IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社シードの特許一覧

特許7142034重合性トリプチセン誘導体化合物を構成成分として含む高分子化合物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】重合性トリプチセン誘導体化合物を構成成分として含む高分子化合物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/18 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
C08F220/18
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019569599
(86)(22)【出願日】2019-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2019003546
(87)【国際公開番号】W WO2019151462
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2018017415
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000131245
【氏名又は名称】株式会社シード
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】山崎 佳子
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-117013(JP,A)
【文献】特開昭60-081148(JP,A)
【文献】特開2008-075047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/00-301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、
~Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ホスフィンオキサイド基及びシリル基からなる群から選択される置換基を示し、ただし、隣接する置換基同士で環を形成してもよく;
X及びYは、一方が下記一般式(2)
【化2】
(式中、nは1~5の整数であり;及び、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で示される置換基を示し、
かつ、他方が前記一般式(2)で示される官能基、水素原子及びハロゲン原子、並びに、保護された、又は保護されていない、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、カルボキシアルキル基 、アミノ基、アミノアルキル基 、アミノカルボニル基、アミノカルボニルアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアルキル基 、ホルミル基、ホルミルアルキル基及びアルキル基からなる群から選択される置換基を示す。)
で示される、重合性トリプチセン誘導体化合物と、
該重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な化合物と
を構成成分として含む、高分子化合物。
【請求項2】
前記他方の置換基は下記一般式(3)
【化3】
(式中、nは1~5の整数であり;及び、Rは水素原子及び炭素数1~3のアルキル基からなる群から選択される置換基を示す。)
で示される置換基、
下記一般式(4)
【化4】
(式中、nは1~5の整数であり;及び、Rは水素原子及びカルバメート系保護基からなる群から選択される置換基を示す。)
で示される置換基
及び下記一般式(5)
【化5】
(式中、nは1~5の整数である。)
で示される置換基からなる群から選択される置換基を示す、請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項3】
前記重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な化合物が、少なくとも1種の重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な親水性化合物である、請求項1又は2に記載の高分子化合物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換されたトリプチセン構造を有するトリプチセン誘導体化合物を構成成分として含む高分子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物は、モノマー成分である(メタ)アクリル酸及びその誘導体などの重合性化合物の1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて重合反応に供すること、分子内にジカルボン酸を有する化合物やアミノ基及びカルボキシル基を有する化合物を重縮合反応に供することによって得られ得る。
【0003】
高分子化合物の特性は、原料となるモノマー化合物やその組み合わせにより様々に変化する。そこで、新たな特性を有する高分子化合物や既知の特性を改善してなる高分子化合物を得るためには、原料となるモノマー化合物の組み合わせや新規のモノマー化合物の創製などを種々検討することになる。このうち、新規のモノマー化合物を創製するためには、既知化合物の特定部位の化学修飾や重合性官能基の付加などを種々試みる。
【0004】
既知化合物の1種であるトリプチセンは、3つのベンゼン環が三枚羽根の歯車様に配置したD3h対称構造を有する芳香族炭化水素である。トリプチセンは、このような構造をとることから、機能性材料への応用が様々に検討されている。トリプチセン構造(骨格)を有する化合物であるトリプチセン誘導体化合物もまた、いくつか知られている。
【0005】
例えば、トリプチセン骨格にさらに他の環構造が縮環して形成してなる化合物(下記特許文献1を参照、該文献の全記載はここに開示として援用される)、酵素を用いた不斉アシル化による光学活性なトリプチセン誘導体化合物(下記特許文献2を参照、該文献の全記載はここに開示として援用される)、加水分解され得る官能基を有するトリプチセン誘導体の光学異性体混合物に、不斉加水分解する能力を有する加水分解酵素を作用させることにより得られる、光学活性なトリプチセン誘導体化合物(下記特許文献3を参照、該文献の全記載はここに開示として援用される)などが知られている。
【0006】
また、特定構造を有するトリプチセン誘導体化合物を配してなるフォトレジスト基材及びフォトレジスト組成物(下記特許文献4を参照、該文献の全記載はここに開示として援用される)、他の液晶性化合物との相溶性に優れ、位相差又は光学異方性値の波長分散が小さく、重合性を持ち、トリプチセン環を含む液晶性化合物(下記特許文献5を参照、該文献の全記載はここに開示として援用される)、任意に置換されたビニレン基、エチニレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基及びスピロビフルオレン基を有する、トリプチセン基含有のポリマーエレクトロルミネッセント材料(下記特許文献6を参照、該文献の全記載はここに開示として援用される)、液晶相を有するとともに、他の液晶性化合物及び有機溶媒に対する良好な相溶性を有する、重合性基と1,4-ジメチレンシクロヘキサン骨格とを有する化合物の一つとして、トリプチセン含有化合物(下記特許文献7を参照、該文献の全記載はここに開示として援用される)、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とからなるポリイミド又はその前駆体であるポリアミック酸誘導体から選択される光重合性モノマー及び/又はオリゴマーを成分として構成される液晶表示素子化合物の一つとして、トリプチセン含有化合物(下記特許文献8を参照、該文献の全記載はここに開示として援用される)などもまた知られている。
【0007】
さらに、三重結合含有官能基や二重結合含有官能基などの不飽和重合性官能基の複数個をバレレンに結合した構造を有するトリプチセン誘導体化合物もまた知られている(下記特許文献9を参照、該文献の全記載はここに開示として援用される)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-207792号公報
【文献】特開2013-223458号公報
【文献】特開2006-187225号公報
【文献】特開2008-308433号公報
【文献】特開2006-111571号公報
【文献】特表2002-539286号公報
【文献】特開2011-246365号公報
【文献】特開2014-178712号公報
【文献】特開2008-075047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術として知られているトリプチセン誘導体化合物の大半は、トリプチセン骨格中の芳香環にポリマーの伸長鎖となる重合性基が導入された構造を有していることから、3つのベンゼン環が縮合するバレレンを軸とした回転運動が妨げられる可能性が高い。一方で、特許文献9に記載のトリプチセン誘導体化合物は、トリプチセンの9位及び10位に不飽和重合性官能基があることから、このような回転運動が妨げられる可能性は低い。
【0010】
ところが、特許文献9に記載のトリプチセン誘導体化合物に用いられている不飽和重合性官能基は、疎水性のアルケニル基及びアルキニル基であり、さらにトリプチセン自体も疎水性であることから、特許文献9において開示されるトリプチセン誘導体化合物は全体的に疎水性となる。このような特性により、特許文献9に記載のトリプチセン誘導体化合物は、機能性材料としての組成物への適用範囲が限定されるため、汎用性に問題がある。
【0011】
そして、上記した先行技術の問題を解決し得るような重合性トリプチセン誘導体化合物や該重合性トリプチセン誘導体化合物を構成成分として含む高分子化合物は知られていない。
【0012】
そこで、本発明においては、トリプチセン骨格のバレレンを軸として配される3つのベンゼン環が、均衡した回転運動を行え得るような構造を有すると共に、従来の重合性トリプチセン誘導体化合物に比し、親水性が付与されていることで、機能性材料への汎用性を向上させることが期待できる、新規な重合性トリプチセン誘導体化合物を構成成分として含む高分子化合物を提供することを本発明の解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記した新規の重合性トリプチセン誘導体化合物を提供するために鋭意検討する中で、重合反応に寄与する重合性官能基の結合部位及び種類に着目した。3つのベンゼン環が均衡に回転するためには、3つのベンゼン環が結合するバレレンを中心として回転させることが望ましいと考えた。さらに、導入する重合性官能基として親水性を有する官能基を選択することで、その他の親水性化合物との相溶性と共重合性とを有した重合性トリプチセン誘導体化合物を提供することができるのではないかと考えた。
【0014】
上記した本発明者らの考えの下で、さらに研究開発を進めて試行錯誤を繰り返すことにより、トリプチセン骨格の9位及び/又は10位に親水性重合性官能基を有する化合物を創作することに成功した。このような化合物は、トリプチセン骨格のバレレンを軸として配される3つのベンゼン環が、均衡した回転運動を行い得るような構造を有すると共に、従来の重合性トリプチセン誘導体化合物に比し、親水性が付与されている重合性トリプチセン誘導体化合物であり、さらに汎用性が向上した機能性材料として有望なものである。なお、このようにして完成させた新規の重合性トリプチセン誘導体化合物の一部については、特願2016-152953として特許出願をしている。
【0015】
本発明者らは、さらにトリプチセン骨格の9位及び/又は10位に(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有する重合性トリプチセン誘導体化合物を用いることによって、その他の共重合可能な化合物との相溶性が増大して、良好なハイドロゲルを形成する高分子化合物を創作することに成功した。本発明は、上記した考えや成功例に基づき完成された発明である。
【0016】
すなわち、本発明の一態様によれば、下記一般式(1)
【化1】
(式中、
~Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ホスフィンオキサイド基及びシリル基からなる群から選択される置換基を示し、ただし、隣接する置換基同士で環を形成してもよく;
X及びYは、一方が下記一般式(2)
【化2】
(式中、nは1~5の整数であり;及び、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で示される置換基を示し、
かつ、他方が前記一般式(2)で示される官能基、水素原子及びハロゲン原子、並びに、保護された、又は保護されていない、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、カルボキシアルキル基 、アミノ基、アミノアルキル基 、アミノカルボニル基、アミノカルボニルアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアルキル基 、ホルミル基、ホルミルアルキル基及びアルキル基からなる群から選択される置換基を示す。)
で示される、重合性トリプチセン誘導体化合物と、
該重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な化合物と
を構成成分として含む、高分子化合物が提供される。
【0017】
好ましくは、前記他方の置換基は下記一般式(3)
【化3】
(式中、nは1~5の整数であり;及び、Rは水素原子及び炭素数1~3のアルキル基からなる群から選択される置換基を示す。)
で示される置換基、
下記一般式(4)
【化4】
(式中、nは1~5の整数であり;及び、Rは水素原子及びカルバメート系保護基からなる群から選択される置換基を示す。)
で示される置換基
及び、下記一般式(5)
【化5】
(式中、nは1~5の整数である。)
で示される置換基からなる群から選択される置換基を示す。
【0018】
好ましくは、前記重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な化合物が、少なくとも1種の親水性化合物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様である高分子化合物において用いる重合性トリプチセン誘導体化合物は、重合性官能基がトリプチセンの中心骨格であるバレレンを構成する炭素に結合した構造を有することから、トリプチセン構造中の3つのベンゼン環がバレレンを軸とした各々均衡な回転運動を行うことができるとともに、親水性を有する官能基を導入するものであることから、疎水性化合物のみならず、親水性化合物との相溶性も有している。このことより、本発明の一態様の高分子化合物は、従来とは異なる種々の機能を有した高分子化合物となり得るものである。特に、本発明の一態様の高分子化合物は、従来技術では為し得ることができない、水和膨潤させたハイドロゲルとすることが可能である。
【0020】
さらには、本発明の一態様の高分子化合物中において、トリプチセン構造中の3つのベンゼン環は、バレレンを軸とした均衡な回転運動を行えることから、例えば、高分子化合物に物質を包含させた場合において、包含させた物質を高分子化合物から放出させる際に、物質の拡散の速度や程度などを制御することが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一態様の高分子化合物の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0022】
本発明の一態様の高分子化合物は、重合性トリプチセン誘導体化合物と、該重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な化合物とを構成成分として少なくとも含む。
【0023】
重合性トリプチセン誘導体化合物は、下記一般式(1)で示される。
【0024】
【化6】
【0025】
一般式(1)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ホスフィンオキサイド基及びシリル基からなる群から選択される置換基を示す。ただし、R~Rは、それぞれが隣接する置換基同士で環を形成することができる。
【0026】
一般式(1)において、X及びYは、一方が下記一般式(2)で示される置換基を示す。
【0027】
【化7】
【0028】
一般式(2)において、nは1~5の整数であり;及び、Rは水素原子又はメチル基を示す。
【0029】
一般式(1)において、X及びYは、一方が一般式(2)で示される置換基を示し、かつ、他方の置換基は一般式(2)で示される置換基、水素原子及びハロゲン原子、並びに、保護された、又は保護されていない、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、カルボキシアルキル基 、アミノ基、アミノアルキル基 、アミノカルボニル基、アミノカルボニルアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアルキル基 、ホルミル基、ホルミルアルキル基及びアルキル基からなる群から選択される置換基を示す。なお、「保護された」置換基は、任意の保護基を有する置換基であれば、特に限定されない。
【0030】
一般式(1)における他方の置換基は、一般式(2)で示される置換基、下記一般式(3)で示される置換基、下記一般式(4)で示される置換基、及び下記一般式(5)で示される置換基のいずれかの置換基であることが好ましい。
【0031】
【化8】
【0032】
一般式(3)において、nは1~5の整数であり;及び、Rは水素原子及び炭素数1~3のアルキル基からなる群から選択される置換基を示す。
【0033】
【化9】
【0034】
一般式(4)において、nは1~5の整数であり;及び、Rは水素原子及びカルバメート系保護基からなる群から選択される置換基を示す。
【0035】
【化10】
【0036】
一般式(5)において、nは1~5の整数である。
【0037】
一般式(1)で示される重合性トリプチセン誘導体化合物の具体的態様としては、例えば、X及びYが独立して下記表1に示される置換基である重合性トリプチセン誘導体化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。化合物Eのように、X及びYの両方が一般式(2)で示される置換基である場合に、それらは同一の置換基であってもよく、相違する置換基であってもよい。
【0038】
【表1】
【0039】
また、表1で示される重合性トリプチセン誘導体化合物において、R~Rは、これらのうちの4種全てが相違する置換基であってもよく、又はこれらのうちの2種、3種若しくは4種が同一の置換基であってもよい。
【0040】
~Rで示される置換基として挙げられている置換基は、通常知られているとおりの意味を有するものであれば特に限定されないが、例えば、以下に例示として挙げるような置換基であり得る。また、R~Rで示される置換基として挙げられている置換基は、さらなる置換基を有していてもよい。さらなる置換基は特に限定されないが、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などが挙げられる。
【0041】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの炭素数1~4の飽和脂肪族炭化水素基などが挙げられるが、これらに限定されない。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、例えば、1以上20以下であることが好ましく、1以上8以下であることがより好ましく、1以上3以下であることがさらに好ましい。置換基を有するアルキル基の例としては、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、カルボキシアルキル基、ホルミルアルキル基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロへキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基などが挙げられるが、これらに限定されない。シクロアルキル基の炭素数は特に限定されないが、3以上20以下であることが好ましい。
【0043】
複素環基としては、例えば、ピラン環、ピペリジン環、環状アミドなどの窒素原子や硫黄原子などの炭素原子以外の原子を環内に有する脂肪族環などが挙げられるが、これらに限定されない。複素環基の炭素数は特に限定されないが、2以上20以下であることが好ましい。
【0044】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基などが挙げられるが、これらに限定されない。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、2以上20以下の範囲であることが好ましい。
【0045】
シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
アルキニル基としては、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基などが挙げられるが、これらに限定されない。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、2以上20以下の範囲であることが好ましい。
【0047】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基などが挙げられるが、これらに限定されない。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、1以上20以下であることが好ましい。置換基を有するアルコキシ基の例としては、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアルキル基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
アルキルチオ基としては、例えば、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものなどが挙げられるが、これらに限定されない。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、1以上20以下の範囲であることが好ましい。
【0049】
アリールエーテル基としては、例えば、フェノキシ基などのエーテル結合を介した芳香族炭化水素基が結合した官能基などが挙げられるが、これらに限定されない。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、6以上40以下の範囲であることが好ましい。
【0050】
アリールチオエーテル基としては、例えば、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものなどが挙げられるが、これらに限定されない。アリールチオエーテル基の炭素数は特に限定されないが、6以上40以下であることが好ましい。
【0051】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ターフェニル基、ピレニル基などの芳香族炭化水素基などが挙げられるが、これらに限定されない。アリール基の炭素数は特に限定されないが、6以上40以下の範囲であることが好ましい。
【0052】
ヘテロアリール基としては、例えば、フラニル基、チオフェニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基などの炭素以外の原子を一個環内に有する5員環芳香族基、ビリジル基、キノリニル基などの炭素以外の原子の一個又は複数個を環内に有する6員環芳香族基などが挙げられるが、これらに限定されない。ヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、2以上30以下であることが好ましい。
【0053】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ホルミル基及びホスフィンオキサイド基は、上記したとおりに置換基を有していてもよく、さらに該置換基はさらなる置換基を有していてもよい。置換基を有するアミノ基の例としては、アミノカルボニル基、アミノカルボニルアルキル基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基などのケイ素原子への結合を有する官能基などが挙げられるが、これらに限定されない。シリル基の炭素数は特に限定されないが、3以上20以下の範囲であることが好ましい。また、ケイ素数は特に限定されないが、1以上6以下であることが好ましい。
【0056】
~Rで示される置換基は、それぞれ隣接する置換基同士で、すなわち、R及びRとの間で、R及びRとの間で、及び/又はR及びRとの間で環(縮合環)を形成してもよい。このように、縮合環は、R~Rの中から選ばれる任意の隣接2置換基(例えば、RとR)が互いに結合して共役又は非共役の縮合環を形成するものである。縮合環の形成に寄与する構成元素は特に限定されないが、例えば、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子などが挙げられる。R~Rで示される置換基は、さらに別の環と縮合していてもよい。
【0057】
カルバメート系保護基としては、例えば、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基などのカルバメート系保護基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
一般式(1)で示される重合性トリプチセン誘導体化合物のより具体的な態様としては、例えば、以下に示す式(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)及び(12)の化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、式中のMeは、メチル基を示す。
【0059】
【化11】
【0060】
【化12】
【0061】
【化13】
【0062】
【化14】
【0063】
【化15】
【0064】
【化16】
【0065】
【化17】
【0066】
重合性トリプチセン誘導体化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば、後述する実施例に記載の方法、該方法を適宜改変して所望の重合性トリプチセン誘導体化合物を得る方法などが挙げられる。
【0067】
一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物の製造方法の一態様としては、例えば、9-ハロゲンアントラセン又は9、10-ジハロゲンアントラセンとビニル基を有するアセタール化合物とをヘック・カップリング反応及び加水分解反応に供し、次いで得られた反応物とベンザインとをディールス・アルダー反応に供し、さらに必要があればベンザインが有する置換基を修飾する反応に供し、次いで得られた反応物を、金属水素化物による還元反応に供し、次いで得られた反応物をハロゲン化(メタ)アクリロイルとの反応に供することにより、一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物として(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有するトリプチセン誘導体化合物を得ることを含む方法などが挙げられるが、該方法に限定されない。
【0068】
一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物の製造方法の別の一態様としては、例えば、9-ハロゲンアントラセン又は9、10-ジハロゲンアントラセンとビニル基を有するアセタール化合物とをヘック・カップリング反応及び加水分解反応に供し、次いで得られた反応物とベンザインとをディールス・アルダー反応に供し、さらに必要があればベンザインが有する置換基を修飾する反応に供し、次いで得られた反応物をアルカリ処理及び酸処理に供することにより、X及びYの一方が一般式(3)で示される置換基である一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物を得ることを含む方法などが挙げられるが、該方法に限定されない。
【0069】
一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物の製造方法の別の一態様としては、例えば、9-ハロゲンアントラセン又はアントラセンとアミド化合物とをビルスマイヤー・ハック反応に供し、次いで得られた反応物とカルバメート系保護基を有する第1級アミンとをアミン付加反応に供し、次いで得られた反応物とベンザインとをディールス・アルダー反応に供し、さらに必要があればベンザインが有する置換基を修飾する反応に供し、さらに必要があれば得られた反応物をアルカリ処理及び酸処理に供することにより、X及びYの一方が一般式(4)で示される置換基である一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物を得ることを含む方法などが挙げられるが、該方法に限定されない。
【0070】
一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物の製造方法の別の一態様としては、例えば、9-ハロゲンアントラセン又は9、10-ジハロゲンアントラセンとビニル基を有するアセタール化合物とをヘック・カップリング反応及び加水分解反応に供し、次いで得られた反応物とベンザインとをディールス・アルダー反応に供し、塩化メタクリロイルとの反応に供することによりX及びYの一方が一般式(5)で示される置換基である一般式(1)の(メタ)アクリロイルトリプチセン誘導体化合物を得ることを含む方法などが挙げられるが、該方法に限定されない。
【0071】
また、上記した一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物の製造方法を組み合わせれば、X及びYの双方が一般式(2)で示される置換基である一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物;X及びYの一方が一般式(2)で示される置換基であり、かつ、他方が一般式(3)で示される置換基である一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物;X及びYの一方が一般式(2)で示される置換基であり、かつ、他方が一般式(4)で示される置換基である一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物;或いは、X及びYの一方が一般式(2)で示される置換基であり、かつ、他方が一般式(5)で示される置換基である一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物が得られ得る。
【0072】
本発明の一態様の高分子化合物は、上記した一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物の1種を単独で、又は、2種以上を組合わせたものと、これらと共重合可能な化合物とを共重合反応に供することにより、形成することができる。
【0073】
本発明の一態様の高分子化合物における一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物の好ましい配合量は特に限定されないが、例えば、高分子化合物の全量に対して、0.1~25重量%であり、好ましく0.5~20重量%、より好ましくは1~15重量%である。一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物の配合量が0.1重量%未満の場合、得られる高分子化合物において、トリプチセン構造の有する効果が発現されにくくなる。一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物の配合量が25重量%を超過する場合、得られる高分子化合物に白濁や、強度の低下が生じやすくなるため好ましくない。
【0074】
本発明の一態様の高分子化合物における、一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な化合物は、通常知られているとおりのモノマー成分になり得るものであれば特に限定されないが、例えば、親水性化合物が好適に用いられる。親水性化合物を利用して得られた高分子化合物は、トリプチセン構造中の3つのベンゼン環がバレレンを軸とした各々均衡な回転運動を行うことができるものであり、さらに一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物は親水性を有する官能基を導入するものであることから、例えば、高分子化合物に親水性物質又は疎水性物質を包含することができ、さらに包含した物質を高分子化合物から放出させる際に、物質の拡散の速度や程度などを制御することが可能である。このような特性を有する高分子化合物は、種々の用途に適用でき、例えば、液晶配向膜、液晶表示素子、有機ELディスプレイ、電子輸送性の有機薄膜、発光素子、有機導電性組成物などとして有用であることに加えて、ハイドロゲル、医療用デバイス、眼用レンズ、DDSデバイスなどとしても利用可能である。
【0075】
一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な親水性化合物は、通常知られているとおりの親水性のモノマー成分になり得るものであれば特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、グリセロールメタクリレートなどの(メタ)アクリル系モノマー、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルホルムアミド、N-ビニルホルムアミドなどのビニル系モノマーなどが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組合わせて使用することができる。一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な親水性化合物の配合量は特に限定されないが、例えば、高分子化合物の全量に対して、75~99.9重量%であり、好ましくは80~99.5重量%、より好ましくは75~99重量%である。一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な親水性化合物の種類や配合量により、所望の柔軟性や、含水率を有した高分子化合物を得ることが可能となる。
【0076】
本発明の一態様の高分子化合物に強度、形状安定性や柔軟性を付与するために、一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な疎水性化合物としてメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル(メタ)アクリレートなどを用いることができ、所望の物性に合わせ、単独で1種又は組み合わせた2種以上を適宜配合できる。一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な疎水性化合物の配合量は特に限定されないが、例えば、高分子化合物の全量に対して、0~30重量%であり、好ましくは0~20重量%である。一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な疎水性化合物の配合量が30重量%を超える場合、得られる高分子化合物の強度、形状安定性、柔軟性などが低下する可能性がある。
【0077】
本発明の一態様の高分子化合物に耐熱性や機械的特性を付与するために、構成成分としてエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエリチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系架橋性化合物、アリル(メタ)アクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、トリアリルホスフェート、トリアリルトリメリテート、ジアリルエーテル、N,N-ジアリルメラミン、ジビニルベンゼン等のビニル系架橋性化合物などの架橋性化合物を用いることが可能であり、所望の物性に合わせ、単独で1種又は組み合わせた2種以上を適宜配合できる。架橋性化合物の配合量は特に限定されないが、例えば、高分子化合物の全量に対して、0.01~10重量%であり、好ましくは0.05~3重量%である。架橋性化合物の配合量が10重量%を超える場合、得られる高分子化合物の柔軟性などが低下する可能性がある。
【0078】
本発明の一態様の高分子化合物は、当業者により知られている工程を組み合わせることで製造することができ、その製造方法は特に限定されないが、例えば、下記工程を含むことができる:
構成成分である一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物、一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な親水性化合物、一般式(1)の重合性トリプチセン誘導体化合物と共重合可能な疎水性化合物、架橋性化合物などのモノマー化合物の混合物に、重合開始剤を添加し、撹拌及び溶解することによりモノマー混合液を得る工程;得られたモノマー混合液を所望の成形型に入れ、共重合反応により共重合体を得る工程;共重合体を冷却及び成形型から剥離し、必要に応じて切削、研磨した後に、成形した共重合体を水和膨潤させてハイドロゲルとして高分子化合物を得る工程。
【0079】
重合開始剤としては、一般的なラジカル重合開始剤であるラウロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物系重合開始剤;アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ系重合開始剤などを単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。重合開始剤の添加量としては、モノマーの共重合反応を促進する十分量であれば特に限定されず、例えば、重合成分のモノマー総重量に対して10~7000ppmが好ましい。
【0080】
共重合体を得る工程は、モノマー混合液を金属、ガラス、プラスチックなどの成形型に入れ、密閉し、恒温槽などで段階的又は連続的に25~120℃の範囲で昇温し、5~120時間で重合を完了させることにより実施できる。重合に関しては、紫外線、電子線、ガンマ線などを用いることが可能である。また、モノマー混合液に水や有機溶媒を添加することで溶液重合を適用することが可能である。
【0081】
ハイドロゲルを得る工程は、重合終了後、室温に冷却し、得られた重合体を成形型から剥離し、必要に応じて切削、研磨した後に、水和膨潤させてハイドロゲルとする。使用する液体(膨潤液)としては、例えば、水、生理食塩水、等張性緩衝液などが挙げられる。膨潤液を60~100℃に加温し、一定時間浸漬させ膨潤状態とする。また、膨潤処理時に重合体に含まれる未重合モノマーを除去することが好ましい。
【0082】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例
【0083】
[例1.トリプチセン誘導体化合物(6)の合成]
1.トリプチセン誘導体化合物(6)の合成スキーム
以下のスキーム(I)に従って、トリプチセン誘導体化合物(6)を合成した。
【化18】
(I)
【0084】
2.化合物(b)の合成
スキーム(I)中の化合物(b)は、ケ・パンらの文献(Ke Pan,et al., Journal of Organometallic Chemistry、2008;693(17);p.2863-2868、該文献の全記載はここに開示として援用される)に記載の方法に従い、合成した。すなわち、9-ブロモアントラセンである化合物(a) 2.7g(10mmol)のジメチルホルムアミド溶液(30mL)に、ヘルマンのパラダサイクル 0.19g(0.2mmol)、炭酸カリウム 2.1g(15mmol)及びアクロレインジエチルアセタール 2.3mL(15mmol)をアルゴン雰囲気下にて室温で加え、次いで110℃で一晩撹拌することにより反応させた。得られた反応液を室温に戻し、酢酸エチルで希釈し、次いで1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄した。分離した有機層を、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物(b) 2.4g(収率87%)を得た。
【0085】
3.化合物(c)の合成
化合物(b) 0.87g(3.1mmol)をアセトニトリル 15mLに溶かした溶液に、アルゴン雰囲気下で、フッ化セシウム 0.57g(3.7mmol)及び2-(トリメチルシリル)フェニルトリフラート 0.91mL(3.7mmol)を加え、40℃で18時間撹拌した。撹拌後の反応液を室温に戻し、セライトろ過に供した。得られたろ液を減圧下で濃縮した。得られた濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物(c) 0.92g(収率83%)を得た。
【0086】
得られた化合物(c)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;1.35(t,3H),3.17(m,2H),3.35(m,2H),4.31(q,2H),5.35(s,1H),7.00(m,6H),7.37(m,6H)
13C-NMR(CDCl)δppm;14.47,22.61,30.96,53.48,54.58,61.01,122.12,123.70,125.02,125.14,145.76,146.99,174.20
【0087】
4.化合物(d)の合成
水素化リチウムアルミニウム 0.20g(5.3mmol)を、アルゴン雰囲気下で、0℃に冷却したテトラヒドロフラン 15mLに溶かした溶液を調製した。得られた溶液に化合物(c) 1.56g(4.4mmol)を加え、室温で3時間撹拌した。得られた反応液に、氷冷下、0.2mLの水、0.2mLの15w/v%水酸化ナトリウム水溶液及び0.6mLの水を順次ゆっくりと滴下し、室温で1時間撹拌した。撹拌後の反応液をセライトろ過に供した。得られたろ液を減圧下で濃縮した。得られた濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物(d) 1.34g(収率98%)を得た。
【0088】
得られた化合物(d)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;2.41(m,2H),2.98(m,2H),4.00(t,2H),5.34(s,1H),6.96(m,6H),7.36(m,6H)
13C-NMR(CDCl)δppm;24.36,28.23,53.29,54.63,64.00,122.44,123.60,124.88,124.98,146.33,147.07
【0089】
5.トリプチセン誘導体化合物(6)の合成
化合物(d) 1.34g(4.3mmol)をテトラヒドロフラン 20mLに溶かした溶液に、アルゴン雰囲気下で0℃にて、トリエチルアミン 0.90mL(6.5mmol)及び塩化メタクリロイル 0.61mL(6.5mmol)を加え、0℃で18時間撹拌した。撹拌後の反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止し、液中の有機化合物をジエチルエーテルで抽出した。抽出後の有機層を、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。乾燥後の有機層から溶媒を留去することにより得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、トリプチセン誘導体化合物(6)1.03g(収率63%)を得た。
【0090】
得られたトリプチセン誘導体化合物(6)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;2.04(s,3H),2.60(m,2H),3.04(m,2H),4.58(t,2H),5.36(s,1H),5.63(m,1H),6.25(s,1H),6.99(m,6H),7.39(m,6H)
13C-NMR(CDCl)δppm;18.60,24.53,24.57,53.15,54.62,65.64,122.28,123.68,124.91,125.07,125.85,136.50,146.09,147.04,167.77
【0091】
[例2.トリプチセン誘導体化合物(7)の合成]
1.トリプチセン誘導体化合物(7)の合成スキーム
以下のスキーム(II)に従って、トリプチセン誘導体化合物(7)を合成した。
【化19】
(II)
【0092】
2.化合物(b)の合成
例1の「2.化合物(b)の合成」を参照して化合物(b)を合成した。
【0093】
3.化合物(e)の合成
ベンゾキノン 1.1g(10mmol)をジクロロメタン 15mLに溶かした溶液に、アルゴン雰囲気下で0℃にて、ボロントリフルオリド-ジエチルエーテル-コンプレックス 1.1mL(9.0mmol)を加え、30分間撹拌した。撹拌後の反応液を-20℃に冷却した。冷却した反応液に、化合物(b) 0.56g(2.0mmol)を加え、-20℃で3時間撹拌した。撹拌後の反応液を、室温に戻した後、飽和食塩水で洗浄した。洗浄後の反応液から分離した有機層を無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。乾燥後の有機層から溶媒を留去することにより得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物(e) 0.67g(収率87%)を得た。
【0094】
得られた化合物(e)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;1.37(t,3H),2.80(m,2H),2.90(m,1H),2.99(d,1H),3.22(dd,1H),3.34(m,1H),4.29(dd,2H),4.65(d,1H),6.12(d,2H),7.18(m,6H),7.41(m,2H)
13C-NMR(CDCl)δppm;14.48,24.00,30.22,49.38,50.10,51.05,60.86,122.24,123.17,124.20,124.93,126.63,126.73,126.85,127.06,139.03,140.05,141.37,141.88,142.98,173.85,197.73,198.89
【0095】
4.化合物(f)の合成
化合物(e) 0.93g(2.4mmol)をジメチルホルムアミド 10mLに溶かした溶液に、アルゴン雰囲気下で、炭酸セシウム 2.0g(6.0mmol)及びヨウ化メチル 0.67mL(7.2mmol)を加え、40℃で18時間撹拌した。撹拌後の反応液をセライトろ過に供した。得られたろ液を減圧下で濃縮することにより得られた濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物(f) 0.82g(収率82%)を得た。
【0096】
得られた化合物(f)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;1.37(t,3H),3.09(br s,2H),3.66(s,3H),3.74(br s,2H),3.80(s,3H),4.29(q,2H),5.86(s,1H),6.51(m,2H),7.01(m,4H),7.43(m,4H)
13C-NMR(CDCl)δppm;14.52,24.23,32.65,32.71,47.27,56.08,56.50,60.47,109.73,110.23,123.47,123.79,124.78,125.21,125.55,146.50,148.86,150.17,174.92
【0097】
5.化合物(g)の合成
化合物(c)に代えて化合物(f) 0.69g(1.7mmol)を用いたこと以外は、例1の「4.化合物(d)の合成」と同様の操作を実施することにより、化合物(g) 0.58g(収率93%)を得た。
【0098】
得られた化合物(g)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;1.65(br s,1H),2.34(br s,2H),3.28(br s,2H),3.70(s,3H),3.79(s,3H),4.05(t,2H),5.85(s,1H),6.50(m,2H),7.01(m,4H),7.46(m,4H)
13C-NMR(CDCl)δppm;26.06,29.85,29.99,47.38,56.56,56.60,64.70,109.68,110.72,123.76,124.66,124.91,146.67,148.94,150.45
【0099】
6.トリプチセン誘導体化合物(7)の合成
化合物(d)に代えて化合物(g) 0.58g(1.6mmol)を用いたこと以外は、例1の「5.トリプチセン誘導体化合物(6)の合成」と同様の操作を実施することにより、トリプチセン誘導体化合物(7) 0.62g(収率90%)を得た。
【0100】
得られたトリプチセン誘導体化合物(7)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;2.04(m,3H),2.47(br s,2H),3.33(br s,2H),3.70(s,3H),3.78(s,3H),4.54(t,2H),5.62(m,1H),5.86(s,1H),6.23(d,1H),6.50(br s,2H),7.02(m,4H),7.41(br s,2H),7.50(br s,2H)
13C-NMR(CDCl)δppm;18.59,25.91,26.30,47.35,54.86,56.32,56.54,66.33,109.66,110.47,123.78,124.66,124.96,125.54,136.70,138.11,146.66,148.88,150.37,167.87
【0101】
[例3.一般式(8)のトリプチセン誘導体化合物の合成]
1.トリプチセン誘導体化合物(8)の合成スキーム
以下のスキーム(III)に従って、トリプチセン誘導体化合物(8)を合成した。
【化20】
(III)
【0102】
2.化合物(b)の合成
例1の「2.化合物(b)の合成」を参照して化合物(b)を合成した。
【0103】
3.化合物(e)の合成
例2の「3.化合物(e)の合成」を参照して化合物(e)を合成した。
【0104】
4.化合物(h)の合成
化合物(e)0.50g(1.3mmol)のジメチルホルムアミド10mL溶液に、アルゴン雰囲気下、炭酸セシウム1.1g(3.2mmol)及び2-ブロモエチルメチルエーテル0.37mL(3.9mmol)を加え、40℃で18時間撹拌した。反応液をセライトろ過後、ろ液を減圧下濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物(h)0.57g(収率87%)を得た。
【0105】
得られた化合物(h)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl3)δppm;1.29(t,3H),2.98(m,2H),
3.38(br s,3H),3.45(s,3H),3.70(m,6H),3.92(m,2H),4.00(m,2H),4.22(q,2H),5.81(s,1H),6.44(s,2H),6.94(m,4H),7.38(m,4H)
13C-NMR(CDCl)δppm;14.55,24.37,32.09,47.45,59.20,59.41,60.55,69.25,69.89,71.22,71.39,112.36,123.56,123.89,124.80,125.18,146.40,148.25,149.90,174.92
【0106】
5.化合物(i)の合成
化合物(c)の代わりに、化合物(h)0.46g(0.92mmol)を用いた以外は、例1の「4.化合物(d)の合成」を参照して化合物(i)0.41g(収率97%)を得た。
【0107】
得られた化合物(i)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;2.36(br s,2H),3.46(br s,2H),3.47(s,3H),3.52(s,3H),3.76(dd,4H),4.03(m,4H),5.88(s,1H),6.46(d,1H),6.52(d,1H),7.00(m,4H),7.40(d,2H),7.51(d,2H)
13C-NMR(CDCl)δppm;26.44,29.14,47.54,58.85,59.41,64.48,68.92,69.89,71.39,71.69,112.39,123.81,124.66,124.93,146.46,148.42,149.88
【0108】
6.トリプチセン誘導体化合物(8)の合成
化合物(d)に代えて、化合物(i)0.71g(1.5mmol)を原料とした以外は、例1の「5.トリプチセン誘導体化合物(6)の合成」と同様の操作を実施することにより、トリプチセン誘導体化合物(8)0.63g(収率77%)を得た。
【0109】
得られたトリプチセン誘導体化合物(8)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;2.04(m,3H),2.51(br s, 2H),3.44(m,5H),3.52(s,3H),3.71(t,2H),3.77(m,2H),3.97(m,2H),4.06(m,2H),4.53(t,2H),5.62(m,1H),5.88(s,1H),6.24(m,1H),6.51(m,2H),7.03(m,4H),7.41(m,2H),7.53(br s,2H)
13C-NMR(CDCl)δppm;14.26,18.61,22.78,25.43,26.16,31.71,47.53,59.39,66.22,69.92,71.39,112.34,112.44,123.87,124.64,124.98,125.58,136.67,146.51,148.24,150.02,167.87
【0110】
[例4.一般式(9)及び(10)のトリプチセン誘導体化合物の合成]
1.トリプチセン誘導体化合物(9)及び(10)の合成スキーム
以下のスキーム(IV)に従って、トリプチセン誘導体化合物(9)及び(10)を合成した。
【化21】
(IV)
【0111】
2.化合物(k)の合成
化合物(a)の代わりに、化合物(j)を用いた以外は、例1の「2.化合物(b)の合成」を参照して化合物(k)を得た。
【0112】
得られた化合物(k)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;1.28(t,6H),2.78(m,4H),3.97(m,4H),4.21(q,4H),7.55(dd,4H),8.33(dd,4H)
13C-NMR(CDCl)δppm;14.38,23.60,35.53,60.81,124.95,125.63,129.47,132.03,173.22
【0113】
3.化合物(l)の合成
化合物(k) 0.26g(0.69mmol)をアセトニトリル 10mLに溶かした溶液に、アルゴン雰囲気下で、フッ化セシウム 0.13g(0.83mmol)及び2-(トリメチルシリル)フェニルトリフラート 0.20mL(0.83mmol)を加え、40℃で18時間撹拌した。撹拌後の反応液を室温に戻し、セライトろ過に供した。得られたろ液を減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物(l) 0.29g(収率93%)を得た。
【0114】
得られた化合物(l)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;1.36(m,6H),3.16(m,4H),3.34(m,4H),4.33(q,4H),7.02(m,6H),7.40(m,6H)
13C-NMR(CDCl)δppm;14.47,22.75,31.03,52.76,61.04,122.19,124.88,146.91,174.18
【0115】
4.化合物(m)の合成
化合物(c)の代わりに、化合物(l)0.45g(1.0mmol)を用いた以外は、例1の「4.化合物(d)の合成」を参照して化合物(m)0.34g(収率93%)を得た。
【0116】
得られた化合物(m)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;2.49(m,4H),3.00(m,4H),4.13(m,4H),7.00(br s,6H),7.43(br s,6H)
13C-NMR(CDCl)δppm;24.59,28.37,52.50,64.16,122.29,124.63
【0117】
5.トリプチセン誘導体化合物(9)の合成
化合物(m)50mg(0.14mmol)のテトラヒドロフラン 5mL溶液に、アルゴン雰囲気下、0℃にて、水素化ナトリウム5.4mg(0.14mmol)を加え、30分撹拌した。塩化メタクリロイル 12μL(0.13mmol)を加え、0℃で18時間撹拌した。撹拌後の反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止し、液中の有機化合物をジエチルエーテルで抽出した。抽出後の有機層を、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。乾燥後の有機層から溶媒を留去することにより得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、トリプチセン誘導体化合物(9)38mg(収率64%)を得た。
【0118】
得られた化合物(9)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;1.62(br s,1H),2.05(s,3H),2.47(m,2H),2.61(m,2H),3.01(dd,4H),4.13(t,2H),4.59(t,2H),5.63(s,1H),6.25(s,1H)
7.01(s,6H)7.43(br s,6H)
13C-NMR(CDCl)δppm;18.57,24.60,24.78,28.34,52.38,52.52,61.57,61.14,65.70,122.34,124.78,125.94,167.94
【0119】
6.トリプチセン誘導体化合物(10)の合成
トリプチセン誘導体化合物(9)27mg(0.06mmol)をアセトン 1mLに溶かした溶液に、0℃にてジョーンズ試薬を反応溶液がオレンジ色になるまで滴下し、10分撹拌後、水で希釈した反応溶液から有機物をジエチルエーテルで3回抽出した。抽出後の有機層を、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。乾燥後の有機層から溶媒を留去することにより得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、トリプチセン誘導体化合物(10)9.9mg(収率36%)を得た。
【0120】
得られたトリプチセン誘導体化合物(10)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;2.04(m,3H),2.62(m,2H),3.04(m,2H),3.30(d,2H),3.38(d,2H),4.60(t,2H),5.65(s,1H),6.26(s,1H),7.05(br s,6H) ,7.42(br s,6H)
13C-NMR(CDCl)δppm;18.57,22.59,24.58,30.60,52.44,65.67,122.09,124.98,125.98,135.60,147.31,150.29,158.26,160.24,167.96
【0121】
[例5.一般式(11)のトリプチセン誘導体化合物の合成]
1.トリプチセン誘導体化合物(11)の合成スキーム
以下のスキーム(V)に従って、トリプチセン誘導体化合物(11)を合成した。
【化22】
(V)
【0122】
2.化合物(b)の合成
例1の「2.化合物(b)の合成」を参照して化合物(b)を得た。
【0123】
3.化合物(n)の合成
ジメチルホルムアミド 5mLに、アルゴン雰囲気下で0℃にて、塩化ホスホリル 0.94mL(10.1mmol)を滴下し、室温で1.5時間撹拌した。撹拌後の反応液に化合物(b) 1.0g(3.6mmol)を溶解させ、110℃で18時間撹拌した。撹拌後の反応液を室温に戻し、酢酸エチルで希釈した。希釈した反応液を、1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で順次洗浄した。洗浄後に分離して得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機層から溶媒を留去することにより得た残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物(n)0.78g(収率71%)を得た。
【0124】
得られた化合物(n)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;1.25(m,3H),2.77(m,2H),3.98(m,2H),4.20(q,2H),7.62(m,4H),8.33(m,2H),8.92(dd,2H),11.45(s,1H)
13C-NMR(CDCl)δppm;14.34,24.19,35.32,60.99,124.45,124.77,125.01,126.30,128.48,129.08,131.64,141.68,172.65,193.63
【0125】
4.化合物(o)の合成
化合物(n)0.74g(2.4mmol)をアセトニトリル 10mLに溶かした溶液に、アルゴン雰囲気下で、カルバミン酸ベンジル1.1g(7.2mmol)、トリエチルシラン0.59mL(7.2mmol)及び、トリフルオロ酢酸0.61mL(7.0mmol)を加え、室温で18時間撹拌した。撹拌後の反応液を、酢酸エチルで希釈した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で順次洗浄した。洗浄後に分離して得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の有機層から溶媒を留去したことにより得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物(o)0.84g(収率83%)を得た。
【0126】
得られた化合物(o)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;1.21(m,3H),2.69(m,2H),3.90(m,2H),4.13(q,2H),4.94(s,1H),5.08(s,2H),5.32(d,2H),7.28(m,5H),7.50(m,4H),8.27(m,4H)
13C-NMR(CDCl)δppm;14.36,23.60,35.40,37.73,60.84,67.00,124.84,125.82,126.36,128.16,128.60,129.38,130.19,134.17,136.52,156.23,173.02
【0127】
5.化合物(p)の合成
化合物(b)に代えて化合物(o)0.29g(0.66mmol)を用いたこと以外は、例1の「3.化合物(c)の合成」と同様の操作により、化合物(p)0.27g(収率78%)を得た。
【0128】
得られた化合物(p)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;1.36(m,3H),3.14(m,2H),3.34(m,2H),4.33(q,2H),4.85(d,2H),5.26(s,2H),5.42(m,1H),7.03(m,6H),7.35(m,11H)
13C-NMR(CDCl)δppm;14.48,22.68,30.97,40.20,52.03,52.92,61.11,67.19,122.35,125.26,128.20,128.33,128.69,136.58,147.07,16.59,174.08
【0129】
6.化合物(q)の合成
化合物(c)に代えて化合物(p)0.15g(0.29mmol)を用いたこと以外は、例1の「4.化合物(d)の合成」と同様の操作により、化合物(q)87mg(収率88%)を得た。
【0130】
得られた化合物(q)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;2.45(m,2H),3.03(m,2H),4.11(d,2H),4.91(d,2H),6.29(s,1H),7.02(br s,6H),7.39(m,6H),8.41(s,1H)
13C-NMR(CDCl)δppm;24.47,28.19,37.44,51.49,52.71,63.89,121.92,125.10,161.69
【0131】
7.トリプチセン誘導体化合物(11)の合成
化合物(q)25mg(0.073mmol)をジクロロメタン 1mLに溶かした溶液に、アルゴン雰囲気下で、1-[2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニルオキシ]ベンゾトリアゾール 22mg(0.080mmol)を加え、室温で30分撹拌した。5%炭酸水素ナトリウム水溶液を加え反応を停止し、液中の有機化合物をジクロロメタンで抽出した。抽出後の有機層を、5%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。乾燥後の有機層から溶媒を留去することにより化合物(r)を得た。得られた化合物(r)をテトラヒドロフラン 5mLに溶かした溶液に、アルゴン雰囲気下で0℃にて、トリエチルアミン 20μL(0.14mmol)及び塩化メタクリロイル 14μL(0.14mmol)を加え、0℃で18時間撹拌した。撹拌後の反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止し、液中の有機化合物をジエチルエーテルで抽出した。抽出後の有機層を、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。乾燥後の有機層から溶媒を留去することにより得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、トリプチセン誘導体化合物(11)6.5mg(収率18%)を得た。
【0132】
得られたトリプチセン誘導体化合物(11)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;0.07(s,9H),1.67(m,4H),2.04(s,3H),2.59(m,2H),3.05(m,2H),4.60(t,2H),4.93(d,2H),5.65(s,1H),6.25(s,1H),7.06(m,6H),7.41(m,6H),8.46(s,1H)
13C-NMR(CDCl)δppm;0.06,1.10,18.57,24.53,31.04,37.40,51.56,52.61,64.17,65.55,122.04,125.30,126.01,136.57,161.72,167.90
【0133】
[例6.一般式(12)のトリプチセン誘導体化合物の合成]
1.トリプチセン誘導体化合物(12)の合成スキーム
以下のスキーム(VI)に従って、トリプチセン誘導体化合物(12)を合成した。
【化23】
(VI)
【0134】
2.化合物(k)の合成
例4の「2.化合物(k)の合成」を参照して化合物(k)を得た。
【0135】
3.化合物(l)の合成
例4の「3.化合物(l)の合成」を参照して化合物(l)を得た。
【0136】
4.化合物(m)の合成
例4の「4.化合物(m)の合成」を参照して化合物(m)を得た。
【0137】
5.トリプチセン誘導体化合物(12)の合成
化合物(m) 35mg(0.094mmol)をテトラヒドロフラン 5mLに溶かした溶液に、アルゴン雰囲気下で0℃にて、トリエチルアミン 33μL(0.24mmol)及び塩化メタクリロイル 22μL(0.24mmol)を加え、0℃で18時間撹拌した。撹拌後の反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止し、液中の有機化合物をジエチルエーテルで抽出した。抽出後の有機層を、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。乾燥後の有機層から溶媒を留去することにより得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、トリプチセン誘導体化合物(12)26mg(収率54%)を得た。
【0138】
得られたトリプチセン誘導体化合物(12)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(CDCl)δppm;2.05(d,6H),2.60(m,4H),3.02(m,4H),4.60(t,4H),5.64(m,2H),6.25(s,2H),7.02(m,6H),7.43(s,6H)
13C-NMR(CDCl)δppm;18.56,24.57,24.75,52.39,65.67,122.41,124.80,125.93,136.60,167.91
【0139】
[例7.例4~6で得られたトリプチセン誘導体化合物(9)、(10)、(11)及び(12)を含む高分子ハイドロゲルの合成]
トリプチセン誘導体化合物(9)~(12)を各々0.5g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート9.5g、エチレングリコールジメタクリレート0.01g及びAIBN 2000ppmを混合し、十分に窒素置換をしながら約1時間撹拌した。撹拌後、モノマー混合液を成形型に入れ、50~100℃の範囲で25時間かけて昇温させ、重合体を得た。得られた重合体を室温に戻し、容器から取り出し、約60℃の蒸留水中に約4時間浸漬することで水和膨潤させ、トリプチセン誘導体化合物(9)~(12)をそれぞれ含有する4種類のトリプチセン誘導体含有ハイドロゲルを得た。
【0140】
比較例として、トリプチセン誘導体化合物(9)~(12)に代えて、下記に示す式(A)で示される特許文献9(特開2008-075407号公報)の化合物8を用いた以外は、上記と同様にして、2-ヒドロキシエチルメタクリレート9.5g、エチレングリコールジメタクリレート0.01g及びAIBN2000ppmを混合した。しかし、特許文献9の化合物8を用いた場合は、均一溶液が得られず、共重合反応に供することができなかった。このことより、従来のトリプチセン誘導体化合物は、親水性化合物との相溶性が低いことが示唆された。
【0141】
【化24】
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の一態様である高分子化合物は、液晶配向膜、液晶表示素子、有機ELディスプレイ、電子輸送性の有機薄膜、発光素子、有機導電性組成物などに加えて、ハイドロゲル、医療用デバイス、眼用レンズ、DDSデバイスなどとして使用可能である。
【関連出願の相互参照】
【0143】
本出願は、2018年2月2日出願の日本特願2018-017415号の優先権を主張し、その全記載は、ここに開示として援用される。