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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】サイドエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20220915BHJP
   B60R 21/233 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/233
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020146848
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2021066426
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2021-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019190443
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
(72)【発明者】
【氏名】桜井 努
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-046906(JP,A)
【文献】特開2013-252773(JP,A)
【文献】特開2018-127014(JP,A)
【文献】特開2014-184852(JP,A)
【文献】特開2019-172029(JP,A)
【文献】特開平07-215160(JP,A)
【文献】特開2006-335236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席に着座する乗員の側方に膨張展開するエアバッグクッションと、該エアバッグクッションにガスを供給するインフレータとを備えたサイドエアバッグ装置であって、
前記エアバッグクッションは、
前記乗員の少なくとも肩から頭部までにわたる範囲に膨張展開するメインチャンバと、
前記メインチャンバのうち前記乗員の肩より上方の位置から該乗員側に突出して膨張展開するサブチャンバと、
前記メインチャンバの内部にて筒状に延びていて前記インフレータを内包し一部が前記サブチャンバに隣接しているインナチューブと、
前記インナチューブの所定箇所に開けられていて該インナチューブから前記メインチャンバ内にガスを放出するメインベントと、
前記インナチューブおよび前記メインチャンバのパネルを貫通して該インナチューブから前記サブチャンバ内にガスを放出するサブベントと、
を有し、
前記サブチャンバの上下方向の中心は、前記乗員の頭部重心の高さの近傍に位置していることを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項2】
車両の座席に着座する乗員の側方に膨張展開するエアバッグクッションと、該エアバッグクッションにガスを供給するインフレータとを備えたサイドエアバッグ装置であって、
前記エアバッグクッションは、
前記乗員の少なくとも肩から頭部までにわたる範囲に膨張展開するメインチャンバと、
前記メインチャンバのうち前記乗員の肩より上方の位置から該乗員側に突出して膨張展開するサブチャンバと、
前記メインチャンバの内部にて筒状に延びていて前記インフレータを内包し一部が前記サブチャンバに隣接しているインナチューブと、
前記インナチューブの所定箇所に開けられていて該インナチューブから前記メインチャンバ内にガスを放出するメインベントと、
前記インナチューブおよび前記メインチャンバのパネルを貫通して該インナチューブから前記サブチャンバ内にガスを放出するサブベントと、
を有し、
前記サブチャンバの前記メインチャンバから乗員側への車幅方向の突出量は、該メインチャンバと前記座席の正規着座位置の乗員の頭部との距離よりも少ないことを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項3】
車両の座席に着座する乗員の側方に膨張展開するエアバッグクッションと、該エアバッグクッションにガスを供給するインフレータとを備えたサイドエアバッグ装置であって、
前記エアバッグクッションは、
前記乗員の少なくとも肩から頭部までにわたる範囲に膨張展開するメインチャンバと、
前記メインチャンバのうち前記乗員の肩より上方の位置から該乗員側に突出して膨張展開するサブチャンバと、
前記メインチャンバの内部にて筒状に延びていて前記インフレータを内包し一部が前記サブチャンバに隣接しているインナチューブと、
前記インナチューブの所定箇所に開けられていて該インナチューブから前記メインチャンバ内にガスを放出するメインベントと、
前記インナチューブおよび前記メインチャンバのパネルを貫通して該インナチューブから前記サブチャンバ内にガスを放出するサブベントと、
を有し、
前記サブチャンバの乗員側の表面は、上方から見た前記エアバッグクッションの水平断面において中央部分が前記メインチャンバ側に窪んでいて、
前記サブチャンバの乗員側の窪んだ表面は、該表面の車両前後方向の両端部から前記中央部分にかけて連続的に湾曲していることを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項4】
車両の座席に着座する乗員の側方に膨張展開するエアバッグクッションと、該エアバッグクッションにガスを供給するインフレータとを備えたサイドエアバッグ装置であって、
前記エアバッグクッションは、
前記乗員の少なくとも肩から頭部までにわたる範囲に膨張展開するメインチャンバと、
前記メインチャンバのうち前記乗員の肩より上方の位置から該乗員側に突出して膨張展開するサブチャンバと、
前記メインチャンバの内部にて筒状に延びていて前記インフレータを内包し一部が前記サブチャンバに隣接しているインナチューブと、
前記インナチューブの所定箇所に開けられていて該インナチューブから前記メインチャンバ内にガスを放出するメインベントと、
前記インナチューブおよび前記メインチャンバのパネルを貫通して該インナチューブから前記サブチャンバ内にガスを放出するサブベントと、
を有し、
前記サブベントの内径は、前記メインベントの内径よりも大きいことを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項5】
車両の座席に着座する乗員の側方に膨張展開するエアバッグクッションと、該エアバッグクッションにガスを供給するインフレータとを備えたサイドエアバッグ装置であって、
前記エアバッグクッションは、
前記乗員の少なくとも肩から頭部までにわたる範囲に膨張展開するメインチャンバと、
前記メインチャンバのうち前記乗員の肩より上方の位置から該乗員側に突出して膨張展開するサブチャンバと、
前記メインチャンバの内部にて筒状に延びていて前記インフレータを内包し一部が前記サブチャンバに隣接しているインナチューブと、
前記インナチューブの所定箇所に開けられていて該インナチューブから前記メインチャンバ内にガスを放出するメインベントと、
前記インナチューブおよび前記メインチャンバのパネルを貫通して該インナチューブから前記サブチャンバ内にガスを放出するサブベントと、
を有し、
前記サブチャンバは、前記メインチャンバよりも先に膨張展開が完了することを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項6】
前記サブチャンバの上端は、前記乗員の頭部重心の高さよりも上方に位置していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項7】
前記サブチャンバの下端は、前記乗員の肩の上端よりも上方に位置していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項8】
前記サブベントは、前記サブチャンバから前記インナチューブへのガスの流出を防ぐ逆止弁構造になっていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項9】
前記エアバッグクッションはさらに、前記サブチャンバから前記メインチャンバにガスを排出可能な逆止弁を有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項10】
前記エアバッグクッションは、前記座席の車両中央側の側部に設けられることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項11】
前記サブチャンバは、前記メインチャンバのパネルに縫製によって結合されていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載するサイドエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両にはエアバッグ装置がほぼ標準装備されている。エアバッグ装置は、車両衝突などの緊急時に作動する安全装置であって、袋状のエアバッグクッションをガス圧で膨張展開させて乗員を受け止めて保護する。
【0003】
エアバッグ装置には、設置箇所や用途に応じて様々な種類がある。例えば、前後方向からの衝突から運転者を守るために、ステアリングの中央にはフロントエアバッグ装置が設けられている。また、側面衝突等による車幅方向からの衝撃から乗員を守るために、サイドウィンドウの上方の天井付近にはカーテンエアバッグ装置が設けられ、座席の側部にはサイドエアバッグ装置が設けられている。
【0004】
一般的なサイドエアバッグ装置のエアバッグクッションは、巻回または折り畳まれた収納形態となって、座席の側部に収納されている。例えば、特許文献1の図1では、座席12の乗員P1から見て、衝撃箇所側(ニアサイド)にエアバッグ31が設けられ、衝撃箇所から遠い側(ファーサイド)にエアバッグ41が設けられている。また、特許文献2の図1では、座席以外に設けられたエアバッグクッションとして、座席の間のコンソール50にエアバッグ10が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-70003号公報
【文献】国際公開第2009/035115号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、エアバッグ装置の開発現場において、拘束時に乗員の首にかかる負担の低減が課題となっている。上記特許文献2の技術では、逆四角錐台状のエアバッグ10の側面によって、乗員の肩と頭部とを同時に拘束できるよう工夫している。しかしながら、特許文献2の技術は、エアバッグ10が大型であるため、設置箇所およびコストの点から容易に実施することは難しい。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、簡易な構成で拘束時に乗員が受ける負担を減らすことが可能なサイドエアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかるサイドエアバッグ装置の代表的な構成は、車両の座席に着座する乗員の側方に膨張展開するエアバッグクッションと、エアバッグクッションにガスを供給するインフレータとを備えたサイドエアバッグ装置であって、エアバッグクッションは、乗員の少なくとも肩から頭部までにわたる範囲に膨張展開するメインチャンバと、メインチャンバのうち乗員の肩より上方の位置から乗員側に突出して膨張展開するサブチャンバと、メインチャンバの内部にて筒状に延びていてインフレータを内包し一部がサブチャンバに隣接しているインナチューブと、インナチューブの所定箇所に開けられていてインナチューブからメインチャンバ内にガスを放出するメインベントと、インナチューブおよびメインチャンバのパネルを貫通してインナチューブからサブチャンバ内にガスを放出するサブベントと、を有することを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、インナチューブを通じてサブチャンバにガスを直接送ることで、サブチャンバが早期に膨張する。したがって、メインチャンバが乗員の肩に接触すると同時もしくはわずかに先立って、サブチャンバも乗員の頭部に接触する。これによって、頭部の変位を抑えた姿勢で乗員を拘束し、乗員が受ける負担を減らすことが可能になる。また、インナチューブでガスを分配することによって、膨張展開の初期においてエアバッグクッションの膨張圧の局所的な集中が防止できる。したがって、例えば乗員が正規着座位置以外にいる状態でエアバッグクッションと接触したとき等において、膨張圧が局所的に高まった部位に乗員が触れるおそれがなくなるため、エアバッグクッションの安全性の向上に資することができる。
【0010】
上記のサブチャンバの上端は、乗員の頭部重心の高さよりも上方に位置しているとよい。この構成のサブチャンバであれば、乗員の頭部を効率よく拘束することが可能である。
【0011】
上記のサブチャンバの下端は、乗員の肩の上端よりも上方に位置しているとよい。この構成のサブチャンバによっても、乗員の頭部を効率よく拘束することが可能である。
【0012】
上記のサブチャンバの上下方向の中心は、乗員の頭部重心の高さの近傍に位置していてもよい。この構成のサブチャンバによっても、乗員の頭部を効率よく拘束することが可能である。
【0013】
上記のサブチャンバのメインチャンバから乗員側への車幅方向の突出量は、メインチャンバと座席の正規着座位置の乗員の頭部との距離よりも少なくてもよい。この構成によって、サブチャンバが乗員の頭部を押し返すことを防ぎ、乗員が受ける負担を抑えることができる。
【0014】
上記のサブチャンバの乗員側の表面は、上方から見たエアバッグクッションの水平断面において中央部分がメインチャンバ側に窪んでいて、サブチャンバの乗員側の窪んだ表面は、表面の車両前後方向の両端部から中央部分にかけて連続的に湾曲していてもよい。この構成のサブチャンバによれば、乗員の頭部の形状に沿って膨張し、乗員の頭部を効率よく拘束することができる。
【0015】
上記のサブベントの内径は、メインベントの内径よりも大きくてもよい。この構成によれば、サブチャンバへの単位時間あたりのガスの流入量を増やし、サブチャンバの膨張展開をインフレータの作動開始から早期に完了させることが可能になる。
【0016】
上記のサブベントは、サブチャンバからインナチューブへのガスの流出を防ぐ逆止弁構造になっていてもよい。この構成によって、サブチャンバの膨張圧をより長く維持することが可能になる。
【0017】
上記のエアバッグクッションはさらに、サブチャンバからメインチャンバにガスを排出可能な逆止弁を有してもよい。この構成によって、サブチャンバの膨張圧を適宜抑え、サブチャンバの損傷を防ぐことができる。
【0018】
上記のエアバッグクッションは、座席の車両中央側の側部に設けられるとよい。この構成によれば、側面衝突時に慣性によって衝撃箇所とは反対側へ移動しようとする乗員を好適に拘束することが可能になる。
【0019】
上記のサブチャンバは、メインチャンバのパネルに縫製によって結合されていてもよい。この構成によれば、サブチャンバを好適に具現化することができる。
【0020】
上記のサブチャンバは、メインチャンバよりも先に膨張展開が完了するとよい。この構成によって、メインチャンバが乗員の肩に触れると同時もしくはわずかに早くサブチャンバが乗員の頭部に触れるため、乗員の頭部の変位を抑えた姿勢で拘束することが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡易な構成で拘束時に乗員が受ける負担を減らすことが可能なサイドエアバッグ装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態にかかるサイドエアバッグ装置を例示した図である。
図2図1(b)のクッションを単独で各方向から例示した図である。
図3図1(a)の座席における正規着座位置の乗員とクッションとを概略的に例示した図である。
図4図2のクッションの第1および第2変形例を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0024】
図1は、本発明の実施形態にかかるサイドエアバッグ装置100を例示した図である。図1ではサイドエアバッグ装置100、およびこのサイドエアバッグ装置100が適用されている車両用の座席102を、車両前方の車幅方向右側から例示している。以降、図1その他の図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。
【0025】
本実施形態では、座席102は、前列の右側に配置されることを想定している。しかしながら、当該サイドエアバッグ装置100は、車両の前列、後列、さらには左右いずれか側のどの座席にも設置することが可能である。また、座席102は、通常は車両の前方を向いているが、回転して後方を向くことも想定している。そのため、各図中に矢印で例示する方向は、車両に対する前後左右の方向に限定する意図ではなく、座席102に正規に着座した乗員から見て、正面の方向を「前」とし、背中側の方向を「後」としたものである。同様に、このときの乗員の右手の方向が「右」であり、左手の方向が「左」である。さらに、このときの乗員の身体の中心に対して、頭部に向かう方向が「上」であり、脚部に向かう方向が「下」である。
【0026】
図1(a)は、作動前のサイドエアバッグ装置100を例示している。エアバッグクッション(以下、クッション106)は、乗員を受け止める部材であり、本実施形態では座席102の両側部のうち衝突箇所から遠い側(ファーサイド)に設置している。クッション106は、巻回や折畳み等された収納形態となって、ガスを供給するインフレータ108と共に、座席の背もたれ104の内部フレーム等に設置されている。
【0027】
図1(b)は、作動時のサイドエアバッグ装置100を例示している。クッション106は、車両の衝撃が検知されると、インフレータ108からのガスを利用して、座席102の表皮を押しのけつつ、座席102に着座する乗員の側方に膨張展開する。クッション106は、基布に縫製や接着などを加えて形成されるほか、OPW(One-Piece Woven)を用いての紡織などによっても形成可能である。
【0028】
本実施形態のクッション106は、膨張領域として、メインチャンバ110およびサブチャンバ112を有している。メインチャンバ110は、乗員の肩を中心に上半身を広く拘束する領域であり、全体的に扁平な形状に膨張展開する。サブチャンバ112は、乗員の頭部を拘束する領域であり、メインチャンバ110から乗員側に突出して膨張展開する。
【0029】
図2は、図1(b)のクッション106を単独で各方向から例示した図である。図2(a)は、図1(b)のクッション106を座席102側から見た側面図である。図2(a)では、クッション106の内部構造を破線で例示している。
【0030】
インフレータ108は、ガス発生装置であって、本実施形態ではシリンダ型(円筒型)のものを採用している。インフレータ108は、一端側の外周面にガス噴出孔114(図2(b)参照)を有し、他端側に所定のハーネスが接続される端子116を有している。インフレータ108は、その全体、またはガス噴出孔114を含む一部がクッション106の車両後方側の下部から挿入されている。そして、インフレータ108は、端子116で車両側と電気的に接続し、車両側から衝撃の検知に起因する信号を受けて作動し、クッション106にガスを供給する。
【0031】
図2(b)は、図2(a)のクッション106のA-A断面図である。インフレータ108には、取付用のスタッドボルト118が計2本設けられている。スタッドボルト118は、インフレータ108の筒状の本体から延び、インナチューブおよびメインチャンバ110のパネルを貫通して、座席(図1(b)参照)の内部フレーム等に締結される。インフレータ108のスタッドボルト118が座席に締結されることで、クッション106も座席に固定されている。
【0032】
現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。インフレータ108としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0033】
メインチャンバ110の内部には、インフレータ108からのガスを分配する部材として、インナチューブ120が設けられている。インナチューブ120は、インフレータ108を内包し、メインチャンバ110の内部にて上下方向に筒状に延びている。インナチューブ120の上端側の一部は、サブチャンバ112に隣接していて、サブチャンバ112にガスを直接送ることが可能になっている。
【0034】
インナチューブ120の材質は、メインチャンバ110のパネルを構成する基布と同様の化学繊維を用いて形成されていて、柔軟性に富み、インフレータ108の作動時の温度や圧力などの過酷な状況にも耐えることが可能になっている。本実施形態のインナチューブ120は細長い筒状の構成となっているが、その太さ(径)はインフレータ108の出力などに応じて、内圧が高くなり過ぎない寸法に設定することができる。
【0035】
図2(a)に例示するように、インナチューブ120には、ガスを排出する孔として、二つのベントホール(メインベント122およびサブベント124)が設けられている。メインベント122は、インナチューブ120の中央や下方側などの所定箇所に開けられて、インナチューブ120からメインチャンバ110内にガスを放出する。サブベント124は、インナチューブ120の上端側に開けられて、インナチューブ120からサブチャンバ112内にガスを放出する。
【0036】
図2(b)に例示するように、サブチャンバ112は、メインチャンバ110のパネルに縫製によって結合されている。そして、サブベント124は、インナチューブ120およびメインチャンバ110のパネルを貫通して形成されている。これら構成によって、メインチャンバ110から乗員側に突出して膨張展開するサブチャンバ112、およびサブチャンバ112にガスを直接送るインナチューブ120が、好適に具現化可能になっている。
【0037】
なお、サブベント124の内径は適宜設定することが可能である。例えば、サブベント124の内径は、メインベント122の内径よりも大きく設定することも可能である(サブベント124の内径>メインベント122の内径)。この構成によれば、サブチャンバ112への単位時間あたりのガスの流入量が増加し、サブチャンバ112をインフレータ108の作動開始から早期に膨張展開を完了することが可能になる。
【0038】
本実施形態では、インフレータ108はメインチャンバ110の下端側から挿入され、インナチューブ120もメインチャンバ110の下端から上端近傍にまでわたって延びる構成となっている。しかしながら、例えばインフレータ108の位置は、メインチャンバ110の上下中央付近に設けることも可能である。インフレータ108をメインチャンバ110の上下中央に設置する場合、インナチューブはメインチャンバ110の上下中央からサブチャンバ112に到達する程度の寸法となる。この構成であっても、インナチューブに上記メインベント122とサブベント124とを設けることで、ガスをメインチャンバ110とサブチャンバ112とに分配し、サブチャンバ112を早期に膨張展開させることができる。
【0039】
図2(c)は、図2(a)のクッション106のB-B断面図である。当該B-B断面は、上方から見たクッション106の水平断面である。インナチューブ120は、メインチャンバ110の車両後方側にて筒状に設けられていて、上端側がサブチャンバ112に隣接するよう配置されている。サブチャンバ112は、後述するように、乗員の頭部が拘束しやすいよう、湾曲して窪んだ形状に膨張展開する。
【0040】
サブチャンバ112は、乗員側の表面134のうち、車両前後方向の中央部分134cがメインチャンバ110側に窪んでいる。特に、この乗員側の表面134は、車両前後方向の前端部134aと後端部134bの両方から中央部分134cにかけて、連続的に湾曲してなだらかに窪んでいる。この構成によって、サブチャンバ112は、乗員の頭部を効率よく拘束可能になっている。
【0041】
図3は、図1(a)の座席102における正規着座位置の乗員P1とクッション106とを概略的に例示した図である。なお、乗員P1は、車両の衝突試験等に利用するダミー人形として例示している。乗員P1の具体的な体格を判断する際の例としては、例えば平均的な成人男性の50%に適合する体格を模した側面衝突試験用ダミーWorldSID 50th maleを利用することが可能である。しかしながら、当該サイドエアバッグ装置100の技術的思想は、WorldSID 50th maleに限らず、他のダミー人形や、他の体格の乗員などにも問題なく実施することが可能である。
【0042】
メインチャンバ110は、正規着座位置の乗員P1に対して、肩126から頭部128までにわたる広い範囲に膨張展開する。サブチャンバ112は、メインチャンバ110のうち正規着座位置の乗員P1の肩126より上方の位置から乗員側に突出して膨張展開する。このとき、サブチャンバ112の下端129は、乗員P1の肩126の上端127よりも上方に位置するよう設定されている。また、サブチャンバ112の上端130は、乗員P1の頭部重心132の高さよりも距離D1ほど上方に位置するよう設定されている。この構成のサブチャンバ112であれば、乗員P1の頭部128の荷重を効率よく吸収し拘束することが可能である。
【0043】
サブチャンバ112の上下方向の中心C1は、乗員P1の頭部重心132の高さの近傍に位置するよう設定している。頭部重心132の高さの近傍とは、上下方向における頭部重心132の位置に対して、概ね頭部128の上下方向の長さの±5%程度の範囲であって、実質的に頭部重心132と同じ高さとみなすことができる範囲を想定している。この構成によって、サブチャンバ112は乗員P1の頭部128をバランスよく受け止め、頭部128を効率よく拘束することが可能になる。なお、頭部重心132は、本実施形態の場合、上述したダミー人形WorldSID 50th maleの頭部の幾何中心または質量中心として算出することができる。幾何中心と質量中心は、質量の分布によってはわずかに異なる場合もあるが、通常はほぼ同じ位置である。
【0044】
上記図2(b)を参照して説明したように、本実施形態では、インナチューブ120を通じてサブチャンバ112にガスを直接送ることで、サブチャンバ112が早期に膨張する。したがって、メインチャンバ110が乗員P1の肩126の付近に接触すると同時もしくはわずかに先立って、サブチャンバ112も乗員P1の頭部128に接触する。これによって、肩126に対する頭部128の変位を抑えた姿勢で乗員P1を拘束し、乗員P1が受ける負担を減らすことができる。このように、当該サイドエアバッグ装置100では、簡易な構成で、拘束時に乗員P1が受ける負担を減らすことが可能になっている。
【0045】
また当該サイドエアバッグ装置100では、インナチューブ120(図2(b)等参照)でガスを分配することによって、膨張展開の初期においてクッション106の膨張圧の局所的な集中が防止できる。したがって、例えば乗員P1が正規着座位置以外にいる状態でクッション106と接触したとき等において、膨張圧の高い部位に乗員P1が触れるおそれがなくなるため、クッション106の安全性の向上に資することができる。
【0046】
サブチャンバ112は、メインチャンバ110よりも容量が小さく、メインチャンバ110よりも先に膨張展開が完了する。サブチャンバ112の膨張展開を早めるには、前述したようにサブベント124の内径をメインベント122の内径よりも大きく設定することも有効である。サブチャンバ112の膨張が早期に完了することで、メインチャンバ110が乗員P1の肩126に触れると同時もしくはわずかに早くサブチャンバ112が乗員P1の頭部128に触れ、頭部128の変位を抑えた姿勢で乗員P1を拘束することが可能になる。
【0047】
図3(b)は、図3(a)の乗員P1およびクッション106を上方から見た図である。上述したように、サブチャンバ112の乗員側の表面134は、中央部分134cがメインチャンバ110側に窪んでいて、前端部134aおよび後端部134bから中央部分134cにかけて連続的になだらかに湾曲している。この構成のサブチャンバ112であれば、乗員P1の頭部128の形状に沿った、当該頭部128を受け止めやすい形状に膨張し、乗員P1の頭部128を効率よく拘束することが可能である。
【0048】
本実施形態では、サブチャンバ112のメインチャンバ110から乗員側への車幅方向の最大の突出量W1は、メインチャンバ110と座席102の正規着座位置の乗員P1の頭部128との距離W2よりも少なく設定している(距離W2>突出量W1)。この構成によって、サブチャンバ112が乗員P1の頭部128を押し返すことを防ぎ、乗員P1が受ける負担を抑えている。
【0049】
図1(a)を参照して説明したように、当該サイドエアバッグ装置100では、上記構成のクッション106を、ファーサイドである座席102の車両中央側の側部に設けている。車両に側面衝突が生じた場合、乗員P1は慣性によって衝撃箇所とは反対側(ファーサイド)、すなわち車両中央側へ移動しようとする。このとき、車両中央側には通常は構造物が存在しないため、乗員P1は衝撃箇所側(ニアサイド)に向かうときよりも大きく動くおそれがある。このような乗員P1を平坦なクッションで側方から拘束しようとすると、頭部128が倒れて頸椎に負担がかかるおそれがある。この点、当該クッション106であれば、早期に膨張するサブチャンバ112を利用して頭部128を倒すことなく拘束し、乗員P1の負担を抑えたうえで拘束することが可能である。
【0050】
(変形例)
以下、上述した各構成要素の変形例について説明する。図4では既に説明した構成要素と同じものには同じ符号を付していて、これによって既出の構成要素については説明を省略する。また、以下の説明において、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有しているものとする。
【0051】
図4は、図2のクッション106の第1および第2変形例(クッション200、220)を例示した図である。図4(a)は、図2(b)のクッション106に対応して、第1変形例のクッション200の断面図を例示している。クッション200は、サブベント124に逆止弁202が設けられている点で、図2(b)のクッション106と構成が異なっている。
【0052】
逆止弁202は、サブベント124からサブチャンバ112の内部に筒状に延びていて、先端側が自由端になっている。図4(b)は、図4(a)の逆止弁202の拡大図である。逆止弁202は、根本部204の縁に縫製206a、206bが設けられていて、先端部208よりも根本部204の剛性が高くなっている。
【0053】
逆止弁202は、サブチャンバ112(図3(a)参照)に乗員P1からの荷重がかかった場合、逆止弁202を抜けようとするガスの流れによって先端部208が根本部206の内側に吸い込まれ、先端部208によって根本部206の内側が塞がれる。これによって、サブチャンバ112からインナチューブ120へのガスの流出を防ぎ、サブチャンバ112の膨張圧をより長く維持することが可能になる。
【0054】
図4(c)は、図2(c)のクッション106に対応して、第2変形例のクッション220の断面図を例示している。クッション220は、サブベント124とは別の箇所に逆止弁202が設けられている点で、上記各クッションと構成が異なっている。
【0055】
クッション220では、サブチャンバ112とメインチャンバ110をつなぐベントホール222が設けられ、このベントホール222のメインチャンバ110側に逆止弁202が設けられている。ベントホール222は、サブチャンバ112の膨張が完了したときやサブチャンバ112に乗員P1(図3(a)参照)の荷重がかかったときなどに、サブチャンバ112からメインチャンバ110にガスを逃がすことができる。ベントホール222を設けることで、サブチャンバ112の膨張圧を適宜抑え、サブチャンバ112の損傷を防ぐことが可能になる。一方、メインチャンバ110からサブチャンバ112には、逆止弁202によってガスが入り難くなっている。
【0056】
以上のように、クッション220は、逆止弁202によって、メインチャンバ110に乗員P1の荷重がかかった場合などに、ガスのサブチャンバ112への逆流を防止し、メインチャンバ110の膨張圧の維持、およびサブチャンバ112の不規則な膨張を防ぐことが可能になっている。なお、クッション220においても、図4(a)のクッション200と同様に、サブベント124を逆止弁構造にすることが可能である。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0058】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、車両に搭載するサイドエアバッグ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
100…サイドエアバッグ装置、102…座席、104…背もたれ、106…クッション、108…インフレータ、110…メインチャンバ、112…サブチャンバ、114…ガス噴出孔、116…端子、118…スタッドボルト、120…インナチューブ、122…メインベント、124…サブベント、126…肩、127…肩の上端、128…頭部、129…サブチャンバの下端、130…サブチャンバの上端、132…頭部重心、134…サブチャンバの乗員側の表面、134a…前端部、134b…後端部、134c…中央部分、C1…サブチャンバの上下方向の中心、D1…乗員の頭部重心とサブチャンバの上端との距離、P1…乗員、W1…サブチャンバの突出量、W2…メインチャンバと頭部の距離、200…第1変形例のクッション、202…逆止弁、204…根本部、206a、206b…縫製、208…先端部、220…第2変形例のクッション、222…ベントホール
図1
図2
図3
図4