の相反運転時において、アウターロータとインナーロータとの位相差θerrがある場合に、常時、q軸電流指令iq*_outに加えて、位相差θerrに応じたd軸電流指令id*_outを与えるようにしている。これにより、アウターロータ53とインナーロータ52との位相差θerrに応じてインナーロータ52に不足するトルクを補完することができる。
【0066】
-モータ制御(2)-
次に、インナーロータ52とアウターロータ53との位相差θ
errが、位相差が+90°以上または-90°以下となった場合の制御について説明する。なお、
図4の基本構成は、「モータ制御(1)」と同様であり、ここではその詳細説明を省略する。ここでは、「モータ制御(1)」と異なる動作をする、dq軸電流指令演算部118の動作を中心に説明する。
【0067】
具体的に、上記式(2)の制御において、位相差が+90°以上または-90°以下になった場合に、dq軸電流指令演算部118は、進み側のロータであるアウターロータ53の電流が0になるように制御する。具体的に、dq軸電流指令演算部118は、上記式(2)における位相差θ
errが+90°以上のとき、
iq
*_
in×cosθ
err=0 ・・・(4)
となるように制御する。すなわち、インナーロータ52のq軸電流指令iq
*_
inが0になるように制御する。このとき、アウターロータ52には、引き続きq軸電流指令iq
*_
outが与えられるようにする。q軸電流指令iq
*_
inを0にする方法は、例えば、
図7に示すように、
図5の場合と逆方向にd軸電流指令id
*を流すことにより実現することができる。
【0068】
同様に、dq軸電流指令演算部118は、上記式(2)における位相差θerrが-90°以下のとき、
iq*_out=0 ・・・(5)
となるようにアウターロータ53のd軸電流指令id*_outを制御する。すなわち、インナーロータ52のq軸電流指令iq*_inが0になるように制御する。
【0069】
なお、進み側のロータであるアウターロータ53の電流が0になるように制御する場合に、インナーロータ52とアウターロータ53との位相差θerrに応じて徐々に電流を減少させるのが好ましい。電流減少のさせ方は、特に限定されないが、例えば、線形的に減少させてもよいし、sinθerrに沿って変化するように減少させてもよい。具体的に、例えば上記式(6)において、dq軸電流指令演算部118は、インナーロータ52のq軸電流指令iq*_inを0にするときに、
iq*_in×|sinθerr| ・・・(6)
の演算結果に応じて徐々に減少させる。同様に、上記式(7)において、dq軸電流指令演算部118は、アウターロータ53のq軸電流指令iq*_outを0にするときに、
iq*_out×|sinθerr| ・・・(7)
の演算結果に応じて徐々に減少させる。
【0070】
-モータ制御(3)-
次に、ロック状態の脱出に係るモータ制御について
図6を参照しながら説明する。なお、
図4の基本構成は、「モータ制御(1)」と同様であり、ここではその詳細説明を省略する。ここでは、「モータ制御(1)」と異なる動作をする、dq軸電流指令演算部118の動作を中心に説明する。
【0071】
まず、
図6のステップS1では、モータ50は、相反運転モードで駆動を開始する。そして、ステップS2において、相反運転モードでの駆動が成功した場合(S2でYES)、
図6のフローを抜け、相反運転モード(通常モード)での運転が継続される。一方で、相反運転モードでの駆動が失敗すると、フローはステップS3に進む。
【0072】
ステップS3では、相反運転モードの起動失敗が、あらかじめ任意に定められた連続回数N1を超えたかどうかが判断され、起動失敗の連続回数がN1を超えるまでの間(S3でNO)、ステップS1,S2の処理が繰り返される。一方で、連続失敗回数がN1を超えると(S3でYES)、フローはステップS4に進む。
【0073】
ステップS4では、dq軸電流指令演算部118は、モータ50がロック状態に陥っていると判断し、ロック状態からの脱出を図るための制御をする。
【0074】
具体的には、
図8に示すように、(1)制御軸として設定したアウターロータ53と無関係に、インナーロータ52の制御軸上で起動させる。このとき、(2)インナーロータが所定の回転数に到達するまでの間(
図8では目標速度のX%に達するまでの間)、所定のd軸電流指令id
*を与えるようにする。その後、(3)回転数が順調に上昇して、目標速度近くまで上昇すると、起動成功と判断し、q軸電流指令iq
*、d軸電流指令id
*を一旦0にし(
図8の時間T2参照)、フローはステップS5に進む。これにより、負荷の状態(例えば、洗濯機1であれば洗濯物の状態)を変えることができるので、ロック状態を脱出できる可能性がある。一方で、所定時間目標速度に到達しない場合、起動失敗と判断し、q軸電流指令iq
*、d軸電流指令id
*を一旦0にし(
図8の時間T2参照)、フローはステップS5に進む。
【0075】
ステップS5では、起動成功が、あらかじめ任意に定められた所定の連続回数N2を超えているかどうかが判断され、起動成功の連続回数がN2を超えるまでの間(S5でNO)、ステップS4の処理が繰り返される。このとき、ステップS4では、互いに異なる方向に相反回転させる正逆転運転を少なくとも1回以上起動させる。例えば、2回目のステップS4の処理では、最初に相反回転させた方向(以下、正転という)とは、アウターローター及びインナーロータがそれぞれ反対方向(以下、反転という)に回転するように相反回転させる。このように、正転と反転の状態を交互に行う正逆転運転を少なくとも1回以上起動させることで、負荷の状態(例えば、洗濯機1であれば洗濯物の状態)をより変化させやすくなる。
【0076】
そして、ステップS4の処理を繰り返した結果、ステップS5において、起動成功の連続回数がN2を超えると(S5でYES)、フローはステップS1に戻る。また、ステップS4における正逆転運転を行っている間に、アウターロータ53がインナーロータ52に対して相反方向に回転し、モータ50が相反運転に復帰する場合がある。その場合には、ステップS5でYES判定となり、フローはステップS1に戻る。アウターロータ53がインナーロータ52に対して相反方向に回転しているかどうかは、例えば、アウター速度検出部109により検出することができる。
【0077】
以上のように、本実施形態によると、モータがロックした虞がある場合に、ロック状態からの脱出を図ることができる。
【0078】
《その他の実施形態》
以上、本発明の好ましい実施形態を説明してきたが、種々の改変が可能である。
【0079】
例えば、上記の実施形態では、アウターロータ53に対して、インナーロータ52の位相が位相差θerr遅れている場合について説明したが、これに限定されない。例えば、インナーロータ52に対して、アウターロータ53の位相が位相差θerr遅れている場合についても上記実施形態と同様である。具体的に、式(2)におけるインナーロータ52とアウターロータ53との関係を反対にすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明は、デュアルロータ型のモータにおいて、位相ずれしたロータのトルクを補完することが可能であるという実用性の高い効果が得られることから、きわめて有用で産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0081】
50 モータ
52 インナーロータ
53 アウターロータ
117 dq軸電流指令演算部(制御部)