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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】油圧ショベル
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/16 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
E02F9/16 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019174622
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021050543
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】黒田 英夫
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-035355(JP,U)
【文献】実開昭54-031607(JP,U)
【文献】実開昭52-046418(JP,U)
【文献】特開2000-190731(JP,A)
【文献】特開平05-025840(JP,A)
【文献】実開平02-132758(JP,U)
【文献】特開2015-209694(JP,A)
【文献】国際公開第2013/179517(WO,A1)
【文献】特開2007-001469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体、前記走行体の上部に旋回可能に設けた旋回体、及び前記旋回体に取り付けた作業機を備え、前記旋回体が、運転席と、前記旋回体に設けた少なくとも3本の支柱、及び前記少なくとも3本の支柱で支持されて前記運転席の上方に配置されたルーフを有するキャノピーとを備えた油圧ショベルにおいて、
前記少なくとも3本の支柱、後方に倒れて前記運転席の後に前記ルーフを移動させるリンク機構を構成しており、
前記旋回体は、
前記旋回体を旋回させる旋回モータと、
前記旋回モータを駆動する圧油を吐出する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから前記旋回モータへの圧油の流れを制御する旋回モータ用方向切換弁と、
パイロットポンプと、
前記パイロットポンプの吐出圧を元圧として前記旋回モータ用方向切換弁を駆動するパイロット圧を生成し出力する操作レバー装置と、
遮断位置に切り換わると前記パイロットポンプから前記操作レバー装置への元圧の入力を遮断するロック弁と、
前記キャノピーが後傾すると前記ロック弁を遮断位置に切り換え、前記作業機及び前記走行体の操作を許容しつつ旋回操作を不能にするスイッチと
を備えている
ことを特徴とする油圧ショベル。
【請求項2】
請求項1に記載された油圧ショベルにおいて、前記ルーフは、前方に開口した切り欠きを有する本体と、後縁がヒンジで支持されて前記切り欠きを開閉するフラップとを含んで構成されていることを特徴とする油圧ショベル。
【請求項3】
請求項1に記載された油圧ショベルにおいて、前記支柱には後傾時に前記キャノピーに働く回転モーメントの一部を弾性力で相殺するスプリングが設けられていることを特徴とする油圧ショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキャノピーを備えた油圧ショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルには、小旋回型、或いは後方小旋回型と呼ばれる小型の機種がある。これら小型の油圧ショベルでは、狭隘な現場で作業できるように旋回体(作業機を除く)の最大旋回半径が走行体の車幅程度かそれ以下に抑えられている。この種の油圧ショベルでは運転席の周囲を囲うキャビンを設けるスペースの余裕がなく、運転席の上方をルーフで覆い側方が開放されたキャノピーが採用される場合がある(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-2646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
逆打ち工法で地下から土砂を掻き集める作業や屋内解体作業等では、頭上の桁や梁等の障害物により高さが制限された狭隘な空間における作業で小型の油圧ショベルを使用したい場面がある。しかし、このような狭隘な現場では障害物にキャノピーが干渉して油圧ショベルが入り込めず、キャノピーを機体から取り外さなければならない場合がある。キャノピーを取り外す作業には労力と時間を要する。
【0005】
本発明の目的は、高さ制限のある現場で状況により機体の全高を下げて柔軟に運用することができる油圧ショベルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、走行体、前記走行体の上部に旋回可能に設けた旋回体、及び前記旋回体に取り付けた作業機を備え、前記旋回体が、運転席と、前記旋回体に設けた少なくとも3本の支柱、及び前記少なくとも3本の支柱で支持されて前記運転席の上方に配置されたルーフを有するキャノピーとを備えた油圧ショベルにおいて、前記少なくとも3本の支柱で、後方に倒れて前記運転席の後に前記ルーフを移動させるリンク機構を構成しており、前記旋回体は、前記旋回体を旋回させる旋回モータと、前記旋回モータを駆動する圧油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから前記旋回モータへの圧油の流れを制御する旋回モータ用方向切換弁と、パイロットポンプと、前記パイロットポンプの吐出圧を元圧として前記旋回モータ用方向切換弁を駆動するパイロット圧を生成し出力する操作レバー装置と、遮断位置に切り換わると前記パイロットポンプから前記操作レバー装置への元圧の入力を遮断するロック弁と、前記キャノピーが後傾すると前記ロック弁を遮断位置に切り換え、前記作業機及び前記走行体の操作を許容しつつ旋回操作を不能にするスイッチとを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高さ制限のある現場で状況により機体の全高を下げて柔軟に運用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る油圧ショベルの全体構造を表す側面図
図2】本発明の一実施形態に係る油圧ショベルの全体構造を表す側面図
図3】本発明の一実施形態に係る油圧ショベルの全体構造を表す正面図
図4】本発明の一実施形態に係る油圧ショベルの全体構造を表す背面図
図5図1中のV部の拡大図
図6図2中のVI部の拡大図
図7図1中のVII部の拡大図
図8】本発明の一実施形態に係る油圧ショベルに備わったキャノピーのルーフの平面図
図9】本発明の一実施形態に係る油圧ショベルを駆動する油圧システムの要部を抜き出して示す回路図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
-油圧ショベル-
図1及び図2は本発明の一実施形態に係る油圧ショベルの全体構造を表す側面図、図3は正面図、図4は背面図である。図5図1中のV部の拡大図、図6図2中のVI部の拡大図、図7図1中のVII部の拡大図である。図8はキャノピーのルーフの平面図である。本願明細書では図1の右左を旋回体の前後とする。図1ではキャノピーを倒した状態、図2ではキャノピーを起こした状態を表している。図2図4では作業機30及び排土装置13を図示省略してある。図1図7に示した油圧ショベルはいわゆる後方小旋回機であり、走行体10、旋回体20及び作業機30を備えている。後方小旋回機とは、狭隘な現場での作業を想定して後端旋回直径が走行体の全幅と同程度以下(クローラ全幅の120%以下)となるように設計された油圧ショベルである。
【0011】
-走行体-
走行体10は、左右の走行装置11及びセンタフレーム12(図3)を備えている。左右の走行装置11はクローラ式であり、サイドフレーム11a、従動輪11b、駆動輪11c、走行用油圧モータ(不図示)、減速機11e及び履帯11fをそれぞれ備えている。左右のサイドフレーム11aは走行方向(図1中では左右方向)に延び、長手方向の一方側(図1では右側)に従動輪11bを、他方(同左側)に駆動輪11cを支持している。走行用油圧モータは、左右のサイドフレーム11aの長手方向の他方側に支持されており、減速機11eを介して出力軸が駆動輪11cに連結されている。履帯11fは左右の走行装置11のそれぞれにおいて従動輪11bと駆動輪11cとの間に掛け回されている。走行用油圧モータが駆動されると減速機11eを介して駆動輪11cに回転動力が伝達され、駆動輪11cと従動輪11bとの間で履帯11fが循環駆動して機体が走行する。
【0012】
センタフレーム12は左右の走行装置11(サイドフレーム11a)を連結すると共に、上部に旋回体20を支持する。このセンタフレーム12は左右のサイドフレーム11aと共に走行体10のフレーム、つまりトラックフレームを構成する。センタフレーム12には排土装置13が設けられている。排土装置13はセンタフレーム12の走行方向の一方側(図1では右側)に連結されている。この排土装置13はブレード昇降用油圧シリンダ(不図示)及びブレード13aを備えており、ブレード昇降用油圧シリンダの伸縮動作に伴ってリンク機構を介してブレード13aが昇降するようになっている。
【0013】
-旋回体-
旋回体20は、旋回フレーム21、カウンタウェイト22、運転席29及びカバー25を備えている。旋回フレーム21は旋回体20の基礎構造体であり、旋回輪26を介して走行体10の上部に旋回可能に設けられている。カウンタウェイト22は作業機30とのバランスをとるための錘であり、旋回フレーム21の後縁部に設けられている。旋回フレーム21にはまた、旋回モータ38(図9)、燃料タンク(不図示)、作動油タンクT(図9)、原動機47(図9)、油圧ポンプ41(図9)、パイロットポンプ46(図9)等が搭載されており、これらがカバー25で覆われている。
【0014】
また、旋回フレーム21の前部には作業機30を取り付けるためのスイングポスト27が設けられている。スイングポスト27は、垂直ピンを介して旋回フレーム21に連結されている。また、スイングポスト27は旋回フレーム21に設けられたスイング用油圧シリンダ28に連結ピン(不図示)を介して連結されており、スイング用油圧シリンダ28の伸縮に伴って垂直ピンを中心に左右に回動する。後述する作業機30はスイングポスト27に支持されており、スイングポスト27が左右に回動するのに伴って作業機30が左右方向にスイングするようになっている。
【0015】
運転席29は旋回フレーム21の上部に備えられており、運転席29の前方には左右の走行装置11を操作するための走行レバーTL,TRが配置されている。運転席29の左右には、作業機30及び旋回体20を操作するための左右の操作レバーWL,WRがそれぞれ配置されている。左右の走行レバーTL,TRは走行用油圧モータによる走行動作の操作入力に用いる操作装置である。左側の走行レバーTLは左側の走行装置11の走行用油圧モータの操作用である。例えば走行レバーTLを前に倒すと左側の走行装置11の前進、後に倒すと後進の動作が指令される。右側の走行レバーTRは右側の走行装置11の走行用油圧モータの操作用である。例えば走行レバーTRを前に倒すと右側の走行装置11の前進、後に倒すと後進の動作が指令される。左右の操作レバーWL,WRは旋回モータ38(図9)による旋回体20の旋回動作やブームシリンダ35等による作業機30の動作の操作入力に用いる十字操作式レバーである。本実施形態では、左側の操作レバーWLがアームシリンダ36と旋回モータ38(図9)の操作用である。例えば操作レバーWLを左手で握って左に倒すとアームダンプ、右に倒すとアームクラウド、前に倒すと右旋回、後に倒すと左旋回の動作が指令される。右側の操作レバーWRはブームシリンダ35とアタッチメントシリンダ37の操作用である。例えば操作レバーWRを右手で握って左に倒すとバケットクラウド、右に倒すとバケットダンプ、前に倒すとブーム下げ、後に倒すとブーム上げの動作が指令される。
【0016】
-作業機-
作業機30は土砂の掘削等の作業をするために旋回体20の前部に設けた多関節型のフロント作業機(本実施形態ではスイングポスト式)であり、作業腕31及びアタッチメント34を含んで構成されている。作業腕31は、ブーム32、アーム33、ブームシリンダ35、アームシリンダ36及びアタッチメントシリンダ37を備えている。ブーム32はスイングポスト27に回動可能に連結され、アーム33はブーム32の先端に、アタッチメント34はアーム33の先端に、それぞれ回動可能に連結されている。ブーム32、アーム33及びアタッチメント34はいずれも左右に水平に延びる回転軸を支点にして鉛直面内で回動する。図1では作業腕31にアタッチメント34としてバケットを装着した例を表しているが、装着されるアタッチメントの種類はこれに限られない。ブームシリンダ35は旋回体20(スイングポスト27)及びブーム32に、アームシリンダ36はブーム32及びアーム33に、それぞれ両端が連結されている。アタッチメントシリンダ37は、基端がアーム33に連結される一方、先端がリンク39を介してアーム33の先端部及びアタッチメント34に連結されている。ブームシリンダ35、アームシリンダ36及びアタッチメントシリンダ37は油圧シリンダであり、油圧ポンプ41(図9)から吐出される圧油で駆動されて伸縮動作により作業機30を駆動する。
【0017】
-キャノピー-
旋回体20の上部にはキャノピー50が設けられており、このキャノピー50によって運転席29の上方が覆われている。キャノピー50は、複数の支柱(本例では第1支柱51、第2支柱52、第3支柱53の3本の支柱)及びルーフ54を備えている。支柱51~53は矩形円形で筒状(中空)のパイプ材で形成された柱であり、本実施形態では、上下に直線状に延びている。第1支柱51に対して第2支柱52は後方に位置し、この第2支柱52に対して第3支柱53は左右方向の一方側(本例では左側)に位置している。第1支柱51はルーフ54の右前の角、第2支柱52はルーフ54の右後の角、第3支柱53はルーフ54の左後の角を支持している。
【0018】
第1支柱51は、ポスト51a、リンク51b、バー51cを含んで構成されている。ポスト51aは基部が旋回体20の右前部に固定され、この基部から上方に(本例では垂直に)起立している。ポスト51aの上部にはブラケットBR1が備わっている。図5に示したように、ブラケットBR1には中心軸を左右に延ばしたピン穴H1~H3が設けられている。ピン穴H1,H2は縦に並べて配置されており、ピン穴H1の上方にピン穴H2が位置している。ピン穴H3はピン穴H1,H2の間の高さでピン穴H1,H2よりも後方に位置している。ピン穴H2,H3はピン穴H1との中心間距離が等しい。リンク51bは左右に延びるピンP1を介して基端がポスト51aの先端に連結されており、ピンP1を中心に前後に回動する。ピンP1はブラケットBR1のピン穴H1に挿入されている。リンク51bにはキャノピー固定用の第1のピン穴(不図示)が設けられている。このピン穴は、リンク51bが上方に(本実施形態では垂直に)起立した状態ではブラケットBR1のピン穴H2に位置が合い、リンク51bが後傾した状態ではピン穴H3に位置が合う。つまりリンク51bはピン穴H2,H3に対して選択的に固定ピンFPで固定することで、起立した姿勢と後傾した姿勢とのいずれかで固定できるようになっている。なお、リンク51bの前方への回動はブラケットBR1の前部に設けたストッパS1で制限されており、リンク51bが前傾しないようになっている。
【0019】
バー51cは、ルーフ54の下面の右前部から下方に突出して設けられている。バー51cの下部にはブラケットBR2が備わっている。図6に示したように、ブラケットBR2には中心軸を左右に延ばしたピン穴H4~H6が設けられている。ピン穴H4,H5は縦に並べて配置されており、ピン穴H4の下方にピン穴H5が位置している。ピン穴H6はピン穴H4,H5の間の高さでピン穴H4,H5よりも前方に位置している。ピン穴H5,H6はピン穴H4との中心間距離が等しい。リンク51bは左右に延びるピンP2を介して先端がバー51cの下端に連結されており、ピンP2を中心にルーフ54に対して前後に回動する。ピンP2はブラケットBR2のピン穴H4に挿入されている。リンク51bにはキャノピー固定用の第2のピン穴(不図示)が設けられている。このピン穴は、リンク51bが起立した状態ではブラケットBR2のピン穴H5に位置が合い、リンク51bが後傾した状態ではピン穴H6に位置が合う。リンク51bはピン穴H5,H6に対して選択的に固定ピンFPで固定することができる。
【0020】
第2支柱52も第1支柱51と同様の構成であり、ポスト52a、リンク52b、バー52cを含んで構成されている。これらポスト52a、リンク52b、バー52cを除き、第1支柱51と対応する要素には第1支柱51の説明に用いたのと同一符号を付して説明を省略する。ポスト52aは基部が旋回体20の右後部に固定されている。ポスト52aの上端にはリンク52bの基端が、第1支柱51について図5で説明した構造と同様の構造でブラケットBR1を介して回動可能に連結されている(図7)。リンク52bの先端にはルーフ54の右後部から下方に突出して設けたバー52cが、第1支柱51について図6で説明した構造と同様の構造でブラケットBR2を介して回動可能に連結されている。なお、第2支柱52のリンク52bは、前後に延びる補強リンク55を介して第1支柱51のリンク51bと連結されている。補強リンク55の両端はリンク51b,52bにピンで連結されており、リンク51b,52bに対して回動自在である。
【0021】
第3支柱53も第1支柱51と同様の構成であり、ポスト53a、リンク53b、バー53cを含んで構成されている。これらポスト53a、リンク53b、バー53cを除き、第1支柱51と対応する要素には第1支柱51の説明に用いたのと同一符号を付して説明を省略する。ポスト53aは基部が旋回体20の左後部に固定されている。ポスト53aの上端にはリンク53bの基端が、第1支柱51について図5で説明した構造と同様の構造でブラケットBR1を介して回動可能に連結されている。リンク53bの先端にはルーフ54の左後部から下方に突出して設けたバー53cが、第1支柱51について図6で説明した構造と同様の構造でブラケットBR2を介して回動可能に連結されている。なお、第3支柱53のリンク53bは、左右に延びる補強バー56を介して第2支柱52のリンク52bと連結されている。補強バー56は断面円形の丸棒(又はパイプ材)であり、その両端はリンク52b,53bに例えば溶接で固定されている。
【0022】
ルーフ54は、以上の3本の支柱51~53で支持され、リンク51b,52b,53bが起立した状態で運転席29の上方に位置し運転席29の上方を覆う。これにより図2に示したように、運転席29に座ったオペレータの頭上がルーフ54で覆われる。図8に示したようにルーフ54は上から見て四角形状であり、本実施形態ではルーフ54の左右の幅は旋回体20の左右の幅と同程度かそれよりも少し狭い程度であり(図3)、ルーフ54の左右の縁部は車幅から出ないようになっている。また、ルーフ54の前後の長さは旋回体20の前後の長さと同程度かそれよりも少し短い程度であり(図2)、リンク51b,52b,53bが起立した状態では平面視でルーフ54が旋回体20の外形から出ないようになっている。
【0023】
また、ルーフ54は本体54aとフラップ54bとを含んで構成されている。本体54aは上記支柱51~53で支持された部分であり、前半部を切り欠き54cが広く占め、切り欠き54cにより前縁を含めて広く切り欠かれている。本体54aは平面視で前方が開口したU字型に形成されている。フラップ54bは後縁が本体54aに対してヒンジ54dで連結されており、本体54aに対して上方に回動し切り欠き54cを開閉する。このように、ルーフ54は前縁を含む一部が後縁をヒンジ54dで支持されたフラップ54bで構成されており、フラップ54bを上方に開くと、ルーフ54の左右方向の中央部における前縁の位置が後退する。またルーフ54には、フラップ54bを上方に開いた状態でルーフ54を支持する支持機構54eが備わっており、90度近く開いた姿勢でフラップ54bを保持することができる(図1)。フラップ54bの下面には、フラップ54bの開閉操作に利用するグリップ54f(図3)が備わっている。
【0024】
ここで、第1支柱51、第2支柱52及び第3支柱53の3本の支柱は、後方に倒れて運転席29の後にルーフ54を移動させるリンク機構を構成している。本実施形態では、左右から見ると、支柱51,53のリンク51b,53bの上下の回動支点(上下のピンP1,P2)と第2支柱52のリンク52bの上下の回動支点(上下のピンP1,P2)の4点を結んだ図形が平行四辺形を形成する。つまり、第1支柱51、第2支柱52及び第3支柱53の3本の支柱が平行リンクを構成する。従って、固定ピンFPを外した状態では、図1及び図2に示したようにルーフ54が運転席29の上方を覆う位置から円弧軌道を描いて平行移動し、後方に移動しつつ下降して運転席29の背後に変位する。反対方向の移動も言うまでもなく可能である。
【0025】
なお、本実施形態においては、キャノピー50が後傾すると作動するスイッチSWが備わっている。本実施形態ではスイッチSWとしてリミットスイッチが採用してある。スイッチSWの設置場所はキャノピー50が後傾したことが検出できれば限定されないが、本実施形態では第1支柱51のポスト51aの上部後側に配置し、キャノピー50が後傾した際にリンク51bが接触して入り状態となる構成を例示した(図1図5)。
【0026】
また、本実施形態の可倒式のキャノピー50には、後傾時に自重でキャノピー50に働く回転モーメントの一部を弾性力で相殺するスプリング57が備わっている。スプリング57を備えたことによりオペレータがキャノピー50を起こすのに必要な力が軽減される。スプリング57には、空気ばねやコイルバネ等の各種ばねを利用することができる。トーションバー等のねじりばねを利用した構成も可能である。スプリング57の配置はその役割を果たせる場所であれば限定されないが、本実施形態では第2支柱52にスプリング57を設けた構成を例示した(図7)。具体的には、第2支柱52のブラケットBR1とリンク52bとをスプリング57で連結し、後傾するキャノピー50の自重の一部をその復元力で支持する構成である。
【0027】
加えて、旋回体20の後端上には、キャノピー50の後傾時に補強バー56を受け入れて保持する保持機構58が備わっている。この保持機構58には、例えばラッチ機構を利用したパイプキャッチを利用することができる。保持機構58は、キャノピー50の後側への回動範囲を制限するストッパも兼ねる。
【0028】
-油圧システム-
図9は本発明の一実施形態に係る油圧ショベルを駆動する油圧システムの要部を抜き出して示す回路図である。同図に示した油圧システム40は、油圧ショベルに搭載された各油圧アクチュエータを駆動する装置であって旋回体20に備わっている。この油圧システム40は、油圧ポンプ41、方向切換弁42~45、パイロットポンプ46及び操作レバー装置L1~L4等を含んでいる。
【0029】
・油圧ポンプ
油圧ポンプ41は油圧アクチュエータを駆動する作動油を吐出する可変容量型のポンプであり、原動機47により駆動される。本実施形態における原動機47は内燃機関等の燃焼エネルギーを動力に変換するエンジンであるが、電動機を用いる場合もある。図9では油圧ポンプ41を1個のみ図示しているが、複数個設けられる場合もある。油圧ポンプ41から吐出された作動油は吐出配管41aを流れ、方向切換弁42~45を経由してそれぞれブームシリンダ35、アームシリンダ36、アタッチメントシリンダ37及び旋回モータ38に供給される。これら油圧アクチュエータからの戻り油は、それぞれ方向切換弁42~45を介して戻り油配管41bに流れ込んで作動油タンクTに戻る。吐出配管41aには、この吐出配管41aの最高圧力を規制するリリーフ弁(不図示)が設けられている。
【0030】
・方向切換弁
方向切換弁42~45は油圧ポンプ41から対応する油圧アクチュエータに供給される作動油の流れ(方向及び流量)を制御する油圧駆動式の流量制御弁であり、受圧室に入力されるパイロット圧により駆動される。方向切換弁42はブームシリンダ用、方向切換弁43はアームシリンダ用、方向切換弁44はアタッチメントシリンダ用、方向切換弁45は旋回モータ用である。走行モータ等の他の油圧アクチュエータ用の方向切換弁は図示省略してある。方向切換弁42~45の受圧室は対応する操作レバー装置に接続されている。方向切換弁42~45は受圧室にパイロット圧が入力されると図中で右行又は左行し、パイロット圧の入力が停止されるとバネの力で中立位置に復帰する構成である。例えばブームシリンダ用の方向切換弁42の左側の受圧室にパイロット圧が入力されると、図9において方向切換弁42のスプールがパイロット圧の大きさに応じた距離だけ右行する。これにより、パイロット圧に応じた流量の作動油がブームシリンダ35のボトム側油室に供給され、パイロット圧の大きさに応じた速度でブームシリンダ35が伸長しブーム32が上がる。
【0031】
・パイロットポンプ
パイロットポンプ46は方向切換弁42~45等の油圧駆動式の制御弁を駆動する作動油を吐出する固定容量型ポンプであり、油圧ポンプ41と同じく原動機47により駆動される。原動機47とは別の動力源でパイロットポンプ46を駆動する構成とすることもできる。パイロットポンプ46の吐出管路46aは分岐して操作レバー装置L1~L4に接続している。この吐出管路46aを介して操作レバー装置L1~L4の信号出力弁(減圧弁)にパイロットポンプ46の吐出圧がパイロット圧の元圧として入力される。
【0032】
・操作レバー装置
操作レバー装置L1~L4は対応する油圧アクチュエータの動作を指示するパイロット圧を操作に応じて生成し出力するレバー操作式の操作装置である。操作レバー装置L1はブーム操作用、操作レバー装置L2はアーム操作用、操作レバー装置L3はアタッチメント操作用、操作レバー装置L4は旋回操作用である。走行用の操作レバー装置等の他の操作装置は図示省略してある。操作レバー装置L1,L3は運転席29の右側の上記操作レバーWRで、操作レバー装置L2,L4は運転席29の左側の上記操作レバーWLで操作される。
【0033】
ブーム操作用の操作レバー装置L1は、ブーム上げ指令用の信号出力弁L1a及びブーム下げ指令用の信号出力弁L1bを備えている。信号出力弁L1a,L1bの入力ポート(一次側ポート)には吐出管路46aが接続している。ブーム上げ指令用の信号出力弁L1aの出力ポート(二次側ポート)はブームシリンダ用の方向切換弁42の左側の受圧室に接続している。ブーム下げ指令用の信号出力弁L1bの出力ポートは方向切換弁42の右側の受圧室に接続している。例えば操作レバーWRを後に倒すと信号出力弁L1aが操作量に応じた開度で開く。これにより吐出管路46aから入力されたパイロットポンプ46の吐出圧が、信号出力弁L1aで操作量に応じて減圧されて方向切換弁42の左側の受圧室に対するパイロット圧として出力される。
【0034】
同様に、アーム操作用の操作レバー装置L2は、アームクラウド指令用の信号出力弁L2a及びアームダンプ指令用の信号出力弁L2bを備えている。アタッチメント操作用の操作レバー装置L3は、アタッチメントクラウド指令用の信号出力弁L3a及びアタッチメントダンプ指令用の信号出力弁L3bを備えている。旋回操作用の操作レバー装置L4は、右旋回指令用の信号出力弁L4a及び左旋回指令用の信号出力弁L4bを備えている。信号出力弁L2a,L2b,L3a,L3b,L4a,L4bの入力ポートは、吐出管路46aに並列に接続している。操作レバー装置L2~L4の信号出力弁L2a,L3a,L4aの出力ポートは方向切換弁43~45の左側の受圧室に接続している。操作レバー装置L2~L4の信号出力弁L2b,L3b,L4bの出力ポートは方向切換弁43~45の右側の受圧室に接続している。操作レバー装置L2~L4のパイロット圧の出力原理はブーム操作用の操作レバー装置L1と同様である。
【0035】
パイロットポンプ46と信号出力弁L4a,L4bとを接続するパイロットラインにはロック弁48が設けられている。ロック弁48は前述したスイッチSWの信号により作動するノーマルオープンタイプの電磁駆動式の遮断弁であり、パイロットポンプ46の吐出管路46aから分岐して旋回用の信号出力弁L4a,L4bに繋がるパイロットラインに設けられている。キャノピー50が後傾してスイッチSWが入ると、スイッチSWからの信号でソレノイドが励磁されてロック弁48が作動し(遮断位置に切り換わり)、パイロットポンプ46から信号出力弁L4a,L4bへの吐出圧の入力が遮断されて旋回操作のみが不能になる。キャノピー50が起き上がってスイッチSWが切れると、ソレノイドが消磁されてロック弁48が開通位置に復帰し、旋回操作が有効になる。
【0036】
-キャノピーの操作手順-
キャノピー50を後傾させる場合、オペレータは、ルーフ54のフラップ54bを上方に開け、運転席29で支柱51~53の上下の固定ピンFPを抜き取り、例えばルーフ54を後方に押し下げる。これによりキャノピー50が後傾し、図1のようにルーフ54が運転席29の背後の位置まで下降して、補強バー56が保持機構58に把持されてキャノピー50が固定される。キャノピー50が倒れたら、固定ピンFPを各支柱51~53のピン穴H3,H6に挿入しキャノピー50を後傾姿勢で固定する。また、キャノピー50が後傾するとスイッチSWに第1支柱51のリンク51bが接触し、スイッチSWからの信号によりロック弁48が作動して旋回操作が不能になる。作業機30の操作や走行操作はキャノピー50が後傾した状態でも可能である。
【0037】
キャノピー50を起こす場合、オペレータは、運転席29で保持機構58のロックを解除して支柱51~53の上下の固定ピンFPを抜き取り、ルーフ54のフラップ54bを上方に開けた状態で例えばルーフ54を前方に押し上げる。これによりキャノピー50が立ち上がり、図1のようにルーフ54が運転席29の上方の位置まで上昇したら、固定ピンFPを各支柱51~53のピン穴H2,H5に挿入しキャノピー50を起立姿勢で固定する。キャノピー50を押し上げる作業は、スプリング57によりサポートされる。キャノピー50が起立するとスイッチSWが切れて旋回操作が有効になる。
【0038】
-効果-
(1)本実施形態においては、3本の支柱51~53でリンク機構を構成し、キャノピー50が後方に倒れて運転席29の後にルーフ54が移動する。ルーフ54が運転席29の背後に移動してオペレータの動きを妨げることがないので、キャノピー50を倒した状態でオペレータは運転席29に座って油圧ショベルを運転することができる。またルーフ54が運転席29の背後の位置まで下降するので、わざわざキャノピー50を取り外さなくても油圧ショベルの全高が低下し、梁等の障害物で高さ制限のある現場で状況に応じて柔軟に油圧ショベルを運用することができる。
【0039】
また、リンク機構によりルーフ54が運転席29のオペレータを避けるようにして弧を描いて後方に移動するので、オペレータは降車することなく運転席29に居ながらキャノピー50を倒すことができる。キャノピー50を立ち上げる場合も同様である。更に、3本の支柱51~53でリンク機構を構成したため、可倒式ながらキャノピー50の強度を十分に確保することができる。
【0040】
(2)ルーフ54のフラップ54bを上方に開けると、ルーフ54の左右方向の中央部においてはルーフ54の前縁が後退する。これにより、図1に示したように、キャノピー50を回動させる際のルーフ54の前縁の軌道を軌道X2から軌道X1に後退させることができる。ルーフ54の前縁の軌道が後退することで、キャノピー50の回動操作をする過程で運転席29のオペレータがルーフ54を避けるための体勢的負担を軽減することができる。
【0041】
(3)本また、後傾時にキャノピー50に働く回転モーメントの一部がスプリング57の弾性力で相殺されるので、オペレータがキャノピー50を起こすのに必要な力を軽減することができる。
【0042】
(4)また、本実施形態においては、キャノピー50を倒せる一方でルーフ54が運転席29の背後に移動することから旋回体20の後端旋回半径が増加する。そこで、キャノピー50が後傾した状態では旋回動作を禁止するインターロックを設け、旋回動作によってオペレータの死角でルーフ54が障害物に衝突するようなことを防止できる。
【0043】
-変形例-
上記の実施形態では、3柱式のキャノピーを用い、3本の支柱51~53でリンク機構を構成した場合を例に挙げて説明したが、4本以上の支柱でリンク機構を構成しても良い。
【0044】
また、ロック弁48を電磁駆動式としたが、例えばスイッチSWとロック弁48のスプールとをワイヤ等で連結し、スイッチSWの動作が機械的にロック弁48に伝わってロック弁48が切り換わる構成としても良い。また、スイッチSWの信号が車載コンピュータ等の制御装置(不図示)に入力され、スイッチSWの信号に応じて制御装置から出力される指令信号によりロック弁48が駆動される構成としても良い。制御装置を用いる場合、操作レバー装置L1~L4に電気レバー装置を採用し、旋回用の操作レバー装置L4から操作信号が入力されても制御装置からそれに応じた旋回指令信号が出力されない構成とすることで、同様のインターロックを実現できる。また、ロック弁48により旋回操作のみを無効化する構成を例示したが、例えば作業機30の動作を併せて禁止する場合には、例えば図9において各操作レバー装置に分岐する前の吐出管路46aの主流部にロック弁48の位置を変更することができる。
【符号の説明】
【0045】
10…走行体、20…旋回体、29…運転席、30…作業機、38…旋回モータ、41…油圧ポンプ、45…方向切換弁(旋回モータ用方向切換弁)、46…パイロットポンプ、48…ロック弁、50…キャノピー、51~53…支柱、54…ルーフ、54a…本体、54b…フラップ、54c…切り欠き、54d…ヒンジ、57…スプリング、L4…操作レバー装置、SW…スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9