(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ワークピースのコーティング装置及び方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20220915BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20220915BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C23C14/24 T
C23C14/24 J
F01D5/28
F02C7/00 D
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018001842
(22)【出願日】2018-01-10
【審査請求日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】10 2017 100 507.2
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507332907
【氏名又は名称】アー エル デー ヴァキューム テクノロジーズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ALD Vacuum Technologies GmbH
【住所又は居所原語表記】Otto-von-Guericke-Platz 1, 63457 Hanau, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヨルグ ヴィッティヒ
(72)【発明者】
【氏名】シモン オベール
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン ホッツ
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102012102465(DE,A1)
【文献】特開2000-180584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
F01D 5/28
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともひとつの導入チャンバー(120)と、少なくともひとつのプロセスゾーンとを含み、ひとつ又は複数のワークピースを固定できるホルダーを有する少なくともひとつのマニュピュレータを含み、前記ホルダーは少なくとも部分的に可動であり、前記マニュピュレータは前記マニュピュレータの長手軸の方向に変位可能であり、前記ホルダーは、前記マニュピュレータの長手軸の方向に、前記導入チャンバー(120)から前記プロセスゾーンへと移動可能であり、前記マニュピュレータは、前記導入チャンバー(120)に挿入可能であり、前記ホルダー及び/又は前記ホルダーの上にある前記ワークピースを移動させることに適したシャフトを有する、ワークピースのコーティング装置であって、
前記導入チャンバー(120)は、前記導入チャンバーの前記プロセスゾーンから離れた側面にダクトを有し、
該ダクトは相互に押し込み可能な少なくとも2つの伸縮セグメント(140、150、160、170)を有し、該伸縮セグメントを前記シャフトが貫通しており、
前記伸縮セグメントの第1伸縮セグメント(150)は第2伸縮セグメント(160)よりも直径が小さく、
少なくともひとつのシール(240)は、前記第1伸縮セグメント(150)の外周部と前記第2伸縮セグメント(160)の内周部との間にある中間領域(230)に配置されている
装置。
【請求項2】
前記伸縮セグメント(140、150、160、170)の長さの和は、前記ワークピースの導入中に前記マニュピュレータの前記ホルダーが位置する前記導入チャンバー(120)内の導入位置から、コーティング中に前記マニュピュレータの前記ホルダーが位置する前記プロセスゾーンでのコーティング位置までの距離と、少なくとも同じ長さである
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
複数の前記導入チャンバー(120)を備え、前記導入チャンバーの各々に、前記マニュピュレータと、前記伸縮セグメント(140、150、160、170)を備える前記ダクトとが配置されている
請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
直径の最も小さい前記伸縮セグメント(150)が駆動ユニット(200)に接続されている
請求項1~3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記ダクトは、前記伸縮セグメント(140、150、160、170)を少なくとも3
個備え、かつ、最大で12
個有する
請求項1~4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記ダクトは、前記伸縮セグメント(140、150、160、170)のねじれを回避するために、ひとつ又は複数のねじれ防止機構(190)を備える
請求項1~5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記中間領域(230)には、排気装置が2つのシール要素(240)の間に設けられている
請求項1~6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記伸縮セグメント(140、150、160、170)の相互移動を可能にするために、少なくともひとつのスライド式ガイド(250)が、前記中間領域(230)に設けられている
請求項1~7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記シャフトは、前記導入チャンバー(120)の外部の駆動ユニット(200)に接続されている
請求項1~8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記駆動ユニット(200)は、前記マニュピュレータの長手軸に沿って移動可能である
請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記導入チャンバー(120)が、ガイド(210)上を移動可能であり、前記導入チャンバー(120)を移動させることにより、前記導入チャンバーの開口部を開閉する
請求項1~10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
ひとつ又は複数のワークピースを上記請求項1~11のいずれかに記載の装置の前記導入チャンバー(120)に挿入してから、前記ホルダーに前記ワークピースを固定する、
若しくは、前記ホルダーに固定されたひとつ又は複数の前記ワークピースを、前記導入チャンバー(120)に挿入してから、前記ホルダーを前記マニュピュレータに固定するステップと、
前記ワークピースを前記導入チャンバーから(i)前記プロセスゾーンへ、又は、(ii)予熱ゾーン次いで前記プロセスゾーンへと移動させるステップと、
前記プロセスゾーンにおいて前記ワークピースをコーティングするステップと、
コーティングされた前記ワークピースを前記装置から取り出すステップとを含む
ワークピースのコーティング方法であって、
前記ワークピースを(i)前記プロセスゾーン、又は、(ii)前記予熱ゾーン次いで前記プロセスゾーンへと移動させている間に、前記伸縮セグメント(140、150、160、170)が相互に押し込まれる
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワークピースのコーティング装置及び方法に係り、特にタービンブレードのコーティングに関する。本発明の方法は、物理気相成長法(PVD)、特に電子ビーム/物理気相成長法(EB/PVD)に好ましい。コーティングは、特にサーマル・バリア・コーティング(TBC)とも呼ばれる断熱層である。
【背景技術】
【0002】
タービンブレードは運転中に非常に高い温度と温度勾配に曝される。断熱層があると、ワークピースの熱抵抗が増すので、耐用年数が延びる。EB/PVDによりタービンブレードにコーティングを施すために、該タービンブレードは、特に真空雰囲気に導入され、予熱ゾーンにおいて加熱され、その後、プロセスゾーンにおいて真空下、高温で、所定のパターンで運動しながら、コーティングされる。これは、マニュピュレータと呼ばれるものの助けを借りて行われる。プロセスゾーンの領域は一般的に非常に熱く汚れており、特に研磨作用のあるダストが発生して汚れている。この領域においては、マニュピュレータの材質、他の全ての機械部品の材質に課せられている要求には非常に厳しいものがある。
【0003】
EB/PVDによってタービンブレードをコーティングするための装置と方法は、従来技術においても知られている。
【0004】
例えば、欧州特許出願公開第2 520 689号は、ワークピースをコーティングするためのEB/PVD装置と方法を教示している。この装置は、コーティングチャンバー内の延伸位置及びコーティングチャンバー外の収納位置においてワークピースを保持するマニュピュレータを有する。マニュピュレータには、ワークピースと共に熱処理チャンバーから引き出される防熱フードが設けられている。マニュピュレータは外側部分と内側部分とを有することができる。ここで、内側部分は、外側部分に対して相対的に動かすことができる。内側部分はワークピースを保持することができ、外部部分は防熱フードを保持することができる。内側部分は、マニュピュレータの長手軸の周りに、外部部分に対して回転させることができる。装置は、コーティングチャンバーに加えて、導入チャンバーと予熱チャンバーを有することができる。コーティング中、ワークピースは回転することができる。この先行技術文献における装置の設計では、処理チャンバーにシールを設ける必要がある(
図6の符号332を参照)。処理チャンバー内に装置のシールと可動部が存在することは不利であり、苛烈な高温とダストによる負荷を負わされる領域では、部品点数をできる限り少なくすることが望ましい。総括すれば、引用文献の装置は、処理チャンバーが相対的に複雑であり、メンテナンスに要する経費の増加が生じるという、欠点がある。
【0005】
欧州特許出願公開第2 157 204号は同様に、コーティング方法とそれを行う装置を教示している。その方法とは、EB/PVD法により断熱層を堆積させる方法である。マニュピュレータについては、記載されていない。
【0006】
欧州特許出願公開第2 374 913号は同様に、コーティング方法及び装置を教示している。その方法とは、EB/PVD法により断熱層を堆積させる方法である。コーティングチャンバーと予熱チャンバーが設けられている。公報に記載されている装置では、ワークピースを保持するためのホルダーがマニュピュレータに固定されている。マニュピュレータは、導入チャンバーから予熱チャンバー及びコーティングチャンバーへ、ワークピースを移動させることができる。このため、ワークピースの回転運動は可能ではない。
【0007】
欧州特許出願公開第2 468 918号は、ワークピースの上にコーティング材料を堆積させるための装置に関する。この装置はワークピースの受け取りに適したホルダーを多数有する。実施される方法はEB/PVD法である。長手軸に沿って平行移動させ、且つ長手軸を回転軸として回転できるように設計されている。このように設計すると、できるだけ均一なコーティングとなるように、コーティングチャンバー内においてワークピースを回転できる。専用のワークピースのホルダーを備え、アクセスが難しいワークピースにもコーティングできるように意図されている。
【0008】
欧州特許出願公開第2 236 643号には、ワークピースをコーティングするためのEB/PVDが記載されている。コーティング中のワークピースの移動が、制御ユニットを介して制御されるように意図されている。ワークピースを前方又は後方に移動させ、ワークピースをコーティングチャンバー内に保持するために、マニュピュレータが設けられている。この目的のために、マニュピュレータはステムを有する。マニュピュレータは、さらに、コーティングチャンバー内部でワークピースを回転させることに適している。マニュピュレータに関して、これ以上に詳しい記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許出願公開第2 520 689号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2 157 204号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2 374 913号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2 468 918号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2 236 643号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
先行技術の方法には、プロセスゾーンの領域内のマニュピュレータが複雑な設計であり、したがって故障の影響を受け易いという欠点がある。マニュピュレータは装置運転中プロセスゾーンにいるため、マニュピュレータにおいてシール及び可動部品を使用することは好ましくない。マニュピュレータのための駆動部と、場合によっては存在するが、トロッコ(trolley)又はレールは、特に故障し易い。マニュピュレータの駆動部は真空領域に設置されることが多いことから、装置の耐用寿命を低下させるだけでなく、装置全体を大型化させることになる。EB/PVD法は真空下で実施されるため、プロセスチャンバーのサイズ増大に伴い、運転コストや装置経費が上昇する。
【0011】
したがって、本発明の目的は、メンテナンス経費の低減、エネルギー消費の低減、装置経費の低減を可能にする、ワークピースのコーティング装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本目的は、クレームに記載された内容によって実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、合計4つの伸縮セグメントを有する本発明による装置を示す。
【
図2】
図2は、本発明にしたがって用いられる伸縮セグメント及びベース・セグメントの詳細を示す。
【
図3】
図3は、相互に押し込み可能な伸縮セグメントを有する本発明の装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[装置]
本発明の目的は、少なくともひとつの導入チャンバーと、少なくともひとつのプロセスゾーンとを含む、ワークピース、特にタービンブレードのコーティング装置によって実現され、装置は、ひとつ又は複数個のワークピースを固定できるホルダーを有する少なくともひとつのマニュピュレータを含み、ホルダーは少なくとも部分的に可動であり、特にマニュピュレータの長手軸周りに回転可能であり、マニュピュレータの長手軸方向に特に水平に変位可能であり、ホルダーをマニュピュレータの長手軸方向へ向かわせて、導入チャンバーからプロセスゾーンへ移動可能である。
【0015】
マニュピュレータは、導入チャンバーに挿入可能であり、ホルダー及び/又はホルダーの上にあるワークピースを移動、特に回転移動させることに適したシャフトを有し、導入チャンバーは導入チャンバーのプロセスゾーンから離れた側面にダクトを有し、該ダクトは相互に押し込み可能な少なくとも2つの伸縮セグメント(telescopic segments)を有し、シャフトが該伸縮セグメントを貫通しており、伸縮セグメントの第1伸縮セグメントは、第2伸縮セグメントよりも直径が小さく、少なくともシールが第1伸縮セグメントの外周部と第2伸縮セグメントの内周部との間にある中間領域に配置されている。
【0016】
伸縮セグメントは、導入チャンバーの外に位置するダクトの側面に配置されており、それらの動作領域は、主に、導入チャンバーの外側に伸びている。主に、とは、本願では50%よりも大きく、好ましくは66%又は75%よりも大きく、特に好ましくは95%よりも大きく、100%も含めていることを意味する。
【0017】
本明細書において「ひとつのワークピース」と記載した場合は、ワークピースが複数であることも明示的に含めている。本発明の通常及び好ましい形態によれば、ホルダーには複数のワークピースが固定されており、よって本発明の方法により複数のワークピースが同時にコーティングされる。ホルダーは、少なくとも2個、特に少なくとも4個、少なくとも6個、又は少なくとも8個のワークピースを保持するのに適している。ワークピースの個数は、最大で24個に限定されることが好ましく、特に最大で20個、最大で18個又は最大で14個が好ましい。タービンブレードのサイズやこの装置で扱うことができる他のワークピースの通常寸法を考慮すると、これらのワークピースの数量は、比較的小さいコーティング装置において可能な限り大きな効率を得るのに特に適していることが明らかになっている。
【0018】
コーティング装置は複数の導入チャンバーを有することによって特に有利となり、よってプロセスゾーンにおける処理量を増加させることができる。特に、各導入チャンバーには、マニュピュレータ及び/又は本発明による伸縮セグメントが設けられたダクトが配置されている。コーティングされたワークピースが排出されると共に、空になった導入チャンバーを経由してワークピースを更に導入することができる。少なくとも2個、少なくとも3個、又は少なくとも4個の導入チャンバーを設けるといっそう有利となる。
【0019】
本発明において使用される導入チャンバーのサイズは先行技術に比較べると相対的に小さくなっていることから、装置1台につき、そのような導入チャンバーを複数使用することができる。特に好ましい形態では、複数の予熱ゾーン(又は予熱チャンバー)が設けられており、効率を更に高めることができる。導入チャンバー毎に予熱ゾーン(又は予熱チャンバー)が割り当てられていることが好ましい。結果としてスループットを再び大幅に増加させることができる。
【0020】
以上のように構成すると、本発明の装置は比較的小さく設計できる。シャフトは伸縮セグメントを貫通しているため、シャフトを駆動する駆動ユニットを導入チャンバーの外に配置することができる。駆動ユニットには或る程度の大きさがあり、繊細な部品を備えているので、このようにすると特に有利である。本発明の特定の構成によって、特に高温でダストが発生するゾーンの外に駆動ユニットを配置することができる。導入チャンバーのプロセスチャンバーから離れた側面に取り付けられ、外側に向かって伸縮する伸縮ダクトの形の、シャフトのためのダクト構成は、伸縮ダクトのために必要とされるシールとガイドをプロセスゾーンから可能な限り遠く離されているために、消耗が少なく、当該装置における部品のメンテナンスを比較的容易にしている。可動部品の寿命を損なう磨耗性ダストが、コーティング装置のプロセスゾーン内で発生することは避けられないが、磨耗性ダストの影響を受ける領域に配置する稼動部品を少なくすれば、メンテナンスに要する費用を下げられる。
【0021】
本発明の装置は、2つの伸縮セグメントに挟まれた中間領域のシール、伸縮セグメントのガイド、駆動ユニットと駆動ユニットのためのガイド、といった繊細な部品を、プロセスゾーンの外にあって、極度に激しい高温負荷やダスト負荷が加わる前記ゾーンから比較的大きく離れた場所に配置することができる。さらに、本発明の装置は、マニュピュレータのシャフトを駆動する駆動部及びトロッコをチャンバーの外に配置できるため、真空領域を比較的小さくすることができる。したがって、真空ポンプをより小さくしても、装置運転に十分である。
【0022】
マニュピュレータは少なくともシャフトとホルダーを有する。マニュピュレータは、ひとつ以上のシャフトを有することができ、好ましくは、複数のシャフトが同軸に動く。ホルダーは、ひとつ又は複数のホルダーアームを有することができる。このように、ホルダーが特に2個以上のホルダーアームに分割されている構成では、1個又は複数のワークピースを個々に保持するための手段(例えば、ホールドピン)を設けることができ、できるだけ均一なコーティングとなるように、ホルダーに取り付けたワークピースを自転させることができる。さらにまた、ホルダーは、シャフトの長手軸に対して回転できる。ワークピースのコーティングを更に均一にするために、回転以外の、ホルダーの運動パターンについても、本発明においてなされるものとする。
【0023】
実施形態のひとつでは、コーティング装置に予熱ゾーンが設けられている。予熱ゾーンではワークピースを予熱する。予熱ゾーンは、好ましくは、導入チャンバーとプロセスゾーンの間に設けられている。本方法では、まず、処理される少なくともひとつのワークピースが、導入チャンバーに挿入されて、ホルダーに固定される。導入チャンバーを周囲に対して全方向に閉鎖した後に、当該導入チャンバーを排気することができる。ワークピースを予熱して温度上昇させるために、予熱ゾーンに移動させることができる。ワークピースは、コーティングを施すため、予熱ゾーンからプロセスゾーンに移動させることができる。コーティング後に、コーティングしたワークピースをプロセスゾーンの外に出し、コーティングしたワークピースの排出を担う導入チャンバーに戻すことができる。
【0024】
予熱ゾーン及び/又はプロセスゾーンは気密チャンバーとして構成されることが好ましい。導入チャンバーも気密チャンバーとして構成されることが好ましい。本発明の一実施形態では、導入チャンバーとプロセスゾーン又はプロセスチャンバーとの間に、ホルダーに固定されたワークピースを通過させるための、気密に閉鎖可能な開口が設けられる。本発明の一実施形態では、導入チャンバーとプロセスゾーン又はプロセスチャンバーに加えて、予熱ゾーン又は予熱チャンバーも有しており、ホルダーに固定されたワークピースを通過させる気密に閉鎖可能な開口部が、好ましくは導入チャンバーと予熱ゾーンの間、及び/又は予熱ゾーンとプロセスゾーンとの間に設けられている。
【0025】
本発明によれば、「チャンバー」とは、そのように言及される装置の部分が、空間の全方向に少なくとも1つの区切りを有することを意味する。前記区切りは、閉鎖された壁で構成することができ、又は、壁は1つ以上の開口を有することができる。開口部は閉鎖可能であり、特に気密に閉鎖可能である。チャンバー、及び、特に装置全体は、閉鎖状態では気密であることが好ましい。本発明の言うところでは、「気密」とは、「気密」とされる空間(例えばプロセスチャンバー)内、又は「気密」とされる閉じられた開口部やシールにおいて、体積リーク速度が1×10―2mbar・l/s未満、特に5×10―3mbar・l/s未満を意味する。体積リーク速度は、好ましくは、20℃、大気圧1013hPaで測定される。
【0026】
チャンバーにはここに明示的に言及されていない別の開口があることが除外されていない。前記開口は気密チャンバーの場合は周囲に対して閉鎖可能である。特に導入チャンバーは、少なくともひとつの閉鎖可能な開口部を有し、開口部を通過させて、導入チャンバーにワークピースを挿入することができる。コーティングされたワークピースは、同一の開口又は他の閉鎖可能な開口を介して装置から取り出すことができる。
【0027】
本発明の一実施形態では、導入チャンバーの導入開口部は、導入チャンバーのプロセスゾーンに対面する側に設けられる。そのような実施形態において、導入チャンバーは、好ましくは、特にマニュピュレータの長手軸方向へ変位させることが可能である。導入開口部は、特にマニュピュレータの長手軸方向に沿って、伸縮セグメントの方向に導入チャンバーを変位させることによって開放され、伸縮セグメントは少なくとも部分的に相互に押し込まれ、ホルダーが露出する。導入開口部を閉じるために、導入チャンバーはホルダーを介してプロセスゾーンの方向に押し戻され、導入チャンバーは再び気密に閉鎖される。
【0028】
ホルダーは、導入チャンバーを開閉している間は(導入位置にいる間は)、特に移動しない。予熱チャンバー及びプロセスチャンバーの外壁は、特に、導入開口部を気密に閉鎖するためにシールを有することができる。導入チャンバーは、特にレール上を、例えば駆動ユニットと同じレール上を移動させることができる。
【0029】
導入チャンバーは、さらに好ましくは、プロセスゾーン又は予熱ゾーンに通じる閉鎖可能な開口を備える。予熱ゾーンは、チャンバーとして構成されている場合、好ましくは、導入チャンバーに通じる少なくともひとつの開口部と、プロセスゾーンに通じる少なくともひとつの開口部を有する。開口部のひとつ又は両方を気密に閉鎖することができ、導入チャンバー内が一時的に大気圧になることがあるので、導入チャンバーの開口を気密に閉鎖できることが好ましい。
【0030】
プロセスゾーンは、チャンバーとして構成されている場合、もしあれば、導入チャンバー及び/又は予熱ゾーンに通じる閉鎖可能な開口部を有することができる。さらにまた、プロセスチャンバーは、他にも開口部を有することができ、原料、特にコーティング材料となるインゴットを挿入するための閉鎖可能な開口部を設けることができる。
【0031】
さらにまた、ひとつ又は複数のチャンバー、特に導入チャンバー及び/又はプロセスチャンバーは、一台又は複数台の真空ポンプを接続するための排気用の開口部を有することができる。
【0032】
本発明の一実施形態においては、ダクトは、伸縮セグメントを少なくとも3個、好ましくは少なくとも4個、特に好ましくは少なくとも5個備える。本発明によれば、伸縮セグメントの数は、好ましくは最大で12個に、より好ましくは最大で8個に、特に好ましは最大で6個に制限される。伸縮セグメントを過剰に使用すると、シール箇所数とダクト径が増大してしまい不利益となる。本明細書に記載されている伸縮セグメントの特徴、中間領域の排気、シール、ねじれ防止機構及び/又はガイドは、本発明によるところの、複数の伸縮セグメント、特に伸縮セグメント全体に及ぶものである。
【0033】
ダクトは、伸縮セグメントのねじれを回避するために、好ましくは、ひとつ又は複数のねじれ防止機構を有する。ねじれ防止機構は、伸縮セグメントの外周の一部とガイド、特にガイドレールとの間を接続する接続部品で構成することができる。接続部品は、レール上を移動することができ、したがって、該接続部品は伸縮セグメントの長手軸に沿って、伸縮セグメントと一緒に移動させることができる。伸縮セグメントのねじれ、好ましくは、伸縮セグメントやスライド式ガイドに作用する過剰な機械的ストレスについても回避することができる。
【0034】
中間領域に配置されたシールは、ひとつ又は複数要素のシール要素、特にシールリング(例えばOリングやクアッドリング)のようなものから構成することができる。シール要素が2つあると、封止された中間空間を形成することができる。このような中間領域では、本装置は、封止された中間空間を負圧にするための排気装置を有することができる。シールは、特に、中間領域に相互に離間させて配置される少なくとも2個以上のシールリングを有し、少なくともひとつの中間空間を形成しうる。中間空間は排気装置を用いて負圧することができる。これにより、クラックやスクラッチが生じたとしても、大気の侵入を有効に回避することができ、利点となる。
【0035】
伸縮セグメントが相互に位置を変えることができるように補助し、障害なく相互に押し込み又はスライドさせるために、ガイド、特にスライド式ガイドが中間領域に設けられている。ガイドは、直径が小さい方の伸縮セグメントの外周上にある少なくともひとつのガイド内側要素と、直径が大きい方の伸縮セグメントの内周上にある少なくともひとつのガイド外側要素とを含む。
【0036】
ガイドの内側要素は、マニュピュレータの長手軸方向へ、要素が固定されている伸縮セグメント長さの、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、特に好ましくは少なくとも90%にわたって延伸される。その結果、伸ばされた状態では、ガイドの内側要素の一部分、特に大部分(>50%)を中間領域の外に配置することができる。このようにして、伸縮セグメントは長い距離にわたって相互に押し込むことができるように保証され、その結果マニュピュレータを装置内部に大きく押し込むことができる。適切なガイド要素は、当業者に知られているガイド、特に、スライド式ガイドであってもよい。各伸縮セグメントは、少なくとも1つのガイド、特に少なくとも2つのガイドを有することが好ましい。
【0037】
本発明において、「第1伸縮セグメント」とは、他の伸縮セグメントと比較して断面の直径が最小となっているセグメントのことである。本発明において、「最大の伸縮セグメント」は、他の伸縮セグメントと比較して断面の直径が最大となっているセグメントのことである。ここでは、導入チャンバーに接続されている伸縮セグメントのことを「ベース・セグメント」と呼ぶ。
【0038】
一実施形態では第1伸縮セグメントが駆動ユニットに接続されている。他の実施形態では最大の伸縮セグメントが駆動ユニットに接続されている。接続部は気密になっていることが好ましい。特にフランジを介して接続されていることが好ましい。
【0039】
伸縮セグメントは、共同して、ダクト内側に外部に対して閉じた空間を形成する。伸縮セグメントは、マニュピュレータの長手軸に沿って開口しており、少なくともシャフトがその開口を通って案内される。特にシールはこの領域では必要とされないため、開口をより大きくすることができる。伸縮セグメントは円形の断面を有することができ、よって「管状セグメント」と呼ばれる。あるいは、断面は、隣接するセグメント同士が整合するように調整されているならば長方形、多角形、もしくは他の形状であってもよい。伸縮セグメントは、マニュピュレータの長手軸方向にのみ開口部を有し、さもなければ、すなわち側面では、閉鎖された設計であることが好ましい。開口部が設けられていたとしても、気密に閉鎖することができる。
【0040】
少なくとも「相互に押し込み可能な2つの伸縮セグメント」という表現には、2つの伸縮セグメントの一方、すなわち直径の小さい方のセグメントを、少なくともその一部分(特に直径の小さい方のセグメントの長さの少なくとも50%、少なくとも70%、又は少なくとも90%)でも、他の伸縮セグメントの中へ押し込むことができる、という意味が与えられている。
【0041】
本発明にしたがって入れ子にされた各伸縮セグメントは、好ましくは、最も大きい伸縮セグメントを除いて、他の伸縮セグメントの中に押し込み可能である。伸縮セグメントは、導入チャンバーに配置されているベース・セグメントの中に押し込み可能である。ベース・セグメントは、当然ベース・セグメントに押し込まれる伸縮セグメントよりも大きな直径を有する。ベース・セグメント自体は、特にはさらにもうひとつの伸縮セグメントに押し込まれることはない。ベース・セグメントは、好ましくは、フランジなどで、導入チャンバーに動かないように接続されている。
【0042】
伸縮セグメントの長さの和は、ワークピースの導入中にマニュピュレータのホルダーが位置する導入チャンバー内の導入位置から、コーティング中にマニュピュレータのホルダーが位置するプロセスゾーン内のコーティング位置までの距離と、少なくとも同じ長さである。
【0043】
駆動ユニットは特にマニュピュレータの長手軸に沿って移動できる。好ましくは、マニュピュレータ長手軸と平行に走る、特にマニュピュレータ長手軸の下方で走る、ガイドによって可動である。ガイドは特にレールにすることができ、及び/又は駆動ユニットは、ガイド上のトロッコの上で動かすことができる。導入チャンバーは、もし可動になっているならば、ガイド上で、特に駆動ユニットと同一のガイド上で、動かせるように配置されている。
【0044】
[方法]
本発明によれば、ワークピース、特にタービンブレードをコーティングするための下記のステップを伴うコーティング方法が提供される。
・ひとつ又は複数のワークピースを本発明による装置の導入チャンバーに挿入し、該ワークピースをホルダーに固定する、
・若しくは、ホルダーに固定されたひとつ又は複数のワークピースを、本発明の装置の導入チャンバーに挿入し、当該ホルダーをマニュピュレータに固定するステップ。
・マニュピュレータによって、ワークピースを、導入チャンバーからプロセスゾーンへ、又は、導入チャンバーから予熱ゾーン次いでプロセスゾーンへ移動させるステップ。
・プロセスゾーンにおいてワークピースをコーティングするステップ。
・コーティングされたワークピースを装置から取り出すステップ。
この方法では、プロセスゾーンへ、又は、予熱ゾーン次いでプロセスゾーンへワークピースを移動させる間に、伸縮セグメントが相互に押し込まれることを特徴とする。
【0045】
本発明の方法において適用されるコーティングは、好ましくは、特にY2O3で安定化したZrO2、ムライト、Al2O3、CeO2、希土類ジルコネート、希土類酸化物、及び/又は、金属/ガラス複合材料、若しくは、それらの組成物を含む断熱コーティングである。コーティング材料は、好ましくは、Y2O3で安定化したZrO2、Gd2O3、Yb2O3、及び/又は、Nd2O3を含み、特にその組成物から構成されることが好ましい。一実施形態においては、コーティング材料は、金属又は合金、若しくは、その組成物から構成され、特にこれらは、ニッケル、クロム及び/又はコバルト、特にNiCoCrAlYのようなものをベースとする金属又は合金である。
【0046】
さらにまた、本方法は、原材料、特に、コーティング材料のインゴットを挿入し少なくとも一部分を蒸発させることを含む。
【0047】
コーティングは、好ましくは真空下で、特に50Pa未満、40Pa未満、30Pa未満、20Pa未満又は10Pa未満の圧力で実施される。コーティングは、好ましくは、少なくとも800℃の温度で、特に少なくとも850℃又は少なくとも900℃の温度で実施される。コーティング温度は、1250℃、1200℃又は1100℃の値を超えないことが好ましい。
【0048】
好ましい実施形態における本方法の更に詳細なシーケンスは以下に記載するが、請求項12の主題と組み合わせて実施される、この好ましい実施形態の各ステップは、本発明による独立した好ましい改良の構成要素になっている。
・ひとつ又は複数のワークピースを本発明による装置の導入チャンバーに挿入し、該ワークピースをホルダーに固定する、
・又は、ホルダーに固定されたひとつのワークピースを、本発明の装置の導入チャンバーに挿入し、当該ホルダーをマニュピュレータに固定するステップ。
・導入チャンバーの閉鎖可能な開口部を閉じるステップ。
・導入チャンバーを排気するステップ。
・導入チャンバーと予熱ゾーンとの間、又は導入チャンバーとプロセスゾーンの間にある閉鎖可能な開口部を開くステップ。
・マニュピュレータに固定されたワークピースを導入チャンバーからプロセスゾーンへ移動させる、又は、伸縮セグメントで押し込むことによって予熱ゾーンへと移動させ次いでプロセスゾーンへと移動させるステップ。
・プロセスゾーンにおいてワークピースをコーティングしている間に、マニュピュレータ上のワークピースを回転させるステップ。
・マニュピュレータに固定されているコーティングされたワークピースを、プロセスゾーンから、引き伸ばされた伸縮セグメントと共に導入チャンバーに引き戻すステップ。
・導入チャンバーと予熱ゾーンの間、又は、導入チャンバーとプロセスゾーンの間に設けられた閉鎖可能な開口部を閉じるステップ。
・閉鎖可能な導入開口部を開く、又は、導入チャンバーの排出開口部を開くステップ。
・装置からコーティングされたワークピースを取り出すステップ。
【0049】
図1は、合計4つの伸縮セグメント150、160、170、140を有する本発明による装置を示しており、導入チャンバーに接続された伸縮セグメントは、本明細書では、ベース・セグメント140とも呼ばれる。伸縮セグメントは、相互の押し込みが可能になっている。伸縮セグメント170は、ベース・セグメント140に押し込み可能になっている。可能な変位方向は伸縮セグメント上の矢印によって示されている。導入チャンバー120とベース・セグメント140は、一緒に変位できるようになっており、共通の矢印によって記号がつけられている。マニュピュレータ(図示しない)は、駆動ユニット200に接続されたシャフトを有し、伸縮セグメントの内側を動く。駆動ユニット200は、ガイド、すなわちレール210上を動くようにしたトロッコ220の上に設けられている。伸縮セグメント160、170は、ねじれ防止機構190によってねじれに対する安全が確保されている。ねじれ防止機構190は、伸縮セグメントとガイド210との間に接続されている。本装置は、伸縮セグメント150、160、170、ベース・セグメント140を備えるダクトを備えた導入チャンバー120を有する。ダクトはプロセスゾーンから離れて面した導入チャンバー120の端部に配置される。導入チャンバー120は、導入チャンバー120のプロセスゾーン側の面に配置された導入開口部を開閉できるように、レール210上を移動可能である。
【0050】
図2は、本発明にしたがって用いられる伸縮セグメント160、170及びベース・セグメント140の詳細を示す。中間領域230は、より小さな伸縮セグメント160、170の各外周部と、隣接するより大きな伸縮セグメント140又はベース・セグメント140の内周部との間に形成されている。シール240とスライド式ガイド250は中間領域に配置されている。ねじれ防止機構190も示されている。本発明によれば、ねじれ防止機構190は、好ましくは、シール240の反対側にある、より大きな伸縮セグメントの外周部に配置される。
【0051】
図3は、相互に押し込み可能な伸縮セグメントを有する本発明の装置を示し、ベース・セグメント140のみ視認できる。マニュピュレータ(図示しない)は、導入チャンバー120を介して、プロセスゾーン(図示しない)に押し込まれている。駆動ユニット200は、トロッコ220上に配置されており、レール210の上を動かすことができる。
【符号の説明】
【0052】
120 導入チャンバー
140 ベース・セグメント
150 第1伸縮セグメント
160 第2伸縮セグメント
170 第3伸縮セグメント
190 ねじれ防止機構
200 駆動ユニット
210 レール
220 トロッコ
230 中間領域
240 シール
250 スライド式ガイド