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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】簡易な機械加工のための粉末金属組成物
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20220915BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20220915BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20220915BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B22F1/00 V
B22F3/10 E
C22C33/02 103A
C22C38/00 304
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2017558781
(86)(22)【出願日】2016-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2016052048
(87)【国際公開番号】W WO2016124532
(87)【国際公開日】2016-08-11
【審査請求日】2019-01-31
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-05
(31)【優先権主張番号】15153617.4
(32)【優先日】2015-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509020295
【氏名又は名称】ホガナス アクチボラグ (パブル)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フー、ボー
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】太田 一平
【審判官】市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-080683(JP,A)
【文献】特開平07-086860(JP,A)
【文献】特開平01-279167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00 - 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少量の機械加工性改善添加剤を含む鉄系粉末組成物であって、前記添加剤が、粉末形態の合成チタン酸化合物のみからなり、前記チタン酸化合物が以下の式;MxOnTiOに従い、式中、xは、1又は2であ、そしてnは、1以上で20未満の数であり、Mは、Li、Na、Kから選択されるアルカリ金属若しくはMg、Ca、Baから選択されるアルカリ土類金属又はこれらの組合せである、鉄系粉末焼結鋼用組成物。
【請求項2】
前記チタン酸化合物が以下の式;MxOnTiOに従い、式中、xは、1又は2であ、そしてnは、1以上で10未満の数であり、Mは、Li、Na、Kから選択されるアルカリ金属若しくはMg、Ca、Baから選択されるアルカリ土類金属又はこれらの組合せである、請求項1記載の鉄系粉末焼結鋼用組成物。
【請求項3】
前記合成チタン酸化合物が、少なくとも1種のアルカリ金属を含有する、請求項1又は2に記載の鉄系粉末焼結鋼用組成物。
【請求項4】
前記合成チタン酸化合物が、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸バリウム又はこれらの混合物の群から選択される、請求項1又は2に記載の鉄系粉末焼結鋼用組成物。
【請求項5】
前記合成チタン酸化合物が、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム又はこれらの混合物の群から選択される、請求項1又は2に記載の鉄系粉末焼結鋼用組成物。
【請求項6】
前記合成チタン酸化合物が、チタン酸カリウム及びチタン酸マグネシウムカリウム又はこれらの混合物の群から選択される、請求項3に記載の鉄系粉末焼結鋼用組成物。
【請求項7】
機械加工性改善添加剤の含有量が、0.05~1.0重量%の間である、請求項1~のいずれか一項に記載の鉄系粉末焼結鋼用組成物。
【請求項8】
機械加工性改善添加剤の含有量が、0.05~0.4重量%の間である、請求項1~のいずれか一項に記載の鉄系粉末焼結鋼用組成物。
【請求項9】
機械加工性改善添加剤の含有量が、0.1と0.3重量%の間である、請求項1~のいずれか一項に記載の鉄系粉末焼結鋼用組成物。
【請求項10】
前記チタン酸化合物の含有量が、0.1重量%超で0.5重量%未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の鉄系粉末焼結鋼用組成物。
【請求項11】
前記チタン酸化合物の含有量が、0.12重量%超で0.4重量%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の鉄系粉末焼結鋼用組成物。
【請求項12】
前記チタン酸化合物の含有量が、0.12重量%超で0.3重量%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の鉄系粉末焼結鋼用組成物。
【請求項13】
鉄系粉末焼結鋼用組成物中の機械加工性改善添加剤である合成チタン酸化合物の単独の使用であって、前記合成チタン酸化合物が、粉末形態であり、そして前記チタン酸化合物が、以下の式;MxOnTiOに従い、式中、xは、1又は2であ、そしてnは、1以上で20未満の数であり、Mは、Li、Na、Kから選択されるアルカリ金属若しくはMg、Ca、Baから選択されるアルカリ土類金属又はこれらの組合せである、
前記単独の使用。
【請求項14】
前記チタン酸化合物が、以下の式;MxOnTiOに従い、式中、xは、1又は2であ、そしてnは、1以上で10未満の数であり、Mは、Li、Na、Kから選択されるアルカリ金属若しくはMg、Ca、Baから選択されるアルカリ土類金属又はこれらの組合せである、
請求項13記載の使用。
【請求項15】
鉄系粉末を供給すること;及び
前記鉄系粉末を機械加工性改善添加剤、及び任意選択的に他の粉末材料と混合することを含む鉄系粉末焼結鋼用組成物を調製する方法であって、
前記機械加工性改善添加剤が、合成チタン酸化合物のみからなり、前記合成チタン酸化合物が、粉末形態であり、そして前記チタン酸化合物が、以下の式;MxOnTiOに従い、式中、xは、1又は2であ、そしてnは、1以上で20未満の数であり、Mは、Li、Na、Kから選択されるアルカリ金属若しくはMg、Ca、Baから選択されるアルカリ土類金属又はこれらの組合せである、
前記方法。
【請求項16】
前記チタン酸化合物が、以下の式;MxOnTiOに従い、式中、xは、1又は2であ、そしてnは、1以上で10未満の数であり、Mは、Li、Na、Kから選択されるアルカリ金属若しくはMg、Ca、Baから選択されるアルカリ土類金属又はこれらの組合せである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか一項に記載の鉄系粉末焼結鋼用組成物を調製すること;
前記鉄系粉末焼結鋼用組成物を、コンパクト化圧力400~1200MPaにてコンパクト化すること;
コンパクト化部品を、温度700~1350℃にて焼結すること;及び
任意選択的に、焼結部品を熱処理すること、
を含む、改善された機械加工性を有する鉄系焼結部品を製造する方法。
【請求項18】
機械加工性改善剤を含有する焼結コンポーネントであって、前記機械加工性改善剤が、合成チタン酸化合物のみからなり、前記合成チタン酸化合物が、粉末形態であり、そして前記チタン酸化合物が、以下の式;MxOnTiOに従い、式中、xは、1又は2であ、そしてnは、1以上で20未満の数であり、Mは、Li、Na、Kから選択されるアルカリ金属若しくはMg、Ca、Baから選択されるアルカリ土類金属又はこれらの組合せである、焼結コンポーネント。
【請求項19】
前記チタン酸化合物が、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸バリウム又はこれらの混合物の群から選択される、請求項18に記載の焼結コンポーネント。
【請求項20】
前記チタン酸化合物が、0.1重量%超で0.5重量%未満の量で存在する、請求項1819のいずれか一項に記載の焼結コンポーネント。
【請求項21】
前記チタン酸化合物が、0.12重量%超で0.4重量%以下の量で存在する、請求項1819のいずれか一項に記載の焼結コンポーネント。
【請求項22】
前記チタン酸化合物が、0.12重量%超で0.3重量%以下の量で存在する、請求項1819のいずれか一項に記載の焼結コンポーネント。
【請求項23】
前記焼結コンポーネントが、を更に含有する、請求項1822のいずれか一項に記載の焼結コンポーネント。
【請求項24】
前記焼結コンポーネントが、連接棒、主軸受キャップ及び可変バルブタイミング(VVT)コンポーネントの群から選択される、請求項1823のいずれか一項に記載の焼結コンポーネント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、新規な機械加工性改善剤を含有する粉末金属部品を製造するための粉末金属組成物並びに粉末金属部品の製造方法であって、改善された機械加工性を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
粉末冶金製造の主な利点の1つは、コンパクト化すること及び焼結することによって、最終的な形状又は最終的な形状に非常に近い形状のコンポーネントを製造することが可能になることである。しかしながら、それに続く機械加工が必要な場合がある。これは、例えば、高い耐性要求のために、又は最終的なコンポーネントが、直接的に加圧することはできず、焼結後に機械加工を必要とする形状を有するために、必要になり得る。より具体的には、コンパクト化する方向を横切る穴、アンダーカット及びねじ山等の形状には、それに続く機械加工が必要となる。
機械加工は、より高い強度とより高い硬度を有する新規な焼結鋼を継続的に開発することによって、コンポーネントの粉末冶金製造における課題となってきた。それは、粉末冶金製造が、コンポーネントを製造するための最も費用効果の高い方法であるかどうかを評価する際に、しばしば制限要因になる。
【0003】
今日では、焼結後のコンポーネントの機械加工を容易にするために、鉄系粉末混合物に添加される多くの既知の物質が存在する。最も普通の粉末添加剤は、MnS(硫化マンガン)であり、これは、例えば、欧州特許第0 183 666号において言及されており、焼結鋼の機械加工性が、このような粉末を混合することによって、どのように改善されるかが記載されている。
米国特許第4 927 461号には、焼結後の機械加工性を改善するために、六方晶BN(窒化ホウ素)0.01重量%及び0.5重量%を、鉄系粉末混合物に添加することが記載されている。
米国特許第5 631 431号は、鉄系粉末組成物の機械加工性を改善するための添加剤に関する。この特許によれば、添加剤には、フッ化カルシウム粒子が、粉末組成物の0.1重量%~0.6重量%の量にて含有されている。
日本国特許出願第08-095649号には、機械加工性改善剤が記載されている。この薬剤には、Al-SiO-CaOが含まれ、そしてアノーサイト又はゲーレナイト結晶構造を有する。アノーサイトは、テクトケイ酸塩であり、長石グループに属し、モース硬度6から6.5を有し、そしてゲーレナイトは、モース硬度5~6を有するソロケイ酸塩である。
【0004】
米国特許第7,300,490号には、硫化マンガン粉末(MnS)とリン酸カルシウム粉末又はヒドロキシアパタイト粉末との組合せからなる加圧され及び焼結された部品を製造するための粉末混合物が記載されている。
国際公開第2005/102567号パンフレットには、機械加工改善剤として使用される六方晶窒化ホウ素粉末とフッ化カルシウム粉末との組合せが開示されている。
酸化ホウ素、ホウ酸又はホウ酸アンモニウム等のホウ素含有粉末は、硫黄と組合せて、米国特許第5,938,814号に記載されている。
機械加工添加剤として使用されるべき粉末の他の組合せは、欧州特許公開第1985393A1号に記載されており、この組合せには、タルク及びステアタイト及び脂肪酸から選択される少なくとも1種が含有される。
機械加工改善剤としてのタルクは、特開平1-255604号に記載されている。
欧州特許出願第1002883号には、金属部品、特に弁座インサートを作成するための粉末化金属ブレンド混合物が記載されている。記載されているブレンドには、低摩擦及びすべり摩耗並びに機械加工性の改善を提供するために、固体潤滑剤0.5%~5%が含有されている。実施態様の1つには、雲母が固体潤滑剤として挙げられている。耐摩耗性及び高温安定性コンポーネントの製造に使用されるこれらのタイプの粉末混合物には、常に、多量の合金元素、典型的には10重量%超、及び硬質相、典型的には炭化物が含有される。
【0005】
米国特許第4,274,875号には、欧州特許第1002883号に記載されているものと同様の物品を、粉末化雲母を金属粉末に、コンパクト化及び焼結の前に、0.5重量%~2重量%の間の量にて添加する段階を含む粉末冶金により製造する方法が教示されている。具体的には、任意のタイプの雲母を使用できることが開示されている。
更に、日本国特許出願第10317002号には、摩擦係数が低減された粉末又は焼結コンパクトが記載されている。この粉末の化学組成は、硫黄1~10重量%、モリブデン3~25重量%及び残部は鉄である。更に、固体潤滑剤及び硬質相材料が添加される。
WO2010/074627には、鉄系粉末に加えて、少量の機械加工性改善添加剤を含む鉄系粉末組成物が開示され、前記添加剤には、フィロケイ酸塩の群から選択される少なくとも1種のケイ酸塩が含まれる。添加剤の具体例としては、白雲母、ベントナイト及びカオリナイトである。
【0006】
加圧され及び焼結されたコンポーネントの機械加工は、非常に複雑であり、そしてコンポーネントの合金系のタイプ、合金元素の量、温度、雰囲気及び冷却速度等の焼結条件、コンポーネントの焼結密度、コンポーネントのサイズ及び形状等のパラメーターによって影響を受ける。また、機械加工操作のタイプ及び機械加工速度は、機械加工操作の結果の非常に重要なパラメーターであることも明らかである。粉末冶金組成物に添加される提案された機械加工改善剤の多様性は、PM機械加工技術の複雑な性質を反映している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の概要
本発明により、焼結鋼の機械加工性を改善するための、特定のチタン酸塩を含有する新規な添加剤を開示する。具体的には、新規な添加剤によって、焼結鋼の穿孔などの、特に、鉄、銅及び炭素を含有する焼結コンポーネントで、例えば、連接棒、主軸受キャップ及び可変バルブタイミング(VVT)コンポーネントの穿孔の機械加工操作が容易になる。旋盤加工、フライス加工、溝加工、リーミング、ねじ切り等の他の機械加工操作も、新規な機械加工性改善剤によって容易になる。新規な添加剤を、プレ合金化、拡散合金化、焼結硬化鋼及びステンレス鋼に添加すると、機械加工性の改善において優れた特性を達成できる。更に、新規な添加剤は、高速度鋼、炭化タングステン、サーメット、セラミックス、及び立方晶窒化ホウ素等の幾つかのタイプの工具材料によって機械加工されるべきコンポーネントに使用することができ、そして工具は、コーティングされていてもよい。
【0008】
発明の目的
本発明の目的は、機械加工性改善のために、粉末金属組成物の新規な添加剤を提供することである。
本発明の別の目的は、種々のタイプの焼結鋼の種々の機械加工操作で使用されるような添加剤を提供することである。
本発明の別の目的は、加圧され、そして焼結されたコンポーネントの機械的特性に影響を与えないか、又は影響を無視できる程度の新規な機械加工性改善物質を提供することである。
本発明の更なる目的は、新規な機械加工性改善添加剤を含有する粉末冶金組成物、及びこの組成物から得られるコンパクト化部品を調製する方法を提供することである。
本発明の別の目的は、改善された機械加工性を有する焼結コンポーネント、特に鉄-銅-炭素を含有する焼結コンポーネントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
粉末形態の規定されたチタン酸塩化合物を含む機械加工性改善剤を、鉄系粉末組成物に含有させることによって、鉄系粉末組成物から作成された焼結コンポーネントの機械加工性が、非常に改善されることが今や見出された。更に、添加量が非常に少ない場合であっても、機械加工性に好ましい効果が得られるので、追加的な物質を添加することによる圧縮性への悪影響を最小限に抑えられる。また、添加されたチタン酸塩から機械的特性へ与える影響は許容可能であることも示されている。
本発明によれば、上記の目的の少なくとも1つ、及び以下の議論から明らかな他の目的は、本発明の種々の態様によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、焼結サンプルの機械加工の前後の機械加工工具の刃先の摩耗を示す。
図2図2は、焼結サンプルの機械加工の前後の機械加工工具の刃先の摩耗を示す。
図3図3は、腐食試験を受けた焼結サンプルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
本発明の第1態様によれば、少なくとも鉄系粉末、及び粉末形態の少量の機械加工性改善添加剤を含む鉄系粉末組成物であって、前記添加剤が、以下の式;MxOnTiOによる粉末形態の少なくとも1種の合成チタン酸塩化合物を含み、式中、xは、1又は2であり得、そしてnは、1以上で20未満、好ましくは10未満の数であり、Mは、Li、Na、K等のアルカリ金属若しくはMg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属又はこれらの組合せである、鉄系粉末組成物が提供される。第1態様の一実施態様によれば、チタン酸塩には、少なくとも1種のアルカリ金属が含有される。
第1態様の別の実施態様によれば、チタン酸塩化合物は、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸バリウム又はこれらの混合物の群から選択されることができる。第1態様の別の実施態様によれば、チタン酸塩化合物は、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム又はこれらの混合物の群から選択されることができ、好ましくは、前記チタン酸塩化合物は、チタン酸カリウム及びチタン酸マグネシウムカリウム又はこれらの混合物の群から選択される。
【0012】
本発明の第2態様によれば、新規な機械加工性改善添加剤であって、前記添加剤が、以下の式;MxOnTiOによる粉末形態の少なくとも1種の合成チタン酸塩化合物を含み、式中、xは、1又は2であり得、そしてnは、1以上で20未満、好ましくは10未満の数であり、Mは、Li、Na、K等のアルカリ金属若しくはMg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属又はこれらの組合せである、添加剤が提供される。
第2態様の一実施態様では、チタン酸塩には、少なくとも1種のアルカリ金属が含有される。
第2態様の別の実施態様によれば、チタン酸塩化合物は、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸バリウム又はこれらの混合物の群から選択されることができる。第2態様の別の実施態様によれば、チタン酸塩化合物は、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム又はこれらの混合物の群から選択されることができ、好ましくは、チタン酸塩化合物は、チタン酸カリウム及びチタン酸マグネシウムカリウム又はこれらの混合物の群から選択される。
【0013】
本発明の第3態様によれば、鉄系粉末組成物中の機械加工性改善添加剤に含まれる、粉末形態のチタン酸塩化合物の使用が提供される。前記チタン酸塩は、以下の式;MxOnTiOによる粉末形態の少なくとも1種の合成チタン酸塩化合物であり、式中、xは、1又は2であり得、そしてnは、1以上で20未満、好ましくは10未満の数であり、Mは、Li、Na、K等のアルカリ金属若しくはMg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属又はこれらの組合せである。
第3態様の一実施態様では、チタン酸塩には、少なくとも1種のアルカリ金属が含有される。
第3態様の一実施態様によれば、チタン酸塩化合物は、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸バリウム又はこれらの混合物の群から選択されることができる。第3態様の別の実施態様では、チタン酸塩化合物は、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム又はこれらの混合物の群から選択されることができ、好ましくは、チタン酸塩化合物は、チタン酸カリウム及びチタン酸マグネシウムカリウム又はこれらの混合物の群から選択される。
【0014】
本発明の第4態様によれば、鉄系粉末を供給すること;及び前記鉄系粉末を、上記態様による粉末形態の、機械加工性改善添加剤及び任意選択的に他の粉末材料と混合することを含む、鉄系粉末組成物を調製する方法が提供される。
本発明の第5態様によれば、上記態様による鉄系粉末組成物を調製すること;前記鉄系粉末組成物を、コンパクト化圧力400~1200MPaにてコンパクト化すること;前記コンパクト化部品を、温度700~1350℃にて焼結すること;及び任意選択的に、前記焼結コンポーネントを熱処理すること、を含む改善された機械加工性を有する鉄系焼結コンポーネントを製造する方法が提供される。
【0015】
本発明の第6態様によれば、上記の態様による新規な機械加工性改善剤を含有する焼結コンポーネントが提供される。第6態様の一実施態様では、焼結コンポーネントには、鉄、銅及び炭素が含有される。別の実施態様では、焼結コンポーネントは、連接棒、主軸受キャップ及び可変バルブタイミング(VVT)コンポーネントの群から選択される。第6態様の別の実施態様によれば、焼結コンポーネントには、例えばNi、Mo、Cr、Si、V、Co、Mn等の他の合金元素の1種以上が含有される。
機械加工改善添加剤又は機械加工改善剤には、粉末形態の規定されたチタン酸塩化合物が含まれる。好ましくは、粉末形態のチタン酸塩は、チタン酸塩化合物の粒子の平均アスペクト比が最大で5であるという点で、同じ化学組成物を有する繊維状チタン酸塩と区別される形状を有する。アスペクト比は、小さい寸法の1つに対する大きい寸法の比として定義されるが、通常、それは、平均直径に対する平均長さの比、即ち、平均直径で割算した平均長さとして定義される。アスペクト比は、顕微鏡下の画像分析に従って決定することができる。繊維状の形態、即ち、アスペクト比が5を超えるチタン酸塩は、他のFe系粉末組成物と混合して均一な混合物を得ることが困難である場合がある。
【0016】
チタン酸塩化合物は、化学式MxOnTiOを有する合成セラミックのグループに属し、式中、M=Li、Na、K等のアルカリ金属、若しくはMg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属、又はこれらの組合せであり、その結果、xは1又は2であり得、そしてnは、1以上、そして20未満、好ましくは10未満であり、そして必ずしも整数である必要はない。本発明による機械加工性改善添加剤に含まれることができるか、又はそれを構成することができるチタン酸塩化合物の例としては、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム及びチタン酸バリウム又はこれらの混合物が挙げられ、好ましくは、チタン酸塩化合物は、チタン酸カリウム及びチタン酸マグネシウムカリウム又はこれらの混合物の群から選択される。
【0017】
本発明による機械加工性改善添加剤は、硫化マンガン、六方晶窒化ホウ素、他のホウ素含有物質、フッ化カルシウム、白雲母等の雲母、タルク、エンスタタイト、ベントナイト、カオリナイト等の他の既知の機械加工性改善添加剤を含むことができるか、又はこれらと混合することができる。
鉄系粉末組成物中、それ故に焼結コンポーネント中の機械加工性改善添加剤の量は、0.05重量%と1.0重量%、好ましくは0.05重量%と0.5重量%、好ましくは0.05重量%と0.4重量%、好ましくは0.05重量%と0.3%、そしてより好ましくは0.1重量%と0.3重量%の間であり得る。鉄系粉末組成物中の本発明によるチタン酸塩又は機械加工性改善添加剤の添加量は、特に有利には、0.1重量%超で0.5重量%未満、好ましくは0.12重量%超で0.4重量%以下、例えば0.15重量%と0.4重量%の間、そして最も好ましくは0.12重量%超で0.3重量%以下、例えば0.15重量%と0.3重量%の間である。
より少ない量では、機械加工性に意図する効果が得られない場合があり、そして、より高い量では、機械的性質に悪影響を及ぼす場合がある。
【0018】
本発明による機械加工性改善添加剤に含まれるチタン酸塩の、SS-ISO 13320-1に準拠して測定される粒子サイズX95は、50μm未満、好ましくは40μm未満、より好ましくは30μm未満、より好ましくは20μm未満、例えば15μm未満又は10μm未満であることができる。これに代えて又はこれに加えて、平均粒子サイズX50は、25μm未満、好ましくは20μm未満、より好ましくは15μm未満、より好ましくは10μm未満、例えば8μm又は5μm未満であり得る。しかしながら、粒子サイズは、0.1μm超で、好ましくは0.5μm超であり、即ち、粒子の少なくとも95重量%が、0.5μm超であり得る。粒子サイズが、0.5μm未満である場合、添加剤を、他のFe系粉末組成物と混合して、均一な粉末混合物を得ることが、困難である場合がある。粒子サイズが、微細すぎると、焼結特性に悪影響を及ぼすこともある。粒子サイズが50μm超では、機械加工性及び機械的特性に悪影響を及ぼす場合がある。
従って、本発明による機械加工性改善剤に含有されるチタン酸塩の好ましい粒子サイズ分布の例としては;
X95が50μm未満であり、X50が25μm未満であり、そして少なくとも95重量%が0.1μm超である、又は、
X95が30μm未満であり、X50が15μm未満であり、そして少なくとも95重量%が0.1μm超である、又は、
X95が20μm未満であり、X50が10μm未満であり、そして少なくとも95重量%が0.5μm超である。
【0019】
鉄系粉末組成物
本発明による機械加工性改善添加剤は、本質的に任意の鉄系(ferrous)粉末組成物に使用することができる。従って、鉄系粉末組成物に含まれる鉄系粉末は、アトマイズ鉄粉末、還元鉄粉末等の純粋な鉄粉末であることができる。Ni、Mo、Cr、Si、V、Co、Mn、Cu等の合金元素を含む低合金化鋼粉末及びステンレス鋼粉末等のプレ合金化粉末も使用することができ、更に、合金元素が鉄系粉末の表面に拡散結合した部分的合金化鋼粉末も使用することができる。また、鉄系粉末組成物は、粉末形態の合金元素を含有することができ、即ち、合金元素含有粉末(1種又は複数種)は、鉄系粉末組成物中に別の粒子として存在する。
機械加工性改善添加剤は、組成物中に粉末形態で存在する。添加剤粉末粒子は、遊離粉末粒子として鉄系粉末組成物と混合する、又は、鉄系粉末粒子に、例えば結合剤によって、結合させることができる。
また、本発明による鉄系粉末組成物には、グラファイト、結合剤及び潤滑剤等の他の添加剤、並びに他の従来の機械加工性改善剤を含めることができる。潤滑剤は、0.05重量%~2重量%、好ましくは0.1重量%~1重量%にて添加することができる。グラファイトは、0.05重量%~2重量%、好ましくは0.1重量%~1重量%にて添加することができる。
【0020】
プロセス
本発明によるコンポーネントの粉末冶金製造は、従来的な方法にて、即ち、以下の方法、鉄系粉末、例えば鉄又は鋼粉末等を、ニッケル、銅、モリブデン及び任意選択的に炭素等の任意の所望の合金元素、並びに本発明による機械加工性改善添加剤と混合することができる。更に、合金元素は、プレ合金化若しくは拡散合金化して鉄系粉末に、又は混合合金元素、拡散合金化粉末若しくはプレ合金化粉末の間の組合せとして、添加することができる。この粉末混合物は、コンパクト化する前に、従来の潤滑剤、例えばステアリン酸亜鉛又はアミドワックスと混合することができる。混合物中のより微細な粒子は、偏析を最小限にし、そして粉末混合物の流動性を改善するために、結合物質によって、鉄系粉末に結合させることができる。その後、粉末混合物を、加圧工具でコンパクト化して、最終的な形状に近い未焼結体(green body)として知られるものを得ることができる。コンパクト化は、一般的に、圧力400~1200MPaにて行う。コンパクト化後、コンパクトは、温度700~1350℃にて焼結することができ、そして最終的な強度、硬度、伸び等が得られる。任意選択的に、所望の微細構造を得るために、焼結部品を更に熱処理することができる。
【実施例
【0021】
本発明を、以下の非限定的な例にて説明する。
機械加工性改善剤
下表(表1)に従う物質を、本発明による機械加工性改善剤の例として使用した。
【表1】

表2は、SS-ISO 13320-1に準拠して測定した、表1に列挙した物質に対する典型的な粒子サイズ分布を示す。なお、本願におけるMxO nTiO の「 」は、我が国において分子同士の結合に慣用的に付与される「・」と同義であり、そのため、当該MxO nTiO は、MxO・nTiO と表記することもできる。
【表2】

【0022】
例1
5つの鉄系粉末組成物を、純粋なアトマイズ鉄粉末ASC100.29(スウェーデンのHoganas ABから入手可能)、銅粉末Cu165(米国のACuPowderから入手可能)2重量%、グラファイト粉末Gr1651(米国のAsbury Graphiteから入手可能)0.85重量%、及び潤滑剤AcrawaxC(米国のLonzaから入手可能)0.75重量%を混合することにより調製した。混合物番号1を、基準として使用し、そして混合物番号1には、機械加工性改善物質が含有されないが、混合物番号2~5には、本発明による機械加工性改善剤0.15重量%が含有された。
これらの混合物を、SS-ISO 3325に準拠して、抗折力(TRS)のサンプル中にコンパクト化し、未焼結密度6.8g/cmにし、その後、30分間、窒素90%/水素10%の雰囲気中で、1120℃にて焼結した。周囲温度に冷却後、サンプルを、SS-ISO 3325に準拠して抗折力について、SS-EN ISO 6506にしたがって硬度(HRB)を試験した。コンパクトダイと焼結サンプルの間の寸法変化(DC)も測定した。
【表3】

表3から明らかなように、本発明による種々の機械加工性改善剤を、0.15重量%の含有量にて添加したが、焼結による特性や機械的な特性上に有意な影響はなかった。
更に、この混合物を、未焼結密度6.9g/cmに一軸加圧することによって、高さ=20mm、内径=35mm、外径=55mmのリングの形状の未焼結サンプルにコンパクト化し、その後、30分間、窒素90%/水素10%の雰囲気中で、1120℃にて焼結した。周囲温度に冷却後、サンプルを機械加工性について試験した。
機械加工性試験は、1/8インチのプレーンな(コーティングされていない)高速度鋼ドリルビットを用いて、湿潤状態にて、即ち、冷却剤を用いて、深さ18mmの盲穴を穿孔するように行った。本発明による種々の機械加工性改善剤を、例えば、切削工具の過度の摩耗又は破損等のドリル破壊前の全切削距離について評価した。表4は、機械加工性試験の結果を示す。
【表4】

表4は、本発明による試験した機械加工性改善剤の全てが、この改善剤を添加しない材料と比べて、焼結材料の機械加工性において非常に改善されたことを、明確に示している。
【0023】
例2
以下の例は、機械加工性改善剤であるチタン酸カリウムの粒子サイズが機械加工性に及ぼす影響を示す。
種々の粒子サイズ分布を有するチタン酸カリウムを使用したことを除いて、例1に記載したのと同様の鉄系粉末組成物を調製した。例1に従って焼結サンプルを調製し、そして例1に記載したのと同様のドリル試験を行った。以下の表5は、機械加工パラメーター及びその結果を示す。
【表5】

混合物番号7~9の場合、3240mmの切削の後でさえも、切削工具は破損せず、混合物番号10の場合、切削距離954mmの後、切削工具は破損したが、機械加工性改善剤を添加していない混合物番号6から得られた結果と比べて非常に改善されている。図1は、機械加工前後のドリルビットの刃先摩耗を示している。この図から、本発明による機械加工性改善剤が、刃先摩耗を驚くほど高いレベルまで軽減することが明確になる。機械加工性改善剤を使用しない場合には切削距離が僅か54mm後に工具が破損した過度の刃先摩耗と比べて、切削距離3240mm後に極僅かな摩耗が検出できるだけである。
【0024】
例3
以下の例は、本発明による機械加工性改善剤の効果を、既知のそのような薬剤と比較して示す。比較用の鉄系粉末組成物には、既知の機械加工性改善剤を、即ち、混合物番号12には、粒子サイズ分布X95=9μmを有するフッ化カルシウム粉末、そして混合物番号13には、粒子サイズ分布X95=10μmを有する硫化マンガン粉末MnSを使用した。混合物番号14~16、16a及び16bには、例2の混合物番号7に記載したのと同じ本発明による機械加工性改善剤が含有された。鉄系粉末組成物及び試験サンプルを、例1の記載に従って調製した。TiN被覆高速度鋼穿孔を使用し、ドリルは、直径1/8インチを有し、そして穴は、乾燥状態で、即ち、冷却剤無しで深さ10mmまで穿孔したことを除いて、例1に従って機械加工性試験を行った。
以下の表6は、機械加工性改善添加剤及び試験結果を示す。
【表6】

混合物番号13並びに16、16a及び16bから作成されたサンプルの機械加工性試験は、工具が破損することなく、切削距離3600mm後に終了した。この結果から、本発明による機械加工性改善剤の添加量が0.15重量%未満の場合、機械加工性改善における特性は制限され、一貫しないことがわかる。しかしながら、0.05%という低い量ですら、機械加工性改善剤を使用しない場合と比べて、幾らかの改善性が未だ見られる。
コンパクト化前に、ISO 4490-2008に準拠してホールフロー(Hall Flow)を、以下の表6aによる混合物について測定した。SS-ISO 3325に準拠して抗折力(TRS)のサンプルを、例1に記載したのと同じ方法にて調製した。ISO 3995-1985に準拠して、未焼結強度を、幾つかの焼結していない未焼結TRSサンプルについて測定し、そして残りのTRSのサンプルを、焼結工程に付し、その後、例1に記載したように抗折力を測定した。コンパクト化ダイと焼結サンプルとの間の寸法変化もまた測定した。
表6aは、ホールフロー試験、焼結していないサンプルの未焼結強度試験、ダイと焼結サンプルとの間の寸法変化の測定、及び焼結サンプルの抗折力の試験の結果を示す。
【表7】

表6aから明らかなように、チタン酸塩を0.5%以上の含有量にて添加すると、粉末混合物の流れ、コンパクト化サンプルの未焼結強度、寸法変化及び抗折力等の材料特性が著しく影響を受ける。
【0025】
例4
以下の例は、90%を超えるマルテンサイト微細構造を含有する焼結硬化サンプルを切削する場合について、本発明による機械加工性改善剤の効果を、既知のこのような薬剤と比較して示す。鉄系粉末組成物を、プレ合金化鉄粉末Astaloy MoNi(Fe+1.2%Mo+1.35%Ni+0.4%Mn)(米国のNorth American Hoganasから入手可能)、銅粉末Cu165(米国のACUPowderから入手可能)2重量%、グラファイト粉末Gr1651(米国のAsbury Graphiteから入手可能)0.9重量%、及び潤滑剤Introlube E(スウェーデンのHoganas ABから入手可能)0.6重量%を混合することにより調製した。混合物番号17を、基準として使用し、そして混合物番号17には、機械加工性改善物質が含有されないが、混合物番号18には、例3に記載した既知の機械加工性改善剤である硫化マンガンMnS0.5重量%が含有された。混合物番号19には、例3に記載した本発明による機械加工性改善剤0.15重量%が含有された。
この混合物を、例1の記載に従ってリングの形状の未焼結サンプルにコンパクト化した。その後、未焼結サンプルを、毎秒2℃の冷却速度を使用して、サンプルを、周囲温度に冷却したことを除いて、例1の記載に従って焼結した。空気中で、1時間、204℃にて焼戻した後、サンプルを機械加工性試験に使用した。
機械加工性試験は、旋盤操作にて行った。立方晶窒化ホウ素(cBN)インサートを使用して、サンプルを乾燥状態にて、即ち、冷却剤無しで、過度の工具摩耗(200μm超)が観察されるまで切削した。
以下の表7は、機械加工性試験の機械加工パラメーター及びその結果を示す。
【表8】

図2は、機械加工性改善剤を含有するサンプルの機械加工後の工具の摩耗状態を示す。表及び図から、本発明による機械加工性改善剤が、工具摩耗を驚くほど高いレベルに軽減することが明確になる。機械加工性改善剤を使用しない場合に切削距離754m後に破損を観察した工具、及び既知の機械加工改善剤であるMnSを使用した場合に切削距離1036m後に破損を観察した工具と比べて、切削距離4898m後に、極僅かなクレーター摩耗を検出できるだけである。従って、本発明による機械加工性改善剤は、焼結硬化鋼に対して非常に機械加工性を改善できることが分かる。
【0026】
例5
以下の例は、ステンレス鋼サンプルを切削する場合、本発明による機械加工性改善剤の効果を、既知のこのような薬剤と比較して示す。鉄系粉末組成物を、304Lステンレス鋼粉末(Fe+18.5%Cr+11%Ni+0.9%Si)(米国のNorth American Hoganasから入手可能)、及び潤滑剤Acrawax C(米国のLonzaから入手可能)1.0重量%を混合することにより調製した。混合物番号20を、基準として使用し、そして混合物番号20には、機械加工性改善物質が含有されないが、混合物番号21には、例3に記載した既知の機械加工性改善剤である硫化マンガンMnS0.5重量%が含有された。混合物番号22には、例3に記載した本発明による機械加工性改善剤0.15重量%が含有された。
この混合物を、例1の記載に従ってリングの形状の未焼結サンプルにコンパクト化し、未焼結密度6.5g/cmにし、その後、45分間、水素100%の雰囲気中で1315℃にて焼結した。周囲温度に冷却した後、サンプルを機械加工性試験に使用した。
機械加工性試験は、旋盤操作にて行った。コーティングされた炭化タングステンインサートを使用して、サンプルを湿潤状態にて、即ち、冷却剤を使用して、過度の工具摩耗(200μm超)が観察されるまで切削した。
以下の表8は、機械加工性試験の機械加工パラメーター及びその結果を示す。
【表9】

混合物番号22の場合、5087mmの切削後に少しだけ初期の工具摩耗が生じたが、混合物番号20及び21の場合、同じ距離を切削した後、過度の工具摩耗が生じた。この結果から、本発明による機械加工性改善剤が、既知の機械加工性改善剤であるMnSよりも、はるかに良好に機械加工操作を容易にするが、本発明による機械加工性改善剤の添加量は、より少ないことが分かる。更に、本発明による機械加工性改善剤は、0.15%という少ない含有量で、ステンレス鋼の機械加工性の改善に優れた効果を有することに注目すべきである。
【0027】
例6
この例は、本発明による機械加工性改善剤の、焼結サンプルの腐食に対する影響を示す。
例1に記載の鉄系粉末組成物を調製した。1つの組成物には、機械加工性改善剤が含有されず、別の組成物には、MnS0.5重量%が含有され、そして3番目の組成物には、X95=9μmを有するチタン酸カリウム0.15%が含有された。リングの形状の未焼結サンプル及び焼結サンプルを、例1に記載したように調製した。その後、焼結サンプルを、45℃及び相対湿度95%の湿度室内に置いた。サンプルを、試験開始時、1日後及び4日後に視覚的に検査した。
図3は、MnSを含有するサンプルが激しい腐食を示すのとは対照的に、新規な機械加工性改善剤を含有するサンプルの場合は、4日後に殆ど腐食を検出することができなかったことを示している。機械加工性改善剤を添加されていないサンプルと比較すると、本発明による機械加工性改善剤は、ある程度の腐食防止効果を有するとすら結論付けることができる。
【0028】
例7
例7は、機械加工性改善剤としてのチタン酸塩が、アルカリ金属を含有しない、即ち、アルカリ土類金属のチタン酸塩からなる場合、機械加工性は、制限された程度に影響を受けるだけであることを示している。
4つの鉄系粉末組成物を、純粋なアトマイズ鉄粉末ASC100.29(スウェーデンのHoganas ABから入手可能)、銅粉末Cu165(米国のACuPowderから入手可能)2重量%、グラファイト粉末Gr1651(米国のAsbury Graphiteから入手可能)0.85重量%、及び潤滑剤Acrawax C(米国のLonzaから入手可能)0.75重量%を混合することにより調製した。混合物番号23を基準として使用し、そして混合物番号23には、機械加工性改善物質が含有されないが、混合物番号24~26には、機械加工性改善剤0.15重量%が含有された。物質PTの粒子サイズは、X95=9μm、物質BTの粒子サイズは、X95=7μm、そして物質CTの粒子サイズは、X95=10μmであった。
混合物を、未焼結密度6.9g/cmに一軸加圧することによって、高さ=20mm、内径=35mm、外径=55mmのリングの形状の未焼結サンプルにコンパクト化し、その後、窒素90%/水素10%の雰囲気中で、1120℃にて30分間、焼結した。周囲温度まで冷却した後、サンプルを機械加工性について試験した。
機械加工性試験は、1/8インチのプレーンな(コーティングされていない)高速度鋼ドリルビットを用いて、湿潤状態にて、即ち、冷却剤を用いて、深さ18mmの盲穴を穿孔した。機械加工性改善剤を、例えば、切削工具が過度の摩耗又は破損する等のドリル破壊前の全切削距離について評価した。表9は、機械加工性試験の結果を示す。
【表10】

表9は、本発明によるサンプルである混合物番号24の場合に認められた機械加工性の顕著な改善と比べて、混合物26の場合は、制限された改善が得られたことを示している。混合物番号25は、ある程度の改善を示している。

図1
図2
図3