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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/26 20060101AFI20220915BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20220915BHJP
   E02F 3/43 20060101ALI20220915BHJP
   G07C 3/00 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
E02F9/26 B
E02F9/20 N
E02F3/43 C
G07C3/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021509546
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013468
(87)【国際公開番号】W WO2020196674
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2019059387
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】泉 枝穂
(72)【発明者】
【氏名】早川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中城 健太
(72)【発明者】
【氏名】金成 靖彦
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-108429(JP,A)
【文献】特開2016-224038(JP,A)
【文献】特開2018-003386(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107407077(CN,A)
【文献】特開2006-144292(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158539(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/26
E02F 9/20
E02F 3/43
G07C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体に取り付けられた作業機と、
前記作業機に対するオペレータ操作を検出するための操作センサと、
前記作業機を駆動する油圧アクチュエータの圧力を検出するための圧力センサと、
前記作業機の姿勢を検出するための姿勢センサと、
前記車両本体に取り付けられ、複数の測位衛星から衛星信号を受信するためのアンテナと、
前記アンテナで受信された衛星信号に基づいて前記車両本体の位置を演算する受信機と、
前記受信機が前記車両本体の位置を演算する際に利用する補正信号を基地局から受信するための第1通信機と、
施工目標面の位置が記憶された記憶装置を有し、前記記憶装置に記憶された前記施工目標面の位置、前記受信機で演算された前記車両本体の位置、及び前記姿勢センサで検出された前記作業機の姿勢に基づいて前記施工目標面と前記作業機の高さ方向における位置の差分の大きさを演算するコントローラとを備えた作業機械において、
前記コントローラは、前記作業機による掘削中に、前記位置の差分の大きさが所定値を超えたとき、その時刻を基準とした所定期間における前記操作センサ、前記圧力センサ、前記姿勢センサ、前記受信機、及び前記第1通信機に関する情報のスナップショットデータを前記記憶装置に記録し、そのスナップショットデータに基づいて前記位置の差分の大きさが前記所定値を超えた原因を診断することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1の作業機械において、
前記コントローラは、
前記位置の差分の大きさが前記所定値を超えたとき、前記記憶装置に記録した前記スナップショットデータに基づいて、前記操作センサ、前記圧力センサ、前記姿勢センサ、前記受信機、及び前記第1通信機の少なくとも1つの機器の故障の有無を診断し、
前記少なくとも1つの機器に故障が検出されなかったとき、前記第1通信機の前記基地局との通信状態に関する異常原因と、前記受信機での測位に関する異常原因とを診断することを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1の作業機械において、
前記記憶装置に記憶された情報を外部のサーバに送信するための第2通信機をさらに備え、
前記コントローラは、前記位置の差分の大きさが前記所定値を超えたとき、前記第2通信機を介して前記スナップショットデータを前記サーバに送信することを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項3の作業機械において、
前記コントローラは、前記位置の差分の大きさが前記所定値を超えたとき、前記作業機械の周囲に位置する他の作業機械のコントローラに対して、当該他の作業機械におけるスナップショットデータを前記サーバに送信させる指令を前記第2通信機を介して送信することを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1の作業機械において、
前記車両本体の周囲を撮影するカメラをさらに備え、
前記スナップショットデータには、前記位置の差分の大きさが前記所定値を超えた時刻を基準とした所定期間に前記カメラにより撮影された画像が含まれることを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項2の作業機械において、
前記コントローラによる診断結果が表示されるモニタをさらに備えることを特徴とする作業機械。
【請求項7】
作業機械と双方向通信可能に接続されたサーバ備え、前記作業機械で発生した異常の診断を前記サーバにより行う作業機械の管理システムにおいて、
前記作業機械の作業機に対するオペレータ操作を検出するための操作センサと、
前記作業機械の作業機を駆動する油圧アクチュエータの圧力を検出するための圧力センサと、
前記作業機械の作業機の姿勢を検出するための姿勢センサと、
複数の測位衛星から衛星信号を受信するためのアンテナと、
前記アンテナで受信された衛星信号に基づいて前記作業機械の車両本体の位置を演算する受信機と、
前記受信機が前記作業機械の車両本体の位置を演算する際に利用する補正信号を基地局から受信するための第1通信機と、
施工目標面の位置が記憶された記憶装置を有し、前記記憶装置に記憶された前記施工目標面の位置、前記受信機で演算された前記作業機械の車両本体の位置、及び前記姿勢センサで検出された前記作業機械の作業機の姿勢に基づいて前記施工目標面と前記作業機械の作業機の高さ方向における位置の差分の大きさを演算するコントローラとを備え、
前記コントローラは、前記作業機械の作業機による掘削中に、前記位置の差分の大きさが所定値を超えたとき、その時刻を基準とした所定期間における前記操作センサ、前記圧力センサ、前記姿勢センサ、前記受信機、及び前記第1通信機に関する情報のスナップショットデータを前記記憶装置に記録し、そのスナップショットデータを前記サーバに送信し、
前記サーバは、前記コントローラから送信された前記スナップショットデータに基づいて、前記作業機械において前記位置の差分の大きさが前記所定値を超えた原因を診断することを特徴とする作業機械の管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,施工現場において情報化施工の導入が進められている。情報化施工とは,調査や設計,施工,検査,管理などの工程のうち,施工に注目して,電子情報を活用して,情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)により施工の高効率化を実現するシステムである。情報化施工に対応する作業機械としては,車体位置,フロント作業機の姿勢及び施工目標面の位置の情報をモニタに表示するガイダンス機能,フロント作業機の先端に位置するバケットが施工目標面の下方に侵入することを防止するマシンコントロール機能を搭載する油圧ショベルが知られている。このような情報化施工に対応した作業機械は,3次元座標情報を持つ情報化施工データをもとに,オペレータに対して情報提示し,作業支援,運転支援する機能を提供する。
【0003】
作業機械は,施工主が要求する工期までに完工するように工事現場などで連続して稼働されることが多いため,作業機械で故障等の異常が発生した場合には修理等を迅速におこなう必要がある。情報化施工に対応した作業機械においては,車体の位置やフロント作業機の姿勢などを演算する為に,衛星測位システム,姿勢センサ,通信端末,無線機,圧力センサ,電磁弁を含む油圧機器等を車体に搭載する必要がある。これらの機器が故障した場合,情報化施工機としての機能を失うことになり工期にも影響が出てしまう。そのため,現場で機械に異常が発生した場合には,各機器の状態を把握し,異常の原因が各機器の故障なのかどうかをいち早く見極めた上でその後の対応を決定する必要がある。
【0004】
作業機械に異常が発生したか否かを管理する従前からのシステムとしては,油圧ショベルの稼働管理システムが知られている。典型的な稼働管理システムにおける油圧ショベルのコントローラでは,エンジンの始動停止やポンプ油圧等の搭載機器の稼働状態に関する稼働データを記録・収集して一日単位のデータにまとめ,例えば翌日の稼働開始時に衛星通信を通じて前日の稼働データを地上局のコンピュータに送信することが行われる。地上局のコンピュータは,受信した稼働データを例えばインターネット回線を介して,作業現場から離れた管理部のコンピュータ(サーバ)に送信する。
【0005】
この種の稼働管理システムに関して,特許文献1に記載のシステムは,作業現場における油圧ショベルのより詳細な稼働管理を行うために,作業現場における油圧ショベルの複数の作業位置情報と作業状態を油圧ショベルのキャビン内のモニタ(表示装置)に表示することにより,従前に比してより詳細な可動管理を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-114580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで,情報化施工に対応した油圧ショベルでは,従前の油圧ショベルと異なり,複数の測位衛星から送信される信号を2本のGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)用のアンテナで受信して地理座標系における油圧ショベル(上部旋回体)の位置及び方位角を演算するRTK(Real Time Kinematic)-GNSS受信機と,RTK-GNSS受信機が高精度な測位演算の実現に利用する補正情報を基準局(基準点)から受信するための無線機が搭載されることがある。このような情報化施工に対応した作業機械(「情報化施工機」と称することがある)で異常が発生した場合,上記で触れた搭載機器の故障の他,測位衛星や基準局との通信状態に影響を与える周囲環境(例えば,直接的な電波の到達を阻害する障害物や,妨害電波の存在)が原因であることも考えられる。すなわち,従前の稼働管理システムでは着目されていなかったこれらの周囲環境の情報等も考慮して異常の原因を特定することが重要である。特に,情報化施工機では,マシンコントロール機能を利用してアクチュエータの一部を自動で稼働することもあるため,異常現象が起きたことを記録し調査することが今まで以上に重要となる。
【0008】
しかしながら,特許文献1に記載の技術は,従前からの油圧ショベルの稼働管理を詳細に行うものではあるが,施工目標面を施工する情報化施工機を想定していない。そのため,例えばバケットが施工目標面の下方に潜り込んだ場合を異常として検出できず,また,異常発生時に記録される油圧ショベルに関する情報には測位衛星や基準局との通信状態を示す情報が含まれていないため,情報化施工機で発生した異常の原因を正確に特定できないという課題がある。
【0009】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので,その目的は,情報化施工機としての動作に不具合が生じた場合に,機器の故障の他,測位衛星や基準局との通信状態など,施工に関連する周囲状況なども含めて原因の特定ができる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、車両本体に取り付けられた作業機と、前記作業機に対するオペレータ操作を検出するための操作センサと、前記作業機を駆動する油圧アクチュエータの圧力を検出するための圧力センサと、前記作業機の姿勢を検出するための姿勢センサと、前記車両本体に取り付けられ、複数の測位衛星から衛星信号を受信するためのアンテナと、前記アンテナで受信された衛星信号に基づいて前記車両本体の位置を演算する受信機と、前記受信機が前記車両本体の位置を演算する際に利用する補正信号を基地局から受信するための第1通信機と、施工目標面の位置が記憶された記憶装置を有し、前記記憶装置に記憶された前記施工目標面の位置、前記受信機で演算された前記車両本体の位置、及び前記姿勢センサで検出された前記作業機の姿勢に基づいて前記施工目標面と前記作業機の高さ方向における位置の差分の大きさを演算するコントローラとを備えた作業機械において、前記コントローラは、前記作業機による掘削中に、前記位置の差分の大きさが所定値を超えたとき、その時刻を基準とした所定期間における前記操作センサ、前記圧力センサ、前記姿勢センサ、前記受信機、及び前記第1通信機に関する情報のスナップショットデータを前記記憶装置に記録し、そのスナップショットデータに基づいて前記位置の差分の大きさが前記所定値を超えた原因を診断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると,異常発生時に情報化施工に必要な機器(例えば,車両本体の位置を演算する受信機と,補正信号を基地局から受信するための第1通信機)に関する情報のスナップショットデータを取得できるので,そのスナップショットデータを参照することで機器の故障だけでなく,測位衛星や基準局との通信状態に関する異常原因も特定することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るショベルの構成例を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る管理システムの構成例を示す概略図である。
図3図1の油圧ショベルに設定された車体座標系を表す図である。
図4】本発明の実施形態に係る制御コントローラ100の機能ブロック図を表す図である。
図5】本発明の実施形態に係る異常状態判定部114の機能ブロック図を表す図である。
図6】施工目標面と油圧ショベル(フロント作業機)の位置関係を表す図である。
図7】本発明の実施形態に係る制御コントローラ100による異常診断処理のフローチャートを表す図である。
図8図7中の処理1のフローチャートを表す図である。
図9図7中の処理2のフローチャートを表す図である。
図10図7中の処理3のフローチャートを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下,本発明の実施の形態に係る作業機械の管理システムについて説明する。本実施の形態は,作業機械としてクローラ式の油圧ショベルに本発明を適用したものであり,油圧ショベルのフロント作業機と施工目標面の距離(目標面距離)に基づいて異常発生の有無を判断するものである。なお,各図中,同じ部材には同じ符号を付し,重複した説明は適宜省略する。また,以下の説明では,同等の部材が複数存在する場合,符号の末尾にアルファベットの小文字を付して表記することがあるが,当該アルファベットの小文字を省略して当該複数の部材をまとめて表記することがある。例えば,同等の3つのバルブ10a,10a,10aが存在するとき,これらをまとめてバルブ10と表記することがある。
【0014】
図1は,本発明の実施の形態に係る油圧ショベル1の概略図である。図1において,油圧ショベル1は,車両本体2と,多関節型の作業機であるフロント作業機3とで構成されている。車両本体2は,走行モータ15a,15bにより駆動されるクローラで走行可能に構成された下部走行体5と,下部走行体5に対して旋回可能に設けられフロント作業機3が取り付けられた上部旋回体4とからなる。
【0015】
フロント作業機3は,ブーム6,アーム7,バケット(アタッチメント)8といった複数のフロント部材により構成されており,各フロント部材6,7,8はブームシリンダ9,アームシリンダ10,バケットシリンダ11により駆動される。
【0016】
フロント作業機3には,フロント作業機3の姿勢を検出するための複数の姿勢センサ20(20a,20b,20c)が搭載されている。姿勢センサ20aは,ブーム6の姿勢(回転角)を検出するためのブーム角センサで,姿勢センサ20bは,アーム7の姿勢(回転角)を検出するためのアーム角センサで,姿勢センサ20cは,バケット8の姿勢(回転角)を検出するためのバケット角センサである。なお,本実施形態の姿勢センサ20は,各フロント部材6,7,8の回転角を検出するポテンショメータであるが,各フロント部材6,7,8の傾斜角を検出する慣性計測装置を利用しても良い。上部旋回体4には,上部旋回体4の傾斜角(ピッチ角及びロール角)を検出する傾斜角センサ(例えば慣性計測装置)26a,26bが姿勢センサとして備わっている。
【0017】
上部旋回体4には,オペレータが搭乗する運転室12と,上部旋回体4を左右に旋回するための旋回油圧モータ13と,エンジン31や,エンジン31に駆動されて各油圧アクチュエータ9,10,11,13,15に作動油を供給する油圧ポンプ32,油圧ポンプ32から各アクチュエータ9,10,11,13,15に供給される作動油を制御するコントロールバルブ33などの装置が設けられている。
【0018】
さらに,上部旋回体4には,複数の測位衛星から衛星信号を受信するための2つのGNSSアンテナ28a,28bと,その2つのGNSSアンテナ28a,28bで受信された複数の衛星信号に基づいて地理座標系(グローバル座標系)における車両本体2(上部旋回体4)の位置及び方位角を演算するためのGNSS受信機21(図4参照)と,車両本体2(上部旋回体4)の周囲を撮影して車両本体2の周囲情報をセンシングするためのカメラ(周囲情報検出装置)22と,GNSS受信機21が車両本体2(上部旋回体4)の位置を演算する際に利用する補正信号を基準局から受信するための無線機(第1通信機)29と,外部管理用サーバ102(図2,4参照)を含む外部端末(例えば他の油圧ショベルの制御コントローラやその他のコンピュータ)と双方向通信をするための通信装置(第2通信機)23とが搭載されている。
【0019】
運転室12の中には,オペレータがフロント作業機3,上部旋回体4及び下部走行体5などを操作するための操作レバー(操作装置)17が収容されている。オペレータが操作レバー17を操作することにより,ブームシリンダ9,アームシリンダ10,バケットシリンダ11,旋回油圧モータ13,走行モータ15a,15bをそれぞれ駆動させることが可能である。本実施形態の操作レバー17は油圧パイロット式であり,オペレータが操作レバー17に入力した操作の検出は,操作レバー17の操作によって発生されるパイロット圧を圧力センサである操作センサ34(図4参照)で検出することで行われる。
【0020】
また,運転室12には,施工のための各種設定機能や表示機能を搭載したタッチパネル式ディスプレイ19が設置されている。本実施形態のタッチパネル式ディスプレイ19は,油圧ショベル1や施工に関する種々の情報を画面に表示する表示装置(モニタ)として機能するとともに,施工目標面を設定するための施工目標面設定装置24としても機能している。
【0021】
また,運転室12には,施工目標面の位置が記憶された記憶装置25を有する制御コントローラ(制御装置)100が設けられている。制御コントローラ100は,記憶装置25に記憶された施工目標面の位置と,GNSS受信機21で演算された車両本体2の位置と,姿勢センサ20で検出されたフロント作業機3の姿勢に基づいて施工目標面とフロント作業機3の距離である目標面距離を演算する。なお,本実施形態においては運転室12内部に設置しているが,制御コントローラ100や記憶装置25は運転室の外部に設置しても良い。また,記憶装置25は,制御コントローラ100内に設ける必要はなく,例えば制御コントローラ100と独立した外部記憶装置(例えば,半導体メモリ)としても良い。
【0022】
下部走行体5は履帯14a,14bを左右両側に有し,左右の履帯14a,14bが左右の走行モータ15a,15bによりそれぞれ駆動されることで,油圧ショベル1は走行する。上部旋回体4は下部走行体5に旋回輪16を介して回動可能に接続されており,旋回油圧モータ13により駆動される。
【0023】
図2は,本発明の実施形態に関わる管理システム101の構成例を模式的に表した図である。管理システム101は,複数の作業機械による施工の計画や進捗状況などを管理するものであり,それらの状況を可視化してユーザに提供する。
【0024】
図2の例では,或る施工現場において,作業機械として油圧ショベル1が稼働している。この施工現場の作業機械は,いずれも情報化施工を実施可能なICT作業機械(情報化施工機)である。なお,本実施形態では作業機械を油圧ショベル1としたが,ブルドーザやダンプトラックを対象としても良い。
【0025】
油圧ショベル1は,施工現場において,土砂の掘削,切土,盛土,整地などの作業をおこなう。外部管理用サーバ102は,例えば,演算処理装置(例えばCPU)と記憶装置(例えばROM,RAM)などを備えたコンピュータであり,サポートセンタ103に設置されたコンピュータ等の他の端末とインターネット等の通信ネットワークを介して接続されており,サポートセンタ103と相互通信可能になっている。例えばサポートセンタ103の端末では施工現場の設計地形が作成されており,その設計地形は外部管理用サーバ102を介して施工目標面データ(設計面データ)として油圧ショベル1に送信される。外部管理用サーバ102やサポートセンタ103の端末はそれぞれ複数で構成されていても良い。
【0026】
外部管理用サーバ102は,油圧ショベル1から送信される情報を受信しており,例えば,衛星通信や携帯電話通信を通じて各油圧ショベル1との間で情報を送受信する。外部管理用サーバ102は,通信ネットワークを通じて油圧ショベル1から送信される情報(例えば,後述のスナップショットデータ)を保存し,管理者やユーザが必要に応じてその情報を参照できるように管理している。
【0027】
図4に本実施形態の油圧ショベル1に搭載された制御コントローラ100の機能ブロック図を示す。制御コントローラ100は,演算処理装置(例えばCPU),記憶装置(例えば,ROM,RAM等の半導体メモリ)25,インタフェース(入出力装置)を備えており,記憶装置25内に予め保存されているプログラム(ソフトウェア)を演算処理装置で実行し,プログラム内で規定されているデータとインタフェースから入力されたデータに基づいて演算処理装置が演算処理を行い,インタフェースから外部に信号(演算結果)を出力する。なお,図示はしないが,GNSS受信機21も制御コントローラ100と同種のハードウェアを備えることができる。制御コントローラ100は,インタフェースを介して,GNSS受信機21,姿勢センサ20,施工目標面設定装置24(ディスプレイ19),カメラ(周囲情報検出装置)22,操作センサ34,動作状態情報取得装置27,ディスプレイ19,無線機(第1通信機)29,及び通信装置(第2通信機)23と接続されている。そして,制御コントローラ100は,記憶装置25内に格納されたプログラムを実行することで位置情報検出部110,姿勢演算部111,施工目標面演算部112,動作状態推定部113,異常状態判定部114,情報記録部115として機能する。
【0028】
GNSS受信機21は,地理座標系における車両本体2(上部旋回体4)の位置及び方位角を演算するための装置である。本実施形態では,GNSS受信機21は,2つのGNSSアンテナ28a,28bと接続されている。GNSSアンテナ28a,28bは,RTK-GNSS(Real Time Kinematic - Global Navigation Satellite Systems)用のアンテナであり,GNSS受信機21は,それぞれのアンテナ28a,28bの緯度,経度及び楕円体高からなる位置の座標値を測定可能である。また,測定した各GNSSアンテナ28a,28bの座標値に基づいて一方のGNSSアンテナ28aから他方のGNSSアンテナ28bへのベクトルを演算することで,上部旋回体4の方位角を演算できる。GNSS受信機21は,以上により算出された油圧ショベル1の位置と方位角(向き)の情報を制御コントローラ100に出力する。
【0029】
姿勢センサ20は,フロント作業機3の姿勢情報を取得するための装置であり,例えば,ブーム6,アーム7,バケット8に取り付けた角度センサで回転を計測するものである。ここで,油圧ショベル1の座標系(車体座標系)についての概略を図3に示す。X軸及びZ軸は,ブームピンを原点とし,車体上方方向をZ軸,前方方向をX軸,左方向Y軸とする車体座標系を表したものである。
【0030】
上部旋回体4には,ロール角θroll及びピッチ角θpitchを検出する傾斜角センサ26a,26bが取り付けられている。ブーム6の角度θbmは,姿勢センサ20aにより,上部旋回体4とブーム6を連結するブームピンの回転角度を計測することで検出される。アーム7の角度θamは,姿勢センサ20bにより,ブーム6とアーム7を連結するアームピンの回転角度を計測することで検出される。バケット8の角度θbkは,姿勢センサ20cにより,アーム7とバケット8を連結するバケットピンの回転角度を計測することで検出される。以上により算出された各部4,6,7,8の角度情報を制御コントローラ100に出力する。
【0031】
施工目標面設定装置24は,例えば,情報化施工用に準備されているディスプレイ19を兼用したコントローラであり,施工目標面の設定の他にも作業内容や各種設定を行うことができ,マシンガイダンスに関する設定も可能である。例えば,3次元の施工目標面データをUSBメモリなどを介して施工目標面設定装置24に入力することが可能である。また,ネットワークを介してサーバから入力することによっても施工目標面を読み込むことができる。この装置は,コントローラと兼用になっているものでも良いし,タブレットのような端末でも良い。
【0032】
カメラ(周囲情報検出装置)22は,車両本体2の周囲の状況に関する情報を取得するための装置であり,例えば,測位衛星から送信される衛星信号の障害物となる物体を検出するための装置である。図1中にカメラ22は上部旋回体4の後方に1台のみ設置しているが,上部旋回体4の周囲の状況をくまなく把握するために上部旋回体4の外周に沿って複数台設置しても良い。また,周囲情報検出装置22は,カメラに限らず,レーザレーダなどのセンサであっても良い。
【0033】
操作センサ34は,オペレータの操作を検出するためのセンサであり,本実施形態では,オペレータによる操作レバー17の操作に応じて出力されるパイロット圧を検出する圧力センサで,ある。
【0034】
動作状態情報取得装置27は,油圧ショベル(車体)1の動作状態に関する情報(動作状態情報)を取得するための装置である。動作状態情報には,エンジン31,油圧システム,姿勢センサ20,GNSS受信機21,施工目標面設定装置24,カメラ22,無線機29,通信装置23など油圧ショベル1に搭載されている各機器の動作状態に関する情報が含まれている。本実施形態では,フロント作業機3を動作させる油圧シリンダ9,10,11のボトム側油圧室及びロッド側油圧室にそれぞれ取り付けた圧力センサを動作状態情報取得装置27とし,その圧力センサの出力を制御コントローラ100に出力している。
【0035】
ディスプレイ19は,制御コントローラ100による異常原因の診断結果と各種情報を表示するための装置である。本実施形態では,ディスプレイ19は運転室12内に設置される液晶ディスプレイのモニタであり,その画面上には,各姿勢センサ20により取得された情報をもとに生成された油圧ショベル1を側面視した画像及び施工目標面の断面形状などの情報が表示される。
【0036】
記憶装置25は,制御コントローラ100が備える各種情報を記録するための装置である。記憶装置25は,制御コントローラ100から独立させて,例えばフラッシュメモリ等の不揮発性記憶媒体として,運転室12内にある専用の差し込み口を通じて着脱可能にすることも可能である。
【0037】
無線機(第1通信機)29は,GNSS受信機21が車両本体2(上部旋回体4)の位置を演算する際に利用する補正信号を基準局から受信するための通信機である。無線機29が受信した補正信号をGNSS受信機21での測位演算に利用すると測位精度が向上する。
【0038】
通信装置(第2通信機)23は,油圧ショベル1と外部の端末との間で相互通信をするための装置である。通信装置23は,例えば衛星通信を通じて,油圧ショベル1と遠隔地にあるサーバ102との間の情報の送受信をおこなう。具体的には,通信装置は,記憶装置25に記録された情報,又はそれらの情報に基づいて生成される二次的な情報をサーバ102に送信する。また,通信装置23は,携帯電話網,狭域無線通信網を通じて,油圧ショベル1と基地局との間の情報のやり取りを実現するようにしても良い。
【0039】
次に,制御コントローラ100における各機能について説明する。位置情報検出部110は,GNSS受信機21で演算したGNSSアンテナ28aとGNSSアンテナ28bの緯度,経度,高さ情報(地理座標系における座標値)に基づいて,図3に示した車体座標系上の任意の座標値を地理座標系における座標値に変換できる。車体座標系におけるGNSSアンテナ28aの座標値が,設計寸法やトータルステーションなどの測量機器による測定により既知であるとき,車体座標系と地理座標系とは,車体のピッチ角θpitch,ロール角θroll,及びGNSSアンテナ28aの車体座標系における位置座標,地理座標系を元に求められる座標変換パラメータを用いることで相互に変換可能であり,車体座標系の原点としているブームピンの地理座標系における位置座標を算出可能である。
【0040】
姿勢演算部111では,姿勢センサ20で算出された車体座標系における各フロント部材6,7,8の角度情報と,位置情報検出部110で算出されたブームピンの地理座標系における位置座標情報とにより,油圧ショベル1が施工に使用するバケット8の先端(爪先)の地理座標系における位置座標を算出する。また,姿勢演算部111は,ディスプレイ19で用いるための油圧ショベル1を側面視した画像を算出するための姿勢情報を演算できる。
【0041】
施工目標面演算部112では,施工目標面設定装置24から入力され記憶装置25に記憶された施工目標面の地理座標系における位置情報と,姿勢演算部111で演算されたバケット爪先の地理座標系における位置情報とに基づいて,そのバケット8の位置に対応する施工目標面の断面形状を演算する。ここで算出された施工目標面の断面形状は,目標面距離の演算と,ディスプレイ19で提示される施工目標面の断面形状などに利用される。なお,ここでは施工目標面は地理座標系で定義されていることとしたが,作業現場に設定された現場座標系で定義しても良い。
【0042】
動作状態推定部113では,操作センサ34や動作状態情報取得装置27より入力された情報に基づき,油圧ショベル1の動作内容を推定する。例えば,動作状態推定部113は,前述した車体位置情報や姿勢センサ情報,操作センサ情報や施工目標面情報より,油圧ショベル1が掘削中であるかどうかを判定する。上記情報のみでは,油圧ショベル1が実際に掘削作業をしているかどうかを判断できない場合があるため,各アクチュエータ9,10,11に付けた圧力センサ情報を用いて判別しても良い。また,動作状態推定部113は,記憶装置25に記憶された施工目標面の位置情報,GNSS受信機21で演算された車両本体2の位置情報,及び姿勢センサ20で検出されたフロント作業機3の姿勢情報に基づいて,施工目標面とフロント作業機3の距離である目標面距離D(図6参照)を演算する。なお,本実施形態では,目標面距離Dは図6に示すように施工目標面とバケット8の先端(爪先)の距離とし,施工目標面よりバケット8の先端が下方に位置する場合の目標面距離Dを負とする。
【0043】
異常状態判定部114では,姿勢センサ20,GNSS受信機21,施工目標面設定装置24,カメラ22,無線機29,通信装置23など油圧ショベル1に搭載されている各機器の異常に関する情報に基づいて,油圧ショベル1の動作に関して何が異常なのかを判定する。情報化施工機において,オペレータは提示された施工目標面に沿うように掘削するように操作をおこなうが,施工目標面の下方にバケット先端が侵入して実際に施工された結果が施工目標面に対して掘り過ぎてしまった場合,オペレータは異常の発生を認識することになる。それらの異常時において,異常状態判定部114は,機器自体の故障が原因であるのか,それとも衛星の受信状況や通信に関する電波が悪いといった状況なのかを判断する。続いて異常状態判定部114で実行される処理の詳細について説明する。
【0044】
ここで,バケット8の先端が施工目標面の上方に保持されるように少なくともブーム6(ブームシリンダ9)を制御するマシンコントロールを実施する情報化施工を例として,図5に,本実施形態に係る異常状態判定部114の機能ブロック図を示す。図5に示すように異常状態判定部114は,施工状態診断部201と,機器故障診断部202,及び状態診断部203として機能する。
【0045】
施工状態診断部201は油圧ショベル1による施工状態の診断を行って異常の有無を判定する部分である。図6に示すように,施工状態診断部201は,動作状態推定部113で演算された目標面距離Dと所定値d1とに基づいて,施工目標面に対して掘り過ぎが発生していないかどうかを判断して異常の有無を判定している。施工目標面に対して掘り過ぎが発生した場合にはフロント作業機3(バケット8の先端(爪先))は施工目標面の下方に位置する。本実施形態の施工状態診断部201は,目標面距離Dが所定値d1未満に達したとき,施工目標面に対して掘り過ぎが発生しており(即ち,施工状態が悪化しており),異常が発生していると判定する。所定値d1は,負の値であり,例えば要求精度範囲(-α[mm]<D<α[mm])の下限値である-α[mm]より小さい値が利用できる。
【0046】
施工状態診断部201で異常が発生しているという判定がされた場合,施工状態診断部201はスナップショットデータ記録指令を情報記録部115に出力する。スナップショットデータ記録指令は,情報記録部115にスナップショットデータ(後述)を記憶装置25に記録させるための指令である。スナップショットデータ記録指令には,情報記録部115に対してスナップショットデータを外部管理用サーバ102に送信させる指令を含めても良い。また,スナップショットデータ記録指令は,自車(油圧ショベル1)の周囲に位置する他の油圧ショベル(他車)の制御コントローラ100内の情報記録部115に対しても出力され得る。
【0047】
図4に示した情報記録部115は,スナップショットデータ記録指令が入力されたとき,その時刻を基準とした所定期間におけるスナップショットデータを記憶装置25に記録する部分である。本実施形態では,情報記録部115は,施工状態診断部201で異常が発生したと判定されたとき(即ち,目標面距離D<d1が成立したとき),その時刻を基準とした所定期間における操作センサ34,圧力センサ27,姿勢センサ20,GNSS受信機21,及び無線機(第1通信機)29に関する情報のスナップショットデータを記憶装置25に記録(記憶)する。スナップショットデータの記録範囲は,異常発生時を基準として所定時間前から開始しても良い。この場合,例えば,異常の発生の有無に関わらず各機器に関するデータ(将来的にスナップショットデータとなるデータ)を記憶装置25に一時的に記憶しておき,時間経過とともに当該データを消去する仕様とすれば良い。
【0048】
スナップショットデータ記録指令は,他の油圧ショベル1の制御コントローラ100から入力される場合もある。例えば,或る油圧ショベル1で異常が発生したと判定されたとき,当該或る油圧ショベル1の施工状態診断部201(制御コントローラ100)から当該或る油圧ショベル1を基準として所定距離内に位置する他の油圧ショベル1の情報記録部115(制御コントローラ100)に対してもスナップショットデータ記録指令を出力する。それにより,当該或る油圧ショベル1の異常発生時を基準とした所定期間内のスナップショットデータを当該他の油圧ショベルでも記録し,各油圧ショベル1のスナップショットデータを外部管理用サーバ102に送信して記憶する。これにより異常が検出された当該或る油圧ショベル1の周囲に位置する他の油圧ショベル1のスナップショットデータも参照することができるため,周囲環境による異常が起きているかどうかを判別することが可能となる場合がある。例えば,衛星の受信状況が悪い場合において,周囲に妨害電波などがある場合は,周囲に存在する複数の油圧ショベルにおいても同様の異常が発生していると考えられる。
【0049】
スナップショットデータには,目標面距離Dが所定値d1未満に達した時刻を基準とした所定期間にカメラ22により撮影された画像を含めても良い。この画像は,静止画像でも良いし,動画でも良い。この画像を参照すれば,異常発生時に周囲環境がどのような状況であったかを確認することができる。
【0050】
スナップショットデータには,車両本体2(上部旋回体4)の位置,フロント作業機3の姿勢,操作レバー17に対するオペレータの操作量,各アクチュエータ8,9,10の圧力センサ値,GNSS受信機21による測位解の種類(Fix解,Float解,単独測位解),GNSS受信機21が衛星信号を受信できた測位衛星の数,GNSS受信機21の測位モード(例えば,精密モード,概略モード),無線機(第1通信機)29での補正信号の受信状況(通信ログデータ),通信装置(第2通信機)23でのデータの送受信状況(通信ログデータ),カメラ22により撮影された周囲画像,GNSS受信機21から出力される衛星測位データ(例えばNMEAフォーマット),通信装置2の接続設定,目標面距離Dが所定値d1未満に達した時刻等がある。情報記録部115によりスナップショットデータは記憶装置25に記録される。また,情報記録部115は,スナップショットデータ記録指令の入力時に,スナップショットデータを記憶装置25に保存するに際して,そのスナップショットデータを外部管理用サーバ102に通信装置23を介して送信しても良い。
【0051】
施工状態診断部201において,異常が発生していると判定された場合(すなわち,D<d1),その原因が機器故障(すなわちハードウェア由来の異常)なのか,その他の事由による異常なのかを判断する必要がある。機器故障診断部202では,情報記録部115が記憶装置25に記録したスナップショットデータに基づいて油圧ショベル1を構成する機器(例えば,操作センサ34,圧力センサ27,姿勢センサ20,GNSS受信機21,及び無線機29のうち少なくとも1つの機器)の故障の有無を診断する。すなわち,ここでは,油圧ショベル1に搭載されているエンジン31,油圧ポンプ32などの標準的な機器に加えて,ブーム6,アーム7,バケット8等の姿勢センサ20や,操作センサ34,GNSS受信機21,各アクチュエー9,10,11の圧力センサ(動作状態情報取得装置)27,通信装置23,無線機29などの情報化施工に必要な機器の故障の有無が把握される。これらの機器に異常があった場合は,機器故障診断部202は故障した機器に関する情報と機器故障フラグを出力する。
【0052】
状態診断部203は,機器故障診断部202において搭載機器の故障が見つからなかった場合に,スナップショットデータに基づいて情報化施工で使用している通信とGNSS測位に関する異常の有無を確認する部分である。すなわち,状態診断部203は,スナップショットデータに基づいて,無線機29の基地局との通信状態に関する異常原因の診断と,GNSS受信機21での測位に関する異常原因の診断を行う。例えば,前者の異常原因としては,RTK-GNSSで必要となる補正情報(無線機29で受信される情報)が通信異常で入力されないことがある。また,後者の異常原因としては,測位衛星の配置状態に偏りがある(DOP(Dilution Of Precision)値が比較的大きい)ことがある。状態診断部203は,異常原因の診断結果を出力する。
【0053】
診断結果出力部204は,機器故障診断部202及び状態診断部203による診断結果をディスプレイ(モニタ)19に表示する。
【0054】
外部管理用サーバ102には,施工目標面データや土質情報,施工現場の周辺を含む地形情報,通信可能エリア等が格納されており,外部管理用サーバ102において通信状況についても把握することが可能である。また,或る油圧ショベル1で異常が起きたとき,その油圧ショベルだけでなく周辺の油圧ショベル1のスナップショットデータもサーバにアップロードする構成をとると,衛星や通信等,環境に係る異常時データを把握することが容易となる。特に,情報化施工を実施するにあたり,その中でも機械の一部の動作を自動化するようなマシンコントロールによる作業中には,施工目標面に対して深く掘り過ぎたり,施工目標面までバケットが近づけなかったりといった事象が考えられる。そういった場合に,従来は,サービス員が現場に行き,実際の機械の挙動を見たり,各種センサの状態などを確認したりすることで,機械の異常なのか,周囲状況の影響なのか等を判断する必要があった。これに対して,本実施形態においては,異常時におけるデータを外部管理用サーバ102に送信した上で,作業内容や各搭載機器の状態を確認することができるので,サポートが効率良く行えるようになる。
【0055】
次に上記のように構成される制御コントローラ100による異常診断処理について図7-10を用いて説明する。
【0056】
図7は制御コントローラ100による異常診断処理のフローチャートである。
【0057】
制御コントローラ100は所定の制御周期で図7に示したフローを実行している。制御周期が到来したら制御コントローラ100(位置情報検出部110)は処理を開始して,GNSS受信機21で演算された油圧ショベル1(上部旋回体4)の地理座標系における位置情報と傾斜角センサ26a,26bの検出値とを利用して車体座標系上の点(例えば,原点(ブームピンの軸方向における中点))を地理座標系の座標値に変換するための座標変換パラメータを演算する。次に制御コントローラ100(姿勢演算部111)は,演算した座標変換パラメータと,姿勢センサ20の検出値(フロント作業機3の姿勢情報)とに基づいて地理座標系におけるバケット8の爪先(先端)の位置情報を演算する(ステップS1)。
【0058】
ステップS2では,制御コントローラ100(施工目標面演算部112)は,施工目標面設定装置24から入力され記憶装置25に記憶された施工目標面の地理座標系における位置情報と,姿勢演算部111で演算されたバケット爪先の地理座標系における位置情報とに基づいて,そのバケット8の位置に対応する施工目標面の断面形状を演算する。
【0059】
ステップS3では,制御コントローラ100(動作状態推定部113)は,ステップS1で演算されたバケット爪先の位置情報と,ステップS2で演算された施工目標面の断面形状とに基づいて,バケット爪先から施工目標面までの距離である目標面距離Dを演算する。
【0060】
ステップS4では,制御コントローラ100(施工状態診断部201)は,ステップS3で演算された目標面距離Dが所定値d1未満か否かを判定することで,施工目標面に対して掘り過ぎが生じていないか否かを判断する。すなわち,マシンコントロールに要求される精度が出ておらず,異常が発生しているか否かを判断する。ここでは,目標面距離Dがd1以上であれば,異常は発生していないと判断し,ステップS20に進み処理を終了する。一方,目標面距離Dがd1未満の場合には,異常が発生していると判断し,異常発生時刻を記憶装置25に記憶してステップS5に進む。
【0061】
ステップS5では,施工状態診断部201(制御コントローラ100)は,スナップショットデータ記録指令を情報記録部115に対して出力する。このスナップショットデータ記録指令の入力をトリガーとして,情報記録部115はスナップショットデータを記憶装置25に記録するとともに,同スナップショットデータを外部管理用サーバ102にアップロードする。
【0062】
ステップS6では,制御コントローラ100(機器故障診断部202)は,ステップS5で記憶装置25に記憶されたスナップショットデータに基づいて情報化施工(マシンコントロール)に必要な機器(姿勢センサ20や,操作センサ34,GNSS受信機21,各アクチュエー9,10,11の圧力センサ(動作状態情報取得装置)27,通信装置23,無線機29などの)の故障の有無を診断する。
【0063】
ステップS7では,制御コントローラ100(機器故障診断部202)はステップS6で情報化施工に必要な機器に故障しているものがあるか否かを判定する。故障している機器がある場合には,制御コントローラ100(機器故障診断部202)は,ステップS8に進み,機器故障フラグを出力する。これによりディスプレイ19に故障している機器の名称が表示される。一方,故障している機器が無い場合にはステップS9に処理を進める。
【0064】
ステップS9では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,ステップS5で保存したスナップショットデータにおけるGNSS受信機21の測位解(測位状態)がFix解であるか否かを判定する。Fix解の時は図8に示す処理1のフローチャートに移動する。一方,Fix解でない場合にはステップS10に進む。
【0065】
ステップS10では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,ステップS5で保存したスナップショットデータにおけるGNSS受信機21の測位解(測位状態)がFloat解であるか否かを判定する。Float解の時は図9に示す処理2のフローチャートに移動する。一方,Float解でない場合,すなわち単独測位解である場合にはステップS11に進む。
【0066】
ステップS11では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,ステップS5で保存したスナップショットデータにおけるGNSS受信機21の測位解(測位状態)は単独測位解となるため,図10に示す処理3のフローチャートに進む。
【0067】
図8図7中の処理1のフローチャートを示す図である。処理を開始すると,制御コントローラ100(状態診断部203)は,まず,ステップS5で記憶したスナップショットデータを参照して,無線機29を介して基準局からの補正情報を受信できていないか否かを判断する(ステップS101)。ここで補正情報を受信できていない場合には処理をステップS102に進め,逆に補正情報を受信できている場合には処理をステップS105に進める。
【0068】
ステップS102では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,無線機29との通信環境または基準局から送信される補正信号の少なくとも一方に問題があると判断し,次の処理(ステップS103)に移動する。
【0069】
ステップS103では,制御コントローラ100(診断結果出力部204)は,基準局が補正情報を送信できているか確認するように指示するための表示用データ(例えば,メッセージやアイコン)を作成してディスプレイ19に出力し,その結果,当該表示用データがディスプレイ19に表示される。
【0070】
続くステップS104では,制御コントローラ100(診断結果出力部204)は,また,周囲に電波を発生するものや遮蔽するものがないか否かを確認するように指示するための表示用データ(例えば,メッセージやアイコン)を作成してディスプレイ19に出力し,その結果,当該表示用データがディスプレイ19に表示される。ディスプレイ19への表示が完了したら,制御コントローラ100はステップS103及びS104で作成した表示用データに関する情報(例えば,表示した異常原因や対応策の内容,表示データを作成する際に考慮したデータ,表示時刻等)を記憶装置25に保存し(ステップS112),処理を終了して次の制御周期まで待機する。
【0071】
一方,ステップS105では,制御コントローラ100(診断結果出力部204)は,GNSS受信機21で設定されているGNSS精度モードが精密モードと概略モードのいずれであるかをオペレータに入力することを指示するための表示用データ(例えば,メッセージ)を作成してディスプレイ19に出力する。なお,本実施形態におけるGNSS精度モードはGNSS受信機21が測位計算を終了する測位結果のバラツキ(誤差)の大きさに応じて分類されており,精密モードは測位計算を終了するバラツキが概略モードよりも相対的に小さい値(測位が高精度となる値)に設定されている。
【0072】
ステップS106では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,ステップS105の表示後に入力されたGNSS精度モードが精密モードであるか否かを判定する。精密モードが設定されている場合にはステップS107に進み,そうでない場合(概略モードが設定されている場合)にはステップS109に進む。
【0073】
ステップS107では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,その時のGNSS精度モード(すなわち精密モード)と,そのGNSS精度モードで設定されている測位精度の判定条件(例えば,精密モードでは測位結果のバラツキ(誤差)が30mm以内であれば許容するとしている場合,その許容範囲を示す数値)を記憶装置25に記憶し,ステップS108に進む。
【0074】
ステップS108では,制御コントローラ100(診断結果出力部204)は,設定されているGNSS精度モードの測位条件が厳しいことが異常発生原因であると報知するための表示用データ(例えば,メッセージ)を作成し,それをディスプレイ19に出力して処理を終了する。表示用データの入力を受けたディスプレイ19はGNSS精度モードが精密モードに設定されていることが異常原因である旨表示する。そして,制御コントローラ100は,ステップS105及びS108で作成した表示用データに関する情報を記憶装置25に保存し(ステップS112),処理を終了する。
【0075】
一方,ステップS109に進んだ場合(GNSS精度モードが概略モードだった場合),制御コントローラ100(状態診断部203)は,GNSSアンテナ28における衛星信号の受信状況が悪いこと,具体的には,衛星信号を受信可能な衛星数が少ない,衛星信号を受信できた衛星の配置が悪い等,が異常の原因であると診断する。
【0076】
ステップS110では,制御コントローラ(診断結果出力部204)は,GNSS受信機21から出力される衛星測位データ(例えばNMEAフォーマット)を取得して記憶装置25に保存して,それをディスプレイ19に表示させるための表示用データを作成してディスプレイ19に出力する(ステップS111)。表示用データの入力を受けたディスプレイ19が衛星測位データを表示したら,制御コントローラ100はステップS105及びS111で作成した表示用データに関する情報を記憶装置25に保存し(ステップS112),処理が終了する。
【0077】
図9図7中の処理2のフローチャートを示す図である。処理を開始すると,制御コントローラ100(状態診断部203)は,まず,ステップS5で記憶したスナップショットデータを参照して,無線機29を介して基準局からの補正情報を受信できていないか否かを判断する(ステップS201)。ここで補正情報を受信できていないことが判明した場合には処理をステップS202に進め,反対に補正情報を受信できていることが判明した場合には処理をステップS205に進める。
【0078】
ステップS202では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,無線機29との通信環境に問題があると判断し,次の処理(ステップS203)に移動する。
【0079】
ステップS203では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,無線機29の通信ログデータを取得して記憶装置25に記憶する。
【0080】
ステップS204では,制御コントローラ100(診断結果出力部204)は,無線機29の接続・設定など,無線機29の通信環境を確認することをオペレータに促すための表示用データ(例えば,メッセージ)を作成してディスプレイ19に出力する。この表示用データの入力を受けたディスプレイ19がその表示用データを表示し,制御コントローラ100がステップS204で作成した表示用データに関する情報を記憶装置25に保存し(ステップS212),処理が終了する。
【0081】
一方,ステップS205に進んだ場合(無線機29で補正情報を受信できている場合)には,制御コントローラ100(診断結果出力部204)は,GNSS受信機21で衛星信号を受信可能な衛星数をオペレータ(またはユーザ)に確認してもらうための表示用データ(例えば,「総衛星数:X個([内訳]GPS:x1個,GLONASS:x2個,…)」等と衛星数が把握可能なメッセージ)を作成してディスプレイ19に出力する。
【0082】
ステップS206では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,ステップS205で表示された衛星数が所定値n1(例えば10個)を超えているか否かを判定する。表示された衛星数が所定値n1を超えている場合にはステップS207に進み,そうでない場合(衛星数が10個以下の場合)にはステップS209に進む。
【0083】
ステップS207では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,無線機29の通信ログデータを取得して記憶装置25に記憶する。
【0084】
ステップS208では,制御コントローラ100(診断結果出力部204)は,無線機29の通信速度や機器故障を再確認することをオペレータに促すための表示用データ(例えば,メッセージ)を作成してディスプレイ19に出力する。この表示用データの入力を受けたディスプレイ19がその表示用データを表示し,制御コントローラ100がステップS205及びS208で作成した表示用データに関する情報を記憶装置25に保存し(ステップS212),処理が終了する。
【0085】
一方,ステップS209に進んだ場合(衛星数が所定値n1以下の場合)には,制御コントローラ100(状態診断部203)は,GNSSアンテナ28における衛星信号の受信状況が悪いこと,具体的には,衛星信号を受信可能な衛星数が少ない,衛星信号を受信できた衛星の配置が悪い等,が異常の原因であると診断する。
【0086】
ステップS210では,制御コントローラ(診断結果出力部204)は,GNSS受信機21から出力される衛星測位データ(例えばNMEAフォーマット)を取得して記憶装置25に保存して,それをディスプレイ19に表示させるための表示用データを作成してディスプレイ19に出力する(ステップS211)。表示用データの入力を受けたディスプレイ19が衛星測位データを表示し,制御コントローラ100がステップS205及びS211で作成した表示用データに関する情報を記憶装置25に保存し(ステップS212),処理が終了する。
【0087】
図10図7中の処理3のフローチャートを示す図である。処理を開始すると,制御コントローラ100(状態診断部203)は,まず,ステップS5で記憶したスナップショットデータを参照して,無線機29を介して基準局からの補正情報を受信できていないか否かを判断する(ステップS301)。ここで補正情報を受信できていないことが判明した場合には処理をステップS302に進め,反対に補正情報を受信できていることが判明した場合には処理をステップS305に進める。
【0088】
ステップS302では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,無線機29の補正情報フォーマットまたは無線機29との通信環境に問題があると判断し,次の処理(ステップS303)に移動する。
【0089】
ステップS303では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,無線機29の通信ログデータを取得して記憶装置25に記憶する。
【0090】
ステップS304では,制御コントローラ100(診断結果出力部204)は,無線機29の接続・設定など,無線機29の通信環境を確認することをオペレータに促すための表示用データ(例えば,メッセージ)を作成してディスプレイ19に出力する。この表示用データの入力を受けたディスプレイ19がその表示用データを表示し,制御コントローラ100がステップS304で作成した表示用データに関する情報を記憶装置25に保存し(ステップS312),処理が終了する。
【0091】
一方,ステップS305に進んだ場合(無線機29で補正情報を受信できている場合)には,制御コントローラ100(診断結果出力部204)は,GNSS受信機21で衛星信号を受信可能な衛星数がいくつであるかをオペレータに入力させることを指示するための表示用データ(例えば,メッセージ)を作成してディスプレイ19に出力する。そして,制御コントローラ100は,ステップS305及びS308で作成した表示用データに関する情報を記憶装置25に保存し(ステップS312),処理を終了する。
【0092】
ステップS306では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,ステップS305の表示後に入力された衛星数が所定値n2(例えば0個)を超えているか否かを判定する。入力された衛星数が所定値n2を超えている場合にはステップS307に進み,そうでない場合(衛星数が0個の場合)にはステップS309に進む。
【0093】
ステップS307では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,無線機29の通信ログデータを取得して記憶装置25に記憶するとともに,GNSS受信機21から出力される衛星測位データ(例えばNMEAフォーマット)を取得して記憶装置25に記憶する。
【0094】
ステップS308では,制御コントローラ100(診断結果出力部204)は,無線機29及びGNSS受信機21の再起動を実行することをオペレータに促すための表示用データ(例えば,メッセージ)を作成してディスプレイ19に出力する。この表示用データの入力を受けたディスプレイ19がその表示用データを表示して処理が終了する。
【0095】
一方,ステップS309では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,無線機29の補正情報フォーマットに問題があると判断し,次の処理(ステップS310)に移動する。
【0096】
ステップS310では,制御コントローラ100(状態診断部203)は,無線機29の通信ログデータを取得して記憶装置25に記憶する。
【0097】
ステップS311では,制御コントローラ100(診断結果出力部204)は,無線機29の接続・設定など,無線機29の通信環境を確認することをオペレータに促すための表示用データ(例えば,メッセージ)を作成してディスプレイ19に出力する。この表示用データの入力を受けたディスプレイ19がその表示用データを表示し,制御コントローラ100がステップS305及びS311で作成した表示用データに関する情報を記憶装置25に保存し(ステップS312),処理を終了する。
【0098】
<作用・効果>
以上のように構成した管理システムでは,いわゆるマシンコントロール等の情報化施工の可能な油圧ショベル1に搭載された制御コントローラ100が,目標面距離Dが所定値d1未満に達したときに異常が発生したとみなし,情報化施工に必要な機器(例えば,操作センサ34,圧力センサ27,姿勢センサ20,GNSS受信機21,及び無線機29)に関する情報のスナップショットデータを記憶装置25に記憶し,そのスナップショットデータに基づいて目標面距離Dが所定値d1未満に達した原因,すなわち異常原因を診断することとしている。このように制御コントローラ100を構成すると,異常発生時に情報化施工に必要な機器に関する情報のスナップショットデータを取得できるので,異常原因を特定することが容易となる。
【0099】
本実施形態ではスナップショットデータにカメラ22の撮影画像を含めているため,異常発生時の各機器の稼働データ(数値データ)だけでは把握不可能な油圧ショベル1の周囲の状況を把握でき,例えば,無線機29やGNSS受信機21への信号を遮蔽することで異常の原因となり得る障害物も検出できる。
【0100】
さらに本実施形態では,スナップショットデータ記録指令を利用することで,異常が発生した油圧ショベルの周囲に位置する他の油圧ショベルの制御コントローラ100に対してもスナップショットデータを記録し,サーバ102に送信するように管理システムを構成することも可能である。このように異常が検出された油圧ショベルだけでなく,その周囲の油圧ショベルのスナップショットデータも連動してサーバ102にアップロードするようにシステムを構成すると,ハードウェア由来の異常ではなく,周囲環境に由来する異常が発生していることを把握しやすくなり,異常原因を特定し易くなる。
【0101】
特に,本実施形態の制御コントローラ100は,まず情報化施工に必要な機器のハードウェア的な故障の有無を診断するが,その種の故障が検出されない場合には,GNSS受信機21の測位解に応じて異なる処理(本実施形態では3つの処理)を行って異常原因の特定を試みる。具体的には,基地局からの補正情報の受信状況と,GNSS精度モードと,衛星信号を受信している衛星数とに基づいて,制御コントローラ100が,無線機(第1通信機)29の基地局との通信状態に関する異常原因と,GNSS受信機21での測位に関する異常原因を診断するように構成されている。これによりハードウェアの故障だけでなく情報化施工に必要な通信機器の通信状況に関する異常原因も診断・特定できるため,異常発生後からの作業復帰までの時間の短縮が可能になり,作業効率を向上することができる。
【0102】
また,本実施形態の管理システムでは,制御コントローラ100による診断結果を油圧ショベル1の運転室12内のディスプレイ(モニタ)19に表示することができるので,異常原因や異常解消のために有効な対応策をオペレータに速やかに伝達できる。表示された対応策をオペレータ自身が実行することで解消する異常も存在するため,サービスマンの到着やメーカへの問合せを待たずして正常な作業に復帰する機会が増加して作業効率を向上できる。また,表示用データの関連情報も記憶装置25に記憶されるため(ステップS112,212,312)異常発生後の診断に利用できる。
【0103】
<その他>
なお,上記では図7のステップS4で施工目標面に対する掘り過ぎが発生したと判定された場合,ステップS5で速やかにスナップショットデータを保存/アップロードする例について説明したが,ステップS8の終了後にスナップショットデータの保存/アップロードを実行するように処理フローを構成しても良い。なお,この場合におけるS6の故障検出は,ステップS4で掘り過ぎが発生した時刻を基準にしてスナップショットデータに含まれる各種情報を一時的に記憶しておき,それらの情報に基づいて行えば良い。ステップS9,S10,S11の判定は,その判定の実行時の情報から判定しても良いし,ステップS6と同様に掘り過ぎ発生時刻を基準として一時的に記憶した各種情報から判断しても良い。これは処理1,2,3(図8,9,10)で行われる各種判定処理についても同様である。また,処理1,2,3で表示用データの関連情報を保存する処理(ステップS112,212,213)では,関連情報の保存とともに表示用データを作成する際に利用した情報も記憶装置25に保存するようにしても良い。なお,スナップショットデータと同様にこれらの情報は記憶装置25への保存とともに又は代えて外部管理用サーバ102に送信しても良い。
【0104】
また,上記ではスナップショットデータに基づく異常の診断を油圧ショベル1の制御コントローラ100で行う場合について説明したが,異常検出時に一旦記憶装置25に記録したスナップショットデータを外部管理用サーバ102にアップロード(送信)して,そのスナップショットデータに基づいて外部管理用サーバ102で異常診断を行い,その診断結果を該当する油圧ショベル1に送信する構成を採用しても良い。この場合,図5の異常状態判定部114における機器故障診断部202と状態診断部203と診断結果出力部204の機能がサーバ102に搭載する構成が考えられる。また,スナップショットデータを制御コントローラ100とサーバ102の双方に記憶させ,スナップショットデータに基づく異常診断を制御コントローラ100とサーバ102の双方で行っても構わない。さらに,或る油圧ショベル1に異常が発生した場合に,その周囲に位置する他の油圧ショベルのスナップショットデータを記録してサーバ102に送信する場合のみサーバ102のみで異常診断を行うような構成を選択することも可能である。
【0105】
上記では,目標面距離Dが所定値d1未満のときに異常が発生したとみなしてスナップショットデータを記録することとしたが,情報化施工機に異常が発生したと同定できるその他の条件が充足したときにスナップショットデータを記録する構成を採用しても構わない。
【0106】
また,目標面距離Dを演算することに代えて,記憶装置25に記憶された施工目標面の位置,GNSS受信機21で演算された車両本体2の位置,及び姿勢センサ20(20a,20b,20c)で検出されたフロント作業機3の姿勢に基づいて,施工目標面とフロント作業機3の高さ方向における位置の差分の大きさ(絶対値)を制御コントローラ100にて演算し,その位置の差分の大きさが所定値を超えるか否かで異常の発生の有無を判定しても良い。このとき,位置の差分の大きさが所定値を超える場合に異常が発生したと判定される。所定値としては,例えば,上記で触れた要求精度範囲の上限値又は下限値の絶対値である|±α|が利用できる。このように位置の差分の大きさ(絶対値)を演算して異常の発生の有無を判定すると,上記で説明した施工目標面に対して掘削し過ぎの場合(バケット8が施工目標面の下側に位置する場合)だけでなく,施工目標面に対して掘削が不十分だった場合(バケット8が施工目標面の上側に位置する場合)についても異常と判定できる。なお,施工目標面とフロント作業機3の“高さ方向における位置の差分”としては,鉛直方向(重力方向)における位置の差分や,施工目標面に対する垂線方向における位置の差分が利用可能である。
【0107】
ところで,上記では目標面距離Dは,図6に示すように施工目標面とバケット8の先端(爪先)の距離としたが,フロント作業装置3に任意に設定した制御点(バケット爪先以外の点)と施工目標面の距離としても良い。この点は,上記で触れた,施工目標面とフロント作業機3の高さ方向における位置の差分の大きさ(絶対値)の演算についても同様に言える。
【0108】
なお,本発明は,上記の実施の形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば,本発明は,上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず,その構成の一部を削除したものも含まれる。また,ある実施の形態に係る構成の一部を,他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0109】
また,上記の制御コントローラ100に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は,それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また,上記の制御コントローラに係る構成は,演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで当該制御コントローラの構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は,例えば,半導体メモリ(フラッシュメモリ,SSD等),磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク,光ディスク等)等に記憶することができる。
【0110】
また,上記の各実施の形態の説明では,制御線や情報線は,当該実施の形態の説明に必要であると解されるものを示したが,必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0111】
1…油圧ショベル,2…車両本体,3…フロント作業機(作業機),4…上部旋回体,5…下部走行体,6…ブーム,7…アーム,8…バケット(アタッチメント),9…ブームシリンダ,10…アームシリンダ,11…バケットシリンダ,12…運転室,13…旋回油圧モータ,15…走行モータ,16…旋回輪,17…操作レバー(操作装置),19…ディスプレイ(モニタ),20…姿勢センサ,21…GNSS受信機,22…カメラ(周囲情報検出装置),23…通信装置(第2通信機),24…施工目標面設定装置,25…記憶装置,26…傾斜角センサ,27…圧力センサ(動作状態情報取得装置),28…GNSSアンテナ,29…無線機(第1通信機),31…エンジン,32…油圧ポンプ,33…コントロールバルブ,34…操作センサ,100…制御コントローラ(制御装置),101…管理システム,102…外部管理用サーバ,103…サポートセンタ,110…位置情報検出部,111…姿勢演算部,112…施工目標面演算部,113…動作状態推定部,114…異常状態判定部,115…情報記録部,201…施工状態診断部,202…機器故障診断部,203…状態診断部,204…診断結果出力部
図1
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図10