(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】2つのブランクを接合するための方法、及びその方法から得られる製品
(51)【国際特許分類】
B23K 26/28 20140101AFI20220915BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20220915BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20220915BHJP
B23K 26/244 20140101ALI20220915BHJP
【FI】
B23K26/28
B23K26/21 F
B23K26/21 W
B23K26/00 N
B23K26/244
(21)【出願番号】P 2019567627
(86)(22)【出願日】2018-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2018071442
(87)【国際公開番号】W WO2019030249
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-08-06
(32)【優先日】2017-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517098527
【氏名又は名称】オートテック・エンジニアリング・ソシエダッド・リミターダ
【氏名又は名称原語表記】Autotech Engineering, S.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】アントワン・リケルメ
(72)【発明者】
【氏名】エリセンダ・ビラ・イ・フェレル
(72)【発明者】
【氏名】ペドロ・ルビオ・サンチェス
(72)【発明者】
【氏名】ミレイア・イリャナ・グレゴリ
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-204090(JP,A)
【文献】特開平10-071480(JP,A)
【文献】国際公開第2016/059130(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/104781(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0117712(US,A1)
【文献】特開2000-084684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/28
B23K 26/21
B23K 26/00
B23K 26/244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ブランクと第2ブランクを接合する方法であって、
前記第1ブランクと前記第2ブランクの少なくとも一方はアルミニウム又はアルミニウム合金の層を少なくとも1つ備えており、
前記方法は、
前記第1ブランクと前記第2ブランクを溶接するために配置する工程と、
前記第1ブランクと前記第2ブランクとのレーザ溶接を溶接経路に従って行う工程と、
構成部品を形成するため、溶接された前記ブランクに熱間変形と熱間焼き入れを行う工程とを含んでおり、
前記溶接経路は、溶接方向に沿った線形移動と、前記溶接方向に対して実質的に横向きの揺動とを組み合わせており、
前記レーザ溶接はフィラーを用いずに行われ
ており、
前記第1ブランク及び/又は前記第2ブランクは、アルミニウム又はアルミニウム合金の層を備えるコーティングを有する鋼基板を備えており、
前記鋼基板は好ましくは超高強度鋼である、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1ブランクと前記第2ブランクとの接合は、端部同士の突合せ継手及び重ね継手から構成されるグループから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1ブランクと前記第2ブランクとの接合は、端部同士の突合せ継手であるため、テーラ溶接ブランクを形成することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶接経路の前記揺動は実質的に円形なループのパターンをたどることを特徴とする、
請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記揺動は往復線形移動であることを特徴とする、
請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記揺動は400~1500Hz、好ましくは600~1200Hzの周波数を有することを特徴とする、
請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記揺動は700~1000Hzの周波数を有することを特徴とする、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶接経路は0.5~10mm、好ましくは0.8~1.2mmの幅を有することを特徴とする、
請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
レーザ光は0.2~1mm、好ましくは0.5~1mmの大きさのスポットサイズを有することを特徴とする、
請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
レーザ光は0.5~10kW、好ましくは3~6kWの大きさの最大出力を有することを特徴とする、
請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
レーザ光の出力は、前記揺動の間、動的に制御されており、
最大出力の10~50%、好ましくは20~45%の最小出力が用いられることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記溶接方向に沿った前記線形移動は1~10m/分、好ましくは2~8m/分の速度でレーザにより行われることを特徴とする、
請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
溶接部は前記構成部品の隣接部と実質的に同じ大きさの引張強度を有することを特徴とする、
請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記アルミニウムのコーティングは、溶接する前に完全に取り除かれない、又は部分的に取り除かれることを特徴とする、
請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2017年8月9日に提出された欧州特許出願17382563.9号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、2つのブランクを接合するための方法、及び該方法により得られる製品に関する。特に、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金のコーティングを有する鋼基板をレーザ溶接するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
構成部品の重量を低コストで減らすことを目的とした金属部品の新しい材料と製造工程の開発は、自動車産業において最も重要である。自動車産業において一般的に、高強度鋼又は超高強度鋼(UHSS)のブランクが、構造骨格の構成要素を製造するために用いられる。車両、例えば自動車の構造骨格は、例えばバンパ、ピラー(Aピラー、Bピラー、Cピラー)、サイドインパクトビーム、ロッカーパネル、及びショックアブソーバを含み得る。
【0004】
これらの目的を果たすため、産業は超高強度鋼(UHSS)を開発した。この超高強度鋼は、重量単位に対する最適化された最大強度、及び有利な成形性特性を示す。UHSSは、少なくとも1000MPa、好ましくは約1500MPa、又は2000MPaまで、若しくはそれ以上の最大引張強度を有してもよい。
【0005】
これらの鋼の一部は、熱処理後に微細構造を得るように形成されている。この熱処理は、良好な機械的特性をもたらし、鋼のブランクから特定の自動車部品を形成するために用いられる熱間鍛造工程に鋼が特に適するようにする。熱間鍛造工程の間、ブランクは攻撃的な大気にさらされる。また、鋼は、通常、腐食と酸化を防ぐためにコーティングされる。
【0006】
構造要件を順守する一方で構成部品の重量を最小化するため、「テーラードブランク」と呼称される技術が用いられ得る。この技術において、構成部品は複合金属のブランクから構成される。この複合金属のブランクは、異なる厚み、大きさ、特性を有する複数のブランクを溶接することにより得られる。少なくとも理論的に、このような技術を用いて材料を扱うことは最適化され得る。異なる厚みのブランクが接合され得る。若しくは、鋼のブランクが、例えばコーティングされた鋼のブランクと接合され得る。それぞれの材料の固有の特性を用いるため、これらのブランクが必要とされる。
【0007】
成形工程における脱炭とスケール形成を防ぐため、22MnB5鋼がアルミニウム‐シリコンコーティングと共に提示される。22MnB5鋼の組成は以下の重量割合でまとめられる。(残りは鉄(Fe)と不純物である。)
【0008】
【0009】
複数の22MnB5鋼は、同様の化学組成を有しており、工業的に利用できる。一方、22MnB5鋼におけるそれぞれの化学成分の正確な量は製造者によって僅かに変動し得る。
【0010】
Usibor(登録商標)1500Pは、フェライトとパーライトの相で供給される。この相は、均質なパターンで分布した微細な結晶粒組織である。機械的特性は、その構成に関連している。熱処理、熱間鍛造工程、及び焼き入れの後、マルテンサイトの微細構造が形成される。結果として、最大強度と降伏強度は著しく増加する。
【0011】
Usibor(登録商標)1500Pの組成は以下の重量割合でまとめられる。(残りは鉄(Fe)と不可避の不純物である。)
【0012】
【0013】
上述のように、Usibor(登録商標)1500Pは、腐食と酸化のダメージを防ぐため、アルミニウム‐シリコン(AlSi)コーティングを与えられる。一方、このコーティングは溶接挙動に関して重大な欠点を有する。Usibor(登録商標)1500Pのブランクが別の手段を用いずに溶接されるとき、コーティングのアルミニウムが溶接領域の中に入り得る。これにより、結果として得られる構成部品の機械的特性の重大な悪化を生じて、溶接領域における弱い部分の破断の可能性が増加し得る。
【0014】
アルミニウムが溶接線内にあることにより、追加の熱間変形工程において、マルテンサイトの生成を防ぐ。また、アルミニウムの濃度が大きいことにより、金属間化合物の生成をもたらす。そのような金属間化合物は、一般的に脆く、弱い溶接であることを意味する。また、熱間鍛造のような熱間変形工程の後、この金属間化合物により弱い接合となり得る。いかなる手段も取られないと、溶接の最終的な引張強度は、例えば1500MPaから900MPaまで減少する。これにより、結果として得られる構成部品が曲げ荷重(例えば衝突)を受けるとき、溶接領域において局所的な破断をもたらし得る。
【0015】
このような問題を克服するため、方法の1つが国際公開特許2007/118939号に提案されている。この方法は、溶接ギャップに近い領域において(レーザーアブレーションにより)コーティングの一部を取り除くことから構成されている。また、この方法は、追加のステップが(テーラード)ブランクと構成部品の製造に対して必要であり、この追加のステップが、工程の反復性にも関わらず、廃棄されることになる多くの部分を含む複雑な品質の工程を必要とするという不利な点を有する。これらの不利な点は、溶接ステップのコストの増加を伴い、産業における技術競争力を制限する。
【0016】
米国公開特許2008/0011720号は、少なくとも1つの金属のワークピースをレーザビームによりレーザ溶接するための工程を提案している。上記ワークピースはアルミニウムを含む表面を有する。また、上記工程は、金属を溶かし、上記ワークピースを溶接するため、レーザビームが少なくとも1つのアーク放電と併用されることを特徴とする。アークの前のレーザは、フラックス入りワイヤ、又は溶接領域全体にわたるオーステナイト組織を保つことに有利なγ相を生じさせる要素(Mn,Ni,Cuなど)を含むようなものを用いることができる。
【0017】
一方、溶接領域の深さに沿うフィラー材の部分的な希釈だけに関連する問題が見つかっている。この問題は減少した溶接強度をもたらす。また、フィラー材は溶接領域において均質に分布できない。これにより、所定の領域で材料の堆積(「隆起」)を生じて、溶接領域の挙動に局所的に悪影響を及ぼし得る。すなわち、溶接領域の機械的特性が変わり得る。別の問題は、フィラー材が、適用される前に、アーク放電がフィラー材を溶かせない可能性があるため、予め熱せられる必要があり得ることである。
【0018】
結論として、強化された溶接を得るための方法を提供する必要がある。この方法は、上述の問題の一部を防ぐ、又は少なくとも減少させる。
【0019】
本発明の全体にわたって、ブランクは、1つ以上の工程のステップ(例えば変形、機械加工、表面処理、又はその他)をまだ経ていない物とみなされ得る。これらの物は、実質的に平板である、又はより複雑な形状を有する。
【発明の概要】
【0020】
本発明の第1の態様において、
第1ブランクと第2ブランクを接合する方法であって、
前記第1ブランクと前記第2ブランクの少なくとも一方はアルミニウム又はアルミニウム合金の層を少なくとも1つ備えており、
前記方法は、
前記第1ブランクと前記第2ブランクを溶接するため配置する工程と、
前記第1ブランクと前記第2ブランクとのレーザ溶接を溶接経路に従って行う工程と、
構成部品を形成するため、溶接された前記ブランクに熱間変形と熱間焼き入れを行う工程とを含んでおり、
前記溶接経路は、溶接方向に沿った線形移動と、前記溶接方向に対して実質的に横向きの揺動とを組み合わせており、
前記レーザ溶接はフィラーを用いずに行われる、ことを特徴とする方法が提供される。
【0021】
この態様によれば、アルミニウムは溶接領域に存在し得る。一方、これにより、熱間鍛造のような熱間変形工程後の機械的特性を悪化させることはない。溶接領域の引張強度は、結果として得られる構成部品の隣接部分と同じ度合いになり得る。十分な周波数の揺動により、溶接領域の全体にわたってアルミニウムの希釈をもたらす。したがって、アルミニウムの濃度は局所的に小さいため、金属間化合物の部分をもたらさず、また古典的な熱間変形と熱間焼き入れを行う工程におけるマルテンサイトの形成を防がない。
【0022】
したがって、コーティングされた鋼のブランクが溶接されるとき、一部の先行技術の方法において提案されているようにアルミニウム又はアルミニウム合金の層を完全に又は部分的に取り除く必要がない。このように、コーティングされた層を取り除く中間工程のステップは必要でないため、2つのブランクを溶接する工程は、より早く且つ安価に実行される。一方、いかなるフィラーも溶接領域に追加する必要がないため、フィラー材を含む高速ガスフローに関するすべての不利な点が防がれる。
【0023】
一般的に、第1ブランクと第2ブランクとを接合する種類は、端部同士の突合せ継手及び重ね継手から構成されるグループから選択されて、好ましくは端部同士の突合せ継手である。
【0024】
端部同士の突合せ継手という用語は、ある部品の小さな表面が他の部品の小さな表面に接合される状況を示すことが分かる(
図1c参照)。この端部同士(又は突合せ継手若しくは端部同士の突合せ継手)の構成は、一般的にテーラ溶接ブランクを得るために用いられる。
【0025】
一般的に、第1ブランク及び/又は第2ブランクは、アルミニウム又はアルミニウム合金の層を備えるコーティングを有する鋼基板を備える。上記鋼基板は好ましくは超高強度鋼である。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、溶接経路の揺動は実質的に円形なループのパターンをたどる、又はその代わりに往復線形移動である。往復線形移動に従うパターンの例は、限定されることはないが、ジグザグ及び正弦波のパターンである。
【0027】
一般的に、溶接経路の揺動は400~1500Hz、好ましくは600~1200Hz、より好ましくは700~1000Hzの周波数を有する。
【0028】
一般的に、溶接経路は0.5~10mm、好ましくは0.5~5mm、より好ましくは0.5~3mm、最も好ましくは0.8~2mmの幅を有する。一部の例では、0.8~1.2mmの幅を有する溶接経路が好ましい。
【0029】
レーザ光のスポットは円形のような形状であってもよい。また、スポットのサイズは、0.2~1mm、好ましくは0.5~1mmの範囲であってもよい。
【0030】
本発明の別の実施形態において、レーザビームは0.5~10kW、好ましくは3~6kWの大きさの最大出力を有する。有利な実施形態において、4kWの最大電力が用いられる。また、アルゴン又はヘリウムのようなプロテクタガスが、錆の発生を防ぐために用いられ得る。
【0031】
一部の場合、レーザ光の出力は、レーザ光の揺動の間、動的に制御され得る。特に、レーザ光の出力は、所定の小さな領域で調整され得る。この領域において、レーザは1つ以上の経路に又はスポット領域で用いられて、且つレーザの方向が揺動を形成するように急変動する。レーザ光の出力を動的に制御することの有利な効果は、溶接工程の間、溶接されるブランクの固有の特性に応じて溶接経路に沿って出力を変化させられることである。
【0032】
レーザ光により形成される揺動のパターンの種類、及び/又はレーザスポットの幅に応じて、溶接領域の一部は、より長い時間レーザ光の作用を受けて、他の領域に比べて1つ以上の経路に従う。これに関して、作用されるレーザ光の出力は、例えば上記領域の過熱を防ぐため、溶接工程の間、調整され得る。この領域が、他の領域よりも長い時間、レーザ光に特にさらされるか、又はレーザ光が、他の領域に比べて1つ以上の経路に作用されるかのいずれかである。
【0033】
他の実施形態において、特に異なる厚みを有する2つのブランクが共に溶接される場合、レーザ光の最大出力が厚いブランクに作用される一方、同じレーザ光がより小さい出力に調整されて薄いブランクに作用されるように、作用されるレーザ光の出力が、溶接工程の間、調整され得る。
【0034】
同様に、溶接されるブランクが異なるコーティングの厚みを有するとき、レーザ光の出力の動的制御が適用され得る。このとき、厚いコーティングを有するブランクにレーザ光の最大出力を用いる一方、薄いコーティングを有するブランクに対してレーザ光をより小さい出力に調整することにより、レーザ光の出力の動的制御を適用することが好ましい。
【0035】
本発明の揺動溶接工程の間、使用されるレーザ光の小さい出力が最大出力の10~50%、好ましくは15~45%である場合、動的に制御されるレーザ出力を用いて溶接されたブランクの構成部品を得るための最良の結果が出ることが分かった。この小さい出力は最小出力と呼称され得る。例えば、最大出力の10~50%の最小出力を小さな領域に作用することにより、レーザ光が1つ以上の経路に作用され、該小さな領域の過熱が防がれ、アルミニウムは溶接領域内で正しく混合され、溶接領域におけるフェライト含有物の形成を防ぐ。
【0036】
一般的に、溶接方向に沿った線形移動は1~10m/分、好ましくは2~8m/分、より好ましくは3~5m/分の速度でレーザにより行われる。有利な実施形態において、溶接方向に沿った線形移動は4m/分の速度でレーザにより行われる。
【0037】
揺動は、コーティング内に含まれるアルミニウムの量が実質的に薄くなるように選択される。したがって、アルミニウムの平均重量濃度は常に5%未満、好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満である。
【0038】
本発明の方法は、2つのブランクの突合せ継手によるテーラードブランクの成形に用いられ得る。ブランクのいずれか1つ、又は両方のブランクは、アルミニウム又はアルミニウム合金の層を備えるコーティングを有する鋼基板を備え得る。テーラ溶接ブランク(TWB)の技術が、構成部品の特性を局所的に変化させるために用いられる。テーラ溶接ブランクの技術において、異なる厚み又は異なる材料のブランクが接合され得る。
【0039】
異なる厚みを有する2つのブランクを共に溶接するための一般的な突合せ継手の構成は、ブランクの基部(下面)が同じ幾何学的平面に配置されるように、両方のブランクを配置することから構成されている。また、両方のブランクが端部で接触する。突合せ継手の構成を用いるとき、レーザ光は、溶接方向に従って移動する一方、溶接される両方のブランクの表面に対して垂直である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
本発明の非限定的な例が、添付された図面を参照して以下に説明される。
【
図1a】
図1aは、2つのブランクを接合するための構成を示す。
【
図1b】
図1bは、2つのブランクを接合するための構成を示す。
【
図1c】
図1cは、2つのブランクを接合するための構成を示す。
【
図2】
図2は、2つのブランクを接合するための好ましい例を示す。
【
図3】
図3は、2つのブランクを接合するレーザ光の例を示す。
【
図4】
図4は、本発明の一部の例に記載されている溶接経路のパターンを示す。
【
図5】
図5は、本発明の一部の例に記載されている溶接経路のパターンを示す。
【
図6】
図6は、本発明の別の例に記載されている2つのブランクをレーザ溶接するための例を示す。
【
図7】
図7は、製品を成形するための方法のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1a,1b,1cは、鋼基板121とコーティング111を有する第1ブランクAを、鋼基板122とコーティング112を有する第2ブランクBに接合するための3つの異なる構成を示す。
【0042】
図1aは、重ね継手の構成において、第1ブランクAを第2ブランクBと接合する、すなわち第2ブランクBの上に第1ブランクAを配置するための方法の例を示す。レーザ光は第1ブランクAの外表面に作用される。また、レーザ光が作用される第1ブランクAの領域は厚み全体(140)が溶ける。一方、レーザにより到達される第2ブランクBの領域は厚み全体(140)にわたって溶ける必要がない。
【0043】
図1bは、重ね継手の構成において、第1ブランクAを第2ブランクBと接合する、すなわち第2ブランクBの上に第1ブランクAを配置するための方法の例を示す。この第1ブランクAは、第2ブランクBに対して少なくとも部分的にスライドされている。レーザ光は、レーザ装置に対する外側から到達できる、両方のブランクの間の接触領域(140)に作用される。
【0044】
図1cは、(「突合せ継手」又は「端部同士の突合せ継手」として知られている)端部同士の構成において、第1ブランクAを第2ブランクBと接合するための方法の例を示す。端部同士の溶接は、両方のブランクが側面部で接触するように、第2ブランクBに加えて第1ブランクAを配置することと、両方のブランク(140)の間の接合部上にレーザ光を作用させることから構成されている。
【0045】
図2は、第1ブランクAを第2ブランクBと接合するための方法の好ましい例を示す。第1ブランクAの第1領域131は、第2ブランクBの第2部又は第2領域132に接合される。この例において、2つのブランクA,Bは突合せ継手、すなわち端部同士で溶接される。
【0046】
図2の例において、第1ブランクAと第2ブランクBの両方が、コーティングされたUHSS基板、例えばUsibor(登録商標)1500Pのようなコーティングされた22MnB5鋼基板であってもよい。したがって、両方のブランクが鋼基板121,122を備える。コーティング層111,112が鋼基板121,122に設けられ得る。与えられるコーティングは、アルミニウム、又はアルミニウム‐シリコンのようなアルミニウム合金である。
図2は単一のコーティング層111,112を示す。一方、複数のコーティング層も用いられ得る。コーティングは鋼基板の上面と下面の両方に与えられえる。
【0047】
図3は、レーザヘッド222を有するレーザ溶接装置221の断面図である。レーザ光220はこのレーザヘッド222から出る。また、レーザ光220は、溶融池230内のブランクA,Bの領域131,132(
図2参照)を溶かし得る。この例において、ブランク131,132は厚み全体にわたって溶かされる。これに関して、鋼基板121,122の材料と、コーティング層111,112のコーティング材は溶融池230で完全に混合される。
【0048】
通常、レーザ光のスポットは円形のようないかなる形状であってもよい。ビーム径とも呼称されるスポットサイズは0.2~1mm、好ましくは0.5~1mmの範囲でもよい。
【0049】
レーザ光は0.5~10kW、好ましくは3~6kWの範囲の最大出力を有する。アルゴン又はヘリウムのようなプロテクタガスがブランクの表面、特に溶接領域の錆の発生を防ぐために用いられ得る。
【0050】
図4は、端部同士の継手に平行な溶接方向320に従う溶接パターン310の例の平面図である。この例における溶接パターン310は、溶接方向に沿った、すなわち溶接線に従う実質的に線形な移動と、溶接方向に対して実質的に垂直な揺動との組み合わせを備える。この例において、実質的に円形な、すなわち0に近い偏心を有するループが、予め決められた周波数で繰り返される。そのような移動が溶接方向に沿った線形移動と共に行われる。一方、楕円形な、すなわち0~1の偏心を有するループ、又は他の非線形なパターンも用いられ得る。
【0051】
上述のように、レーザ光がより長い時間作用されるとき、特に領域330,340の好ましくない過熱を防ぐため、レーザ光の出力は、揺動溶接工程の間、動的に制御される。レーザ光の最大出力の20~45%の小さな出力が用いられる。この場合、溶接内にフェライト含有物のない均質な硬さのプロファイルが得られて、溶接領域の品質を高める。
【0052】
溶接パターンの周波数は400~1500Hz、好ましくは600~1200Hz、より好ましくは700~1000Hzであってもよい。つまり、レーザ光は400~1500Hz、好ましくは600~1200Hz、より好ましくは700~1000Hzの周波数で溶接パターンに沿って揺動する。700~800Hzの周波数の特定範囲が特に有利であると分かる。また、レーザ光は1~10m/分、好ましくは2~8m/分の速度で溶接パターンの方向に線形に動く。
【0053】
高い周波数を有する溶接パターンが、アルミニウムの平均重量濃度が常に5%未満、好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満であるように、溶接領域にわたってアルミニウムを希釈し得ることが分かる。アルミニウムが金属間化合物の層にあることが防がれ得る一方、外層のアルミニウムの量が最小化されるとき、熱間変形ダイクエンチ後の結果として得られる溶接領域の強度が向上することが分かる。
【0054】
溶接線内のアルミニウムの濃度が小さいことにより、金属間化合物を生成できない。したがって、溶接領域は弱められない。
【0055】
したがって、本発明に記載の線形及び揺動溶接経路のパターンを行うとき、溶接する前に、ブランクA,Bのアルミニウムコーティング層111,112を取り除く必要がない。部分的なアブレーションも完全なアブレーションも必要でない。熱間成形構成部品の製造は単純化され、コスト削減と高速化された工程とをもたらし得る。
【0056】
図5は、矢印により示す溶接方向に従う代わりの溶接パターン401,402の平面図を示す。溶接パターン401はジグザグのパターンを示す一方、溶接パターン402は正弦波形状を示す。溶接パターン401,402の周波数は、アルミニウム濃度が大きくない一方、必要な強度を有する溶接を形成するように変更され得る。この場合、動的に制御されるレーザ光の使用が、上述と同じ理由で好ましい。
【0057】
図6は、本発明の方法の代わりの実施形態を示す。この場合、レーザ光は、代わりに、中間断面P内の溶接方向の矢印WDに従って、且つ垂直方向Nに対して角αを形成して作用される。この垂直方向Nは溶接ブランクの表面に対して垂直である。溶接される2つのブランク、及び/又はブランクのコーティングが異なる厚みを有するとき、レーザ光の傾斜が特に有利であることが分かる。一般的に、角αは垂直方向Nに対して0~70度、好ましくは10~50度であってもよい。
【0058】
図7は、最終的な熱間鍛造及びダイクエンチ製品を得るため、本発明に記載されている工程のフロー図を示す。まず、本発明のいずれかの例に記載の溶接工程510は第1ブランクAと第2ブランクBを溶接するために用いられ得る。結果として得られる溶接ブランクが、およそオーステナイトを生成する温度に例えば炉の中で熱せられ得る(加熱工程520)。ブランクは、Bピラー構成部品のような、固有の幾何学的な構成を有する構成部品を形成するため、熱間変形、例えば熱間鍛造され得る(熱間変形工程530)。熱間変形工程の後、ブランクは、特に溶接ブランクの溶接領域において十分な機械的特性を与えるマルテンサイトの微細構造を得るため、焼き入れされ得る(焼き入れ工程540)。
【0059】
本発明で、多くの例が説明されたが、他の代替案、変更案、使用法、及び/又はそれらと同等なものでもよい。また、説明された例のすべての可能な組み合わせが包括される。したがって、本発明の範囲は、特定の例によって制限されないが、後述の請求項の公正な解釈によってのみ決められる。