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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220915BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20220915BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20220915BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C21D8/12 A
H01F1/147 175
C22C38/38
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020536264
(86)(22)【出願日】2018-05-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 KR2018005674
(87)【国際公開番号】W WO2019132132
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-06-26
(31)【優先権主張番号】10-2017-0180255
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ-フン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン-スゥ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】シン,スゥ-ヨン
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-088452(JP,A)
【文献】特開2001-172752(JP,A)
【文献】特開2017-101315(JP,A)
【文献】特開2011-157603(JP,A)
【文献】特開2003-013190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.5~6.0%、Al:0.2~3.5%、Mn:0.2~4.5%、Cr:0.01~0.2%、P:0.005~0.08%、Mg:0.0005~0.05%および残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足し、素地鋼板の内部に0.20~5.0μm厚さの内部酸化層が形成されたことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
[式1]
-2.5≦[P]/[Cr]-[Mg]×100≦6.5
(式1において、[P]、[Cr]および[Mg]はそれぞれP、CrおよびMgの含有量(重量%)を表す。)
【請求項2】
前記内部酸化層は、前記素地鋼板の表面から前記素地鋼板の内部方向に5μm以下の範囲に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記内部酸化層は、CrまたはMgOの中の1種以上の酸化物を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記内部酸化層と前記素地鋼板の界面の平均粗度は1~5μmであることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記素地鋼板の表面に接し、前記素地鋼板の内部方向に形成された表面酸化層をさらに含むことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記内部酸化層および前記表面酸化層は、酸素を0.05重量%以上含むことを特徴とする請求項5に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記内部酸化層の厚さが前記表面酸化層の厚さより厚いことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項8】
前記無方向性電磁鋼板の比抵抗は、45μΩ・cm以上であることを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項9】
前記無方向性電磁鋼板は、C、S、N、Ti、NbおよびVの中の1種以上をそれぞれ0.004重量%以下でさらに含むことを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項10】
重量%で、Si:2.5~6.0%、Al:0.2~3.5%、Mn:0.2~4.5%、Cr:0.01~0.2%、P:0.005~0.08%、Mg:0.0005~0.05%および残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足するスラブを製造する段階、
前記スラブを1100~1250℃で加熱する段階、
前記スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および
前記冷延板を最終焼鈍する段階、を含み、
前記最終焼鈍する段階は、昇温速度15℃/秒以上で昇温する急速昇温段階、一般昇温
段階および均熱段階を含み、
前記急速昇温段階は、前記冷延板を450~600℃まで昇温し、
前記急速昇温段階は、露点温度-10~60℃で行われ
前記均熱段階の均熱温度は、850~1050℃であり、30秒~3分間焼鈍し、
内部に0.20~5.0μm厚さの内部酸化層が形成され、5000A/m
の磁場で誘導される磁束密度B 50 が1.64T以上であり、0.25mm厚さ基準に、400Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損W 10/400 は15.0W/kg以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
[式1]
-2.5≦[P]/[Cr]-[Mg]×100≦6.5
(式1において、[P]、[Cr]および[Mg]はそれぞれスラブ内のP、CrおよびMgの含有量(重量%)を表す。)
【請求項11】
前記一般昇温段階は昇温速度が1~15℃/秒であり、露点温度-50~-20℃で行われることを特徴とする請求項10に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
無方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、詳しくは、鋼板にP、Cr、Mg元素を適量添加して鋼板内部に内部酸化層を形成し、絶縁特性、加工性および磁性が同時に優れた無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
省エネルギ、微細粉塵発生の低減および温室ガス低減など地球環境の改善のために電気エネルギの効率的な使用が大きな課題になっている。現在発電される全体電気エネルギの50%以上が電動機で消費されているので、電気の効率的な使用のためには電動機の高効率化が必ず必要な実情である。
【0003】
最近、環境に優しい自動車(ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車、燃料電池車)分野が急激に発展するにつれ、高効率駆動モータに対する関心が急増しており、さらに家電用高効率モータ、重電機用スーパープレミアムモータなど高効率化に対する認識および政府規制が持続しており、効率的な電気エネルギ使用のための要求がこれまで以上に高いと言える。
【0004】
一方、モータの素材として使用される電磁鋼板は、渦電流損失を低減するために薄い鋼板を複数枚積み重ねて製作し、この時、各鋼板は絶縁が維持されて電流が流れない状態にならなければならない。このために電磁鋼板の表面には絶縁コーティングを塗布している。
【0005】
通常絶縁コーティングは、有、無機複合材料で構成されている。この絶縁コーティングは積層された上下鋼板間絶縁を維持させて渦電流損失を低減させるので、厚く塗布して鋼板を完全絶縁させるとモータ効率がより向上する長所がある。しかし、絶縁コート層の厚さが増加すると、占積率の低下によりモータ効率が低下し、打ち抜き時の粉塵など異物の形成により金型損傷が発生して生産性が低下する問題がある。したがって、絶縁コーティングを最小限にして塗布してコート層の厚さを薄くしながらも絶縁性を確保する必要がある。
【0006】
従来においては素地鋼板の内部に酸化層を形成する技術が一部提案された。しかし、P、CrおよびMgを適量添加せず、目的とする絶縁特性および磁性を十分に確保できない限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一実施例は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。具体的には、鋼板にP、Cr、Mg元素を適量添加し、鋼板内部に内部酸化層を形成し、絶縁特性、加工性および磁性が同時に優れた無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.5~6.0%、Al:0.2~3.5%、Mn:0.2~4.5%、Cr:0.01~0.2%、P:0.005~0.08%、Mg:0.0005~0.05%および残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記数1を満足し、素地鋼板の内部に0.2~5.0μm厚さの内部酸化層が形成される。
[数1]
-2.5≦[P]/[Cr]-[Mg]×100≦6.5
(数1において、[P]、[Cr]および[Mg]はそれぞれP、CrおよびMgの含有量(重量%)を表す。)
【0009】
前記内部酸化層は、前記素地鋼板の表面から前記素地鋼板の内部方向に5μm以下の範囲に形成され得る。
【0010】
前記内部酸化層は、CrまたはMgOの中の1種以上の酸化物を含み得る。
【0011】
前記内部酸化層と前記素地鋼板の界面の平均粗度は、1~5μmでありうる。
【0012】
前記素地鋼板の表面に接し、前記素地鋼板の内部方向に形成された表面酸化層をさらに含み得る。
【0013】
前記内部酸化層および表面酸化層は、酸素を0.05重量%以上含み得る。
前記内部酸化層の厚さが前記表面酸化層の厚さより厚くてもよい。
【0014】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の比抵抗は、45μΩ・cm以上でありうる。
【0015】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、C、S、N、Ti、NbおよびVの中の1種以上をそれぞれ0.004重量%以下でさらに含み得る。
【0016】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~6.0%、Al:0.2~3.5%、Mn:0.2~4.5%、Cr:0.01~0.2%、P:0.005~0.08%、Mg:0.0005~0.05%および残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記数1を満足するスラブを製造する段階、スラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階、を含む。
【0017】
最終焼鈍する段階は、昇温速度15℃/秒以上で昇温する急速昇温段階、一般昇温段階、および均熱段階、を含み、急速昇温段階は露点温度-10~60℃で行われる。
【0018】
前記急速昇温段階は、冷延板を450~600℃まで昇温する。
【0019】
前記一般昇温段階は、昇温速度が1~15℃/秒であり、露点温度-50~-20℃で行われ得る。
【0020】
前記均熱段階の均熱温度は、850~1050℃でありうる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、鋼板にP、Cr、Mg元素を適量添加し、鋼板内部に内部酸化層を形成し、絶縁特性、加工性および磁性が同時に優れた無方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0022】
したがって、絶縁層の厚さを最小化することができ、これによって占積率が上昇し、無方向性電磁鋼板から製造されるモータの効率が向上する。
【0023】
究極的には環境に優しい自動車用モータ、高効率家電用モータ、スーパープレミアム級の電動機を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の概略的な側断面図である。
図2】鋼種で製造した無方向性電磁鋼板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
第1、第2および第3等の用語を、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使うが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するために使う。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及され得る。
【0026】
ここで使用する専門用語は、単に特定実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用する単数形は文面にこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形も含む。明細書で使う「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるものではない。
【0027】
ある部分が他の部分「上に」または「の上に」あると言及する場合、これは他の部分のすぐ上または上にあるか、その間に他の部分が介在し得る。一方、ある部分が他の部分の「すぐ上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
【0028】
特に定義していないが、ここに使われる技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。普通使われる辞書で定義されている用語は、関連技術文献と開示する内容に合う意味を有するものと解釈され、定義しない限り理想的や公式的過ぎる意味に解釈されない。
【0029】
また、特記しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0030】
本発明の一実施例で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部である鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0031】
以下、本発明の実施例について本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態で実現することができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0032】
本発明の一実施例では無方向性電磁鋼板内の組成、特に主な添加成分であるP、Cr、Mgの範囲を最適化し、鋼板内部に内部酸化層を形成し、絶縁特性、加工性および磁性を同時に改善する。
【0033】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.5~6.0%、Al:0.2~3.5%、Mn:0.2~4.5%、Cr:0.01~0.2%、P:0.005~0.08%、Mg:0.0005~0.05%および残部はFeおよび不可避不純物からなる。
【0034】
まず、無方向性電磁鋼板の成分限定の理由から説明する。
Si:2.5~6.0重量%
ケイ素(Si)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低下させる役割をし、過度に少なく添加される場合、高周波鉄損の改善効果が足りないこともある。反対に過度に多く添加される場合、材料の硬度が上昇して冷間圧延性が極度に悪化して生産性および打抜性が低下し得る。したがって、前述した範囲でSiを添加することができる。より具体的には、Siは2.6~4.5重量%含み得る。
【0035】
Al:0.2~3.5重量%
アルミニウム(Al)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低下させる役割をし、添加量が過度に少ないと、高周波鉄損低減に効果がなく、窒化物が微細に形成されて磁性を低下させ得る。反対に過度に多く添加されると、製鋼と連続鋳造などのすべての工程上に問題を発生させて生産性を大きく低下させ得る。したがって、前述した範囲でAlを添加することができる。より具体的には、Alを0.4~3.3重量%含み得る。
【0036】
Mn:0.2~4.5重量%
マンガン(Mn)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を改善して硫化物を形成させる役割をし、添加量が過度に少ないと、MnSが微細に析出されて磁性を低下させ得る。反対に過度に多く添加されると、磁性に不利な{111}集合組織の形成を助長して磁束密度が減少し得る。したがって、前述した範囲でMnを添加することができる。より具体的には、Mnを0.3~3.5重量%含み得る。
【0037】
比抵抗45μΩ・cm以上
比抵抗は、13.25+11.3×([Si]+[Al]+[Mn]/2)から計算された値である。この時、[Si]、[Al]、[Mn]は、それぞれSi、Al、Mnの含有量(重量%)を表す。比抵抗が高いほど鉄損を低下させる役割をする。比抵抗が過度に低いと、鉄損が劣り高効率モータとしての使用は難しい。より具体的には、比抵抗は50~80μΩ・cmでありうる。
Cr:0.01~0.2重量%
【0038】
クロム(Cr)は、耐食性元素として表面層に濃縮されて耐食性を向上させて酸化層の生成を抑制する役割をする。Crが過度に少なく含まれると、酸化が急激に進行して内部酸化層の形成を制御することが難しい。Crが過度に多く含まれると、反対に、酸化が抑制され、内部酸化層が形成されにくくなる。より具体的には、Crを0.015~0.15重量%含み得る。
【0039】
P:0.005~0.08重量%
リン(P)は、表面に濃縮され、内部酸化層の分率を制御する役割をする。Pの添加量が過度に少ないと均一な内部酸化層の形成が難しい。Pの添加量が過度に多いとSi系酸化物の融点が変動し、内部酸化層が急激に形成される得る。したがって、前述した範囲でPの含有量を制御することができる。より具体的には、Pを0.005~0.07重量%含み得る。
【0040】
Mg:0.0005~0.05重量%
マグネシウム(Mg)は、酸化性雰囲気でCr、Pの表面濃縮を図る役割をする。Mgが過度に少なく含まれる時、前述した役割を適切に行うことはできない。Mgを過度に多く含むと、Cr、Pの過度な表面濃縮で内部酸化層が厚く形成されて磁性の劣化を発生させる。したがって、前述した範囲でMgの含有量を制御することができる。より具体的には、Mgを0.001~0.03重量%含み得る。
【0041】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、下記数1を満足する。
[数1]
-2.5≦[P]/[Cr]-[Mg]×100≦6.5
(数1において、[P]、[Cr]および[Mg]はそれぞれP、CrおよびMgの含有量(重量%)を表す。)
【0042】
[P]/[Cr]-[Mg]×100値が-2.5未満では内部酸化層の形成がほとんど起きなく、反面、6.5を超える時、内部酸化層が過度に形成されて適切な範囲内で制御される必要がある。より具体的には、[P]/[Cr]-[Mg]×100値は-1.5~1.0である。
【0043】
その他不純物
前述した元素の他にも炭素(C)、硫黄(S)、窒素(N)、チタニウム(Ti)、ニオビウム(Nb)、バナジウム(V)等の不可避に混入される不純物が含まれ得る。
【0044】
Nは、Ti、Nb、Vと結合して窒化物を形成し、結晶粒成長性を低下させる役割をする。
【0045】
Cは、N、Ti、Nb、Vなどと反応して微細な炭化物を作って結晶粒成長性および磁区移動を妨げる役割をする。
Sは、硫化物を形成して結晶粒成長性を劣位させる。
【0046】
このように不純物元素をさらに含む場合、C、S、N、Ti、NbおよびVの中の1種以上をそれぞれ0.004重量%以下で含み得る。
【0047】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、内部に内部酸化層を形成し、絶縁特性、加工性および磁性が同時に優れた効果を得ることができる。図1を参照し、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の構造を説明する。図1の無方向性電磁鋼板は単に本発明を例示するためであり、本発明はこれに限定されるものではない。したがって、無方向性電磁鋼板の構造を多様に変形することができる。
【0048】
図1に示すように、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板100は素地鋼板10の内部に内部酸化層11が形成される。このように内部酸化層11が形成されることによって、絶縁層20を薄く形成しても、適切な絶縁特性を確保することができる。
【0049】
内部酸化層11は、素地鋼板10の内部に形成されるものとして、素地鋼板10の外部に形成される絶縁層20とは区分される。より具体的には、内部酸化層11は、素地鋼板10の表面から素地鋼板10の内部方向に5μm以下の範囲に形成され得る。素地鋼板10の内部方向に5μm以下の範囲は図1にgで表している。すなわち、素地鋼板10の表面から内部酸化層11の最内面までの距離が5μm以下でありうる。内部酸化層11が過度に素地鋼板10の内側に形成されると、すなわち、図1のgが過度に大きいと、目的とする絶縁特性を得ることができず、かえって磁性特性が劣化する問題が発生し得る。図1のgの最小値は内部酸化層11の厚さになり、図1のgが内部酸化層11の厚さd1と同じである場合、内部酸化層11が鋼板表面に接して形成されることを意味する。
【0050】
内部酸化層11の厚さd1は0.2~5μmでありうる。内部酸化層11の厚さd1が過度に薄いと、目的とする絶縁特性を適切に確保できなくなる。内部酸化層11の厚さd1が過度に厚いと、鋼板の磁性が劣化する問題が発生し得る。より具体的には、内部酸化層11の厚さは1~3μmでありうる。
【0051】
内部酸化層11は素地鋼板10と合金成分が同一であるが、酸素を0.05重量%以上含む点で、酸素を極微量含む素地鋼板10とは区別される。前述したように、素地鋼板10はCr、Mgを含むので、内部酸化層11での酸素およびCr、Mgが反応し、CrまたはMgOの中の1種以上の酸化物を形成することができる。より具体的には、内部酸化層11は酸素を0.1重量%以上含み得る。
【0052】
図1では内部酸化層11と素地鋼板10の界面が平たく表現されているが、実質的には図2のように非常に粗く形成される。これは製造過程で素地鋼板10の内部に酸素が急激に流入し、素地鉄が酸化することにより生成されるからであり、粗く形成される方が絶縁において有利である。より具体的には、内部酸化層11と素地鋼板10の界面の平均粗度は1~5μmでありうる。この時界面は内部酸化層11の上面および下面をすべて意味する。このように内部酸化層11の表面に粗度が存在するので、本発明の一実施例で内部酸化層11の厚さd1は、測定位置により変わり、内部酸化層11の厚さd1とは鋼板全体に対する平均厚さを意味する。
【0053】
図1に示すように、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板100は、素地鋼板10の表面に接し、素地鋼板10の内部方向に形成された表面酸化層12をさらに含み得る。表面酸化層12は素地鋼板10と合金成分が同一であるが、酸素を0.05重量%以上含む点で、素地鋼板10とは区別される。また、表面酸化層12は内部酸化層11より素地鋼板10の表面の側に形成される点で内部酸化層11とも区別される。
【0054】
表面酸化層12は、素地鋼板10の表面に接して非常に薄く形成され得、内部酸化層11の厚さd1が表面酸化層12の厚さd2より厚い。内部酸化層11の厚さd1が厚く形成される場合にのみ適切な絶縁特性および磁性を確保することができる。より具体的には、内部酸化層11が表面酸化層12厚さd2の2倍以上厚くてもよい。
【0055】
図1に示すように、内部酸化層11と表面酸化層12との間に間隙が形成され得る。より具体的には、その間隙(g-d1-d2)は、0.5~3μmでありうる。内部酸化層11と表面酸化層12との間に適切な間隙が形成される場合にのみ、絶縁特性および磁性をさらに確保することができる。間隙が形成された場合、図1に示すように、素地鋼板10、内部酸化層11、素地鋼板10、表面酸化層12順に層が形成される。このような間隙は、酸化性が高いCr、P、Mgが表面付近の特定部位に濃縮されるので形成される。
【0056】
図1に示すように、素地鋼板10上には絶縁層20がさらに形成され得る。絶縁層20は素地鋼板10表面上、すなわち素地鋼板10の外部に形成されるものであって、前述した内部酸化層11および表面酸化層12とは区別される。本発明の一実施例で内部酸化層11が適切に形成されたので、絶縁層20の厚さを薄く形成しても十分な絶縁性を確保することができる。絶縁層20の厚さを薄く形成して占積率が増加し、打ち抜き時の金型損傷が低減される。具体的には、絶縁層20の厚さは0.7~1.0μmでありうる。絶縁層20については無方向性電磁鋼板の技術分野で広く知られているので、詳細な説明は省略する。
【0057】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、前述したように、絶縁特性および磁性を同時に確保することができる。絶縁特性は、絶縁層20厚さ1μmを基準として5.0Ωcm2以上でありうる。具体的には6.0Ωcm2以上でありうる。また、5000A/mの磁場で誘導される磁束密度B50は1.64T以上でありうる。0.25mm厚さ基準に、400Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損W10/400は15.0W/kg以下でありうる。
【0058】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~6.0%、Al:0.2~3.5%、Mn:0.2~4.5%、Cr:0.01~0.2%、P:0.005~0.08%、Mg:0.0005~0.05%および残部はFeおよび不可避不純物を含み、下記数1を満足するスラブを製造する段階、スラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階、を含む。
【0059】
以下では各段階別に具体的に説明する。
まず、スラブを製造する。スラブ内の各組成の添加比率を限定した理由は、前述した無方向性電磁鋼板の組成の限定理由と同様であるため、重複する説明は省略する。後述する熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍などの製造過程でスラブの組成は実質的に変動しないので、スラブの組成と無方向性電磁鋼板の組成が実質的に同一である。
【0060】
次にスラブを加熱する。具体的にはスラブを加熱炉に裝入下で1100~1250℃で加熱する。1250℃を超える温度で加熱時析出物が再溶解されて熱間圧延以後に微細に析出され得る。
【0061】
加熱したスラブは2~2.3mmで熱間圧延して熱延板に製造される。熱延板を製造する段階で仕上げ圧延温度は800~1000℃でありうる。
【0062】
熱延板を製造する段階以後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含み得る。この時の熱延板焼鈍温度は850~1150℃でありうる。熱延板焼鈍温度が850℃未満の場合、組織が成長しないか、または微細に成長して磁束密度の上昇効果が少なく、焼鈍温度が1150℃を超えると磁気特性がかえって低下し、板形状の変形により圧延作業性が悪くなる。より具体的には、温度範囲は950~1125℃でありうる。さらに具体的には、熱延板の焼鈍温度は900~1100℃である。熱延板焼鈍は必要に応じて磁性に有利な方位を増加させるために行われるため、省略することも可能である。
【0063】
次に、熱延板を酸洗して所定の板厚みになるように冷間圧延する。熱延板厚さに応じて異なるように適用できるが、70~95%の圧下率を適用して最終厚さが0.2~0.65mmになるように冷間圧延することができる。
【0064】
最終冷間圧延された冷延板は最終焼鈍を実施する。この時、適切な内部酸化層の形成のために、最終焼鈍する段階は急速昇温段階、一般昇温段階および均熱段階を含む。
【0065】
急速昇温段階は、冷延板を15℃/秒以上の高い加熱速度で昇温する段階である。昇温速度が充分でないと、内部酸化層が適切に形成されない。
急速昇温段階は、露点温度-10~60℃で行われる。このような酸化性雰囲気により内部酸化層が適切に形成され得る。露点温度が過度に低いと、内部酸化層が形成され難い。反対に、露点温度が過度に高いと、内部酸化層が過度に厚く形成され、磁性が劣り、打ち抜き時の粉塵などが発生して生産性が劣る。
【0066】
急速昇温段階は、冷延板を450~600℃まで昇温する段階を意味する。
【0067】
次に、一般昇温段階は急速昇温された冷延板を均熱温度まで昇温させる段階である。具体的には、一般昇温段階の開始温度は450~600℃であり、終了温度は850~1050℃である。前述した急速昇温段階で内部酸化層が適切に形成されたので、一般昇温段階では昇温速度を高めたり、雰囲気を酸化性雰囲気に制御する必要がない。具体的には、一般昇温段階は昇温速度が1~15℃/秒であり、露点温度-50~-20℃で行われ得る。
【0068】
次に、均熱段階は850~1050℃の均熱温度で30秒~3分間焼鈍することができる。均熱温度が過度に高いと結晶粒の急激な成長が発生して磁束密度と高周波鉄損が低下し得る。より具体的には、900~1000℃の均熱温度で最終焼鈍することができる。最終焼鈍過程で前段階である冷間圧延段階で形成された加工組織がすべて(すなわち、99%以上)再結晶され得る。
【0069】
その後、絶縁層を形成する段階をさらに含み得る。厚さを薄く形成することを除いては一般的な方法を用いて絶縁層を形成することができる。絶縁層の形成方法については無方向性電磁鋼板の技術分野で広く知られているので、詳細な説明は省略する。
【0070】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記実施例は本発明の好ましい一実施例であり、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0071】
実施例
下記表1のように組成されるスラブを製造した。表1に記載された成分以外のC、S、N、Tiなどはいずれも0.003重量%に制御した。スラブを1150℃で加熱し、850℃で熱間仕上げ圧延して板厚み2.0mmの熱延板を製作した。熱間圧延された熱延板は1100℃で4分間焼鈍した後酸洗した。その後、冷間圧延して板厚みを0.25mmにした後最終焼鈍を実施した。500℃までの急速昇温段階の昇温速度および露点条件を下記表2に整理した。その後、1000℃まで昇温し、1000℃で45秒間維持した。その後、1μm厚さの絶縁層を形成した。
【0072】
絶縁特性はフランクリンテスターで測定し、磁性はSingle Sheet testerを用いて圧延方向および垂直方向の平均値で決定して下記表2に整理した。
【表1】
【表2】
【0073】
表1および表2に示すように、実施例のうち鋼種および急速昇温時の昇温速度および露点条件を満足する実施例は、適切な内部酸化層が形成され、絶縁抵抗特性および磁性がいずれも優れることを確認することができる。
【0074】
反面、P、Cr、Mgを適量含むことが出来なかった鋼種2、7、11、12、13は、磁性特性が劣悪であることを確認することができる。特に、鋼種11、13は、急速昇温時の昇温速度および露点条件を満足しても、内部酸化層が適切に形成されることができず、絶縁抵抗の特性も劣悪であることを確認することができた。特に、鋼種13はP、Mgを含まないために、Crが少なく含まれたにもかかわらず、内部酸化層が適切に形成されないことを確認することができる。
【0075】
一方、鋼種4、6、9はP、Cr、Mgを適量含むが、急速昇温時の昇温速度および露点条件を満足できず、適切な内部酸化層が形成されなかった。内部酸化層が過度に薄く形成された鋼種4、6は、絶縁抵抗特性が特に劣悪であり、内部酸化層が過度に厚く形成された鋼種9は磁性特性が非常に劣悪であった。
【0076】
図2には鋼種3で製造した無方向性電磁鋼板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真を示した。図2に示すように、内部酸化層が適切に形成されることを確認することができる。
【0077】
本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、異なる多様な形態で製造することができ、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施できることを理解することができる。したがって、以上記述した実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。
【符号の説明】
【0078】
3:鋼種
10:素地鋼板
11:内部酸化層
12:表面酸化層
20:絶縁層
100:無方向性電磁鋼板

図1
図2