(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】粉末味噌の耐吸湿性向上方法
(51)【国際特許分類】
A23L 11/50 20210101AFI20220915BHJP
【FI】
A23L11/50 118
(21)【出願番号】P 2018113076
(22)【出願日】2018-06-13
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】310018618
【氏名又は名称】神州一味噌株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 翔太
(72)【発明者】
【氏名】籠谷 亮
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-145991(JP,A)
【文献】特開平07-155128(JP,A)
【文献】特開2002-142704(JP,A)
【文献】特開2004-215654(JP,A)
【文献】特開昭46-028158(JP,A)
【文献】帯広大谷短期大学紀要,1998年,Vol. 35,pp. 49-55,https://doi.org/10.20682/oojc.35.0_49
【文献】家政学雑誌,1958年,Vol. 9, No. 4,pp. 163-167,https://doi.org/10.11428/jhej1951.9.163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末味噌
(デキストリンを添加したものを除く)の耐吸湿性を向上させる方法であって、
前記粉末味噌におけるグルタミン酸の含有量が500~3000mg/100gとなるように味噌にグルタミン酸を添加した後、乾燥処理を施す粉末味噌の耐吸湿性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末味噌の耐吸湿性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の伝統的な調味料である味噌については、これまでにも香味の観点から様々な研究開発が進められてきた。
また、味噌については、香味の観点だけではなく、使い易さといった利便性の観点に基づく検討も進められており、ペースト状ではない以下のような態様の味噌も提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、味噌を含有する液状調味料の製造方法が開示されており、具体的には、先ず糖類の存在下で味噌を調味液体の一部に溶解して粘度が1000~10000cp(25℃)の液状物を調製し、次いで、得られた液状物に残りの調味液体を加えて攪拌し粘度が100~1500cp(25℃)の液状調味料を製造することを特徴とすると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、味噌に関して、より利便性を向上させるだけでなく、味噌の使用のバリエーションを広めて様々な料理に適用できるようにするため、粉末状を呈する粉末味噌の開発を検討した。
【0006】
本発明者らは粉末味噌の開発を進めたが、乾燥させて粉末状とした味噌は吸湿性が非常に高いため、使用する環境、保存状態、保存期間等によって、粉末同士がくっつき全体として固まってしまう。その結果、粉末味噌の利便性に優れるという利点が、吸湿性によって大きく損なわれてしまうことを確認した。
よって、粉末味噌について、消費者から好まれる商品とし、一般的な調味料として市場に定着させるためには、耐吸湿性が極めて重要なファクターであると認識した。
【0007】
そこで、本発明は、粉末味噌の耐吸湿性向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、粉末味噌の状態や製造工程における様々な条件を検討した結果、グルタミン酸の含有量、グルタミン酸の状態(又は、製造工程においてグルタミン酸を含有させるタイミング)が前記課題の解決の糸口となることを見出し、本発明を創出するに至った。
【0009】
前記課題は、以下の手段によって解決することができる。
(1)粉末味噌(デキストリンを添加したものを除く)の耐吸湿性を向上させる方法であって、前記粉末味噌におけるグルタミン酸の含有量が500~3000mg/100gとなるように味噌にグルタミン酸を添加した後、乾燥処理を施す粉末味噌の耐吸湿性向上方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る粉末味噌の耐吸湿性向上方法は、乾燥処理を施す前に含有量が所定範囲内となるようにグルタミン酸を原料に対して添加していることから、粉末味噌の耐吸湿性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】グルタミン酸の含有量やグルタミン酸の添加のタイミングに基づいて変化するブロッキング率の結果を示すグラフ(目開きが1.18mmの篩を用いた場合のグラフ)である。
【
図2】グルタミン酸の含有量やグルタミン酸の添加のタイミングに基づいて変化するブロッキング率の結果を示すグラフ(目開きが0.5mmの篩を用いた場合のグラフ)である。
【
図3A】SEM観察によるグルタミン酸ソーダの画像データである。
【
図3B】SEM観察によるサンプル1-1の画像データである。
【
図3C】SEM観察によるサンプル1-4の画像データである。
【
図3D】SEM観察によるサンプル1-8の画像データである。
【
図4A】SEM観察によるグルタミン酸ソーダの画像データである。
【
図4B】SEM観察によるサンプル2-1の画像データである。
【
図4C】SEM観察によるサンプル2-4の画像データである。
【
図4D】SEM観察によるサンプル2-9の画像データである。
【
図5A】グルタミン酸結晶のXRDパターンである。
【
図5D】サンプル1-11のXRDパターンである。
【
図6A】グルタミン酸結晶の特性を示すデータである。
【
図6B】サンプル1-1の特性を示すデータである。
【
図6C】サンプル1-2の特性を示すデータである。
【
図6D】サンプル1-11の特性を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る粉末味噌、及び、その製造方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で用いている。
【0015】
≪粉末味噌≫
本実施形態に係る粉末味噌は、粉末状を呈するとともに、グルタミン酸の含有量が所定範囲内であり、含有するグルタミン酸が所定の状態である。
なお、後記する製造方法において、乾燥処理がフリーズドライ処理である場合、本実施形態に係る粉末味噌は、いわゆるフリーズドライ粉末の粉末味噌となる。
【0016】
<味噌>
本実施形態に係る粉末味噌は、味噌等に対して後記する各処理を施して得られるものであるが、使用する味噌については特に限定されず、米味噌、麦味噌、豆味噌、もろみ味噌、調合味噌(複数の麹を原料とする味噌、又は、複数の味噌を混ぜ合わせた味噌)等が挙げられる。
また、使用する味噌の塩分についても特に限定されず、一般的な塩分含量のもの、例えば、6~13質量%のものであればよい。
【0017】
<グルタミン酸>
本実施形態に係る粉末味噌はグルタミン酸を含有する。
グルタミン酸(Glutamic acid)とは、コンブの呈味成分として知られるアミノ酸の一種であり、詳細には、L-グルタミン酸である。
粉末味噌のグルタミン酸の含有量を所定範囲内とすることによって(さらに、グルタミン酸が後記する状態である場合において)、驚くべきことに、粉末味噌の耐吸湿性を向上させる。
【0018】
(グルタミン酸の含有量)
グルタミン酸の含有量は、500mg/100g以上が好ましく、800mg/100g以上がより好ましく、1000mg/100g以上がさらに好ましく、1300mg/100g以上が特に好ましい。グルタミン酸の含有量が所定値以上であることによって、耐吸湿性を向上させることができる。
グルタミン酸の含有量は、3000mg/100g以下が好ましく、2700mg/100g以下がより好ましく、2500mg/100g以下がさらに好ましく、2200mg/100g以下が特に好ましい。グルタミン酸の含有量が所定値以下であることによって、耐吸湿性の向上効果をしっかりと発揮させることができる。
なお、グルタミン酸の含有量とは、粉末味噌における総含有量であり、後記する添加工程で味噌に添加するグルタミン酸(出汁等に含まれるグルタミン酸)の量だけでなく、味噌自体に含有しているグルタミン酸の量も含まれる。
【0019】
粉末味噌のグルタミン酸の含有量は、例えば、アミノ酸自動分析計(L-8900、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて測定することができる。
【0020】
(グルタミン酸の状態)
本実施形態に係る粉末味噌は、「グルタミン酸が粉末に溶け込んでいる状態」、言い換えると、グルタミン酸が味噌と混ざり合った後に一緒に粉末化されることで単体で結晶化したグルタミン酸結晶が存在しない(又は、ほとんど存在しない)という状態である。
粉末味噌において、グルタミン酸(グルタミン酸を含有する出汁等)を味噌に添加した後に乾燥処理を施した場合は、
図3C、4Cのように、グルタミン酸結晶(グルタミン酸ナトリウム)が存在せず、「グルタミン酸が粉末に溶け込んでいる状態」となる。一方、乾燥処理の後にグルタミン酸(グルタミン酸を含有する出汁等)を添加した場合は、
図3D、4Dのように、グルタミン酸結晶が存在し、「グルタミン酸が粉末に溶け込んでいる状態」とはならない。
なお、この「グルタミン酸が粉末に溶け込んでいる状態」をより詳細に説明すると以下のとおりとなる。
【0021】
(グルタミン酸の状態:XRDパターンの評価)
本実施形態に係る粉末味噌の「グルタミン酸が粉末に溶け込んでいる状態」については、当該粉末味噌のXRD(X-raydiffraction:X線回折)パターンを評価することで判断することができる。すなわち、本実施形態に係る粉末味噌のXRDパターンについて、グルタミン酸結晶が存在する場合に見られる特徴的な回折ピークが存在しているか否かを評価することで、当該粉末味噌が「グルタミン酸が粉末に溶け込んでいる状態」か否かを判断することができる。ここで、XRDパターンにおいてグルタミン酸結晶が存在する場合に見られる特徴的な回折ピークとは、
図5A及び
図6Aに示される回折ピークであり、少なくとも表1に示す2θ(°2シータ)の値に対応して位置する回折ピークのことを言う。また、回折ピークが存在しないとは、表1に示す各2θにおけるXRDピーク強度比が、それぞれ表1に示す値以下であることを言う。
なお、XRDピーク強度比とは、回折角2θ=31.7°±0.5°の回折ピーク強度を100とした場合の、当該回折ピーク強度に対する各回折角2θにおけるXRDピーク強度の相対値である。
【0022】
【0023】
なお、表1の内容を言い換えると以下のとおりである。
本実施形態に係る粉末味噌は、XRDパターンにおいて、回折角2θ=31.7°±0.5°の回折ピーク強度をIとし、回折角2θ=20.1°±0.5°の回折ピーク強度をI1とし、回折角2θ=23.3°±0.5°の回折ピーク強度をI2とし、回折角2θ=25.4°±0.5°の回折ピーク強度をI3とした場合、I1/I×100が0.4以下であり、I2/I×100が0.8以下であり、I3/I×100が1.3以下である。
【0024】
なお、粉末味噌のXRDパターンは、例えば、X線回折装置(X’Pert PROMPD、スペクトリス株式会社製)を使用して測定することができる。
【0025】
<出汁>
本実施形態に係る粉末味噌を製造するにあたり、乾燥処理の前に原料(味噌等)に対してグルタミン酸を添加するが、出汁としてグルタミン酸を添加してもよい。
そして、使用する出汁は、昆布、鰹節、煮干魚類等を煮出して得られるエキス(又は、粉末化させたパウダー)であり、だし(鰹だし、昆布だし等)、エキス(鰹エキス、昆布エキス、酵母エキス等)、パウダー(魚粉末等)、発酵調味料、蛋白加水分解物である。ここで使用する出汁は、グルタミン酸を含有するものである。また、使用する出汁は、1種でも2種以上であってもよい。
なお、味噌に添加するグルタミン酸として出汁を使用した場合、本実施形態に係る粉末味噌は、いわゆる「出汁入り粉末味噌」となる。
【0026】
<篩の目開き>
本実施形態に係る粉末味噌は、粉末状であれば特に限定されないものの、例えば、目開きが1.70mmよりも小さい篩を通過するもの(ふるい径が1.70mm以下のもの)が好ましく、目開きが1.30mmよりも小さい篩を通過するもの(ふるい径が1.30mm以下のもの)がより好ましく、目開きが1.20mmよりも小さい篩を通過するもの(ふるい径が1.20mm以下のもの)がさらに好ましく、目開きが0.5mmよりも小さい篩を通過するもの(ふるい径が0.5mm以下のもの)がさらにより好ましい。粉末味噌が所定の目開きの篩を通過する微細な粉末状であることによって、十分に粉砕されていない大きなサイズの顆粒を除外されているとともに、耐吸湿性を向上させなければならないという課題がより明確となる。
なお、本明細書において粉末とは、前記した粒径以下(ふるい径:特に0.5mm以下)のものを示す。
【0027】
<その他>
使用する味噌には、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で、適宜、食品衛生法に規定されている食品添加物(調味料、エタノール等)の他、砂糖類(砂糖、糖みつ等)等が含まれていてもよい。
また、乾燥工程前の原料には、味噌、添加するグルタミン酸(グルタミン酸を含む出汁)の他、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で、適宜、水、食塩等が含まれていてもよい。
【0028】
なお、本実施形態に係る粉末味噌は、粉末化や粘性低下を目的として使用される賦形剤、例えば、デキストリン(澱粉を加水分解する時に生ずる中間生成物)等を除外するものではない。しかしながら、本実施形態に係る粉末味噌は、前記のとおり耐吸湿性に優れることから、あえてデキストリンを添加する必要はない。よって、本実施形態に係る粉末味噌は、デキストリンを含有しない場合、この物質の香味によって味噌本来の風味が損なわれてしまうといった事態を回避することができる。
【0029】
≪粉末味噌の製造方法≫
本実施形態に係る粉末味噌の製造方法は、添加工程と、乾燥工程と、粉砕工程と、篩分工程と、を含む。
以下、各工程を説明する。
【0030】
<添加工程>
添加工程は、粉末味噌におけるグルタミン酸の含有量が所定範囲内となるように原料(味噌等)にグルタミン酸を添加する工程である。前記したとおり、味噌にグルタミン酸を添加するにあたり、出汁(エキス、パウダー)を添加してもよい。また、グルタミン酸の含有量については、前記したとおりである。
なお、添加工程では、添加したグルタミン酸が味噌に馴染むように混合するのが好ましい。この場合、添加工程において、原料に加水してもよい。これによって、添加したグルタミン酸が味噌に馴染み易くなる。なお、ここで加えられた水は、後の乾燥工程で除去される。
【0031】
最終的に粉末味噌におけるグルタミン酸の含有量が所定範囲内となっていれば、グルタミン酸の添加量については特に限定されないものの、例えば、0.25重量%以上が好ましく、0.30重量%以上がより好ましく、また、2.60重量%以下が好ましく、2.00重量%以下がより好ましい。
【0032】
<乾燥工程>
乾燥工程は、添加工程の後の原料に対して乾燥処理を施す工程である。この乾燥工程における乾燥処理は、原料を乾燥させることができれば特に限定されないものの、香味上の観点から、真空乾燥処理が好ましく、原料を加熱することなく乾燥させることができる真空凍結乾燥処理(本明細書において、フリーズドライ処理とも言う。)がより好ましい。なお、乾燥処理としてスプレードライ処理を用いると、乾燥前の液状とされた味噌がノズルに目詰まりしてしまうおそれがある。
この乾燥処理(フリーズドライ処理)については、水分が十分に除去される条件であればよく、公知の条件で行えばよい。
【0033】
<粉砕工程>
粉砕工程は、乾燥工程において乾燥させた乾燥物に対して粉砕処理を施し、粉末状とする工程である。この粉砕工程における粉砕処理では、粉末の状態にすることができれば特に限定されず、市販の粉砕機(粉末ミル、製粉機)を使用して行えばよい。
【0034】
<篩分工程>
篩分工程は、粉砕工程で得られた粉末味噌に対して、前記した所定の目開きの篩を用い、十分に粉砕されていない大きなサイズの顆粒を除外する工程である。
【0035】
<その他の工程>
使用する味噌、出汁については、市販のものを使用してもよいが、適宜、添加工程の前に製造してもよい。
なお、味噌については、大豆、麹、酵母、塩等を含む原料を混合して仕込みを行った後、原料を発酵室内で発酵熟成させるといった一般的な製造方法で製造すればよい。
【0036】
本実施形態に係る粉末味噌の製造方法は、以上説明したとおりであるが、前記各工程において、明示していない条件については、従来公知の条件を用いればよく、前記各工程での処理によって得られる効果を奏する限りにおいて、その条件を適宜変更できることは言うまでもない。
なお、本実施形態に係る粉末味噌の耐吸湿性向上方法は、前記した粉末味噌の製造方法と同じ工程や条件で実施すればよい。
【0037】
≪本実施形態に係る粉末味噌等の効果≫
本実施形態に係る粉末味噌は、味噌に対して所定量となるようにグルタミン酸を添加した後、乾燥処理を施して製造されることから、グルタミン酸の含有量が所定範囲内となるとともに、グルタミン酸が粉末に溶け込んだ状態となっている。その結果、本実施形態に係る粉末味噌は、耐吸湿性が向上している。なお、詳細なメカニズムについて明確には把握できていないものの、実験の結果に基づいてこの効果が発揮できることを確認している。
【0038】
また、本実施形態に係る粉末味噌は、グルタミン酸が粉末に溶け込んだ状態となっていることから、当該粉末味噌を溶かした味噌汁は、味噌の味とグルタミン酸由来の味(出汁の味)が一つにまとまり、全体として非常にまろやかな味を呈するという効果も発揮する。
【0039】
また、本実施形態に係る粉末味噌は、グルタミン酸として出汁を添加して製造することにより、前記したように、耐吸湿性に優れるとともに、味噌の味と出汁の味とが一つにまとまることでまろやかな味を呈する「出汁入り粉末味噌」を消費者に提供することができる。
【実施例】
【0040】
次に、グルタミン酸の含有量、グルタミン酸の添加のタイミングが、耐吸湿性にどのような影響を及ぼすかを明らかとするため、以下の試験を実施した。
【0041】
<サンプルの準備>
サンプル1-1は、米味噌からなる原料にフリーズドライ処理を施し、粉砕処理を施した後、目開きが1.18mmの篩で篩分処理を施して製造した。
サンプル1-2~1-6は、表に示す量(乾燥前の原料+添加量を100重量%とした場合の量)のグルタミン酸ソーダを原料に対してフリーズドライ前に添加した点及び原料に加水をした点を除き、サンプル1-1と同じ条件で製造した。
サンプル1-7~1-11は、表に示す量(乾燥前の原料+添加量を100重量%とした場合の量)のグルタミン酸ソーダを原料に対してフリーズドライ後に添加した点を除き、サンプル1-1と同じ条件で製造した。
【0042】
サンプル2-1は、米味噌からなる原料にフリーズドライ処理を施し、粉砕処理を施した後、目開きが0.5mmの篩で篩分処理を施して製造した。
サンプル2-2~2-6は、表に示す量(乾燥前の原料+添加量を100重量%とした場合の量)のグルタミン酸ソーダを原料に対してフリーズドライ前に添加した点及び原料に加水した点を除き、サンプル2-1と同じ方法で製造した。
サンプル2-7~2-11は、表に示す量(乾燥前の原料+添加量を100重量%とした場合の量)のグルタミン酸ソーダを原料に対してフリーズドライ後に添加した点を除き、サンプル2-1と同じ方法で製造した。
【0043】
<評価試験:グルタミン酸の含有量>
前述の方法により製造したサンプルのグルタミン酸の含有量を測定した。その結果を、表2及び表3に表した。
なお、グルタミン酸の含有量は、アミノ酸自動分析計(L-8900、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を使用して測定した。そして、グルタミン酸の含有量の詳細な測定方法は、以下のとおりであった。
まず、適量のサンプルを量り取った。次いで、量り取ったサンプルから可溶性成分を抽出・濾過した。次いで、抽出・濾過された可溶性成分に対して除蛋白処理を行った。次いで、除蛋白処理されたものに対して濃縮処理を行った。次いで、濃縮処理されたものを上記のアミノ酸自動分析計によりアミノ酸分析を行った。アミノ酸の分析条件は、以下のとおりであった。
カラム:日立アミノ酸自動分析計用反応カラム、分析カラム
移動相:日立アミノ酸自動分析計用 生体液分析法用緩衝液
PF-1、PF-2、PF-3、PF-4、PF-RGのグラジエント
反応液:日立アミノ酸自動分析計用 ニンヒドリン溶液、緩衝液、5 (v/v)%エタノール
流速:(移動相)0.35 mL/分、(反応液)0.35mL/分
注入量:20 μL
測定波長:570 nm
【0044】
<評価試験:ブロッキング率>
前記の方法により製造したサンプル2gをバイアル(蓋なし)に移し、このバイアルを絶乾デシケータ(RH0%)内に48時間静置することで絶乾処理を施した。その後、このバイアルを恒温恒湿機(30℃、RH51%)内に24時間静置することで調湿処理を施した。
そして、サンプルをバイアルから目開きが1.7mmの篩の上に移し、篩を通過したサンプルの重量と、篩に移す前のサンプルの全重量とを測定し、ブロッキング率を以下の式に基づき算出した。
ブロッキング率(%)=100-(目開きが1.7mmの篩を通過したサンプルの重量/サンプルの全重量)×100
【0045】
なお、「ブロッキング率」の値が高い場合とは、粉末が周囲の湿気を吸湿して、表面等に吸着した湿気が媒介となり、互いにくっつき合って大きくなった粉末(顆粒)が多く存在していることを意味する。よって、「ブロッキング率」の値が低いほど、粉末は周囲の湿気を吸湿しておらず、耐吸湿性に優れていると判断できる。
【0046】
そして、サンプル1-2~1-10については、サンプル1-1のブロッキング率より低いもの(
図1の点線未満)を耐吸湿性が向上していると判断し、サンプル2-2~2-11については、サンプル2-1のブロッキング率より低いもの(
図2の点線未満)を耐吸湿性が向上していると判断した。
【0047】
<評価試験:SEM観察>
前記の方法により製造したサンプルを走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、得られた画像データを
図3A~3D、
図4A~4Dに表した。
SEM観察に供したサンプルは、サンプル1-1(
図3B)、1-4(
図3C)、1-8(
図3D)、2-1(
図4B)、2-4(
図4C)、2-9(
図4D)と、グルタミン酸ソーダ単体(
図3A、4B)であった。
なお、図中の「MSG」とはグルタミン酸ソーダ(グルタミン酸結晶)を示す。
【0048】
<評価試験:XRDパターンの評価>
前述の方法により製造したサンプルのXRDパターンの測定を行った。その結果を、
図5A~5D、
図6A~6Dに表した。
XRDパターン測定に供したサンプルは、サンプル1-1(
図5B、
図6B)、1-2(
図5C、
図6C)、1-11(
図5D、
図6D)、及びグルタミン酸結晶単体(
図5A、
図6A)であった。
【0049】
なお、XRDパターンの測定は、X線回折装置(X’Pert PROMPD、スペクトリス株式会社製)を使用して測定した。各サンプルのXRDパターンの詳細な測定方法は、以下のとおりであった。
まず、サンプルをメノウ製乳鉢に取り、2分程度粉砕処理をした。次いで、電子重量計(CubisMSA 225S-100-DI、ザカトリウス製)を用いてサンプルを適量計量し、これをガラス製の平板試料ホルダに取った。次いで、ホルダに取ったサンプルを以下の測定条件でXRDパターンの測定を行った。
ターゲット:Cu
X線:CuKα線(フィルタ:Ni)
X線管電流:40mA
X線管電圧:45kV
X線波長:1.54Å
走査範囲:2θ=4.0~40.0°
固定発散スリット:1/2°
Step size:0.0167°
Time per step:100s
【0050】
各表、及び、各図に各サンプルの評価結果等を示す。
なお、図表中の「FD前」とは、フリーズドライ前(乾燥処理前)を示し、「FD後」とは、フリーズドライ後(乾燥処理後)を示している。
そして、
図6中の「Pos.[°2Th.]」は、2θの位置を示しており、「d値[Å]」は、格子面間隔を示しており、「NET強度[cts]」は、回折ピーク強度を示している。また、
図6中の「相対強度[%]」は、2θ=31.7°±0.5°における回折ピーク強度を100とした場合のXRDピーク強度比を示しており(
図6Aのみ25.4°±0.5°での回折ピーク強度100を基準)、「Area[cts*°2Th.]」は、回折ピークの面積を示している。
【0051】
【0052】
【0053】
<結果の検討>
表2と
図1に示したサンプル1-1~1-10の結果を確認すると明らかなように、グルタミン酸の含有量が所定範囲内となるようにフリーズドライ前に原料にグルタミン酸を添加した場合(サンプル1-2~1-5)は、グルタミン酸を添加しない場合(サンプル1-1)と比較して、ブロッキング率の値が低下する、つまり、耐吸湿性が向上することが確認できた。
また、表2と
図1の結果から明らかなように、フリーズドライ前にグルタミン酸を原料に添加した場合(サンプル1-3~1-5)は、フリーズドライ後にグルタミン酸を原料に添加した場合(サンプル1-7~1-9)と比較して、ブロッキング率の値が大幅に低下することが確認できた(
図1の矢印)。
【0054】
そして、表3と
図2に示したサンプル2-1~2-11の結果を確認すると明らかなように、前記したサンプル1-1~1-10(表2、
図1)の結果と同様の傾向が確認できた。
つまり、グルタミン酸の含有量が所定範囲内となるようにフリーズドライ前に原料にグルタミン酸を添加した場合(サンプル2-2~2-5)は、グルタミン酸を添加しない場合(サンプル2-1)と比較して、ブロッキング率の値が低下する、つまり、耐吸湿性が向上することが確認できた。
また、表3と
図2の結果から明らかなように、フリーズドライ前にグルタミン酸を原料に添加した場合(サンプル2-2~2-5)は、フリーズドライ後にグルタミン酸を原料に添加した場合(サンプル2-7~2-10)と比較して、ブロッキング率の値が大幅に低下することが確認できた(
図2の矢印)。
【0055】
また、
図3A~3D、
図4A~4Dの画像データから、フリーズドライ前にグルタミン酸を原料に添加した場合(サンプル1-4:
図3C、サンプル2-4:
図4C)は、グルタミン酸ソーダ(グルタミン酸結晶)が存在せず、「グルタミン酸が粉末に溶け込んでいる状態」となっていることが確認できた。
一方、フリーズドライ後にグルタミン酸を原料に添加した場合(サンプル1-8:
図3D、サンプル2-9:
図4D)は、グルタミン酸ソーダ(グルタミン酸結晶)が存在し、「グルタミン酸が粉末に溶け込んでいる状態」とはなっていないことが確認できた。
【0056】
また、
図5C、
図5D、
図6C、
図6Dの結果を比較すると以下の事項が確認できた。
フリーズドライ前にグルタミン酸を原料に添加した場合(サンプル1-2:
図5C及び
図6C)では、XRDパターンにおいてグルタミン酸結晶が存在する場合に見られる特徴的な回折ピークが存在しない。具体的には、
図5Cに示されるXRDパターンにおいて、20.1°±0.5°、23.3°±0.5°、及び25.4°±0.5°に回折ピークが存在しない。すなわち、
図5C及び
図6Cに示されるように、2θの値が20.1°±0.5°である場合のXRDピーク強度比が0.4以下であり、2θの値が23.3°±0.5°である場合のXRDピーク強度比が0.8以下であり、2θの値が25.4°±0.5°である場合のXRDピーク強度比が1.3以下である。このことから、フリーズドライ前にグルタミン酸を原料に添加した場合は、グルタミン酸結晶が存在せず、「グルタミン酸が粉末に溶け込んでいる状態」となっていることが確認できた。
【0057】
一方、フリーズドライ後にグルタミン酸を原料に添加した場合(サンプル1-11:
図5D及び
図6D)では、XRDパターンにおいてグルタミン酸結晶が存在する場合に見られる特徴的な回折ピークが存在した。具体的には、
図5Dに示されるXRDパターンにおいて、20.1°±0.5°、23.3°±0.5°、及び25.4°±0.5°に回折ピークが存在した。すなわち、
図5D及び
図6Dに示されるように、2θの値が20.1°±0.5°である場合のXRDピーク強度比が0.4を超えており、2θの値が23.3°±0.5°である場合のXRDピーク強度比が0.8を超えており、2θの値が25.4°±0.5°である場合のXRDピーク強度比が1.3を超えていた。このことから、フリーズドライ後にグルタミン酸を原料に添加した場合は、グルタミン酸結晶が存在し、「グルタミン酸が粉末に溶け込んでいる状態」とはなっていないことが確認できた。
【0058】
なお、
図5A及び
図6Aに示されるように、グルタミン酸結晶には、XRDパターンにおいて特徴的な回折ピークが存在することが確認された。また、
図5B及び
図6Bに示されるように、グルタミン酸を添加しない場合は、XRDパターンにおいてグルタミン酸結晶が存在する場合に見られる特徴的な回折ピークが存在しないことが確認された。