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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】給液式スクリュー圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/16 20060101AFI20220915BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
F04C18/16 Q
F04C29/02 311K
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018210549
(22)【出願日】2018-11-08
(65)【公開番号】P2020076376
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】土屋 豪
(72)【発明者】
【氏名】小松 智弘
(72)【発明者】
【氏名】千葉 紘太郎
(72)【発明者】
【氏名】高野 正彦
(72)【発明者】
【氏名】頼金 茂幸
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/038070(WO,A1)
【文献】特開2003-184768(JP,A)
【文献】特開昭52-135407(JP,A)
【文献】実開昭59-115889(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/16
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の歯溝を有する少なくとも1つのスクリューロータと、
前記スクリューロータを回転可能に格納する格納室を有し、前記スクリューロータと共に作動室を形成するケーシングとを備え、
前記ケーシングは、前記格納室に開口して作動室へ液体を供給する給液機構を備え、
前記給液機構は、互いの中心軸線が同一の平面内に位置して前記格納室側の外部で交差し、作動室に向かって液体をそれぞれ噴射する一対の噴射孔を少なくとも1つ有し、
前記一対の噴射孔は、仮想平面に沿って液体が拡散するように構成され、
前記仮想平面は、前記同一の平面に対して直交すると共に、前記格納室の壁面における前記給液機構の開口位置での法線方向に対して前記格納室の径方向外側から径方向内側へ向かって作動室の進行方向側へ傾斜する平面である
給液式スクリュー圧縮機。
【請求項2】
前記一対の噴射孔は、前記スクリューロータの歯溝の幅方向に対して平行な方向に並ぶように配置されている
請求項1に記載の給液式スクリュー圧縮機。
【請求項3】
前記一対の噴射孔は、前記スクリューロータの軸方向に対して平行な方向に並ぶように配置されている
請求項1に記載の給液式スクリュー圧縮機。
【請求項4】
前記給液機構は、
前記ケーシングに設けられ、前記格納室に開口する給液路と、
前記給液路の下流側端部に着脱可能に取り付けられ、前記一対の液体噴射孔を有する給液ノズルとを備え、
前記給液ノズルは、前記一対の噴射孔の並び方向を前記スクリューロータの軸方向に対して平行な場合を0°として前記給液路の軸方向に平行な軸で-90°未満から+90°未満までの範囲内で回転させた方向となるように配置されている
請求項1に記載の給液式スクリュー圧縮機。
【請求項5】
前記給液機構は、前記一対の噴射孔を複数組有し、
複数組の一対の噴射孔は、圧力の異なる複数の作動室に対して液体を供給可能に配置され、
相対的に高圧の作動室に液体を供給する一対の噴射孔の開口面積の総和は、相対的に低圧の作動室に液体を供給する一対の噴射孔の開口面積の総和よりも大きくなるように設定されている
請求項1に記載の給液式スクリュー圧縮機。
【請求項6】
前記給液機構が前記一対の噴射孔をN組有する場合において、
Nを2以上の自然数、N組のうちi番目の一対の噴射孔の開口面積をAi、N組のうちi番目の一対の噴射孔の位置から前記格納室の吸込側端面までの前記スクリューロータの軸方向の距離をLi、L1からLNまでうち最小値をLmin、L1からLNまでのうち最大値をLmaxとしたときに、
前記複数組の一対の噴射孔は、以下の数式2の関係を満たすように構成されている
【数2】
請求項5に記載の給液式スクリュー圧縮機。
【請求項7】
前記一対の噴射孔は、一方が他方よりも作動室の進行方向側に位置し、
前記一対の噴射孔の前記一方は、前記法線方向に対して平行な方向に延在し、
前記一対の噴射孔の前記他方は、前記法線方向に対して上流側から下流側に向かって作動室の進行方向側へ傾斜するように延在する
請求項1に記載の給液式スクリュー圧縮機。
【請求項8】
前記スクリューロータは、互いに噛み合う雄ロータ及び雌ロータで構成され、
前記格納室は、前記雄ロータを格納する第1格納室と、前記雌ロータを格納する第2格納室とで構成され、
前記給液機構は、前記第1格納室に開口する一対の噴射孔及び前記第2格納室に開口する一対の噴射孔を有する
請求項1に記載の給液式スクリュー圧縮機。
【請求項9】
スクリューロータと、
前記スクリューロータを回転可能に格納する格納室を有し、前記スクリューロータと共に作動室を形成するケーシングとを備え、
前記ケーシングは、前記格納室に開口して作動室へ液体を供給する給液機構を備え、
前記給液機構は、互いの中心軸線が同一の平面内に位置して前記格納室側の外部で交差し、作動室に向かって液体をそれぞれ噴射する一対の噴射孔を有し、
前記一対の噴射孔は、噴射する液体の運動量のベクトル和の向きが前記格納室の壁面における前記給液機構の開口位置での法線方向に対して作動室の進行方向側へ傾斜するように構成されている
給液式スクリュー圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を作動室へ供給する給液式スクリュー圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリュー圧縮機は、螺旋状の歯(歯溝)を複数有するスクリューロータと、スクリューロータを格納するケーシングとを備えており、スクリューロータの歯溝とケーシングの内壁面とで形成された作動室の容積がスクリューロータの回転に伴い増減することで気体を圧縮するものである。スクリュー圧縮機には、外部からの液体を作動室へ供給する給液式のものがある。液体を作動室へ供給する目的は、スクリューロータとケーシングとの間に生じる内部隙間の封止、作動室内の気体の冷却、スクリューロータの潤滑などである。給液式スクリュー圧縮機では、高性能化を図るために、給液のタイミング、給液の温度、給液の注入量などの変更が繰り返し試みられてきた。しかし、このような方策による性能の向上は、限界に近づきつつある。
【0003】
そこで、給液式スクリュー圧縮機における別の観点の性能向上策として、作動室へ注入する液体を広範囲に拡散させる給液機構が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の流体機械では、スクリューロータとスクリューロータを収納するケーシングとで形成された作動空間内に外部から液体を供給する液体供給部がスクリューロータの歯溝の幅方向よりも長手方向に液体を拡散するように構成されている。特許文献1に記載の流体機械における液体供給部では、いわゆる噴流衝突型のノズル(特許文献1の図2参照)が採用されている。この噴流衝突型のノズルは、第1の噴射孔及び第2の噴射孔からそれぞれ噴射した潤滑油を衝突させることで微粒化させて拡散させるものである。噴流衝突型のノズルでは、衝突した液体の拡散方向に指向性がある。具体的には、衝突した潤滑油は、第1の噴射孔と第2の噴射孔を結ぶ直線の方向に対して直交する方向に拡散しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/038070号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の噴流衝突型のノズルにおいては、ケーシング(雄側ボア又は雌側ボア)の内壁面におけるノズルの配置位置での法線方向に対して、第1の噴射孔及び第2の噴射孔が互い同様な角度で傾斜している(特許文献1の図2参照)。そのため、第1の噴射孔及び第2の噴射孔から噴射されて衝突した液体は、当該法線方向に対して平行な方向、且つ、第1の噴射孔と第2の噴射孔を結ぶ直線の方向に対して直交する方向に拡散しやすい。
【0006】
しかし、特許文献1に記載のような噴流衝突型のノズルでは、噴射した液体を衝突させて作動室内に拡散させたとしても、当該法線方向に対して平行な方向な方向に拡散させずに、当該法線方向に対して作動室(スクリューロータの歯溝)の進行方向とは逆側、換言すると、スクリューロータの軸方向吸込側に液体の拡散方向を傾斜させた場合、単純な1つの丸穴を介して作動室へ液体を噴射する周知の給液機構と同等な圧縮機エネルギ効率しか得られないということが判明した。つまり、衝突した液体が当該法線方向に対してスクリューロータの軸方向吸込側へ傾斜した平面に沿って拡散するように第1の噴射孔及び第2の噴射孔を構成した場合、衝突させた液体の作動室内への拡散による圧縮機エネルギ効率の向上効果を得ることできないという新規な課題を発見した。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上効果を安定して得ることができる給液式スクリュー圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、複数の歯溝を有する少なくとも1つのスクリューロータと、前記スクリューロータを回転可能に格納する格納室を有し、前記スクリューロータと共に作動室を形成するケーシングとを備え、前記ケーシングは、前記格納室に開口して作動室へ液体を供給する給液機構を備え、前記給液機構は、互いの中心軸線が同一の平面内に位置して前記格納室側の外部で交差し、作動室に向かって液体をそれぞれ噴射する一対の噴射孔を少なくとも1つ有し、前記一対の噴射孔は、仮想平面に沿って液体が拡散するように構成され、前記仮想平面は、前記同一の平面に対して直交すると共に、前記格納室の壁面における前記給液機構の開口位置での法線方向に対して前記格納室の径方向外側から径方向内側へ向かって作動室の進行方向側へ傾斜する平面である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、格納室における給液機構の開口位置での法線方向に対して径方向外側から径方向内側へ向かって作動室の進行方向側へ傾斜した仮想平面に沿って液体が拡散するように一対の噴射孔を構成したので、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上効果を安定して得ることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機を示す断面図及びその給液式スクリュー圧縮機に対する給液の外部経路を示す系統図である。
図2図1に示す本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機をII-II矢視から見た断面図である。
図3図2に示す本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構をIII-III矢視から見た拡大断面図である。
図4図3に示す本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構の上面図である。
図5図3に示す本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構をV-V矢視から見た断面図である。
図6】本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構に対する第1比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構を示す断面図である。
図7図6に示す第1比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構の上面図である。
図8図6に示す第1比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構をVIII-VIII矢視から見た断面図である。
図9】本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構に対する第2比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構を示す断面図である。
図10】本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構における冷却効果を第1比較例及び第2比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構における冷却効果と共に示す特性図である。
図11】本発明の第2の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機における給液機構を拡大した状態で示す断面図である。
図12図11に示す本発明の第2の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構の上面図である。
図13】本発明の第3の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機を示す断面図である。
図14】本発明の第4の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機を示す断面図である。
図15】本発明の第5の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機を示す断面図である。
図16】本発明のその他の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構を示す断面図である。
図17図16に示すその他の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構をXVII-XVII矢視から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明による給液式スクリュー圧縮機の実施の形態について図面を用いて例示説明する。
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の構成を図1及び図2を用いて説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機を示す断面図及びその給液式スクリュー圧縮機に対する給液の外部経路を示す系統図である。図2は、図1に示す本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機をII-II矢視から見た断面図である。図1及び2中、左側が給液式スクリュー圧縮機の吸込側、右側が吐出側である。図2中、破線Lは、雄ロータ及び雌ロータの底側(下側)に現れる歯先線を示している。
【0012】
図1において、給液式スクリュー圧縮機は、気体を圧縮する圧縮機本体1と、圧縮機本体1を駆動する駆動部80とで構成されている。給液式スクリュー圧縮機では、外部から圧縮機本体1の内部へ液体が供給される。そこで、圧縮機本体1には、液体を供給する外部給液系統90が接続されている。外部給液系統90は、例えば、気液分離器91、液体冷却器92、調整弁93、及びそれらを接続する管路94で構成されている。
【0013】
図1及び図2において、圧縮機本体1は、互いに噛み合い回転する一対のスクリューロータとしての雄ロータ2及び雌ロータ3と、雄ロータ2及び雌ロータ3を回転可能に内部に格納する本体ケーシング4とを備えている。雄ロータ2及び雌ロータ3は、互いの回転軸線が平行となるように配置されている。雄ロータ2は、その軸方向(図1及び図2中、左右方向)の両側がそれぞれ吸込側軸受部5と吐出側軸受部6とにより回転自在に支持されている。雌ロータ3は、その軸方向の両側がそれぞれ吸込側軸受部7と吐出側軸受部8とにより回転自在に支持されている。
【0014】
雄ロータ2は、螺旋状の雄歯21aが複数形成されたロータ歯部21と、ロータ歯部21の軸方向の両側端部にそれぞれ設けられた吸込側のシャフト部22及び吐出側のシャフト部23とで構成されている。ロータ歯部21は、軸方向一方端(図1及び図2中、左端)及び他方端(図1及び図2中、右端)にそれぞれ、軸方向に対して直交する吸込側端面21b及び吐出側端面21cを有している。ロータ歯部21の複数の雄歯21a間には歯溝が形成されている。吸込側のシャフト部22は、例えば、本体ケーシング4の外側に延出しており、駆動部80のシャフト部と共通となるように構成されている。
【0015】
雌ロータ3は、螺旋状の雌歯が複数形成されたロータ歯部31と、ロータ歯部31の軸方向の両側端部にそれぞれ設けられた吸込側のシャフト部32及び吐出側のシャフト部33とで構成されている。ロータ歯部31は、軸方向一端(図1及び図2中、左端)及び他方端(図1及び図2中、右端)にそれぞれ、軸方向に対して直交する吸込側端面31b及び吐出側端面31cを有している。ロータ歯部31の複数の雌歯間には歯溝が形成されている。
【0016】
本体ケーシング4は、メインケーシング41と、メインケーシング41の吐出側に取り付けられた吐出側ケーシング42とを備えている。
【0017】
本体ケーシング4の内部には、雄ロータ2のロータ歯部21と雌ロータ3のロータ歯部31とを互いが噛み合った状態で格納する格納室としてのボア45が形成されている。ボア45は、メインケーシング41に形成された一部重複する2つの円筒状空間の軸方向一方側(図1及び図2中、右側)の開口を吐出側ケーシング42で閉塞することによって構成されている。ボア45は、雄ロータ2のロータ歯部21の大部分が配置される第1格納部としての雄側ボア45aと、雌ロータ3のロータ歯部31の大部分が配置される第2格納部としての雌側ボア45bとから成る。ボア45を形成する壁面は、雄ロータ2のロータ歯部21の径方向外側を覆う略円筒状の第1内周面46と、雌ロータ3のロータ歯部31の径方向外側を覆う略円筒状の第2内周面47と、雌雄両ロータ2、3のロータ歯部21、31の吸込側端面21b、31bに対向する軸方向一方側(図1及び図2中、左側)の吸込側端面48と、雌雄両ロータ2、3のロータ歯部21、31の吐出側端面21c、31cに対向する軸方向他方側(図1及び図2中、右側)の吐出側端面49とで構成されている。雌雄両ロータ2、3のロータ歯部21、31の複数の歯溝とそれを取り囲む本体ケーシング4の内壁面(ボア45の第1内周面46、第2内周面47、吸込側端面48、吐出側端面49)とによって複数の作動室Cが形成される。
【0018】
メインケーシング41の吸込側端部には、雄ロータ2側の吸込側軸受部5及び雌ロータ3側の吸込側軸受部7が配設されている。吐出側ケーシング42には、雄ロータ2側の吐出側軸受部6及び雌ロータ3側の吐出側軸受部8が配設されている。吐出側ケーシング42には、吐出側軸受部6及び吐出側軸受部8を覆うように吐出側カバー43が取り付けられている。
【0019】
本体ケーシング4には、図1に示すように、作動室Cへ気体を吸い込むための吸込流路51が設けられている。吸込流路51は、本体ケーシング4の外部とボア45(作動室C)とを連通させるものである。本体ケーシング4には、作動室Cから本体ケーシング4外へ圧縮気体を吐出するための吐出流路52が設けられている。吐出流路52は、ボア45(作動室C)と本体ケーシング4の外部とを連通させるものであり、外部給液系統90の管路94と接続されている。
【0020】
本体ケーシング4には、圧縮機本体1の外部(外部給液系統90)から供給される液体を作動室Cへ供給する給液機構が設けられている。給液機構は、図1及び図2に示すように、外部給液系統90から供給される液体を作動室Cへ導く給液路53を複数備えている。給液路53は、例えば、雄側ボア45a(ボア45の第1内周面46)及び雌側ボア45b(ボア45の第2内周面47)における作動室Cが圧縮行程となる領域に開口している。給液路53は、例えば、本体ケーシングの底部側(下部側)に設けられており、ボア45の第1内周面46及び第2内周面47の下端部の領域における軸方向略中央部の位置(ボア45の吐出側端面49から離れた位置)に開口している。各給液路53の下流側端部には、給液路53を流れる液体を作動室Cへ噴射する給液ノズル60が取り付けられている。本実施の形態の給液式スクリュー圧縮機における給液ノズル60を含む給液機構は、噴射した液体を衝突させることで微粒化して作動室Cへ拡散させるものである。給液機構の詳細な構造は後述する。
【0021】
駆動部80は、例えば図1に示すように、ラジアルギャップ型のモータであり、圧縮機本体1と一体に構成されている。駆動部80は、ロータ81及びステータ82から成るモータ83と、モータ83を内部に格納するモータケーシング85と、モータケーシング85の開口部を閉塞するモータカバー86とを備えている。ロータ81は、雄ロータ2と連結されている。モータカバー86及びモータケーシング85には、ロータ81を回転自在に支持するモータ側軸受部87及び圧縮機本体1から駆動部80への液体の漏洩を防止する軸封部材88が配設されている。
【0022】
なお、本実施の形態においては、駆動部80にラジアルギャップ型のモータを用いた例を示したが、回転駆動源を特段に限定するものではない。また、駆動部80が、雄ロータ2ではなく、雌ロータ3を回転駆動する構成も可能である。また、駆動部80と圧縮機本体1のシャフト部が共通でない構成も可能である。また、モータ側軸受部87及び軸封部材88を配設しない構成も可能である。
【0023】
次に、第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機における給液機構の構造を図2図5を用いて説明する。図3は、図2に示す本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構をIII-III矢視から見た拡大断面図である。図4は、図3に示す本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構の上面図である。図5は、図3に示す本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構をV-V矢視から見た断面図である。なお、図3に示す給液機構は雄側ボアに液体を供給するものであるが、雌側ボアに液体を供給する給液機構も同様な構造である。
【0024】
給液路53は、例えば図2図5に示すように、丸穴である。また、給液路53は、例えば、ボア45の第1内周面46又は第2内周面47における給液路53の開口位置(給液機構の配設位置)での法線方向N(図3及び図5では上下方向、図2及び図4では紙面に直交する方向)に対して略平行な方向に延在している。
【0025】
給液路53の下流側端部(ボア45側端部)には、給液ノズル60が着脱可能に取り付けられている。給液ノズル60は、いわゆる噴流衝突型のノズルであり、作動室Cへ向かって液体をそれぞれ噴射して衝突させる一対の噴射孔としての第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62を備えている。
【0026】
第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62は、図3図5に示すように、互いの中心軸線61z、62zが同一の平面P1内に位置して両噴射孔61、62のボア45側の外部の交点Iで交差するように形成されている。また、第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62は、両噴射孔61、62からそれぞれ噴射されて衝突した液体が仮想平面V1に沿って拡散するように構成されている。仮想平面V1は、平面P1に対して直交すると共に両中心軸線61z、62zが交差する交点Iを含み、且つ、ボア45の第1内周面46又は第2内周面47における給液路53の開口位置での法線方向N(図3及び図5中、上下方向)に対して、ボア45の径方向外側(図3及び図5中、下側)から径方向内側(図3及び図5中、上側)に向かって作動室C(雌雄両ロータ2、3の歯溝)の進行方向側、すなわち、雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側(図3及び図4中、右側)へ傾斜する平面である。
【0027】
具体的には、給液ノズル60は、図2に示すように、第1の噴射孔61が第2の噴射孔62よりも作動室Cの進行方向側(雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側)に位置するように配置されている。また、給液ノズル60は、両噴射孔61、62の中心軸線61z、62zを含む平面P1に対して直交する方向が雄ロータ2又は雌ロータ3の歯溝の長手方向に対して略平行となるように配置されている。換言すると、給液ノズル60は、第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62が雄ロータ2又は雌ロータ3の歯溝の幅方向に対して平行な方向に並ぶように配置されている。本説明では、歯溝の長手方向とは、雄ロータ2又は雌ロータ3の歯先線に対して略平行な方向をいう。また、歯溝の幅方向とは、雄ロータ2又は雌ロータ3の歯溝の長手方向に対して略直交する方向をいう。
【0028】
給液ノズル60は、例えば図3図5に示すように、給液路53に嵌合する略円柱状の部材であり、軸方向のボア45側端部(図3及び図5中、上側端部)に凹部65が設けられている。給液ノズル60の凹部65は、ボア45における給液路53の開口位置での法線方向Nに対して略直交する略半円形の第1加工面66と、第1加工面66に対して傾斜する帯状の第2加工面67とを有している。第1加工面66には第1の噴射孔61が開口する一方、第2加工面67には第2の噴射孔62が開口している。
【0029】
第1の噴射孔61は、法線方向Nに対して略平行な方向に延在している。第2の噴射孔62は、法線方向Nに対して上流側から下流側に向かって作動室Cの進行方向側(雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側)へ傾斜するように延在している。第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62は、その孔径が給液路53の孔径よりも小さくなるように形成されている。第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62の相対的な孔径の大きさや流路の長さは、仮想平面V1の傾斜角に応じて設定される。すなわち、第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62は、第1の噴射孔61から噴射する流体の運動量M1と第2の噴射孔62から噴射する流体の運動量M2のベクトル和Msの向きが法線方向Nに対して作動室Cの進行方向側(雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側)へ傾斜するように構成されている。
【0030】
給液ノズル60の軸方向他方側端部には、ヘッダ部63が設けられている。ヘッダ部63は、給液ノズル60の軸方向に延在する貫通しない1つの穴部であり、第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62の上流側に連通している。ヘッダ部63の穴径は、第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62の孔径よりも大きく給液路53の孔径よりも小さくなるように設定されている。ヘッダ部63は、給液路53を流通する液体を給液ノズル60内に導入して第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62に分配するものである。
【0031】
次に、第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の作用及び効果を第1比較例及び第2比較例の給液式スクリュー圧縮機と比較して説明する。まず、第1比較例及び第2比較例の給液式スクリュー圧縮機における給液機構の構造を図6図9を用いて説明する。図6は、本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構に対する第1比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構を示す断面図である。図7は、図6に示す第1比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構の上面図である。図8は、図6に示す第1比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構をVIII-VIII矢視から見た断面図である。図9は、本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構に対する第2比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構を示す断面図である。図6図7図9中、左側が給液式スクリュー圧縮機の吸込側、右側が吐出側である。なお、図6図9において、図1図5に示す符号と同符号のものは同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0032】
第1比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構は、図6図8に示すように、メインケーシング41に設けられた給液路153と、給液路153の下流端に接続された噴射部160とで構成されている。噴射部160は、いわゆる噴流衝突型であり、液体を作動室へ噴射して衝突させる第1の噴射孔161及び第2の噴射孔162を備えている。第1の噴射孔161及び第2の噴射孔162は、互いの中心軸線161z、162zが同一の平面P2内に位置して両噴射孔161、162のボア45側の外部の交点Iで交差するように形成されている。第1の噴射孔161及び第2の噴射孔162は、両噴射孔161、162からそれぞれ噴射されて衝突した液体が仮想平面V2に沿って拡散するように構成されている。仮想平面V2は、平面P2に直交すると共に交点Iを含み、且つ、ボア45の第1内周面46又は第2内周面47における噴射部160の開口位置での法線方向N((図6及び図8では上下方向、図7では紙面に垂直な方向)に対して略平行な平面である。
【0033】
具体的には、第1比較例の給液路153は、ボア45に接続されていない先止まりの穴部である。ボア45の第1内周面46及び第2内周面47には、第1の噴射孔161及び第2の噴射孔162の加工の際の平面を確保するために、円錐状の窪み部165が設けられている。窪み部165には、第1の噴射孔161及び第2の噴射孔162の下流側が開口している。第1の噴射孔161及び第2の噴射孔162の上流側はそれぞれ給液路153に連通している。
【0034】
第1の噴射孔161は、法線方向Nに対して上流側から下流側に向かって作動室Cの進行方向とは逆側(雌雄両ロータ2、3の軸方向吸込側)へ角度θで傾斜するように延在している。第2の噴射孔162は、法線方向Nに対して上流側から下流側に向かって作動室Cの進行方向側(雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側)へ角度θで傾斜するように延在している。第1の噴射孔161は、第2の噴射孔162よりも作動室Cの進行方向側(雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側)に位置するように配置されている。また、第1の噴射孔161及び第2の噴射孔162は、本実施の形態と同様に、雄ロータ2又は雌ロータ3の歯溝の幅方向に対して平行な方向に並ぶように設けられている。第1の噴射孔161の孔径及び流路長と第2の噴射孔162の孔径及び流路長は、略同じとなるように設定されている。
【0035】
また、第2比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構は、図3図5に示す本実施の形態の給液ノズル60における第1の噴射孔61と第2の噴射孔62の位置を逆転させた状態(給液ノズル60をその中心軸の周りで180°回転させた状態)で配置したものである。すなわち、第2比較例の給液ノズル260は、図9に示すように、第1の噴射孔61が第2の噴射孔62よりも雌雄両ロータ2、3の軸方向吸込側(図9中、左側)に位置するように配置されている。
【0036】
第2比較例の給液ノズル260における第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62は、両噴射孔61、62からそれぞれ噴射されて衝突した液体が仮想平面V3に沿って拡散するように構成されている。仮想平面V3は、平面P1(図9の紙面を含む平面)に直交すると共に交点Iを含み、且つ、ボア45の第1内周面46又は第2内周面47における給液路53の開口位置での法線方向N(図9中、上下方向)に対してボア45の径方向外側(図9中、下側)から径方向内側(図9中、上側)に向かって作動室C(雌雄両ロータ2、3の歯溝)の進行方向とは逆側、すなわち、雌雄両ロータ2、3の軸方向吸込側(図9中、左側)へ傾斜する平面である。第1の噴射孔61は、本実施の形態と同様に、ボア45における給液路53の開口位置での法線方向Nに対して略平行な方向に延在している。第2の噴射孔62は、本実施の形態とは異なり、法線方向Nに対して上流側から下流側に向かって作動室Cの進行方向とは逆側(雌雄両ロータ2、3の軸方向吸込側)へ傾斜するように延在している。
【0037】
次に、第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の作用及び効果を第1比較例及び第2比較例の給液式スクリュー圧縮機と比較しつつ図1図10を用いて説明する。図10は、本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構における冷却効果を第1比較例及び第2比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構における冷却効果と共に示す特性図である。図10中、縦軸は、周知の丸穴の給液機構に対する本実施の形態、第1比較例、第2比較例の各給液機構の圧縮機エネルギ効率の変化率を示しており、給液量が最大(100%)のときの第1比較例のエネルギ効率の変化率を100%として相対的に示したものである。横軸は、作動室への給液量を示しており、最大供給量を100%として相対的に示したものである。
【0038】
本実施の形態においては、図1に示す給液式スクリュー圧縮機の駆動部80が圧縮機本体1の雄ロータ2を駆動することで、図2に示す雌ロータ3が回転駆動される。これにより、作動室C(雌雄両ロータ2、3の歯溝)が雌雄両ロータ2、3の回転に伴って軸方向の吐出側(図2中、右側)に向かって進行する。このとき、作動室Cは、その容積を増加させることで外部から図1に示す吸込流路51を介して気体を吸い込み、その容積を縮小させることで気体を所定の圧力まで圧縮する。作動室C内の圧縮気体は、最終的に、吐出流路52を介して外部給液系統90の気液分離器91へ吐出される。給液式スクリュー圧縮機では、圧縮機本体1の内部へ液体が供給されているので、圧縮機本体1から吐出された圧縮気体中に液体が混入している。この圧縮気体中に含まれる液体は、気液分離器91によって圧縮気体から分離される。気液分離器91において液体が除去された圧縮気体は、必要に応じて外部機器へ供給される。
【0039】
一方、気液分離器91で圧縮気体から分離された液体は、外部給液系統90の液体冷却器92によって冷却された後、圧縮機本体1の給液機構を介して作動室Cへ注入される。液体冷却器92の流通量は、調整弁93によって調整される。圧縮機本体1への液体供給は、ポンプ等の動力源を用いることなく、気液分離器91内に流入する圧縮気体の圧力(圧縮機本体1の吐出圧力)を駆動源として行うことが可能である。この場合、液体の作動室Cへの供給圧力は、外部給液系統90の流路での圧力損失等により圧縮機本体1の吐出圧力よりも低くなる。
【0040】
なお、外部給液系統90から供給される液体は、作動室C以外に、圧縮機本体1の吸込側軸受部5、7及び吐出側軸受部6、8の潤滑用としても用いられる。この場合、吸込側軸受部5、7及び吐出側軸受部6、8を潤滑した液体は、圧縮機本体1の作動室Cに回収することが可能である。
【0041】
本実施の形態においては、外部給液系統90から圧縮機本体1の給液機構における給液路53に供給された液体が図3図5に示す給液ノズル60を介して作動室Cへ噴射される。具体的には、給液ノズル60の第1の噴射孔61からは、ボア45の第1内周面46又は第2内周面47における給液路53の開口位置での法線方向Nに対して略平行な方向へ液体が噴射される。一方、第2の噴射孔62からは、雌雄両ロータ2、3の歯溝(作動室C)の進行方向側(図3及び図4中、右側)へ向かって液体が噴射される。両噴射孔61、62からそれぞれ噴出された液体は、互いの中心軸線61z、62zが交差する交点Iの辺りで衝突することで、指向性もって作動室C内を拡散する。具体的には、衝突した液体は、仮想平面V1に沿って扇状に拡散する。この仮想平面V1は、両噴射孔61、62の中心軸線61z、62zを含む平面P1に直交すると共に交点Iを含み、且つ、法線方向Nに対して径方向外側(図3及び図5中、下側)から径方向内側(図3及び図5中、上側)へ向かって作動室Cの進行方向側へ傾斜する平面である。
【0042】
一方、第1比較例の給液式スクリュー圧縮機では、図6~8に示す給液機構における給液路153に供給された液体が噴射部160を介して作動室Cへ噴射される。具体的には、噴射部160の第1の噴射孔161からは、ボア45の第1内周面46又は第2内周面47における噴射部160の配置位置での法線方向Nに対して、下流側が上流側よりも雌雄両ロータ2、3の歯溝(作動室C)の進行方向とは逆側(図6及び図7中、左側)へ角度θで傾斜するように液体が噴射される。それに対して、第2の噴射孔162からは、法線方向Nに対して、下流側が上流側よりも雌雄両ロータ2、3の歯溝(作動室C)の進行方向側(図6及び図7中、右側)へ角度θで傾斜するように液体が噴射される。両噴射孔161、162からそれぞれ噴出された液体は、互いの中心軸線161z、162zが交差する交点Iの辺りで衝突することで、指向性もって作動室C内を拡散する。具体的には、衝突した液体は、略仮想平面V2に沿って扇状に拡散する。この仮想平面V2は、両噴射孔161、162の中心軸線161z、162zを含む平面P2に直交すると共に交点Iを含み、且つ、法線方向Nに対して略平行な平面である。
【0043】
第1比較例の給液式スクリュー圧縮機における噴流衝突型の給液機構では、噴流衝突型ではない周知の丸穴の給液機構と比較すると、図10の○印に示すように、衝突した液体が作動室C内でより広範囲に拡散することで圧縮機エネルギ効率が向上する。すなわち、第1比較例の給液機構のように、一対の噴射孔から噴射されて衝突した液体が法線方向Nに対して平行な仮想平面V2に沿って拡散する場合、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上を図ることができる。
【0044】
本実施の形態における噴流衝突型の給液機構でも、第1比較例と同様に、周知の丸穴の給液機構と比較すると、図10の△印に示すように、衝突した液体が作動室C内でより広範囲に拡散することで圧縮機エネルギ効率が向上する。すなわち、一対の噴射孔から噴射されて衝突した液体が、法線方向Nに対して径方向外側から径方向内側へ向かって作動室Cの進行方向側へ傾斜する仮想平面V1に沿って拡散する場合、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上を図ることができる。
【0045】
それに対して、第2比較例の給液式スクリュー圧縮機における噴流衝突型の給液機構では、周知の丸穴の給液機構と比較すると、図10の□印で示すように、圧縮機エネルギ効率が略同等である。すなわち、第2比較例の給液ノズル260では、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上効果を得ることができないことが判明した。
【0046】
図9に示す第2比較例の給液機構では、給液路53に供給された液体は給液ノズル260を介して作動室Cへ噴射される。具体的には、給液ノズル260の第1の噴射孔61からは、本実施の形態の給液ノズル60の噴射孔61と同様に、ボア45の第1内周面46又は第2内周面47における給液路53の開口位置での法線方向N(図9中、上下方向)に対して略平行な方向へ液体が噴射される。一方、給液ノズル260の第2の噴射孔62からは、本実施の形態の給液ノズル60の第2の噴射孔62とは異なり、作動室C(雌雄両ロータ2、3の歯溝)の進行方向とは逆側(図9中、左側)へ向かって液体が噴射される。給液ノズル260の両噴射孔61、62からそれぞれ噴出された液体は、互いの中心軸線61z、62zが交差する交点Iの辺りで衝突して作動室C内に拡散する。
【0047】
この場合、衝突した液体が本実施の形態の給液ノズル60の仮想平面V1とは逆方向に傾斜する仮想平面V3に沿って作動室C内でより広範囲に拡散することで、圧縮機エネルギ効率の向上効果を得ることができると考えられていた。仮想平面V3は、両噴射孔61、62の中心軸線61z、62zを含む平面P1に直交すると共に交点Iを含み、且つ、法線方向Nに対して径方向外側(図9中、下側)から径方向内側(図9中、上側)へ向かって作動室C(雌雄両ロータ2、3の歯溝)の進行方向とは逆側へ傾斜する平面である。しかし、衝突した液体が法線方向Nに対して作動室Cの進行方向とは逆側へ傾斜する仮想平面V3に沿って拡散するように一対の噴射孔を構成すると、図10の□印で示すように、液体を衝突させて作動室Cへ供給しても、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上効果を得ることができないという結果を得た。
【0048】
以上のことから、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上を図るためには、一対の噴射孔から噴射して衝突させた液体を、法線方向Nに対して径方向外側から径方向内側へ向かって作動室C(雌雄両ロータ2、3の歯溝)の進行方向側へ傾斜する仮想平面V1又は法線方向Nに対して平行な仮想平面V2に沿って拡散させる必要がある。
【0049】
ところで、第1比較例の給液機構では、図6図8に示すように、衝突した液体が法線方向Nに対して略平行な仮想平面V2に沿って拡散するように、第1の噴射孔161及び第2の噴射孔162を構成している。しかし、加工誤差や組立誤差等による噴射部160の第1の噴射孔161及び第2の噴射孔162の配設位置のずれにより、第1比較例の仮想平面V2が第2比較例の仮想平面V3(図9参照)と同様な方向へ傾く懸念がある。また、何らかの理由により、例えば、第2の噴射孔162の壁面への異物の付着により、第2の噴射孔162の流量が通常よりも減少することも考えられる。この場合、両噴射孔161、162からそれぞれ噴出されて衝突した液体は、仮想平面V3と同様な方向へ傾く仮想平面に沿って拡散する懸念がある。この場合、第2比較例の給液機構と同様に、液体を衝突させて作動室Cへ供給しても、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上効果を得ることができない可能性がある。
【0050】
それに対して、本実施の形態の給液機構においては、ボア45における給液路53の開口位置での法線方向Nに対して径方向外側から径方向内側へ向かって作動室Cの進行方向側へ傾斜する仮想平面V1に沿って衝突させた液体が拡散するように、給液ノズル60の第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62を構成している。したがって、加工誤差や組立誤差等により給液ノズル60の第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62の配設位置がずれることで、両噴射孔61、62から噴射された液体の衝突位置や衝突角がずれたとしても、仮想平面V1が仮想平面V3(図9参照)と同じ方向に傾斜することを回避することが可能である。また、何らかの理由により、第2の噴射孔62の流量が通常よりも減少したとしても、両噴射孔61、62からそれぞれ噴出されて衝突した液体が仮想平面V3と同様な方向へ傾く仮想平面に沿って拡散することを回避することが可能である。したがって、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上効果を安定して得ることができる。
【0051】
上述したように、第1の実施の形態によれば、ボア(格納室)45における給液路(給液機構)53の開口位置での法線方向Nに対してボア(格納室)45の径方向外側から径方向内側へ向かって作動室Cの進行方向側へ傾斜した仮想平面V1に沿って液体が拡散するように第1及び第2の噴射孔(一対の噴射孔)61、62を構成したので、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上効果を安定して得ることができる。
【0052】
また、本実施の形態によれば、第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62を、雄ロータ2又は雌ロータ3の歯溝の幅方向に対して平行な方向に並ぶように配置したので、両噴射孔61、62からそれぞれ噴射されて衝突した液体を雄ロータ2又は雌ロータ3の歯溝の長手方向へ拡散させることができる。すなわち、作動室C内に噴射した液体をより広範囲に拡散させることができる。これにより、作動室内の圧縮気体の給液による冷却効果が更に向上すると共に、雄ロータ2及び雌ロータ3と本体ケーシング4の内壁面との隙間がより広範囲に封止される。その結果、圧縮機エネルギ効率を更に向上することができる。
【0053】
また、本実施の形態によれば、第1の噴射孔61を第2の噴射孔62よりも作動室Cの進行方向側に位置させ、且つ、第1の噴射孔61をボア45における給液路(給液機構)53の開口位置での法線方向Nに対して平行な方向に延在させると共に、第2の噴射孔62を法線方向Nに対して上流側から下流側に向かって作動室Cの進行方向側(雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側)へ傾斜するように構成したので、第2の噴射孔62から噴射される液体の流量が減少しても、作動室Cの進行方向とは逆側へ傾斜する仮想平面、すなわち、第2比較例の給液機構における仮想平面V3と同様な方向へ傾く仮想平面に沿って液体が拡散することを確実に回避することができる。したがって、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上効果を確実に得ることができる。
【0054】
また、本実施の形態によれば、給液機構が雄側ボア45aに開口する一対の噴射孔61、62及び雌側45bに開口する一対の噴射孔61、62を備えるので、雌雄両ロータ2、3の作動室C内の圧縮気体が冷却されると共に、雄ロータ2とボア45の第1内周面46との隙間及び雌ロータ3とボア45の第2内周面47との隙間の両方が広範囲に封止される。したがって、圧縮機エネルギ効率の向上効果を得ることができる。
【0055】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機について図11及び図12を用いて例示説明する。図11は、本発明の第2の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機における給液機構を拡大した状態で示す断面図である。図12は、図11に示す本発明の第2の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構の上面図である。図11及び12中、左側が給液式スクリュー圧縮機の吸込側、右側が吐出側である。なお、図11及び図12において、図1図10に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0056】
図11図12に示す第2の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機が第1の実施の形態の給液式スクリュー圧縮機(図3図5を参照)と異なる点は、給液ノズル60Aの第1の噴射孔61Aの延在方向をボア45の第1内周面46又は第2内周面47における給液路53の開口位置での法線方向N(図11中、上下方向)に対して略平行な方向から下流側が第2の噴射孔62に近づく方向へ傾斜するように変更したことである。
【0057】
具体的には、第1の噴射孔61Aは、法線方向Nに対して上流側から下流側に向かって作動室Cの進行方向とは逆側(図11及び図12中、左側)へ傾斜するように延在している。第1の噴射孔61A及び第2の噴射孔62は、両噴射孔61A、62の流路圧損(流路長及び流路断面積)を考慮することで、両噴射孔61A、62からそれぞれ噴射されて衝突した液体が仮想平面V1Aに沿って拡散するように構成されている。仮想平面V1Aは、両中心軸線61zA、62zを含む平面P1に直交すると共に両中心軸線61zA、62zが交差する交点Iを含み、且つ、法線方向Nに対して、ボア45の径方向外側(図11中、下側)から径方向内側(図11中、上側)に向かって作動室C(雌雄両ロータ2、3の歯溝)の進行方向側、すなわち、雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側(図11及び図12中、右側)へ傾斜する平面である。換言すると、第1の噴射孔61A及び第2の噴射孔62は、第1の噴射孔61Aから噴射する流体の運動量M1Aと第2の噴射孔62から噴射する流体の運動量M2のベクトル和MsAの向きが法線方向Nに対して作動室Cの進行方向側(雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側)へ傾斜するように構成されている。
なお、給液ノズル60Aの第1の噴射孔61A及び第2の噴射孔62の配置は、第1の実施の形態の給液ノズル60と同様である。
【0058】
また、第1の噴射孔61Aをその下流側が法線方向Nに対して第2の噴射孔62に近づく方向へ傾斜するように変更したことに伴い、給液ノズル60Aの凹部65Aの第1加工面66Aを法線方向Nに略直交する平面から第2加工面67の傾斜方向とは反対側へ傾斜する平面としている。
【0059】
本実施の形態においては、給液ノズル60Aの第1の噴射孔61Aからは、第1の実施の形態の給液ノズル60の第1の噴射孔61とは異なり、雌雄両ロータ2、3の歯溝(作動室C)の進行方向とは逆側(図11及び図12中、左側)へ向かって液体が噴射される。一方、第2の噴射孔62からは、第1の実施の形態の給液ノズル60の第2の噴射孔62と同様に、雌雄両ロータ2、3の歯溝(作動室C)の進行方向側へ向かって液体が噴射される。両噴射孔61A、62から噴出された液体は、交点Iの辺りで衝突することで指向性もって作動室C内を拡散する。具体的には、衝突した液体は、仮想平面V1Aに沿って扇状に拡散する。この仮想平面V1Aは、平面P1に直交すると共に交点Iを含み、且つ、法線方向Nに対して、ボア45の径方向外側から径方向内側に向かって作動室Cの進行方向側へ傾斜する平面である。
【0060】
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、ボア45における給液路(給液機構)53の開口位置での法線方向Nに対してボア45の径方向外側から径方向内側へ向かって作動室Cの進行方向側へ傾斜した仮想平面V1Aに沿って液体が拡散するように第1及び第2の噴射孔(一対の噴射孔)61A、62を構成したので、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上効果を安定して得ることができる。
【0061】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機について図13を用いて例示説明する。図13は、本発明の第3の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機を示す断面図である。図13中、左側が給液式スクリュー圧縮機の吸込側、右側が吐出側である。図13に示す給液機構は雄側ボアに液体を供給するものであるが、雌側ボアに液体を供給する給液機構も同様な構造である。なお、図13において、図1図12に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0062】
図13に示す第3の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機が第1の実施の形態の給液式スクリュー圧縮機(図2を参照)と異なる点は、給液ノズル60Bの配置をボア45の軸方向中央部の位置からボア45の吐出側端面49の近傍に変更すると共に、第1の噴射孔61B及び第2の噴射孔62Bの並びを雌雄両ロータ2、3の歯溝の幅方向に対して略平行な方向から雌雄両ロータ2、3の軸方向に対して略平行となるように給液ノズル60Bの配置を変更したことである。
【0063】
具体的には、給液機構の給液路53Bは、メインケーシング41の底部側(下部側)ではなく、メインケーシング41の側壁部に設けられている。また、給液路53Bは、ボア45の軸方向中央部の位置ではなく、ボア45の吐出側端面49に近接した位置に開口している。
【0064】
給液路53Bの下流側端部(ボア45側端部)には、第1の実施の形態と同様な構造の給液ノズル60Bが着脱可能に取り付けられている。給液ノズル60Bは、第1の噴射孔61Bが第2の噴射孔62Bよりも雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側(図13中、右側)に位置するように配置されている。また、給液ノズル60Bは、両噴射孔61B、62Bの中心軸線(図13では図示せず)を含む平面P1Bに対して直交する方向がボア45の吐出側端面49に対して略平行になるように配置されている。換言すると、給液ノズル60Bは、第1の噴射孔61B及び第2の噴射孔62Bが雌雄両ロータ2、3の軸方向(図13中、左右方向)に並ぶように配置されている。
【0065】
第1の噴射孔61B及び第2の噴射孔62Bは、両噴射孔61B、62Bからそれぞれ噴射されて衝突した液体が所定の仮想平面に沿って拡散するように構成されている。この仮想平面は、第1の実施の形態の仮想平面V1(図3及び図4を参照)と同様に、平面P1Bに直交すると共に、ボア45の給液路53Bの開口位置での法線方向に対して、ボア45の径方向外側から径方向内側に向かって作動室C(雌雄両ロータ2、3の歯溝)の進行方向側、すなわち、雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側へ傾斜する平面である。
【0066】
本実施の形態においては、給液路53Bに供給された液体が給液ノズル60Bを介して作動室Cへ噴射される。給液ノズル60Bの第1の噴射孔61B及び第2の噴射孔62Bから噴出された液体は、衝突することで指向性もって作動室C内を拡散する。具体的には、衝突した液体は、第1の実施の形態の仮想平面V1と同様な仮想平面に沿って扇状に拡散する。この仮想平面が第1の実施の形態の仮想平面V1と相違する点は、第1の実施の形態の給液ノズル60における平面P1(図2参照)に直交するのではなく、平面P1Bに直交することである。
【0067】
第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、ボア45における給液路(給液機構)53Bの開口位置での法線方向に対してボア45の径方向外側から径方向内側へ向かって作動室Cの進行方向側へ傾斜した仮想平面に沿って液体が拡散するように第1及び第2の噴射孔(一対の噴射孔)61B、62Bを構成したので、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上効果を安定して得ることができる。
【0068】
また、本実施の形態によれば、給液ノズル60Bの第1の噴射孔61B及び第2の噴射孔62Bを雌雄両ロータ2、3の軸方向に対して平行な方向に並ぶように配置したので、両噴射孔61B、62Bから噴射されて衝突した液体が平面P1Bに直交する方向、すなわち、ボア45の吐出側端面49に対して平行な方向に拡散する。したがって、ボア45の吐出側端面49に近接する位置に給液ノズル60Bを配置する場合に、衝突させた液体の側方への拡散がボア45の吐出側端面49への衝突によって阻害されることを抑制することができる。
【0069】
[第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機について図14を用いて例示説明する。図14は、本発明の第4の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機を示す断面図である。図14中、左側が給液式スクリュー圧縮機の吸込側、右側が吐出側である。なお、図14において、図1図13に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0070】
図14に示す第4の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機が第1の実施の形態の給液式スクリュー圧縮機(図2を参照)と異なる点は、雄側ボア45a及び雌側ボア45bに対してそれぞれ給液機構の給液ノズル60Cを複数(図14中、4つずつ)配置したことである。なお、給液ノズル60Cの構造は、第1の実施の形態の給液ノズル60又は第2の実施形態の給液ノズル60Aと同様の構造である。
【0071】
具体的には、複数の給液路53Cは、例えば、メインケーシング41の底部側(下部側)に設けられており、ボア45の第1内周面46及び第2内周面47に互いに離隔して開口している。各給液路53Cにはそれぞれ給液ノズル60Cが取り付けられている。複数の給液路53C及び給液ノズル60Cは、複数の圧縮行程の作動室Ce、Cf、Cgに対応するように配置されている。
【0072】
例えば、吸込行程の作動室Cxに隣接する圧縮行程の第1作動室Ceには、1つずつ給液路53C及び給液ノズル60Cが配置されている。第1作動室Ceに対して軸方向吐出側に隣接し第1作動室Ceよりも高圧の第2作動室Cfでは、雄側ボア45aに対して1つの給液路53C及び給液ノズル60Cが配置されている一方、雌側ボア45bに対して2つの給液路53C及び給液ノズル60Cが配置されている。第2作動室Cfに対して軸方向吐出側に隣接し第2作動室Cfよりも高圧の第3作動室Cgでは、雄側ボア45aに対して2つの給液路53C及び給液ノズル60Cが配置されている一方、雌側ボア45bに対して1つの給液路53C及び給液ノズル60Cが配置されている。なお、吸込行程の作動室Cx及び吐出行程の作動室Cyには、給液路及び給液ノズルを設けていない。
【0073】
本実施の形態においては、相対的に高圧の作動室に開口する複数の給液ノズル60Cの開口面積(第1の噴射孔及び第2の噴射孔の開口面積の和)の総和が相対的に低圧の作動室に開口する複数の給液ノズル60Cの開口面積の総和よりも大きくなるように設定されている。なお、各作動室Ce、Cf、Cgに配置された給液ノズル60Cの個々の開口面積は同一である必要はない。
【0074】
具体的には、複数の給液ノズル60Cは、例えば、各給液ノズル60Cの略中心からボア45の吸込側端面48までの距離と各給液ノズル60Cの開口面積との関係が下記の数式1を満たすように構成されている。ここで、各給液ノズル60Cの略中心からボア45の吸込側端面48までの距離をそれぞれ、LMe1、LFe1、LMf1、LFf1、LFf2、LMg1、LMg2、LFg1とする。また、各給液ノズル60Cの開口面積をそれぞれ、AMe1、AFe1、Af1、AFf1、AFf2、AMg1、AMg2、AFg1とする。また、各給液ノズル60Cのボア45の吸込側端面48までの距離のうち、最小の距離をLmin、最大の距離をLmaxとする。
【0075】
【数1】
【0076】
なお、給液ノズル60Cの給液路53Cに対する取付角度(第1の噴射孔及び第2の噴射孔の並び)は、取り付ける給液路53Cの位置に応じて設定することが可能である。例えば、第1作動室Ce及び第2作動室Cfに対する給液ノズル60Cでは、第1の実施の形態と同様に設定する一方、第3作動室Cgに対するある給液ノズル60Cでは、第3の実施の形態と同様に設定する。
【0077】
次に、第4の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の作用及び効果を説明する。
【0078】
相対的に高圧側の第3作動室Cgでは、低圧側の第1作動室Ceや第2作動室Cfに比べて内部圧力が高くなるので、その分、給液ノズル60Cにおける供給差圧(外部給液系統90の供給圧と作動室内の圧力との差分)が小さくなる。給液ノズル60Cの供給差圧が相対的に小さくなると、その分、高圧側の第3作動室Cgに配置された給液ノズル60Cの給液量が相対的に少なくなることが懸念される。
【0079】
しかし、本実施の形態においては、高圧側の第3作動室Cgに位置する複数の給液ノズル60Cの開口面積の総和を低圧側の第1作動室Ceや第2作動室Cfに位置する複数の給液ノズル60Cの開口面積の総和よりも大きくなるように設定している。給液ノズル60Cの総開口面積が大きくなると、その分、液体噴射の際の圧力損失が低減される。したがって、高圧側の第3作動Cg室に位置する給液ノズル60Cでは、低圧側の作動室Ce、Cfに位置する給液ノズル60Cよりも相対的に供給差圧が小さくても、高圧側の第3作動室Cgへの給液量の減少を抑制するができる。
【0080】
なお、第4の実施の形態においては、給液ノズル60Cの構造が第1の実施の形態の給液ノズル60と同様な構造なので、第1の実施の形態と同様な効果を得ることができる。
【0081】
[第5の実施の形態]
次に、第5の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機について図15を用いて例示説明する。図15は、本発明の第5の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機を示す断面図である。図15中、下側が給液式スクリュー圧縮機の吸込側、上側が吐出側である。なお、図15において、図1図14に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0082】
図15に示す第5の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機は、第1の実施の形態の給液式スクリュー圧縮機の圧縮機本体1がツインロータ型の圧縮機であるのに対して(図2参照)、圧縮機本体1Dがシングルロータ型の圧縮機である。本実施の形態では、シングルロータ型の圧縮機本体1Dに対して、第1の実施の形態の給液機構と同様な給液機構が適用されている。
【0083】
具体的には、シングルロータ型の圧縮機本体1Dは、螺旋状の歯溝を複数有する1つのスクリューロータ102と、スクリューロータ102と噛み合う2つのゲートロータ103と、スクリューロータ102及び2つのゲートロータ103を収容するケーシング104とを備えている。2つのゲートロータ103は、スクリューロータ102を挟んで対称な位置に配置されている。ケーシング104は、スクリューロータ102を格納する格納室としてのボア105を内部に有している。ボア105の壁面とスクリューロータ102の歯溝とゲートロータ103とで複数の作動室Cが形成されている。ボア105におけるスクリューロータ102の軸方向(図15中、上下方向)の一方側(図15中、下側)は、開口しており、作動室Cに気体を吸い込む吸込ポート107として機能する。ボア105の内周面における軸方向の一方側端部(図15中、上側端部)には、作動室Cからボア105外へ圧縮気体を吐出するための吐出ポート108が設けられている。
【0084】
ケーシング104には、圧縮機本体1Dの外部から供給される液体を作動室Cへ供給する給液機構が設けられている。給液機構は、外部から供給される液体を作動室Cへ導く給液路53Dを備えている。給液路53Dは、例えば、ボア105の壁面における作動室Cが圧縮行程となる領域に開口している。
【0085】
給液路53Dの下流側端部(ボア105側端部)には、給液路53Dを流れる液体を作動室Cへ噴射する給液ノズル60Dが着脱可能に取り付けられている。給液ノズル60Dは、第1の実施の形態と同様な構造の噴流衝突型ノズルである。
【0086】
すなわち、一対の噴射孔としての第1の噴射孔61D及び第2の噴射孔62Dは、互いの中心軸線(図示せず)が同一の平面P1D内に位置して両噴射孔61D、62Dのボア105側の外部で交差するように形成されている。給液ノズル60Dは、第1の噴射孔61Dが第2の噴射孔62Dよりもスクリューロータ102の軸方向吐出側(図15中、上側)に位置するように配置されている。また、給液ノズル60Dは、平面P1に直交する方向がスクリューロータ102の歯溝の長手方向に対して略平行となるように配置されている。換言すると、給液ノズル60Dは、両噴射孔61D、62Dがスクリューロータ102の歯溝の幅方向に対して平行な方向に並ぶように配置されている。また、第1の噴射孔61D及び第2の噴射孔62Dは、両噴射孔61D、62Dからそれぞれ噴射されて衝突した液体が第1の実施の形態の給液ノズル60の仮想平面V1と同様な仮想平面に沿って拡散するように構成されている。換言すると、仮想平面は、平面P1Dに直交すると共に、ボア105における給液路53Dの開口位置での法線方向に対して、ボア105の径方向外側から径方向内側に向かって作動室C(スクリューロータ102の歯溝)の進行方向側、すなわち、スクリューロータの軸方向吐出側(図15中、上側)へ傾斜する平面である。
【0087】
第5の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様に、ボア105における給液路(給液機構)53Dの開口位置での法線方向に対してボア105の径方向外側から径方向内側へ向かって作動室Cの進行方向側へ傾斜した仮想平面に沿って液体が拡散するように第1及び第2の噴射孔(一対の噴射孔)61D、62Dを構成したので、衝突させた液体の拡散による圧縮機エネルギ効率の向上効果を安定して得ることができる。
【0088】
[その他の実施の形態]
なお、本発明は、上述した実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。すなわち、ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0089】
例えば、上述した第1~第4の実施の形態においては、ツインロータ型の給液式スクリュー圧縮機を例に説明したが、トリプルロータ型等の3つ以上のスクリューロータを備える給液式スクリュー圧縮機に本発明を適用することができる。
【0090】
また、上述した第1~第5の実施の形態においては、ボア45の壁面の法線方向に対して平行な方向に延在するように給液路53、53B、53C、53Dを構成した例を示したが、給液路を当該法線方向に対して傾斜するように形成することも可能である。
【0091】
また、上述した第1の実施の形態においては、第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62の並び方向を雌雄両ロータ2、3の歯溝の幅方向に対して略平行となるように給液ノズル60を配置した例を示した。また、第3の実施の形態においては、第1の噴射孔61B及び第2の噴射孔62Bの並び方向を雌雄両ロータ2、3の軸方向に対して略平行となるように給液ノズル60Bを配置した例を示した。第1の噴射孔及び第2の噴射孔の並び方向を両噴射孔から噴射した液体の衝突による拡散を阻害しない範囲で変更することが可能である。雌雄両ロータ2、3の歯形の諸元によっては、歯先線がボア45の吐出側端面49の近傍で吐出側端面49に対して平行な方向に近くなるように構成されることがある。また、雄側ボア45a及び雌側ボア45bの両方に対する給液ノズルの配置を考慮する必要もある。したがって、給液ノズルを取り付ける給液路のボア45の開口位置に応じて、第1の噴射孔及び第2の噴射孔の並び方向を変更することが考えられる。
【0092】
具体的には、給液ノズルを、第1の噴射孔及び第2の噴射孔の並び方向を雌雄両ロータ2、3の軸方向に対して平行な場合を0°として給液路53の軸方向に平行な軸で-90°未満から+90°未満までの範囲内で回転させた方向となるように配置することが可能である。すなわち、第3の実施の形態の給液ノズル60Bの給液路53Bに対する取付の回転角度を0°として、給液ノズル60Bを-90°未満から+90°未満までの範囲内で回転させて給液路53Bに取り付けることが可能である。このような給液ノズルの配置では、第1及び第2の噴射孔から噴射されて衝突した液体が法線方向Nに対してボア45の径方向外側から径方向内側へ向かって作動室Cの進行方向側へ傾斜する仮想平面に沿って拡散することを維持することができる。また、給液路のケーシングに対する設置位置に応じて給液ノズルの給液路に対する取付回転角度を当該範囲内で調整することで、両噴射孔から噴射した液体の衝突による拡散を阻害させずにより広範囲にすることが可能である。
【0093】
また、上述した第4の実施の形態においては、相対的に高圧の作動室における給液ノズル60Cの配置数を低圧の作動室よりも多くする構成の例を示した。しかし、相対的に高圧の作動室における給液ノズル60Cの配置数を低圧の作動室よりも少なくする構成も可能である。
【0094】
また、上述した第1~第4の実施の形態においては、給液機構が複数の給液路53、53B、53C及び各給液路53、53B、53Cにそれぞれ取り付けた給液ノズル60、60A、60B、60Cを備えた構成の例を示したが、少なくとも1つの給液路及び給液ノズルを備える構成が可能である。
【0095】
また、上述した実施の形態においては、給液路53、53B、53C、53Dの下流端部に第1の噴射孔61、61A、61B、61D及び第2の噴射孔62、62B、62Dを有する給液ノズル60、60A、60B、60C、60Dを着脱可能に取り付ける構成の給液機構の例を示した。しかし、給液機構は、図16及び図17に示すように、第1の噴射孔61E及び第2の噴射孔62Eを本体ケーシング4に直接加工する構成も可能である。図16は、本発明のその他の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構を示す断面図である。図17は、図16に示すその他の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構をXVII-XVII矢視から見た断面図である。図16中、左側が給液式スクリュー圧縮機の吸込側、右側が吐出側である。
【0096】
具体的には、ケーシング4の給液路53Eは、ボア45に接続されない先止まりの穴部である。ケーシング4の第1内周面46又は第2内周面47には、第1の噴射孔61E及び第2の噴射孔62Eをケーシング4に直接加工するための凹部65Eが設けられている。凹部65Eは、ボア45における給液機構の開口位置(設置位置)での法線方向N(図16及び図17中、上下方向)に対して略直交する第1加工面66Eと、第1加工面66Eに対して傾斜する第2加工面67Eとを有している。第1の噴射孔61E及び第2の噴射孔62Eはそれぞれ第1加工面66E及び第2加工面67Eに開口している。第1の噴射孔61E及び第2の噴射孔62Eは、給液路53Eに連通している。
【0097】
第1の噴射孔61E及び第2の噴射孔62Eは、第1の実施形態の給液ノズル60の第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62の構造と同様なものである。すなわち、第1の噴射孔61E及び第2の噴射孔62Eは、互いの中心軸線61z、62zが同一の平面P1E内に位置して両噴射孔61E、62Eのボア45側の外部の交点Iで交差するように形成されている。第1の噴射孔61Eは、第2の噴射孔62Eよりも雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側(図16中、右側)に位置するように配置されている。また、第1の噴射孔61E及び第2の噴射孔62Eは、両噴射孔61E、62Eからそれぞれ噴射されて衝突した液体が仮想平面V1Eに沿って拡散するように構成されている。仮想平面V1Eは、平面P1Eに直交すると共に交点Iを含み、且つ、法線方向Nに対して、ボア45の径方向外側(図16及び図17中、下側)から径方向内側(図16及び図17中、上側)に向かって作動室Cの進行方向側、すなわち、雌雄両ロータ2、3の軸方向吐出側へ傾斜する平面である。
【0098】
このような第1の噴射孔61E及び第2の噴射孔62Eをケーシング4に直接加工する構成の給液機構においても、第1の実施の形態の第1の噴射孔61及び第2の噴射孔62を有する給液ノズル60を給液路53に着脱可能に取り付ける構成の給液機構を備える第1の実施の形態と、同様な作用及び効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0099】
1、1D…圧縮機本体、 2…雄ロータ(スクリューロータ)、 3…雌ロータ(スクリューロータ)、 4…本体ケーシング(ケーシング)、 45…ボア(格納室)、 45a…雄側ボア(第1格納室)、 45b…雌側ボア(第2格納室)、 53、53B、53C、53D、53E…給液路、 60、60A、60B、60C、60D…給液ノズル、 61、61A、61B、61D、61E…第1の噴射孔(一対の噴射孔)、61z、61zA…中心軸線、 62、62B、62D、62E…第2の噴射孔(一対の噴射孔)、 62z…中心軸線、 102…スクリューロータ、 104…ケーシング、 105…ボア(格納室)、 C…作動室、 Ce…第1作動室(作動室)、 Cf…第2作動室(作動室)、 Cg…第3作動室(作動室)、 P1、P1B、P1D、P1E…同一の平面、 V1、V1A、V1E…仮想平面、 N…法線方向、 Ms、MsA…運動量のベクトル和
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17