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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】運転席用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/215 20110101AFI20220915BHJP
   B60R 21/203 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
B60R21/215
B60R21/203
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021501864
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004892
(87)【国際公開番号】W WO2020170864
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2019027905
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】森田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】安部 和宏
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006306(JP,A)
【文献】特開2000-038107(JP,A)
【文献】特開2012-071687(JP,A)
【文献】特開2006-076381(JP,A)
【文献】米国特許第05730460(US,A)
【文献】特開2008-105521(JP,A)
【文献】特開2008-173994(JP,A)
【文献】特開平06-312641(JP,A)
【文献】特開2007-076619(JP,A)
【文献】特許第3991739(JP,B2)
【文献】特開2008-094341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
B62D 1/00- 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリングホイールと、インフレータおよびエアバッグクッションを含み該ステアリングホイールに収容されるエアバッグモジュールとを備えた運転席用エアバッグ装置であって、
前記ステアリングホイールは、
中央のハブと、
乗員が把持するリムとを有し、
前記リムは、前記ハブの上方の範囲が一部省略された形状、または該ハブの上方に位置する部位が該ハブの左右に位置する部位に比べて該ハブ側に近づいた形状になっていて、
前記ハブは、
前記エアバッグモジュールを収容するモジュール収容部と、
前記モジュール収容部を覆い前記エアバッグクッションの膨張圧で開裂可能なカバーとを有し、
前記カバーは、前記エアバッグクッションの膨張圧を受けると開く複数のカバードアを含み、
前記複数のカバードアは少なくとも2枚あり、該2枚のカバードアは前記カバーを左右に二分していて、
前記カバーが開裂した状態において、前記複数のカバードアは前記ハブの中央から見て左右斜め上方向それぞれに向かって開いていて該ハブの下方に存在するリムに接触せず、該ハブの中央から見て直上方向には、該複数のカバードアの無い空間部が形成されていることを特徴とする運転席用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記カバーは、
前記エアバッグクッションの膨張圧によって開裂可能で前記複数のカバードアの形状を規定する溝部と、
前記ハブの中央から左右斜め上方向に離れたそれぞれの箇所に形成される前記溝部の端点同士の間の開裂しないヒンジと、を有することを特徴とする請求項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記ヒンジは、前記ハブの中央を原点として当該中央を通る水平線に対して45°±15°の角度の領域に設けられていることを特徴とする請求項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記溝部のうち前記ハブの中央の下側の範囲は、該ハブの中央の上側の範囲よりも深く彫られていることを特徴とする請求項2または3に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項5】
前記溝部のうち前記ハブの中央の下側の範囲は、該ハブの中央の上側の範囲よりも薄肉であることを特徴とする請求項2または3に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項6】
前記カバーは、上側が下側に比べて車両前方に傾いた形状になっていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項7】
前記インフレータの一部は、前記エアバッグクッション内に挿入されていて、該一部には所定のガス排出口が形成されていて、
当該運転席用エアバッグ装置はさらに、前記エアバッグクッション内に設置されていて前記インフレータの一部を覆う整流布を備え、
前記整流布は、前記インフレータの一部の下方に開口部を有していることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項8】
前記エアバッグクッションは、
前記ステアリングホイール側に位置するステアリング側パネルと、
前記乗員側に位置する乗員側パネルと、
前記ステアリング側パネルの縁と前記乗員側パネルの縁とをつないでいて該エアバッグクッションの側部を構成するサイドパネルと、
前記サイドパネルのうち前記ハブの中央に対する左右斜め上方それぞれの箇所に設けられてガスを排出する第1のベントホールとを含むことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項9】
前記エアバッグクッションは、
前記ステアリングホイール側に位置するステアリング側パネルと、
前記乗員側に位置する乗員側パネルと、
前記ステアリング側パネルの縁と前記乗員側パネルの縁とをつないでいて該エアバッグクッションの側部を構成するサイドパネルと、
前記ステアリング側パネルのうち前記ステアリングホイールおよび前記複数のカバードアの重ならない箇所に設けられてガスを排出する第2のベントホールとを含むことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項10】
前記エアバッグクッションは、
前記ステアリングホイール側に位置するステアリング側パネルと、
前記乗員側に位置する乗員側パネルと、
前記ステアリング側パネルの縁と前記乗員側パネルの縁とをつないでいて該エアバッグクッションの側部を構成するサイドパネルと、
前記サイドパネルと前記ステアリング側パネルとの境界のうち前記ハブの中央に対する左右斜め上方それぞれの箇所を開放した状態になっていてガスを排出する第3のベントホールを含むことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急時に乗員を拘束する運転席用エアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、車両のステアリングホイールには、運転席用エアバッグ装置がほぼ標準装備されている。運転席用エアバッグ装置のエアバッグクッションは、主にステアリングホイールの中央のハブに収容されていて、樹脂製のカバー等をその膨張圧で開裂して乗員の前方に膨張展開する。通常、ステアリングホイールは、上側が車両前方へ傾斜した姿勢になっている。例えば特許文献1では、エアバッグ1の上部を車両前後方向に厚くすることで、傾斜したステアリングホイールから膨張展開した際にもフロント面1f(乗員拘束面)が鉛直になる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3991739号公報
【発明の概要】
【0004】
近年、電気的な信号を介して操舵力をホイールに伝える新たなステアリングホイールが開発されつつあり、ステアリングホイールのデザインが多様化している。特に、電気的に接続される新たなステアリングホイールは、ステアリングシャフトを介して操舵力を物理的に伝える従来のステアリングホイールと異なり、大きく回転させる必要が無い。具体的には、新たなステアリングホイールのリムは、従来のリムのように左右の手で持ちかえながら180°以上に回転させる操作が不要であるため、円環状である必要が無い。したがって、新たなステアリングホイールは、例えば中央のハブに対して左右にのみリムが存在したり、リムの上部がハブに近づいた扁平な形状になっていたりするなど、円形以外の異形のデザインを採用することが可能になっている(以下、円環状以外のリムを備えたステアリングホイールを「異形ステアリングホイール」と称呼する)。
【0005】
通常のエアバッグクッションは、ステアリングホイールのハブのカバーを開裂して膨張展開するところ、上記異形ステアリングホイールと組み合わせて実施するには、開裂したときのカバーの構成にも工夫が要る。例えば、異形ステアリングホイールは、ハブの上側にリム等の構造物が存在しないことが多い。この場合、カバーを直上に向けて開裂させると、周囲に他の構造物が存在しないことで、カバーの開裂した部分と乗員とが接触する可能性がある。加えて、カバーの開裂した部分がリムやスイッチ類に接触することも避ける必要がある。
【0006】
また、上記特許文献1に開示されたエアバッグ1であれば、リヤパネル7がフロントパネル8よりも大径になっていて、ステアリングホイール4から反力を効率よく得ることが可能になっている。しかしながら、上述した異形ステアリングホイールは、従来の円形のステアリングホイールに比べて小型かつ偏った形状であり、エアバッグクッションとの接触範囲が減るため、エアバッグクッションの展開挙動や姿勢が不安定になるおそれがある。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、膨張展開時の安全面に配慮しつつ乗員を十全に拘束することが可能な運転席用エアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる運転席用エアバッグ装置の代表的な構成は、車両のステアリングホイールと、インフレータおよびエアバッグクッションを含みステアリングホイールに収容されるエアバッグモジュールとを備えた運転席用エアバッグ装置であって、ステアリングホイールは、中央のハブと、乗員が把持するリムとを有し、リムは、ハブの上方の範囲が一部省略された形状、またはハブの上方に位置する部位がハブの左右に位置する部位に比べてハブ側に近づいた形状になっていて、ハブは、エアバッグモジュールを収容するモジュール収容部と、モジュール収容部を覆いエアバッグクッションの膨張圧で開裂可能なカバーとを有し、カバーは、エアバッグクッションの膨張圧を受けると開く複数のカバードアを含み、前記カバーが開裂した状態において、複数のカバードアはハブの中央から見て左右斜め上方向それぞれに向かって開いていて、ハブの中央から見て直上方向にはカバードアの無い空間部が形成されていることを特徴とする。
【0009】
近年開発が進んでいる新たなステアリングホイールには、従来のような円形でないものも多く、ハブの左右にのみリムが存在していたり、リムのうちハブの上側の部位が該ハブ側に近づいた形状になっていたりするなど、様々なデザインのものが存在する。これらの円形以外の異形ステアリングホイールは、ハブの直上の方向にカバードアを開かせると、周囲にカバードアと乗員との接触を避ける構造物が存在しない場合がある。そこで、上記構成では、カバードアが、ハブの中央から見て直上ではなく、主に左右斜め上方に開く構成となっている。この構成によれば、乗員の上半身が前方に倒れるように移動してきたとき、カバードアが真上に開く場合に比べて、カバードアと乗員との接触を避けることができる。
【0010】
また、上記構成であれば、異形ステアリングホイールに対して、カバードアがハブの左右斜め上方に開くことで、カバードアをエアバッグクッションの支持面として利用することができる。特に、カバードアがエアバッグクッションの前部上側を支えることで、エアバッグクッションは後方下側に向かう挙動を得て乗員を好適に拘束することが可能になる。また、左右斜め上方に開くカバードアであれば、ハブの左右や下方に存在するリムやスイッチ類との接触も避けることが可能である。
【0011】
上記の複数のカバードアは少なくとも2枚あり、2枚のカバードアはカバーを左右に二分していてもよい。この2枚のカバードアがハブの左右斜め上方に開くことで、カバードアと乗員やリム等との接触を好適に避けることができる。
【0012】
上記のカバーは、エアバッグクッションの膨張圧によって開裂可能で複数のカバードアの形状を規定する溝部と、ハブの中央から左右斜め上方向に離れたそれぞれの箇所に形成される溝部の端点同士の間の開裂しないヒンジと、を有してもよい。この構成によって、ハブの左右斜め上方に開くカバードアを、好適に実現することができる。
【0013】
上記のヒンジは、ハブの中央を原点として当該中央を通る水平線に対して45°±15°の角度の領域に設けられているとよい。この角度の領域に設けたヒンジによって開くカバードアであれば、乗員の頭部や、グリップ等の構造物を効率よく避けることができる。
【0014】
上記の溝部のうちハブの中央の下側の範囲は、ハブの中央の上側の範囲よりも深く彫られていてもよい。この構成によれば、溝部は、上側よりも下側のほうが速く開裂するため、カバードアに左右斜め上方に向かう動きを生じさせることができる。
【0015】
上記の溝部のうちハブの中央の下側の範囲は、ハブの中央の上側の範囲よりも薄肉であってもよい。この構成によっても、溝部は、上側よりも下側のほうが速く開裂するため、カバードアに左右斜め上方に向かう動きを生じさせることができる。
【0016】
上記のカバーは、上側が下側に比べて車両前方に傾いた形状になっていてもよい。この構成のカバーであっても、カバードアがハブの左右斜め上方に開くことで、カバードアを利用してエアバッククッションの前部上側を支え、エアバッグクッションを後方下側に向かって膨張展開させることができる。
【0017】
上記のインフレータの一部は、エアバッグクッション内に挿入されていて、一部には所定のガス排出口が形成されていて、当該運転席用エアバッグ装置はさらに、エアバッグクッション内に設置されていてインフレータの一部を覆う整流布を備え、整流布は、インフレータの一部の下方に開口部を有していてもよい。
【0018】
上記の整流布であれば、インフレータから供給されるガスを開口部から下方へと流すことができ、エアバッグクッションを下部側から膨張させることができる。したがって、エアバッグクッションは、異形ステアリングホイールと乗員の腹部との間に、迅速に入り込むことが可能となる。エアバッグクッションが異形ステアリングホイールと乗員の腹部とに挟まれると、エアバッグクッションの姿勢が安定するため、エアバッグクッションによる乗員の頭部に対する拘束性能も向上する。
【0019】
上記のエアバッグクッションは、ステアリングホイール側に位置するステアリング側パネルと、乗員側に位置する乗員側パネルと、ステアリング側パネルの縁と乗員側パネルの縁とをつないでいてエアバッグクッションの側部を構成するサイドパネルと、サイドパネルのうちハブの中央に対する左右斜め上方それぞれの箇所に設けられてガスを排出する第1のベントホールとを含んでもよい。サイドパネルの左右斜め上側に設けた第1のベントホールであれば、乗員の存在しない方向にガスを排出することが可能になる。
【0020】
上記のエアバッグクッションは、ステアリングホイール側に位置するステアリング側パネルと、乗員側に位置する乗員側パネルと、ステアリング側パネルの縁と乗員側パネルの縁とをつないでいてエアバッグクッションの側部を構成するサイドパネルと、ステアリング側パネルのうちステアリングホイールおよびカバードアの重ならない箇所に設けられてガスを排出する第2のベントホールとを含んでもよい。第2のベントホールによれば、乗員の存在しない方向にガスを排出することが可能になる。
【0021】
上記のエアバッグクッションは、ステアリングホイール側に位置するステアリング側パネルと、乗員側に位置する乗員側パネルと、ステアリング側パネルの縁と乗員側パネルの縁とをつないでいてエアバッグクッションの側部を構成するサイドパネルと、サイドパネルとステアリング側パネルとの境界のうちハブの中央に対する左右斜め上方それぞれの箇所を開放した状態になっていてガスを排出する第3のベントホールを含んでも良い。第3のベントホールによっても、乗員の存在しない方向にガスを排出することが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、膨張展開時の安全面に配慮しつつ乗員を十全に拘束することが可能な運転席用エアバッグ装置を提供可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態にかかる運転席用エアバッグ装置の概要を例示する図である。
図2図1(b)の膨張展開時のクッションを各方向から例示した図である。
図3図2(b)のクッションと座席に着座した乗員とを例示した図である。
図4図1(a)の異形ステアリングホイールを各方向から例示した図である。
図5図4(a)のカバーが開裂したときの様子を例示した図である。
図6図4(a)の異形ステアリングホイールのB-B断面図である。
図7図2(a)のクッションの内部構造の変形例を例示した図である。
図8図2(c)のベントホールの各変形例を例示した図である。
【符号の説明】
【0024】
100…運転席用エアバッグ装置、102…座席、104…クッション、104a…クッションの上部、104b…クッションの下部、106…異形ステアリングホイール、108…ハブ、110…カバー、112…インフレータ、116…ガス排出口、118…スタッドボルト、120…乗員側パネル、120a…乗員側パネルの上端、122…ステアリング側パネル、124…サイドパネル、126a、126b…第1のベントホール、138…乗員、140…頭部、142…腹部、160 …溝部、162a、162b …左右のカバードア、164 …エンブレム、166a、166b …左右のヒンジ、270a、270b…第2のベントホール、280a、280b…第3のベントホール、360…整流布、364…開口部、366a、366b…排気口、368…挿入口、L1…ステアリング側パネルの中央から延ばした仮想線、L2…サイドパネルと乗員側パネルとの境界、P1…乗員側パネルの中央、P2…ステアリング側パネルの高さ方向の中央、P3…頭部重心、P4…ハブの中央、S1…空間部、W1…クッションの上部の幅、W2…クッションの下部の幅
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態にかかる運転席用エアバッグ装置100の概要を例示する図である。図1(a)は運転席用エアバッグ装置100の稼動前の車両を例示した図である。以降、図1その他の図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。
【0027】
本実施形態では、運転席用エアバッグ装置100を、左ハンドル車における運転席用(前列左側の座席102)のものとして実施している。以下では、前列右側の座席102を想定して説明を行うため、例えば車幅方向車外側(以下、車外側)とは車両左側を意味し、車幅方向内側(以下、車内側)とは車両右側を意味する。また、本実施形態に関しては、座席102に正規に着座した乗員から見て、正面の方向を「前」とし、背中側の方向を「後」として記載する。同様に、正規に着座した乗員の右手の方向を「右」とし、左手の方向を「左」として記載する。さらに、このときの乗員の身体の中心に対して、頭部に向かう方向を「上」とし、脚部に向かう方向を「下」とする。
【0028】
運転席用エアバッグ装置のエアバッグクッション(以下、クッション104(図1(b)参照))は、折畳みや巻回等された状態で、座席102の着座位置の前方にて、ステアリングホイール(後述する異形ステアリングホイール106)の中央のハブ108の内部に収容されている。ハブ108は、クッション104およびガスを供給するインフレータ112(図4(b)参照)を収容するモジュール収容部109およびカバー110等を含んで構成されている。このとき、クッション104は、インフレータ112と共にエアバッグモジュール105を構成してモジュール収容部109に収容される。
【0029】
本実施形態にてクッション104を設置する異形ステアリングホイール106は、乗員の操作を電気的な信号に変換してホイールに伝える構成のものを想定している。異形ステアリングホイール106は、円環以外の形状のリム114を備えていて、従来の円環状のリムを備えたステアリングホイールとは形状が異なっている。リム114は、乗員が把持する部位であり、中央のハブ108を中心にして回転させる操作を受け付けるが、従来の円環状のリムとは異なり、大きな角度で回転させる操作は不要であるため、左右の手で持ちかえる必要が無い。そのため、リム114はハブ108の左右および下方にのみ存在する形状になっていて、ハブ108の上方の範囲が一部省略された形状になっている。
【0030】
なお、異形ステアリングホイール106は、ハブ108の上側の一部の範囲が省略された形状を有するものの一例である。異形ステアリング106の他の例としては、ハブの上方に位置する部位がハブの左右に位置する部位に比べてハブ側に近づいた形状のものや、ハブの左右にのみリム(グリップ)が存在するものなども含めることができる。
【0031】
図1(b)は運転席用エアバッグ装置100のクッション104の膨張展開後の車両を例示した図である。クッション104は、インフレータ112(図2(a)参照)からのガスによってカバー110を開裂しながら膨張を開始し、座席102の着座位置の前方に袋状に膨張展開し、前方へ移動しようとする乗員の上半身や頭部を拘束する。クッション104は、着座位置側から見て円形で、その表面を構成する複数のパネルを重ねて縫製または接着することによって形成されている。
【0032】
図2は、図1(b)の膨張展開時のクッション104を各方向から例示した図である。図2(a)は、図1(b)のクッション104を車外側のやや上方から見て例示している。図2(a)では、クッション104を構成するパネルの一部を切り欠いて、内部のインフレータ112を露出させている。
【0033】
本実施形態におけるクッション104は、特徴的な形状として、異形ステアリングホイール106側(図1(a)参照)から乗員側(車両後方側)に向かって径の広がった、円錐台に近い形状になっている。
【0034】
図2(b)は、図2(a)のクッション104を車幅方向左側から例示した図である。クッション104は複数のパネルから形成されていて、乗員側に位置する乗員側パネル120(乗員から見て手前に位置するためフロントパネルとも称呼される)、異形ステアリングホイール106側(図1(a)参照)に位置するステアリング側パネル122(乗員から見て奥手に位置するためリアパネルとも称呼される)、およびこれら乗員側パネル120とステアリング側パネル122とをつないでクッション104の側部を構成しているサイドパネル124とを含んでいる。
【0035】
乗員側パネル120は、円形であって、クッション104の膨張展開時には乗員を拘束する乗員拘束面として機能する。ステアリング側パネル122は、円形であって、クッション104(図1(b)参照)の膨張展開時には異形ステアリングホイール106(図1(a)参照)から反力を得る反力面として機能する。サイドパネル124は、ステアリング側パネル122の縁の全周と、乗員側パネル120の縁の全周とに接合される。
【0036】
クッション104のうち、乗員側パネル120とステアリング側パネル122との間には全体にわたってサイドパネル124が介在していて、ステアリング側パネル122と乗員側パネル120とが直接に縫製される箇所が存在していない。また、クッション104には、計3枚のパネルが重なって同時に縫製される箇所も存在していない。これらの構成によって、クッション104を袋状に効率よく縫製し製造することが可能になっている。
【0037】
当該クッション104は乗員側に広がる円錐台状に膨張展開するため、ステアリング側パネル122は乗員側パネル120よりも面積が狭い構成となっている。ステアリング側パネル122の中央は、インフレータ112の一部が挿入され、インフレータ112に備えられたスタッドボルト118が貫通し、ハブ108の内部に固定される。
【0038】
インフレータ112は、ガスを供給する装置であって、本実施例ではディスク型(円盤型)のものを採用している。インフレータ112は、ガス排出口116の形成された一部がステアリング側パネル122からクッション104内に挿入されていて、不図示のセンサから送られる衝撃の検知信号に起因して稼働し、クッション104にガスを供給する。インフレータ112は、複数のスタッドボルト118が設けられている。スタッドボルト118は、クッション104のステアリング側パネル122を貫通し、上述した異形ステアリングホイール106(図1(a)参照)のハブ108の内部に締結される。このスタッドボルト118の締結によって、クッション104もハブ108の内部に固定されている。
【0039】
なお現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。インフレータ112としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0040】
膨張展開したクッション104は、円錐台に沿った形状でありつつも、全体的にやや傾斜した形状になっている。具体的には、乗員側パネル120の高さ方向の中央P1が、ステアリング側パネル122の高さ方向の中央P2から水平に延ばした仮想線L1に対して上方に位置するように、傾斜した形状になっている。また、クッション104が膨張展開したとき、乗員側パネル120はほぼ鉛直に延びるよう配置されているが、ステアリング側パネル122は上部が車両前側(図2(b)中左側)に倒れるよう傾斜して配置されている。これによって、車両前後方向において、膨張展開したエアバッグクッション104の上部104aの幅W1は、エアバッグクッション104の下部104bの幅W2に比べて厚い構成となっている。
【0041】
図2(c)は、図2(a)のクッション104を上方から例示した図である。クッション104は、上方から見ると、ほぼ左右対称な円錐台の形状になっている。サイドパネル124には、ガスを排出する2つの第1のベントホール126a、126bが設けられている。ベントホール126a、126bは、サイドパネル124のうち上側の左右2箇所に設けられている。この位置に設けられたベントホール126a、126bによれば、クッション104の膨張展開時において乗員の存在しない方向にガスを排出することが可能である。
【0042】
図3は、図2(b)のクッション104と座席102に着座した乗員138とを例示した図である。図3は、クッション104および乗員138を車幅方向左側から見て例示している。
【0043】
本実施例では、図2(b)を参照して説明したように、膨張展開したクッション104の上部104aは、クッション104の下部104bに比べて、車両前後方向に厚い構成となっている。特に、膨張展開したクッション104は、車幅方向から見たとき、サイドパネル124と乗員側パネル120との境界L2が上方へ延びるような姿勢で設置されている。緊急時において車両前方に移動しようとする乗員138は、クッション104の上部104aから早期に接触する。そして、クッション104の上部104aは、その厚みをもって乗員138の頭部140からの荷重を吸収する。
【0044】
図2(b)を参照して説明したように、クッション104の下部104bの車両前後方向の幅W2は、上部104aの幅W1に比べて、やや小さい。一般の車両では、ステアリングホイールは車両前側に約20°から25°程度の角度で傾斜していて、ステアリングホイールと乗員138との間の空間は、下方の腹部142側に向かって車両前後方向に狭くなっている。本実施例のクッション104であれば、下部104bに向かうほど車両前後方向の幅は減少していくため、下部104bが異形ステアリングホイール106と腹部142との狭い空間に入り込みやすくなっている。
【0045】
上記構成によれば、クッション104の下部104bが異形ステアリングホイール106と腹部142とによって挟まれることで、クッション104の姿勢が崩れ難くなっている。またそれによって、クッション104の上部104aの、乗員138の頭部140に対する拘束性能も向上する構成となっている。特に、クッション104の姿勢が安定することで、乗員138の頭部140の前屈や後屈など、傷害値の高くなりやすい頭部140の動きを防ぐことが可能になる。
【0046】
上述したように、本実施例のクッション104は、乗員拘束面となる乗員側パネル120の面積が広く、異形ステアリングホイール106から反力を得るステアリング側パネル122の面積が狭い構成となっている。異形ステアリングホイール106は、従来の円形のステアリングホイールに比べて、エアバッグクッションとの接触範囲が狭い。ステアリング側パネル122は、異形ステアリングホイール106に接触しない部分を省くよう、異形ステアリングホイール106に応じた寸法に設定することができる。これによって、ステアリング側パネル122を構成する材料の使用量を減らしたり、クッション104のガス容量を抑えたりすることが可能になり、コスト削減に資することができる。
【0047】
本実施形態のクッション104は、小径のステアリング側パネル122を採用することで、ガス容量が50リットルから60リットルの範囲内に設定することができる。これによって、クッション104を構成するパネルの量が抑えられるため、クッション104はより小さな収容形態に折り畳み等することができ、収容空間の限られた異形ステアリングホイール106にも容易に取り付けることが可能になる。
【0048】
上記範囲内のガス容量であれば、高出力インフレータは不要であり、インフレータ112(図2(a)参照)としてなるべく小型かつ低廉なものを採用可能になっている。例えば、インフレータ112には、出力が200kPaから230kPaの範囲のものを採用することができる。この出力のインフレータであれば、小型かつ低廉であり、軽量化やコスト削減の点で有益である。また、クッション104のガス容量を抑えることは、クッション104の膨張が完了するまでにかかる時間を早めるため、乗員拘束性能の向上にもつながる。
【0049】
本実施形態では、膨張展開したクッション104の乗員側パネル120の上端120aは、成人男性の頭部重心の±100mmの範囲内の高さに位置するよう設定している。例えば、図3の乗員138は、平均的な米国成人男性の50%に適合する体格を模した試験用のダミー人形AM50(50th percentile 男性相当で身長175cm、体重78kg)を想定したものである。クッション104の乗員側パネル120の上端120aは、このAM50の頭部重心P3の±100mmの範囲内の高さに位置するよう設定している。
【0050】
乗員138の頭部140は、乗員側パネル120に対して顎や額などから接触すると、前屈や後屈などの回転動作を引き起こすおそれがある。前述したように、頭部140の前屈や後屈は、人体の構造上、傷害値が高くなりやすい。本実施形態のクッション104は、頭部重心P3の位置から乗員側パネル120を接触させ、頭部140を過度に動かすことなく拘束し、傷害値を抑えることを可能にしている。
【0051】
図4は、図1(a)の異形ステアリングホイール106を各方向から例示した図である。図4(a)は、図1(a)の異形ステアリングホイール106の拡大図である。本実施形態では、クッション104(図3参照)の膨張展開時における安全面への配慮と、乗員拘束性能のさらなる向上のために、ハブ108のカバー110に工夫を施している。
【0052】
以下の説明において、異形ステアリングホイール106に関する上下左右の方向について、ハブ108の上側などといった表現が登場する。この場合、ハブ108の上側とは、異形ステアリングホイール106を時計に見立てて、ハブ108の中心に時計の針の軸が有るとした場合の3時と9時とを結ぶ直線よりも上側という意味である。異形ステアリングホイール106の上部は、車両前側に傾いて設置されることもある。そのため、異形ステアリングホイール106の上下方向は、異形ステアリングホイール106を時計に見立てたときの12時と6時とを結ぶ方向であり、現実の鉛直方向とは一致しないことがある。また、異形ステアリングホイール106の左右方向は、異形ステアリングホイール106を時計に見立てたときの3時または9時の方向である。
【0053】
図4(b)は、図4(a)の異形ステアリングホイール106のハブ108のA-A断面図である。図4(b)に例示するように、ハブ108は、エアバッグモジュール105を収容するモジュール収容部109と、モジュール収容部109を覆うカバー110とを含んで構成されている。カバー110は、クッション104の膨張圧で開裂可能になっている。そのため、カバー110のモジュール収容部109側の面には、開裂を誘発する溝部160が彫られている。
【0054】
再び図4(a)を参照する。カバー110は開裂時に複数のカバードア162a、162bが形成される構成になっていて、溝部160はカバードア162aの形状を規定している。本実施形態では、カバー110には、2枚のカバードア162a、162bが形成される構成となっている。カバードア162a、162bは、右側のカバードア162aにエンブレム164が含まれるようにして、カバー110を左右に二分して形成される。また、カバー110には、カバードア162aが飛散しないよう、カバー110の本体とカバードア162a、162bとをつなぐヒンジ166a、166bが形成される。
【0055】
図5は、図4(a)のカバー110が開裂したときの様子を例示した図である。図5は、クッション104のステアリング側パネル122を透過して異形ステアリングホイール106のハブ108付近を例示している。本実施形態のカバー110は、溝部160(図4(a)参照)がクッション104の膨張圧によって開裂すると、2枚のカバードア162a、162bが、ハブ108の中央P4から見て左右斜め上方向それぞれに向かって開く。
【0056】
ヒンジ166a、166bは、ハブ108の中央P4から左右斜め上方向に離れたそれぞれの箇所にて、溝部160の端点同士の間の開裂しない領域として形成されている。そして、ヒンジ166a、166bは、ハブ108の中央P4を原点として、当該中央P4を通る水平線に対して45°±15°の角度の領域、すなわち30°から60°の間の角度α1および角度α2の範囲内の領域に設けられている。この構成のヒンジ166a、166bによって、異形ステアリングホイール106を時計に見立てたとき、左のカバードア162aは10時と11時の間の範囲の方向に向かって開き、右のカバードア162bは1時と2字の間の範囲の方向に向かって開く。
【0057】
異形ステアリングホイール106に代表されるように、近年開発が進んでいる新たなステアリングホイールには、従来のような円形でないものも多い。例えば、ハブの左右にのみリムが存在していたり、リムのうちハブの上側の部位が該ハブ側に近づいた形状になっていたりするなど、様々なデザインのものが存在する。これら円形以外の異形ステアリングホイール106は、ハブ108の直上の方向にカバードアを開かせると、周囲にカバードアと乗員との接触を避ける構造物が存在しないことがある。具体的には、異形ステアリングホイール106を時計に見立てたとき、ハブ108の中心を通る3時と9時とを結ぶ直線よりも上側の範囲にて、リムが省略されていたり、リムがハブに近づいたデザインになっていたりすることがある。
【0058】
そこで、本実施形態では、左右斜め上方にカバードア162a、162bが開く構成を実現している。すなわち、本実施形態では、ハブ108の中央P4から見て直上方向(12時の方向)に開くカバードアを含んでいない。左右斜め上方に開いたカバードア162a、162bであれば、車両の緊急時において、乗員138(図3参照)の上半身が前方に倒れるように移動してきたとき、直上に開いたカバードアに比べて、乗員138との接触を避けることができる。
【0059】
特に、異形ステアリングホイール106は、従来の円形のステアリングホイールに比べて、ハブ108の上側(12時側)にリム114が存在しないため、乗員138(図3参照)が車両前方に身を乗り出しやすい。例えば、乗員138の頭部140が、ハブ108の上側に位置している可能性もある。このような、乗員138が座席102から身を乗り出すなど、座席102に対して非正規の着座位置(通称アウトオブポジション)にいた場合、カバードアを直上に向けて開かせると、乗員138の頭部140とカバードアとが接触する可能性はより高まる。そのようなアウトオブポジションの場合であっても、本実施形態であれば、カバー110が開裂した状態において、カバードア162a、162bが左右の斜め上方に開くため、ハブ108の中央P4から見て直上方向にはカバードア162a、162bの無い空間部S1が形成されている。すなわち、本実施形態であれば、カバードア162a、162bが空間部S1を形成するように左右に開くため、カバー110と頭部140との接触の可能性を減らすことができる。
【0060】
本実施形態の左右斜め上方に開くカバードア162a、162bであれば、ハブ108の左右や下方に存在するリム114やスイッチ類との接触も避けることができる。カバードア162a、162bがリム等の構造物に接触する機会を減らすことで、カバードア162a、162bが衝撃で脱落すること等を防止でき、安全性をより高めることができる。
【0061】
また、異形ステアリングホイール106に対して左右斜め上方に開くカバードア162aは、クッション104の支持面として利用することができる。カバー110は、溝部160のみで開裂し、そしてヒンジ166a、166bのみで動く構成とすることで、カバードア162a、162bに所定の剛性が確保できる。カバードア162a、162bがエアバッグクッション104の前部上側を支えることで、クッション104は後方下側に向かう挙動を生じさせることができる。図3を参照して説明したように、クッション104を後方下側に向けて膨張展開させることで、クッション104を異形ステアリングホイール106と乗員138の腹部142との間に入り込ませ、そしてクッション104を異形ステアリングホイール106と乗員138の腹部142とに挟ませることで、クッション104の姿勢を崩れ難くして、クッション104の乗員138の頭部140に対する拘束性能を向上させることができる。また、クッション104の後方下側に向かう挙動であれば、後方上側に向かう挙動に比べて、乗員138の頭部140に下方から接触するおそれがないため、乗員138の頭部140の後屈など、傷害値の高くなりやすい頭部140の動きを防ぐことができる。特に、前述したアウトオブポジションの乗員138の頭部140に対しては、クッション104が下方から接触しやすいため、クッション104に後方下側に向かう挙動を生じさせることは極めて有効である。
【0062】
再び図4(a)を参照する。溝部のうちハブ108の中央P4の下側の範囲E1は、ハブ108の中央P4の上側の範囲E2よりも深く彫られていてもよい。言い換えれば、溝部のうちハブ108の中央P4の下側の範囲E1は、ハブ108の中央P4の上側の範囲E2よりも薄肉になっているとよい。この構成によれば、溝部160は、上側の範囲E1よりも下側の範囲E2のほうが先に開裂を誘発し、そして開裂する速度も速くなるため、カバードア162a、162bに左右斜め上方に向かう動きを効率よく生じさせることができる。
【0063】
図2(c)に例示したように、ベントホール126a、126bは、サイドパネル124の左右の上側に設けられている。このとき、ベントホール126a、126bは、サイドパネル124のうちハブ108の中央P4(図4(a)参照)に対する左右斜め上方それぞれの箇所に設けられているとよい。このベントホール126a、126bであれば、乗員の存在しない方向にガスを排出することが可能になる。
【0064】
図6は、図4(a)の異形ステアリングホイール106のB-B断面図である。カバー110は、上側が下側に比べて車両前方に傾いた形状になっていてもよい。例えば、カバー110は、乗員側の意匠面が鉛直線に対して車両前方に角度α3で傾いた形状になっている。この構成のカバー110を有する異形ステアリングホイール106であっても、従来であればクッション104に対して後方上側に向かう反力を与えるところ、上述したカバードア162a、162b(図5参照)がハブ108の左右斜め上方に開くことで、このカバードア162aを利用してクッション104の前部上側を支え、クッション104を後方下側に向かわせるよう膨張展開させることができる。
【0065】
以上のように、本実施形態によれば、膨張展開時の安全面に配慮しつつ乗員138(図3参照)を十全に拘束することが可能な運転席用エアバッグ装置100を実現することができる。
【0066】
(変形例)
以下、上述した各構成洋装の変形例について説明する。図7および図8では、既に説明した構成要素と同じものについては、同じ符号を付することによって説明を省略する。また、以下の説明では、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有するものとする。
【0067】
図7は、図2(a)のクッション104の内部構造の変形例を例示した図である。図7(a)は、図2(a)のクッション104の各パネルを透過して内部構造を例示している。クッション104には、新たな内部構造として、整流布360が備えられている。
【0068】
整流布360は、インフレータ112(図2(a)参照)のガスを特定の方向に導く部材であり、クッション104の内部にて、挿入されたインフレータ112のガス排出口116を有する部分を覆った状態で、ステアリング側パネル122に接続されている。整流布360は、インフレータ112の下方にガスを排出する開口部364を有し、側部にもガスを排出する小径の排気口366a、366b(図7(c)参照)を有している。
【0069】
図7(b)は、図7(a)の整流布360を側方から例示した図である。整流布360は、縫製によって袋状に形成されていて、下方側の縁が開放されて開口部364が形成されている。
【0070】
図7(c)は、図7(b)の整流布360の縫製を解いて平面上に広げた状態を例示している。整流布360は、中央にインフレータ112(図2(a)参照)の一部が挿入される挿入口368が設けられていて、インフレータ112のスタッドボルト118によってステアリング側パネル122と共にハブ108(図1(a)参照)の内部に固定される。排気口366a、366bは、左右の二箇所に設けられていて、ガスをクッション104の中央付近へと供給する。開口部364は、排気口366a、366bよりも大きな径に形成され、排気口366a、366bよりもガスの通過量が多い。
【0071】
上記の整流布360によって、インフレータ112から供給されるガスは、開口部364を通じてクッション104(図7(a))の下部104bへと優先的に供給される。これによって、クッション104は、下部104b側から優先的に膨張展開する。この構成によれば、クッション104は、下部104bを早期に異形ステアリングホイール106(図4参照)と乗員138の腹部142との間に入り込ませ、異形ステアリングホイール106と腹部142とに挟持させることが可能になる。
【0072】
図8は、図2(c)のベントホールの各変形例を例示した図である。図8(a)は、図2(c)のベントホールの第1変形例(第2のベントホール270a、270b)を例示している。このベントホール270a、270bは、ステアリング側パネル122に設けられている。このとき、ステアリング側パネル122のうち異形ステアリングホイール106(図4等参照)とは接触しない箇所にベントホール300a、300bを設けることによっても、乗員138の存在しない方向にガスを排出することが可能になる。ベントホール270a、270bは、ステアリング側パネル122のうち異形ステアリングホイール106およびカバードア162の重ならない箇所に設けられている。ベントホール270a、270bによっても、乗員の存在しない方向にガスを排出することが可能になる。
【0073】
図8(b)は、図2(c)のベントホール126a、126bの第2変形例(第3のベントホール280a、280b)を例示している。このベントホール280a、280bは、サイドパネル124とステアリング側パネル122との境界282の一部を開放することで形成されている。サイドパネル124とステアリング側パネル122との境界は車両前側に位置していて、特に上側であれば周囲に乗員138(図3参照)の身体は位置していない。そこで、サイドパネル124とステアリング側パネル122との境界282の上側の一部を開放してベントホール280a、280bとすることで、乗員138の存在しない方向にガスを排出することが可能になる。
【0074】
なお、上述した第1のベントホール126a、126b、第2のベントホール270a、270bおよび第3のベントホール280a、280bは、一つのエアバッグクッションに対して同時に実施することも可能である。エアバッグクッションは、乗員との位置関係や周囲の構造物の配置に応じて、これら各ベントホールを適宜実施することが可能である。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0076】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、緊急時に乗員を拘束する運転席用エアバッグ装置に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8