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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】定電位電解式ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/404 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
G01N27/404 341J
G01N27/404 341U
G01N27/404 341S
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019037191
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2020139894
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000250421
【氏名又は名称】理研計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】上杉 慎治
(72)【発明者】
【氏名】海野 裕作
(72)【発明者】
【氏名】武藤 利奈
(72)【発明者】
【氏名】打越 祥一
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第07608177(US,B2)
【文献】特開2014-044055(JP,A)
【文献】特開昭57-147048(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0209442(US,A1)
【文献】特開平10-090219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上壁部に被検ガス導入口を有するケーシング内に、作用極、対極および参照極を有する電極積層構造体が配置されてなる定電位電解式ガスセンサであって、
前記電極積層構造体は、前記被検ガス導入口に対向して配置された前記作用極と、この作用極の下方に配置された、前記対極および前記参照極を有する電極複合体と、前記作用極および前記電極複合体の間に配置された、 電解液が含浸されたシート状の電解液保持部材とを備えてなり、
前記電極複合体は、疎水性多孔質材料よりなる圧力調整膜の上面に、前記対極および前記参照極が互いに離間して形成されてなり、
前記ケーシングは、その下壁部から内方に突出して前記圧力調整膜の下面に接するよう設けられた、通気孔を形成する通気管部を有し、
前記電極積層構造体と前記ケーシングの下壁部との間における前記通気管部の周囲には、電解液を収容する電解液室が形成され、
前記電極複合体を支持する支持板を備え、
前記圧力調整膜は、前記対極および前記参照極が形成された電極形成部と、この電極形成部の周縁から突出する、少なくとも3つ以上の舌片部とよりなり、
前記支持板は、前記電極形成部を支持する電極形成部支持部と、この電極形成部支持部の周囲に形成された、前記舌片部を支持する舌片部支持部とを有し、
前記電極形成部支持部は、前記通気管部の先端部分が嵌合された通気管部用貫通孔を有し、
前記舌片部支持部は、前記舌片部の各々に対応して形成された、当該舌片部が進入する複数の舌片部用貫通孔を有し、
前記舌片部は、舌片部用貫通孔に進入し、当該舌片部の先端部が前記電解液室内に位置するよう形成されていることを特徴とする定電位電解式ガスセンサ。
【請求項2】
前記作用極は、疎水性を有するガス透過性フィルムと、このガス透過性フィルムの下面に形成された電極触媒層とを有してなり、
前記ガス透過性フィルムは、前記ケーシングにおける前記上壁部に前記被検ガス導入口を塞ぐよう配置され、当該被検ガス導入口を取り囲むよう当該上壁部に溶着されており、 前記圧力調整膜は、前記通気孔を取り囲むよう前記通気管部の先端面に溶着されていることを特徴とする請求項1に記載の定電位電解式ガスセンサ。
【請求項3】
前記電極積層構造体には、それぞれ異なる種類の検知対象ガスを検出するための複数の前記作用極が、前記電解液保持部材の面方向に互いに離間して配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の定電位電解式ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型で携帯可能な定電位電解式ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、例えば半導体製造工場などにおいて毒性ガスの検出を行うに際しては、目的とする検知対象ガスの選択性に優れ、高感度で、かつ、高い精度でガス濃度を検出することができるなどの理由から、電解反応を利用した定電位電解式ガスセンサが広く利用されている。
【0003】
このような定電位電解式ガスセンサとして、特許文献1には、作用極、参照極および対極が、電解液が含浸された親水性の不織布よりなる電解液保持部材を介して積層されてなる電極積層構造体を備えてなるものが開示されている。
【0004】
この定電位電解式ガスセンサにおいて、電極積層構造体は、作用極と、この作用極上に電解液保持部材を介して積層された参照極と、 この参照極上に電解液保持部材を介して積層された対極と、この対極上に一体的に設けられた圧力調整膜とよりなる。この電極積層構造体の周囲には、円筒状の隔壁が設けられており、この隔壁の周囲には、電解液を収容する電解液室が形成されている。また、参照極と対極との間の電解液保持部材、および圧力調整膜には、それぞれ面方向外方に突出する4つの舌片部が、周方向に等間隔で並ぶよう形成されており、これらの舌片部は、隔壁を介して電解液室に伸びるよう設けられている。
【0005】
また、電解液としては、一般に硫酸が用いられている。硫酸は、定電位電解式ガスセンサが使用される環境の湿度によって、水分を吸収したり、水分が蒸発したりする結果、電解液の量が増減する。このため、電解液室としては、電解液の量が増加したときにも当該電解液を収容可能な容積のものが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7608177号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の構成の定電位電解式ガスセンサにおいては、以下のような問題がある。
特許文献1に記載の定電位電解式ガスセンサにおいては、作用極と参照極との間、 および参照極と対極との間の各々に電解液保持部材が設けられているので、参照極および対極を同一平面状に構成したものに比較して、2倍の量の電解液が必要となる。そのため、電解液室についても2倍の容積が必要となり、従って、定電位電解式ガスセンサのより一層の小型化を図ることが困難である。
また、電解液室は、電極積層構造体の周囲に形成されているので、小型の定電位電解式ガスセンサを構成するためには、作用極の面積を相当に小さくすることが必要である。そのため、センサとしての感度が小さく、従って、低濃度の検知対象ガスを検出することが困難である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、小型で、しかも低濃度の検知対象ガスを検出することができる定電位電解式ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の定電位電解式ガスセンサは、上壁部に被検ガス導入口を有するケーシング内に、作用極、対極および参照極を有する電極積層構造体が配置されてなる定電位電解式ガスセンサであって、
前記電極積層構造体は、前記被検ガス導入口に対向して配置された前記作用極と、この作用極の下方に配置された、前記対極および前記参照極を有する電極複合体と、前記作用極および前記電極複合体の間に配置された、 電解液が含浸されたシート状の電解液保持部材とを備えてなり、
前記電極複合体は、疎水性多孔質材料よりなる圧力調整膜の上面に、前記対極および前記参照極が互いに離間して形成されてなり、
前記ケーシングは、その下壁部から内方に突出して前記圧力調整膜の下面に接するよう設けられた、通気孔を形成する通気管部を有し、
前記電極積層構造体と前記ケーシングの下壁部との間における前記通気管部の周囲には、電解液を収容する電解液室が形成され
前記電極複合体を支持する支持板を備え、
前記圧力調整膜は、前記対極および前記参照極が形成された電極形成部と、この電極形成部の周縁から突出する、少なくとも3つ以上の舌片部とよりなり、
前記支持板は、前記電極形成部を支持する電極形成部支持部と、この電極形成部支持部の周囲に形成された、前記舌片部を支持する舌片部支持部とを有し、
前記電極形成部支持部は、前記通気管部の先端部分が嵌合された通気管部用貫通孔を有し、
前記舌片部支持部は、前記舌片部の各々に対応して形成された、当該舌片部が進入する複数の舌片部用貫通孔を有し、
前記舌片部は、舌片部用貫通孔に進入し、当該舌片部の先端部が前記電解液室内に位置するよう形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の定電位電解式ガスセンサにおいては、前記作用極は、疎水性を有するガス透過性フィルムと、このガス透過性フィルムの下面に形成された電極触媒層とを有してなり、
前記ガス透過性フィルムは、前記ケーシングにおける前記上壁部に前記被検ガス導入口を塞ぐよう配置され、当該被検ガス導入口を取り囲むよう当該上壁部に溶着されており、

前記圧力調整膜は、前記通気孔を取り囲むよう前記通気管部の先端面に溶着されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の定電位電解式ガスセンサにおいては、前記電極積層構造体には、それぞれ異なる種類の検知対象ガスを検出するための複数の前記作用極が、前記電解液保持部材の面方向に互いに離間して配置されていてもよい。
【0013】
本発明において、「上」および「下」とは、本発明の定電位電解式ガスセンサを、ケーシングにおける被検ガス導入口が形成された面が上向きとなる姿勢で配置したときに、当該定電位電解式ガスセンサにおける方向を示すものである。従って、例えば定電位電解式ガスセンサを、ケーシングにおける被検ガス導入口が形成された面が下向きとなる姿勢で配置したときには、「上」および「下」は、実際にはそれぞれ逆の方向すなわち「下」および「上」の方向を示し、定電位電解式ガスセンサを、ケーシングにおける被検ガス導入口が形成された面が左向きとなる姿勢で配置したときには、「上」および「下」は、実際にはそれぞれ「左」および「右」の方向を示す。
【発明の効果】
【0014】
本発明の定電位電解式ガスセンサにおいては、電解液保持部材は、作用極と電極複合体との間にのみ設けられていればよく、これにより、電解液の量を少なくすることができるため、電解液室の容積を小さくすることが可能である。また、電解液室が電極積層構造体とケーシングの下壁部との間に形成されているため、面積が十分に大きい作用極を形成することが可能である。また、電極複合体が、圧力調整膜上に対極および参照極が形成されてなるものであることにより、別個に圧力調整膜を設けることが不要で、部品数が少なく、ケーシングの内部のスペースを効率的に利用することかできる。
従って、本発明によれば、小型で、しかも低濃度の検知対象ガスを検出することができる定電位電解式ガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の定電位電解式ガスセンサの一例における構成の概略を示す説明用断面図である。
図2図1に示す定電位電解式ガスセンサの分解斜視図である。
図3図1に示す定電位電解式ガスセンサにおける作用極を拡大して示す説明用断面図である。
図4図1に示す定電位電解式ガスセンサにおける電極複合体を支持する支持板の斜視図である。
図5図1に示す定電位電解式ガスセンサにおける電極複合体を支持する支持板の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の定電位電解式ガスセンサの実施の形態について説明する。
図1は、本発明の定電位電解式ガスセンサの一例における構成の概略を示す説明用断面図である。図2は、図1に示す定電位電解式ガスセンサの分解斜視図である。
この定電位電解式ガスセンサは、2種類の検知対象ガス、例えば一酸化炭素および硫化水素を検出するものであって、それぞれ硫化水素および一酸化炭素を検出するための2つの作用極21,22、対極26および参照極27を有する電極積層構造体20を収納するケーシング10を有する。
【0017】
このケーシング10は、下端が閉塞された円筒状のケーシング本体11と、ケーシング本体11の上端の開口を塞いで上壁部14を形成する円板状の蓋部材12とにより構成されている。ケーシング本体11および蓋部材12は、それぞれポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂によって形成されている。上壁部14には、被検ガスをケーシング10の内部に導入する複数の被検ガス導入口13が、当該上壁部14の厚み方向に貫通して伸びるよう形成されている。
【0018】
ケーシング本体11の底壁部すなわちケーシング10の下壁部15の中央位置には、断面円形の通気管部16が、ケーシング本体11の軸方向に沿って下壁部15から上方(内方)に突出して後述する圧力調整膜28の下面に接するよう形成されている。この通気管部16によって、下壁部15の外面から圧力調整膜28の下面に通ずる通気孔Vが形成されている。
【0019】
ケーシング10の下壁部15における通気管部16の周囲には、2つの作用極端子40,41、対極端子42および参照極端子43が、円周方向に互いに離間して並ぶよう配設されている。
電極積層構造体20とケーシング10の下壁部15との間における通気管部16の周囲には、電解液を収容する電解液室Sが形成されている。この電解液室Sは、ケーシング10の周壁部17と後述する支持板30との間の間隙Kを介して、電極積層構造体20が配置された空間と連通している。
また、下壁部15の内面(上面)には、エポキシ樹脂接着剤などの接着剤が硬化されてなる封止用樹脂材料層45が、作用極端子40,41、対極端子42および参照極端子43を覆うよう形成されている。この封止用樹脂材料層45が設けられることにより、電解液室Sが、電解液によって作用極端子40,41、対極端子42および参照極端子43が腐食されない液密封止構造とされている。封止用樹脂材料層45を形成する際に、ケーシング本体11内に接着剤を充填した後、ポリプロピレンフィルム等によって蓋をすることにより、接着剤がコロナ処理したケーシング本体の内壁面に沿って上昇することが防止され、これにより、接着剤の充填量を減らすことができる。接着剤の充填量が少なければ、相対的に電解液室Sの容積が増大するので、更に幅広い湿度環境に対応することが可能となる。
【0020】
電極積層構造体20は、それぞれ被検ガス導入口13に対向して互いに離間して配置された半円形のシート状の2つの作用極21,22と、この作用極21,22の下方に配置された電極複合体25と、作用極21,22および電極複合体25の間に配置された、 電解液が含浸されたシート状の電解液保持部材23とにより構成されている。
【0021】
作用極21,22は、図3に示すように、それぞれ疎水性を有するガス透過性フィルム21a,22a上に、電極触媒層21b,22bが形成されて構成されており、電極触媒層21b,22bが電解液保持部材23に接するよう配置されている。また、作用極21,22におけるガス透過性フィルム21a,22aの各々は、対応する被検ガス導入口13を塞ぐよう配置されている。また、ガス透過性フィルム21a,22aの各々の上面は、被検ガス導入口13を取り囲むよう上壁部14の下面(内面)に熱溶着されている。ガス透過性フィルム21a,22aが上壁部14に熱溶着されていることにより、電解液が、ガス透過性フィルム21a,22aと上壁部14との間から漏出することを防止することができる。
【0022】
作用極21,22は、作用極用リード部材46,47の一端に電気的に接続され、この作用極用リード部材46,47の他端には、作用極端子40,41が電気的に接続されている。
作用極用リード部材46,47を構成する材料としては、金(Au)、白金(Pt)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)などの金属を用いることができる。
作用極用リード部材46,47は、線形状のものであっても、リボン形状のものであってもよい。
【0023】
ガス透過性フィルム21a,22aとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂よりなる多孔質膜を用いることができる。
多孔質膜は、ガーレー数が3~3000秒であるものが好ましい。多孔質膜の厚みおよび空隙率は、ガーレー数が上記数値範囲内の大きさとなるよう設定することができ、例えば、空隙率は10~70%とされ、厚みは0.01~1mmとされることが好ましい。
【0024】
電極触媒層21b,22bは、電解液に対して不溶性の触媒金属の微粒子、当該触媒金属の酸化物の微粒子、当該触媒金属の合金の微粒子、またはこれらの微粒子の混合物、或いはこれらの微粒子とカーボンとの混合物などの触媒微粒子によって形成されている。電解液に対して不溶性の触媒金属としては、例えば白金(Pt)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)などを用いることができる。このような電極触媒層21b,22bは、触媒微粒子およびバインダーを含有するペーストを調製し、このペーストを、スクリーン印刷などによってガス透過性フィルム21a,22aの表面に塗布して焼成することにより、形成することができる。
【0025】
電極複合体25は、疎水性多孔質材料よりなる圧力調整膜28と、それぞれ圧力調整膜28の上面に互いに離間して形成された半円形の触媒層よりなる対極26および参照極27とにより構成されている。この電極複合体25における圧力調整膜28は、ケーシング10における通気管部16の上端面に通気孔Vを塞ぐよう配置されている。これにより、ケーシング10の内部空間が、圧力調整膜28および通気孔Vを介して外部の大気に解放された状態となる。定電位電解式ガスセンサは、通気孔Vを閉じた状態で使用することができる。高濃度の干渉ガスが通気孔Vを通り、定電位電解式ガスセンサの内部に進入して悪影響を及ぼす場合には、積極的に通気孔Vの通気性を下げたり完全に塞いだりした状態で、定電位電解式ガスセンサを使用することもできる。また、圧力調整膜28の下面は、通気孔Vを取り囲むよう通気管部16の上端面に熱溶着されている。圧力調整膜28が通気管部16の上端面に熱溶着されていることにより、電解液が、圧力調整膜28と通気管部16の上端面との間から漏出することを防止することができる。
【0026】
対極26および参照極27は、対極用リード部材48および参照極用リード部材49の一端に電気的に接続され、対極用リード部材48および参照極用リード部材49の他端には、対極端子42および参照極端子43が電気的に接続されている。
対極用リード部材48および参照極用リード部材49を構成する材料としては、金(Au)、白金(Pt)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)などの金属を用いることができる。
【0027】
圧力調整膜28としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂よりなる多孔質膜を用いることができる。
多孔質膜は、ガーレー数が3~3000秒であるものが好ましい。多孔質膜の厚みおよび空隙率は、ガーレー数が上記数値範囲内の大きさとなるよう設定することができ、例えば、空隙率は10~70%とされ、厚みは0.01~1mmとされることが好ましい。
【0028】
対極26および参照極27を構成する触媒層は、電解液に対して不溶性の触媒金属の微粒子、当該触媒金属の酸化物の微粒子、当該触媒金属の合金の微粒子、またはこれらの微粒子の混合物などの触媒微粒子によって形成されている。電解液に対して不溶性の触媒金属としては、例えば白金(Pt)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)などを用いることができる。対極16および参照極27を構成する触媒層は、触媒微粒子およびバインダーを含有するペーストを調製し、このペーストを、スクリーン印刷などによって圧力調整膜28の表面に塗布して焼成することにより、形成することができる。
【0029】
対極26を構成する触媒層および参照極27を構成する触媒層は、互いに同一の材料によって形成されていてもよいが、それぞれに要求される性能に応じて互いに異なる種類の材料によって形成されていることが好ましい。例えば対極26を構成する触媒層には、電流密度が高くて反応性が良好であることが要求されるため、対極26を構成する触媒層は白金(Pt)、酸化イリジウム(IrO2)によって形成されていることが好ましい。一方、参照極27を構成する触媒層には、反応によって生ずる水素ガス(H2)等との干渉性が低く、酸化被膜が形成されにくいことが要求されるため、参照極27を構成する触媒層は、酸化イリジウム(IrO2)や、電位安定性の高い白金(Pt)によって形成されていることが好ましい。
【0030】
圧力調整膜28は、対極26および参照極27が形成された円形の電極形成部28aと、それぞれ電極形成部28aの外周縁から径方向外方に突出して伸びる3つ以上(図示の例では4つ)の矩形の舌片部28bとにより構成されている。舌片部28bの各々は、電極形成部28aの周方向に等間隔で並ぶよう形成されている。
【0031】
この例の電解液保持部材23は、例えば平面が円形のものであって、圧力調整膜28における電極形成部28aより大きい面積を有する。これにより、電解液の各電極に対する十分に高い濡れ性を確保することができる。
電解液保持部材23の厚みは、十分な量の電解液を含浸させることができるものでありながら、電解液保持部材23の体積が可及的に小さくなる大きさとされ、具体的には、例えば0.1~1mmとされる。このような構成とされることにより、高湿度環境下においても信頼性の高いガス検知を行うことができる。
電解液保持部材23としては、例えば、ガラス繊維濾紙、あるいはガラス繊維、PP繊維、PP/PE複合繊維もしくはセラミックス繊維からなる不織布などを用いることができる。
【0032】
通気管部16の上端部分には、複合電極体25を支持する支持板30が設けられている。支持板30の斜視図を図4に示し、支持板30上面図を図5に示す。
この支持板30は、圧力調整膜28における電極形成部28aを支持する電極形成部支持部31と、この電極形成部支持部31の周囲に形成された、圧力調整膜28における舌片部28bを支持する舌片部支持部35とを有する。
【0033】
図示の例では、支持板30の上面には、電極形成部支持部31と舌片部支持部35との間に段部が形成されている。これにより、電極形成部支持部31上には、圧力調整膜28における電極形成部28aを受容する略円形の凹所Rが形成されている。また、舌片部支持部35の上面には、圧力調整膜28における舌片部28bの各々に対応して、当該舌片部28bを案内する複数の溝Gが、凹所Rから支持板30の外周面に向かって半径方向に伸びるよう形成されている。
【0034】
電極形成部支持部31の中央位置には、ケーシング10における通気管部16の外径に適合する内径を有する通気管部用貫通孔32が形成されている。この通気管部用貫通孔32には、通気管部16の先端部分が嵌合されている。
また、舌片部支持部35には、溝Gの各々の底面位置に舌片部用貫通孔36が形成されている。そして、圧力調整膜28における舌片部28bの各々は、舌片部用貫通孔36に進入し、当該舌片部28bの先端部が電解液室S内に位置するよう形成されている。このような構成によれば、定電位電解式ガスセンサの姿勢に拘わらず、ケーシング10の内部に対する外気の通気によって、ケーシング10の内部圧力を一定に保持することができる。
【0035】
この定電位電解式ガスセンサにおいては、作用極21,22および参照極27が、例えばポテンショスタット回路(図示省略)などによって、検知対象ガスの種類に応じて一定の電位に保たれる。そして、ケーシング10の被検ガス導入口13から導入された被検ガス中に検知対象ガスが含有されている場合には、当該被検ガスが、作用極21,22におけるガス透過性フィルム21a,22aを透過して電極触媒層21b,22bに接触すると、当該電極触媒層21b,22bにおいて酸化反応が生じると共に、対極26において還元反応が生じる。
【0036】
例えば検知対象ガスが硫化水素(H2 S)である場合には、作用極21における電極触媒層21bにおいて、H2S+4H2O→H2SO4+8H++8e-の酸化反応が生じ、一方、対極26において、2O2+8H++8e-→4H2Oの還元反応が生じる。
また、例えば検知対象ガスが一酸化炭素(CO)である場合には、作用極22における電極触媒層22bにおいて、CO+H2O→CO2+2H++2e-の酸化反応が生じ、一方、対極26において、1/2O2+2H++2e- →H2Oの還元反応が生じる。
【0037】
このとき、作用極21,22と対極26との間に生じる電流の値は、検知対象ガスの濃度に比例するため、作用極21,22と対極26との間に流れる電流を測定することによって、被検ガス中の検知対象ガスの濃度を測定することができる。
【0038】
本発明の定電位電解式ガスセンサにおいては、電解液保持部材23は、作用極21,22と電極複合体25との間にのみ設けられていればよく、これにより、電解液の量を少なくすることができるため、電解液室Sの容積を小さくすることが可能である。また、電解液室Sが電極積層構造体20とケーシング10の下壁部との間に形成されているため、面積が十分に大きい作用極21,22を形成することが可能である。また、電極複合体25が、圧力調整膜28上に対極26および参照極27が形成されてなるものであることにより、別個に圧力調整膜を設けることが不要で、部品点数が少なく、ケーシング10の内部のスペースを効率的に利用することかできる。
従って、本発明によれば、小型で、しかも低濃度の検知対象ガスを検知することができる定電位電解式ガスセンサを提供することができる。
【0039】
以上、本発明の定電位電解式ガスセンサの実施の形態の一例について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されず、種々の変更を加えることが可能である。
例えば作用極の数は1個であってもよく、3個以上であってもよい。
また、検知対象ガスは、一酸化炭素および硫化水素に限定されず、例えば硫化水素(H2S)および一酸化炭素(CO)に限定されず、二酸化硫黄(SO2)、塩素(Cl2)、アンモニア(NH3)、二酸化窒素(NO2)などの毒性ガスであってもよい。
【符号の説明】
【0040】
10 ケーシング
11 ケーシンク本体
12 蓋部材
13 被検ガス導入口
14 上壁部
15 下壁部
16 通気管部
17 周壁部
20 電極積層構造体
21,22 作用極
23 電解液保持部材
25 電極複合体
26 対極
27 参照極
28 圧力調整膜
28a 電極形成部
28b 舌片部
30 支持板
31 電極形成部支持部
32 通気管部用貫通孔
35 舌片部支持部
36 舌片部用貫通孔
40,41 作用極端子
42 対極端子
43 参照極端子
45 封止用樹脂材料層
G 溝
K 間隙
R 凹所
S 電解液室
V 通気孔
図1
図2
図3
図4
図5