(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】合成シリカガラス製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 8/04 20060101AFI20220915BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C03B8/04 H
C03B8/04 G
C03B8/04 Z
C01B33/12 Z
(21)【出願番号】P 2018227131
(22)【出願日】2018-12-04
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592104944
【氏名又は名称】クアーズテック徳山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】足立 定弘
(72)【発明者】
【氏名】千々松 孝
(72)【発明者】
【氏名】生野 浩人
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-041231(JP,A)
【文献】特開2012-232868(JP,A)
【文献】特開平10-236835(JP,A)
【文献】特開2009-067660(JP,A)
【文献】特開2003-073131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04
C01B 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物製の炉体と、前記炉体内部に設置されたインゴット形成用のターゲットと、前記炉体内に原料ガスと支燃性ガスと可燃性ガスを導出して火炎流を形成するシリカガラス合成用のバーナと、を備えた合成シリカガラス製造装置であって、
前記バーナは、少なくとも原料ガスを導出する内筒管と、前記可燃性ガスと前記支燃性ガスの少なくとも、いずれか1つのガスを導出する外筒管を備え、
前記炉体は、筒状の側壁部と、前記側壁部の上部を閉塞する天井部とから構成され、前記天井部には前記外筒管が挿入される貫通孔が設けられており、
前記貫通孔の内周側壁に、前記外筒管の先端の端面部と当接して前記バーナを保持する段差部が設けられて
おり、
前記貫通孔が、天井部の炉内側に形成された直径の小さい小貫通穴と、天井部の炉外側に形成された、前記小貫通穴よりも直径が大きい大貫通穴を備え、
前記段差部は、小貫通穴と大貫通穴の直径の差に形成され、
前記小貫通穴と前記大貫通穴の半径の長さ寸法差によって生じる、大貫通穴の壁から径方向に向う前記段差部の先端までの長さは、前記外筒管端面部における管肉厚の80~100%であり、
前記段差部を形成する小貫通穴の軸方向における長さ寸法が、0.5mmを超える寸法である
ことを特徴とする合成シリカガラス製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成シリカガラス製造装置に関し、特に、バーナの特定の取り付け構造を備えた合成シリカガラス製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学用途に好適な合成シリカガラスを製造する方法として、四塩化ケイ素等のシリカ原料をバーナから噴出し、これらを加水分解反応させて生成したシリカガラス微粒子をターゲット上に堆積することで合成シリカガラスのインゴットを形成し、これを成型、切削、研磨することにより所望の形状とする方法が、一般的に知られている。
【0003】
上記の方法における合成シリカガラス製造装置として、特許文献1に、
図1に示すような炉体構造を有する合成シリカガラス製造装置が示されている。
図1に示す合成シリカガラス製造装置1は、炉体2を炉の側壁部3と天井部4を備え、前記天井部4にはインゴット合成用のバーナ5が設置されている。また、炉体2の内部にはターゲット6が設置されている。
そして、合成シリカガラスインゴット製造装置1はバーナ5によって生成されるシリカガラス微粒子をターゲット6に堆積させることにより、インゴットXを形成する。尚、炉体2の下部には、排気ポート7が設けられている。
【0004】
上記合成シリカガラス製造装置1では、ターゲット6上に堆積されなかった浮遊シリカガラス微粒子は、炉体2の下部に設けられた排気ポート7から排気処理装置(スクラバー等)へと排気される。
しかしながら、浮遊シリカガラス微粒子の一部が、シリカガラス合成用バーナ5の先端の外周部に付着し、その付着したシリカガラス微粒子が合成中のインゴットXに落下、混入し、その結果、異物や泡となってインゴットXの品質の低下を生じせることがあった。即ち、インゴットXに脈理、内部欠陥が生じ、高品質な合成シリカガラスを得ることができないという課題があった。
【0005】
この課題の解決方法として、特許文献1には、少なくとも原料ガスを導出するバーナ内筒管と、少なくとも可燃性あるいは支燃性ガスを導出するバーナ外筒管を備え、前記バーナ外筒管からのガスの導出によって、バーナ内筒管の外周面に沿って下方向に向かう第1の火炎流が形成され、更に天井部には複数のガス導出孔が設けられると共に、前記ガス導出孔からのガスの導出によって、ガス導出孔から垂直下方向に向かう第2の火炎流が形成される合成シリカガラスの製造装置についても提案されている。
【0006】
この合成シリカガラスの製造装置にあっては、シリカガラス合成用のバーナによって炉の下方向に向かう第1の火炎流が形成されると共に、天井部の複数のガス導出孔によって炉の垂直下方向に向かう第2の火炎流が形成されるため、炉の側壁、天井部、シリカガラス合成用のバーナ等へのシリカガラス微粒子の付着が抑制される。
その結果、浮遊シリカガラス微粒子のインゴット合成面(溶融シリカ付着面)への付着が抑制され、脈理や内部欠陥が抑制された、高品質な合成シリカガラスを製造できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1記載の合成シリカガラスの製造装置では、シリカガラス合成用のバーナによって炉の下方向に向かう第1の火炎流と、天井部の複数のガス導出孔によって炉の垂直下方向に向かう第2の火炎流とを形成している。
その際、炉内で発生する上昇流を抑え、炉下部に向けたガス流れを形成するために、炉内における可燃性あるいは支燃性ガスのガス流速を速くすること、言い換えれば、大量の可燃性あるいは支燃性ガスを必要するという課題があった。
【0009】
一方、炉内における可燃性あるいは支燃性ガスのガス流速が速い場合には、炉内における原料ガスの流れに乱れが生じ、ターゲット上に堆積するシリカガラスの堆積率が悪化するという課題があった。
また、多量の可燃性あるいは支燃性ガスを使用することから、コストアップにつながるという課題があった。更に、第1の火炎流及び第2の火炎流を生じさせるために、シリカガラス合成用のバーナや天井部の構成が複雑になり、合成シリカガラスの製造装置が高価になるという課題があった。
【0010】
一方、この合成シリカガラスの製造装置において、可燃性あるいは支燃性ガスのガス流速を遅くした場合には、
図1に示す合成シリカガラス製造装置と同様に、バーナの先端に浮遊シリカガラス微粒子が付着することを回避できず、脈理や内部欠陥が抑制された高品質な合成シリカガラスを製造できない、という課題があった。
またバーナが石英ガラス製である場合には、バーナ先端に付着したシリカガラス微粒子がガラス化して冷却過程で、熱伝導性の不均一化によって、バーナ先端部に細かなクラックが発生し、更にバーナ先端に多量のシリカガラス微粒子が付着した場合には、バーナを取り外す際にバーナが貫通孔から抜けなくなって破損する、という課題があった。
【0011】
本発明者らは、上記技術的課題を解決するために、簡易な構造の合成シリカガラス製造装置であって、炉内における可燃性あるいは支燃性ガスのガス流速によることなく、原料ガス、可燃性あるいは支燃性ガスを導入するバーナの先端に、前記シリカガラス微粒子が付着し難い、合成シリカガラスの製造装置を鋭意研究した。
その結果、バーナの先端を炉内に露出させないという全く新たな発想に基づき、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、上記したように、簡易な構造で、高品質のシリカガラスインゴットの製造を可能とする合成シリカガラス製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明にかかる合成シリカガラス製造装置は、耐火物製の炉体と、前記炉体内部に設置されたインゴット形成用のターゲットと、前記炉体内に原料ガスと支燃性ガスと可燃性ガスを導出して火炎流を形成するシリカガラス合成用のバーナと、を備えた合成シリカガラス製造装置であって、前記バーナは、少なくとも原料ガスを導出する内筒管と、前記可燃性ガスと前記支燃性ガスの少なくとも、いずれか1つのガスを導出する外筒管を備え、前記炉体は、筒状の側壁部と、前記側壁部の上部を閉塞する天井部とから構成され、前記天井部には前記外筒管が挿入される貫通孔が設けられており、前記貫通孔の内周側壁に、前記外筒管の先端の端面部と当接して前記バーナを保持する段差部が設けられており、前記貫通孔が、天井部の炉内側に形成された直径の小さい小貫通穴と、天井部の炉外側に形成された、前記小貫通穴よりも直径が大きい大貫通穴を備え、前記段差部は、小貫通穴と大貫通穴の直径の差に形成され、前記小貫通穴と前記大貫通穴の半径の長さ寸法差によって生じる、大貫通穴の壁から径方向に向う前記段差部の先端までの長さは、前記外筒管端面部における管肉厚の80~100%であり、前記段差部を形成する小貫通穴の軸方向における長さ寸法が、0.5mmを超える寸法であることを特徴としている。
【0014】
このように本発明にかかる合成シリカガラス製造装置は、炉体の天井部には前記外筒管が挿入される貫通孔が設けられており、前記貫通孔の内周側壁に、前記外筒管の先端の端面部と当接して前記外筒管を保持する段差部が設けられ、外筒管の先端が炉内に露出していないため、外筒管の先端に浮遊シリカガラス微粒子が付着し難く、高品質な合成シリカガラスを製造することができる。
【0015】
ここで、前記貫通孔が、天井部の炉内側に形成された直径の小さい小貫通穴と、天井部の炉外側に形成された、前記小貫通穴よりも直径が大きい大貫通穴を備え、前記段差部は、小貫通穴と大貫通穴の直径の差に形成される。
このように、前記段差部を小貫通穴と大貫通穴の直径の差によって形成でき、簡易な構造で、外筒管の先端に浮遊シリカガラス微粒子が付着し難い合成シリカガラス製造装置を得ることができる。
【0016】
また、前記段差部を形成する小貫通穴の軸方向における長さ寸法が、0.5mmを超える寸法である。
更に、前記小貫通穴と前記大貫通穴の半径の長さ寸法差によって生じる、大貫通穴の側壁から径方向に向う前記段差部の先端までの長さは、前記外筒管端面部における管肉厚の80~100%である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構造で、高品質のシリカガラスインゴットの製造を可能とする合成シリカガラス製造装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】従来技術に係る合成シリカガラス製造装置の概略構成を示す模式図。
【
図2】本発明にかかる一実施形態の概略構成を示す模式図。
【
図4】本発明にかかる一実施形態の第1の態様に係る段差部の模式図。
【
図5】本発明にかかる一実施形態の第2の態様に係る段差部の模式図。
【
図6】本発明にかかる一実施形態の第3の態様に係る段差部の模式図。
【
図7】本発明にかかる一実施形態の第4の態様に係る段差部の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明にかかる一実施形態を、
図2乃至
図8に基づいて説明する。尚、
図2乃至
図8は、説明のために形状を模式的に表したものであり、本発明は、図示した形状、寸法等に限定されるものではない。また、本発明の説明に不要な、その他の装置や部材の説明、図示は省略している。
【0020】
図2は、本発明に係る合成シリカガラス製造装置の概略構成を示す模式図である。
図2に示すように、合成シリカガラス製造装置10は、耐火物製の炉体11と、炉体11内部に設置されたインゴット形成用のターゲット12と、炉体11内に原料ガスと支燃性ガスと可燃性ガスを導出して火炎流を形成するシリカガラス(インゴット)合成用のバーナ13と、を備えている。尚、
図2のバーナ13の詳細は、
図3に示す。
【0021】
また、炉体11は、筒状の側壁部14と、側壁部14の上部を閉塞する天井部15とから構成され、天井部15には、シリカガラス合成用のバーナ13の外筒管13Aが挿入される貫通孔16が設けられている。
この貫通穴16の直径は、天井部15の炉内側が小さく、天井部15の炉外側が大きく形成されている。
即ち、天井部14の炉内側に小貫通穴16aが形成され、また天井部14の炉外側に大貫通穴16bが形成されることにより、天井部14の内部に小貫通穴16aと大貫通穴16bの直径の差による、段差部Aが形成される。
そして、外筒管13の先端部は大貫通穴16bの内周側壁によって保持されると共に、外筒管13の先端の端面部が前記段差部Aに当接し、外筒管13の先端が炉内部に露出しないようになされる。
【0022】
このように、外筒管13Aの先端の端面部と当接する段差部Aが設けられ、外筒管13Aの先端が炉内に露出しない構造となっているので、炉内に存在するシリカガラス微粒子が外筒管13Aの先端に付着しない。
しかも、シリカガラス合成用のバーナ13が天井部15の下面から炉の内部に突出しないため、前記バーナ13からのガス流に、好ましくない気流の乱れが発生するのを抑制できる。
【0023】
尚、この段差部Aの炉内側の面は、天井部15の下面(炉側内面)と面一に形成され、天井部15の下面から下方(炉内)に突出しないように形成されている。段差部Aの炉内側の面が、天井部15の下面から突出する場合には、バーナ13からのガス流に、好ましくない気流の乱れが発生するため、望ましいものとはいえない。
但し、設計上の誤差の範囲で僅かに下方に突出する程度であれば、問題にならない。この場合の誤差は、外筒管13Aの直径によるが、例えば、
図4に示す小貫通穴16aの長さ寸法D1の2%以内であることが望ましい。
【0024】
また、段差部Aは天井部15に貫通穴16を形成することによって形成されるため、天井部15と同一材料であるが、本発明はこれに限定されるものではない、例えば、貫通穴16を形成した部材を天井部15と異なる材料で形成し、貫通穴16を形成した部材を天井部15に組み付けても良い。
【0025】
次に、本発明にかかる合成シリカガラス製造装置に用いられるシリカガラス合成用のバーナの一例を、
図3に基づいて説明する。
シリカガラス合成用のバーナ13は、バーナ内筒管13B内に、原料ガスを供給するソースノズル13aと、前記ソースノズル13aを中心部に収容し、可燃性ガスを供給する可燃性ガスノズル13bと、前記可燃性ガスノズル13b内に前記ソースガスノズル13aを囲うように配置され、支燃性ガスを供給する複数の支燃性ガスノズル13cを形成し、シリカガラス合成用のバーナ13のバーナ内筒管13Bから原料ガス、可燃性ガス、支燃性ガスを供給するように形成されている。
【0026】
また、バーナ内筒管13Bの外側には、少なくとも可燃性ガス、支燃性ガスのいずれかを供給するバーナ外筒管13Aが設けられている。
尚、本発明にかかる合成シリカガラス製造装置に用いられるシリカガラス合成用のバーナは、
図3に示したバーナの限定されるものではなく、例えば、バーナを二重管とし、バーナ内筒管13Bから原料ガスを供給し,バーナ外筒管13Aから可燃性ガス、支燃性ガスを供給する、シリカガラス合成用のバーナであっても良い。
【0027】
更に、本発明のより好ましい態様について、
図4乃至
図8に基づいて説明する。
図4は、本発明の第1の態様に係る段差部Aの模式図である。
図4に示すように
、大貫通孔16bの側壁から径方向に向って段差部Aの先端までの長さ寸法D3が、外筒管13Aの端面部13A1における管の肉厚寸法D2の100%に形成されており、また、前記小貫通孔16aは、その軸方向における長さ寸法D1が0.5mm
を超え、3mm以下となるように形成されている。
前記小貫通孔16aの長さ寸法D1が0.5mm
以下では、バーナ13の外筒管13Aを保持するのに必要な強度が十分確保できなくなり、段差部Aに欠けの発生が懸念される。
一方、前記小貫通孔16aの長さ寸法D1が3mmを超えると、バーナ13の火炎流が段差部Aと接触することがあり、段差部Aがバーナ13の火炎流により溶出する虞があるため、好ましくない。
【0028】
図5は、本発明の第2の態様に係る段差部Aの模式図である。
大貫通孔16bの側壁から径方向に向って段差部Aの先端までの長さ寸法D3が、外筒管13Aの端面部13A1における管の肉厚寸法D2の80%
以上に形成されている。
大貫通孔16bの側壁から径方向に向って段差部Aの先端までの長さ寸法D3が、外筒管13Aの端面部13A1の管の肉厚寸法D2を超えて径方向に突出すると、この段差部Aの突出部A1がバーナ13のガス流れに干渉し、当該ガス流れに乱れが生じ、インゴット17の品質に影響を与えるため、好ましくない。
【0029】
そのため、
図4に示す本発明の第1の態様では、大貫通孔16bの側壁から径方向に向って段差部Aの先端までの長さ寸法D3と、外筒管13Aの肉厚寸法厚さD2とを同一寸法としている。
しかしながら、段差部Aにおける、バーナ13の火炎流に直接晒される小貫通孔16aの側壁面に、わずかながらシリカガラス微粒子が付着する。また、小貫通孔16aの側壁面の熱的負荷が他の箇所より大きく、小貫通孔16aの側壁面の劣化が速く進行する、という懸念がある。
【0030】
そのため、段差部Aにおける、大貫通孔16bの側壁から径方向に向って段差部Aの先端までの長さ寸法D3を、外筒管13Aの端面部13A1の管の肉厚寸法D2の80~99%とすることが好ましく、上記したバーナ13の火炎流による影響を効果的に回避することができ、上記弊害を抑制できる。
【0031】
上記段差部Aにおける、大貫通孔16bの側壁から径方向に向って段差部Aの先端までの長さ寸法D3が、外筒管13Aの端面部13A1における管の肉厚寸法D2の80%を未満である場合には、外筒管13A先端部の端面部13A1が炉内に露出する割合が大きくなり、シリカガラス微粒子が、前記外筒管13Aの先端部の端面部13A1に付着する懸念があり、好ましくない。
一方、上記段差部Aにおける、大貫通孔16bの側壁から径方向に向って段差部Aの先端までの長さ寸法D3が、外筒管13Aの端面部13A1における管の肉厚寸法D2の99%を超える場合には、バーナ13の火炎流と段差部Aが干渉して、段差部Aが溶出し、外筒管13Aと段差部分が溶着する、あるいは、溶けた部分にシリカが付着して氷柱状のガラスが形成され、これがインゴット17上に落下する等の不具合が懸念されるため、好ましくない。
【0032】
図6は、本発明の第3の態様に係る段差部Aの模式図である。
この第3の態様にあっては、段差部Aの小貫通孔16aの上部が、外筒管13Aの内径(厚さ)と同じ径を有し、外筒管13Aと当接するように形成され、更に小貫通孔16aの上部から下部が、炉の内部に向かうにつれて(バーナ13の下方に向かうにつれて)、拡径するような形状(直径が徐々に大きくなる形状)に形成されている。
【0033】
このように、小貫通孔16aが炉の内部に向かうにつれて拡径する形状に形成されている合には、本発明の第1の態様の形状と比べると、バーナ13の火炎流が早い段階で、炉内雰囲気に拡散して流速が低下する。そのため、小貫通孔16aの側壁に対する、バーナ13の火炎流による熱的負荷が軽減され、段差部Aの耐久性が向上する。
【0034】
図7は、本発明の第4の態様に係る段差部Aの模式図である。
この第4の態様に係る段差部Aは、第2の態様と第3の態様を組み合わせた段差部である。即ち、この第4の態様の段差部Aは、大貫通孔16bの側壁から径方向に向って段差部Aの先端までの距離D3を、外筒管13Aの端面部13A1の肉厚寸法D2の80~99%とし、更に小貫通孔16aを、炉の内部に向かうにつれて(バーナ13の下方に向かうにつれて)、拡径するような形状(直径が徐々に大きくなる形状)にしたものである。
このように、
図7に示す第4の態様に係る段差部Aにあっては、段差部Aの形状がより最適化されるので、耐久性のさらなる向上が図れる。
【0035】
以上の通り、本発明に係る合成シリカガラス製造装置は、バーナ外筒管先端が炉内に露出しない構造であるため、バーナ先端部に浮遊シリカ微粒子が付着することを防止できる。
これにより、付着したシリカガラス微粒子が剥離してインゴット上に落下することによって生じる、インゴット中に異物や泡が混入することを抑制でき、高品質のシリカガラスインゴットを製造できる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制
限されるものではない。
【0037】
(共通条件)
図2に示すように、アルミナ材料からなる天板に、貫通穴16を形成することにより、以下に示す各種形状の段差部Aを形成した、合成シリカガラス製造装置を用いて実験した。
このとき貫通穴16の大貫通穴16bは、外筒管13Aの外径に合わせてφ80mmとした。
また、バーナとして、
図3に示すバーナを用いた。このバーナ13の外筒管13Aからは可燃性ガスを供給し、内筒管13B内のソースノズル13aから原料ガスと支燃性ガスを供給し、内筒管13B内の支燃性ガスノズル13cから支燃性ガスを供給した。
尚、内筒管13B内の可燃性ガスノズル13bは、外筒管13Aから可燃性ガスを供給することとし、可燃性ガスノズル13bは使用しなかった。
【0038】
この外筒管13Aの外径はφ80mm、外筒管13Aの内径はφ74mm、外筒管13Aの先端端面部の肉厚寸法は、3mmとした。
またソースノズル13aの外径はφ7mm、内径はφ3mm、支燃性ガスノズル13cの外径はφ6mm、内径はφ2mmとした。
【0039】
具体的には、インゴット形成時の温度は、1400℃前後となるように調整した。
また、ガス条件は、ソースノズル13aからSiCl4を50g/min+O2ガスを10リットル/minを、支燃性ガスノズル13cからO2ガスを150リットル/minを、外筒管13AからH2ガスを300リットル/minを、それぞれ炉内に導入した。O2ガス/H2ガス比は0.5とした。
そして、外径φ500mm、重量1000kgの合成シリカガラスからなるインゴットを製造した。
【0040】
(実施例1)
段差部Aの小貫通孔16aの軸方向における長さ寸法D1を3mm、小貫通孔16aと大貫通穴16bの半径の差であるD2を、外筒管13Aの端面部の厚さ(肉厚)に対して100%とした。
実験の結果、外筒管13Aの先端部にシリカガラス微粒子の付着は確認できず、合成されたインゴットにも、異物や泡の混入は無かった。
【0041】
(実施例2)
段差部Aの小貫通孔16aの軸方向における長さ寸法D1を3mm、小貫通孔16aと大貫通穴16bの半径の差であるD2を、外筒管13Aの端面部の厚さ(肉厚)に対して99%とした。
実験の結果、外筒管13Aの先端部にシリカガラス微粒子の付着は確認できず、合成されたインゴットにも、異物や泡の混入は無かった。
【0042】
(実施例3)
段差部Aの小貫通孔16aの軸方向における長さ寸法D1を3mm、小貫通孔16aと大貫通穴16bの半径の差であるD2を、外筒管13Aの端面部の厚さ(肉厚)に対して90%とした。
実験の結果、実施例1と同様に、外筒管13Aの先端部にシリカガラス微粒子の付着は確認できず、合成されたインゴットにも、異物や泡の混入は無かった。
【0043】
(実施例4)
段差部Aの小貫通孔16aの軸方向における長さ寸法D1を3mm、小貫通孔16aと大貫通穴16bの半径の差であるD2を、外筒管13Aの端面部の厚さ(肉厚)に対して80%とした。
実験の結果、実施例1と同様に、外筒管13Aの先端部にシリカガラス微粒子の付着は確認できず、合成されたインゴットにも、異物や泡の混入は無かった。
【0045】
尚、上記実施例1~5において、実施例1では、インゴットへの品質に影響を及ぼすことは無かったが、ごくわずかながら、外筒管13Aと段差部Aの一部が溶着した箇所があった。一方、実施例2~4には、外筒管13Aと段差部Aの一部が溶着した箇所がなく、実施例2~4は、この点において、実施例1より優れていることが確認された。
【0046】
(比較例1)
図1に示すような、外筒管13Aの先端部が炉内に露出している、従来の炉体構造にて、インゴットの合成を行った。
その結果、外筒管13Aの先端部にシリカガラス微粒子が大量に付着し、これが落下して、合成されたインゴットに異物と泡が多量に混入した。
【0047】
(比較例2)
段差部Aの小貫通孔16aの軸方向における長さ寸法D1を3mm、小貫通孔16aと大貫通穴16bの半径の差であるD2を、外筒管13Aの端面部の厚さ(肉厚)に対して75%とした。
実験の結果、比較例1ほどではないものの、外筒管13Aの先端部にシリカガラス微粒子の付着がみられ、これが落下して、合成されたインゴットに異物が混入した。
【0048】
(比較例3)
段差部Aの小貫通孔16aの軸方向における長さ寸法D1を3mm、小貫通孔16aと大貫通穴16bの半径の差であるD2を、外筒管13Aの端面部の厚さ(肉厚)に対して110%とした。
実験の結果、バーナ13の火炎流により段差部Aが溶け出し、外筒管13Aと段差部Aが大きく溶着した個所が見られた。この溶着は、実施例1の場合より顕著なもので、かつ、実施例1と異なり、バーナ13の再利用が不可であった。
【0049】
(比較例4)
段差部Aの小貫通孔16aの軸方向における長さ寸法D1を0.5mm、小貫通孔16aと大貫通穴16bの半径の差であるD2を、外筒管13Aの端面部の厚さ(肉厚)に対して100%とした。
実験の結果、実施例1と同様に、外筒管13Aの先端部にシリカガラス微粒子の付着は無かったが、100時間操業後、段差部Aの一部が大きく欠損していた。これは、段差部Aの強度不足により、熱負荷に長時間耐えられなかったものとみられる。
【符号の説明】
【0050】
10 合成シリカガラス製造装置
11 炉体
12 ターゲット
13 シリカガラス合成用のバーナ
13A 外筒管
13B 内筒管
14 側壁部
15 天井部
16 貫通穴
16a 小貫通穴
16b 大貫通穴
17 インゴット
A 段差部
D1 小貫通穴の軸方向の長さ寸法
D2 外筒管の端面部における管の肉厚寸法
D3 段差部における先端部までの長さ寸法