IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪瓦斯株式会社の特許一覧 ▶ 大阪ガスケミカル株式会社の特許一覧

特許7141884制振性繊維強化ゴム組成物およびその製造方法
<>
  • 特許-制振性繊維強化ゴム組成物およびその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】制振性繊維強化ゴム組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20220915BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20220915BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20220915BHJP
   C08B 15/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L1/08
C08J5/04 CEQ
C08B15/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018144561
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020019886
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】廣田 真之
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 裕明
(72)【発明者】
【氏名】荘所 大策
(72)【発明者】
【氏名】牧野 伸彦
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-222745(JP,A)
【文献】特開2016-079370(JP,A)
【文献】特開2016-079369(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158682(WO,A1)
【文献】特開2017-222777(JP,A)
【文献】特開2017-115023(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01260522(EP,A1)
【文献】特開2010-106251(JP,A)
【文献】特開2008-094973(JP,A)
【文献】特開2009-235309(JP,A)
【文献】特開2016-172823(JP,A)
【文献】特開昭62-129353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
C08B 1/00 - 37/18
C08J 3/00 - 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分(A)と、制振付与剤(B)と、9,9位にアリール基を有するフルオレン化合物(C1)が結合した修飾セルロースナノ繊維(C)とを含む加硫ゴム組成物であって、
前記フルオレン化合物(C1)の割合が、前記修飾セルロースナノ繊維(C)の総量に対して0.01~33質量%である加硫ゴム組成物
【請求項2】
フルオレン化合物(C1)が、下記式(1)で表される化合物である請求項1記載の加硫ゴム組成物。
【化1】
(式中、環Zはアレーン環、RおよびRは置換基、Xはヘテロ原子含有官能基、kは0~4の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数を示す)
【請求項3】
式(1)において、Xが、基-[(OA)m1-Y](式中、Aはアルキレン基、Yはヒドロキシル基またはグリシジルオキシ基、m1は0以上の整数を示す)である請求項2記載の加硫ゴム組成物。
【請求項4】
修飾セルロースナノ繊維(C)の平均繊維径が3~500nmである請求項1~のいずれかに記載の加硫ゴム組成物。
【請求項5】
制振付与剤(B)が軟質樹脂または熱可塑性エラストマーである請求項1~のいずれかに記載の加硫ゴム組成物。
【請求項6】
制振付与剤(B)がスチレン系熱可塑性エラストマーである請求項記載の加硫ゴム組成物。
【請求項7】
ゴム成分(A)が、ジエン系ゴムおよびオレフィン系ゴムからなる群より選択された少なくとも1種を含む請求項1~のいずれかに記載の加硫ゴム組成物。
【請求項8】
ゴム成分(A)100質量部に対して、制振付与剤(B)の割合が10~150質量部であり、修飾セルロースナノ繊維(C)の割合が1~40質量部である請求項1~のいずれかに記載の加硫ゴム組成物。
【請求項9】
補強剤(D)および/または軟化剤(E)をさらに含む請求項1~のいずれかに記載の加硫ゴム組成物。
【請求項10】
ゴム成分(A)と、制振付与剤(B)と、修飾セルロースナノ繊維(C)および/またはその原料とを混練する混練工程を含む請求項1~のいずれかに記載の加硫ゴム組成物の製造方法。
【請求項11】
修飾セルロースナノ繊維(C)の原料が、フルオレン化合物(C1)および未修飾セルロースナノ繊維である請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
混練工程において、ゴム成分(A)と制振付与剤(B)と軟化剤(E)との混練物に、修飾セルロースナノ繊維(C)および/またはその原料を添加して混練する請求項10または11記載の製造方法。
【請求項13】
混練工程で得られた混練組成物を加硫して加硫ゴム組成物を得る加硫工程をさらに含む請求項1012のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9,9-ビスアリールフルオレン骨格で修飾されたセルロースナノ繊維で強化された制振性ゴム組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物由来の繊維であるセルロースは、環境負荷が小さく、かつ持続型資源であるとともに、高弾性率、高強度、低線膨張係数などの優れた特性を有する。そのため、幅広い用途、例えば、紙、フィルムやシートなどの材料、樹脂の複合材料(例えば、樹脂の補強剤)などとして利用されている。また、ゴム組成物においても、ゴムの機械的特性を向上させるために、補強剤としてセルロースが添加されている。
【0003】
特開2009-84564号公報(特許文献1)には、天然ゴムおよび変性天然ゴムならびに合成ゴムの少なくともいずれかからなるゴム成分と、化学変性ミクロフィブリルセルロースとを含有する加硫ゴム組成物が開示されている。前記化学変性ミクロフィブリルセルロースにおける化学変性としては、アセチル化、アルキルエステル化、複合エステル化、β-ケトエステル化、アルキルカルバメート化、アリールカルバメート化からなる群から選択された少なくとも1種の化学変性が記載されている。
【0004】
特開2014-74164号公報(特許文献2)には、1g当たりの表面積が50m以上の変性セルロース繊維からなるゴム改質材分散液を用いて製造されたゴム組成物が開示されている。前記変性セルロース繊維としては、カルボキシ基、アシル基、イソシアネート基、アルキル基、脂環式化合物由来の基、リン酸由来の基、カルボン酸由来の基、アルキルエステル基、アルキルカルバメート基、アリールカルバメート基、アミノ基、クロル基などの1種または2種以上で変性されたセルロース繊維が記載されている。
【0005】
特許文献1および2では、変性セルロースを用いることにより、ゴムとセルロースとの相溶性を向上させているが十分ではなく、強度や硬度などの機械的特性を向上できない。さらに、ゴム組成物には、建築物や輸送機などの用途によっては、機械的特性に加えて制振性を要求される用途もあるが、特許文献1および2のゴム組成物では、制振性は考慮されていない。
【0006】
特開2017-110094号公報(特許文献3)には、軽量で優れた振動吸収特性を実現した材料として、共役ジエン単量体単位を含有するゴム成分(A)100質量部に対して、特定の4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(B)10~100質量部を含有するゴム組成物が開示されている。
【0007】
しかし、特許文献3のゴム組成物では、機械的特性が十分でない。特に、制振性を付与するための制振付与剤には、振動を吸収するための粘弾特性が要求されるため、強度や硬度などの機械的特性を低下させる傾向がある。そのため、ゴム組成物において、制振性と機械的特性とはトレードオフの関係にあり、両立が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-84564号公報
【文献】特開2014-74164号公報
【文献】特開2017-110094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、制振性と、強度や硬度などの機械的特性とを両立できる制振性ゴム組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9-ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物が結合した修飾セルロースナノ繊維と制振付与剤との組み合わせをゴム成分に配合することにより、加硫ゴム組成物において制振性と強度や硬度などの機械的特性とを両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のゴム組成物は、ゴム成分(A)と、制振付与剤(B)と、9,9位にアリール基を有するフルオレン化合物(C1)が結合した修飾セルロースナノ繊維(C)とを含む。前記フルオレン化合物(C1)は、下記式(1)で表される化合物であってもよい。
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、環Zはアレーン環、RおよびRは置換基、Xはヘテロ原子含有官能基、kは0~4の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数を示す)。
【0014】
前記式(1)において、Xは、基-[(OA)m1-Y](式中、Aはアルキレン基、Yはヒドロキシル基またはグリシジルオキシ基、m1は0以上の整数を示す)であってもよい。前記フルオレン化合物(C1)の割合は、修飾セルロースナノ繊維(C)の総量に対して0.01~33質量%程度であってもよい。前記修飾セルロースナノ繊維(C)の平均繊維径は3~500nm程度であってもよい。前記制振付与剤(B)は、軟質樹脂または熱可塑性エラストマー(特にスチレン系熱可塑性エラストマーなど)であってもよい。前記ゴム成分(A)は、ジエン系ゴムおよび/またはオレフィン系ゴムを含んでいてもよい。前記ゴム成分(A)100質量部に対して、制振付与剤(B)の割合は10~150質量部程度であってもよく、前記修飾セルロースナノ繊維(C)の割合は1~40質量部程度であってもよい。前記ゴム組成物は、補強剤(D)および/または軟化剤(E)をさらに含んでいてもよい。本発明のゴム組成物は、加硫した加硫ゴム組成物であってもよい。
【0015】
本発明には、ゴム成分(A)と、制振付与剤(B)と、9,9位にアリール基を有するフルオレン化合物(C1)が結合した修飾セルロースナノ繊維(C)および/またはその原料とを混練する混練工程を含む前記ゴム組成物の製造方法も含まれる。前記原料は、フルオレン化合物(C1)および未修飾セルロースナノ繊維であってもよい。前記混練工程において、ゴム成分(A)と制振付与剤(B)と軟化剤(E)との混練物に、修飾セルロースナノ繊維(C)および/またはその原料を添加して混練してもよい。本発明の製造方法は、得られた混練組成物を加硫して加硫ゴム組成物を得る加硫工程をさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、制振付与剤と9,9-ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物が結合した修飾セルロースナノ繊維との組み合わせをゴム成分に配合するため、前記修飾セルロースナノ繊維をゴム中に均一に分散でき、加硫ゴム組成物の機械的特性を向上できることに加えて、修飾セルロースナノ繊維は制振付与剤による制振性の向上効果を阻害することなく、制振性と、強度や硬度などの機械的特性とを両立できる。加硫ゴム組成物の強度や硬度などの機械的特性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例で使用したセルロースナノ繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分(A)と、制振付与剤(B)と、9,9位にアリール基を有するフルオレン化合物(C1)が結合した修飾セルロースナノ繊維(C)とを含む。
【0019】
[ゴム成分(A)]
ゴム成分(A)としては、特に限定されず、慣用のゴム成分を利用できる。慣用のゴム成分としては、例えば、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム(ACM、ANM)、ブチルゴム(IIR)、エピクロロヒドリンゴム(CO)、多硫化ゴム(OT、EOT)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FFKM、FKM)、含イオウゴムなどが挙げられる。これらのゴム成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのゴム成分のうち、修飾セルロースナノ繊維(C)による向上効果が大きい点から、ジエン系ゴムおよび/またはオレフィン系ゴムが好ましい。
【0020】
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム、ポリブタジエン[例えば、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエン(VBR)など]、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)などが挙げられる。これらのジエン系ゴムは、水添ゴム(例えば、水素化BR、水素化NBR、水素化SBRなど)であってもよい。これらのジエン系ゴムは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0021】
オレフィン系ゴムとしては、例えば、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-ブテンゴム、エチレン-1-ブテン-ジエンゴム、プロピレン-1-ブテン-ジエンゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレン-酢酸ビニルゴム、マレイン酸変性エチレン-プロピレンゴム(M-EPM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M-CM)などが挙げられる。オレフィン系ゴムに含まれるジエン単位(非共役ジエン単位)としては、例えば、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン由来の単位などが挙げられる。これらのオレフィン系ゴムは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
なお、共重合ゴムは、ランダムまたはブロック共重合体であってもよく、ブロック共重合体には、AB型、ABA型、テーパー型、ラジアルテレブロック型の構造を有する共重合体などが含まれる。
【0023】
これらのうち、SBR、NBRなどのジエン系ゴム、EPDMなどのオレフィン系ゴムが好ましい。
【0024】
[制振付与剤(B)]
制振付与剤(B)としては、ゴム成分に制振性を付与できる慣用の制振付与剤を利用でき、用途に応じて目的の制振性を付与するための制振付与剤を選択できる。慣用の制振付与剤としては、使用される環境において、振動を吸収するための粘弾性を有する材料などを使用できる。そのような粘弾性を有する材料としては、アスファルトなどの瀝青質物質、軟質樹脂または熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらのうち、目的の制振性を調整し易い点や、ゴム成分(A)との親和性に優れる点などから、軟質樹脂または熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0025】
軟質樹脂としては、例えば、ポリエチレンなどのポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体などのエチレン系共重合体;軟質塩化ビニル系樹脂;天然ロジン、変性ロジンなどのロジン系樹脂;フェノール樹脂;テルペン樹脂;クマロン樹脂;石油樹脂などが挙げられる。これらの軟質樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0027】
軟質樹脂または熱可塑性エラストマーのガラス転移温度は、用途に応じて適宜-50℃~100℃程度の範囲から選択でき、例えば-20℃~80℃、好ましくは0~50℃(例えば5~40℃)、さらに好ましくは10~30℃(特に15~25℃)程度である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いて慣用の方法で測定できる。
【0028】
軟質樹脂または熱可塑性エラストマーの硬度は、JIS K6253に準拠したデュロメータ硬さ試験(タイプA)において、95°以下であり、例えば50~90°、好ましくは60~85°、さらに好ましくは65~80°(特に70~78°)程度である。硬度が大きすぎると、制振付与性が低下する虞がある。
【0029】
軟質樹脂または熱可塑性エラストマーのメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210に準じた方法(190℃、2.16kgf)で、0.5g/10分以上であってもよく、例えば0.5~20g/10分、好ましくは1~10g/10分、さらに好ましくは1.5~5g/10分(特に2~3g/10分)程度である。MFRが小さすぎると、制振付与性が低下する虞がある。
【0030】
これらのうち、制振付与効果が大きく、取扱性などに優れる点から、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、硬質部分がスチレン系単位で構成され、軟質部分がジエン系単位で構成されるエラストマー、例えば、スチレン-ジエン系ブロック共重合体またはその水添物などが含まれる。スチレン-ジエン系ブロック共重合体またはその水添物としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水添スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水添スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)などが挙げられる。ブロック共重合体において、末端ブロックは、スチレンブロックまたはジエンブロックのいずれで構成してもよい。これらのうち、SEBSなどの水添スチレン-ブタジエン系ブロック共重合体が好ましい。
【0031】
制振付与剤(B)の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して、5~200質量部程度の範囲から選択でき、例えば10~150質量部、好ましくは20~100質量部、さらに好ましくは30~80質量部(特に50~70質量部)程度である。制振付与剤の割合が少なすぎると、制振性が低下する虞があり、逆に多すぎると、加硫ゴム組成物の機械的特性が低下する虞がある。
【0032】
[修飾セルロースナノ繊維(C)]
(フルオレン化合物(C1))
9,9位にアリール基を有するフルオレン化合物(C1)は、修飾セルロースナノ繊維(C)を構成する官能基として、セルロースナノ繊維をゴム成分中に均一に分散させるための相容化剤または分散剤として機能し、ゴム成分(A)中にセルロースナノ繊維を均一に分散させることにより、加硫ゴム組成物の機械的特性を大きく向上できる。
【0033】
このようなフルオレン化合物は、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物であればよく、例えば、前記式(1)で表されるフルオレン化合物であってもよい。
【0034】
前記式(1)において、環Zで表されるアレーン環として、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられ、多環式アレーン環には、縮合多環式アレーン環(縮合多環式炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合芳香族炭化水素環)などが含まれる。
【0035】
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン環(例えば、ナフタレン環などの縮合二環式C10-16アレーン環)、縮合三環式アレーン(例えば、アントラセン環、フェナントレン環など)などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられ、特に、ナフタレン環が好ましい。
【0036】
環集合アレーン環としては、ビアレーン環[例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環(例えば、1-フェニルナフタレン環、2-フェニルナフタレン環など)などのビC6-12アレーン環など]、テルアレーン環(例えば、テルフェニレン環などのテルC6-12アレーン環など)が例示できる。好ましい環集合アレーン環としては、ビC6-10アレーン環、特にビフェニル環などが挙げられる。
【0037】
フルオレンの9位に置換する2つの環Zは、異なっていてもよく、同一であってもよいが、通常、同一の環である場合が多い。環Zのうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環(特にベンゼン環)などが好ましい。
【0038】
なお、フルオレンの9位に置換する環Zの置換位置は、特に限定されない。例えば、環Zがナフタレン環の場合、フルオレンの9位に置換する環Zに対応する基は、1-ナフチル基、2-ナフチル基などであってもよい。
【0039】
で表されるヘテロ原子含有官能基としては、ヘテロ原子として、酸素、イオウおよび窒素原子から選択された少なくとも一種を有する官能基などが例示できる。このような官能基に含まれるヘテロ原子の数は、特に制限されないが、通常、1~3個、好ましくは1または2個であってもよい。
【0040】
前記官能基としては、例えば、基-[(OA)m1-Y](式中、Yはヒドロキシル基、グリシジルオキシ基、アミノ基、N置換アミノ基またはメルカプト基であり、Aはアルキレン基、m1は0以上の整数である)、基-(CH)m2-COOR(式中、Rは水素原子またはアルキル基であり、m2は0以上の整数である)などが挙げられる。
【0041】
基-[(OA)m1-Y]において、YのN置換アミノ基としては、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ基などのN-モノアルキルアミノ基(N-モノC1-4アルキルアミノ基など)、ヒドロキシエチルアミノ基などのN-モノヒドロキシアルキルアミノ基(N-モノヒドロキシC1-4アルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0042】
アルキレン基Aには、直鎖状または分岐鎖状アルキレン基が含まれ、直鎖状アルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのC2-6アルキレン基(好ましくは直鎖状C2-4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状C2-3アルキレン基、特にエチレン基)が例示でき、分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、プロピレン基、1,2-ブタンジイル基、1,3-ブタンジイル基などの分岐鎖状C3-6アルキレン基(好ましくは分岐鎖状C3-4アルキレン基、特にプロピレン基)などが挙げられる。
【0043】
オキシアルキレン基(OA)の繰り返し数(平均付加モル数)を示すm1は、0または1以上の整数(例えば0~15、好ましくは0~10程度)の範囲から選択でき、例えば0~8(例えば1~8)、好ましくは0~5(例えば1~5)、さらに好ましくは0~4(例えば1~4)、特に0~3(例えば1~3)程度であってもよく、通常0~2(例えば0または1)であってもよい。なお、m1が2以上である場合、アルキレン基Aの種類は、同一または異なっていてもよい。また、アルキレン基Aの種類は、同一のまたは異なる環Zにおいて、同一または異なっていてもよい。
【0044】
基-(CH)m2-COORにおいて、Rで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基が例示できる。好ましいアルキル基は、C1-4アルキル基、特にC1-2アルキル基である。メチレン基の繰り返し数(平均付加モル数)を示すm2は0または1以上の整数(例えば1~6、好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2程度)であってもよい。m2は、通常、0または1~2であってもよい。
【0045】
これらのうち、基Xは、基-[(OA)m1-Y](式中、Aはアルキレン基、Yはヒドロキシル基またはグリシジルオキシ基、m1は0以上の整数である)が好ましく、Yがグリシジルオキシ基である基-[(OA)m1-Y][式中、Aはエチレン基などのC2-6アルキレン基(例えばC2-4アルキレン基、特にC2-3アルキレン基)、Yはグリシジルオキシ基、m1は0~5の整数(例えば0または1)である]が特に好ましい。
【0046】
前記式(1)において、環Zに置換した基Xの個数を示すnは、1以上であり、好ましくは1~3、さらに好ましくは1または2(特に1)であってもよい。なお、置換数nは、それぞれの環Zにおいて、同一または異なっていてもよい。
【0047】
基Xは、環Zの適当な位置に置換でき、例えば、環Zがベンゼン環である場合には、フェニル基の2,3,4位(特に、3位および/または4位)に置換している場合が多く、環Zがナフタレン環である場合には、ナフチル基の5~8位のいずれかに置換している場合が多く、例えば、フルオレンの9位に対してナフタレン環の1位または2位が置換し(1-ナフチルまたは2-ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5位、2,6位などの関係(特にnが1である場合、2,6位の関係)で基Xが置換している場合が多い。また、nが2以上である場合、置換位置は、特に限定されない。また、環集合アレーン環Zにおいて、基Xの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9位に結合したアレーン環および/またはこのアレーン環に隣接するアレーン環に置換していてもよい。例えば、ビフェニル環Zの3位または4位がフルオレンの9位に結合していてもよく、ビフェニル環Zの3位がフルオレンの9位に結合しているとき、基Xの置換位置は、2,4,5,6,2’,3’,4’位のいずれであってもよく、好ましくは6位に置換していてもよい。
【0048】
前記式(1)において、置換基Rとしては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5-10シクロアルキル基など)、アリール基[フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル(トリル)基、ジメチルフェニル(キシリル)基など)、ビフェニル基、ナフチル基などのC6-12アリール基]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロへキシルオキシ基などのC5-10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基など)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基などのC1-10アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロへキシルチオ基などのC5-10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(例えば、チオフェノキシ基などのC6-10アリールチオ基など)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルチオ基など)、アシル基(例えば、アセチル基などのC1-6アシル基など)、ニトロ基、シアノ基などが例示できる。
【0049】
これらの置換基Rのうち、代表的には、ハロゲン原子、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基)、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。好ましい置換基Rとしては、アルコキシ基(メトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルコキシ基など)、特に、アルキル基(特に、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基)が好ましい。なお、置換基Rがアリール基であるとき、置換基Rは、環Zとともに、前記環集合アレーン環を形成してもよい。置換基Rの種類は、同一のまたは異なる環Zにおいて、同一または異なっていてもよい。
【0050】
置換基Rの係数pは、環Zの種類などに応じて適宜選択でき、例えば0~8程度の整数であってもよく、0~4の整数、好ましくは0~3(例えば0~2)の整数、さらに好ましくは0または1であってもよい。特に、pが1である場合、環Zがベンゼン環、ナフタレン環またはビフェニル環、置換基Rがメチル基であってもよい。
【0051】
置換基Rとしては、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ-カルボニル基など)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などのC1-6アルキル基)、アリール基(フェニル基などのC6-10アリール基)などが挙げられる。
【0052】
これらの置換基Rのうち、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基(特に、メチル基などのC1-3アルキル基)、カルボキシル基またはC1-2アルコキシ-カルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子が好ましい。置換数kは0~4(例えば0~3)の整数、好ましくは0~2の整数(例えば0または1)、特に0である。なお、置換数kは、互いに同一または異なっていてもよく、kが2以上である場合、置換基Rの種類は互いに同一または異なっていてもよく、フルオレン環の2つのベンゼン環に置換する置換基Rの種類は同一または異なっていてもよい。また、置換基Rの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2位ないし7位(2位、3位および/または7位など)であってもよい。
【0053】
これらのうち、好ましいフルオレン化合物としては、基Xが、基-[(OA)m1-Y](式中、Yがヒドロキシル基を示す)である場合、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC6-12アリール)フルオレン;9,9-ビス(3,4-ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ジまたはトリヒドロキシC6-12アリール)フルオレン;9,9-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(モノまたはジC1-4アルキル-ヒドロキシC6-12アリール)フルオレン;9,9-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-フェニル-3-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C6-12アリール-ヒドロキシC6-12アリール)フルオレン;9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2-4アルコキシ-C6-12アリール)フルオレン;9,9-ビス[3-メチル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(C1-4アルキル-ヒドロキシ(ポリ)C2-4アルコキシ-C6-12アリール)フルオレン;9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-フェニル-3-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(C6-12アリール-ヒドロキシ(ポリ)C2-4アルコキシ-C6-12アリール)フルオレンなどが挙げられる。
【0054】
基Xが、基-[(OA)m1-Y](式中、Yがグリシジルオキシ基を示す)である場合の好ましいフルオレン化合物としては、9,9-ビス(グリシジルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(3-グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(5-グリシジルオキシ-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-グリシジルオキシ-2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(グリシジルオキシC6-10アリール)フルオレン;9,9-ビス(グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(4-(2-グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-グリシジルオキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(5-(2-グリシジルオキシエトキシ)-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-(2-グリシジルオキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(グリシジルオキシ(ポリ)C2-4アルコキシC6-10アリール)フルオレン;9,9-ビス(アルキル-グリシジルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(3-メチル-4-グリシジルオキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(モノまたはジC1-4アルキル-グリシジルオキシC6-10アリール)フルオレン;9,9-ビス(アルキル-グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(3-メチル-4-(2-グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(モノまたはジC1-4アルキル-グリシジルオキシ(ポリ)C2-4アルコキシC6-10アリール)フルオレン;9,9-ビス(アリール-グリシジルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(4-フェニル-3-グリシジルオキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C6-10アリール-グリシジルオキシC6-10アリール)フルオレン;9,9-ビス(アリール-グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(4-フェニル-3-(2-グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C6-10アリール-グリシジルオキシ(ポリ)C2-4アルコキシC6-10アリール)フルオレン;9,9-ビス(ジ(グリシジルオキシ)アリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(3,4-ジ(グリシジルオキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ジ(グリシジルオキシ)C6-10アリール)フルオレン;9,9-ビス(ジ(グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシ)アリール)フルオレン、例えば、9,9-ビス(3,4-ジ(2-グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ジ(グリシジルオキシ(ポリ)C2-4アルコキシ)C6-10アリール)フルオレンなどが例示できる。
【0055】
これらのフルオレン化合物(C1)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。なお、「(ポリ)アルコキシ」は、アルコキシ基およびポリアルコキシ基の双方を含む意味に用いる。
【0056】
(セルロースナノ繊維)
修飾セルロースナノ繊維(C)を構成するセルロースナノ繊維(またはセルロースナノファイバー)は、セルロース(セルロース原料)をナノオーダーまで微細化(またはミクロフィブリル化)したセルロース繊維や、微生物由来のナノメータサイズのセルロース繊維である。前記セルロースナノ繊維としては、リグニン、ヘミセルロースなどの非セルロース成分の含有量が少ないパルプ、例えば、植物由来のセルロース原料{例えば、木材[例えば、針葉樹(マツ、モミ、トウヒ、ツガ、スギなど)、広葉樹(ブナ、カバ、ポプラ、カエデなど)など]、草本類[麻類(麻、亜麻、マニラ麻、ラミーなど)、ワラ、バガス、ミツマタなど]、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、竹、サトウキビなど}、動物由来のセルロース原料(ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース原料(ナタデココに含まれるセルロースなど)などから製造されたパルプなどが例示できる。これらのセルロースナノ繊維は単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのセルロースナノ繊維のうち、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなど)、種子毛繊維パルプ(例えば、コットンリンターパルプ)由来のセルロースナノ繊維などが好ましい。なお、パルプは、パルプ材を機械的に処理した機械パルプであってもよいが、非セルロース成分の含有量が少ないことからパルプ材を化学的に処理した化学パルプが好ましい。
【0057】
セルロースナノ繊維(または原料セルロースナノ繊維)の平均繊維径および平均繊維長は、修飾セルロースナノ繊維の平均繊維径および平均繊維長が、後述する範囲となるように選択できる。セルロースナノ繊維の平均繊維径、平均繊維長および平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は、後述する修飾セルロースナノ繊維の範囲と同一であってもよく、通常、略同一である。
【0058】
セルロースナノ繊維は、結晶性の高いセルロース(またはセルロース繊維)であってもよく、セルロースの結晶化度は、例えば40~100%(例えば50~100%)、好ましくは60~100%、さらに好ましくは70~100%(特に75~100%)程度であってもよく、通常、結晶化度が60%以上(例えば60~99%)であってもよい。また、セルロースの結晶構造としては、例えば、I型、II型、III型、IV型などが例示でき、線膨張特性や弾性率などに優れたI型結晶構造が好ましい。
【0059】
(修飾セルロースナノ繊維(C)およびその製造方法)
修飾セルロースナノ繊維(または変性セルロースナノ繊維)(C)は、前記セルロースナノ繊維と前記フルオレン化合物(C1)とが結合したセルロース誘導体である。
【0060】
修飾セルロースナノ繊維(C)の化学修飾(または結合)の形態は、特に限定されず、例えば、フルオレン化合物(C1)が前記式(1)で表されるフルオレン化合物の場合、フルオレン化合物(C1)の反応性基(ヘテロ原子含有官能基)の種類に応じて適宜選択できる。具体的には、前記式(1)において、Yがヒドロキシル基である場合、セルロースナノ繊維のヒドロキシル基および/またはカルボキシル基と前記式(1)で表されるフルオレン化合物のヒドロキシル基とのエーテル結合および/またはエステル結合であってもよく、Yがグリシジルオキシ基である場合、セルロースナノ繊維のヒドロキシル基および/またはカルボキシル基と前記式(1)で表されるフルオレン化合物のグリシジル基とのエーテル結合および/またはエステル結合であってもよい。なお、セルロースナノ繊維のカルボキシル基は、パルプなどの製造過程で形成される場合がある。
【0061】
修飾セルロースナノ繊維(C)は、所定の触媒の存在下、原料セルロースナノ繊維と前記フルオレン化合物(C1)とを反応させて製造してもよく、ゴム成分(A)中において、原料セルロースナノ繊維と前記フルオレン化合物(C1)とを混練する過程で反応させて製造してもよい。
【0062】
原料セルロースナノ繊維の割合は、フルオレン化合物(C1)の反応性基に応じて選択できるが、例えば、フルオレン化合物(C1)100質量部に対して、0.1~500質量部(例えば1~300質量部)程度の範囲から選択でき、例えば5~200質量部(特に10~150質量部)程度であってもよい。
【0063】
触媒を使用する場合、触媒もフルオレン化合物の反応性基に応じて選択でき、反応性基がヒドロキシル基の場合、酸触媒を利用してもよい。酸触媒としては、ブレンステッド酸、例えば、硫酸、塩酸、リン酸などの無機酸、p-トルエンスルホン酸などの有機酸、固体酸[例えば、ヘテロポリ酸(タングステン系ヘテロポリ酸、モリブデン系ヘテロポリ酸など)、陽イオン交換樹脂(スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂、スルホン酸基を有する含フッ素陽イオン交換樹脂、カルボン酸基を有する弱酸性陽イオン交換樹脂など)]などが挙げられる。これらの酸触媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0064】
反応性基がグリシジル基の場合、塩基触媒を利用してもよい。塩基触媒は、無機塩基および有機塩基のいずれであってもよい。無機塩基としては、例えば、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ金属炭酸塩などが例示できる。有機塩基としては、三級アミン類、例えば、トリアルキルアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミンなど)、アルカノールアミン(トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなど)、複素環式アミン(N-メチルモルホリンなど)、ヘキサメチレンテトラミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)などが挙げられる。これらの塩基触媒も単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0065】
触媒の使用量は、触媒の種類に応じて選択できるが、原料セルロースナノ繊維100質量部に対して、例えば0.01~100質量部程度の範囲から適当に選択でき、通常0.01~20質量部(例えば0.1~18質量部)、好ましくは0.5~18質量部(例えば1~17質量部)、さらに好ましくは3~15質量部(特に5~15質量部)程度であってもよい。
【0066】
触媒を用いる場合、反応は有機溶媒の非存在下で行ってもよいが、通常、有機溶媒の存在下で行われる。この有機溶媒は原料セルロースナノ繊維に含浸していてもよいが、原料セルロースナノ繊維を有機溶媒に分散させた分散系で反応させる場合が多い。原料セルロースナノ繊維を有機溶媒に分散させた分散系で、原料セルロースナノ繊維と前記フルオレン化合物(C1)とを反応させると、均一に反応させることができる。このような方法で得られた修飾セルロースナノ繊維(C)は、取り扱い性および分散性が高い。
【0067】
原料セルロースナノ繊維(特に、ミクロフィブリル化した繊維、平均繊維径がナノメーターサイズのナノ繊維)を乾燥すると、繊維が絡み合って再分散できなくなる場合がある。そのため、通常、原料セルロースナノ繊維は水含浸または水分散液として市販されている場合が多い。このような水分散液では、水分散液の水を有機溶媒に置換する慣用の溶媒置換法、例えば、原料セルロースナノ繊維の水分散液に水溶性溶媒を添加混合し、原料セルロースナノ繊維を分離(または溶媒を除去)した後、さらに有機溶媒を添加混合する操作を繰り返す方法などにより、原料セルロースナノ繊維が有機溶媒に分散した分散液を調製できる。なお、沸点が水よりも高い水溶性有機溶媒を用いる場合、水を蒸留(共沸蒸留を含む)により除去することにより溶媒置換できる。
【0068】
水溶性有機溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのC1-4アルカノールなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、ケトン類(アセトンなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのC2-4アルカンジオール)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ)、カルビトール類(エチルカルビトールなど)、カーボネート類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせてもよい。
【0069】
なお、水溶性有機溶媒を用いて溶媒置換したセルロース含有分散液において、水溶性有機溶媒は、前記と同様にして、非水溶性有機溶媒に溶媒置換することもできる。非水溶性有機溶媒としては、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、ニトリル類(ベンゾニトリルなど)、セロソルブアセテート類、カルビトールアセテート類、炭化水素類(ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、トルエンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエチレンなど)などが例示できる。これらの非水溶性有機溶媒も単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0070】
これらの有機溶媒のうち、非プロトン性溶媒、特に非プロトン性極性溶媒(例えば、エーテル類、ケトン類、アミド類、スルホキシド類など)が好ましい。
【0071】
有機溶媒(例えば、非プロトン性極性溶媒)の溶解度パラメーター(SP値、(cal/cm))は8~15(例えば8.5~15)程度であってもよく、通常9~14.5(例えば10~14.5)程度であってもよい。
【0072】
分散液中の原料セルロースナノ繊維の固形分濃度は、例えば0.01~30質量%(例えば0.1~20質量%)、好ましくは1~15質量%、さらに好ましくは3~12質量%(例えば5~10質量%)程度であってもよい。固形分濃度が低すぎると、反応効率が低下する虞がある。
【0073】
触媒を用いる場合、反応は、減圧下で行ってもよいが、通常、加圧下または常圧下で行う場合が多い。反応温度は、溶媒の沸点などにより適宜選択でき、例えば50~200℃(例えば70~170℃)、好ましくは80~150℃(例えば100~130℃)程度であってもよい。なお、反応は溶媒の還流下で行ってもよい。また、反応時間は、特に限定されず、例えば10分~48時間(例えば30分~24時間)程度である。さらに、反応は、空気中または不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガスなどの希ガスなど)雰囲気下、攪拌しながら行うことができる。
【0074】
なお、反応は、反応系を撹拌しながら行ってもよく、原料セルロース繊維として、ナノメータサイズではない繊維を使用し、セルロースに機械的剪断力を作用させながら行い、セルロースを微細化した修飾セルロースナノ繊維を得てもよい。さらに、反応終了後に解繊して修飾セルロース繊維を微細化してもよい。
【0075】
触媒を用いた反応により生成した修飾セルロースナノ繊維(C)は、慣用の方法(例えば、遠心分離、濾過、濃縮、抽出など)により分離精製してもよい。例えば、少なくとも前記フルオレン化合物(C1)を溶解可能な溶媒を反応混合物に添加し、前記遠心分離、濾過、抽出などの分離法(慣用の方法)で未反応フルオレン化合物を除去し、分離精製してもよい。なお、前記分離操作は複数回(例えば2~5回程度)行うことができる。さらに、分離精製した修飾セルロースを加熱下または減圧下あるいは常圧下で乾燥することにより、粉末状の形態を有する修飾セルロース繊維を得ることができる。
【0076】
なお、未反応フルオレン化合物を前記分離方法などにより繰り返し除去して精製した修飾セルロースを、ラマン分析などの方法により分析すると、セルロースに由来するピークとフルオレン化合物に由来するピークとが存在し、セルロースにフルオレン化合物が結合していることが確認できる。
【0077】
一方、未加硫ゴム成分中での混練によって修飾セルロースナノ繊維を製造する場合は、後述するように、ゴム組成物の製造過程で修飾セルロースナノ繊維が得られる。
【0078】
(修飾セルロースナノ繊維(C)の特性)
触媒を用いて得られた修飾セルロースナノ繊維(C)は、通常、粉末状の形態を有しており、取り扱い性に優れる。また、前記フルオレン化合物(C1)の修飾割合(結合量)が、比較的少なくても、修飾セルロースナノ繊維(C)は粉末状の形態を有していてもよい。
【0079】
セルロースナノ繊維に結合したフルオレン化合物(C1)の割合(修飾率)は、修飾セルロースナノ繊維(C)の総量に対して0.01~33質量%(例えば1~25質量%)程度の範囲から選択できる。特に、フルオレン化合物(C1)の基Xが基-[(OA)m1-Y](式中、Yがヒドロキシル基を示す)である場合、前記修飾率は、修飾セルロースナノ繊維(C)の総量に対して0.01~30質量%程度の範囲から選択でき、例えば0.1~30質量%、好ましくは0.5~25質量%(例えば1~25質量%)、さらに好ましくは2~20質量%(特に3~20質量%)程度であってもよい。また、フルオレン化合物(C1)の基Xが基-[(OA)m1-Y](式中、Yがグリシジルオキシ基を示す)である場合、前記修飾率は0.01~33質量%程度(例えば0.1~30質量%)、好ましくは1~25質量%(例えば2~25質量%)、さらに好ましくは3~20質量%(特に5~20質量%)程度であってもよい。
【0080】
修飾率が大きすぎると、水性溶媒に対する分散性、低線熱膨張係数などの特性が低下する虞があり、逆に小さすぎると、粉体状の形態を形成できなくなり、取り扱い性が低下し易くなったり、ゴム組成物中でのゴム成分との分散性(または混和性)が低下する虞がある。修飾率は、後述する実施例に記載の方法などにより測定できる。
【0081】
修飾セルロースナノ繊維(C)の平均繊維径は、例えば1~1000nm(例えば2~800nm)、好ましくは3~500nm(例えば5~300nm)、さらに好ましくは10~200nm(特に15~100nm)程度であってもよい。平均繊維径が大きすぎると、ゴム組成物の強度などの特性が低下する虞がある。なお、セルロースナノ繊維の最大繊維径は、例えば3~1000nm(例えば4~900nm)、好ましくは5~700nm(例えば10~500nm)、さらに好ましくは15~400nm(特に20~300nm)程度であってもよい。なお、セルロースナノ繊維は、繊維径がマイクロメータサイズのセルロース繊維を実質的に含んでいない場合が多い。
【0082】
修飾セルロースナノ繊維(C)の平均繊維長は、例えば0.01~500μm(例えば0.1~400μm)程度の範囲から選択でき、通常1μm以上(例えば5~300μm)、好ましくは10μm以上(例えば20~200μm)、さらに好ましくは30μm以上(特に50~150μm)であってもよい。平均繊維長が短すぎると、ゴム組成物の機械的特性が低下する虞があり、逆に長すぎると、ゴム組成物中での分散性が低下する虞がある。
【0083】
修飾セルロースナノ繊維(C)の平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は、例えば5以上(例えば5~10000程度)、好ましくは10以上(例えば10~5000程度)、さらに好ましくは20以上(例えば20~3000程度)、特に50以上(例えば50~2000程度)であってもよく、100以上(例えば100~1000程度)、さらには200以上(例えば200~800程度)であってもよい。また、アスペクト比が小さすぎると、ゴム成分に対する補強効果が低下し、アスペクト比が大きすぎると、均一な分散が困難となり、繊維が分解(または損傷)し易くなる虞がある。
【0084】
なお、本明細書および特許請求の範囲では、修飾セルロースナノ繊維(C)(または原料セルロースナノ繊維)の平均繊維径、平均繊維長およびアスペクト比は、走査型電子顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出してもよい。
【0085】
修飾セルロースナノ繊維(C)は、前記フルオレン化合物(C1)の修飾により疎水性が向上するためか、水分含有量が少ない。すなわち、水分含有量は、温度25℃、湿度60%の条件下、1昼夜放置したとき、0~7質量%(例えば0~5質量%)、好ましくは0.1~5質量%、さらに好ましくは0.3~3質量%程度であってもよい。なお、水分含有量は、近赤外線分析計などを用いて測定できる。
【0086】
修飾セルロースナノ繊維(C)の嵩密度(見掛密度)は、温度25℃、湿度60%の条件下において、JIS K7365-1999に準拠して測定したとき、例えば0.01~0.7g/ml、好ましくは0.05~0.5g/ml、さらに好ましくは0.1~0.3g/ml程度であってもよい。なお、嵩密度Pは、所定重量Wの修飾セルロースナノ繊維をメスシリンダーに入れて体積Vを測定し、式P=W/Vで算出できる。
【0087】
修飾セルロースナノ繊維(C)は、流動性が高く、安息角が、温度25℃、湿度60%の条件下において、JIS R9301-2-2に準拠して測定したとき、例えば20~45°、好ましくは25~40°、さらに好ましくは30~35°程度であってもよい。流動性が大きすぎると、取り扱い性が低下し、逆に小さすぎると、分散性が低下するおそれがある。
【0088】
修飾セルロースナノ繊維(C)は、粘稠な液体を形成することなく、ナノファイバーの形態を維持している。そのため、比較的分子量(または重合度)が大きく、粘度平均重合度は、例えば100~10000、好ましくは200~5000、より好ましくは300~2000程度であってもよい。
【0089】
粘度平均重合度は、TAPPI T230に記載の粘度法により測定できる。すなわち、修飾セルロースナノ繊維(または原料セルロースナノ繊維)0.04gを精秤し、水10mLと1M銅エチレンジアミン水溶液10mLとを加え、5分間程度攪拌して修飾セルロースを溶解する。得られた溶液をウベローデ型粘度管に入れ、25℃下で流下速度を測定する。水10mLと1M銅エチレンジアミン水溶液10mLとの混合液をブランクとして測定する。これらの測定値に基づいて算出した固有粘度[η]を用い、木質科学実験マニュアル(日本木材学会編、文永堂出版)に記載の下記式に従って粘度平均重合度を算出できる。
【0090】
粘度平均重合度=175×[η]
【0091】
また、本発明のゴム組成物において、修飾セルロースナノ繊維(C)の特性(例えば、低線熱膨張特性、強度、耐熱性など)を有効に発現させる場合、結晶性の高い修飾セルロースナノ繊維が好ましい。前記のように、修飾セルロースはセルロースナノ繊維の結晶性を維持できるため、修飾セルロースナノ繊維(C)の結晶化度は前記セルロースナノ繊維の数値をそのまま参照できる。例えば、修飾セルロースの結晶化度は、40~100%(例えば50~100%)、好ましくは60~100%(例えば65~100%)、さらに好ましくは70~100%(特に75~100%)程度であってもよく、通常、結晶化度が60%以上(例えば75~99%程度)であってもよい。結晶化度が小さすぎると、線熱膨張特性や強度などの特性を低下させるおそれがある。セルロースの結晶構造としては、例えば、I型、II型、III型、IV型などが例示でき、低線膨張特性および弾性率などが高いI型結晶構造が好ましい。なお、結晶化度は、粉末X線回折装置((株)リガク製「Ultima IV」)などを用いて測定できる。
【0092】
修飾セルロースナノ繊維(C)の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して0.1~50質量部程度の範囲から選択でき、例えば1~40質量部、好ましくは3~30質量部、さらに好ましくは5~25質量部(特に10~20質量部)程度である。修飾セルロースナノ繊維(C)の割合が少なすぎると、ゴム組成物の機械的特性が低下する虞があり、逆に多すぎると、ゴム組成物の成形性が低下する虞がある。
【0093】
本発明では、ゴム成分(A)に対して、修飾セルロースナノ繊維(C)を前記割合で添加することにより、ゴム組成物の機械的特性を向上できる。さらに、修飾セルロースナノ繊維(C)の原料である未修飾のセルロースナノ繊維も、ゴム成分(A)に添加することにより、加硫ゴム組成物の耐熱性を向上できる。セルロースナノ繊維の割合も、前記修飾セルロースナノ繊維(C)の添加量(組成物中の前記割合)と同一の範囲から選択できる。加硫ゴム組成物の機械的特性を大きく向上できる点からは、未修飾のセルロースナノ繊維よりも、修飾セルロースナノ繊維(C)の方が好ましい。
【0094】
[補強剤(D)]
本発明のゴム組成物は、硬度や強度などの機械的特性を向上させるために、ゴム成分(A)、制振付与剤(B)および修飾セルロースナノ繊維(C)に加えて、補強剤(D)をさらに含んでいてもよい。
【0095】
補強剤(D)としては、慣用の補強剤を利用でき、例えば、粒状補強剤(カーボンブラックやグラファイトなどの炭素質材料;酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)などの金属酸化物;ケイ酸カルシウムやケイ酸アルミニウムなどの金属ケイ酸塩;炭化ケイ素や炭化タングステンなどの金属炭化物;窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの金属窒化物;炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウムや硫酸バリウムなどの金属硫酸塩;ゼオライト、ケイソウ土、焼成ケイソウ土、活性白土、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、クレーなどの鉱物質材料など)、繊維状補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、ウィスカー、ワラストナイトなどの無機繊維;ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、セルロース繊維などの有機繊維など)などが挙げられる。これらの補強剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0096】
また、前記補強剤のうち、セルロース繊維は、セルロースナノ繊維であってもよい。さらに、セルロースナノ繊維は、原料セルロースナノ繊維とフルオレン化合物(C1)とを混練する過程で反応させて修飾セルロースナノ繊維を製造した場合において、フルオレン化合物(C1)と反応せずに残存したセルロースナノ繊維であってもよい。
【0097】
これらの補強剤のうち、カーボンブラックやシリカなどの粒状補強剤(特に粒状無機補強剤)が汎用され、修飾セルロースナノ繊維(C)との組み合わせにより、ゴム組成物の機械的特性を大きく向上できる点から、カーボンブラックが好ましい。本発明では、修飾セルロースナノ繊維(C)は、ゴム成分中における自身の分散性だけでなく、粒状補強剤(特にカーボンブラック)との相容性も高く、粒状補強剤の分散性も向上できる。
【0098】
カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、被覆カーボンブラック、グラフトカーボンブラックなどが挙げられる。これらのカーボンブラックは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0099】
カーボンブラックの平均粒径は5~200nm程度の範囲から選択でき、例えば10~150nm、好ましくは15~100nm、さらに好ましくは20~80nm(特に30~50nm)程度である。カーボンブラックの平均粒径が小さすぎると、均一な分散が困難となる虞があり、大きすぎると、加硫ゴム組成物の機械的特性が低下する虞がある。
【0100】
補強剤(D)の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して3~300質量部程度の範囲から選択でき、例えば5~200質量部、好ましくは8~150質量部、さらに好ましくは10~100質量部(特に15~80質量部)程度である。補強剤の割合が少なすぎると、加硫ゴム組成物の機械的特性を向上させる効果が低下する虞があり、逆に多すぎると、加硫ゴム組成物の伸びや強度などが低下する虞がある。
【0101】
[軟化剤(E)]
本発明のゴム組成物は、修飾セルロースナノ繊維(C)などの添加剤の組成物中における分散性を向上させるために、ゴム成分(A)、制振付与剤(B)および修飾セルロースナノ繊維(C)に加えて、軟化剤(E)をさらに含んでいてもよい。
【0102】
軟化剤(E)には、ゴム成分(A)に相容して未加硫ゴム組成物の粘度を低減できる軟化剤として、オイル類などが含まれる。オイル類としては、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、プロセスオイルなどが挙げられる。これらの軟化剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの軟化剤のうち、パラフィン系オイルやナフテン系オイルなどのオイル類が好ましい。
【0103】
本発明では、成形性を向上させるために、これらの軟化剤を配合した場合でも、修飾セルロースナノ繊維(C)を含むため、軟化剤(E)により加硫ゴム組成物(特に、EPDMなどのオレフィン系ゴムを含む加硫ゴム組成物)の機械的特性が低下するのを抑制できる。
【0104】
軟化剤(E)の割合は、ゴム成分(A)の種類に応じて適宜選択でき、ゴム成分(A)100質量部に対して0.1~500質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.5~400質量部(例えば1~300質量部)、好ましくは1~200質量部、さらに好ましくは3~100質量部程度である。ゴム成分(A)がオレフィン系ゴムである場合、軟化剤(E)の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して、例えば10~200質量部、好ましくは20~150質量部、さらに好ましくは25~100質量部(特に30~50質量部)程度であってもよい。軟化剤(E)の割合が少なすぎると、修飾セルロースナノ繊維(C)などの添加剤の分散性を向上できない虞があり、逆に多すぎると、加硫ゴム組成物の機械的特性が低下する虞がある。
【0105】
[可塑剤(F)]
本発明のゴム組成物は、成形性などを向上させるために、ゴム成分(A)、制振付与剤(B)および修飾セルロースナノ繊維(C)に加えて、可塑剤(F)をさらに含んでいてもよい。可塑剤(F)としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなどが挙げられる。これらの可塑剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ステアリン酸などの高級脂肪酸が好ましい。可塑剤(F)の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して、例えば0.1~10質量部、好ましくは0.5~5質量部、さらに好ましくは1~3質量部程度である。可塑剤(F)の割合が少なすぎると、成形性を向上する効果が低下する虞があり、逆に多すぎると、加硫ゴム組成物の機械的特性が低下する虞がある。
【0106】
[加硫剤(G)]
本発明のゴム組成物は、通常、加硫剤(G)を含んでいる。加硫剤(G)としては、ゴム成分(A)の種類に応じて、慣用の加硫剤を利用できる。加硫剤(G)には、硫黄系加硫剤、有機過酸化物が含まれる。
【0107】
硫黄系加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降性硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、表面処理硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィドなどが挙げられる。
【0108】
有機過酸化物としては、例えば、ジラウロイルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシドなどのジアシルパーオキシド;ジt-ブチルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、1,1-ジ-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシ-イソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルパーオキシド;t-ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシドなどのハイドロパーオキシド;n-ブチル-4,4-ジ-t-ブチルパーオキシバレレート、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジ(パーオキシルベンゾエート)などのパーオキシエステルなどが挙げられる。
【0109】
これらの加硫剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、硫黄やジクミルパーオキシドなどのジアルキルパーオキシドなどが汎用される。
【0110】
加硫剤(G)の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して、0.1~30質量部程度の範囲から選択でき、硫黄系加硫剤の場合、例えば0.1~10質量部、好ましくは0.5~8質量部、さらに好ましくは0.6~5質量部程度であり、有機過酸化物の場合、例えば1~25質量部、好ましくは3~20質量部、さらに好ましくは5~15質量部程度である。
【0111】
[加硫助剤(H)]
本発明のゴム組成物は、加硫を促進するために、加硫助剤(H)をさらに含んでいてもよい。加硫助剤(または共架橋剤)(H)には、例えば、有機系加硫促進剤[例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(TBBS)などのスルフェンアミド系促進剤;テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)などのチウラム系促進剤;2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、MBTの亜鉛塩、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)などのチアゾール系促進剤;トリメチルチオ尿素(TMU)、ジエチルチオ尿素(EDE)などのチオウレア系促進剤;ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン(DOTG)などのグアニジン系促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウムなどのジチオカルバミン酸系促進剤;イソプロピルキサントゲン酸亜鉛などのキサントゲン酸塩系促進剤;ヘキサンメチレンテトラミンなどのアルデヒド-アミン系またはアルデヒド-アンモニア系促進剤など]、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2-ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛などの(メタ)アクリル酸多価金属塩]、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート]、芳香族マレイミド(N,N’-m-フェニレンジマレイミドなどのアレーンビスマレイミドなど)、無機系助剤[酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化マグネシウムなど]などが挙げられる。
【0112】
これらの加硫助剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、CBSなどのスルフェンアミド系促進剤、TMTDなどのチウラム系促進剤、酸化亜鉛などの無機系助剤が汎用される。
【0113】
加硫助剤(H)の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して、例えば4~30質量部、好ましくは5~25質量部、さらに好ましくは10~20質量部程度であってもよい。有機系加硫促進剤の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して、例えば1~10質量部、好ましくは3~8質量部、さらに好ましくは5~7質量部程度であってもよい。無機系助剤(特に亜鉛華)の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して、例えば3~20質量部、好ましくは5~15質量部、さらに好ましくは7~10質量部程度であってもよい。
【0114】
[他の添加剤(I)]
本発明のゴム組成物は、ゴム成分(A)の種類に応じて、加硫ゴムに添加される慣用の添加剤を含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、樹脂成分(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など)、溶剤、加硫遅延剤、分散剤、老化または酸化防止剤(芳香族アミン系、ベンズイミダゾール系老化防止剤など)、着色剤(例えば、染顔料など)、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定剤など)、離型剤、潤滑剤、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、帯電防止剤、導電剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤、核剤、結晶化促進剤、抗菌剤、防腐剤などが挙げられる。
【0115】
これら他の添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。他の添加剤の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して、例えば0.1~50質量部、好ましくは0.5~30質量部、さらに好ましくは1~10質量部程度であってもよい。
【0116】
[ゴム組成物の製造方法]
本発明のゴム組成物は、ゴム成分(A)と、制振付与剤(B)と、9,9位にアリール基を有するフルオレン化合物(C1)が結合した修飾セルロースナノ繊維(C)および/またはその原料とを混練する混練工程を経て得られる。さらに、本発明では、混練工程で得られた混練組成物を加硫して加硫ゴム組成物を得る加硫工程を経て加硫ゴム組成物が得られる。
【0117】
混練工程において、修飾セルロースナノ繊維(C)は、その原料であるフルオレン化合物(C1)および未修飾セルロースナノ繊維であってもよく、これらの原料を添加することにより、混練工程および/または加硫工程によって修飾セルロースナノ繊維(C)が生成する。
【0118】
混練工程において、ゴム成分(A)、制振付与剤(B)および修飾セルロースナノ繊維(C)を含む組成物の混練方法としては、慣用の方法を利用でき、例えば、ミキシングローラ、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機(一軸または二軸押出機など)などを用いた方法などを利用できる。これらのうち、加圧式ニーダーなどのニーダーが好ましい。
【0119】
混練工程では、ゴム成分(A)、制振付与剤(B)および修飾セルロースナノ繊維(C)(またはその原料)を含む各成分を一括添加して混練してもよいが、修飾セルロースナノ繊維(C)などの成分を組成物中に均一に分散させるために、軟化剤(E)を用いて間欠的に添加して混練するのが好ましく、なかでも、ゴム成分(A)と制振付与剤(B)と軟化剤(E)との混練物に、修飾セルロースナノ繊維(C)を含む他の成分を添加して混練するの好ましい。さらに、ゴム成分(A)と制振付与剤(B)と軟化剤(E)との混練物も各成分を一括添加して混練してもよいが、、ゴム成分(A)と制振付与剤(B)とを加熱混練した後、冷却し、軟化剤(E)を添加して混練するのが好ましい。修飾セルロースナノ繊維(C)を含む他の成分を添加する前に、ゴム成分(A)および制振付与剤(B)の混練物に軟化剤(E)を添加して前記混練物に軟化剤(E)を浸透させることにより、修飾セルロースナノ繊維(C)などの他の添加剤を組成物中に均一に分散させるのが容易となる。また、加硫剤(G)、加硫助剤(H)などの添加剤は、加熱によって架橋が進行するのを抑制する点からも、最後に添加して混練するのが好ましい。
【0120】
混練は、非加熱下、加熱下のいずれで行ってもよい。加熱する場合、混練温度は、例えば、例えば30~250℃、好ましくは40~225℃、さらに好ましくは50~200℃程度である。予めゴム成分(A)と制振付与剤(B)との混練物に軟化剤(E)を浸透させる場合、ゴム成分(A)と制振付与剤(B)との混練温度は、ゴム成分および制振付与剤の種類に応じて選択できるが、例えば100~250℃、好ましくは150~225℃、さらに好ましくは170~200℃程度である。軟化剤(E)や修飾セルロースナノ繊維(C)などの他の成分を添加した場合の混練温度は、例えば30~100℃、好ましくは40~80℃、さらに好ましくは50~70℃程度である。
【0121】
加硫工程において、加硫温度は、ゴム成分(A)の種類に応じて選択でき、例えば100~250℃、好ましくは150~200℃、さらに好ましくは160~190℃程度である。
【実施例
【0122】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、用いた原料および評価方法は以下の通りである。
【0123】
(使用原料)
BPFG:9,9-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)フルオレン
EPDM:住友化学(株)製「エスプレン512F」
制振付与剤:スチレン系エラストマー、旭化成(株)製「L609」
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製「ショウワブラックN220」
酸化亜鉛:ナカライテスク(株)製
ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-90V」
加硫剤:過酸化物、日油(株)製「パークミルD40」
加硫助剤:トリアリルイソシアヌレート、日本化成(株)製「タイク(TAIC)
パラフィンオイル:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイル PW90」
パルプ:サンヨー化成(株)製「純パルプ5mm」。
【0124】
(修飾セルロースナノ繊維に結合したフルオレン化合物の修飾率)
フルオレン化合物の修飾率(以下フルオレン修飾率)は、ラマン顕微鏡(HORIBA JOBIN YVON社製、XploRA)を使用してラマン分析を行い、芳香族環(1604cm-1)とセルロースの環内CH(1375cm-1)との吸収バンドの強度比(I1604/I1375)により算出した。なお、算出にあたっては、フルオレン化合物を所定量含有するジアセチルセルロース((株)ダイセル製)フィルムを、溶液キャスト法により作成し、これらの強度比(I1604/I1375)から作成した検量線を用いた。すべてのサンプルは3回測定し、その結果から算出される値の平均値をフルオレン修飾率とした。
【0125】
(修飾セルロースナノ繊維の合成)
セルロースナノ繊維の水分散液(固形分濃度15質量%)100gをN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)500gに分散して遠心分離した後、沈降した固形分をさらに500gのDMAcに分散して再び遠心分離することにより、溶媒置換し、セルロースナノ繊維とDMAcとの混合物(セルロース含量約10質量%)を得た。この混合物を1000mLの三口フラスコに移し、さらにDMAc350g、9,9-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)フルオレン(BPFG)15g、ジアザビシクロウンデセン(DBU)10gを加え、120℃で3時間攪拌した。得られた混合液を遠心分離で回収し、1200mLのDMAcで洗浄する工程を3回繰り返し、修飾セルロースナノ繊維(B-CNF)を得た。フルオレン化合物の修飾率は12質量%であった。なお、使用した原料であるセルロースナノ繊維をSEM(日本電子(株)製「JSM-6510」)で観察したSEM写真を図1に示す。
【0126】
(未修飾セルロースナノ繊維の調製)
セルロースナノ繊維の水分散液(ダイセルファインケム(株)製、「セリッシュKY110N」、セルロース:水(質量比)=15/85)100g(固形分15g)をメタノール500gに分散して吸引濾過した後、沈降した固形分をさらにアセトン500gに分散して再び吸引濾過し、濾物を凍結乾燥することで未修飾セルロースナノ繊維の凍結乾燥品を得た。
【0127】
(弾性率)
JIS K6251に準拠し、得られた加硫ゴム組成物で試験片を作製し、引張試験機(ミネベア社製「LTS-1kN」)を用いて、以下の条件で弾性率を測定した。
【0128】
試験片:ダンベル8号、厚さ2mm
引っ張り速度:5mm/min
初期チャック間距離:30mm
ロードセル:1kN。
【0129】
(動的粘弾性)
動的粘弾性測定は、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製「DMA Q800」)を用いて、以下の条件で測定した。
【0130】
周波数:30Hz
昇温速度:1℃/min.
試験片のひずみ:0.05%。
【0131】
(実施例1)
ラボニーダーミル((株)トーシン製「TDR100-500X3」)を用いて、EPDM30.0g、制振付与剤20.0gを190℃で10分間混練した。混練後、温度を60℃に降温した。60℃の状態で、パラフィンオイルを10.0g添加した。パラフィンオイルの添加後、修飾セルロースナノ繊維(B-CNF)5.0g、酸化亜鉛2.5g、ステアリン酸0.5g添加し、10分間混練を行った。10分の混練後、さらに加硫剤3.0g、加硫助剤2.0gを添加し10分混練し、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴムを、熱プレス機((有)折原製作所製「卓上型ホットプレスmodel:G-12」)を用いて熱プレスして架橋を行った。詳しくは、160℃、2MPaで1分間加圧し、シートにした後、160℃、20MPaで20分間熱プレス架橋を行い、加硫ゴム組成物を得た。
【0132】
(比較例1)
B-CNFを未修飾セルロースナノ繊維に変更する以外は実施例1と同一の方法で加硫ゴム組成物を得た。
【0133】
(比較例2)
B-CNFをカーボンブラックに変更する以外は実施例1と同一の方法で加硫ゴム組成物を得た。
【0134】
実施例1および比較例1~2の最終的な処方と得られた加硫ゴム組成物の評価結果を表1に示す。
【0135】
【表1】
表1の結果から明らかなように、実施例1と比較例1とを比較すると、制振特性を表すTanΔの値は変わらないが、弾性率が大きくなり機械特性の向上が見られた。比較例2と比較すると、実施例1は弾性率が大幅に向上し、TanΔも大きく減少しないことから、機械強度と制振特性とを両立していると言える。
【0136】
実施例2
パラフィンオイルの添加後、修飾セルロースナノ繊維(B-CNF)5.0g、酸化亜鉛2.5g、ステアリン酸0.5gに加えて、カーボンブラック5.0gも同時に添加する以外は実施例1と同一の方法で加硫ゴム組成物を得た。
【0137】
比較例3
B-CNFを未修飾セルロースナノ繊維に変更する以外は実施例2と同一の方法で加硫ゴム組成物を得た。
【0138】
実施例2および比較例3の最終的な処方と得られた加硫ゴム組成物の評価結果を表2に示す。
【0139】
【表2】
表2の結果から明らかなように、実施例2と比較例3とを比較すると、カーボンブラックと組み合わせて配合した場合において、制振特性を表すTanΔの値は変わらないが、弾性率が大きくなり機械特性の向上が見られた。この結果よりフルオレン修飾品を用いることで制振特性と機械強度とを両立したゴム組成物を製造することができる。特に、比較例3では、未修飾セルロースナノ繊維とカーボンブラックとを組み合わせているにも拘わらず、比較例1を超える効果は得られておらず、実施例2におけるB-CNFとカーボンブラックとの組み合わせによる効果と比べて対照的である。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明のゴム組成物は、建築物、道路、音響機器、自動車などの運輸機器などの各種分野において、振動を減衰(低減)するための制振部材を形成するためのゴム組成物として利用できる。
図1