(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】穴加工工具及びガイドパッドの高さの調整方法
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20220915BHJP
B23D 77/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B23B51/00 K
B23D77/00
(21)【出願番号】P 2019536877
(86)(22)【出願日】2018-01-22
(86)【国際出願番号】 IL2018050078
(87)【国際公開番号】W WO2018154557
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-11-26
(32)【優先日】2017-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514105826
【氏名又は名称】イスカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ヘヒト ギル
(72)【発明者】
【氏名】シットリット シモン
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第01414565(US,A)
【文献】実開昭56-057703(JP,U)
【文献】特開2001-038508(JP,A)
【文献】特開平06-008043(JP,A)
【文献】米国特許第03427904(US,A)
【文献】特開2002-178204(JP,A)
【文献】特開平10-225806(JP,A)
【文献】実公昭16-018619(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00 - 51/14
B23D 77/00 - 77/14
B24B 3/00 - 7/30
B24B 21/00 - 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前向き軸方向及びこれと逆向きの後向き軸方向(FAD、RAD)を画定する中心長手方向工具軸(R)と、ポケット基面(32)を有する外側を向くパッドポケット(20)と、前記パッドポケット(20)の中に固定されているガイドパッド(118、218、318)とを有する穴加工工具(100、300)であって、
楔部材(128、228、328)であって、楔上面及びこれと反対側の楔下面(62、64)、並びに前記楔部材に形成された楔開口部(68)を備え、前記楔上面及び楔下面(62、64)の間に鋭角の楔角(β)が形成され、前記楔下面(64)が前記ポケット基面(32)に当接し、前記ガイドパッド(118、218、318)が前記楔上面(62)に当接する楔部材(128、228、328)と、
前記楔部材(128、228、328)に当接し、前記楔部材(128、228、328)を前記ポケット基面(32)に沿って移動させるように構成されている調整ねじ(130、230、330)と、
前記楔開口部(68)を通り、前記ガイドパッド(118、218、318)及び前記楔部材(128、228、328)の両方を前記パッドポケット(20)中に固定するように構成されている締めつけ部材(40)と
をさらに備え、
前記ポケット基面(32)は、中心長手方向工具軸(R)と鋭角のポケット底角を形成
し、
前記前向き軸方向(FAD)において、前記楔上面(62)が前記中心長手方向工具軸(R)と鋭角の前逃げ角(α)を形成する穴加工工具(100、300)。
【請求項2】
前記楔角(β)が3°から13°の範囲にある請求項1に記載の穴加工工具(100、300)。
【請求項3】
前記楔上面が前記中心長手方向工具軸(R)と鋭角の前逃げ角(α)を形成し、前記前逃げ角(α)が0.1°から0.3°の範囲にある請求項1又は請求項2に記載の穴加工工具(100、300)。
【請求項4】
前記ポケット底角が前記楔角(β)及び前記前逃げ角(α)の和に等しい請求項3に記載の穴加工工具(100、300)。
【請求項5】
前記調整ねじ(130、230、330)が、楔部材(128、228、328)に対し、前記締めつけ部材(40)に向けた力を加える請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の穴加工工具(100、300)。
【請求項6】
前記中心長手方向工具軸(R)を含む断面が、前記調整ねじ(130、230、330)及び前記締めつけ部材(40)の両方を通る請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の穴加工工具(100、300)。
【請求項7】
前記パッドポケット(20)が、前記ポケット基面(32)から延在し、前記ガイドパッド(118、218、318)に当接して前記ガイドパッド(118、218、318)を位置決めするように構成されている複数のポケット壁(34)をさらに備える請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の穴加工工具(100、300)。
【請求項8】
前記複数のポケット壁(34)が前記ポケット基面(32)に対して垂直であり、前記ガイドパッド(118、218、318)を正確に位置決めするように構成されている請求項7に記載の穴加工工具(100、300)。
【請求項9】
前記ガイドパッド(118、218、318)がパッド上面及びこれと反対側のパッド下面(84、86)を有し、前記パッド上面及びパッド下面(84、86)のうちの少なくとも1つに位置する凸状の作用面(74)を備える請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の穴加工工具(100、300)。
【請求項10】
前記締めつけ部材(40)がねじであり、前記調整ねじ(130、230、330)及び前記締めつけ部材(40)の両方が、前記パッドポケット(20)に形成されたそれぞれのねじ穴に螺合する請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の穴加工工具(100、300)。
【請求項11】
前記パッドポケット(20)が、前記ポケット基面(32)から外側に向かって延在し工具周面(22)とつながる複数のポケット壁(34)を備える請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の穴加工工具(100、300)。
【請求項12】
前記楔部材(328)が、前記調整ねじ(330)を収容する調整用凹部(80)を備える請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の穴加工工具(300)。
【請求項13】
前記調整ねじ(330)が、前記楔部材(328)を前記前向き軸方向及び後向き軸方向(FAD、RAD)に選択的に移動させるように構成されている請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の穴加工工具(300)。
【請求項14】
前記楔部材(128、228)が、前記楔上面及び楔下面(62、64)のうちの一方から延在する受入拡張部(178、278)を備える請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の穴加工工具(100)。
【請求項15】
前記パッドポケット(20)がカートリッジを備えない請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の穴加工工具(100、300)。
【請求項16】
前記ガイドパッド(118、218、318)が切れ刃(26)を備えない請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の穴加工工具(100、300)。
【請求項17】
請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の穴加工工具(100、300)におけるガイドパッド(118、218、318)の高さの調整方法であって、
a)前記締めつけ部材(40)を緩めて、前記ガイドパッド(118、218、318)を解放する工程と、
b)所望のパッド高さに到達するまで前記調整ねじ(130、230、330)を回転させることにより、前記楔部材(128、228、328)を前記後向き軸方向(RAD)に押して前記ガイドパッド(118、218、318
)が半径方向(RD)
だけに移動する工程と、
c)前記締めつけ部材(40)を締めて、前記ガイドパッド(118、218、318)を締めつける工程と
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の主題は、複数のガイドパッド、すなわち支持パッド、を備える静止型又は回転式の金属穴加工工具に関する。具体的には、本願の主題は、ドリル、拡孔器(リーマー)及び/又は穿孔器等の穴加工工具用のパッド調整機構に関する。本願はフライス加工工具には関連しない。
【背景技術】
【0002】
米国特許第5,697,737号明細書は支持パッドを備えるドリルを開示する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本願の主題の第1の態様によれば、中心長手方向工具軸を有する穴加工工具であって、ポケット基面を有する外側を向くパッドポケットと、上記パッドポケットの中に固定されているガイドパッドとを備え、
ポケット基面と、
楔部材であって、楔上面及びこれと反対側の楔下面、並びに上記楔部材に形成された楔開口部(68)を備え、上記楔上面及び楔下面の間に鋭角の楔角が形成され、上記楔下面が上記ポケット基面に当接し、上記ガイドパッドが上記楔上面に当接する楔部材と、
上記楔部材に当接し、上記楔部材を上記ポケット基面に沿って移動させるように構成されている調整ねじと、
上記楔開口部を通り、上記ガイドパッド及び上記楔部材の両方を上記パッドポケットの中に固定するように構成されている締めつけ部材と
をさらに備える穴加工工具が提供される。
【0004】
本願の主題の第2の態様によれば、内部に固定されたガイドパッドと、細長い工具本体とを備える穴加工工具であって、
締めつけ部及びこれと反対側の加工部の間に延在する工具周面であって、上記加工部が切れ刃を備える工具周面と、
上記締めつけ部及び加工部を貫いて長手方向に通る中心長手方向工具軸と、
上記工具軸から離れる方向を向き、
ポケット基面、並びに
楔上面及びこれと反対側の楔下面、並びに上記楔上面及び楔下面の間に延在する楔周面を備え、上記楔周面が調整面を備える楔部材
を備えるパッドポケットと、
上記楔部材を移動させるように構成されている調整ねじと、
上記楔部材にある楔開口部を通り、上記ガイドパッド及び上記楔部材を上記パッドポケットの中に固定する締めつけ部材と
をさらに備え、
上記楔下面が上記ポケット基面に当接し、
上記楔上面及び楔下面が、それらの間に鋭角の楔角を形成し、上記調整ねじが上記調整面に当接する
穴加工工具がさらに提供される。
【0005】
本願の主題の第3の態様によれば、
細長い工具本体であって、締めつけ部及びこれと反対側の加工部の間に延在する工具周面、上記締めつけ部及び加工部を貫いて長手方向に通る中心長手方向工具軸、上記工具本体上に形成され、上記工具軸から離れる方向を向くパッドポケットを有し、上記パッドポケットがポケット基面を有する工具本体と、
パッド上面及びパッド下面を有し、上記ガイドパッド上面及びガイドパッド下面に開口するガイドパッド穴を有するガイドパッドと、
楔部材であって、楔上面及びこれと反対側の楔下面、上記楔部材の厚さを通り上記楔上面及び楔下面をつなげる楔開口部、並びに上記楔上面及び楔下面の間に延在する楔周面を備え、上記楔上面及び楔下面の間に鋭角の楔角が形成され、上記楔周面が調整面を備える楔部材と、
調整ねじと、
締めつけ部材と
を備え、
上記締めつけ部材が、上記ガイドパッド穴及び上記楔開口部の両方を通り、上記ガイドパッド及び上記楔部材の両方を上記パッドポケットの中に固定し、
上記楔下面が上記ポケット基面に当接し、
上記調整ねじが上記調整面に当接し、
上記調整ねじを回転させることで上記楔部材が上記ポケット基面に沿って移動し、上記長手方向工具軸に対する上記ガイドパッドの高さが調整される
穴加工工具がさらに提供される。
【0006】
以下の特徴のいずれも、単独であっても又は組み合わせであっても、本願の主題の態様のいずれにも適用可能でありうる。
【0007】
上記楔角は、3°から13°の範囲にあってもよい。
【0008】
上記楔上面は、上記中心長手方向工具軸と鋭角の前逃げ角を形成する。
【0009】
上記前逃げ角は、0.1°から0.3°の範囲にあってもよい。
【0010】
上記ポケット基面は、上記工具軸と鋭角の底角を形成し、上記ポケット底角は上記楔角及び上記前逃げ角の和に等しい。
【0011】
上記調整ねじは、上記楔部材に対し、上記締めつけ部材に向けた力を加える。
【0012】
上記中心長手方向工具軸を含む穴加工工具の断面は、上記調整ねじ及び上記締めつけ部材の両方を通る。
【0013】
上記パッドポケットは、上記ポケット基面から横方向に(すなわち、上記ポケット基面から立ち上がる方向に、又は上記ポケット基面と交差する方向に)延在しかつ上記ガイドパッドに当接して上記ガイドパッドを位置決めするように構成されている複数のポケット壁を備えてもよい。
【0014】
上記複数のポケット壁は、上記ポケット基面に対して垂直であってもよい。
【0015】
上記ガイドパッドは、パッド上面及びこれと反対側のパッド下面を有し、上記上面及び下面のうちの少なくとも1つに位置する少なくとも1つの凸状の作用面を備えてもよい。
【0016】
上記締めつけ部材はねじであってもよく、上記調整ねじ及び上記締めつけ部材の両方は、上記パッドポケットに形成されたそれぞれのねじ穴に螺合されてもよい。
【0017】
上記複数のポケット壁は、上記ポケット基面から外側に向かって延在してもよく、工具周面とつながっていてもよい。
【0018】
上記楔部材は、上記調整ねじを収容する調整用凹部を備えてもよい。
【0019】
上記調整ねじは、上記楔部材を反対方向である前後方向に選択的に移動させてもよい。
【0020】
上記楔部材は、上記楔上面及び楔下面のうちの一方から横方向に延在する受入拡張部を備えてもよい。
【0021】
上記パッドポケットはカートリッジを備えない。
【0022】
上記ガイドパッドは、いずれの種類の切れ刃をも備えない。
【0023】
上記穴加工工具の上記ガイドパッドの高さの調整方法は、
a)上記ガイドパッドを解放しつつ、上記締めつけ部材(40)を緩める工程と、
b)所望のパッド高さに到達するまで上記調整ねじを回転させる工程と、
c)上記締めつけ部材を締めて上記ガイドパッドを締めつける工程と
を備えてもよい。
【0024】
本願の主題のさらに別の態様では、穴加工工具のパッドポケットに装着可能な調節可能なガイドパッドアセンブリが提供される。このガイドパッドアセンブリは、
パッド上面及びパッド下面、並びにこのガイドパッド上面及びガイドパッド下面に開口するガイドパッド穴を有するガイドパッドと、
楔部材であって、楔上面及びこれと反対側の楔下面、上記楔部材の厚さを通り上記楔上面及び楔下面をつなげる楔開口部、並びに上記楔上面及び上記楔下面の間に延在する楔周面を備え、上記楔上面及び楔下面の間に鋭角の楔角が形成され、上記楔周面が調整面を備える、楔部材と、
上記調整面に当接するように構成されている調整ねじと、
上記パッド下面が上記楔上面に当接し、上記ガイドパッド穴が上記楔開口部と重なっている状態で上記ガイドパッドが上記楔部材の上に置かれている時に、上記ガイドパッド穴及び上記楔開口部の両方を貫いて延在するに十分な長さを有する締めつけ部材と
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本願の主題のより良い理解のために、及び本願の主題がどのように実際に実施されてもよいのかを示すために、以降、添付の図面への参照がなされることになる。
【
図1】組み立て配置における穴加工工具の側面図である。
【
図2】
図1の穴加工工具の分解組立図の等角図である。
【
図3】
図1のIII-III線に沿ったパッドポケットの断面図である。
【
図4】組み立て配置におけるパッドポケットの一実施形態の等角図である。
【
図5】
図4のパッドポケットの分解組立図の等角図である。
【
図6】
図4のVI-VI線に沿った上記パッドポケットの断面図である。
【
図7】組み立て配置における穴加工工具の一実施形態の等角図である。
【
図8】
図7の穴加工工具の分解組立図の等角図である。
【
図9】
図7のIX-IX線に沿ったパッドポケットの断面図である。
【0026】
適切と考えられる場合、対応する要素又は類似の要素を示すために、参照数字が複数の図にわたって繰り返されることがある。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の説明では、本願の主題の種々の態様が記載される。説明のために、特定の構成及び細部が十分詳細に示され、本願の主題の十分な理解が提供される。しかしながら、本明細書に提示される特定の構成及び細部を用いなくても本願の主題を実施することができるということも、当業者には明らかであろう。
【0028】
穴加工工具100、300は、締めつけ部112、312(例えば
図1及び
図8にのみ示す)と、これと反対側の加工部114、314と、それらの間に延在する細長い工具本体116、316とを備える。この締めつけ部は、機械の中、アダプタの中、又は延長シャンクの中に締めつけられるように構成されている。穴加工工具100、300は少なくとも1つのパッドポケット20をさらに備え、パッドポケット20は、高さ調整機構21と、パッドポケット20内部に固定された交換式のガイドパッド118、218、318とを有する。ガイドパッド118、218、318は割り出し可能であってもよい。用語「加工工具」、「ドリル」、「拡孔器(リーマー)」、「穿孔器」はすべて、本明細書中では、(物質を取り除くことにより)ワークピースの中に穴を作成するか、又はワークピースの内面を加工するかのいずれかのために構成されている工具を指す。上述の加工操作は、静止したワークピースに対して回転する回転加工工具、又は静止した加工工具に対して回転する回転ワークピースによって実施することができる。中心工具軸Rが画定され、中心工具軸Rは工具本体116、316の全体にわたって長手方向にかつ対称的に延在しており、締めつけ部112、312及び加工部114、314を通る。ほとんどの適用例では、工具軸Rは、工具又はワークピースの回転の軸である仮想回転軸と同軸である。
【0029】
当該技術分野で公知であるように、ガイドパッド、又は支持パッドは、ワークピースを切断しないし、ワークピースから材料を取り除きもしないが、半径方向に支持したり、及び/又はワークピースの表面品質を向上したりするように構成されている。
【0030】
工具軸Rは、工具軸Rと平行である軸方向ADを画定する。工具軸Rは、工具軸Rから垂直に延び軸方向ADに垂直である半径方向RDを画定する。接線方向TDは、軸方向及び半径方向AD、RDの両方に垂直であるように画定される。接線方向TDは、工具軸Rから離間している。換言すれば、接線方向TDは、工具軸Rと同軸である仮想円筒に対する接線である。
【0031】
パッドポケット20及び調整機構21についての3つの例示的実施形態が、本明細書に開示される。第1実施形態及び第2実施形態(
図1-
図6)は、工具の「側面」から、半径方向RDに、工具に接近すること(例えば、「トルクス(登録商標)」キー等の調整)を可能にしている。第3実施形態(
図7-
図9)は、工具の「前面」から、軸方向ADに、接近することを可能にしている。これは、例えば、側面からの接近性が厄介である工作機械のタレットにおいて好都合である。
【0032】
工具本体116、316は、工具軸Rに沿って加工部114、314と締めつけ部112、312との間に延在する工具周面22を備える。
【0033】
加工部114は、一体的な又は交換式の加工ヘッド24を備えてもよい。交換式の加工ヘッド24は、少なくとも1つの切れ刃26を有し、工具本体116、316に解放可能に結合されている。ドリル又は穿孔器を例示する第1実施形態及び第2実施形態によれば、加工部114は、軸方向ADにおいて、パッドポケット20と離間していてもよい。
図1で見られるように、軸方向ADは、加工ヘッド24が位置している当該工具の前端の方向にある前向き軸方向FAD、及び締めつけ部112が位置している工具の後端の方向にある逆向きの後向き軸方向RADを備える。拡孔器(リーマー)を例示する
図7-
図9に示される第3実施形態によれば、パッドポケット20は、加工部314内に位置していてもよい。
【0034】
パッドポケット20は、工具周面22に沈み込んでいてもよく、半径方向外側に向いている。調整機構21は、半径方向RDにおけるガイドパッド118、218、318と工具軸Rとの間の距離として定義される半径方向拡張量REを調整するように構成されている。一般に、調整の間にガイドパッド118、218、318の全体が移動するので、ガイドパッド118、218、318における任意の点は少なくとも半径方向RDにおいては同じ距離を平行移動する。しかしながら、一例として、半径方向拡張量REは、仮想基準面RPから測定される。基準面RPは、パッド上面及びパッド下面84、86の間の中間に位置してもよく、このことは、以降、さらに説明される。用途及び工具サイズによっては、上記半径方向拡張量は1mmに達してもよい。
【0035】
調整機構21は、楔部材128、228、328と、調整ねじ130、230、330とを備える。楔部材128、228、328はパッドポケット20中に据え付けられており、ガイドパッド118、218、318は楔部材128、228、328上に据え付けられている。半径方向RDにおいて、楔部材128、228、328は、工具軸Rとガイドパッド118、218、318との間に位置している。調整ねじ130、230、330は、パッドポケット20の中で楔部材128、228、328を後向き軸方向RADに押す、すなわち移動させるように構成されている。以降に説明するように、パッドポケット20と楔部材128、228、328との間の角度が付いた係合により、楔部材128、228、328が上述の半径方向拡張量REを正確に調整、すなわち変更、することが可能になる。
【0036】
パッドポケット20は、工具周面22に対して窪んでいてもよくかつ半径方向RDに外側を向くポケット基面32を備える。パッドポケット20は、ポケット基面32から横方向に(すなわち、上記ポケット基面32から立ち上がる方向に、又は上記ポケット基面32と交差する方向に)延在し工具周面22と出会う複数のポケット壁34を有する。ポケット壁34はポケット基面32に対して垂直であってもよい。第1実施形態及び第2実施形態によれば、2つの隣接するポケット壁34(後向き軸方向RADにおいて加工部114から最も遠く位置している)は、位置決め用隅部36で出会い、パッドポケット20の中でのガイドパッド118、218の正確な配置を向上するように構成されている。第3実施形態によれば、パッドポケット20は、ガイドパッド318の後方部分と係合し後向き軸方向RADの止め、すなわち位置決め手段、としての役割を果たす後方ポケット壁38を有する。ポケット壁34は、楔部材128、228、328がポケット壁34に向かって押された時に、ガイドパッド118、218、318が半径方向RDのまわりに回転したり半径方向RDに動いたりすることを防止する(又は低減する)ようにも構成されている。具体的には、楔部材128、228、328が締めつけ部112、312に向かって後向き軸方向RADに移動する時、ガイドパッド118、218、318は半径方向RDに移動するだけである。
【0037】
パッドポケット20は、ガイドパッド118、218、318及び楔部材128、228、328の両方をパッドポケット20の中に固定するように構成されている締めつけ部材40をさらに備える。締めつけ部材40は、ガイドパッド118、218、318をポケット基面32に向かって及びポケット壁34に向かって押し付けている。締めつけ部材40は締めつけねじ40であってもよい。締めつけねじ40は、ポケット基面32にある締めつけ部材用穴42の対応する雌ねじに螺合することができる。
【0038】
第1実施形態によれば、調整ねじ130は、円錐台状のヘッド当接面46を備える締めつけヘッド44を有する。調整ねじ130はさらに、締めつけヘッド44につながっている円筒形の雄ねじ部48を有する。ヘッド当接面46は、楔部材128に当接するように構成されている。ヘッド当接面46の反対側の、締めつけヘッド44の上端58に、締めつけヘッド44はさらに、例えば「トルクス」キー凹部であるキー凹部50を有する。調整ねじ130は、ポケット基面32に開口し半径方向RDに延在するねじ溝付きの調整穴152に螺合される。
【0039】
第2実施形態によれば、調整ねじ230は、円錐台状の下部当接面56につながっているねじ溝部48を有する。下部当接面56の最大径はねじ溝部48の外径よりも小さい。下部当接面56は、楔部材228に当接するように構成されている。下部当接面56の反対側の、ねじ溝部48につながっている上端58に、調整ねじ230は、例えば「トルクス」キー凹部であるキー凹部50を有する。調整ねじ230は、工具周面22に開口し半径方向RDに延在するねじ溝付きの調整穴252に螺合される。調整穴252はパッドポケット20にも開口しており、調整ねじ230と楔部材228との間の接触を可能にしている。
【0040】
第3実施形態によれば、調整ねじ330は、反対側にある2つの平面状の端部当接面60及びそれらの間に延在するねじ溝部48を有する。端部当接面60は、楔部材318に当接するように構成されている。端部当接面60のうちの少なくとも1つは、例えば「トルクス」キー凹部であるキー凹部50を有する。調整ねじ330は、軸方向ADに延在し工具前面54に開口するねじ溝付きの調整穴352に螺合される。工具前面54は、前向き軸方向FADに外側を向く。工具前面54は、加工部314に位置している。調整穴352は、パッドポケット20にも開口しており、調整ねじ330と楔部材328との接触を可能にしている。
【0041】
楔部材128、228、328は、楔上面及びこれと反対側の楔下面62、64と、楔上面及び楔下面62、64の間に延在する楔周面66とを有する。楔上面及び楔下面62、64は、工具軸Rに沿って延在し、それらの間に鋭角の楔角βを形成する。楔角βは、3°から13°の範囲にあってもよく、好ましくは7°である。楔部材128、228、328は細長い楔開口部68を有する。楔開口部68は、楔開口部68を通る締めつけ部材40を収容するように構成されている。軸方向ADで、楔開口部68は、締めつけ部材40の幅、すなわち直径、よりも大きい寸法を有する(
図3、
図6及び
図9の断面で見られるとおり)。楔開口部68は楔部材を通り(つまり、貫き)、少なくとも楔上面及び楔下面62、64に開口する。楔開口部68は、軸方向ADに細長く、これにより、楔部材128、228、328の中での軸方向ADの締めつけ部材40の相対移動を許容している。
図3、
図6及び
図9は、楔開口部68と締めつけ部材40との間で軸方向に作られる空間を示す。この空間が、上述の相対移動を可能にしている。
【0042】
第3実施形態によれば、楔開口部68は楔周面66にも開口する。基本的に、楔部材318は柔軟性スロット70を備える。この柔軟性スロット70は、楔周面66と楔開口部68との間に延在し、従って、柔軟なアーム72を作り出す。柔軟なアーム72は、パッドポケット20から外して(弛緩位置で)置かれているとき、(ポケット壁34に対して)接線方向TDにおいてパッドポケット20からわずかに突出する、すなわちパッドポケット20よりも幅広である。楔部材318がパッドポケット20に挿入されているとき、柔軟なアーム72は互いに向かって押し付けられており(これにより、弾性変形が引き起こされ弾力が生じる)、これにより、アーム72が常にポケット壁34と部分的に接触したままであることが可能になり、アーム72がパッドポケット20から脱落することが防止される。
【0043】
楔上面62は接線方向TDと平行である。言い換えると、楔上面62は、工具軸Rを通る仮想平面(例えば、この仮想平面は、
図3で見られるような断面の面であってもよい)に垂直である。前向き軸方向FADにおいて、楔上面62は、軸方向の断面(
図3、
図6及び
図9)で見られるように、工具軸Rと前逃げ角αを形成する。ガイドパッド118、218、318は作用面74を有する。作用面74は、ワークピースと係合するように構成されているが、ワークピースから材料を切り出すようには構成されていない。前逃げ角αにより、パッドポケット20の中でのその時点での取り付け配向ではワークピースとの係合を意図したものではない作用面74について、ワークピースからの解放が可能になる。換言すれば、ガイドパッド118、218、318がどれほど多くの作用面74を備えようとも、前逃げ角αにより、1つだけの、所望の作用面74がワークピースと係合することが可能になる。前逃げ角αは非常に小さいので、楔上面62は、その断面では工具軸Rと平行であるように見えるかもしれない。具体的には、前逃げ角αは、0.1°から0.3°の値を有してもよい。
【0044】
楔部材128、228、328は調整面176、276、376をさらに備える。調整面176、276、376は、調整ねじ130、230、330を受けて係合するように構成されており調整ねじ130、230、330の形状に合うように構成されている。本実施例によれば、調整面176、276、376は部分円錐台状である。第1実施形態及び第2実施形態によれば、調整面176、276は受入拡張部178、278に置かれている。第1実施形態によれば、受入拡張部178は楔上面62から横方向に延在する。第2実施形態によれば、受入拡張部278は楔下面64から横方向に延在する。
【0045】
第1実施形態及び第2実施形態によれば、調整面176、276は、例えば
図3及び
図6の断面で見られるように、楔上面62と鋭角の調整角γを形成する。調整角γにより、調整ねじ130、230が楔部材128、228を締めつけること(パッドポケット20から脱落することを防止する)及び楔部材128、228を移動させることの両方が可能になる。
【0046】
第3実施形態によれば、楔部材318は、楔下面64に置かれ楔下面64に開口する調整用凹部80を備える。調整用凹部80は、楔上面62と垂直である後方調整面376を備える。調整用凹部80は、調整面376と平行であり調整面376と対向して置かれている前方調整面82をさらに備える。この二次的な調整面82により、調整ねじ330が楔部材318を前向き軸方向FADに締めつけ部312から離れるように押すことが可能になり、それゆえ半径方向拡張量REが小さくなる。
【0047】
上述したように、ガイドパッド118、218、318は、パッド上面及びパッド下面84、86と、パッド上面及びパッド下面84、86間に延在するパッド周面88とを有する。ガイドパッド118、218、318は、パッド上面及びパッド下面84、86に開口するガイドパッド貫通穴90を備えてもよい。組み立て配置において、例えば、パッド上面84の平面図から見たときに、ガイドパッド穴90は、締めつけ部材用穴42に対して偏心して、これにより締めつけねじ40がパッド118、218を、位置決め用隅部36又は後方ポケット壁38に向かって、ポケット壁34上を/ポケット壁34に対して、押し付けることが可能になるものでもよい。パッド上面及びパッド下面84、86のうちのいずれかの平面図から見たときに、ガイドパッド118、218、318の(同じ方向の)投影図は多角形形状を有する。第1実施形態及び第2実施形態によれば、ガイドパッド118、218は、正方形形状である投影図を有する。第3実施形態によれば、ガイドパッド318の投影図は矩形形状を有する。
【0048】
第1実施形態及び第2実施形態によれば、パッド上面84は、ワークピースと係合するように構成されている2つの斜向かいの凸状の作用面74を備える。第3実施形態によれば、パッド上面84は、ワークピースと係合するように構成されている2つの対向する凸状の作用面74を備える。作用面74は、すべて基準面RPから同じ距離に位置している。パッド下面86は、少なくとも部分的に平面状であってもよい。
【0049】
組み立て配置において、楔下面64はポケット基面32に当接する。本実施形態によれば、パッド下面86は楔上面62に当接する。パッド周面88はポケット壁34に当接する。締めつけ部材40は、ガイドパッド穴90及び楔開口部68の両方の中に位置する。締めつけ部材40は締めつけ部材用穴42に螺合され、ヘッド当接面46は、ガイドパッド穴90の中に位置する対応するパッド締めつけ面92に当接する。上記のことから、パッド下面86が楔上面62に当接し、ガイドパッド穴90が楔開口部68と重なっている状態でガイドパッドが楔部材の上に置かれている時に、締めつけ部材40はガイドパッド118、218、318及び楔部材128、228、328の両方の厚さを通るに十分な長さを有し、これによりガイドパッド118、218、318及び楔部材128、228、328の両方をパッドポケット20の中に固定するということが理解できる。
【0050】
調整ねじ130、230、330は、調整穴52に螺合され、楔部材128、228、328に当接する。例えば
図3断面図で見られるように、調整ねじ130、230、330及び締めつけ部材40の両方が、工具軸Rと交差する仮想平面に長手方向に延在する、すなわち方向付けされる。それゆえ調整ねじ130、230、330は、楔部材128、228、328を後向き軸方向RADに押し付ける。言い換えると、調整ねじ130、230、330は、楔部材128、228、328の中央で方向付けられる力を締めつけ部材40に向かってのみ加える。これにより、(楔部材を回転させる可能性があり、この回転が起こると、調整精度すなわち作用面74の最終位置の精度が低下する可能性がある)望まれないトルクが楔部材128、228、328に加えられないことが確実になる(実現されやすくなる)。第1実施形態及び第2実施形態によれば、ガイドパッド118、218が交換される時、調整ねじ130、230は、楔部材128、228を保持し、楔部材128、228がパッドポケット20から脱落することを防止する。
【0051】
半径方向拡張量REを調整する必要が生じたときには、締めつけ部材40は緩められ、調整ねじ130、230、330が所望の調整方向に応じて回転される。楔角βに起因して、調整ねじ130、230、330は、軸方向AD及び半径方向RDに、ポケット基面32に沿って楔部材128、228、328を押し付け移動させる。ポケット基面32は、工具軸Rと鋭角のポケット底角を形成する。ポケット底角はα+βに等しい。
図3、
図6及び
図9で見られるように、ポケット基面32は、工具の前方向に、工具軸Rに向かって傾いている。
【0052】
第3実施形態では、調整ねじ330は右ねじであり、時計回り方向に回転すると、調整ねじ330は後向き軸方向RADに締めつけ部112、312に向かって進み、それゆえ楔部材328を少なくとも同じ方向に押す。上述したとおり、ガイドパッド118、218、318はポケット壁34に当接する。それゆえ、楔部材128、228、328の移動の間、ガイドパッド118、218、318は半径方向RDに(工具軸Rから離れて、又は工具軸Rに向かって)移動する。正しい、又は所望の、半径方向拡張量REに到達すると、締めつけ部材40は締められ、楔部材128、228、328及びガイドパッド118、218、318のその時点での位置を保存/係止する。締めつけ部材40が締められた後、ガイドパッド118、218、318は、軸方向及び接線方向AD、TDにおいてただ1つの位置(及び配向)で正確に位置決めされる。換言すれば、軸方向及び接線方向AD、TDの両方において、ガイドパッド118、218、318は、割り出しの配向によらず、常に正確に配置される。
【0053】
調整機構21によって成し遂げ向上することができる穴精度は、とりわけ十字穴用及び/又は断続加工用の加工工具の安定性を向上させる。より良好な安定性は、耳障りな異音の減少及び/又は振動の抑制にも寄与する。振動の抑制は、通常、加工の際のノイズ削減につながる。このことは、とりわけ、工具が加工された穴を出るときに、認識できる。
【0054】
第3実施形態では、調整ねじ330によって二方向の調整が可能になる。これは、半径方向拡張量REの調整の際に操作者からほとんど何も要求されないということを意味する。
【0055】
調整機構21は少量の部品しか有していない。それゆえ、調整機構21は簡便であり安く製造できる。例えば、カートリッジ(これは、製造を複雑にして製造コストを上昇させる)は必要ではない。