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  • 特許-塗工材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】塗工材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220915BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20220915BHJP
   H01M 4/08 20060101ALI20220915BHJP
   C09D 7/43 20180101ALI20220915BHJP
   C09K 3/00 20060101ALN20220915BHJP
【FI】
C09D201/00
H01M4/04 Z
H01M4/08 K
C09D7/43
C09K3/00 103E
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018176999
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020045462
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】落合 佑紀
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】柳木 弘
(72)【発明者】
【氏名】池山 美紗子
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-129482(JP,A)
【文献】特開2015-213017(JP,A)
【文献】特開2000-348713(JP,A)
【文献】特開平09-245773(JP,A)
【文献】特開2007-180250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー状の塗工材料の製造方法であって、
増粘剤に希釈剤を加えて混練してスラリーを作製するスラリー作製ステップと、
前記スラリーに粉体材料を加えて混練する第1混練ステップと、
前記第1混練ステップにより得た混練物に結着剤を加えてさらに混練する第2混練ステップと、
を含み、
前記スラリー作製ステップでは、前記増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを用い、前記希釈剤として水を用い、
前記第1混練ステップでは、前記粉体材料として電解二酸化マンガンからなる電極活物質と導電助材とを混練するともに、前記スラリーと前記粉体材料との混合物を5℃以上15℃以下の温度に維持し、
前記第2混練ステップでは、前記結着剤として水を希釈剤としたスチレン・ブタジエンゴムを用いる、
ことを特徴とする塗工材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗工材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムや平板などに、周知のドクターブレード法などの方法によって塗工されるスラリー状の塗工材料は、粉体材料に増粘剤や結着剤を加えて混練したものであり、例えば、積層チップ部品の製造過程で作製されるグリーンシートや、電池用の電極を形成するためのものがある。塗工材料の一例として、スパイラル型リチウム一次電池やラミネート型リチウム一次電池の電極材料を挙げると、電極材料は、粉体状の電極活物質、導電助材、結着剤(バインダー)、および増粘剤などを混合したものを、プラネタリーミキサーなどを用いて剪断応力を掛けながら混練することで作製される。なお、以下の特許文献1には、平板状の集電体にスラリー状の電極材料が塗工されてなる電極板を備えたリチウム電池について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-98012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スラリー状の塗工材料は、当然のことながら、塗工に適した粘度に調整されている必要がある。一般的に、スラリー状の塗工材料を用いた工業製品(積層チップ部品、リチウム一次電池など)の製造現場では、塗工の実施機会毎に塗工材料を作製するのではなく、例えば、所定の期間毎に塗工材料を作製して保管しておく。保管されている塗工材料は、保管場所から随時取り出されて塗工に供される。したがって、塗工材料には、製造されてから塗工されるまの間に特性が変化しないようにする必要がある。特に、塗工材料に含まれている粉体の凝集に起因する粘度変化によって塗工性が劣化することを抑制する必要がある。そして、塗工材料は、保管時の温度によって粘度が変化し易いことから、厳密に温度管理された環境で保管される場合が多い。しかし、塗工材料を温度管理された環境で保管すると、塗工材料を保管するための設備、塗工材料の温度を維持するためのエネルギー、および設備のメンテナンスに対してコストが発生する。
【0005】
そこで本発明は、厳密に温度を管理しなくても、塗工性が経時劣化し難い塗工材料の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、 スラリー状の塗工材料の製造方法であって、
増粘剤に希釈剤を加えて混練してスラリーを作製するスラリー作製ステップと、
前記スラリーに粉体材料を加えて混練する第1混練ステップと、
前記第1混練ステップにより得た混練物に結着剤を加えてさらに混練する第2混練ステップと、
を含み、
前記スラリー作製ステップでは、前記増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを用い、前記希釈剤として水を用い、
前記第1混練ステップでは、前記粉体材料として電解二酸化マンガンからなる電極活物質と導電助材とを混練するともに、前記スラリーと前記粉体材料との混合物を5℃以上15℃以下の温度に維持し、
前記第2混練ステップでは、前記結着剤として水を希釈剤としたスチレン・ブタジエンゴムを用いる、
ことを特徴とする塗工材料の製造方法としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電池用電極活物質の製造方法によれば、EMDからなる電極活物質と水系結着剤とを使用しつつ、塗工性に優れたスラリー状の電池用正極材料を、製造コストを増加させることなく製造することができる。なお、その他の効果については以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例に係る塗工材料の製造方法の手順を示す図である。
図2】上記実施例に係る方法で作製された塗工材料の初期特性を示す図である。
図3】上記実施例に係る方法で作製された塗工材料の粘度の経時変化を示す図である。
図4】上記実施例に係る方法で作製された塗工材料の貯蔵弾性率の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
===実施例===
本発明の実施例として、周知の、スパイラル型リチウム一次電池、あるいはラミネート型リチウム一次電池の正極に用いられるスラリー状の電極材料(以下、電極用塗工材料とも言う)の製造方法を挙げる。概略的には、電極用塗工材料は、増粘剤、電解二酸化マンガン(EMD)からなる粉体状の電極活物質、粉体状の導電助材、および結着剤を、プラネタリーミキサーなどを用いて剪断応力を掛けながら混練することで作製される。
【0011】
図1に、電極用塗工材料の製造手順を示した。まず、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロースなど)を、純水を希釈剤として混合し(s1)、その混合物を、プラネタリーミキサーを用いて混練する。それによって、スラリー状の増粘剤水溶液を得る。次に、プラネタリーミキサー中の増粘剤水溶液に、導電助材(例えば、アセチレンブラック)と、電極活物質であるEMDとを加えて混練する(s2、s3)。そして、増粘剤、EMD、導電助剤を含んだスラリー状の材料に、結着剤と希釈剤とを追加して混練する(s4)。なお、結着剤には、増粘剤と同様に水を希釈剤としたスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を用いた。すなわち、増粘剤、EMD、導電助剤を含んだスラリー状の材料にSBRと純水とを追加して混練した。それによって、電極用塗工材料を得た(s6)。なお、正極活物質、導電助材、および結着剤の割合は、例えば、93wt%、3wt%、および4wt%とすることができる。そして、以上の手順自体は、従来の電極用塗工材料の作製手順と同様であるが、本実施例では、増粘剤水溶液に粉体材料を加えて混練する工程(s2、s3)において、スラリー状の材料の温度を、チラーを用いて制御している。それによって、電極用塗工材料を保管したときの経時劣化を抑制している。
【0012】
===特性評価===
本発明の方法で作製した電極用塗工材料の特性を評価するために、図1に示した手順において、増粘剤水溶液に粉体材料を加えて混練する工程(以下、粉体混練工程(s2、s3)とも言う)におけるスラリー状の材料の温度(以下、材料温度とも言う)が異なる各種電極用塗工材料をサンプルとして作製した。そして、各サンプルを種々の温度で保管し、各サンプルの粘度μ(Pa・s)および貯蔵弾性率G’(Pa)の経時変化を調べた。具体的には、サンプルに応じ、粉体混練工程(s2、s3)における材料温度を5℃、10℃、15℃、および20℃に設定するとともに、各サンプルを、7℃、25℃、35℃の各温度(以下、保管温度とも言う)で7日間保存した。
【0013】
<初期特性>
まず、電極用塗工材料の初期特性として、粉体混練工程(s2、s3)における材料温度と、電極用塗工材料の作製直後での粘度μおよび貯蔵弾性率G’との関係を調べた。図2に電極用塗工材料の初期特性を示した。図2(A)は、電極用塗工材料の粘度μを示す図であり、図2(B)は、電極用塗工材料の貯蔵弾性率G’を示す図である。なお、図2を含めた以下の各図に示す粘度μおよび貯蔵弾性率G’は、ずり速度が1(1/s)であるときの測定値である。
【0014】
図2(A)に示したように、材料温度が低くなるほど粘度μが低下している。すなわち、温度が低いほど塗工し易くなる(塗工性が向上している)。なお、材料温度が20℃のサンプルは、粘度μが100(Pa・s)以上であり、塗工し難いものとなった。材料温度が15℃以下のサンプルでは、粘度μが50(Pa・s)以下であり、良好な塗工性を示した。また、図2(B)に示したように、材料温度が15℃以下のサンプルでは、貯蔵弾性率G’がほぼ一定で、5.0×104(Pa)程度で、粉体が均一に分散されていることが確認できた。しかし、材料温度が20℃のサンプルは、他のサンプルに対して貯蔵弾性率G’が極めて大きく、粉体が凝集していることが確認できた。したがって、粉体混練工程(s2、s3)では、材料温度15℃以下に設定することが望ましい。なお、材料温度の下限については、希釈剤である純水の凝固などを考慮して5℃としている。
【0015】
<保存性能>
次に、電極用塗工材料を、温度制御されていない環境下で保存することを想定し、各サンプルを、冷蔵庫内で冬期に対応する7℃、恒温槽内で夏期に相当する35℃、空調された室内で春期や秋期に相当する25℃の各保管温度で保存した。そして、電極用塗工材料の保存性能として、各サンプルの保存期間における粘度μおよび貯蔵弾性率G’の経時変化を調べた。図3に、各サンプルの保存性能を示した。図3(A)、(B)、(C)、(D)に、それぞれ、材料温度を20℃、15℃、10℃、5℃にして作製した電極用塗工材料の粘度μ(Pa・s)の経時変化を示した。また、図4(A)、(B)、(C)、(D)に、それぞれ、材料温度を20℃、15℃、10℃、5℃にして作製した電極用塗工材料の貯蔵弾性率G’(Pa)の経時変化を示した。
【0016】
図3(A)に示したように、材料温度が20℃のサンプルでは、粘度μの経時変化が大きかった。特に、製造後1日経過した時点で、保管温度毎の粘度μに大きなばらつきがあった。また、粘度μも最大で180Pa・s以上あった。一方、図3(B)、(C)、および図3(D)に示したように、材料温度が15℃、10℃、および5℃のサンプルでは、どの保管温度であっても粘度μの経時変化が少なく、材料温度が15℃のサンプルの2日経過後に測定された、70Pa・s程度の粘度が最大であり、保存期間を通じて塗工に支障が生じる100Pa・s以上の粘度になることはなかった。そして、図3(D)に示した材料温度が5℃のサンプルでは、全保存期間を通じて粘度μがほとんど変化しなかった。
【0017】
また、図4(A)に示したように、材料温度が20℃のサンプルでは、製造後1日経過した時点で、保管温度毎の貯蔵弾性率G’に大きなばらつきがあった。そして、貯蔵弾性率G’の最大値が3.5×10程度であり、凝集の度合いが、初期特性に対して大きく劣化した。一方、図4(B)、(C)、および図3(D)に示したように、材料温度が15℃、10℃、および5℃のサンプルでは、どの保管温度であっても貯蔵弾性率G’の経時変化が少なく、材料温度が15℃のサンプルの、保存開始後3日経過した時点で測定された、2.0×10Pa程度の貯蔵弾性率G’が最大であった。そして、図4(C)、(D)に示したように、材料温度が10℃および5℃のサンプルでは、全保存期間を通じて貯蔵弾性率G’がほぼ一定であり、保管温度毎の差も極めて小さかった。
【0018】
このように、実施例に係る塗工材料の製造方法によれば、保管温度によらず、粘度や貯蔵弾性率の経時劣化を抑制することができる。そのため、通年で塗工材料を温度制御された環境下で保管する必要がなく、保管に要する設備コストやランニングコストを低減させることができる。すなわち、実施例に係る方法で作製された塗工材料を用いた工業製品(電池など)を、より安価に提供することが可能となる。また、保存中の粘度や貯蔵弾性率のばらつきが小さく、塗工材料の品質を均一に維持することができる。すなわち、本実施例の方法で作製された塗工材料を用いた工業製品は、均一な品質を備えたものとなる。
【0019】
===その他の実施例===
上記実施例では、希釈剤として純水を使い、水系の増粘剤と結着剤とを用いていたが、有機溶剤を希釈剤とした、溶剤系の増粘剤と結着剤とを用いてもよい。電極用塗工材料であれば、アクリル系ポリマーなどの溶剤系の増粘剤や、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの溶剤系の結着剤を用いることができる。希釈剤となる有機溶剤には、例えば、N―メチルピロリドン(NMP)などを用いることができる。なお、水は、有機溶剤よりも揮発し難いため、水系の増粘剤と結着剤を用いた塗工材料は、厳密に密閉された状態で保存しなくても安定して粘度を維持することができる。また、環境にも優しい。ところで、希釈剤として有機溶剤を用いる場合、有機溶剤は、一般的に、水よりも凝固点が低いため、材料温度の下限を5℃未満にすることも考えられる。しかし、粉体混練工程(s2、s3)における材料温度の制御の難易性を考えれば、やはり5℃とすることが妥当である。
【0020】
上記実施例に係る方法で作製される塗工材料は、リチウム一次電池用の電極用塗工材料に限らない。リチウム二次電池用の電極用塗工材料であってもよいし、例えば、積層チップ部品の製造過程で作製されるグリーンシート用の塗工材料などであってもよい。いずれにしても、本発明の実施例に係る方法は、増粘剤、粉体材料、および結着剤を含むスラリー状の各種塗工材料に適用することができる。
【符号の説明】
【0021】
s1 スラリー作製工程、s2 導電助剤混合・混練工程、
s3 電極活物質混合・混練工程、s4 結着剤混合工程
図1
図2
図3
図4