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特許7142159Ni基自溶性合金、Ni基自溶性合金を用いたガラス製造用部材、ガラス製造用部材を用いた金型、ガラス塊搬送用部材、及びガラス製造用部材の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】Ni基自溶性合金、Ni基自溶性合金を用いたガラス製造用部材、ガラス製造用部材を用いた金型、ガラス塊搬送用部材、及びガラス製造用部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/03 20060101AFI20220915BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20220915BHJP
   C22C 32/00 20060101ALI20220915BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20220915BHJP
   C03B 7/14 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
C22C19/03 Z
C22C19/05 Z
C22C32/00 N
C22C1/05 D
C03B7/14
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2021520793
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2020019745
(87)【国際公開番号】W WO2020235547
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2019096985
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222222
【氏名又は名称】東洋ガラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川眞田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】東 利房
(72)【発明者】
【氏名】土屋 大地
(72)【発明者】
【氏名】浅野 穣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幸男
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/118576(WO,A1)
【文献】特開昭47-039208(JP,A)
【文献】特開2008-201080(JP,A)
【文献】特開平08-311630(JP,A)
【文献】特開2005-146409(JP,A)
【文献】特開平02-229728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/03-19/05
C22F 1/05
C03B 9/30
C03B 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度がlogη=3~14.6のガラスを搬送又は成形するためのガラス製造用部材に用いるNi基自溶性合金であって、
0質量%以上1.5質量%以下のBと、5質量%以上20質量%以下の硬質粒子と、1質量%以上5質量%以下のSiと、0質量%より大きく30質量%以下の周期表第4、5及び6族元素から選択された少なくとも1つの金属と、他の成分より多い残渣のNiとからなるNi基自溶性合金。
【請求項2】
前記Bが0質量%以上1.0質量%未満である請求項1に記載のNi基自溶性合金。
【請求項3】
前記Bが0質量%より大きく1.0質量%未満である請求項1に記載のNi基自溶性合金。
【請求項4】
更に、周期表第15族元素から選択された少なくとも1つの元素を合計で0質量%以上15質量%以下含む請求項1~請求項3のいずれか1つの項に記載のNi基自溶性合金。
【請求項5】
周期表第15族元素から選択された少なくとも1つの元素は、Pである請求項4に記載のNi基自溶性合金。
【請求項6】
前記硬質粒子が炭化物、窒化物、酸化物及びサーメットの少なくとも1つである請求項1~請求項5のいずれか1つに記載のNi基自溶性合金。
【請求項7】
前記炭化物が周期表第4、5及び6族元素のいずれか1つの炭化物である請求項6に記載のNi基自溶性合金。
【請求項8】
前記炭化物が炭化ケイ素である請求項6に記載のNi基自溶性合金。
【請求項9】
前記サーメットが周期表第4、5及び6族元素のいずれか1つの炭化物である請求項6に記載のNi基自溶性合金。
【請求項10】
前記酸化物がランタノイドから選択された少なくとも1つの金属の酸化物である請求項6に記載のNi基自溶性合金。
【請求項11】
前記ランタノイドから選択された少なくとも1つの金属の酸化物が酸化セリウムである請求項10に記載のNi基自溶性合金。
【請求項12】
周期表第4、5及び6族元素から選択された少なくとも1つの前記金属はCrである請求項1~請求項11のいずれか1つの項に記載のNi基自溶性合金。
【請求項13】
周期表第4、5及び6族元素から選択された少なくとも1つの前記金属が2.5質量%以上30質量%以下のCrである請求項1又は請求項12に記載のNi基自溶性合金。
【請求項14】
更に、第3族元素から選択された少なくとも1つの金属を合計で0質量%以上10質量%以下含む請求項1~請求項13のいずれか1つの項に記載のNi基自溶性合金。
【請求項15】
前記第3族元素から選択された少なくとも1つの前記金属がYである請求項14に記載のNi基自溶性合金。
【請求項16】
更に、第7族元素から選択された少なくとも1つの金属を合計で0質量%以上10質量%以下含む請求項1~請求項13のいずれか1つの項に記載のNi基自溶性合金。
【請求項17】
前記第7族元素から選択された少なくとも1つの前記金属がMn又はReである請求項16に記載のNi基自溶性合金。
【請求項18】
更に、第8族元素から選択された少なくとも1つの金属を合計で0質量%以上30質量%以下含む請求項1~請求項13のいずれか1つの項に記載のNi基自溶性合金。
【請求項19】
前記第8族元素から選択された少なくとも1つの前記金属がFeである請求項18に記載のNi基自溶性合金。
【請求項20】
更に、第11族元素から選択された少なくとも1つの金属を合計で0質量%以上10質量%以下含む請求項1~請求項13のいずれか1つの項に記載のNi基自溶性合金。
【請求項21】
前記第11族元素から選択された少なくとも1つの前記金属がCu又はAgである請求項20に記載のNi基自溶性合金。
【請求項22】
表面の温度が480℃に加熱され、水平面に対して70度傾斜した板状の前記Ni基自溶性合金に、1000℃に加熱された溶融ガラス0.3gを滴下したときに、溶融ガラスが前記Ni基自溶性合金に接着せずに滑り落ちる請求項1~請求項21のいずれか1つの項に記載のNi基自溶性合金。
【請求項23】
前記ガラス製造用部材は、400℃以上1400℃以下のガラスを搬送又は成形するための部材である請求項1~請求項22のいずれか1つの項に記載のNi基自溶性合金。
【請求項24】
請求項1~請求項23のいずれか1つの項に記載の前記Ni基自溶性合金を用いて、ガラスの成形加工において溶融ガラスと接触する部位を形成したガラス製造用部材。
【請求項25】
前記溶融ガラスと接触する前記部位に前記Ni基自溶性合金が溶射されている請求項24に記載のガラス製造用部材。
【請求項26】
請求項24又は請求項25に記載のガラス製造用部材によって形成したガラスびん成形用の金型。
【請求項27】
請求項24又は請求項25に記載のガラス製造用部材によって形成したガラス塊搬送用部材。
【請求項28】
請求項1~請求項23のいずれか1つの項に記載の前記Ni基自溶性合金を、ガラスの成形加工において溶融ガラスと接触する部位に溶射することを特徴とするガラス製造用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスを搬送又は成形するためのガラス製造用部材に用いるNi(ニッケル)基自溶性合金、Ni基自溶性合金を用いたガラス製造用部材、ガラス製造用部材を用いた金型及びガラス塊搬送用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス製品の成形工程において、ガラス製造用部材と高温状態にあるガラスとが接着しやすいと、成形時に製品形状に精度良く賦形ができない、或はガラス製品の表面に傷がつくといった成形不良が生じる。そのため、例えばガラスびんの成形においては、離型性を確保するために離型剤が頻繁に塗布されている(スワビングと呼ばれる)(例えば、特許文献1)。なお、これ以降本文中において、高温状態にあり成形加工が可能である状態のガラス、すなわち粘度がlogη=3~14.6(=10~1014.6poise)になっているガラス及びその塊のことを「溶融ガラス」又は「溶融ガラス塊」と定義する。ここで、logηは常用対数である。
【0003】
また、耐熱性及び耐摩耗性に優れたガラス製造用部材として、極微量のB(ホウ素)を含む合金が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
また、ガラス成形加工以外の分野において、プランジャーやハースロール等の表面の耐摩耗性を向上させるために、溶射によって部材の表面に被膜を形成することが公知である。被膜形成に使用する合金として、急激な熱変化が加わって皮膜が剥離することがなく、かつ溶射によって部材表面に皮膜を被覆した後フュージング処理(再溶融処理)により孔のない均質な皮膜を形成することができる自溶性合金が提案されている。自溶性合金として、質量%でNi:40~70%、Cr(クロム):5~40%、B:1~6%、Si(ケイ素):1~6%、C(炭素):0.1~2.0%、Fe(鉄):1~10%、W(タングステン):1~20%、Cu(銅):0.8~5%を含むものが提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第01/28942号
【文献】特公昭33-4952号公報
【文献】特公昭61-49376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス製品の成形工程において溶融ガラス塊と接触するガラス製造用部材に求められる性質として、溶融ガラス塊と接着しにくいこと、意図して設ける場合を除き部材表面に孔等(ピンホール等)がないこと、耐摩耗性が良く長寿命であることが求められており、従来のガラス製造用部材はこれらの性質を未だ十分に満足させるものではない。
【0007】
本発明は、以上の背景を鑑み、高い耐摩耗性を持ち且つ表面温度が480℃において溶融ガラスに対する接着性が低い、ガラス製造用部材に用いるNi基自溶性合金、Ni基自溶性合金を用いたガラス製造用部材、ガラス製造用部材を用いた金型及びガラス塊搬送用部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、0質量%以上1.5質量%以下のBと、硬質粒子と、Siとを含むことを特徴とするNi基合金及び該合金を用いたガラス製造用部材が提供される。本発明の他の態様は、該合金を用いて、ガラスの成形加工において溶融ガラスと接触する部位を形成したガラス製造用部材を用いた金型及びガラス塊搬送用部材を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のNi基自溶性合金は、その表面が高温領域においても溶融ガラスと接着しにくい。従って該合金を、ガラス製造用部材の全部又は一部に適用した場合、溶融ガラスと接触した際の摩擦が抑えられ、結果としてスワビング頻度の低減や製品不良抑制による製品歩留まり向上を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】溶融ガラス塊が金属材料又はガラス製造用部材と衝突したときに起こる現象の模式図
図2】溶融ガラス接着性評価試験装置の斜視図
図3】実施例4においてガラスが接着した界面の断面電子顕微鏡画像
図4】金型及びガラス搬送用部材を示す説明図
図5】実施例1~4及び比較例1、2についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図6】実施例1、5及び6についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図7】実施例4及び7~10についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図8】実施例1、11及び12についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図9】実施例1及び13についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図10】実施例14~16についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図11】実施例17についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図12】実施例18~20についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図13】実施例21~23についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図14】実施例24~32についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図15】実施例33~34についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図16】実施例35~39についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図17】実施例40についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図18】実施例41~42についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図19】実施例43~44についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図20】実施例45についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図21】実施例46~47についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図22】実施例48についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
図23】比較例3~5についてサンプル表面温度に対する溶融ガラス塊の接着率を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、所定量のBを配合する、もしくはBを配合しないことによって高温領域においても溶融ガラスと接着しない合金組成を見出したことが最大の特徴である。本発明によれば、Ni基自溶性合金表面における溶融ガラス塊の滑り性を向上させることができる。
【0012】
この現象が発現する機構について以下の様に推察している。図3は、本発明のNi基自溶性合金(実施例4)と溶融ガラス塊が接着している界面の断面電子顕微鏡画像である。電子顕微鏡画像観察のための試料は、後述する溶融ガラス接着性評価試験装置(図2)を用い、750℃に加熱した各サンプル20の表面に1050℃の溶融ガラスを滴下し、その後サンプル20及び溶融ガラスを冷却して、ガラスをサンプル20の表面に固着させ、サンプル20の表面及びガラスを樹脂で覆った後、サンプル、ガラス及び樹脂をサンプルの表面に直交する面で切断し、断面を露出させた。露出した断面はイオンミリング法で平滑に調整した。図3の断面画像から、Ni基自溶性合金の母材の表面に形成された酸化皮膜は母材との隙間が形成されている。このことから次のようなことが考えられる。図1に模式的に示すように、本発明のNi基自溶性合金からなる金属材料14の表面に生成する金属酸化皮膜15は溶融ガラス塊16と共に母材(金属材料14)から剥離し易いと考えられる。明確な理由は明らかではないが、本発明のNi基自溶性合金の酸化皮膜は、周期表第4、5及び6族の金属を含有することによって更に剥離し易くなると推察している。周期表第4、5及び6族の金属の酸化皮膜は、Ni基自溶性合金に対して異なる熱膨張率を有するため、温度が上昇した際にNi基自溶性合金に対して剥離し易くなると考えられる。そのため、図1(B)及び(C)に示すように、周期表第4、5及び6族の金属酸化皮膜15は、高温の溶融ガラス塊16と接触した際に溶融ガラス塊16に吸着してNi基自溶性合金からなる金属材料14(母材)から剥離する。これにより、Ni基自溶性合金のガラス塊に対する滑り性を向上させることができると考えられる。また、酸化皮膜が剥離した後、速やかに酸化皮膜が再生する、すなわち図1(C)に示す状態から図1(A)に示す状態に速やかに戻ることで、Ni基自溶性合金は溶融ガラス塊に対する高い滑り性を長期的に発現するものと考えられる。
【0013】
また、一般的にNiは他の金属材料に比較して、ガラスとの接着性が低いことが知られている。一方で、Bを添加したNi合金は、溶融ガラス塊との接着性が高くなる、すなわち溶融ガラス塊の金属材料表面における滑り性が悪くなることがある。この現象の理由としては、明確な理由は明らかではないが、Ni合金中のB、又は高温環境下でNi合金表面に生成するBが、Ni合金酸化物の母材金属との密着性を向上させる、又はBとNi合金の混合酸化物が母材金属から剥離しにくいことで、上述の酸化皮膜の剥離現象が抑制され、結果としてNi合金表面と強固に接着し滑り性が悪くなる等が考えられる。
【0014】
本実施形態に係る、粘度がlogη=3~14.6(=10~1014.6poise)のガラスを成形するためのガラス製造用部材に用いるNi基自溶性合金は、0質量%以上1.5質量%以下のBと、硬質粒子と、Siとを含む。ガラス製造用部材は、ガラス成形用部材とガラス搬送用部材とを含む。ここで、logηは常用対数である。本実施形態に係るNi基自溶性合金に含まれる成分の配合量は以下の範囲が好ましい。ガラスは、例えばソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス等であってよい。また、ガラス製造用部材は、400℃以上1400℃以下のガラスを搬送又は成形するための部材であるといえる。
【0015】
本実施形態に係るNi基自溶性合金において、B(ホウ素)は0質量%以上1.5質量%以下である。Bは、0質量%以上1.1質量%以下、さらに好ましくは0質量%以上1.0質量%未満、さらに好ましくは0質量%以上0.75質量%未満、さらに好ましくは0質量%以上0.5質量%未満であるとよい。また、Bは、0質量%より大きく1.0質量%未満、より好ましくは0質量%より大きく0.75質量%未満、さらに好ましくは0質量%より大きく0.5質量%未満であるとよい。なお、他の実施形態ではNi基自溶性合金がBを含まなくてもよい。
【0016】
本実施形態に係るNi基自溶性合金は、Si(ケイ素)を0質量%以上10質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上7.5質量%未満含む。
【0017】
B及びSiは、フラックス成分であり、含有量が多いほどNi基自溶性合金の自溶性が向上する。B及びSiはNi基自溶性合金の表面にB及びSiO酸化皮膜を形成する。上述の通りBは溶融ガラスとの接着性を高める要因となり得るので、本実施形態に係るNi基自溶性合金ではBの含有量が少ない方が好ましい。
【0018】
本実施形態に係るNi基自溶性合金において、硬質粒子は耐摩耗性を向上させるために添加される。硬質粒子としては、炭化物・窒化物・酸化物及びそれらと金属材料を複合した、所謂サーメット材料が含まれる。本実施形態に係るNi基自溶性合金は、硬質粒子として炭化物、窒化物、酸化物及びサーメットの少なくとも1つを含む。硬質粒子の含有量は、0質量%より大きく50質量%以下、好ましくは5質量%以上50質量%以下、更に好ましくは5質量%以上30質量%以下を含む。硬質粒子の含有量が少なすぎると耐摩耗性が得られず早期に使用不能となり、多すぎると部材を製作するときの切削加工等が難しくなる。
【0019】
硬質粒子としての炭化物は、周期表第4、5及び6族元素のいずれか1つの炭化物を含み、例えば、TiC(炭化チタン)、ZrC(炭化ジルコニウム)、HfC(炭化ハフニウム)、VC又はVC(炭化バナジウム)、NbC(炭化ニオブ)、TaC(炭化タンタル)、Cr、Cr又はCr23(炭化クロム)、MoC(炭化モリブデン)、WC又はWC(炭化タングステン)等を含む。
【0020】
また、硬質粒子としての炭化物は、炭化ケイ素であってもよい。
【0021】
硬質粒子としての酸化物は、ランタノイドから選択された少なくとも1つの金属の酸化物を含むとよい。ランタノイドから選択された少なくとも1つの金属の酸化物は酸化セリウムであるとよい。
【0022】
サーメットは、周期表第4、5及び6族元素のいずれか1つの炭化物を含むとよい。上記炭化物と金属材料を複合したサーメット粒子としては、バインダーとして12質量%のCo(コバルト)を含むWC(WC-12%Co)であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0023】
以上の硬質粒子は、母材のNi基自溶性合金中に分散し、該合金の耐摩耗性を向上させ、ガラス製造用部材として使用した場合に長期耐久性を発現する。
【0024】
Ni基自溶性合金は、周期表第15族元素から選択された少なくとも1つの元素を含むとよい。前記周期表第15族元素から選択された少なくとも1つの元素を0質量%以上15質量%以下含むとよい。周期表第15族元素から選択された少なくとも1つの元素は、Pを含むとよい。
【0025】
本実施形態に係るNi基自溶性合金は、P(リン)を含むとよい。Pは、0質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上4質量%以下である。
【0026】
本実施形態に係るNi基自溶性合金は、周期表第4、5及び6族元素から選択された少なくとも1つの金属を含むとよい。金属は、0質量%以上30質量%以下であり、2.5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。また、金属はCr(クロム)であることが好ましく、Crは2.5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0027】
Ni基自溶性合金は、第3族元素から選択された少なくとも1つの金属を含んでもよい。Ni基自溶性合金は、第3族元素から選択された少なくとも1つの金属を0質量%以上10質量%以下含むとよい。第3族元素から選択された少なくとも1つの金属はYであるとよい。
【0028】
Ni基自溶性合金は、第7族元素から選択された少なくとも1つの金属を含んでもよい。Ni基自溶性合金は、第7族元素から選択された少なくとも1つの金属を0質量%以上10質量%以下含むとよい。第7族元素から選択された少なくとも1つの金属は、Mn又はReであるとよい。
【0029】
Ni基自溶性合金は、第8族元素から選択された少なくとも1つの金属を含んでもよい。Ni基自溶性合金は、第8族元素から選択された少なくとも1つの前記金属を0質量%以上30質量%以下含むとよい。第8族元素から選択された少なくとも1つの金属は、Feであるとよい。
【0030】
Ni基自溶性合金は、第11族元素から選択された少なくとも1つの金属を含んでもよい。Ni基自溶性合金は、第11族元素から選択された少なくとも1つの金属を0質量%以上10質量%以下含むとよい。第11族元素から選択された少なくとも1つの金属は、Cu又はAgであるとよい。
【0031】
本実施形態に係るNi基自溶性合金は、上記成分の残渣として、他の成分より多いNiを含み、製造工程において不可避な不純物を微少量含んでもよい。
【0032】
本実施形態に係るNi基自溶性合金中の硬質粒子を除いた金属成分は、所定の組成を持つならばどのように用意しても良い。Ni基自溶性合金は、例えば構成元素を含む金属及び無機化合物を溶融混合した後に凝固させて合金化させても良いし、構成元素を含む金属及び無機化合物の微粒子同士を混合させるだけでも良い。
【0033】
本発明のNi基自溶性合金を用いたガラス製造用部材の作製方法として、焼結又は鋳造が考えられるがこれに限定されるものではない。
【0034】
溶融ガラスと接触する部位のみに該合金を適用する方法として、鉄等の金属によって形成された金型及び溶融ガラス塊搬送用部材の溶融ガラス塊との接触面に、溶射、鍍金、クラッド、積層造形、溶接等でNi基自溶性合金から成る皮膜を被覆して形成してもよい。また、皮膜を形成した後に、フュージング処理(再溶融処理)を行うことによって、皮膜に生じた孔を閉じることができる共に、母材と皮膜との密着性を向上させることができる。
【0035】
ガラス製造用部材の一例を示す。図4に示すようにガラス製造用部材は、溶融ガラスからガラスびんを成形するためのガラスびん成形用の金型42や、溶融ガラス槽43から供給される溶融ガラス塊(ゴブ)を金型42に搬送するためのガラス塊搬送用部材44を含む。金型42は、溶融ガラス塊からパリソンを成形するための粗型、バッフル、口型、プランジャー及びパリソンからガラスびんを成形するための仕上型を含む。ガラス塊搬送用部材44は、ゴブを粗型に搬送するためのシューターや樋等を含む。ガラス塊搬送用部材44は、スクープ44A、トラフ44B、デフレクタ44Cを含む。金型42及びガラス塊搬送用部材44は、その全体がNi基自溶性合金によって形成されてもよく、ガラス塊と接触する表面のみが皮膜としてNi基自溶性合金によって形成されてもよい。
【0036】
上記の態様において、480℃に加熱され、水平面に対して70度傾斜した板状の前記Ni基自溶性合金に、1000℃に加熱された溶融ガラス0.3gを滴下したときに、溶融ガラスがNi基自溶性合金に接着せずに滑落する特性を有する。
【0037】
これらの態様によれば、溶融ガラス塊に対して高温領域においても接着しないNi基自溶性合金を提供することができ、さらには該合金を各種ガラス成形部材に適用することにより、溶融ガラス塊や板ガラスと接着せず良好な滑り性を有する各種ガラス製造用部材を提供することができる。ガラス製造用部材は、例えばプレス成形金型、成形ロール、搬送ロール、及び搬送モールドやガラスと接触する治具等を含む。
【実施例
【0038】
(溶融ガラス接着性評価試験装置)
溶融ガラスと金属との接着性を評価するための試験装置21(図2)について説明する。試験装置21はガラス棒22を支持するガラス棒ホルダ23と、ガラス棒22の下端を加熱するガラス棒加熱装置24と、ガラス棒加熱装置24の下方においてサンプル20を所定の角度で支持するサンプルホルダ26と、サンプル20を加熱するサンプル加熱装置27とを有する。
【0039】
サンプル20は、水平面に対して70度に傾斜し、その中央部がフレーム28の中心点Aの下方に100mm離れて配置されている。また、サンプル加熱装置27は、温度調節器32に繋がれたヒータ30及び熱電対31を備えた金属板である。
【0040】
ガラス棒加熱装置24は、四角形枠形のフレーム28と、フレーム28に支持された4本のバーナ29とを有する。各バーナ29は、噴射孔がフレーム28の内側を向き、かつそれぞれの噴射軸線がフレーム28の中心点Aで交わるようにフレーム28に支持されている。各バーナ29は、それぞれから噴射される火炎の先端がフレーム28の中心点Aで交わるように調節されている。
【0041】
(ガラス棒)
ガラス棒22の組成は、SiOが69質量%、Alが1.7質量%、Feが0.06質量%、NaOが8.5質量%、KOが4.9質量%、MgOが2.2質量%、CaOが4.0質量%、SrOが6.0質量%、BaOが3.2質量%、Sbが0.3質量%、Pが0.2質量%、TiOが0.03質量%、Clが0.03質量%、SOが0.03質量%、ZrOが0.1質量%である。ガラス棒の直径は4mmである。
【0042】
(実験方法)
サンプル20の表面温度を温度センサ(安立計器株式会社製静止表面用温度センサ A形シリーズ)で測定することにより所定の温度であることを確認した後、ガラス棒22の下端をフレーム28の中心点Aに配置し、各バーナ29から噴射される火炎によって加熱した。加熱されたガラス棒下端は球状となり、自然に落下してサンプル20と衝突する。衝突した瞬間のガラス塊温度をサーモグラフィ(シナノケンシ製プレクスロガーPL3)により測定する。
【0043】
(接着率測定方法)
サンプル20と衝突したガラス塊はサンプル20に接着(付着)するか或は接着せずに下方に落下する。サンプル20と衝突した瞬間のガラス塊の温度が1000(±20)℃の範囲内であった時、サンプル20表面に接着して留まったものを「接着有り」、サンプル20表面に接着せず下方に落下したものを「接着なし」と判定した。この試験を、あるサンプル20表面温度において10回実施し、10回中の「接着有り」の割合を接着率(%)とした。なお、溶融ガラスの温度範囲が上述の範囲から外れた時は評価の対象としなかった。
【0044】
実施例1~48及び比較例1~5に係るサンプルを以下に示す方法によって作製し、評価を行った。表1~15は、実施例1~48、及び比較例1~5の混合割合、作製方法、評価結果を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
【表7】
【0052】
【表8】
【0053】
【表9】
【0054】
【表10】
【0055】
【表11】
【0056】
【表12】
【0057】
【表13】
【0058】
【表14】
【0059】
【表15】
【0060】
(実施例1)
合金原料として、Niを残渣成分として、粒径105μm以下のSi、粒径150μm以下のNiP、粒径63μm以下のCr、粒径2~3μmのNi及び粒径約1.5μm以下のMo粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所)と、硬質粒子として粒径15-45μmのWC-12%Co(ユテクジャパン株式会社)を表1に示す割合で混合し、パルス通電焼結法により金属板を作製した後、追加工により幅3cm奥行4cm厚さ3mmで、表面粗さ(算術平均粗さRa)が約1μm以下の板を作製した。この板をサンプル20として用い溶融ガラス接着性評価試験を行った。
【0061】
(実施例2)
合金原料として、さらに粒径45μm以下のBを0.1質量%混合すること以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0062】
(実施例3)
合金原料として、混合するBを0.5質量%にすること以外は実施例2と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0063】
(実施例4)
合金原料として、混合するBを1.1質量%とし、Siを2.5質量%としたこと以外は実施例2と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0064】
(実施例5)
合金原料として、混合するSiを1.0質量%混合すること以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0065】
(実施例6)
合金原料として、混合するSiを2.5質量%混合すること以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0066】
(実施例7)
合金原料として、Crを含まないこと以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0067】
(実施例8)
合金原料として、混合するCrを20質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0068】
(実施例9)
合金原料として、Moを含まないこと以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0069】
(実施例10)
合金原料として、粒径150μm以下のV(バナジウム)(株式会社高純度化学研究所)を0.4質量%混合すること以外は実施例9と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0070】
(実施例11)
合金原料として、WC-12%Coを含まず、粒径約5μmのWCと粒径約5μmのCo(いずれも株式会社高純度化学研究所)を表1の割合で混合すること以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0071】
(実施例12)
合金原料として、Co含まないこと以外は実施例11と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0072】
(実施例13)
合金原料として実施例1と同じ割合で材料を混合し、鋳造により金属板を作製した後、追加工により幅3cm奥行4cm厚さ3mmで、表面粗さ(算術平均粗さRa)が約1μm以下の板を作製し、評価試験を行った。
【0073】
(実施例14)
合金原料として、WC微粒子を含まず、粒径45μm以下のCrC(炭化クロム)(株式会社高純度化学研究所)を15.7質量%混合すること以外は実施例12と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0074】
(実施例15)
合金原料として、WC微粒子を含まず、平均粒径10μm以下のVC(炭化バナジウム)(株式会社高純度化学研究所)を15.7質量%混合すること以外は実施例12と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0075】
(実施例16)
合金原料として、WC-12%Coを含まず、平均粒径10μm以下のZrC(炭化ジルコニウム)(株式会社高純度化学研究所)を15.7質量%混合すること以外は実施例12と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0076】
(実施例17)
合金原料として、WC-12%Coを含まず、平均粒径10μm以下のSiC(炭化ケイ素)(株式会社高純度化学研究所)を5質量%混合すること以外は実施例12と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0077】
(実施例18)
合金原料として、WC-12%Coを含まず、粒径45μm以下のWC-10%Ni(ユテクジャパン株式会社)を15.7質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0078】
(実施例19)
合金原料として、WC-12%Coを含まず、粒径45μm以下のWC-10%Co4%Cr(ユテクジャパン株式会社)を15.7質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0079】
(実施例20)
合金原料として、WC-12%Coを含まず、粒径45μm以下のWC-20%Cr7%Ni(ユテクジャパン株式会社)を15.7質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0080】
(実施例21)
合金原料として、WC-12%Coを含まず、粒径45μm以下のCrC-20%Ni5%Cr(ユテクジャパン株式会社)を6.7質量%混合すること以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0081】
(実施例22)
合金原料として、混合するCrC-20%Ni5%Crを15.7質量%にすること以外は実施例21と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0082】
(実施例23)
合金原料として、WC-12%Coを含まず、粒径45μm以下のCrC-20%Ni5%Crを15.7質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0083】
(実施例24)
合金原料として、Cr及びMoを含まず、粒径45μm以下のTi(チタン)(株式会社高純度化学研究所)を5質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0084】
(実施例25)
合金原料として、Cr及びMoを含まず、粒径45μm以下のZr(ジルコニウム)(株式会社高純度化学研究所)を10質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0085】
(実施例26)
合金原料として、混合するMoを5質量%にすること以外は実施例7と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0086】
(実施例27)
合金原料として、混合するMoを10質量%にすること以外は実施例7と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0087】
(実施例28)
合金原料として、Cr及びMoを含まず、粒径45μm以下のTa(タンタル)(株式会社高純度化学研究所)を10質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0088】
(実施例29)
合金原料として、Vを5質量%混合すること以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0089】
(実施例30)
合金原料として、混合するVを5質量%にすること以外は実施例10と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0090】
(実施例31)
合金原料として、Vを3質量%、Zrを10質量%混合すること以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0091】
(実施例32)
合金原料として、Cr及びMoを含まず、平均粒径10μm以下のW(タングステン)(株式会社高純度化学研究所)を10質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0092】
(実施例33)
合金原料として、混合するWC-12%Coを5質量%にすること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0093】
(実施例34)
合金原料として、混合するWC-12%Coを20質量%にすること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0094】
(実施例35)
合金原料として、Pを含まないこと以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0095】
(実施例36)
合金原料として、混合するPを3質量%にすること以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0096】
(実施例37)
合金原料として、混合するPを5質量%にすること以外は実施例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0097】
(実施例38)
合金原料として、粒径150μm以下のSb(アンチモン)(株式会社高純度化学研究所)を10質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0098】
(実施例39)
合金原料として、Pを含まず、粒径150μm以下のBi(ビスマス)(株式会社高純度化学研究所)を5質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0099】
(実施例40)
合金原料として、酸化セリウムを10質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0100】
(実施例41)
合金原料として、粒径150μm以下のY(イットリウム)(株式会社高純度化学研究所)を1.11質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0101】
(実施例42)
合金原料として、Yを10質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0102】
(実施例43)
合金原料として、平均粒径50μm以下のMn(マンガン)(株式会社高純度化学研究所)を5質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0103】
(実施例44)
合金原料として、粒径45μm以下のRe(レニウム)(株式会社高純度化学研究所)を10質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0104】
(実施例45)
合金原料として、Niを残渣成分として、Si、NiP、Cr、Ni、Mo及びFe(鉄)粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所)と、硬質粒子として粒径15-45μmのWC-12%Co(ユテクジャパン株式会社)を表11に示す割合で混合すること以外は実施例13と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0105】
(実施例46)
合金原料として、平均粒径50μm以下のCu(銅)(株式会社高純度化学研究所)を5質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0106】
(実施例47)
合金原料として、平均粒径50μm以下のAg(銀)(株式会社高純度化学研究所)を1.34質量%混合すること以外は実施例4と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0107】
(実施例48)
合金原料として、ガスアトマイズ法によりICP発光分光分析法による組成及びレーザ回折・散乱法による粒径(メジアン径)が表16に記載された組成及び粒径である金属粉末を作製した。該金属粉末とWC-12%Coを混合した後、該混合粉末を高速フレーム溶射法(HVOF(High Velocity Oxygen Fuel)法)によりねずみ鋳鉄表面に溶射し厚み約0.8mmのNi基合金皮膜を形成し試験片とした。溶射皮膜の組成を蛍光X線分析装置で測定したところ表14となっていた。該試験片を追加工により幅3cm奥行4cm厚さ3mmで、該合金皮膜の表面粗さ(算術平均粗さRa)が約1μm以下の板を作製した。この板を実施例48として用い該合金皮膜を評価面として溶融ガラス接着性評価試験を行った。
【0108】
【表16】
【0109】
(比較例1)
合金原料として、混合するBを5.0質量%にすること以外は実施例2と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0110】
(比較例2)
合金原料として、Siを含まないこと以外は比較例1と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0111】
(比較例3)
合金原料として、B及びPを含まないこと以外は比較例2と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0112】
(比較例4)
合金原料として、Pを含まないこと以外は比較例2と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0113】
(比較例5)
合金原料として、混合するPを3質量%にすること以外は比較例2と同様にサンプルを作製及び評価試験を行った。
【0114】
(B、Siの影響)
図5は、実施例1~4と比較例1及び2の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。各サンプル表面温度において、接着率が低いほど溶融ガラス塊に対する滑り性が高いことを示している。評価の判定基準として、サンプル表面温度が480℃、500℃及び520℃のときの接着率が10%未満の時を○(マル)、10%以上の時を×(バツ)とした。図5からわかるように、Bの含有量が低下するほど接着率は低下することがわかる。Bの含有量が1.1質量%である実施例4は判定基準を満たすが、Bの含有量が5.0質量%である比較例1及び2は判定基準を満たさない。すなわち、判定基準を満たすBの閾値は、1.1質量%より大きく5.0質量%より小さい範囲にあることがわかる。Ni基自溶性合金におけるBの含有量は少ないほど好ましく、例えば0質量%より大きく1.0質量%未満であるとよい。Bの含有量を低減させることによって、Ni基自溶性合金のガラス塊に対する滑り性を向上させることができる。また、図6は実施例1、5及び6、すなわちNi基自溶性合金中にBを含まないときの溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図5と同様に、図6よりSiが1.0~5.0質量%の範囲においては溶融ガラス塊に対する滑り性が良好であることが分かる。
【0115】
図23は比較例3~5、すなわちSiを含まないNi基自溶性合金の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図1及び図23よりSiを含まない場合はB及びPの含有量に依らず溶融ガラス塊に対する滑り性が悪いことが分かる。
【0116】
以上の実施形態に係るNi基自溶性合金によれば、溶融ガラス塊に対する滑り性を向上させることができる。また、該合金は、B及びSiの少なくとも一方のフラックス成分を含むことによって、フュージング処理を可能にしている。
【0117】
(Crの影響)
図7は、実施例4、7~10の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図7の実施例8及び9を比較すると、Crの含有量が増加するほど接着率が低下することがわかるが、Crが含まれていない実施例7でも判定基準を満たす。
【0118】
(炭化物の種類の影響)
図10は、実施例14~16の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図10から、硬質粒子としての炭化物が周期表第4,5,6族元素の炭化物であれば判定基準を概ね満たす。また、図11は、実施例17の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図11から、硬質粒子としての炭化物が炭化ケイ素であっても判定基準を満たす。
【0119】
(サーメットの種類の影響)
図12は、実施例18~20の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図12から、WCサーメットのバインダー金属及び含有量が12%のCo以外であっても判定基準を概ね満たす。また、図13は、実施例21~23の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図13から、硬質粒子としてのサーメット中の炭化物がCrCであっても判定基準を満たす。
【0120】
(周期表4,5,6族元素の影響)
図14は、実施例24~32の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図14から、周期表第4,5,6族元素を合金中に含有させる際、多様な組み合わせかつ含有量において判定基準を満たす。
【0121】
(硬質粒子の含有量の影響)
図15は、実施例33及び34の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図15から、WC-12%Coの含有量が広い範囲で判定基準を満たす。
【0122】
(周期表第15族元素の影響)
図16は、実施例35~39の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。実施例35~37から、周期表第15族元素の一つであるPの含有量によらず判定基準を満たす。また、実施例38から、2種類以上の第15族元素を含んでも判定基準を満たす。さらに、実施例39から、選択される第15族元素は必ずしもPでなくても判定基準を満たす。
【0123】
(硬質粒子の種類の影響)
図17は、実施例40の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図17から、硬質粒子の種類が金属炭化物でなくても判定基準を満たす。
【0124】
(周期表第3族元素の影響)
図18は、実施例41~42の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図18から、第3族元素が含有されていても判定基準を満たす。
【0125】
(周期表第7族元素の影響)
図19は、実施例43及び44の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図19から、第7族元素が含有されていても判定基準を満たす。
【0126】
(周期表第8族元素の影響)
図20は、実施例45の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図20から、第8族元素が含有されていても判定基準を満たす。
【0127】
(周期表第11族元素の影響)
図21は、実施例46及び47の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図21から、第11族元素が含有されていても判定基準を満たす。
【0128】
(硬質粒子の分散状態の影響)
図8は、実施例1、11及び12の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図8から、Ni基自溶性合金中に硬質粒子を分散させる方法として、サーメット粒子を用いても、微粒子状の炭化物を用いても溶融ガラス塊の滑り性能には影響しないことが分かる。
【0129】
(サンプル作製方法の影響)
図9は、実施例1及び13の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果である。図9から、Ni基自溶性合金の作製方法として、原料粉末から直接合金を作製しても良いし、一度金属成分を完全に溶解させて凝固させることで作製しても溶融ガラス塊の滑り性能には影響しないことが分かる。従って、例えば該合金の溶射粉末を作製する際は、溶湯噴霧法(アトマイズ法)、溶融粉砕法、焼結粉砕法、造粒法、造粒焼結法、被覆法、混合法など、一般的に知られている様々な方法を用いることができる。
【0130】
さらに、図22は、実施例48の溶融ガラス塊に対する接着性評価試験の結果を示している。図22より、Ni基自溶性合金の作製方法として、何らかの基材の表面に膜状に形成することによって作製しても溶融ガラス塊の滑り性能には影響しないことが分かる。従って、例えば該合金を膜状に形成する際は、溶射、鍍金、クラッド、積層造形、溶接など、一般的に知られている様々な方法を用いることができる。
【0131】
本発明のNi基自溶性合金は、その表面が480℃に加熱され、水平面に対して70度傾斜した板状の該合金に、1000(±20℃)℃に加熱された溶融ガラス0.3gを滴下したときに、溶融ガラスが該合金に接着せずに滑落する特性を有しており、この特性より該合金を実際のガラス成形加工に適用した際は溶融ガラス塊に対する摩擦が小さく良好な成形性を示す。
【0132】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明のNi基自溶性合金を用いたガラス製造用部材としては、金型、プランジャー、ローラー等の金属部材の他、溶融ガラス塊を搬送するために製びん工程において使用されるシューター等の搬送部材にも適用することができる。
【符号の説明】
【0134】
14 :金属材料
15 :金属酸化皮膜
16 :溶融ガラス塊
20 :サンプル
21 :溶融ガラス接着性評価試験装置
22 :ガラス棒
23 :ガラス棒ホルダ
24 :ガラス棒加熱装置
26 :サンプルホルダ
27 :サンプル加熱装置
28 :バーナ支持フレーム
29 :バーナ
30 :ヒータ
31 :熱電対
32 :温度調節器
42 :金型
43 :溶融ガラス槽
44 :溶融ガラス搬送部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23