(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】電気炉を用いた低窒素鋼の精錬方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/00 20060101AFI20220915BHJP
C21C 7/072 20060101ALI20220915BHJP
C21C 7/076 20060101ALI20220915BHJP
C21C 5/52 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C21C7/00 F
C21C7/072 Z
C21C7/076 Z
C21C5/52
(21)【出願番号】P 2021514317
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 CN2019107837
(87)【国際公開番号】W WO2020063671
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-15
(31)【優先権主張番号】201811132581.9
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徐 迎▲鉄▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 兆平
(72)【発明者】
【氏名】李 成斌
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 宝▲権▼
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103361465(CN,A)
【文献】特開2016-108575(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103993132(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/00- 7/10
F27B 1/00- 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気炉を用いた低窒素鋼の精錬方法において、二重殻型電気炉を用いて精錬を行
う精錬方法であって、
前記二重殻型電気炉は、
第1炉殻
と、第2炉殻と、前記第1炉殻及び前記第2炉殻に給電加熱を行うアーク給電システムを有し、
前記第1炉殻内に
おいて、材料を供給するステップ、溶融池をシールするステップ、燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けるステップ、及び給電加熱するステップを順次行い、
前記アーク給電システムを用いて前記第1炉殻と前記第2炉殻に対して交互に給電加熱を行い、
前記アーク給電システムを用いて
前記第1炉殻に対して給電加熱
するステップを行った後に前記第2炉殻内に前記材料を供給するステップ、前記溶融池をシールするステップ、前記燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けるステップを順次行い、
前記第2炉殻内において前記燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けるステップを行い、かつ、給電加熱が行われている
前記第1炉殻内の溶鋼温度が目標温度1600~1660℃に達した場合
に、前記第2炉殻に対して給電加熱
するステップを開始し、
前記第1炉殻または前記第2炉殻における前記材料を供給するステップでは、まず軽薄なスクラップと直接還元鉄のうちの少なくとも1つ、コークス及び石灰を加え、その後、溶銑を入れて、最後に普通のスクラップを入れることを特徴とする電気炉を用いた低窒素鋼の精錬方法。
【請求項2】
前記アーク給電システムが直流アーク給電システムであることを特徴とする請求項1に記載の電気炉を用いた低窒素鋼の精錬方法。
【請求項3】
前記直流アーク給電システムの定格電力が溶鋼1トン当たり0.7~1メガワットであることを特徴とする請求項2に記載の電気炉を用いた低窒素鋼の精錬方法。
【請求項4】
前記直流アーク給電システムは、中空アルゴンガス吹き付け用電極を有し、前記中空アルゴンガス吹き付け用電極のボトム電極がシート状電極であることを特徴とする請求項2に記載の電気炉を用いた低窒素鋼の精錬方法。
【請求項5】
前記中空アルゴンガス吹き付け用電極によるアルゴンガス吹き付けは給電加熱過程全体を貫くことを特徴とする請求項4に記載の電気炉を用いた低窒素鋼の精錬方法。
【請求項6】
前記中空アルゴンガス吹き付け用電極のアルゴンガス吹き付け流量を50~100ノーマルリットル/分に制御することを特徴とする請求項5に記載の電気炉を用いた低窒素鋼の精錬方法。
【請求項7】
前記第1炉殻内
及び前記第2炉殻内にそれぞれ4~6個の燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けるランスを有し、
前記ランス毎に酸素ガスを吹き付ける流量が2500~4000ノーマル立方メートル/時間であることを特徴とする請求項1に記載の電気炉を用いた低窒素鋼の精錬方法。
【請求項8】
前記第1炉殻内及び前記第2炉殻内の前記燃焼媒体と酸素ガスを吹き付け
るステップは、精錬を開始させるステップ
であり、燃焼媒体と酸素ガスを同時に5~10分間を吹き付けた後、酸素ガスの吹き付けのみを行い始めて、脱炭精錬を行うことを特徴とする請求項1に記載の電気炉を用いた低窒素鋼の精錬方法。
【請求項9】
前記第1炉殻または前記第2炉殻に対して給電加熱を行う時、
給電加熱を行う前記第1炉殻内または前記第2炉殻内にスラッギング材料を加えて発泡スラグを造り、
前記発泡スラグが形成された後、炭素含有量が0.5%未満の場合、酸素吹き付け流量を炭素含有量が0.5%より高い時の酸素吹き付け流量の40%~60%に下げるように、最終的に精錬が終了するまで鋼中の炭素含有量に基づいて酸素吹き付け流量を調整することを特徴とする請求項1に記載の電気炉を用いた低窒素鋼の精錬方法。
【請求項10】
前記第1炉殻または前記第2炉殻における前記材料を供給するステップでは、溶鋼中の総炭素含有量が最終的な出溶鋼量の1.5~2.5wt%であり、出鋼後の溶鋼の窒素含有量が25ppmより低いことを特徴とする請求項1に記載の電気炉を用いた低窒素鋼の精錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精錬方法に関し、特に、低窒素鋼の精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉製鋼は主にスクラップ資源を利用して精錬するものであり、溶銑への依存度が低く、炭素排出が低くエコな製鋼方法である。しかしながら、転炉製鋼に比べて、電気炉製鋼には2つの大きな欠陥があり、一つ目は、精錬周期が長くて、高効率の連続鋳造、特にスラブの高効率の連続鋳造への要求に適応し難いことであり、二つ目は、電気炉で精錬して得られた鋼の窒素含有量が高く、普遍的に30ppmより高くて、窒素含有量に対して要求のあるハイエンド鋼種の精錬を実現できないことである。この2つの大きな欠陥は電気炉製鋼の発展を大きく制約しており、現在、一本の電気炉製鋼生産ラインの年間生産量が150万トンを超えるのがとても難しい。
【0003】
従来技術では、電気炉製鋼の生産効率を高めるために、一部の溶銑を入れ混ぜる技術、スクラップ予熱と連続供給技術、及び酸素ガスの吹き付けを強化して燃焼を助ける技術が開発された。しかしながら、溶銑を入れ混ぜるそれ自体が電気炉の炉蓋を開けなければならないため、その精錬周期が延びてしまう。スクラップ予熱と連続供給技術にはダイオキシンが存在する問題があり、且つ関連予熱装置をメンテナンスし難い。酸素ガスの吹き付けを強化して燃焼を助ける技術は現在技術開発の一つの重要な方向である。
【0004】
特許公開番号がCN107502702A、公開日が2017年12月22日、名称が「フルスクラップアーク炉による清浄化高速精錬方法」である中国特許文献(特許文献1)には、フルスクラップアーク炉による清浄化高速精錬方法が開示されており、アーク炉の炉底側面の耐火材料内部に埋められたランスを利用して異なる精錬段階で異なる種類の媒質を吹き付け、増炭助融段階で溶融池を利用して浸炭して溶け落ちを加速させ、溶融池の炭素含有量を高め、最終的に高速精錬の目的を達成したが、埋め込み式ランスを保守し難く、生産の安定性を確保し難い。
【0005】
特許公開番号がCN101899548A、公開日が2010年12月1日、名称が「スクラップ予熱予溶解、高効率電気炉製鋼新工程」である中国特許文献(特許文献2)には、まず誘導炉でスクラップを溶解させ、それから電気炉に入れて精錬し、電気炉の精錬周期を短縮可能であることが開示されているが、誘導炉のエネルギー消費が高く、精錬周期が長く、決して電気炉の製造とはリズムが合わないことになる。
【0006】
これに鑑みて、精錬周期が長いという問題を解決できるばかりでなく、低窒素鋼も精錬できることによって、市場のハイエンド鋼種へのニーズも満足できる電気炉製鋼方法を獲得することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】中国特許出願公開第107502702号明細書
【文献】中国特許出願公開第101899548号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、精錬周期が長いという問題を解決できるばかりでなく、低窒素鋼も精錬できることによって、市場のハイエンド鋼種へのニーズも満足できる電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法を提供することにある。
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法を提出し、二重殻型電気炉を用いて精錬を行い、前記二重殻型電気炉は、2つの炉殻及びアーク給電システムを有する。2つの炉殻内には、それぞれ、材料を供給するステップ、溶融池をシールするステップ、燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けるステップ、及び給電加熱するステップを順次行い、アーク給電システムを用いて交互に2つの炉殻に対して給電加熱を行い、2つの炉殻のうちの一方の炉殻に対して給電加熱を行う場合、他方の炉殻内に材料を供給するステップ、溶融池をシールするステップ、燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けるステップを順次行う。給電加熱が行われている炉殻内の溶鋼温度が目標温度1600~1660℃に達した場合、他方の炉殻に対して給電加熱し始める。ここの「交互」とは、アーク給電システムが毎回そのうちの一方の炉殻に対してしか給電加熱できず、同時に2つの炉殻に対して給電加熱を行うことができない。アーク給電システムがそのうちの一方の炉殻に対して給電加熱を行う場合、該炉殻には材料の供給、溶融池のシール、燃焼媒体と酸素ガスの吹き付け等の任務が既に完了した。
【0010】
本発明の前記技術手段では、二重殻型電気炉を用いて精錬を行い、二重殻型電気炉は、2つの炉殻を有し、二重殻型電気炉を用いたアーク給電システムは交互に2つの炉殻に対して給電加熱を行い、そのうち、2つの炉殻のうちの一方の炉殻に対して給電加熱を行う場合、他方の炉殻内に、材料を供給するステップ、溶融池をシールするステップ、燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けるステップを順次に行って精錬を開始し、給電加熱が行われている炉殻内の溶鋼温度が目標温度に達した場合、他方の炉殻に対して給電加熱を行い始め、これによって、精錬周期を大いに短縮し、生産効率を高める。
【0011】
又、ある実施形態において、炉殻毎に精錬する溶鋼の容量は100~250tでもよい。又、二重殻型電気炉の炉ドアとアーク給電システムの電極口のいずれにも自動シール炉蓋が設けられてもよい。溶融池をシールするステップでは、溶融池をシールする方式は、二重殻型電気炉の炉蓋、炉ドア蓋及び電極口蓋を被せると共に、仕切り板を用いて材料供給口と溶融池を隔離してもよい。これによって、煙塵の放出を減らし、環境を保護する。又、溶融池をシールするというステップでは、溶融池と外部空気とを遮断させることで、続いてくる燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けて精錬を開始するステップで放出された炭素酸化物が溶融池内の窒素ガス量を低いレベルに保持させてもよい、これによって、燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けて精錬を開始するステップ全体では、窒素を増やすことなく、脱窒のみを行うので、低窒素鋼の精錬に有利である。なお、燃焼媒体は、燃料ガス又は燃料油でもよいし、燃料ガスと燃料油との混合物でもよい。又、ある実施形態において、燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けて精錬を開始する前に、煙塵の放出を減らし、環境を保護するように、二重殻型電気炉と連体の除塵装置をつけてもよい。
【0012】
材料を供給するステップでは、ある実施形態において、少量の軽薄なスクラップ、コークス及び少量の石灰を加え、その後、溶銑を加え、最後に、溶融池の容量に基づいて普通のスクラップを入れる方式で材料供給を行うことができる。その他のある実施形態において、直接還元鉄又は銑鉄が溶銑に取って代わってもよい。この場合には、直接還元鉄又は銑鉄を軽薄なスクラップの上方に置き、その後、軽薄なスクラップと同一の材料かご内に入れてもよい。このようにして、材料供給時間を節約して、直接還元鉄又は銑鉄が溶融池に入り過ぎて炉底の凍結を引き起こすことを防止する。又、ある実施形態において、2つの炉殻で交互に繰り返し製鋼するプロセスにおいて、炉殻毎に出鋼後、一定量(ある実施形態において、30~40tでもよい)の溶鋼とスラグを炉内に残しておいてもよい。主な原因は、溶鋼とスラグを残しておいたことで、スラグが出鋼過程において溶鋼につれて取鍋に入って、後工程の脱酸素の負担が重くなることを防止可能からである。又、より重要なのは、溶鋼とスラグを残しておいたことで次の炉鋼に必要なスラグ量を節約可能であると共に、残された溶鋼を利用してスクラップを溶解し易いことによって、スクラップを溶解する熱効率を高めるものである。
【0013】
又、上記の少量の軽薄なスクラップの添加は、その後の溶銑を加える過程において、高温高酸化性の残留した鋼・スラグと溶銑との激しい反応が発生しないことを保証することによって、大きなスプラッシュの発生を避けるためである。軽薄なスクラップの添加量が残留した溶鋼・スラグをちょうど覆うことを満足しなければならない。軽薄なスクラップを加える過程において、コークスと少量の石灰を軽薄なスクラップの材料かごと共に入れることができ、その他のある実施形態において、コークスと少量の石灰をホッパーから加えることもできる。
【0014】
その後、溶銑を加え、溶融池内に軽薄なスクラップ量が少なくて、スクラップ層がとても速く加えられた溶銑につかることができるとともに、形状が乱雑できちんとしていないスクラップではなく、液状の未精製の溶鋼にとても速く接触することができるため、溶銑の飛び散りを減らし、放出した煙塵量も大いに低減したことによって、溶銑を加える速度を向上させることもできる。又、最も重要なのは、溶銑添加過程の速度が速められて飛び散り量が低減され、及び溶銑を加えた後直接液状溶融池に入るため、窒素吸着量が大いに低減され、溶銑の金属の歩留まりの向上にとってもメリットがあることになる。
【0015】
さらに、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法において、前記アーク給電システムが直流アーク給電システムである。
【0016】
本発明の前記技術手段において、好ましくは、アーク給電システムが直流アーク給電システムであるため、アーク給電システムの作動安定を保証し、超高出力の給電を満足して、電力消費を減らし、送電網への衝撃及び炉壁への溶損を減らす。勿論、その他のある実施形態において、アーク給電システムが交流アーク給電システムであってもよい。
【0017】
さらに、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法において、前記直流アーク給電システムの定格電力が溶鋼1トン当たり0.7~1メガワットであり、溶鋼の溶解を加速させる。該定格電力の単位は本願において「MW/t溶鋼」にも表される。
【0018】
さらに、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法において、前記直流アーク給電システムは中空アルゴンガス吹き付け用電極を有し、中空アルゴンガス吹き付け用電極のボトム電極がシート状電極である。
【0019】
この好適な技術手段において、直流アーク給電システムが中空アルゴンガス吹き付け用電極を有し、ボトム電極がシート状電極であるので、電極ロスを減らし、メンテナンスし易い。
【0020】
さらに、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法において、炉殻内に窒素を含まないように、中空アルゴンガス吹き付け用電極によるアルゴンガスの吹き付けは給電加熱過程全体を貫く。
【0021】
本発明の前記技術手段において、電極給電後、電極口が空気を吸い込んで炉室に入ることが不可避であるため、中空アルゴンガス吹き付け用電極によるアルゴンガスの吹き付けが給電加熱過程全体を貫くことで、アーク領域に窒素が含まれないことを確保することによって、アークによる鋼液への窒素増加を避ける。
【0022】
さらに、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法において、アークの安定を確保するように、中空アルゴンガス吹き付け用電極のアルゴンガス吹き付け流量を50~100ノーマルリットル/分(本願において、「ノーマルリットル/分」は「NL/min」にも表される)に制御する。アルゴンガス吹き付け流量が100NL/minより大きいと、アークが不安定になってしまい、アルゴンガス吹き付け流量が50NL/minより低いと、窒素増加を防止する役割を果たせない。
【0023】
さらに、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法において、各炉殻内に4~6個の燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けるランスを有し、ランス毎に酸素ガスを吹き付ける流量が2500~4000ノーマル立方メートル/時間(本願において、「ノーマル立方メートル/時間」は「Nm3/h」にも表される)である。ここの酸素吹き付け流量の範囲は所要の脱炭速度に応じて生産安定性に配慮して確定したものであり、流量が4000Nm3/hより大きいと、反応が激しくて生産に影響を及ぼすことになり、流量が2500Nm3/hより小さいと、脱炭速度が遅くなる。
【0024】
さらに、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法において、燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けて精錬を開始するステップでは、燃焼媒体と酸素ガスを同時に5~10min吹き付けた後、酸素ガスのみの吹き付けを開始して脱炭精錬を行う。
【0025】
本発明の前記技術手段において、燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けるステップでは、燃焼媒体と酸素ガスを同時に5~10minを吹き付けた後、酸素ガスのみの吹き付けを開始して脱炭精錬を行うのは、主に前期精錬過程において、ノズルの前端に大量のスクラップが堆積され、燃焼媒体と酸素ガスを同時に吹き付けて燃焼で放出したエネルギーがスクラップにとてもよく吸収されてスクラップを溶解することができ、5~10min後、ノズルの前端のスクラップ層の溶解完了につれて、もし引き続き燃料ガスを噴くと、熱効率が大いに低減されることになることを考慮したからである。したがって、燃焼媒体と酸素ガスを同時に5~10min吹き付けた後、酸素ガスのみの吹き付けを開始して脱炭精錬を行う。
【0026】
さらに、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法において、炉殻に対して給電加熱を行う場合、該炉殻内へスラッギング材料を入れて発泡スラグを形成し、発泡スラグが形成された後、炭素含有量が0.5%より低い場合、酸素吹き付け流量を炭素含有量が0.5%より高い時の酸素吹き付け流量の40%~60%に低減するように、最終的に精錬が終了するまで鋼中の炭素含有量に基づいて酸素吹き付け流量を調整する。
【0027】
本発明の前記技術手段において、炉殻に対して給電加熱を行う場合、スラッギングによる脱りん、酸素吹き付けによる脱炭及び昇温を成し遂げる必要がある。具体的には、炉殻に対して5~10分間給電加熱を行った後、該炉殻内へ石灰及びドロマイトを含むスラッギング材料を加えて発泡スラグを形成して、脱りんを行い、スラグのMgO含有量を引き上げ、耐食材への浸食を防止する。発泡スラグが形成された後、炭素含有量が0.5%より低いと、酸素吹き付けの流量をこの前の酸素吹き付け流量の40%~60%に低減するように、最終的に精錬が終了するまで鋼中の炭素含有量に基づいて酸素吹き付けの流量を調整することで、脱炭を行う。
【0028】
さらに、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法において、材料供給ステップでは、鋼中の総炭素含有量が最終的な出溶鋼量の1.5~2.5wt%であり、脱炭で生成したCO気泡が脱窒できるので、脱炭によって窒素を除去することにより、出鋼後の溶鋼の窒素含有量が25ppmより低いことを確保し、低窒素を実現した。従来技術中の電気炉を用いた出鋼後の窒素含有量が40~60ppmであり、本願で言う低窒素鋼とは、出鋼後の窒素含有量が30ppmより低いことを指し、電気炉精錬終了後の窒素含有量が出鋼後の溶鋼の窒素含有量より低いため、本願では、出鋼後の溶鋼の窒素含有量を標準とする。
【0029】
本発明の前記技術手段において、2つの炉殻に作動時間において互いにマッチングさせることができるように、二重殻型電気炉のアーク給電システムが交互に2つの炉殻に対して給電加熱を行い、材料を供給するステップでは、溶鋼中の総炭素含有量が最終的な出溶鋼量の1.5~2.5wt%であるように制御する。
【0030】
さらに、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法の材料供給ステップでは、まず軽薄なスクラップと直接還元鉄のうちの少なくとも1つ、コークス及び石灰を加え、それから、溶銑を入れて、最後に普通のスクラップを入れてもよい。このような材料供給方式の目的は、スラグを増粘させることで、溶銑の飛び散りを効果的に避けることができる。この炉に前回のスラグが多く残ることになり、酸化性が強いので、増粘をさせないと、溶銑を加える過程において炭素がそれと激しく反応し易くて、飛び散りを引き起こしてしまう。
【0031】
本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法と従来技術とを比べて、次のような有益な効果を奏する。
【0032】
本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法は、精錬周期を短縮し、電気炉生産ラインの生産能力を高めることができるだけでなく、低窒素鋼も精錬でき、市場のハイエンド鋼種へのニーズを満たすこともできる。又、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法は、煙塵の排出を減らし、環境を保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、具体的な実施例を合わせて本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法について、さらに解釈と説明を行うが、該解釈と説明は本発明の技術手段を限定するものではない。
【0034】
<実施例1~6>
実施例1~6の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法の精錬プロセスは次の通りである。
二重殻型電気炉を用いて精錬を行い、二重殻型電気炉が2つの炉殻を有し、炉殻毎に精錬する溶鋼の容量は100~250tである。容量が250トンを超えると、鋳造に影響を与えることになり、即ち鋳造時間があまり長いと、溶鋼温度が鋳造の後期に低すぎて鋳造に影響を与えることになる。容量が100トン未満であると、生産能力に影響を与えることになり、本願に要求される高効率の生産を実現できない。二重殻型電気炉の直流アーク給電システムを用いて交互に2つの炉殻に対して給電加熱を行い、直流アーク給電システムが中空アルゴンガス吹き付け用電極を有し、ボトム電極がシート状電極であり、定格電力が0.7-1MW/t溶鋼である。2つの炉殻のうちの一方の炉殻に対して給電加熱を行う場合、他方の炉殻内に材料を供給すること、溶融池をシールすること、燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けて精錬を開始することを順次行い、給電加熱を行う炉殻内の溶鋼温度が目標温度1600~1660℃に達した場合、他方の炉殻に対して給電加熱を行い始める。その中、中空アルゴンガス吹き付け用電極によるアルゴンガス吹き付けは給電加熱過程全体を貫き、中空アルゴンガス吹き付け用電極のアルゴンガス吹き付け流量を50~100NL/minに制御する。又、二重殻型電気炉の炉ドアと直流アーク給電システムの電極口のいずれにも自動シール炉蓋が設けられている。各炉殻内に4~6個の燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けるランスを有する。燃焼媒体は燃料ガス又は燃料油でもよいし、燃料ガスと燃料油との混合物でもよい。
【0035】
又、材料を供給するステップでは、少量(例えば、10~20t)の軽薄なスクラップと直接還元鉄のうちの少なくとも1つ、コークス及び石灰を加え、その後、溶銑を加え、最後に溶融池の容量に基づいて普通のスクラップを加える。溶鋼中の総炭素含有量が最終的な出溶鋼量の1.5~2.5wt%であり、出鋼後の溶鋼の窒素含有量が25ppmより低い。
【0036】
溶融池をシールするステップでは、二重殻型電気炉の炉蓋、炉ドア蓋及び電極口蓋を被せると共に、仕切り板を用いて供給口と溶融池を隔離することによって、煙塵の放出を減らし、環境を保護する。
【0037】
燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けて精錬を開始するステップでは、燃焼媒体と酸素ガスを吹き付けて精錬を開始する前に、二重殻型電気炉と連体の除塵装置をつけて、煙塵の放出を減らし、環境を保護する。その後、同時に燃焼媒体と酸素ガスを吹き付け、全てのランスが同時に作動し、全てのランスから吹き付ける燃焼媒体の総流量が300~400ノーマルリットル/時間(NL/h)であり、単一のランスから吹き付ける酸素ガスの流量が1000~1200Nm3/hである。その中、最初の2min内に、燃焼媒体の総流量を180~240NL/hに制御する。燃焼媒体と酸素ガスの吹き付けから計時を開始し、5~10min吹き付けた後、燃焼媒体の吹き付けを停止し、酸素ガスのみを吹き付けて脱炭精錬を行い始め、単一のランスから吹き付ける酸素ガスの流量が3000Nm3/hである。
炉殻に対して給電加熱を行う場合、スラッギングによる脱りん、酸素吹き付けによる脱炭及び昇温を成し遂げる必要がある。具体的には、該炉殻内に数回を分けて石灰とドロマイトを含むスラッギング材料を加えて発泡スラグを形成し、脱りんを行う。発泡スラグが形成された後、炭素含有量が0.5%より低い場合、酸素吹き付け流量を炭素含有量が0.5%より高い時の酸素吹き付け流量の40%~60%に低減するように、最終的に精錬が終了するまで、鋼中の炭素含有量に基づいて酸素吹き付け流量を調整することで、脱炭を行う。又、溶融池内のスクラップが全部溶解された場合、炉ドア蓋を開けて脱りんしたスクラップを自動に流出させ、その後、引き続き1min給電加熱後、炭粉を吹き付けて発泡スラグを維持し、さらに引き続き溶鋼温度が目標温度1600~1660℃に達するまで給電加熱し、出鋼状態に入り、出鋼後の残留鋼・スラグが30~40tである。
【0038】
表1-1から表1-5には実施例1~6の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法における具体的な工程パラメータが挙げられている。
【0039】
【0040】
【表1-2】
その中、燃焼媒体は主に重油又は液体ガスを用い、コストを節約できるが、本願の技術手段はその他の天然ガスを用いてもよい。
【0041】
【0042】
【表1-4】
ここの「添加回数」は、各回の供給量が等しいことを要求せず、具体的には、精錬したスラグの状況によって決まる。通常、石灰とドロマイトを混合し、それから数回に分けて入れる。まず石灰を入れてからドロマイトを加えてもよい。
【0043】
【0044】
表2は実施例1~6の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法における出鋼量、かかる時間、精錬周期及び年間生産量を示したものである。
【表2】
【0045】
本願技術手段に係る精錬方法を用いることで、出鋼量が100t~250tであり、年間生産量が160~270万トンに達することができ、従来の炉の年間生産量が最高120万トンであり、平均として90万トン未満である。本願技術手段中の精錬周期が25min~36minの間にあり、普通の二重殻型炉の精錬周期が平均で56minである。
【0046】
これから分かるように、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法は、精錬周期を短縮可能であり、電気炉生産ラインの生産能力を高めるばかりでなく、低窒素鋼も精錬でき、市場のハイエンド鋼種へのニーズを満たすことができる。又、本発明に記載の電気炉を用いた高効率の低窒素鋼の精錬方法は煙塵の排出を減らし、環境を保護することができる。
【0047】
なお、本発明の保護範囲において、従来技術の部分は、本願文書に与えられた実施例に限らず、全ての本発明の技術手段と矛盾しない従来技術は、先行特許文献、先行公開出版物、先行公開使用等を含むが、これらに限らず、いずれも本発明の保護範囲に取り入れることができる。
又、本願において、各技術的特徴の組み合わせの方式は、本願特許請求の範囲に記載の組み合わせの方式又は具体的な実施例に記載の組み合わせの方式に限定されるものではなく、本願に記載の全ての技術的特徴は、相互に矛盾しない限り、如何なる方式で自由に組み合わせる又は結びつけることができる。
【0048】
なお、以上挙げられた実施例はただ本発明の好適な実施例に過ぎない。明らかに、本発明は以上の実施例に限定されるものではなく、それに従ってなされた類似の変化や変形は当業者が本発明に開示された内容から直接得る又はとても容易に連想されて得られるものであり、いずれも本発明の保護範囲に属すべきである。