(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】スピーカ用の振動板およびスピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 7/14 20060101AFI20220915BHJP
H04R 9/02 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
H04R7/14 K
H04R9/02 101B
(21)【出願番号】P 2018194007
(22)【出願日】2018-10-15
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000194918
【氏名又は名称】ホシデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】長岡 聡史
【審査官】米倉 秀明
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-502040(JP,A)
【文献】特開2008-103856(JP,A)
【文献】特開平08-168092(JP,A)
【文献】特開2017-069692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/00-7/36
H04R 9/00-9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材からなるコーン型の振動板本体部を有し、前記振動板本体部に前記振動板本体部の音放射側の表面と音放射側と反対側の裏面のうち、一方を凸面とし、他方を凹面とする補強リブを形成し、前記補強リブは、前記振動板本体部に放射状に広がり、前記振動板本体部の中心部から外周部に向かって高さが徐々に低くなり、前記振動板本体部中心部のボイスコイルとの接合部に対して離間している
スピーカ用の振動板であって、
前記振動板本体部の中心部を覆うキャップを備え、前記キャップは、ドーム型のキャップ本体部を有し、前記キャップ本体部の外周に前記振動板本体部との接合部を形成すると共に、前記振動板本体部との前記接合部に前記補強リブに沿って放射状に広がる第2の補強リブを形成し、前記振動板本体部に前記振動板本体部との前記接合部を前記補強リブと前記第2の補強リブとを重ねた状態で接合していることを特徴とするスピーカ用の振動板。
【請求項2】
請求項
1に記載のスピーカ用の振動板を備えたことを特徴とするスピーカ。
【請求項3】
請求項
2に記載のスピーカを備えたことを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカ用の振動板、および、それを備えたスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
最も一般的なスピーカであるコーン型スピーカの高域再生限界周波数は、振動系重量と振動板のヤング率(剛性)と振動板とボイスコイルの接合部の振動板の半頂角で決定されるが、スピーカの薄型化を目的として、全高の低い浅型の振動板を使用すると、浅型の振動板は、半頂角が大きくなるため、高域再生限界周波数が低くなり、スピーカの再生周波数帯域が狭くなるという問題があった。
【0003】
これに対し、特許文献1に記載のスピーカ用の振動板では、ポリアリルサルホンやポリエーテルイミドなどのエンジニアリングプラスチックの射出成型によって、振動板に放射状に広がり、振動板中心部から外周部に向かって徐々に高さが低くなる補強リブを形成しており、浅型の振動板でも、振動板中心部の剛性が高いため、高域再生限界周波数は、深型の振動板同様に高くなる。また、振動板の剛性が振動板中心部から外周部に向かって徐々に低くなるため、周波数が高くなるにつれて、振動板外周部より徐々に分割振動が生じ、それにより、エッジの反共振等の急激なピークディップを小さくすることができる。この結果、浅型の振動板を使用し、スピーカの薄型化を図りつつ、スピーカの再生周波数帯域を広くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のスピーカ用の振動板では、補強リブが振動板中心部のボイスコイルとの接合部に接続されているが、シート状の基材を熱プレス成形した振動板の場合、補強リブの凸面の反対側が凹面となるため、補強リブがボイスコイルとの接合部に接続されると、振動板中心部の剛性が低くなり、逆効果を招くという問題があった。
【0006】
本発明は、前述したような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シート状の基材を熱プレス成形した振動板であって、浅型の振動板を使用し、スピーカの薄型化を図りつつ、スピーカの再生周波数帯域を広くすることができるスピーカ用の振動板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するための手段としての本発明に係るスピーカ用の振動板は、シート状の基材からなるコーン型の振動板本体部を有し、前記振動板本体部に前記振動板本体部の音放射側の表面と音放射側と反対側の裏面のうち、一方を凸面とし、他方を凹面とする補強リブを形成し、前記補強リブは、前記振動板本体部に放射状に広がり、前記振動板本体部の中心部から外周部に向かって高さが徐々に低くなり、前記振動板本体部中心部のボイスコイルとの接合部に対して離間しているスピーカ用の振動板であって、
前記振動板本体部の中心部を覆うキャップを備え、前記キャップは、ドーム型のキャップ本体部を有し、前記キャップ本体部の外周に前記振動板本体部との接合部を形成すると共に、前記振動板本体部との前記接合部に前記補強リブに沿って放射状に広がる第2の補強リブを形成し、前記振動板本体部に前記振動板本体部との前記接合部を前記補強リブと前記第2の補強リブとを重ねた状態で接合していることを特徴とするものである。
【0008】
シート状の基材を熱プレス成形した振動板の場合、補強リブの凸面の反対側は凹面となるが、補強リブは、振動板本体部中心部のボイスコイルとの接合部に対して離間しているため、シート状の基材を熱プレス成形した振動板中心部の剛性を高くすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シート状の基材を熱プレス成形した振動板であって、浅型の振動板を使用し、スピーカの薄型化を図りつつ、スピーカの再生周波数帯域を広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスピーカ用の振動板を備えたスピーカを示す平面図である。
【
図3】
図2の振動板の左半部とキャップの左半部を示す拡大図である。
【
図4】
図4(A)は振動板の平面図、
図4(B)はキャップの平面図である。
【
図5】
図5(A)は
図4(A)のA-A断面での振動板の左半部を示す拡大図、
図5(B)は
図4(B)のA-A断面でのキャップの左半部を示す拡大図である。
【
図6】
図1のスピーカと比較例のスピーカの周波数特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係るスピーカ用の振動板を備えたスピーカの一例を図面に基づいて説明する。尚、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
図1、
図2に示すように、スピーカ1は、磁気ギャップ2aを有する磁気回路2と、磁気回路2に結合されたフレーム3と、磁気ギャップ2a内に配置されたボイスコイル4と、ボイスコイル4が下端部外周面に巻き付けられた円筒状のボビン5と、中心部がボビン5を介してボイスコイル4に接続されると共に、外周部がエッジ部61を介してフレーム3に支持されるコーン型の振動板6と、振動板6の中心部を覆うドーム型のキャップ7と、ボビン5とフレーム3との間に介設されるコルゲーション型のダンパー8と、フレーム3に絶縁性合成樹脂製の取り付け板9を介して取り付けられ、ボイスコイル4の両端部にそれぞれ図示しないリード線を介して電気的に接続される外部接続用の一対の端子10とを備えて、音響変換方式による分類では導電型で、振動板6の形状による分類ではコーン型で、再生帯域による分類ではフルレンジ型(シングルコーン型)のスピーカユニットに構成されている。
【0013】
磁気回路2は、円柱状のセンタポール20aを有する円板状のボトムプレート20と、ボトムプレート20上に載置された円環状のマグネット21と、マグネット21を挟んでボトムプレート20に積層されて一体化された円環状のトッププレート22とによって、外磁型に構成されており、センタポール20aの外周面とトッププレート22の内周面との間に幅一定な円環状の磁気ギャップ2aを形成している。
【0014】
磁気ギャップ2a内に配置されたボイスコイル4に外部から音声信号が入力され、ボイスコイル4に電流が流れると、フレミングの左手の法則に基づいてボイスコイル4がその軸方向の上下方向に振動する。すると、ボイスコイル4の振動がボビン5によって振動板6に伝えられ、振動板6も上下方向に振動する。すると、振動板6の周囲の空気が振動し、音波が放射される。
【0015】
図3、
図4(A)、
図5(A)にも示すように、振動板6は、シート状(薄板状)の基材を熱プレス成形することにより形成したものである。本実施形態では、基材としては、例えば厚さ0.5μmのポリイミドシート等の合成樹脂シートが用いられている。その他に紙、布、PEN、PET、PP、PEI、PEEK、アルミニウム、チタン、マグネシウム等のシート(薄板)も用いられる場合がある。
【0016】
振動板6は、ボイスコイル5との接合部の角度、すなわち半頂角θが45°を超えるものであって、全体の高さが低い浅型に形成されている。
【0017】
振動板6は、コーン型の振動板本体部60とロール型のエッジ部61とを一体に形成したものである。
【0018】
振動板本体部60の中心部には、中心孔60aと、その周囲を囲む円筒状をなすボイスコイル4との接合部60bとが形成されており、ボイスコイル4との接合部60bがボビン5の上部外周面に接着剤により接着固定されている。本実施形態では、振動板本体部60とボビン5との接合部の振動板本体部60の角度が、振動板6の半頂角θとなり、45°を超える60°に形成されている。
【0019】
振動板本体部60には、放射状に広がり、振動板本体部60の中心部から外周部に向かって高さが徐々に低くなる補強リブ60cを形成し、補強リブ60cによって、振動板本体部60の中心部の剛性を高めると共に、振動板本体部60の剛性を振動板本体部60の中心部から外周部に向かって徐々に低くするようにしている。
【0020】
補助リブ60cは、複数本が振動板本体部60の周方向に等間隔で形成されている。本実施形態では、18本が振動板本体部60の周方向に20°間隔で形成されている。
【0021】
補助リブ60cは、振動板6がシート状の基材を熱プレス成形することにより形成したものであるため、振動板本体部60の音放射側の表面(上表面)と音放射側と反対側の裏面(下表面)のうち、一方を凸面とし、他方を凹面とする。本実施形態では、振動板本体部60の裏面を凸面とし、表面を凹面とする。補助リブ60cの断面形状は、上向きに開口したコの字状に形成されている。
【0022】
補強リブ60cは、振動板本体部60の中心部から外周部に向かって高さが徐々に低くなり、振動板本体部60の外周において無くなり、振動板本体部60の外周の表面及び裏面の何れにも凹凸を付けない。
【0023】
振動板本体部60の表面と裏面のうち、一方を凸面とし、他方を凹面とする補強リブ60cは、振動板本体部60の中心部のボイスコイル4との接合部60bに接続すると、振動板本体部60の中心部の剛性が低くなるため、補強リブ60cは、振動板本体部60の中心部のボイスコイル4との接合部60bに対して離間している。離間距離は、振動板6の成形上問題の無い範囲内で可及的に小さくすることが好ましい。
【0024】
エッジ部61は、断面形状が下向き凸状の半円形状をなすエッジ本体部61aと、断面形状が平板状をなすフレーム3との接合部61bとを有している。エッジ本体部61aは振動板本体部60の外周部を取り囲んでおり、エッジ本体部61aの内周が振動板本体部60の外周に接続されている。フレーム3との接合部61bはエッジ本体部61aの外周部を取り囲んでおり、フレーム3との接合部61bの内周がエッジ本体部61aの外周に接続されている。フレーム3との接合部61bは、フレーム3の上端外周部に固定されている。
【0025】
エッジ部61は、断面形状が下向き凸状の半円形状をなすエッジ本体部61aを有しており、断面形状が上向き凸状の半円形状をなすエッジ本体部を有する振動板に比べて、全体の高さが低くなる。すなわち振動板6の低背化を図っている。
【0026】
エッジ部61は、振動板本体部60の外周部とフレーム3をつなぐ役割を持ち、振動板本体部60を常に正しい位置に保持し、振動板本体部60の動きを妨げることなくその動きに追随する。ダンパー8は、ダンパー8の内周部がボビン5の振動板本体部60との接合部とボイスコイル5との間の外周に接着剤により接着固定され、ダンパー8の外周部がフレーム3の内底面に接着剤により接着固定されており、ボイスコイル4とフレーム3をつなぐ役割を持ち、ボイスコイル4を常に正しい位置に保持し、ボイスコイル5の動きを妨げることなくその動きに追随する。ボイスコイル4、ボビン5、振動板6、キャップ7及びダンパー8はスピーカ1の振動系を構成し、エッジ部61とダンパー8は振動系のばねとなる。
【0027】
図3、
図4(B)、
図5(B)にも示すように、キャップ7は、シート状の基材を熱プレス成形することにより形成したものである。本実施形態では、基材としては、振動板6と同じ基材が用いられている。
【0028】
キャップ7は、上向き凸状のドーム状をなすキャップ本体部70と、幅一定な円環状をなしキャップ本体部70の外周を取り囲む振動板本体部60との接合部71とを有し、振動板本体部60との接合部71の内周がキャップ本体部70の外周に接続されており、振動板本体部60との接合部71が振動板本体部60の中心部と外周部との間において振動板本体部60の表面に重ね合わせた状態で接着剤により接着固定され、ボビン5の上端開口と振動板本体部60の中心孔60aと振動板本体部60のボイスコイル4との接合部60bとを含む振動板本体部60の中心部をキャップ本体部70により覆っている。
【0029】
キャップ7は、振動板本体部60との接合部71に補強リブ60cに沿って放射状に広がる第2の補強リブ71aを形成し、振動板本体部60に振動板本体部60との接合部71を補強リブ60cと第2の補強リブ71aとを重ねた状態で接合しており、振動板本体部60との接合部71の剛性を上げるようにしている。
【0030】
第2の補強リブ71aは、補強リブ60cと同じ本数が振動板本体部60との接合部71の周方向に補強リブ60cと同じ間隔で形成され、振動板本体部60に振動板本体部60との接合部71を補強リブ60cと第2の補強リブ71aとを重ねた状態で接合可能になっている。
【0031】
第2の補強リブ71aの断面形状は、第2の補強リブ71aの全体を補強リブ60cの内側に嵌め込んだ状態で補強リブ60cに重ねるように、上向きに開口したコの字状に形成しており、振動板本体部60との接合部71の裏面を凸面とし、表面を凹面とする。
【0032】
第2の補強リブ71aの高さは、第2の補強リブ71aの全体を補強リブ60cの内側に嵌め込んだ状態で補強リブ60cに重ねるように、振動板本体部60との接合部71の内周部から外周部に向かって徐々に低くしている。第2の補強リブ71aは、振動板本体部60との接合部71の外周において無くなり、振動板本体部60との接合部71の外周の表面及び裏面の何れにも凹凸を付けない。そのため、第2の補強リブ71aの底辺の角度は、補強リブ60cの底辺の角度よりも大きくなり、第2の補強リブ71aの底辺は、振動板本体部60との接合部71の内周部において補強リブ60cの底辺に対して接触した状態から振動板本体部60との接合部71の外周部に向かって補強リブ60cの底辺に対して徐々に離間距離が大きくなっている。補強リブ60cと第2の補強リブ71aとの間は、補強リブ60cの底辺と第2の補強リブ71aの底辺との隙間に充填される接着剤により接着固定されている。
【0033】
そして、
図6に本実施形態のスピーカ1と比較例のスピーカの周波数特性を示す。比較例のスピーカは、補強リブ60を形成していない振動板と、第2補強リブ71aを形成していないキャップを使用すること以外は、本実施形態のスピーカ1と同一構造を有している。比較例のスピーカは、
図6の特性Bで示すように、8kHzより急激に音圧が低くなる。
【0034】
これに対し、本実施形態のスピーカ1は、
図6の特性Aに示すように、20kHzまで音圧が維持されている。
【0035】
以上のように本実施形態のスピーカ1によれば、振動板6が、コーン型の振動板本体部60を有し、振動板本体部60に放射状に広がり、振動板本体部60の中心部から外周部に向かって高さが徐々に低くなる補強リブ60cを形成することで、浅型の振動板6でも、振動板6中心部の剛性が高いため、高域再生限界周波数は、深型の振動板同様に高くなる。また、振動板6の剛性が振動板6中心部から外周部に向かって徐々に低くなるため、周波数が高くなるにつれて、振動板6外周部より徐々に分割振動が生じ、それにより、エッジの反共振等の急激なピークディップを小さくすることができる。この結果、浅型の振動板6を使用し、スピーカ1の薄型化を図りつつ、スピーカ1の再生周波数帯域を広くすることができる。ここでシート状の基材を熱プレス成形した振動板6の場合、補強リブ60cの凸面の反対側は凹面となるが、補強リブ60cは、振動板本体部60の中心部のボイスコイル4との接合部60bに対して離間しているため、シート状の基材を熱プレス成形した振動板6中心部の剛性を高くすることができる。従って、シート状の基材を熱プレス成形した振動板6であって、浅型の振動板6を使用し、スピーカ1の薄型化を図りつつ、スピーカ1の再生周波数帯域を広くすることができる。
【0036】
また、振動板6が、振動板本体部60の中心部を覆うキャップ7を備え、キャップ7は、ドーム型のキャップ本体部70を有し、キャップ本体部70の外周に振動板本体部60との接合部71を形成すると共に、振動板本体部60との接合部71に補強リブ60aに沿って放射状に広がる第2の補強リブ71aを形成し、振動板本体部60に振動板本体部60との接合部71を補強リブ60cと第2の補強リブ71aとを重ねた状態で接合していることにより、振動板本体部60との接合部71の剛性が上がるため、キャップ7の高域再生限界周波数を上昇させ、さらにスピーカ1の再生周波数帯域を広くすることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 スピーカ
6 振動板
7 キャップ
60 振動板本体部
60c 補強リブ
70 キャップ本体部
71 振動板本体部との接合部
71a 第2の補強リブ