(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ころ軸受及びころ軸受用保持器
(51)【国際特許分類】
F16C 33/56 20060101AFI20220915BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20220915BHJP
F16C 33/51 20060101ALI20220915BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
F16C33/56
F16C19/36
F16C33/51
B29C45/00
(21)【出願番号】P 2018038734
(22)【出願日】2018-03-05
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智仁
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-48342(JP,A)
【文献】特開2007-303601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/56
F03D 80/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材製の外輪および内輪と、前記外輪および前記内輪の間に配置される複数のころと、前記ころを収容するポケットを有し、前記外輪および前記内輪の間で周方向に順次連ねて環状に配置される複数の保持器セグメントとを備え、所定温度範囲の軸受温度で使用されるころ軸受であって、
前記保持器セグメントは熱膨張性フィラーを含んで線膨張係数1.0×10
-5/℃未満の樹脂製であり、
複数の前記保持器セグメントが周方向に無間隙に配置された環状の保持器の最初に配置された保持器セグメントと最後に配置された保持器セグメントとの間に軸受温度が前記所定温度範囲の下限値ですき間(R)を有し、
軸受温度が前記所定温度範囲の上限値での前記すき間(R)の周方向寸法が、前記保持器セグメントの前記環状の径方向厚さの中央を通る円の円周の0.12%未満であ
り、かつ前記所定温度範囲の下限値でのすき間(R)の周方向寸法が、前記保持器セグメントの前記環状の径方向厚さの中央を通る円の円周の0を超え0.075%以下であるころ軸受。
【請求項2】
前記所定温度範囲が、-40~150℃である請求項1に記載のころ軸受。
【請求項3】
前記熱膨張性フィラーは、外輪および内輪を構成する鋼材の線膨張係数未満の線膨張係数の熱膨張性フィラーである請求項1
または2に記載のころ軸受。
【請求項4】
前記熱膨張性フィラーは、少なくとも炭素繊維またはガラス繊維のいずれかを含むものである請求項1~
3のいずれかに記載のころ軸受。
【請求項5】
前記熱膨張性フィラーの充填比率が、20重量%以上40重量%以下である請求項
4に記載のころ軸受。
【請求項6】
前記ころ軸受が、風力発電機の主軸支持用ころ軸受である請求項1~
5のいずれかに記載のころ軸受。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載のころ軸受に用いられ、周方向に順次連ねて環状に配置して用いられる複数の保持器セグメントからなるころ軸受用保持器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ころ軸受及び複数の保持器セグメントを環状に配列したころ軸受用保持器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、風力発電機の主軸を支持する用途など、比較的大型のころ軸受として、外輪および内輪の間で周方向に順次連ねて配置される複数の保持器セグメントを備えたころ軸受が周知である。
【0003】
このようなころ軸受は、複数の保持器セグメントを周方向に無間隙に配置して外輪および内輪の間に組み込むが、最初に組み込む保持器セグメントと最後に組み込む保持器セグメントとの間にはすき間(以下、「最後すき間」と略称する場合がある。)が形成される。このような最後すき間の周方向の寸法は、室温で保持器セグメントの中央を通る円の円周の0.075%よりも大きく、0.12%よりも小さく設定している(特許文献1)。
【0004】
このような最後すき間は、軸受の使用状態においても維持されるが、軸受温度が室温以上に上昇すると縮小する。保持器セグメントを構成する樹脂の線膨張係数は、通常1.3×10-5/℃~1.7×10-5/℃であり、内輪および外輪を構成する鋼材の線膨張係数よりも大きいからである。
【0005】
そのため、室温にて複数の前記保持器セグメントを周方向に無間隙に配置してころ軸受を組み立てる際に、最初に配置される保持器セグメントと最後に配置される保持器セグメントとの間に形成される最後すき間は、使用時に縮小することを想定して、予め室温下で軸受が使用開始されるときに必要なすき間以上に大きくしている。軸受の使用中に次第にすき間が小さくなり、最終的にすき間が全くなくなってしまうと、保持器セグメント同士の周方向の突っ張り合いや変形等が起こり、ころ軸受の回転機能が円滑でなくなり不安定化する。
【0006】
しかし、最後すき間が軸受の組立当初からあまり大きく設けられすぎると、ころ軸受の回転当初等における低回転速度の状態では、すき間を空けて隣り合う保持器セグメント同士は、重力によってすき間を詰めるように順送りに移動して衝突し、その衝撃はすき間が大きいほど大きくなる。風力発電機の主軸支持用ころ軸受のように、特に大型のころ軸受では、比較的大きな衝突音が発生したり、不特定の保持器セグメントに変形や損傷が生じやすく、ころ軸受の長寿命化を損ねることにもなる。
【0007】
例えば、風力発電機の主軸支持構造において、大型ころ軸受の保持器セグメント同士の衝突による問題を回避するために、炭素繊維やガラス繊維などを充填した樹脂製の保持器セグメントの線膨張係数を1×10-5/℃~3×10-5/℃とし、室温における「最後すき間」を保持器セグメントの中央を通る円の円周の0.075%よりも大きく、0.12%よりも小さくすることが知られている(特許文献2)。
【0008】
また、上記同様に保持器セグメント同士の衝突による衝突音の発生や保持器素子の破損を防ぐために、樹脂材料に繊維状の充填材を添加するだけでなく、粒子状の無機充填材を配合することにより、樹脂製の保持器セグメントの線膨張係数を全方向に調節し、すなわち、繊維と平行な方向だけでなく、繊維と垂直な方向についても調整することができる(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-298272号公報
【文献】特開2010-048342号公報
【文献】特開2016-153674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記した従来の技術では、ころ軸受の使用中に軸受温度が上昇した際、樹脂製の保持器セグメントの線膨張係数は、鋼材製の内輪および外輪の線膨張係数に比べて大きいので、使用中の軸受温度の上昇により「最後すき間」が縮小することは避けられなかった。
【0011】
そのため、ころ軸受に、室温下では過大な「最後すき間」を形成しておく必要があり、使用当初の保持器セグメント同士の衝突による衝突音の発生や保持器素子の破損による初期不良の発生しやすい状態になる。
【0012】
そこで、この発明の課題は、上記した従来の問題点を解決し、ころ軸受の使用当初から保持器セグメント同士の衝突による衝突音の発生や保持器素子の破損による初期不良が発生し難くし、樹脂製の保持器セグメントが、保持器セグメント同士の衝突による衝突音の発生や保持器素子の破損を起こし難く、使用中に安定して保持器の良好な機能が奏されるころ軸受であり、特に風力発電機の主軸支持に用いられるような大型のころ軸受に適用できるころ軸受とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明では、鋼材製の外輪および内輪と、前記外輪および前記内輪の間に配置される複数のころと、前記ころを収容するポケットを有し、前記外輪および前記内輪の間で周方向に順次連ねて環状に配置される複数の保持器セグメントとを備え、軸受温度が、例えば-40℃~150℃のように広温度範囲で使用されるころ軸受について、前記保持器セグメントが熱膨張性フィラーを含んで線膨張係数1.0×10-5/℃未満の樹脂製のころ軸受としたのである。
【0014】
そして、ころ軸受は、複数の前記保持器セグメントが周方向に無間隙に配置された環状の保持器となる状態で、最初に配置された保持器セグメントと、最後に配置された保持器セグメントとの間に軸受温度が使用温度範囲の下限値(例えば-40℃)ですき間R>0を有しており、さらに軸受温度が使用温度範囲の上限値(例えば150℃)で前記すき間Rの周方向寸法が、前記保持器セグメントの前記環状の径方向厚さの中央を通る円の円周の0.12%未満になるように、保持器セグメントの熱膨張量が調整されたものとする。
【0015】
上記した最初の保持器セグメントとは、保持器セグメントを周方向に順次連ねて環状に配置する際に、最初に配置される保持器セグメントをいい、最後の保持器セグメントとは、隣接する保持器セグメントを当接させ、周方向に順次連ねて配置していった際に、最後に配置される保持器セグメントをいう。複数の保持器セグメントが周方向に連なってころ軸受に組み込まれ、一つの環状の保持器を構成する。
【0016】
上記したように構成されるこの発明のころ軸受は、軸受使用温度の所定温度範囲の下限値において、保持器セグメントの組み込みのために最小限の最後すき間を有するので、使用当初から保持器セグメントの重力による落下などの無駄な動きがなく、保持器セグメント同士の衝突による衝突音の発生や保持器素子の破損が起こりにくい。
【0017】
また、前記保持器セグメントは熱膨張性フィラーを含んで線膨張係数1.0×10-5/℃未満の樹脂製であるので、軸受温度が上昇するにつれて、保持器セグメントの膨張量は、鋼材製の外輪および内輪の線膨張係数(最も低い値と考えられる1.0×10-5/℃)よりも小さく、そのために定常状態に至るまで最後すき間は広がる。
【0018】
しかし、軸受温度が前記所定温度範囲の上限値(例えば150℃)でも前記すき間の周方向寸法は、保持器セグメントの線膨張係数の設定により、環状の保持器の径方向厚さの中央を通る円の円周の0.12%未満である程度に規制されている。そのため、樹脂製の保持器セグメントが、軸受の使用中に安定して良好な保持器の機能を果たし、保持器セグメント同士の衝突による衝突音の発生や保持器素子の破損が起こりにくい。
【0019】
ころ軸受の使用当初から保持器セグメント同士の衝突を起こすような無駄な動きができるだけ少なくなるように、前記所定温度範囲の下限値で、すき間の周方向寸法が、前記保持器セグメントの前記環状の径方向厚さの中央を通る円の円周の0を超え0.075%以下であることが好ましい。
【0020】
また、樹脂製の保持器セグメントに充填する熱膨張性フィラーの種類は、外輪および内輪を構成する鋼材の線膨張係数未満の線膨張係数の熱膨張性フィラーであればよく、周知の繊維状その他の熱膨張性フィラーを採用することができる。そのような熱膨張性フィラーは、例えば炭素繊維またはガラス繊維のいずれかまたは両方を含むものであってよい。
【0021】
熱膨張性フィラーの充填比率は、保持器セグメントの成型材料となる樹脂組成物について、20重量%以上40重量%以下を目安にすればよい。
このように構成されるころ軸受は、大型のころ軸受における前記した技術的課題の解決に対応できるものであり、例えば風力発電機の主軸支持用ころ軸受として適用できるものになる。
【0022】
また、上記したころ軸受に用いられて、周方向に順次連ねて環状に配置して用いられる複数の保持器セグメントからなるころ軸受用保持器は、比較的大型のころ軸受の使用当初から保持器セグメント同士の衝突による衝突音の発生や保持器素子の破損による初期不良の防止を可能とするものになる。
【発明の効果】
【0023】
この発明は、所定の軸受温度で使用されるころ軸受の前記保持器セグメントを、熱膨張性フィラーを含んで所定線膨張係数未満の樹脂製とし、さらに最初に配置された保持器セグメントと最後に配置された保持器セグメントとの間に軸受温度が所定温度範囲の下限値で組み込みに最小限のすき間を設けておき、しかも所定温度範囲の上限値で所定寸法未満のすき間を有するように設けたので、ころ軸受の使用当初から保持器セグメント同士の衝突による衝突音の発生や保持器素子の破損による初期不良が発生する恐れがなくなり、樹脂製の保持器セグメントが軸受の使用中に安定して良好な保持器の機能を果たし、保持器セグメント同士の衝突による衝突音の発生や保持器素子の破損が起こりにくい利点を有するころ軸受になる。
【0024】
また、このようなころ軸受は、特に風力発電機の主軸支持用ころ軸受に適用できる利点があり、上記した保持器セグメントを用いることにより、上記した利点を奏するころ軸受に適用できるころ軸受用保持器になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態の円すいころ軸受を示し、最初に配置された保持器セグメントと最後に配置された保持器セグメントとの間のすき間を示す拡大断面図
【
図2】実施形態の円すいころ軸受に用いた保持器セグメントの斜視図
【
図3】実施形態の円すいころ軸受の軸に直交する断面図
【
図4】実施形態の風力発電機の主軸支持用ころ軸受の使用状態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
図1-3に示す実施形態は、鋼材製の外輪1および内輪2と、外輪1および内輪2の間に配置される複数の円すいころ3と、この円すいころ3を収容するポケット4を有し、外輪1および内輪2の間で周方向に順次連ねて環状に配置される複数の樹脂製の保持器セグメント5とを備えた円すいころ軸受であり、保持器セグメント5は、所定の熱膨張性フィラーを所定量含んだ樹脂製のものであり、熱膨張性フィラーを含有する樹脂の線膨張係数(以下、線膨張係数=αで示す場合がある。)が1.0×10
-5/℃未満である。
【0027】
図2に示すように保持器セグメント5は、
図3に示される環状保持器6の一単位を構成するものであり、軸受の回転軸線を含む平面で、軸周りに等角度間隔で環状保持器6を分割(図示では12等分に分割)したものであるともいえる。それぞれの保持器セグメント5は、円すいころ3を収容するポケット4を一以上(図示では3か所)備えている。
【0028】
保持器セグメント5は、複数開口する各ポケット4の両側に柱部7aまたは柱部7bを有しており、柱部7aは平坦面と円弧状爪部9が背面合せで一体化された形状であり、柱部7bは円弧状爪部9を有する面同士が背面合せで一体化されている。これら柱部7a、7bの長手方向の一端部は連結部8aで連結され、また他端部は連結部8bで連結されている。また外輪1側または内輪2側においてそれぞれ対向する円弧状爪部9で回転する円すいころ3を抜け止めし、かつ回転自在に保持している。
円すいころ3は、円弧状爪部9でポケット4内に抜け止めされており、外輪1および内輪2の軌道面に接しながら回転自在に転動する。
【0029】
また、
図3に示すように、実施形態の円すいころ軸受Aは、複数の保持器セグメント5が周方向に配置されて環状保持器6が形成されている状態で、最初に配置された保持器セグメント5aと、最後に配置された保持器セグメント5bとの平坦面同士の間に軸受使用温度の下限値ですき間R(
図1)を設定し、さらに、軸受使用温度の上限値ですき間Rの周方向寸法が、保持器セグメント5の環状の径方向厚さの中央を通る円の円周の0.12%未満になるように、保持器セグメント5の熱膨張量は制限されている。
【0030】
上記したように構成される実施形態の円すいころ軸受は、想定される軸受使用温度の下限値の例えば-40℃において、環状保持器6の最初に配置された保持器セグメント5aと最後に配置された保持器セグメント5bとの間に、これらの組み込みの際に必要最小限の大きさのすき間(「最後すき間」)Rを形成している。
前記所定温度範囲の下限値でのすき間Rの周方向寸法は、保持器セグメント5の中央を通る円の円周の0を超え0.075%以下であることが好ましい。
【0031】
このようにすき間Rの設定された実施形態の円すいころ軸受は、使用当初から特定の位置にある保持器セグメント5の重力による落下などの無駄な動きはなく、保持器セグメント5同士の衝突による衝突音の発生や保持器素子の破損が起こりにくい。
【0032】
軸受の温度は、運転開始後に上昇し、ある時間を経過するとこれよりやや低い温度で定常状態になる。定常状態になるまでの時間は、軸受の大きさ、回転速度や潤滑方法により異なるが、20分から数時間を要する。また定常状態での軸受の温度は、使用時の室温または常温より10~40℃程度高い状態が通常であり、好ましくは100℃以下で使用することが好ましい。
【0033】
外輪1、内輪2、さらに通常は円すいころ3を含めて、ころ軸受の部品は、鋼材で形成されている。例えば大型の円すいころ軸受は、それに適当な硬さと靱性が備えられるように、ニッル・クロム・モリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼等の肌焼き鋼(浸炭鋼)や高周波焼入鋼は、より適切な鋼材である。また、一般的な軸受材料としては、高炭素クロム軸受鋼等の高・中炭素合金鋼、ステンレス鋼などの耐食軸受鋼などが採用される場合もある。
【0034】
これらの鋼材の線膨張係数は、1.2×10-5/℃程度(例えばS30Cでは1.5×10-5/℃程度)であり、炭素量の多い鋼種ほど小さくなる傾向があるものの軸受材料として用いられる肌焼き鋼は、1.12×10-5/℃程度である。
【0035】
保持器セグメント5は、樹脂製であり、実用上の必要から射出成形のできる高分子材料が広く用いられている。保持器成形材料として周知のガラス繊維で強化した脂肪族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを使用することもできる。これらのポリアミド樹脂の保持器は、-40~120℃までの温度で連続使用が可能なものである。
【0036】
また、その他の保持器成形の樹脂材料として、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(mPPO)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、および熱可塑性ポリイミド(PI)等も挙げられる。
このうち、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂などは、射出成形性、摺動性、耐久性等の点から好ましいものである。
【0037】
保持器セグメント5は、熱膨張性フィラーを含んでおり、充填材として採用する熱膨張性フィラーの配合量等の調整により、線膨張係数1.0×10-5/℃未満となるように配合して調製される。
【0038】
熱膨張性フィラーは、外輪および内輪を構成する鋼材の線膨張係数未満の熱膨張性フィラーであればよく、例えば肌焼き鋼を採用する場合に、同鋼の線膨張係数1.12×10-5/℃未満の熱膨張性のもの(すなわち、繊維方向の熱膨張性、または線膨張係数のもの)を採用し、さらにそれより小さな線膨張係数1×10-5/℃未満のもの、好ましくはマイナスの線膨張係数の熱膨張性フィラーを採用することができる。
【0039】
このような熱膨張性フィラーは、できるだけ少量を添加できる添加効率の良いものが好ましく、例えば炭素繊維は線膨張係数がマイナス(加熱すると繊維方向に縮む)であり、α=-0.5×10-5/℃~0.6×10-5/℃であり、パラ系芳香族ポリアミド繊維もαが0に近いマイナスの線膨張係数であり、またガラス繊維のα=0.5×10-5/℃である。
さらに、ベータユークリプタイト(LiAlSiO4)やビスマス鉄ニッケル酸化物(BiNi1-XFexO3)なども負の熱膨張率を示す化合物として周知であり、使用可能なものである。
【0040】
また、保持器セグメントの樹脂材料として、ポリアミド(MCナイロン)、PEEK、POM、PPS、PEIを採用し、繊維体積含有率60%とした場合の線膨張係数(α)は、熱膨張性フィラーがPAN系炭素繊維の場合に、α=2×10-5/℃~4×10-5/℃程度であり、ピッチ系炭素繊維を採用した場合にα=―8×10-5/℃~-13×10-5/℃程度であり、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維を採用した場合にα=―15×10-5/℃程度である。
【0041】
図4に示すように、実施形態の円すいころ軸受Aは、風力発電機の主軸支持用のころ軸受として用いることができる。すなわち、大型の風力発電機の主軸支持構造の主要部品を支持するナセル10は、設置面から離れた高い位置に設置されるものであり、旋回座軸受11を介して支持台12上に水平旋回自在に設置されている。
【0042】
風力を受けるブレード13を一端に固定する主軸14は、ナセル10内で、円すいころ軸受Aを介して、回転自在に支持されている。主軸14の他端は増速機15に接続され、その出力軸が発電機16のロータ軸17に結合されている。
【0043】
なお、上記の実施形態では、保持器セグメントの素材として、樹脂中に含まれる充填材を炭素繊維またはガラス繊維として示したが、これらの混合物であってもよく、またはカーボンブラック等の粉末状の充填材や粒状の充填材を含む構成としてもよい。さらにまた、上記の実施形態においては、保持器セグメントに収容されるころとして、円すいころを用いたが、これに限らず、円筒ころや針状ころ、棒状ころ等を用いてもよい。
【0044】
上記した実施形態の円すいころ軸受Aを用いた風力発電機の主軸支持装置では、通常の使用状態の当初から保持器セグメント同士の衝突による衝突音の発生や保持器素子の破損が起こることがなく、使用中に安定して保持器の良好な機能が奏されるため、風力発電機の運転に充分に耐えるものと認められた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この発明に係るころ軸受またはそのころ軸受用保持器は、風力発電機の主軸支持構造の他、比較的大型のころ軸受に用いることに適したものであり、比較的大型の保持器セグメント同士の衝突による騒音防止の求められる用途や耐久性を向上させることの求められる用途に適用できるものである。
【符号の説明】
【0046】
1 外輪
2 内輪
3 円すいころ
4 ポケット
5 保持器セグメント
5a 最初に配置された保持器セグメント
5b 最後に配置された保持器セグメント
6 環状保持器
7a、7b 柱部
8a,8b 連結部
9 円弧状爪部
10 ナセル
11 旋回座軸受
12 支持台
13 ブレード
14 主軸
15 増速機
16 発電機
17 ロータ軸
A 円すいころ軸受
R すき間