(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ASMT発現促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/505 20060101AFI20220915BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20220915BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220915BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20220915BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20220915BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220915BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220915BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220915BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20220915BHJP
【FI】
A61K31/505
A61K8/49
A61P43/00 111
A61P39/06
A61P25/20
A61P25/28
A61P29/00
A61Q19/00
A23L33/17
(21)【出願番号】P 2020512187
(86)(22)【出願日】2018-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2018014614
(87)【国際公開番号】W WO2019193717
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】合津 陽子
(72)【発明者】
【氏名】土師 信一郎
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-510944(JP,A)
【文献】特表2014-526448(JP,A)
【文献】特開2002-302444(JP,A)
【文献】特表2002-522366(JP,A)
【文献】特開2014-055127(JP,A)
【文献】WILKOWSKA, A., et al.,Evaluation of safety and efficacy of Dermaveel in treatment of atopic dermatitis,Alergologia POLSKA- Polish Journal of Allergology,2015年,Vol.2,p.128-133,ISSN 2353-3854, 要旨
【文献】HENSLEY, K., et al.,Nitric Oxide and Derived Species as Toxic Agents in Stroke, AIDS Dementia, and Chronic Neurodegenera,Chem. Res. Toxicol.,1997年,Vol.10,p.527-532,ISSN 0893-228x, 「Nitric Oxide in AIDS Dementia and Neurodegenerative Diseases」の項の第2段落
【文献】YILDIZ, F. et al.,Antidepressant-like effect of 7-nitroindazole in the forced swimming test in rats,Psychopharmacology,2000年,Vol.149,p.41-44,ISSN 1432-2072, Introductionの項の第3段落
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 8/00- 8/99
A61P 1/00-43/00
A61Q 1/00-90/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を有効成分として含有するASMT発現促進剤。
【請求項2】
エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を有効成分として含有し、ASMT発現促進を介してメラトニンの合成を促進するメラトニン合成促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はASMT発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
メラトニンは、動植物に存在するホルモンであり、睡眠障害の改善、認知機能の向上、気分障害の改善、抗酸化活性・抗炎症活性の亢進といった効果を有することが報告されている(特許文献1、2、非特許文献1)。
【0003】
メラトニン合成を促進する物質としてアセチルセロトニンO-メチルトランスフェラーゼ(ASMT)か知られている。ASMTは、ASMT遺伝子の発現により体内で産生され、メラトニン合成経路の最終ステップに関与する酵素である。よって、ASMTの発現を促進することによりメラトニンの合成が促され、メラトニン量が増えると考えられる(特許文献2、非特許文献1~6)。
【0004】
したがって、ASMTの発現を促進することによりメラトニンの合成を促進する物質の探索が望まれる。しかしながら、これまでに、どのような物質がASMT発現促進作用に大きく寄与するのか十分に解明されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開第2014-237700号公報
【文献】特表第2009-511038号公報
【文献】特開第2002-302444号公報
【文献】特許第5116917号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】服部淳彦、総説 メラトニンとエイジング、比較生理生化学Vol. 34 (2017), No. 1, p.2-11
【文献】Pagan et.al., Mutation screening of ASMT, the last enzyme of the melatonin pathway, in a large sample of patients with Intellectual Disability, BMC Medical Genetics 2011, 12:17
【文献】Reiter et.al., Melatonin and its metabolites: new findings regarding their production and their radical scavenging actions, Acta Biochimica Polonica, Vol. 54 No. 1, 2007, 1-9
【文献】Ribelayga et.al., HIOMT drives the photoperiodic changes in the amplitude of the melatonin peak of the Siberian hamster, American Journal of Physiology Regulatory Integrative Comparative Physiology, 278: R1339-R1345, 2000.
【文献】Ceinos et.al., Analysis of Adrenergic Regulation of Melatonin Synthesis in Siberian Hamster Pineal Emphasizes the Role of HIOMT, Neurosignals 2004;13:308-317
【文献】Monika Talarowska et. al., ASMT gene expression correlates with cognitive impairment in patients with recurrent depressive disorder, Medical Science Monitor, 2014; 20: 905-912
【文献】Yi H1 et. al., Localization of the hydroxyindole-O-methyltransferase gene to the pseudoautosomal region: implications for mapping of psychiatric disorders, Human Molecular Genetics. 1993 Feb;2(2):127-31.
【文献】Gaia Favero et. al., Melatonin as an Anti-Inflammatory Agent Modulating Inflammasome Activation, International Journal of Endocrinology Volume 2017, Article ID 1835195, 13 pages.
【文献】Andrze Alominski, D. J. Tobin, M. A. Zmijewski, et.al., Melatonin in the skin: synthesis, metabolism and functions. Tremds in Endocrinology & Metabolism, 2008, 19:17-24
【文献】DX Tan, LD Chen, B Poeggeler, et.al., Melatonin: a potent endogenous hydroxyl radical scavenger. Endocrine J, 1993, 1:57-60
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、新規なASMT発現促進剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、様々な成分についてASMT発現促進剤としての効果について鋭意研究の結果、エクトインが、ASMT発現促進剤として特に高い効果を有することを見出し、以下の発明を完成するに至った:
(1)エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を有効成分として含有するASMT発現促進剤。
(2)エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を有効成分として含有し、ASMT発現促進を介してメラトニンの合成を促進するメラトニン合成促進剤。
(3)エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を有効成分として含有し、ASMT発現促進を介してメラトニンの合成を促進することにより抗酸化活性を亢進する抗酸化剤。
(4)(1)に記載のASMT発現促進剤を含む組成物。
(5)(2)に記載のメラトニン合成促進剤を含む組成物。
(6)(3)に記載の抗酸化剤を含む組成物。
(7)ASMT発現促進を介してメラトニンの合成を促進することにより、睡眠障害の改善、認知機能の向上、気分障害の改善、抗酸化活性の亢進、および抗炎症活性の亢進から選択される1又は複数の作用を増強するための、(4)又は(5)に記載の組成物。
(8)化粧品組成物又は食品組成物である、(4)~(7)いずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のASMT発現促進剤の投与により、ASMT発現を促進することができる。本発明によれば、ASMT発現促進剤を含有する組成物を提供することができる。ASMT発現を促進することによりメラトニンの合成を促進することができ、睡眠障害の改善、認知機能の向上、気分障害の改善、抗酸化活性・抗炎症活性の亢進といったメラトニンの有する効果を増強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、エクトインによるASMT発現促進効果をエクトイン無添加の対照と比較した結果である。対照のASMT遺伝子発現量を1とした比較として示す。
【
図2】
図2は、各濃度のエクトインによるASMT発現促進効果を示す結果である。内部標準として発現量がほぼ一定のハウスキーピング遺伝子であるRPLP0遺伝子の発現量を定量し、RPLP0に対する相対発現量ASMT/RPLP0を算出して、ASMT遺伝子発現量とした。
【
図3】
図3は、エクトインによるASMT発現促進効果を各種対照薬剤および薬剤無添加の対照と比較した結果である。内部標準として発現量がほぼ一定のハウスキーピング遺伝子であるRPLP0遺伝子の発現量を定量し、RPLP0に対する相対発現量ASMT/RPLP0を算出して、ASMT遺伝子発現量とした。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を有効成分として含有するASMT発現促進剤を提供する。
【0012】
エクトインとは、(4S)-2-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-4-カルボン酸((4S)-2-methyl-1,4,5,6-tetrahydropyrimidine-4-carboxylic acid)のことであり、以下の構造を有する環状型のアミノ酸である(CAS番号96702-03-3)。
【0013】
【0014】
エクトインは、浸透圧を調節する作用があることが知られており、浸透圧の変化によるストレスから細胞を守る働きがある。また、エクトインは、肌の保水力を長時間維持する作用等を有することが知られており、各種化粧品に配合されている成分である(特許文献3、4)。しかしながら、エクトインが、高いASMT発現促進作用を有することはこれまでに報告されておらず、非常に驚くべき発見である。
【0015】
生理学的に許容しうる塩とは、アルカリ塩又はアルカリ土類塩、特にカリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムの塩や、非毒性脂肪族又は芳香族アミンなどの有機塩基から誘導される塩を含む。
【0016】
ASMTは、アセチルセロトニン O-メチルトランスフェラーゼ(Acetyl serotonin O-methyl transferase)を指す(CAS番号9029-77-0)。ASMTは、メラトニン合成経路の最終段階であるノルメラトニンをメラトニンに変換する反応を触媒する酵素として知られている。また、ASMTは、ヒドロキシインドールO-メチルトランスフェラーゼ(HIOMT:Hydroxyindole-O-methyltransferase)等の名称で呼ばれることもある(非特許文献1~5)。
【0017】
ASMT遺伝子は、X染色体及びY染色体に共通する偽常染色体領域1(PAR1)に位置し、アセチルセロトニンO-メチルトランスフェラーゼ(ASMT)をコードする遺伝子である(非特許文献7)。ASMT遺伝子の発現量が少ないとノルメラトニンからメラトニンへと変換されないためメラトニン産生量が減少し、逆に、ASMT遺伝子の発現量が多いとメラトニン産生量が増加することが示唆されている(非特許文献1~5)。
【0018】
メラトニンは、N-アセチル-5-メトキシトリプタミン(N-acetyl-5-methoxytryptamine)のことを指す(CAS番号73-31-4)。メラトニンは、ヒトなどの動物において松果体で産生されるが、近年,皮膚、網膜、脳、脊髄、消化管、心臓、腎臓、精巣、卵巣、胸腺、脾臓、水晶体、蝸牛、骨髄、リンパ球など様々な器官においても産生されることが報告されている(非特許文献1、9、10)。また、メラトニンは、概日リズムの調整、睡眠障害の改善、認知機能の向上、気分障害の改善、皮膚などの器官における抗酸化作用や抗炎症作用等の様々な作用を有することが報告されている(特許文献1、2、非特許文献1、2、6~10)。したがって、高いASMT発現促進作用を有することが本発明者らにより発見されたエクトインによりメラトニンを促進することができれば、メラトニンの有する上記の各種効果が増強されると考えられる。
【0019】
ASMT発現の促進とは、例えば、ASMT発現促進剤を付与していない状態(コントロール)に比べて、ASMT発現促進剤を付与した場合に、ASMT遺伝子の発現量が、例えば有意水準を5%とした統計学的有意差(例えばスチューデントのt検定)をもって亢進していることを意味し得る。または、ASMT発現の促進とは、例えばASMT発現促進剤を付与していない状態(コントロール)に比べて、ASMT発現促進剤を付与した場合に、ASMT遺伝子の発現量が、例えば10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、200%以上、300%以上、400%以上、又は500%以上亢進していることを意味し得る。ASMT遺伝子の発現量は、任意の公知技術、例えば、非特許文献6に記載の方法により求めることができる。
【0020】
よって、本発明は、エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を有効成分として含有し、ASMT発現促進を介してメラトニンの合成を促進するメラトニン合成促進剤、並びにエクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を有効成分として含有し、ASMT発現促進を介してメラトニンの合成を促進することにより抗酸化活性を増強する抗酸化剤を提供する。抗酸化活性は、皮膚などの器官におけるものであってもよい。また、本発明は、エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を有効成分として含有するASMT発現促進剤又はメラトニン合成促進剤又は抗酸化剤を含む組成物も提供する。本発明の組成物は、化粧品組成物又は食品組成物であってもよい。また、本発明の組成物は、ASMT発現促進を介してメラトニンの合成を促進することにより、睡眠障害の改善、認知機能の向上、気分障害の改善、抗酸化活性の亢進、および抗炎症活性の亢進から選択される1又は複数の作用を増強するための組成物であってもよい。
【0021】
本発明のASMT発現促進剤、メラトニン合成促進剤、抗酸化剤、又は組成物は、有効成分としてエクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を、例えば、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上含有することがある。ある実施形態では、本発明のASMT発現促進剤又はメラトニン合成促進剤又は抗酸化剤は、エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩からなることもある。本発明に用いられるエクトイン又はその生理学的に許容しうる塩は、任意の方法で得ることができ、製法や供給源等に限定されない。
【0022】
本発明のASMT発現促進剤、メラトニン合成促進剤、抗酸化剤、又は組成物は、外用投与または経口投与することができる。外用投与の形態としては、例えば、クリーム、乳液、液体、シート、スプレー、ゲルなど任意に選択することができる。経口投与の形態としては、例えば、錠剤、サプリメント、飲料、粉末など任意に選択することができる。
【0023】
本発明の化粧品組成物は、乳液、クリーム、美容液、ローション、パック、洗顔料、石鹸、ボディソープ、シャンプー等の各種化粧品であってもよく、液状、乳液状、クリーム状、固形状、シート状、スプレー状、ゲル状、泡状、パウダー状等の様々な形態であり得る。また、本発明の食品組成物は、粉末、飲料、または錠剤であってもよく、粉末状、液状、固形状、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状等の様々な形態であり得る。
【0024】
本発明のASMT発現促進剤、メラトニン合成促進剤、抗酸化剤、又は組成物は、エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩をASMT発現促進の効果が十分発揮されるような量で含有させることが好ましい。
【0025】
本発明のASMT発現促進剤、メラトニン合成促進剤、抗酸化剤、又は組成物におけるエクトイン又はその生理学的に許容しうる塩の配合量は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。
【0026】
外用投与する場合、エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩の投与量は、例えば、エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩の配合量は、本発明のASMT発現促進剤、メラトニン合成促進剤、抗酸化剤、又は組成物の総重量当たり0.001~50重量%、0.01~5重量%、0.01~1重量%、0.01~0.1重量%、0.02~0.05重量%等とすることができるがこれらに限定されない。
【0027】
経口投与する場合、エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩の配合量は、本発明のASMT発現促進剤、メラトニン合成促進剤、抗酸化剤、又は組成物の総重量当たり0.001~50重量%、0.01~5重量%、0.01~1重量%、0.01~0.1重量%、0.02~0.05重量%等とすることができるがこれらに限定されない。
【0028】
また、投与頻度は、4週間に1回、2週間に1回、1週間に1回、3日に1回、2日に1回、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、都度投与等任意に選択できるがこれらに限定されない。
【0029】
本発明のASMT発現促進剤、メラトニン合成促進剤、抗酸化剤、又は組成物は、必要に応じて添加剤を任意に選択し併用することができる。添加剤としては賦形剤等を含ませることができる。
【0030】
賦形剤としては、所望の剤型としたときに通常用いられるものであれば何でも良く、例えば、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、シクロデキストリンなどのでんぷん類、結晶セルロース類、乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、水飴、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖などの糖類、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトールなどの糖アルコール類が挙げられる。これら賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
その他の添加剤として、着色剤、保存剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、pH調整剤、油分、水、アルコール類、キレート剤、シリコーン類、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、中和剤等の公知のものを適宜選択して使用できる。
【0032】
また、本発明は、エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を投与することによりASMT発現促進を介してメラトニンの合成を促進するための方法も提供する。また、本発明は、エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を投与することによりASMT発現促進を介してメラトニンの合成を促進することにより、睡眠障害の改善、認知機能の向上、気分障害の改善、皮膚の抗酸化活性の亢進、および皮膚の抗炎症活性の亢進から選択される1又は複数の作用を増強するための方法も提供する。本発明の方法は、美容を目的とする方法であり、医師や医療従事者による治療ではないことがある。
【0033】
さらに、本発明は、睡眠障害の改善、認知機能の向上、気分障害の改善、皮膚の抗酸化活性の亢進、および皮膚の抗炎症活性の亢進から選択される1又は複数の作用を増強するための医薬の製造におけるエクトイン又はその生理学的に許容しうる塩の使用も提供する。本発明は、ASMT発現促進を介してメラトニンの合成を促進することにより、睡眠障害の改善、認知機能の向上、気分障害の改善、皮膚の抗酸化活性の亢進、および皮膚の抗炎症活性の亢進から選択される1又は複数の作用を増強する方法に使用するためのエクトイン又はその生理学的に許容しうる塩も提供する。
【実施例】
【0034】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
エクトインのASMT遺伝子発現亢進作用
試料の調製
市販のエクトイン(メルク)を精製水で溶解してフィルター滅菌し、濃度1Mのエクトイン試料を調製した。
【0036】
表皮角化細胞の培養
市販の正常成人皮膚由来角化細胞(クラボウ)を5×105cells/フラスコとなるようにT75フラスコに接種し、角化細胞用培地(Humedia-KG2、クラボウ)中で37℃、5%CO2雰囲気下でセミコンフルエントに達するまで培養し、種細胞とした。この角化細胞をトリプシン処理により回収し、24ウェルプレートに2×104cells/ウェルとなるように接種し、角化細胞用培地(Humedia-KG2、クラボウ)中で37℃、5%CO2雰囲気下でコンフルエントに達するまで培養した。
【0037】
試料の添加
コンフルエントに達した表皮角化細胞に、エクトイン試料を培地中濃度が1mMとなる様に適切な希釈率で添加し、37℃、5%CO2雰囲気下で培養を続けた。対照として、エクトイン試料を添加しない培地のみで培養を行った。
【0038】
細胞からのRNAの抽出
エクトインを添加してから10時間後に培地を除去し、市販のRNA抽出試薬(RNeasy Mini Kit、Qiagen)を用いて、細胞の溶解とRNAの抽出を行なった。
【0039】
定量PCR法によるASMT発現量の評価
抽出したRNAを鋳型として、市販の定量PCR試薬(BrilliantII QRT-PCR kit、Agilent)と定量PCR装置(Mx-3005P、Agilent)を用いて定量PCRを実施し、ASMT遺伝子の発現量を測定した。内部標準として発現量がほぼ一定であるRPLP0遺伝子の発現量も同時に測定した。PCR用プライマーには各遺伝子に特異的な市販のPCR用プライマー(タカラバイオ社)を用いた。
【0040】
結果を
図1に示す。各試料を添加した場合のASMT遺伝子発現量を、対照のASMT遺伝子発現量を1とした比較として示す。
図1より、エクトインは、培地のみで培養した場合と比較して非常に高いASMT発現促進作用があることが確認された。
【実施例2】
【0041】
エクトインのASMT遺伝子発現に対する濃度依存性
試料の調製
市販のエクトイン(メルク)を精製水で溶解してフィルター滅菌し、10重量%のエクトイン試料を調製した。
【0042】
試料の添加
実施例1と同様に培養した表皮角化細胞に、エクトイン試料を培地中濃度が0.005重量%、0.01重量%、0.02重量%、0.05重量%、0.1重量%となる様に適切な希釈率で添加し、37℃、5%CO2雰囲気下で培養を続けた。
【0043】
RNAの抽出
エクトインを添加してから10時間後に培地を除去し、市販のRNA抽出試薬(RNeasy Mini Kit、Qiagen)を用いて、細胞の溶解とRNAの抽出を行なった。
【0044】
定量PCR法によるASMT発現量の評価
抽出したRNAを鋳型として、市販の定量PCR試薬(BrilliantII QRT-PCR kit、Agilent)と定量PCR装置(Mx-3005P、Agilent)を用いて定量PCRを実施し、ASMT遺伝子の発現量を測定した。内部標準として発現量がほぼ一定であるRPLP0遺伝子の発現量も同時に測定した。PCR用プライマーには各遺伝子に特異的な市販のPCR用プライマー(タカラバイオ)を用いた。
【0045】
結果を
図2に示す。
図2より、0.02重量%のエクトインのASMT遺伝子発現量は、低い濃度のエクトイン(0.005重量%、0.01重量%)と比較して高く、エクトインのASMT発現促進作用は濃度依存性であることが確認された。
【実施例3】
【0046】
各種抗酸化物質と比較したエクトインのASMT遺伝子発現亢進作用
試料の調製
実施例1と同様の方法でエクトイン試料を調製した。対照薬剤として、抗酸化作用を有することが知られている物質(グリコシルヘスペリジン、緑茶抽出液、ウーロン茶抽出液)を含有する試料も作成した。市販のグリコシルヘスペリジン(東洋製糖)を精製水で溶解してフィルター滅菌し、100mMのグリコシルヘスペリジン試料を調製した。緑茶抽出液(香栄興業)、ウーロン茶抽出液(サントリー)は市販の抽出液をフィルター滅菌して用いた。
【0047】
実施例1と同様に培養した表皮角化細胞に、上記で得た各試料を、培地中の濃度がエクトイン1mM、グリコシルヘスペリジン100μM、緑茶抽出液0.1%、ウーロン茶抽出液0.1%となるように、適切な希釈率で培地に添加した。これらの添加濃度はいずれも外用剤に使用する一般的な濃度である。試料を添加後、細胞を実施例1と同様にして培養し、ASMT発現量を評価した。また、試料を添加せず培地のみで培養したものを薬剤無添加の対照とした。
【0048】
結果を
図3に示す。
図3より、エクトインのASMT遺伝子発現量は、緑茶抽出液、ウーロン茶抽出液、より高い濃度のグリコシルヘスペリジンと比較しても高いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、エクトイン又はその生理学的に許容しうる塩を有効成分として含有するASMT発現促進剤の投与により、ASMT遺伝子の発現を促進することができ、ASMT遺伝子発現の促進を介してメラトニンの合成を促進することにより、睡眠障害の改善、認知機能の向上、気分障害の改善、抗酸化活性の亢進、および抗炎症活性の亢進といった作用を増強することができる。