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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220915BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20220915BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20220915BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 A
H01F1/147 175
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020536265
(86)(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 KR2018010568
(87)【国際公開番号】W WO2019132172
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2017-0180073
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ‐フン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,グン ハ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ソ ヒョン
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-125495(JP,A)
【文献】特表2018-507958(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027565(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/022360(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0362677(US,A1)
【文献】国際公開第2017/099534(WO,A1)
【文献】特許第2581335(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%でSi:2.0~3.5%、Al:0.3~2.5%、Mn:0.3~3.5%、Sn:0.0030~0.2%、Sb:0.0030~0.15%、P:0.0040~0.18%、およびGaおよびGeのうちの1種以上をそれぞれ単独またはその合計量で0.0005~0.03%および残部はFeおよび避けられない不純物からなり
下記式1~式3を満足し、
鋼板厚さの1/2t~1/4t領域をXRD試験する時、集合組織の強度比がP200/(P211+P310)≧0.5を満足することを特徴とする無方向性電磁鋼板。
(但し、1/2tとは全体鋼板厚さにおいて1/2厚さを意味し、1/4tとは全体鋼板厚さにおいて1/4厚さを意味し、P200はXRD試験から出た200面15度以内で得られた回折ピークの強度を意味し、P211は211面15度以内で得られた回折ピークの強度を意味し、P310は310面15度以内で得られた回折ピークの強度を意味する。)
[式1] 0.05≦([Sn]+[Sb])/[P]≦25
[式2] 0.2≦([Si]+[Al]+0.5×[Mn])/(([Ga]+[Ge])×1000)≦5.27
[式3] 3.3≦([Si]+[Al]+0.5×[Mn])≦5.5
式1~式3において、[Si]、[Al]、[Mn]、[Ga]、[Ge]、[Sn]、[Sb]および[P]はそれぞれ、Si、Al、Mn、Ga、Ge、Sn、SbおよびPの含量(重量%)を示す。)
【請求項2】
重量%で、N:0.0040%以下(0%を除外する)、C:0.0040%以下(0%を除外する)、S:0.0040%以下(0%を除外する)、Ti:0.0030%以下(0%を除外する)、Nb:0.0030%以下(0%を除外する)およびV:0.0040%以下(0%を除外する)のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
Ga:0.0005~0.02重量%およびGe:0.0005~0.02重量%含むことを特徴とする請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
平均結晶粒径が50~95μmであることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
重量%でSi:2.0~3.5%、Al:0.3~2.5%、Mn:0.3~3.5%、Sn:0.0030~0.2%、Sb:0.0030~0.15%、P:0.0040~0.18%およびGaおよびGeのうちの1種以上をそれぞれ単独またはその合計量で0.0005~0.03%および残部はFeおよび避けられない不純物からなり、下記式1~式3を満足するスラブを製造する段階、
前記スラブを1100~1250℃で加熱する段階、
前記スラブを熱間圧延して2~2.3mmの熱延板を製造する段階、
前記熱延板を1050~1150℃の温度で熱延板焼鈍する段階、
前記熱延板焼鈍した熱延板を冷間圧延して0.2~0.65mmの冷延板を製造する段階および
前記冷延板を750~1050℃で最終焼鈍する段階を含
前記最終焼鈍した鋼板の鋼板厚さの1/2t~1/4t領域をXRD試験する時、集合組織の強度比がP200/(P211+P310)≧0.5を満足することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
(ここで、1/2tとは全体鋼板厚さにおいて1/2厚さを意味し、1/4tとは全体鋼板厚さにおいて1/4厚さを意味し、P200はXRD試験から出た200面15度以内で得られた回折ピークの強度を意味し、P211は211面15度以内で得られた回折ピークの強度を意味し、P311は311面15度以内で得られた回折ピークの強度を意味する。)
[式1] 0.05≦([Sn]+[Sb])/[P]≦25
[式2] 0.2≦([Si]+[Al]+0.5×[Mn])/(([Ga]+[Ge])×1000)≦5.27
[式3] 3.3≦([Si]+[Al]+0.5×[Mn])≦5.5
式1~式3において、[Si]、[Al]、[Mn]、[Ga]、[Ge]、[Sn]、[Sb]お よび[P]はそれぞれ、Si、Al、Mn、Ga、Ge、Sn、SbおよびPの含量(重量%)を示す。)
【請求項6】
前記スラブは、重量%で、N:0.0040%以下(0%を除外する)、C:0.0040%以下(0%を除外する)、S:0.0040%以下(0%を除外する)、Ti:0.0030%以下(0%を除外する)、Nb:0.0030%以下(0%を除外する)およびV:0.0040%以下(0%を除外する)のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記スラブは、Ga:0.0005~0.02重量%およびGe:0.0005~0.02重量%含むことを特徴とする請求項またはに記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、鋼板に含まれる偏析元素の含有量を相互制御することによって、透磁率が高く高周波鉄損が低く磁束密度が高い無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、微細埃発生低減および温室ガス低減のために環境にやさしい自動車に対する認識が増えるにつれて自動車駆動モータ用として使用される無方向性電磁鋼板に対する需要が急激に増加している。エンジンを使用する既存の内燃機関自動車とは異なり、環境にやさしい自動車(ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車、燃料電池自動車)は駆動モータがエンジンの代わりをするようになり、同時に駆動モータの外にも多様なモータが追加的に必要となる。
環境にやさしい自動車の走行距離は、駆動モータを始めとする多様なモータの効率に密接に関連しており、これらモータの効率は電磁鋼板の磁性と直接関連する。したがって、走行距離を増やすためには磁性に優れた無方向性電磁鋼板を使用することが必須である。
【0003】
自動車用モータのうちの駆動モータは、一般モータとは異なり、低速から高速に達するすべての領域で優れた特性を示さなければならないので、低速や加速時には大きなトルクを出さなければならなく、定速および高速走行時には損失が少なくなければならないなど各領域で適した特性が必要である。
このような特性を出すために、モータ鉄芯材料である無方向性電磁鋼板では、低速回転時には大きな磁束密度特性を有しなければならなく、高速回転時には高周波鉄損が少なくなければならなく、同時に高速回転時に発生する遠心力を耐えなければならないため高い機械的強度が必要である。
【0004】
電磁鋼板において、高周波低鉄損および高磁束密度特性を得るためには、低磁場で透磁率が高く、保磁力が低くなければならない。このためには、鋼板内の集合組織制御が必須である。比抵抗元素および不純物元素の変化による磁性変化に対する研究は多く行われているが、Ga、Geのような微量元素およびSn、Sb、Pなどの偏析元素同時添加に対する研究は行われていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。具体的には、Ga、Ge含量およびSn、Sb、Pなどの偏析元素の含量を同時に調節することによって、透磁率が高く高周波鉄損が低く磁束密度が高い無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、重量%でSi:2.0~3.5%、Al:0.3~2.5%、Mn:0.3~3.5%、Sn:0.0030~0.2%、Sb:0.0030~0.15%、P:0.0040~0.18%、およびGaおよびGeのうちの1種以上をそれぞれ単独またはその合計量で0.0005~0.03%および残部はFeおよび避けられない不純物からなり、下記式1を満足することを特徴とする。
[式1]
0.05≦([Sn]+[Sb])/[P]≦25
(但し、[Sn]、[Sb]および[P]はそれぞれ、Sn、SbおよびPの含量(重量%)を示す。)
【0007】
前記無方向性電磁鋼板は、N:0.0040%以下(0%を除外する)、C:0.0040%以下(0%を除外する)、S:0.0040%以下(0%を除外する)、Ti:0.0030%以下(0%を除外する)、Nb:0.0030%以下(0%を除外する)およびV:0.0040%以下(0%を除外する)のうちの1種以上をさらに含むことができる。
前記無方向性電磁鋼板は、下記式2を満足することが好ましい。
[式2]
0.2≦([Si]+[Al]+0.5×[Mn])/(([Ga]+[Ge])×1000)≦5.27
(但し、[Si]、[Al]、[Mn]、[Ga]および[Ge]はそれぞれ、Si、Al、Mn、GaおよびGeの含量(重量%)を示す。)
【0008】
前記無方向性電磁鋼板は、鋼板厚さの1/2t~1/4t領域をXRD試験する時、集合組織の強度比がP200/(P211+P310)≧0.5を満足することができる。この時、1/2tとは全体鋼板厚さ(t)において1/2の厚さを意味し、1/4tとは全体鋼板厚さにおいて1/4の厚さを意味し、P200はXRD試験から出た200面15度以内で得られた回折ピークの強度を意味し、P211は211面15度以内で得られた回折ピークの強度を意味し、P311は311面15度以内で得られた回折強度のピークを意味する。
前記無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒径が50~95μmであることがよい。
【0009】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%でSi:2.0~3.5%、Al:0.3~2.5%、Mn:0.3~3.5%、Sn:0.0030~0.2%、Sb:0.0030~0.15%、P:0.0040~0.18%およびGaおよびGeのうちの1種以上をそれぞれ単独またはその合計量で0.0005~0.03%および残部はFeおよび避けられない不純物からなり、下記式1を満足するスラブを製造する段階、スラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階を含むことを特徴とする。
[式1]
0.05≦([Sn]+[Sb])/[P]≦25
(但し、[Sn]、[Sb]および[P]はそれぞれ、Sn、SbおよびPの含量(重量%)を示す。)
【0010】
前記スラブは、N:0.0040%以下(0%を除外する)、C:0.0040%以下(0%を除外する)、S:0.0040%以下(0%を除外する)、Ti:0.0030%以下(0%を除外する)、Nb:0.0030%以下(0%を除外する)、およびV:0.0040%以下(0%を除外する)のうちの1種以上をさらに含むことができる。
前記スラブは、下記式2を満足することが好ましい。
[式2]
0.2≦([Si]+[Al]+0.5×[Mn])/(([Ga]+[Ge])×1000)≦5.27
(但し、[Si]、[Al]、[Mn]、[Ga]および[Ge]はそれぞれ、Si、Al、Mn、GaおよびGeの含量(重量%)を示す。)
前記スラブは、Ga:0.0005~0.02重量%およびGe:0.0005~0.02重量%含むことがよい。
【0011】
前記スラブは、下記式3を満足することが好ましい。
[式3]
3.3≦([Si]+[Al]+0.5×[Mn])≦5.5
(但し、[Si]、[Al]および[Mn]はそれぞれ、Si、AlおよびMnの含量(重量%)を示す。)
前記熱延板を製造する段階以後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含むことができる。
前記熱延板焼鈍する段階で、前記熱延板を1050~1150℃の温度で焼鈍することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、本発明の一実施形態によって製造された無方向性電磁鋼板は、Sn、Sb、Pを添加して集合組織を改善し、同時に新たな微量添加元素であるGa、Geを添加することによって、集合組織をさらに改善することができる。
結果的に、生産性だけでなく透磁率が高く高周波鉄損が低く磁束密度が高い無方向性電磁鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で、第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及できる。
【0014】
ここで使用される専門用語は、単に特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は、特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
ある部分が他の部分“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあるか、その間に他の部分が伴われてもよい。対照的に、ある部分が他の部分の“真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
【0015】
異なって定義してはいないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一な意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有するものと追加解釈され、定義されない限り理想的であるか非常に公式的な意味に解釈されない。
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態に実現でき、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0016】
本発明の一実施形態では、無方向性電磁鋼板内の組成、添加成分であるSi、Al、Mnの範囲を最適化するだけでなく、微量元素であるGa、Geの添加量を限定し、同時にSn、Sb、Pなどの偏析元素を調節して、集合組織および磁性を顕著に改善する。
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、重量%でSi:2.0~3.5%、Al:0.3~2.5%、Mn:0.3~3.5%、Sn:0.0030~0.2%、Sb:0.0030~0.15%、P:0.0040~0.18%、およびGaおよびGeのうちの1種以上をそれぞれ単独またはその合計量で0.0005~0.03%および残部はFeおよび避けられない不純物を含む。
【0017】
まず、無方向性電磁鋼板の成分限定の理由から説明する。
Si:2.0~3.5重量%
ケイ素(Si)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低める役割を果たし、過度に少なく添加される場合、高周波鉄損改善効果が不足することがある。逆に、過度に多く添加される場合、材料の硬度が上昇して冷間圧延性が極度に悪化して生産性および打抜き性が低下する虞がある。したがって、上記の範囲でSiを添加することが好ましい。さらに具体的に、Siは2.3~3.3重量%含むことがより好ましい。
【0018】
Al:0.3~2.5重量%
アルミニウム(Al)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低める役割を果たし、過度に少なく添加されれば、高周波鉄損低減に効果がなく窒化物が微細に形成されて磁性を低下させる虞がある。逆に、過度に多く添加されれば、製鋼と連続鋳造などのすべての工程上に問題を発生させて生産性を大きく低下させる虞がある。したがって、上記の範囲でAlを添加することが好ましい。さらに具体的に、Alを0.5~1.5重量%含むことがより好ましい。
【0019】
Mn:0.3~3.5重量%
マンガン(Mn)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を改善し硫化物を形成させる役割を果たし、過度に少なく添加されれば、MnSが微細に析出されて磁性を低下させることがある。逆に、過度に多く添加されれば、磁性に不利な[111]集合組織の形成を助長して磁束密度が減少する虞がある。したがって、前述上記の範囲でMnを添加することが好ましい。さらに具体的に、Mnを1~3.3重量%含むことがより好ましい。
【0020】
Sn:0.0030~0.2重量%およびSb:0.0030~0.15重量%
錫(Sn)、アンチモン(Sb)は、材料の集合組織を改善し表面酸化を抑制する役割を果たすので、磁性を向上させるために添加することができる。SnおよびSbの添加量がそれぞれ過度に少なければ、その効果が微小であることがある。SnまたはSbが過度に多く添加されれば、結晶粒界偏析が激しくなって集合組織の直接度が減少し、硬度が上昇して冷延板破断を起こす虞がある。したがって、Sn、Sbそれぞれ0.2重量%以下、0.1重量%以下で添加することが好ましい。SnおよびSbの含量が0.2重量%以下である場合、冷間圧延が容易に行われ得る。さらに具体的に、Snを0.005~0.15重量%およびSbを0.005~0.13重量%含むことがより好ましい。
【0021】
P:0.0040~0.18重量%
リン(P)は、材料の比抵抗を高める役割を果たすだけでなく、粒界に偏析して集合組織を改善して磁性を向上させる役割を果たす。Pの添加量が過度に少なければ、偏析量が過度に少なくて集合組織改善効果がないことがある。Pの添加量が過度に多ければ、磁性に不利な集合組織の形成を招いて集合組織改善の効果がなく、粒界に過度に偏析して圧延性が低下し生産が難しくなる虞がある。さらに具体的に、Pを0.007~0.17重量%含むことが好ましい。
【0022】
GaおよびGe:0.0005~0.03重量%
ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)は、鋼板の表面および結晶粒界に偏析して焼鈍時表面酸化を抑制し集合組織を改善する役割を果たす。本発明の一実施形態で、GaおよびGeのうちの1種以上が含まれてもよい。即ち、Gaのみを単独で含むか、Geのみを単独で含むか、GaおよびGeを同時に含むことができる。Geのみを単独で含む場合、Geが0.0005~0.03重量%含まれてもよい。Gaのみを単独で含む場合、Gaが0.0005~0.03重量%含まれてもよい。GaおよびGeを同時に含む場合、GaおよびGeの合計量が0.0005~0.03重量%になるように含まれてもよい。GaおよびGeのうちの1種以上が過度に少なく添加されれば、その効果がなく、過度に多く添加されれば、結晶粒界に偏析されて材料の靭性を低下させて磁性改善と比較して生産性が低下するので好ましくない。具体的に、GaおよびGeを同時に含み、Gaを0.0005~0.02重量%およびGeを0.0005~0.02重量%含むことができる。さらに具体的に、Gaを0.0005~0.01重量%およびGeを0.0005~0.01重量%含むことが好ましい。
【0023】
N:0.0040重量%以下
窒素(N)は、母材内部に微細で長いAlN析出物を形成するだけでなく、その他の不純物と結合して微細な窒化物を形成し結晶粒成長を抑制して鉄損を悪化させるので、0.0040重量%以下、より具体的には0.0030重量%以下に制限することがよい。
【0024】
C:0.0040重量%以下
炭素(C)は、磁気時効を起こしその他の不純物元素と結合して炭化物を生成し磁気的特性を低下させるので、0.0040重量%以下、より具体的には、0.0030重量%以下に制限することがよい。
【0025】
S:0.0040重量%以下
硫黄(S)は、Mnと反応してMnSなどの硫化物を形成し結晶粒成長性を低下させ磁区移動を抑制する役割を果たすので、0.0040重量%以下に制御することが好ましい。より具体的には、0.0030重量%以下に制限することがより好ましい。
【0026】
Ti:0.0030重量%以下
チタン(Ti)は、炭化物または窒化物を形成して結晶粒成長性および磁区移動を抑制する役割を果たすので、0.0030重量%以下、より具体的には、0.0020重量%以下に制限することがよい。
【0027】
Nb:0.0030重量%以下
ニオブ(Nb)は、炭化物または窒化物を形成して結晶粒成長性および磁区移動を抑制する役割を果たすので、0.0030重量%以下、より具体的には、0.0020重量%以下に制限することが好ましい。
【0028】
V:0.0030重量%以下
バナジウム(V)は、炭化物または窒化物を形成して結晶粒成長性および磁区移動を抑制する役割を果たすので、0.0030重量%以下、より具体的には、0.0020重量%以下に制限することが好ましい。
【0029】
その他の不純物
前述の元素以外にもMo、Mg、Cuなどのやむをえず混入される不純物が含まれてもよい。これら元素は、微量であるが、鋼内介在物形成などによる磁性悪化を招くことがあるので、Mo、Mg:それぞれ0.005重量%以下、Cu:0.025重量%以下に管理されなければならない。
【0030】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、下記式1を満足する。
[式1]
0.05≦([Sn]+[Sb])/[P]≦25
(但し、[Sn]、[Sb]および[P]はそれぞれ、Sn、SbおよびPの含量(重量%)を示す。)
式1の値が0.05未満である場合、Pの偏析が過度で、磁性に不利な<111>方向が鋼板圧延面法線方向(ND方向)に15度以内で平行に置かれている集合組織(以下、<111>//ND集合組織ともいう)の形成を助長して磁性が低下することがある。式1の値が25を超過する場合には結晶粒成長性が低下して集合組織改善効果がなく、焼鈍温度が過度に高めて焼鈍生産性も低下することがある。
【0031】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、下記式2を満足することができる。
[式2]
0.2≦([Si]+[Al]+0.5×[Mn])/(([Ga]+[Ge])×1000)≦5.27
(但し、[Si]、[Al]、[Mn]、[Ga]および[Ge]はそれぞれ、Si、Al、Mn、GaおよびGeの含量(重量%)を示す。)
式2の値が0.2未満である場合、GaおよびGeの添加効果が微小であって、磁性が低下することがある。式2の値が5.27を超過するようになれば、GaおよびGeの多量添加によって集合組織が低下し、飽和磁束密度が減少して高周波磁性改善効果がなくなることがある。
【0032】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、下記式3を満足することができる。
[式3]
3.3≦([Si]+[Al]+0.5×[Mn])≦5.5
(但し、[Si]、[Al]および[Mn]はそれぞれ、Si、AlおよびMnの含量(重量%)を示す。)
前述の式3の値を満足する時、冷間圧延性を確保することができる。
本発明の一実施形態では、Sn、Sb、Pなどの偏析元素およびGaおよびGeを特定量添加することによって集合組織が改善される。より具体的に、鋼板厚さの1/2t~1/4t領域をXRD試験する時、集合組織の強度比がP200/(P211+P310)≧0.5を満足することができる。この時、1/2tとは全体鋼板厚さにおいて1/2厚さを意味し、1/4tとは全体鋼板厚さにおいて1/4厚さを意味し、P200はXRD試験から出た200面15度以内で得られた回折ピークの強度を意味し、P211は211面15度以内で得られた回折ピークの強度を意味し、P311は311面15度以内で得られた回折強度のピークを意味する。<200>方向が鋼板圧延面法線方向に15度以内で平行に置かれている集合組織(即ち、<200>//ND)は磁化容易軸が含まれていて、その比率が多いほど磁性に役立つ。また、<211>方向が鋼板圧延面法線方向に15度以内で平行に置かれている集合組織(即ち、<211>//ND)および<310>面が鋼板圧延面法線方向に15度以内で平行に置かれている集合組織(即ち、<310>//ND)は磁化困難軸に近くて、その比率が少ないほど磁性に役立つ。本発明の一実施形態では改善された集合組織を通じて低磁場領域で磁性改善効果を得たし、これは高周波鉄損改善に核心的な役割を果たすと分析される。
【0033】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒径が50~95μmであってもよい。前述の範囲で高周波鉄損が優れる。
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、透磁率および保磁力が向上して高速回転に適する。結果的に、環境にやさしい自動車のモータに適用する時、走行距離向上に寄与することができる。具体的に、本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、100A/mでの透磁率が8000以上であり、B=2.0Tでの保磁力が40A/m以下であってもよい。
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、比抵抗が55~75μΩ・cmであってもよい。比抵抗が過度に高ければ、磁束密度が低下してモータに適しなくなる。
【0034】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%でSi:2.0~3.5%、Al:0.3~2.5%、Mn:0.3~3.5%、Sn:0.0030~0.2%、Sb:0.0030~0.15%、P:0.0040~0.18%およびGaおよびGeのうちの1種以上をそれぞれ単独またはその合計量で0.0005~0.03%および残部はFeおよび避けられない不純物を含み、下記式1および式2を満足するスラブを製造する段階、スラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階を含む。
[式1]
0.05≦(Sn+Sb)/P≦25
[式2]
0.2≦([Si]+[Al]+0.5×[Mn])/(([Ga]+[Ge])×1000)≦5.27
(但し、[Si]、[Al]、[Mn]、[Sn]、[Sb]、[P]、[Ga]および[Ge]はそれぞれ、Si、Al、Mn、Sn、Sb、P、GaおよびGeの含量(重量%)を示す。)

【0035】
まず、スラブを製造する。スラブ内の各組成の添加比率を限定した理由は、前述の無方向性電磁鋼板の組成限定理由と同一なので、繰り返される説明を省略する。後述の熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍などの製造過程でスラブの組成は実質的に変動しないので、スラブの組成と無方向性電磁鋼板の組成が実質的に同一である。
スラブは、溶鋼にSi合金鉄、Al合金鉄、およびMn合金鉄を添加する段階、溶鋼にGaおよびGeのうちの1種以上を添加する段階、およびSn、SbおよびPを添加して連続鋳造して製造することができる。Si合金鉄、Al合金鉄、Mn合金鉄、Ga、Ge、Sn、Sb、Pなどは、前述のスラブの組成範囲に該当するように調節して投入することができる。
【0036】
その次に、スラブを加熱する。具体的に、スラブを加熱炉に装入して1100~1250℃で加熱する。1250℃を超過する温度で加熱時、析出物が再溶解されて熱間圧延以後微細に析出されることがある。
加熱されたスラブは、2~2.3mmで熱間圧延して熱延板に製造される。熱延板を製造する段階で、熱間仕上げ圧延温度は800~1000℃であってもよい。
熱延板を製造する段階以後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含んでもよい。この時、熱延板焼鈍温度は1050~1150℃に調節して、磁性に有利な結晶方位を増加させることができる。熱延板焼鈍温度が1050℃未満であれば、組織は十分に成長するが、磁性に不利な(211)面の強度が磁性に有利な(200)面の強度より強くて磁束密度の上昇効果が少なく、焼鈍温度が1,150℃を超過すれば、(211)面の強度が再び増加して磁気特性が低下し、また、板状の変形によって圧延作業性が悪くなる虞があるので、その温度範囲は1050~1150℃に制限する。この温度範囲内では、(211)の面強度より(200)の面強度がさらに強くて集合組織が改善される。熱延板焼鈍は必要によって磁性に有利な方位を増加させるために行われることであり、省略も可能である。
【0037】
その次に、熱延板を酸洗し、所定の板厚になるように冷間圧延する。熱延板厚さによって異なって適用できるが、70~95%の圧下率を適用して最終厚さが0.2~0.65mmになるように冷間圧延することができる。
最終冷間圧延された冷延板は、平均結晶粒径が50~95μmになるように最終焼鈍を実施する。最終焼鈍温度は、750~1050℃であってもよい。最終焼鈍温度が過度に低ければ再結晶が十分に発生せず、最終焼鈍温度が過度に高ければ結晶粒の急激な成長が発生して磁束密度と高周波鉄損が低下する虞がある。さらに具体的に、900~1000℃の温度で最終焼鈍することができる。最終焼鈍過程で前段階の冷間圧延段階で形成された加工組織が全て(即ち、99%以上)再結晶できる。
【0038】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明が下記の実施例に限定されるのではない。
【実施例
【0039】
下記表1のように組成されるスラブを製造した。表1に記載された成分以外のC、S、N、Ti、Nb、Vなどは全て0.003%以下に制御した。スラブを1150℃で加熱し、850℃で熱間仕上げ圧延して板厚2.0mmの熱延板を製作した。熱間圧延された熱延板は1100℃で4分間焼鈍した後に酸洗いした。その後、冷間圧延して板厚を0.25mmにした後、1000℃温度で38秒間最終焼鈍を行った。磁性はSingle Sheet testerを用いて圧延方向および垂直方向の平均値で決定して下記表2に示した。透磁率は100A/mでの透磁率であり、保磁力はB=2.0Tでの保磁力である。集合組織は1/2tまで鋼板を切削し、XRD(X線回折分析)試験方法を用いてそれぞれの面強度を求めた。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
表1および表2に示されているように、実施例の鋼種の場合、集合組織が改善されて透磁率が大きく保磁力が小さい。反面、Ga、Ge、Sn、Sb、Pの添加量が本発明の範囲を逸脱する比較例の鋼種の場合、集合組織が改善されずに透磁率および保磁力が低下した。
【0043】
本発明は上記の実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造でき、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せず他の具体的な形態に実施できるということが理解できるはずである。したがって、以上で記述した実施例はすべての面で例示的なものであり限定的ではないと理解しなければならない。