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  • 特許-スポット溶接機の電極位置調整機構 図1
  • 特許-スポット溶接機の電極位置調整機構 図2
  • 特許-スポット溶接機の電極位置調整機構 図3
  • 特許-スポット溶接機の電極位置調整機構 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】スポット溶接機の電極位置調整機構
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/31 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
B23K11/31
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018168069
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2020040080
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】509290809
【氏名又は名称】ART-HIKARI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096758
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100114845
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 雅和
(74)【代理人】
【識別番号】100148781
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友和
(72)【発明者】
【氏名】古川 一敏
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-266970(JP,A)
【文献】特開2016-190258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接機の少なくとも一方の電極を保持するための電極ホルダーが、
電極を収納し、第1の回転軸を軸に回転可能な、第1のホルダーと、
第1のホルダーを回転可能に保持する、第2の回転軸を備えた、第2のホルダーを有し、
第1の回転軸が、電極のチップ先端とは離隔した位置にあり、
第2の回転軸が、第1の回転軸とは離隔した位置にあり、
第1のホルダーと第2のホルダーの回転により、電極チップ先端位置が所定範囲において調整可能であることからなるスポット溶接機の電極位置調整機構。
【請求項2】
第1のホルダーは、
第1の回転軸をその中心に有し、第2のホルダーへ回転可能に保持される第1の部分と、
電極を保持する第2の部分を有し、第2の部分の直径が第1の部分より大きく、第2の部分の中心軸は第1の回転軸とは離隔した位置にあることを特徴とする請求項1に記載の電極位置調整機構。
【請求項3】
第1のホルダーにおいて、第1の部分がテーパ状であり、第2の部分がストレ
ートシャンクを保持していることを特徴とする請求項2に記載の電極位置調整機構。
【請求項4】
第2のホルダーが円筒状であり、第1の回転軸と第2の回転軸が平行であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電極位置調整機構。
【請求項5】
第1の回転軸と第2の回転軸との離間距離と、第1の回転軸と電極の回転軸との離間距離が同距離であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電極位置調整機構。
【請求項6】
第1のホルダーの第2の部分の中心軸と電極の中心軸が一致することを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の電極位置調整機構。
【請求項7】
第1のホルダー又は第2のホルダー位置を固定する、締緩可能部材を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電極位置調整機構。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の電極位置調整機構を備えたスポット溶接機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接機の電極位置調整機構に関する。より詳細には、スポット溶接機の少なくとも一方の電極位置を手動で調整するための機構に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接は、溶接対象(ワーク)の溶接しようとする部分に電流を流し、ジュール熱及び加圧力によりワークを融合させて溶融金属を作ってこれを凝固させ接合する方法である。代表的な例であるスポット溶接は、溶接対象であるワークを一対の電極で挟み、加圧しながら数千アンペアから数万アンペアの大電流を流し、ナゲットをつくり溶融して接合するものである。そして、当該一対の電極は、一方が固定電極、一方が可動電極として構成される場合が一般的である。そして、産業用ロボットなどに搭載されることで、様々な打点に対応している。
【0003】
しかし、溶接機の使用を継続すると、電極の摩耗だけでなく、機械の固定要素の緩み、消耗、摩耗などにより、電極の位置が当初位置又は理想位置と相違が生じてくる。このため、本来一致するはずの上下電極の先端位置が十分に噛み合わず、溶接不可又は不良を起こす場合がある。また、スポット溶接機の納品時に、組立において若干の位置ズレが起きている場合もある。
【0004】
このような上記課題に対し、現状では、機械の組み直しなどにより微細な位置調整を行っているが、時間的にも作業的にも負担が大きい。また、例えば特許文献1のように、溶接機の使用時にロボット側で電極位置を調整する機構は知られているが、これらは当初の想定位置に電極があり、かつ使用中の調整であることを前提としており、所定位置が使用によりずれてきた場合に上記の作業を不要としているものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-156564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本願発明は、スポット溶接機の少なくとも一方の電極の位置調整を容易かつ手動で、自在に行うことができる機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のスポット溶接機の電極位置調整機構は、スポット溶接機の少なくとも一方の電極を保持するためのホルダーが、電極を収納し、第1の回転軸を軸に回転可能な、第1のホルダーと、第1のホルダーを回転可能に保持する、第2の回転軸を備えた、第2のホルダーを有し、第1の回転軸が、電極のチップ先端とは離隔した位置にあり、第2の回転軸が、第1の回転軸とは離隔した位置にあり、第1のホルダーと第2のホルダーの回転により、電極チップ先端位置が所定範囲において調整可能であることからなる。
【0008】
また、第1のホルダーは、第1の回転軸をその中心に有し、第2のホルダーへ回転可能に保持される第1の部分と、電極を保持する第2の部分を有し、第2の部分の直径が第1の部分より大きく、第2の部分の中心軸は第1の回転軸とは離隔した位置にあることが好ましい。
また、第1のホルダーにおいて、第1の部分がテーパ状であり、第2の部分がストレートシャンクを保持していることが好ましい。
また、第2のホルダーが円筒状であり、第1の回転軸と第2の回転軸が平行であることが好ましい。
また、第1の回転軸と第2の回転軸との離間距離と、第1の回転軸と電極の回転軸との離間距離が同距離であることが好ましい。
また、第1のホルダーの第2の部分の中心軸と電極の中心軸が一致することが好ましい。
また、第1のホルダー又は第2のホルダー位置を固定する、締緩可能部材を備えることが好ましい。
【0009】
本発明では、通常固定された円筒形の電極ホルダーについて、回転可能な2つのホルダーにより構成し、互いに離間した好ましくは平行な回転軸を備え、かついずれの回転軸も電極先端とは離間した構成を備える。この構成により、2つの偏心軸により電極先端の位置を一定の円範囲内で調整可能にしたものである。本願において、ガン本体に接続されるホルダーを第2のホルダーとし、第2のホルダーに接続され電極を保持するホルダーを第1のホルダーとする。第1のホルダーは、電極への長さを調整する取替可能な電極アダプターとして構成しても良い。
【0010】
典型的には円筒形である第2のホルダーを回転させると、第2の回転軸を軸に第1のホルダー及び電極が同時に回転する。このとき、第1のホルダーの回転軸は第2のホルダーの第2の回転軸に対して距離Aだけ離れた偏心位置にあるため、第1のホルダーの第1の回転軸は第2の回転軸を中心とした半径Aの円軌跡を移動する。さらに、第1のホルダーを回転させると、電極のチップ先端位置は、第1の回転軸から距離Bだけ離れた偏心位置にあるため、電極のチップの先端位置は第1の回転軸を中心とした半径Bの円軌跡を移動する。
【0011】
したがって、電極チップ先端位置は、第1のホルダーと、第2のホルダーを回転させることにより、第2の回転軸を中心として、半径A+Bの円内の所望位置で調整することを可能にするものである。なお、回転のための構造は、回転及び固定できる限り特に制限されず、軸受や溝機構、締付具等を使用しても良い。
【0012】
この構成によれば、手動で第1のホルダーと第2のホルダーを回転させることで、電極位置を調整することが容易に可能である。また、距離Aと距離Bを同距離にすれば、電極先端位置は、第1の回転軸がどの位置にあっても第2の回転軸位置を通ることができるため、調整や想定が容易である。また、電極位置を調整後、ネジやボルトなど、締緩可能な部材により各ホルダー位置を固定することにより、位置ズレを防ぐことができる。
【0013】
さらに、第1のホルダーは、第2のホルダーに回転可能に保持されるが、上述の構成をより操作容易に実現するために、第1のホルダーは、第1の回転軸を中心に有し、第2のホルダーへ回転可能に保持される第1の部分と、電極を保持する第2の部分を有し、第2の部分の直径が第1の部分より大きく、第2の部分の中心軸は第1の回転軸と異なる位置にあることが好ましい。すなわち、第1の部分は、好ましくはテーパ状であり第2のホルダー内に回転可能に保持される。そして、第2の部分は、好ましくは円筒状であり、その内部に電極(シャンク)を保持するものである。また、第2の部分の円筒部分の中心軸上に電極(典型的にはストレートシャンク)の中心軸及び電極先端が一致する。これら構成は、第1の回転軸と電極先端を離隔させつつ、電極の保持・位置調整を容易にするのに有効である。
【0014】
その他のスポット溶接機の構成、すなわちアーム、加圧シリンダ、ピストンロッドなどは公知の構成と変わるところはない。また、電極及びホルダー内部に設けられる冷却用の通水路なども、公知の溶接機と変わるところはなく、電極についても公知の電極を使用することができる。また、ホルダーにさらに別の回転軸を設けるなど、本発明の効果を奏する限り、様々な形態として実現可能である。
【0015】
本願発明の構成によれば、簡潔かつ経済的に効率的な構成でありながら、メンテナンスも容易で、所望の位置まで調整を容易かつ手動で、自在に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の1例を示す図である。
図2図1の実施例の第2ホルダー側の側面図である。
図3図1の実施例の電極側の側面図である。
図4】第1の回転軸の軌道と電極先端位置の可動範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の1例を、図1から5を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の電極位置調整機構1を示す図である。本発明の電極位置調整機構1は、典型的には上側の可動電極に設けられるが、両側に設けても、下側の電極に設けても良い。本実施例では、上側アーム2に設けられている。加圧シリンダ、ピストンロッドなどの記載は省略している。
【0019】
電極3は、ストレートシャンク4と、ストレートシャンク4の先端に設けられた電極チップ5からなる。電極チップ5は、その先端位置6において、ワークへ接触する。ストレートシャンク4は、円筒状であり、軸7を中心軸として有し、軸7上(延長上)に電極チップ5の先端位置6を備えている。また、ストレートシャンク4内には、冷却のための通水路8が設けられ、電極チップ5の冷却を可能にしている。これらストレートシャンク4及び電極チップ5については、公知の構成と変わるところはない。
【0020】
電極3を保持するため、第1のホルダー9が備えられる。第1のホルダー9は、第2のホルダー10内に保持されるテーパ状の第1の部分11と、電極を保持する第2の部分12を備えている。そして、第1の部分11の中心の軸を回転軸13として回転可能に第2のホルダー10内に保持されている。また、第2の部分は、第1の部分より大きい径を備えており、その中心軸はストレートシャンクの中心軸7と一致している。したがって、図3によく示されるように、第1のホルダー9を回転させると、回転軸13を中心に回転するが、回転軸13とストレートシャンクの中心軸7とは平行かつ距離Bだけ離れているため、電極先端位置6は、回転軸13を中心とした半径Bの円上の軌道Cを移動する。
【0021】
第2のホルダー10は、円筒形であり、回転軸14を軸に回転可能であり、第1のホルダー9の収納部15を有する。ただし、テーパ状受け入れ部を備える収納部15は、その中心軸が回転軸14に対して偏心して設けられている。そして、収納部15の中心軸は回転軸13と一致する。しかし、回転軸14は、回転軸13と平行だが距離Aだけ離隔している。したがって、図4によく示されるように、第2のホルダー10を回転させると、回転軸14を中心に回転するが、回転軸14と回転軸13とは平行かつ距離Aだけ離れているため、第1のホルダー回転軸13は、回転軸14を中心とした半径Aの円上の軌道Dを移動する。
【0022】
以上の構成によれば、第1のホルダー9及び第2のホルダー10を適宜回転させると、電極先端位置6は回転軸14を中心とした半径A+Bの円E内のいずれかの位置において調整することができる(図5参照)。調整が確定した後、アームに設けられたボルト状固定具16を締めることで、第2のホルダー10を固定することができる。したがって、例え使用継続による機材の固定具の緩み等により、上下電極に微妙なずれが生じても、容易に一致修正が可能になる。以上の通り、簡潔かつ経済的に効率的な構成でありながら、メンテナンスも容易で、所望の位置まで調整を容易かつ手動で、自在に行うことができる。なお、当該実施例は一例であり、ホルダー形状やシャンク・電極形状は本発明の効果を奏する限り他の形態を採用することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 電極位置調整機構
2 アーム
3 電極
4 ストレートシャンク
5 電極チップ
6 先端位置
7 軸
8 通水路
9 第1のホルダー
10 第2のホルダー
11 第1の部分
12 第2の部分
13 回転軸
14 回転軸
15 収容部
16 固定具
図1
図2
図3
図4