(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】石英ガラスるつぼの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20220915BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20220915BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
C03B20/00 H
C30B15/10
(21)【出願番号】P 2018073766
(22)【出願日】2018-04-06
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】馬場 裕二
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-105880(JP,A)
【文献】特開2012-116716(JP,A)
【文献】国際公開第2011/030657(WO,A1)
【文献】特開2010-275151(JP,A)
【文献】特開2010-241623(JP,A)
【文献】特開2011-073925(JP,A)
【文献】特開2010-155765(JP,A)
【文献】特開2018-039702(JP,A)
【文献】特開2008-169106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
C03B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、透明石英ガラスからなる内層とを有し、底部、湾曲部、及び直胴部とからなる石英ガラスるつぼを製造する方法であって、
回転するモールド内に、前記外層の原料粉を供給し、前記モールドの内面に前記石英ガラスるつぼの外層となる粉体層を成型するステップと、
前記粉体層を加熱溶融することにより前記外層を作製するステップと
を含み、
前記外層の原料粉として、同種の又は2種以上の異種の原料粉を用いて、前記粉体層を成型し、
前記粉体層を成型する際に、前記モールドの回転数に差をつけることにより、前記粉体層を、前記モールドの回転数に応じた2つ以上の部位に区分し、
前記2つ以上の部位に区分した前記粉体層を加熱溶融することにより、前記外層において、前記気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位を作製し、前記外層における隣接する2つの部位の気泡含有密度について、前記気泡の含有密度の大きい部位aの気泡含有密度をd
a(pcs/mm
3)、前記気泡の含有密度の小さい部位bの気泡含有密度をd
b(pcs/mm
3)としたときに、前記隣接する2つの部位における気泡含有密度の差D=(d
a-d
b)/d
bを10%以上とし、
前記モールドの回転数を、前記石英ガラスるつぼの直胴部に相当する位置で変化させることを特徴とする石英ガラスるつぼの製造方法。
【請求項2】
前記粉体層を、前記2種以上の異種の原料粉を用いて作製し、
前記粉体層の前記モールドの回転数に応じた2つ以上の部位を、それぞれ前記異種の原料粉からなるものとすることにより、前記気泡の含有密度で区分される部位を、それぞれ前記異種の原料粉から作製することを特徴とする請求項
1に記載の石英ガラスるつぼの製造方法。
【請求項3】
前記粉体層の少なくとも一部を、肉厚方向に、原料粉の違いによって区別される複数のサブ粉体層を有するものとして成型することを特徴とする請求項
1又は請求項
2に記載の石英ガラスるつぼの製造方法。
【請求項4】
前記石英ガラスるつぼを、該石英ガラスるつぼの内部に保持したシリコン融液から単結晶シリコンを引き上げるための単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼとすることを特徴とする請求項
1から請求項
3のいずれか1項に記載の石英ガラスるつぼの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスるつぼ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単結晶半導体材料のような単結晶物質の製造には、いわゆるチョクラルスキー法と呼ばれる方法が広く採用されている。この方法は多結晶シリコンを容器内で溶融させ、この溶融浴(融液)内に種結晶の端部を浸けて回転させながら引き上げるものである。この方法では、種結晶の下に同一の結晶方位を持つ単結晶が成長する。単結晶シリコンを引き上げる場合、この単結晶引き上げ容器には石英ガラスるつぼが一般的に使用されている。この石英ガラスるつぼは気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、実質的に気泡を含有しない透明石英ガラスからなる内層とを有している。
【0003】
近年、単結晶シリコンウエハーの大型化に伴い石英ガラスるつぼも大口径化が進み、単結晶シリコン引き上げ操業での石英ガラスるつぼに掛かる熱負荷の増大、加熱時間の長時間化に対応する必要がある。石英ガラスるつぼには、加熱時の変形に対する耐久性、加熱後の冷却時に発生する劣化に対する耐久性などが求められ、それぞれに適した原料粉(原料石英粉)を、必要な部分に選択的に使用することが求められる場合がある。例えば、特許文献1には、外層の一部に結晶化促進剤をドープすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、石英ガラスるつぼには、異種の原料粉を、必要な部分に選択的に使用することが求められる場合がある。例えば、石英ガラスるつぼの不透明石英ガラス層の、特に外表面を含む外層で特性の異なる原料(原料石英粉)を部分的に使用し、その形成範囲の精度が求められる場合がある。しかし、出来上がった石英ガラスるつぼの外観は一様に白色であり、目視観察からは原料種の境界を確認することができず、所定の範囲に、所定の原料層(以下、石英ガラスるつぼの構成のうち、所定の原料から形成された層(部位)を単に「原料層」と称する場合がある)が構成されていなくとも単結晶引き上げに使用されてしまい、不具合を起こしてしまうという問題があった。例えば、不純物濃度が低い高純度石英原料をベースとしたるつぼの外表面に、失透を促進させる不純物を含んだ石英原料層を意図的に形成することで、石英ガラスの結晶化により耐熱性を向上させることができる。この場合、不純物を含む石英原料層が不必要な部分に形成されると失透による劣化でクラックが発生し、シリコン融液が漏れ出してしまうという不具合が発生する。
【0006】
また、石英ガラスるつぼの外層形成用の原料粉として異種の原料粉を用いない(同種の原料粉を用いる)場合であっても、外層において、部位毎に異なる機能を持たせる必要が求められることがあった。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたもので、石英ガラスるつぼの外層において、部位毎に異なる機能を持たせることができる石英ガラスるつぼを提供することを目的とする。また、本発明は、そのような石英ガラスるつぼの製造方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、底部、湾曲部、及び直胴部とからなる石英ガラスるつぼであって、気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、透明石英ガラスからなる内層とを有し、前記外層は、同種の又は2種以上の異種の原料粉から作製されたものであり、前記気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位を有し、前記外層における隣接する2つの部位の気泡含有密度について、前記気泡の含有密度の大きい部位aの気泡含有密度をda(pcs/mm3)、前記気泡の含有密度の小さい部位bの気泡含有密度をdb(pcs/mm3)としたときに、前記隣接する2つの部位における気泡含有密度の差D=(da-db)/dbが10%以上のものであることを特徴とする石英ガラスるつぼを提供する。
【0009】
このような石英ガラスるつぼは、気泡の含有密度によって2つ以上の部位を区別することができ、気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位に、気泡含有密度の差異に基づいた異なる機能を与えることができる。
【0010】
この場合、前記外層が、前記2種以上の異種の原料粉から作製されたものであり、前記気泡の含有密度で区分される部位が、それぞれ前記異種の原料粉から作製されたものであることができる。
【0011】
このような石英ガラスるつぼであれば、特定の異種の原料粉から作製された外層を気泡の含有密度で区分けすることができる。
【0012】
また、前記気泡含有密度の差Dが10%以上である境界を、前記直胴部に位置するものとすることができる。
【0013】
このように、気泡含有密度の差Dが10%以上である境界を、直胴部に位置するものとすることにより、直胴部において気泡の含有密度で区別された部位を2つ以上持たせた石英ガラスるつぼとすることができる。
【0014】
また、本発明の石英ガラスるつぼにおいては、前記隣接する2つの部位の境界が目視によって見分けられるものであることが好ましい。
【0015】
このように、本発明の石英ガラスるつぼにおいては、隣接する2つの部位の境界を目視によって見分けることができるので管理上も好ましい。
【0016】
また、本発明の石英ガラスるつぼにおいては、前記外層の少なくとも一部が、前記石英ガラスるつぼの肉厚方向に、原料粉の違いによって区別される複数のサブ層を有することができる。
【0017】
このように、外層の少なくとも一部が、さらに、原料粉の違いによって区別される複数のサブ層からなるものとすることができる。本発明は、このような構成を有する石英ガラスるつぼにも適用することができる。
【0018】
また、前記石英ガラスるつぼは、該石英ガラスるつぼの内部に保持したシリコン融液から単結晶シリコンを引き上げるための単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼとすることができる。
【0019】
このように、本発明の石英ガラスるつぼは、単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼとして特に好適に用いることができる。
【0020】
また、本発明は、気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層と、透明石英ガラスからなる内層とを有し、底部、湾曲部、及び直胴部とからなる石英ガラスるつぼを製造する方法であって、回転するモールド内に、前記外層の原料粉を供給し、前記モールドの内面に前記石英ガラスるつぼの外層となる粉体層を成型するステップと、前記粉体層を加熱溶融することにより前記外層を作製するステップとを含み、前記外層の原料粉として、同種の又は2種以上の異種の原料粉を用いて、前記粉体層を成型し、前記粉体層を成型する際に、前記モールドの回転数に差をつけることにより、前記粉体層を、前記モールドの回転数に応じた2つ以上の部位に区分し、前記2つ以上の部位に区分した前記粉体層を加熱溶融することにより、前記外層において、前記気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位を作製し、前記外層における隣接する2つの部位の気泡含有密度について、前記気泡の含有密度の大きい部位aの気泡含有密度をda(pcs/mm3)、前記気泡の含有密度の小さい部位bの気泡含有密度をdb(pcs/mm3)としたときに、前記隣接する2つの部位における気泡含有密度の差D=(da-db)/dbを10%以上とすることを特徴とする石英ガラスるつぼの製造方法を提供する。
【0021】
このような石英ガラスるつぼの製造方法は、粉体層を成型する際のモールドの回転数に差をつけることにより、製造する石英ガラスるつぼの外層において、気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位を形成することができる。これにより、気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位に、気泡含有密度の差異に基づいた異なる機能を与えることができる。
【0022】
この場合、前記粉体層を、前記2種以上の異種の原料粉を用いて作製し、前記粉体層の前記モールドの回転数に応じた2つ以上の部位を、それぞれ前記異種の原料粉からなるものとすることにより、前記気泡の含有密度で区分される部位を、それぞれ前記異種の原料粉から作製することができる。
【0023】
このような製造方法により製造された石英ガラスるつぼであれば、特定の異種の原料粉から作製された外層を気泡の含有密度で区分けすることができる。
【0024】
また、前記モールドの回転数を、前記石英ガラスるつぼの直胴部に相当する位置で変化させることが好ましい。
【0025】
このようにすることにより、気泡含有密度の差Dが10%以上である境界を、直胴部に位置するものとした石英ガラスるつぼを製造することができる。これにより、るつぼ直胴部において気泡の含有密度で区別された部位を2つ以上持たせた石英ガラスるつぼとすることができる。
【0026】
また、本発明では、前記粉体層の少なくとも一部を、肉厚方向に、原料粉の違いによって区別される複数のサブ粉体層を有するものとして成型することができる。
【0027】
このようなサブ粉体層を有するものとして外層用の粉体層を形成することにより、製造する石英ガラスるつぼにおいて、外層の少なくとも一部が、さらに、原料粉の違いによって区別される複数のサブ層からなるものとすることができる。
【0028】
また、前記石英ガラスるつぼを、該石英ガラスるつぼの内部に保持したシリコン融液から単結晶シリコンを引き上げるための単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼとすることができる。
【0029】
このように、本発明の製造方法によって製造した石英ガラスるつぼは、単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼとして特に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の石英ガラスるつぼは、気泡の含有密度によって2つ以上の部位を区別することができ、気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位に、気泡含有密度の差異に基づいた異なる機能を与えることができる。また、本発明の石英ガラスるつぼの製造方法は、粉体層を成型する際のモールドの回転数に差をつけるという簡単な手法により、製造する石英ガラスるつぼの外層に気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明に係る石英ガラスるつぼの一例の概略断面図である。
【
図2】本発明に係る石英ガラスるつぼの一例の概略正面図である。
【
図3】本発明に係る石英ガラスるつぼの別の一例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
上記のように、石英ガラスるつぼの不透明石英ガラス層(外層)を構成する原料粉(原料石英粉)に、特性の異なる原料粉を複数種使用することで石英ガラスるつぼの特性を変化させることができる。特に外表面を含む外層で特性の異なる原料粉を部分的に使用し、その形成範囲の精度が求められる場合があるが、出来上がった石英ガラスるつぼの外観観察からは原料種の境界を確認することができないという問題があった。この問題を解決するため、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、原料の異なる部位毎に気泡の含有密度を変えることで原料種の境界を目視で見分けられることを知見して本発明を完成させた。また、本発明者らは、このような気泡の含有密度によって部位を区別した石英ガラスるつぼは、同種の原料粉を用いた場合にも応用できることを見出した。
【0033】
以下、図面を参照し、本発明をより具体的に説明する。
【0034】
図1に、本発明に係る石英ガラスるつぼの一例の概略断面図を示す。また、
図2には、本発明に係る石英ガラスるつぼの一例の概略正面図を示す。
【0035】
図1に示したように、本発明の石英ガラスるつぼ11は、底部12、湾曲部13、及び直胴部14とからなる。直胴部14はるつぼ形状のうち略円筒形の部分を指す。直胴部14と底部12の間の領域を湾曲部13と称する。るつぼの底部12は、例えば、るつぼの外径の約3分の2以下の直径を有する部分と定義することができる。直胴部14の高さは、例えば、るつぼの高さのうち上部4分の3の部分と定義することもできるが、るつぼの形状により様々である。
【0036】
また、石英ガラスるつぼ11は、気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層21と、透明石英ガラスからなる内層31とを有する。内層31は実質的に気泡を含有しないため、透明に見える部分である。また、本発明の石英ガラスるつぼ11は、外層21が同種の又は2種以上の異種の原料粉から作製されたものであり、気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位を有する。
図1、2には、気泡の含有密度で区分される第1の部位22と第2の部位24を例示している。さらに、本発明の石英ガラスるつぼ11は、外層21における隣接する2つの部位の気泡含有密度について、気泡の含有密度の大きい部位aの気泡含有密度をd
a(pcs/mm
3)、気泡の含有密度の小さい部位bの気泡含有密度をd
b(pcs/mm
3)としたときに、該隣接する2つの部位における気泡含有密度の差D=(d
a-d
b)/d
bが10%以上のものである。
【0037】
気泡含有密度の差Dについて、
図1、2に示した第1の部位22及び第2の部位24を例に説明する。ここで、第1の部位22は、第2の部位24よりも気泡含有密度が大きい領域であるとする。また、第2の部位24は、第1の部位22よりも気泡含有密度が小さい領域であるとする。この場合、隣接する2つの部位のうち、第1の部位22が気泡の含有密度の大きい部位aに相当し、その気泡含有密度はd
a(pcs/mm
3)である。一方、第2の部位24は、この場合、気泡の含有密度の小さい部位bに相当し、その気泡含有密度はd
b(pcs/mm
3)である。このとき、隣接する第1の部位22及び第2の部位24における気泡含有密度の差はD=(d
a-d
b)/d
bで定義される。本発明では、この気泡含有密度の差Dを10%以上とする。
【0038】
石英ガラスるつぼ11の各部位における気泡含有密度は、単位体積1mm3当たりの気泡の数で表される。この気泡含有密度は、例えば、以下のようにして測定することができる。まず、気泡含有密度を測定する部位からサンプルを切り出し、約1mmの厚さに加工する。次に、光学顕微鏡を使用し、倍率30で気泡を観察する。このとき、5.5mm2の面積内に存在する気泡の個数を測定する。上記のサンプル厚み(約1mm)を考慮して、単位体積あたりの気泡個数、すなわち、気泡含有密度[pcs/mm3]を算出する。
【0039】
図1、
図2の例では、外層21において気泡含有密度が異なる部位が2つである場合を示しているが、気泡の含有密度で区分される部位が3つ以上存在していてもよい。その場合、隣接する2つの部位における気泡含有密度の差Dが10%以上という関係を満たす組み合わせが1つ以上あればよい。
【0040】
本発明の石英ガラスるつぼ11は、該石英ガラスるつぼ11の内部に保持したシリコン融液から単結晶シリコンを引き上げるための単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼとして特に好適に用いることができる。
【0041】
本発明の石英ガラスるつぼ11は、気泡の含有密度によって2つ以上の部位を区別することができ、気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位に、気泡含有密度の差異に基づいた異なる機能を与えることができる。例えば、単結晶シリコン引き上げ用石英ガラスるつぼの場合、引き上げる結晶品質(結晶に含まれる酸素密度等)の要求から、赤外線の透過率の調整が必要になる場合等がある。本発明では、石英ガラスるつぼ外層の部位によって、気泡含有密度の差異に基づいて赤外線の透過率を調整することができる。
【0042】
また、本発明の石英ガラスるつぼ11は、
図1、2に示したように、気泡含有密度の差Dが10%以上である境界が、石英ガラスるつぼ11の直胴部に位置するものとすることが好ましい。これにより、直胴部において気泡の含有密度で区別された部位を2つ以上持たせた石英ガラスるつぼ11とすることができる。
【0043】
本発明の石英ガラスるつぼ11は、特に、外層21が、2種以上の異種の原料粉から作製されたものとすることができる。この場合、気泡の含有密度で区分される部位を、それぞれ異種の原料粉から作製されたものとすることができる。このようにすることにより、異種の原料粉から作製された部位を、石英ガラスるつぼの状態でも気泡の含有密度により目視で区別することができる。なお、このときの目視観察による区別は、本発明の場合、るつぼの外層側からだけではなく、内層側から見たときも可能である。内層は透明石英ガラスからなるためである。気泡含有密度に基づいた目視での区別は、隣接する2つの部位における気泡含有密度の差Dが10%以上の場合、明確にすることができる。また、これは異種の原料粉を用いた場合に限られず、同種の原料粉を用いた場合でも、気泡含有密度の差Dが10%以上であれば両部位の間の境界線により目視で区別することができる。すなわち、隣接する2つの部位における気泡含有密度の差Dが10%以上の場合、境界位置に外観上の濃淡差が発生し、境界線を目視で確認することができる。
【0044】
また、本発明は、外層の少なくとも一部が、石英ガラスるつぼの肉厚方向に、原料粉の違いによって区別される複数のサブ層を有するものとして形成することができる。
図3に、本発明に係る石英ガラスるつぼの別の態様の一例の概略断面図を示した。
図3に示した石英ガラスるつぼ41は、
図1に示した石英ガラスるつぼ11と同様に、底部42、湾曲部43、及び直胴部44とからなり、気泡を含有する不透明石英ガラスからなる外層51と、透明石英ガラスからなる内層61とを有する。
図3には、外層51が原料粉の違いによって区別される3層のサブ層71、81、91を有する例を示している。3層のサブ層71、81、91は、例えば混入物やドーパントの種類や含有量などがそれぞれ異なる原料粉で形成される。さらに、
図3の態様では、少なくとも1つのサブ層において、気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位を有するものとし、気泡含有密度の差Dを10%以上のものとする。これにより、外層51において、隣接する2つの部位における気泡含有密度の差Dを10%以上のものとすることができる。
【0045】
図3には、外層のサブ層71、81、91のうち、最も内側のサブ層71と最も外側のサブ層91の各々において、気泡の含有密度で区分される部位を有する例を示している。最も内側のサブ層71において、第1の部位72、第2の部位74は気泡含有密度の差Dが10%以上である。また、最も外側のサブ層91において、第1の部位92、第2の部位94は気泡含有密度の差Dが10%以上である。このようにすることにより、最も内側のサブ層71及び最も外側のサブ層91のそれぞれにおいて、石英ガラスるつぼ41の上下(縦)方向の複数の部位を、気泡含有密度の多寡で区別する事ができる。
【0046】
また、
図3に示したように、最も内側のサブ層71で上下方向に気泡含有密度に差がありその差Dが10%以上である場合、石英ガラスるつぼ41の内層61側から目視でそのサブ層71内の境界部分を識別可能である。また、最も外側のサブ層91で上下方向に気泡含有密度に差がありその差Dが10%以上である場合、石英ガラスるつぼ41の外層51の外側から目視でそのサブ層91内の境界部分を識別可能である。
【0047】
石英ガラスるつぼ11の直胴部のうち、端面側と底部側で異なる種類の原料粉が使用される場合に、本発明は特に好ましく適用することができる。加熱による変形に対する耐久性が高い原料粉、加熱後の冷却時に発生する劣化に対する耐久性が高い原料粉などを選択的に使用する場合があり、その境界線位置は単結晶シリコンインゴット引き上げ操業の条件により様々である。
図1、2ではるつぼ端面(上端)から直胴部の所定の範囲までを第1の部位22として例を挙げているが、例えば、この第1の部位22の原料粉(原料粉A)を、結晶化促進剤等の不純物を含有する原料粉とすることができる。また、第2の部位24の原料粉(原料粉B)を、結晶化促進剤等の不純物を含有しない原料粉とすることができる。本発明は、その他の態様にも適用することができる。例えば、端面を含まない直胴部中央のみを不純物含有層とする場合や、湾曲部(小R部)のみに異種原料層を設ける場合も適用することができる。この場合は、不純物含有層の気泡密度と、不純物を含有しない層の気泡の含有密度に差を付けることができる。
【0048】
上記のような気泡含有密度に差をつけた本発明の石英ガラスるつぼ11は、各原料粉(原料石英粉)を回転モールド内に成型する際のモールド回転数に差を付けるという方法により製造することができる。モールド回転数に応じて粉体層(原料粉成型体)に掛かる遠心力に差が生じるため、モールド回転数を調整することで粉体層(原料粉成型体)の密度を調整することができる。これにより、粉体層を加熱溶融(アーク溶融)した後に得られる石英ガラスるつぼ11の外層21の部位毎に気泡含有密度に差をつけることができる。但し、本発明の適用にあたってはモールド回転数の調整のみに限定されることはない。例えば、原料粉の粒径を調整することによって気泡含有密度を調整することもできる。
【0049】
モールド回転数に差を付ける方法は、具体的には、以下のような方法である。まず、回転するモールド内に、外層の原料粉を供給し、モールドの内面に石英ガラスるつぼの外層となる粉体層を成型する(ステップa)。次に、粉体層を加熱溶融することにより外層を作製する(ステップb)。加熱溶融には公知のアーク溶融を用いることができる。ここで、本発明の石英ガラスるつぼの製造方法では、ステップaにおいて、外層の原料粉として、同種の又は2種以上の異種の原料粉を用いて、粉体層を成型する。また、ステップaにおいて、粉体層を成型する際に、モールドの回転数に差をつけることにより、粉体層を、モールドの回転数に応じた2つ以上の部位に区分する。上記の2つ以上の部位に区分した粉体層を加熱溶融することにより、外層21において、気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位(
図1、2の第1の部位22、第2の部位24)を作製する。このような製造方法により、外層21における隣接する2つの部位の気泡含有密度について、気泡の含有密度の大きい部位aの気泡含有密度をd
a(pcs/mm
3)、気泡の含有密度の小さい部位bの気泡含有密度をd
b(pcs/mm
3)としたときに、隣接する2つの部位における気泡含有密度の差D=(d
a-d
b)/d
bを10%以上とした石英ガラスるつぼ11を製造することができる。
【0050】
図1に示した石英ガラスるつぼ11の内層31は、公知の方法によって作製することができる。例えば、外層21を形成した後、内層用原料粉を外層21の内側に供給しながらアーク溶融により内層31を作製することができる。また、外層用原料粉で形成された粉体層のうち内表面側をアーク溶融により透明化することにより内層31を形成することもできる。
【0051】
このような石英ガラスるつぼの製造方法では、粉体層を成型する際のモールドの回転数に差をつけることにより、製造する石英ガラスるつぼの外層に気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位を、気泡の含有密度によって区別することができる。これにより、気泡の含有密度で区分される2つ以上の部位に、気泡含有密度の差異に基づいた異なる機能を与えることができる。
【0052】
また、粉体層を、2種以上の異種の原料粉を用いて作製する場合には、特に、粉体層のモールドの回転数に応じた2つ以上の部位を、それぞれ異種の原料粉からなるものとすることが好ましい。これにより、気泡の含有密度で区分される部位を、それぞれ異種の原料粉から作製することができる。
【0053】
従来、回転モールド内に成型した原料粉を内部から加熱し、得られた石英ガラスるつぼの外観は一様に白く、原料種の境界を確認することができない。しかしながら、本発明の石英ガラスるつぼ11のように、外層21において隣り合う部位の気泡含有密度(pcs/mm3)の差Dを10%以上とすることで外観上の濃淡差が発生し、異なる原料層との境界を目視で確認することができる。
【0054】
また、モールドの回転数を、石英ガラスるつぼの直胴部に相当する位置で変化させることにより、気泡含有密度の差Dが10%以上である境界を、直胴部に位置するものとした石英ガラスるつぼを製造することができる。これにより、るつぼ直胴部において気泡の含有密度で区別された部位を2つ以上持たせた石英ガラスるつぼとすることができる。
【0055】
また、
図3に示した石英ガラスるつぼ41を製造する場合は、粉体層の少なくとも一部を、肉厚方向に、原料粉の違いによって区別される複数のサブ粉体層を有するものとして成型し、その他は上記と同様にして石英ガラスるつぼ41を製造する。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の実施例及び比較例をあげてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想から逸脱しない限り様々の変形が可能であることは勿論である。
【0057】
(実施例1)
図1、2に示したような石英ガラスるつぼ11を製造した。なお、外層21用の原料粉(原料石英粉)として、以下の2種の異種原料粉(原料粉A及び原料粉B)を用いた。
原料粉A:Al含有濃度50ppm。粒径は50~500μmで、100~300μmが大多数。
原料粉B:Al含有濃度8ppm。粒径は50~500μmで、100~300μmが大多数。
【0058】
粒径50~500μmの原料粉Aを、回転数120rpmで回転する内径570mmのモールド内に供給し、石英ガラスるつぼ直胴部中央ラインから端面側に成型した。次に、モールド回転数を70rpmに変更し、粒径50~500μmの原料粉Bを投入した。以上により、石英ガラスるつぼ11の外層21となる粉体層の成型を完了した。すなわち、粉体層を成型する際に、モールドの回転数に差をつけ、粉体層を、モールドの回転数に応じた2つ以上の部位に区分した。これは、原料粉として異種の原料粉を用いて、原料粉毎にモールド回転数を変化させたことに相当する。次に、アーク放電により粉体層(成型体)の内部から加熱溶融し、冷却して直径555~560mmの石英ガラスるつぼ11を得た。原料粉Aからは
図1、2の外層21のうち第1の部位22が形成され、原料粉Bからは
図1、2の外層21のうち第2の部位24が形成されたことになる。
【0059】
上記のように作製した石英ガラスるつぼ11の外観を照度500ルクス以上で目視確認したところ、原料層A(すなわち、原料粉Aから形成された部位であり、第1の部位22に相当する。)と原料層B(すなわち、原料粉Bから形成された部位であり、第2の部位24に相当する。)の境目に明確な境界線が生じていることが確認できた。なお、このときの目視確認は、るつぼの外層側から行った。原料層Aと原料層Bの含有気泡密度を測定したところ、原料層Aでは63pcs/mm3、原料層Bでは43pcs/mm3であった。この場合、原料層Aが気泡の含有密度の大きい部位aであり、気泡含有密度daが63pcs/mm3である。また、原料層Bが気泡の含有密度の小さい部位bであり、気泡含有密度dbが43pcs/mm3である。そのため、気泡含有密度の差D=(da-db)/dbは、(63-43)/43=0.465、すなわち、46.5%である。また、各部位の不純物濃度を測定したところ、それぞれ原料粉Aと原料粉Bの不純物濃度の特徴を示しており、境界線で原料層AとBが分離されていることが確認できた。
【0060】
(実施例2)
実施例1と比べて原料粉Aの成型時のモールド回転数を110rpmに変更して、石英ガラスるつぼ11を作製した。この石英ガラスるつぼ11の外観を実施例1と同様に目視確認したところ、原料層Aと原料層Bの境目に明確な境界線が生じていることが確認できた。原料層Aと原料層Bの含有気泡密度を測定したところ、原料層Aでは59pcs/mm3、原料層Bでは43pcs/mm3であり、気泡含有密度の差Dとして37.2%の差が生じていた。
【0061】
(実施例3)
実施例1と比べて原料粉Aの成型時のモールド回転数を110rpmに変更し、原料粉Bの成型時のモールド回転数を90rpmに変更して、石英ガラスるつぼ11を作製した。この石英ガラスるつぼ11の外観を実施例1と同様に目視確認したところ、原料層Aと原料層Bの境目に明確な境界線が生じていることが確認できた。原料層Aと原料層Bの含有気泡密度を測定したところ、原料層Aでは57pcs/mm3、原料層Bでは49pcs/mm3であり、気泡含有密度の差Dとして16.3%の差が生じていた。
【0062】
(実施例4)
実施例1と比べて原料粉Aの成型時のモールド回転数を110rpmに変更し、原料粉Bの成型時のモールド回転数を95rpmに変更して、石英ガラスるつぼ11を作製した。この石英ガラスるつぼの外観を実施例1と同様に目視確認したところ、原料層Aと原料層Bの境目に明確な境界線が生じていることが確認できた。原料層Aと原料層Bの含有気泡密度を測定したところ、原料層Aでは59pcs/mm3、原料層Bでは53pcs/mm3であり、気泡含有密度の差Dとして11.3%の差が生じていた。
【0063】
(比較例1)
実施例1と比べて原料粉Bの成型時のモールド回転数を120rpmに変更して、石英ガラスるつぼを作製した。この石英ガラスるつぼの外観を実施例1と同様に目視確認したところ、原料層Aと原料層Bの境目に境界線を確認することができなかった。原料層Aと原料層Bの含有気泡密度を測定したところ、原料層Aでは63pcs/mm3、原料層Bでは63pcs/mm3、気泡含有密度の差Dとして0%の差であり、原料層Aと原料層Bの気泡含有密度の差がなくなったためと考えられる。
【0064】
(比較例2)
実施例1と比べて原料粉Aの成型時のモールド回転数を90rpmに変更し、原料粉Bの成型時のモールド回転数を90rpmに変更して、石英ガラスるつぼを作製した。この石英ガラスるつぼの外観を実施例1と同様に目視確認したところ、原料層Aと原料層Bの境目に境界線を確認することができなかった。原料層Aと原料層Bの含有気泡密度を測定したところ、原料層Aでは50pcs/mm3、原料層Bでは49pcs/mm3、気泡含有密度の差Dとして2.0%の差であり、原料層Aと原料層Bの気泡含有密度の差がなくなったためと考えられる。
【0065】
(比較例3)
実施例1と比べて原料粉Bの成型時のモールド回転数を110rpmに変更して、石英ガラスるつぼを作製した。この石英ガラスるつぼの外観を実施例1と同様に目視確認したところ、原料層Aと原料層Bの境目に境界線を確認することができたが、実施例1よりも不明瞭な状態であった。原料層Aと原料層Bの含有気泡密度を測定したところ、原料層Aでは63pcs/mm3、原料層Bでは58pcs/mm3、気泡含有密度の差Dとして8.6%の差であり、原料層Aと原料層Bの気泡含有密度の差が小さくなったためと考えられる。
【0066】
(比較例4)
実施例1と比べて原料粉Aの成型時のモールド回転数を70rpmに変更し、原料粉Bの成型時のモールド回転数を60rpmに変更して、石英ガラスるつぼを作製した。この石英ガラスるつぼの外観を実施例1と同様に目視確認したところ、原料層Aと原料層Bの境目に境界線が確認できたが、実施例1よりも不明瞭な状態であった。原料層Aと原料層Bの含有気泡密度を測定したところ、原料層Aでは45pcs/mm3、原料層Bでは41pcs/mm3、気泡含有密度の差Dとして9.8%の差であり、原料層Aと原料層Bの気泡含有密度の差が小さくなったためと考えられる。
【0067】
実施例1~4、及び比較例1~4の原料粉成型時のモールド回転数、得られた石英ガラスるつぼの生地層(外層)の気泡含有量、及び境界線目視観察結果を表1にまとめた。表中の「良好」は、境界線が明瞭に目視で確認できて結果が非常に良好であること、「やや不良」は境界線が確認できるが不明瞭のため結果がやや不良であること、「不良」は境界線が目視で確認できず結果が不良であることを示している。
【表1】
【0068】
実施例1~4、及び比較例1~4の結果から、石英原料粉を成型する際のモールド回転数に差をつけることによって、得られた石英ガラスるつぼの気泡含有密度に差が生じ、外観を目視確認したときに原料層の境界線を確認することができることが明らかになった。特に気泡含有密度の差Dが10%以上であれば境界線の目視確認が確実にできることがわかった。
【0069】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0070】
11…石英ガラスるつぼ、 12…底部、 13…湾曲部、 14…直胴部、
21…外層、 22…外層の第1の部位、 24…外層の第2の部位、
31…内層、
41…石英ガラスるつぼ、 42…底部、 43…湾曲部、 44…直胴部、
51…外層、 61…内層、
71、81、91…外層のサブ層、
72…(最も内側のサブ層における)第1の部位、
74…(最も内側のサブ層における)第2の部位、
92…(最も外側のサブ層における)第1の部位、
94…(最も外側のサブ層における)第2の部位。