IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ネステ オイル オサケ ユキチュア ユルキネンの特許一覧

特許7142142リサイクルされたおよび再生可能な有機材料の精製
<>
  • 特許-リサイクルされたおよび再生可能な有機材料の精製 図1
  • 特許-リサイクルされたおよび再生可能な有機材料の精製 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】リサイクルされたおよび再生可能な有機材料の精製
(51)【国際特許分類】
   C10G 3/00 20060101AFI20220915BHJP
   C11B 13/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C10G3/00 Z
C11B13/00
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2021502416
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 EP2019069482
(87)【国際公開番号】W WO2020016405
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-03-15
(31)【優先権主張番号】20185651
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】505081261
【氏名又は名称】ネステ オサケ ユキチュア ユルキネン
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トウロネン、ヨウニ
(72)【発明者】
【氏名】ホビ、メリ
(72)【発明者】
【氏名】パサネン、アンチ
(72)【発明者】
【氏名】ヤーティネン、サッラ
(72)【発明者】
【氏名】トッピネン、サミ
(72)【発明者】
【氏名】アールト、ペッカ
(72)【発明者】
【氏名】ヤンソン、カリ
(72)【発明者】
【氏名】リンドブラッド、マリナ
(72)【発明者】
【氏名】ケールドストレーム、マッツ
(72)【発明者】
【氏名】ランミンパー、カイサ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス ネブレダ、アンドレア
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0257888(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0361356(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108251156(CN,A)
【文献】国際公開第2018/024728(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 3/00
C11B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクルされたまたは再生可能な有機材料(10)を精製するための方法であって、前記リサイクルされたまたは再生可能な有機材料(10)は、シリコン化合物として1ppmより多いシリコンを含み、前記方法は、
(i)揮発性のシリコン化合物である主要部分を含む蒸気留分(32)、および
(ii)以下の工程(a)において提供されるリサイクルされたまたは再生可能な有機材料よりも少ないシリコンを含む加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料留分(31)
を得るために、
(a)リサイクルされたまたは再生可能な有機材料(10)を提供する工程、
(b)前記リサイクルされたまたは再生可能な有機材料(10)を、加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を形成するために、500~5000kPaの圧力下、加熱処理(20)する工程であって、前記リサイクルされたまたは再生可能な有機材料中に存在するシリコン化合物の少なくとも一部が揮発性のシリコン化合物へと変換される工程、および
(c)前記加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料から揮発性のシリコン化合物を蒸発させる(30)工程
を含む方法。
【請求項2】
前記方法が、さらに、
(d)精製されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料(41)を得るために、水素化処理触媒の存在下で前記加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料留分(31)を水素化処理(40)する工程
を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記精製されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料(41)が、前記工程(a)において提供される前記リサイクルされたまたは再生可能な有機材料よりも少ないシリコンを含み、好ましくは、前記リサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、前記工程(a)において提供される前記リサイクルされたまたは再生可能な有機材料の当初のシリコン含有量の20%より少ない、より好ましくは10%より少ない、さらにより好ましくは5%より少ない量を含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記工程(d)が、持続的な水素流の下で行われる請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記工程(d)において、持続的な水素流が、500~2000n-L/Lである、好ましくは、800~1400n-L/LであるH2/フィード比を有する請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記工程(d)が、270~380℃の温度で、好ましくは275~360℃で、より好ましくは300~350℃で行われる請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(d)が、4~20MPaの圧力下で行われる請求項2~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(d)における水素化処理触媒が、周期表においてIUPACの第6、8または10族から選択される少なくとも一つの成分を含む請求項2~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(d)における水素化処理触媒が、担持されたPd、Pt、Ni、NiW、NiMoまたはCoMo触媒であり、および、担体が、ゼオライト、ゼオライト-アルミナ、アルミナおよび/またはシリカであり、好ましくは、NiW/Al23、NiMo/Al23またはCoMo/Al23である請求項2~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(d)が、
(d1)前記加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料留分(31)を水素化脱酸素(HDO)する工程
によって達成される請求項2記載の方法。
【請求項11】
前記工程(d1)が、HDO触媒の存在下、290~350℃の温度で、4~20MPaの圧力下、および持続的な水素流の下、行われる請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記工程(d1)が、1wt%未満の酸素、ならびに、前記工程(a)において提供される前記リサイクルされたまたは再生可能な有機材料(10)の当初のシリコン含有量の20%より少ない、好ましくは10%より少ない、さらにより好ましくは5%より少ないシリコンを含む、精製されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料(41)を得るために、
(d1)前記加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料留分(31)を、HDO触媒の存在下、290~350℃の温度で、4~20MPaの圧力下、および持続的な水素流の下、水素化脱酸素(HDO)する工程
によって達成される請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記工程(d1)において、前記HDO触媒が、硫化NiW、NiMoまたはCoMo触媒である請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
前記工程(d1)において、前記持続的な水素流が、500~2000n-L/L、好ましくは、800~1400n-L/LであるH2/フィード比を有する請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(b)が、180~325℃で、好ましくは200~300℃で、より好ましくは240~280℃で行われる請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(b)における滞留時間が、1~300分、好ましくは5~90分、より好ましくは20~40分である請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記工程(b)における圧力が、800~2000kPaである請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記工程(c)が、145~250℃、好ましくは150~225℃、より好ましくは160~200℃、さらにより好ましくは160~180℃の温度で行われる請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記工程(c)における圧力が、0.1~5kPa、好ましくは0.1~3kPaである請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記工程(c)において、前記加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の1~10wt%、好ましくは1~8wt%、より好ましくは1~5wt%、さらにより好ましくは1~3wt%が蒸発される請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
水が前記加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料へと添加され、したがって、蒸発工程(c)の前の前記加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な材料の水含有量が、1~5wt%、好ましくは1.5~4wt%、より好ましくは2~3wt%である請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記工程(c)の後、前記加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料留分(31)のシリコン含有量が、前記工程(a)において提供される前記リサイクルされたまたは再生可能な有機材料の当初のシリコン含有量の50%未満、好ましくは30%未満を含む請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記リサイクルされたまたは再生可能な有機材料(10)が、植物ベースの脂肪およびオイル、動物ベースの脂肪およびオイル、化石廃棄物ベースのオイル、廃棄物オイル、海藻オイル、および微生物オイルからなる群より選択される請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記リサイクルされたまたは再生可能な有機材料(10)が、粗トール油(CTO)、トール油ピッチ(TOP)、粗脂肪酸(CFA)、トール油脂肪酸(TOFA)および蒸留トール油(DTO)からなる群より選択され、より好ましくは、前記リサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、粗トール油(CTO)またはトール油ピッチ(TOP)である請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
リサイクルされたまたは再生可能な炭化水素を製造するためのプロセスであって、
(x)請求項1~24のいずれか1項に記載の方法によりリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を精製する工程、および
(y)精製されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を精油変換プロセスへと付す工程であって、前記精油変換プロセスが、少なくとも一つのリサイクルされたまたは再生可能な炭化水素を得るために、フィードの分子量を変化させること、前記フィードからのヘテロ原子の除去、前記フィードの飽和度を変化させること、前記フィードの分子構造を組み替えること、または、それらの任意の組み合わせを含む工程
を含むプロセス。
【請求項26】
前記工程(y)が、水素化分解である請求項25記載のプロセス。
【請求項27】
前記工程(y)が、軽度水素化分解(MHC)精製所ユニット内で行われる請求項26記載のプロセス。
【請求項28】
前記工程(y)が、水素化分解触媒の存在下で行われる請求項26または27記載のプロセス。
【請求項29】
前記工程(y)が、水蒸気分解である請求項25記載のプロセス。
【請求項30】
前記工程(y)が、異性化である請求項25記載のプロセス。
【請求項31】
前記工程(y)が、水素化処理である請求項25記載のプロセス。
【請求項32】
前記工程(y)が、熱触媒分解である請求項25記載のプロセス。
【請求項33】
前記工程(y)が、流動接触分解である請求項25記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料を精製するための方法、特には、1ppmより多いシリコンを含むリサイクルされたまたは再生可能な有機材料からシリコン化合物としてシリコンを除去するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、シリコン化合物として多量のシリコン(Si)を含む場合がある。リサイクルされたまたは再生可能な有機材料の触媒的処理の前に、これらのシリコン不純物は、材料から除去される必要があり、これは、シリコン化合物が触媒毒であり、そしてしたがって水素化処理装置のサイクル寿命および利益を最大のものとするために水素化処理の前に除去されるべきであるためである。
【0003】
とりわけ、トール油ピッチ(TOP)は、上流処理において使用される汚染防止剤におそらく由来するシリコン不純物を含む。汚染防止剤は、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)などを含み、これらは、オイルに可溶であり、そしてそれゆえオイルから除去することが困難である。また、いくつかの不純物は、木材収集のあいだの砂またはほこりに起因する。水素化処理の前のシリコン不純物の除去は、ユニット内の触媒の寿命の低下を避けるために必要とされる。例えばろ過またはブリーチなどの従来の精製方法は、シリコン不純物を効果的に除去するためには適していない。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、したがって、上記の課題を克服することのできる方法を提供することである。本発明の目的は、独立クレームに記載されている事項によって特徴付けられる方法によって達成される。本発明の好ましい実施態様は、従属クレームに記載されている。
【0005】
本発明は、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料が、(b)加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を形成するために、好ましくは180~325℃にリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を加熱処理する工程であって、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料中に存在するシリコン化合物の少なくとも一部が揮発性のシリコン化合物へと変換される工程、および、その後、(c)一またはそれ以上のステージにおいて、加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料から揮発性のシリコン化合物を、好ましくは145~250℃で、減圧下、蒸発させる工程であって、加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の少なくとも一部、好ましくは1~10w%が蒸発する工程、に付されて、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料からのSiの除去を導く方法によって、多量のシリコン化合物を含むリサイクルされたまたは再生可能な有機材料が精製され得るという驚くべき発見に基づく。
【0006】
個々の処理工程(b)および(c)の順番、および加熱処理工程(b)における条件が、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料からの最大限のシリコンの除去を可能にする。
【0007】
方法は、低品質のリサイクルされたまたは再生可能な有機材料のフィードの、水素化処理における、例えば高品質な再生可能な燃料および/または化学品を製造するためのプロセスなどにおける、フィードストックとしての使用を可能にする。
【0008】
以下において、本発明は、添付の図面を参照して好ましい実施態様によってよい詳細に記載されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の方法の第1の例示的なプロセスフローを示す図である。
図2図2は、水の添加有りおよび無しの両方におけるフラッシュ蒸発の平均Si除去効率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料を精製する方法を提供する。
【0011】
用語「リサイクルされたまたは再生可能な有機材料(recycled or renewable organic material)」は、有機材料、すなわち、炭素を含む材料であって、1)その使用および消費によって引き起こされる供給源の枯渇を補充する天然源から、または2)廃棄物から回収される再利用のための原材料または加工済み材料から、得られる有機材料を意味する。リサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、特徴的には、4~30の炭素原子、好ましくは12~22の炭素原子の炭素鎖を有する脂肪族化合物を含む。このような脂肪族化合物の典型的な例としては、脂肪酸またはそれらのエステル、特には脂肪酸が4~30の炭素原子、より特には12~22の炭素原子の脂肪族鎖を有する例が挙げられる。リサイクルされたまたは再生可能な有機材料は典型的には、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料の総重量の少なくとも50wt%の脂肪族化合物を含む。
【0012】
典型的には、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、植物、微生物、海藻および/または動物起源の脂肪および/またはオイルを意味する。それはまた、そのようなオイルおよび/または脂肪の処理からもたらされる任意の廃棄物流を意味する。リサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、未処理の形状(例えば動物性脂肪)または加工済みの形状(使用済み料理油)であり得る。リサイクルされたまたは再生可能な有機材料はまた、化石廃棄物ベースのオイルまたは廃棄物オイルを意味する。
【0013】
用語「植物ベースの脂肪およびオイル」は、植物起源、すなわち直接的に植物起源であり得るオイル、または、例えば農業もしくは林業などの様々な産業部門からの副生成物であり得るオイルなど、植物起源の脂肪および/またはオイルを意味する。
【0014】
本発明の植物ベースの脂肪およびオイルの例としては例えば、これらに限定される訳ではないが、パームオイルスラッジ、菜種油(rapeseed oil)、キャノーラ油、菜種油(colza oil)、ひまわり油、大豆油、麻実油、オリーブオイル、亜麻仁油、綿実油、マスタードオイル、パーム油、落花生油、ひまし油、およびココナッツオイルなどが挙げられる。
【0015】
植物ベースの脂肪およびオイルの他の例としては、バイオクルードおよびバイオオイルが挙げられる。バイオクルードおよびバイオオイルは、バイオマスから、特にはリグノセルロース系バイオマスから、例えば水熱液化法などの様々な液化法を用いて、または、熱分解、特には急速熱分解を用いて製造される。
【0016】
用語「バイオクルード(biocrude)」は、水熱液化法を行うことによってバイオマスから製造されるオイルを意味する。用語「バイオオイル(bio oil)」は、熱分解を行うことによってバイオマスから製造される熱分解オイルを意味する。用語「バイオマス(biomass)」は、植物、動物およびそれらの副生成物を含む、最近まで生きていた生物由来の材料を意味する。用語「リグノセルロース系バイオマス(lignocellulosic biomass)」は、植物またはそれらの副生成物由来のバイオマスを意味する。リグノセルロース系バイオマスは、炭水化物ポリマー(セルロース、ヘミセルロース)および芳香族ポリマー(リグニン)から構成される。
【0017】
用語「熱分解(pyrolysis)」は、非酸化的雰囲気下、上昇された温度での材料の熱分解を意味する。用語「急速熱分解(fast pyrolysis)」は、酸素の非存在下での急速な加熱を通じたバイオマスの熱化学的分解を意味する。用語「水熱液化法(hydrothermal liquefaction)」(HTL)は、適温および高圧下で、湿潤バイオマスを、クルード様オイルへと変換するために使用される熱解重合プロセスを意味する。
【0018】
リグノセルロース系バイオマス、例えば森林収穫残材のような材料または製材所の副生成物など、から製造されるバイオオイルおよびバイオクルードの例としては、例えば、急速熱分解を行うことによって製造されるリグノセルロース系熱分解液(LPL)、および、水熱液化法を行うことにより製造されるHTL-バイオクルードなどが挙げられる。
【0019】
植物ベースの脂肪およびオイルのさらなる例は、クラフト法(木材パルプ化)の副生成物として得られる粗トール油(CTO)ならびにその誘導体、例えばトール油ピッチ(TOP)、粗脂肪酸(CFA)、トール油脂肪酸(TOFA)および蒸留トール油(DTO)などが挙げられる。
【0020】
粗トール油は、樹脂酸、脂肪酸および不けん化物を含む。樹脂酸は、テルペンの酸化および重合反応から得られる有機酸の混合物である。粗トール油中の主な樹脂酸は、アビエチン酸であるが、アビエチン酸誘導体および他の酸、例えばピマール酸なども見られる。脂肪酸は、長鎖モノカルボン酸であり、そして、硬材および軟材中に見られる。粗トール油中の主な脂肪酸は、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸である。不けん化物は、中性化合物であり塩を形成するために水酸化ナトリウムと反応しないため、石鹸に変換され得ない。それらとしては、ステロール、より高級なアルコール、および炭化水素が挙げられる。ステロールは、水酸基も含むステロイド誘導体である。
【0021】
用語「トール油ピッチ(tall oil pitch)(TOP)」は、粗トール油(CTO)蒸留プロセスからの残渣塔底留分を意味する。トール油ピッチは典型的には、トール油ピッチの総重量に対して、34~51wt%の遊離酸、23~37wt%のエステル化された酸、および25~34wt%のけん化できない中性化合物を含む。遊離酸は、典型的には、デヒドロアビエチン酸、アビエチンおよび他の樹脂酸からなる群より選択される。エステル化された酸は、典型的には、オレイン酸およびリノール酸からなる群より選択される。けん化できない中性化合物は、典型的には、ジテルペンステロール、脂肪アルコール、ステロール、およびステロール脱水物からなる群より選択される。
【0022】
用語「粗脂肪酸(crude fatty acid)(CFA)」は、CTOの精製(例えば、減圧下での蒸留、抽出、および/または結晶化など)によって得られ得る脂肪酸含有材料を意味する。用語「トール油脂肪酸(tall oil fatty acid)(TOFA)」は、粗トール油(CTO)蒸留プロセスの脂肪酸に富んだ留分を意味する。TOFAは、典型的には、脂肪酸を主に、典型的には、TOFAの総重量に対して少なくとも80wt%で、含む。典型的には、TOFAは、10wt%より少ないロジン酸を含む。
【0023】
用語「蒸留トール油(distilled tall oil)(DTO)」は、粗トール油(CTO)蒸留プロセスの樹脂酸に富んだ留分を意味する。DTOは、典型的には、脂肪酸を主に、典型的には、DTPの総重量に対して55~90wt%で、および、ロジン酸を、典型的にはDTPの総重量に対して10~40wt%のロジン酸を含む。典型的には、DTOは、蒸留トール油の総重量に対して10wt%より少ないけん化できない中性化合物を含む。
【0024】
用語「動物ベースの脂肪およびオイル(animal based fats and oils)」は、動物起源の脂肪および/またはオイル、すなわち、動物起源の液体材料を意味する。動物ベースの脂肪およびオイルの例としては、これらに限定される訳ではないが、例えば、スエット、獣脂、脂身、ラード、鯨油、乳脂、魚油、家禽オイルおよび家禽脂などが挙げられる。
【0025】
用語「微生物油(microbial oils)」は、微生物によって産生されるトリグリセリド(脂質)を意味する。
【0026】
用語「海藻オイル(algal oils)」は、海藻に直接的に由来するオイルを意味する。
【0027】
用語「化石廃棄物ベースのオイル(fossil waste-based oils)」は、廃プラスティックまたは廃タイヤのような廃棄物流から製造されるオイルを意味する。化石廃棄物ベースのオイルの例としては、例えば、廃プラスティック熱分解オイル(WPPO)および廃タイヤ熱分解オイル(ELTPO)などが挙げられる。
【0028】
用語「廃棄物オイル(waste oils)」は、汚染を通じて、不純物の存在または当初の特性の損失に起因して当初の目的にそぐわなくなった任意のオイルを意味する。廃棄物オイルの例としては、使用済み潤滑油(ULO)、油圧オイル、変圧器オイルまたは金属加工において使用されたオイルなどが挙げられる。
【0029】
本発明において、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、典型的には、植物ベースの脂肪およびオイル、動物ベースの脂肪およびオイル、化石廃棄物ベースのオイル、廃棄物オイル、海藻オイル、および微生物オイルからなる群より選択される。
【0030】
本発明のリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の具体例としては、例えば、これらに限定される訳ではないが、例えば、スエット、獣脂、脂身、ラード、鯨油、乳脂、魚油、家禽オイルおよび家禽脂などの動物ベースの脂肪およびオイル;例えばパームオイルスラッジ、菜種油(rapeseed oil)、キャノーラ油、菜種油(colza oil)、ひまわり油、大豆油、麻実油、オリーブオイル、亜麻仁油、綿実油、マスタードオイル、パーム油、落花生油、ひまし油、およびココナッツオイル、リグノセルロース系熱分解液(LPL)、HTL-バイオクルード、粗トール油(CTO)、トール油ピッチ(TOP)、粗脂肪酸(CFA)、トール油脂肪酸(TOFA)および蒸留トール油(DTO)などの植物ベースの脂肪およびオイル;微生物オイル;海藻オイル;例えば使用済み料理油、イエローおよびブラウングリースなどの食品産業のリサイクルされた脂肪または種々の廃棄物流;遊離脂肪酸、リンおよび/または金属を含有する任意の脂質、酵母またはかび製品に由来するオイル、リサイクルされた食事性脂肪;遺伝子工学によって製造された出発物質、ならびに該フィードストックの任意の混合物が挙げられる。
【0031】
本発明の一実施形態において、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、粗トール油(CTO)、トール油ピッチ(TOP)、トール油脂肪酸(TOFA)、粗脂肪酸(CFA)、トール油脂肪酸(TOFA)、および蒸留トール油(DTO)からなる群より選択され、より特には、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、粗トール油(CTO)または、トール油ピッチ(TOP)である。
【0032】
本発明の方法によって処理されるリサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、多量のシリコン化合物を含む。本発明のリサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、1ppmより多いSiを含む。特には、本発明のリサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、10ppmより多いSiを含み、より特には、本発明のリサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、15ppmより多いSiを含み、および、さらにより特には、本発明のリサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、20ppmより多いSiを含む。
【0033】
本発明の方法によって処理されるリサイクルされたまたは再生可能な有機材料はまた、さらなる不純物、例えばリンおよび/または金属をリン脂質、石鹸および/または塩の形状で含む不純物などを含み得る。不純物は例えば、リン酸塩または硫酸塩、鉄塩または有機塩、石けんまたはリン脂質の形状であってもよい。バイオマスベースの脂質材料中に存在し得る金属不純物は、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、例えばナトリウムもしくはカリウム塩、またはマグネシウムもしくはカルシウム塩、または該金属の任意の化合物である。
【0034】
したがって、本明細書においてリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を精製するための方法が提供され、ここで、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、シリコン化合物として1ppmより多いシリコンを含み、該方法は、
(i)揮発性のシリコン化合物である主要部分を含む蒸気留分、および
(ii)以下の工程(a)において提供されるリサイクルされたまたは再生可能な有機材料よりも少ないシリコンを含む加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料留分
を得るために、
(a)リサイクルされたまたは再生可能な有機材料を提供する工程、
(b)リサイクルされたまたは再生可能な有機材料を加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を形成するために加熱処理する工程であって、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料中に存在するシリコン化合物の少なくとも一部が揮発性のシリコン化合物へと変換される工程、および
(c)加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料から揮発性のシリコン化合物を蒸発させる工程を含む。
【0035】
加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料は優位には、工程(a)において提供されるリサイクルされたまたは再生可能な有機材料よりも少ない、好ましくは、工程(a)において提供されるリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の当初のシリコン含有量の50%より少ない、より好ましくは30%より少ないシリコンを含む。
【0036】
該方法は任意には、さらに、(d)精製されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を得るために、水素化処理触媒の存在下で加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料留分を水素化処理する工程を含む。
【0037】
用語「水素化処理(hydrotreating)」は、水素の反応が、特にはオイル精製の一部として、例えば酸素、硫黄、窒素、リン、シリコンおよび金属などの不純物を除去するために使用される化学工学プロセスを意味する。
【0038】
水素化処理は、一またはそれ以上のリアクターユニットまたは触媒床での一またはいくつかの工程で行われ得る。
【0039】
工程(d)は、典型的には、持続的な水素流の下で達成される。理想的な結果を達成するために、工程(d)における持続的な水素流は、好ましくは、500~2000n-L/Lである、より好ましくは、800~1400n-L/LであるH2/フィード比を有する。
【0040】
工程(d)において、水素化処理は、優位には、270~380℃の温度で、好ましくは275~360℃で、より好ましくは300~350℃で行われる。典型的には、工程(d)における圧力は、4~20MPaである。
【0041】
工程(d)における水素化処理触媒は、好ましくは、周期表においてIUPACの第6、8または10族から選択される少なくとも一つの成分を含む。好ましくは、工程(d)における水素化処理触媒は、担持されたPd、Pt、Ni、NiW、NiMoまたはCoMo触媒であり、そして、担体は、ゼオライト、ゼオライト-アルミナ、アルミナおよび/またはシリカであり、好ましくは、NiW/Al23、NiMo/Al23またはCoMo/Al23である。特には、水素化処理触媒は、硫化NiW、NiMOまたはCoMo触媒である。
【0042】
リサイクルされたまたは再生可能な有機材料が加熱され、および、所望の温度で維持される時間、すなわち滞留時間は、工程(d)において、典型的には、1~300分、好ましくは、5~240分、より好ましくは、30~90分である。
【0043】
適用可能な水素化処理工程(d)は、精製された、水素化処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を提供する。精製された、水素化処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、優位には、工程(a)において提供されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の当初のシリコン含有量の20%より少ない、好ましくは10%より少ない、より好ましくは5%より少ない量を含む。
【0044】
理想的な結果を達成するために、水素化処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の一部は、工程(d)にリサイクルされてもよい。好ましくは、新鮮なフィード、すなわち工程(c)で得られる精製されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の、リサイクルされた水素化されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料に対する比は、2:1~20:1である。
【0045】
特定の実施形態において、工程(d)は、(d1)加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料留分を水素化脱酸素(HDO)する工程によって達成される。これは好ましくは、HDO触媒の存在下、290~350℃の温度で、4~20MPaの圧力下、および持続的な水素流の下、達成される。
【0046】
用語「水素化脱酸素(hydrodeoxygenation)(HDO)」は、(HDO)触媒の影響下の、水素分子の働きによる酸素の水としての除去を意味している。
【0047】
HDO触媒は、例えば、NiMo-、CoMo-、NiW-触媒およびそれらの任意の混合物からなる群より選択され得る。好ましくは、HDO触媒は、硫化NiW、NiMoまたはCoMo触媒である。
【0048】
優位には、持続的な水素流は、500~2000n-L/L、好ましくは、800~1400n-L/LであるH2/フィード比を有する。
【0049】
好ましくは、工程(d1)は、1wt%未満の酸素を含む、精製されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を得るために行われる。
【0050】
別の実施形態において、工程(d)は、(d2)加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を水素化脱流(HSD)する工程によって達成される。用語「水素化脱流(hydrodesulfurisation)(HDS)」は、(HDS)触媒の影響下の、水素分子の働きによる硫黄の硫化水素としての除去を意味している。
【0051】
別の実施形態において、工程(d)は、(d3)加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を水素化メタライゼーション(HDM)する工程によって達成される。用語「水素化脱金属反応(hydrodemetallization)(HDM)」は、(HDM)触媒を用いて金属をトラップすることによる金属の除去を意味している。
【0052】
別の実施形態において、工程(d)は、(d4)加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を水添脱窒素(HDN)する工程によって達成される。用語「水添脱窒素(hydrodenitrification)(HDN)は、(HDN)触媒の影響下の、水素分子の働きによる窒素の除去を意味している。
【0053】
別の実施形態において、工程(d)は、(d5)加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を水素化脱芳香化(HDA)する工程によって達成される。用語「水素化脱芳香化(hydrodearomatisation)(HDA)」は、(HDA)触媒の影響下の、水素分子の働きによる芳香族化合物の飽和または開環を意味している。
【0054】
工程(b)において、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料中に含まれているシリコン含有不純物を分裂させる熱反応を引き起こすように加熱され、加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料からその後除去され得る揮発性のシリコン化合物を生み出す。具体的には、汚染防止剤から生じるポリジメチルシロキサン(PDMS)は、処理条件下、揮発性のポリジメチルシクロシロキサン(PDMCS)へと分解する。
【0055】
工程(b)において、フィード、すなわちリサイクルされたまたは再生可能な有機材料中の水分含有量は、優位には、200~5000ppmで変わり得る。リサイクルされたまたは再生可能な有機材料が5000ppmより多い量の水を含んでいる場合、それは、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料中の水分含有量を5000ppm未満に低下させるために当業者にとって公知の任意の適切な方法によって工程(b)の前に除去され得る。
【0056】
工程(b)の加熱処理は、典型的には、180~325℃の任意の温度で行われる。理想的な結果を達成するために、工程(b)は、200~300℃で、好ましくは240~280℃で行われる。
【0057】
リサイクルされたまたは再生可能な有機材料が加熱され、および、所望の温度で維持される時間、すなわち滞留時間は、工程(b)において、典型的には、1~300分、好ましくは、5~90分、より好ましくは、20~40分である。
【0058】
工程(b)における加熱処理での圧力は、典型的には、500~5000kPa、好ましくは800~2000kPaである。
【0059】
工程(b)における圧力範囲は、水の揮発性によって影響され、そして、特には加熱処理温度において水の沸騰の平衡圧力よりもわずかに高い加熱処理圧力を維持することが優位である。低すぎる圧力は、揮発性化合物を水のように作動させ、そして、脂肪酸の留分を気相へと送るであろう。有機揮発物のキャリーオーバーは、水またはストリッピングの存在により増大される。
【0060】
工程(b)の加熱処理の後、加熱処理に起因して生み出された、または加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料中に存在していた揮発物質が除去される。したがって、工程(c)において、加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料は、一またはそれ以上の段階で加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料からの揮発性シリコン化合物の蒸発へと付される。工程(c)において、蒸発は、優位には、145~250℃、特には150~225℃である任意の温度で達成される。理想的な結果を達成するために、工程(c)は、160~200℃、好ましくは160~180℃の温度で行われる。
【0061】
工程(c)における減圧は、揮発性のSi化合物の蒸発が達成されるようなものとされる。典型的には、工程(c)における圧力は、0.1~5kPa、好ましくは0.1~3kPaである。
【0062】
蒸発された重量は、好ましくは、加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の1~10wt%、好ましくは1~8wt%、より好ましくは1~5wt%、さらに好ましくは1~3wt%、の蒸発に調整されるべきである。
【0063】
適用可能な蒸発工程(c)は、(i)揮発性のシリコン化合物である主要部分を含む蒸気留分、および(ii)工程(a)において提供されるリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の当初のシリコン含有量の50%未満、好ましくは30%未満を含む加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料留分を提供する。
【0064】
工程(c)における蒸発は、加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料からの揮発物質の分離のために当業者によって適切であると考えられる任意の蒸発方法によって達成され得る。適切な例としては例えば、これらに限定される訳ではないが、例えば、流下薄膜型蒸発、ライジングフィルム蒸発、薄膜蒸発およびフラッシュ蒸発が挙げられる。蒸発は、一またはそれ以上の段階で達成され得る。いくつかの蒸発方法、例えば薄膜蒸発およびフラッシュ蒸発が組み合わせられ得ることも理解されるべきである。本発明の好ましい蒸発方法は、一段または多段フラッシュ蒸発である。フラッシュ室における高い圧力差に起因して、薄膜蒸発と比較してフラッシュ蒸発では、より少ない蒸発量がより良好な物質移動を提供するために必要とされる。例えば、加熱処理後、トール油ピッチ(TOP)のための典型的な粗トール油(CTO)の薄膜蒸発プロセスにおいてと同じ方法および機器を適用することは、フラッシュ蒸発と比較して熱消費を顕著に増大させる。
【0065】
理想的な温度、圧力、蒸発される質量、およびいくつのフラッシュ段が使用されるかは、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料の組成および質、ならびにまた、工程(b)の加熱処理パラメーター(温度、圧力および滞留時間)に依存する。
【0066】
さらに、加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の最初の混合物に水を加えることが好ましい。最初の加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料へわずかな割合の水の添加は、通常の蒸発と比較して同じレベルのSi除去を達成しながら、より低い温度およびより高い真空圧の使用を可能にする。より重要なことには、揮発性脂肪酸のより少ない損失しかないことであり、これは、水無しでの蒸発と比較して脂肪酸の廃棄物の量を半分に低減する。
【0067】
したがって、本発明の一実施形態において、水が加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料へと添加され、したがって、蒸発工程(c)の前の水含有量は、加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の総重量の1~5wt%、好ましくは1.5~4wt%、より好ましくは2~3wt%である。
【0068】
図1は、本発明の方法の第1の例示的なプロセスフローを示している。
【0069】
図1を参照して、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料のフィード、具体的にはトール油ピッチ(TOP)、10が、工程(b)として本明細書中において説明されるように、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料を加熱処理20する工程へと付される。加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料はその後、工程(c)として本明細書中において説明されるように、蒸発され30、そして、工程(a)において提供されるリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の当初のシリコン含有量の50%未満、好ましくは30%未満を含む加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料留分31を含む塔底、および揮発性のシリコン化合物である主要部分を含む蒸気留分32が得られる。加熱処理されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料はその後、工程(a)41において提供されるリサイクルされたまたは再生可能な有機材料の当初のシリコン含有量の20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満を含むリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を得るために、工程(d)40として本明細書中において説明されるように、水素化処理、特には水素化脱酸素へと付され得る。精製されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料41は、その後触媒的なアップグレーディング50へと付され得る。
【0070】
リサイクルされたまたは再生可能な有機材料が、本発明方法にしたがって精製された後、それはさらなる処理、例えば触媒的なアップグレーディングなどに付されてもよい。このような触媒的なアップグレーディングプロセスとしては例えば、これらに限定される訳ではないが、接触分解、接触水素化分解、熱接触分解、触媒水素化、流動接触分解、触媒的ケトン化、および触媒的エステル化などが挙げられる。このようなプロセスは、リサイクルされたまたは再生可能な有機材料が十分に純粋でかつ不純物を含んでいないことを必要とし、そうでない場合、触媒プロセスを妨げたり、プロセス中に存在する触媒を汚染する可能性がある。
【0071】
したがって本発明はさらに、リサイクルされたまたは再生可能な炭化水素を製造するためのプロセスであって、(x)本明細書中で説明されるようにリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を精製する工程、および(y)精製されたリサイクルされたまたは再生可能な有機材料を精油変換プロセスへと付す工程であって、該精油変換プロセスが、少なくとも一つのリサイクルされたまたは再生可能な炭化水素を得るために、例えば水素化分解、または水蒸気分解などのフィードの分子量を変化させること、例えば熱接触分解、流動接触分解または水素化処理、特には水素化脱酸素または水素化脱硫などのフィードからのヘテロ原子の除去、例えば水素化処理、熱接触分解、または流動接触分解などのフィードの飽和度を変化させること、例えば異性化などのフィードの分子構造を組み替えること、または、それらの任意の組み合わせを含む工程、を含むプロセスを提供する。
【0072】
本発明のプロセスの典型的な一実施形態において、リサイクルされたまたは再生可能な炭化水素は、再生可能な交通燃料または燃料成分である。
【0073】
本発明のプロセスの一実施形態において、工程(y)は、水素化分解である。このような実施形態において、工程(y)は、好ましくは、軽度水素化分解(MHC)精製所ユニット内で、特には、水素化分解触媒の存在下で、行われる。
【0074】
本発明のプロセスの別の一実施形態において、工程(y)は、水蒸気分解である。このような実施形態において、工程(y)は、好ましくは、水蒸気分解ユニット内で行われる。
【0075】
本発明のプロセスのさらなる別の一実施形態において、工程(y)は異性化である。このような実施形態において、工程(y)は、好ましくは、異性化ユニット内で行われる。
【0076】
本発明のプロセスのさらなる別の一実施形態において、工程(y)は水素化処理である。このような実施形態において、工程(y)は、好ましくは、水素化処理ユニット内で行われる。
【0077】
本発明のプロセスのさらなる別の一実施形態において、工程(y)は熱触媒分解(TC)である。このような実施形態において、工程(y)は、好ましくは、熱触媒分解ユニット内で行われる。
【0078】
本発明のプロセスのさらなる別の一実施形態において、工程(y)は流動接触分解(FCC)である。このような実施形態において、工程(y)は、好ましくは、流動接触分解ユニット内で行われる。
【実施例
【0079】
実施例1
粗製および加熱処理されたトール油ピッチ(TOP)が様々な条件下で蒸留へと付された。得られた蒸留物および塔底留分の収率およびシリコン含有量が、粗TOPに関する表1(参照)および加熱処理されたTOPに関する表2に示されている。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
表1および表2から明らかなように、加熱処理されたTOPの塔底留分中のシリコン含有量は、粗TOPのものと比較して顕著に低い。
【0083】
実施例2
6つのトール油ピッチ品質が水無しおよび水有り(3%)でフラッシュ蒸発された。プロセス条件は、表3(水無し)および表4(水有り)に示されている。
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
水添加有りおよび無しの両方において、フラッシュ蒸発の平均Si除去効率は、試験された6つnTOP品質の全ての平均で73%であった(表5)。より重要なことに、揮発性脂肪酸のより少ない損失しかなく、これは、水無しでのフラッシングと比較して脂肪酸の廃棄物の量を半分に低減する(表4)。
【0088】
実施例3
加熱処理されたおよびフラッシュ蒸発されたTOPサンプルが、種々の温度で水素化処理(水素化脱酸素)された。他のプロセス条件、圧力、および単位時間当たりの重量空間速度(WHSV)は一定に保たれた。圧力は5000kPaであり、および、WHSVは0.95 1/hであった。
【0089】
【表6】
【0090】
加熱処理されたおよびフラッシュ蒸発されたTOPにおける水素化処理のSi除去効率は、温度が上昇された場合に増大する(表6)。
【0091】
当該技術分野における当業者にとって、技術の進歩にともない、発明の概念は様々な方法によって実施され得ることは明らかであろう。本発明およびその実施形態は、前述された実施例に限定されることなく、請求項の範囲内において変更され得るであろう。
図1
図2