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特許7142166トンネル内に電池パックを搭載する車両のフロントフロア補強構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-14
(45)【発行日】2022-09-26
(54)【発明の名称】トンネル内に電池パックを搭載する車両のフロントフロア補強構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20220915BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20220915BHJP
【FI】
B62D25/20 E
B60K1/04 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021529790
(86)(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 IB2019060110
(87)【国際公開番号】W WO2020128682
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/060168
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,ニコラ
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102010045997(DE,A1)
【文献】特開平09-323669(JP,A)
【文献】特開2013-133043(JP,A)
【文献】特表2018-536583(JP,A)
【文献】国際公開第2011/055844(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B60K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル(7)内に電池パック(5)を搭載する車両(3)用のフロントフロア補強構造(1)であって、少なくとも、
-フロントフロアパネル(11)と、
-サイドシル(9)からトンネル(7)まで短手方向に延び、少なくともフロントフロアパネル(11)に取り付けられているフロントフロアクロス部材(13)と、
を備え、
前記フロントフロアクロス部材(13)は、フロントフロアクロス部材(13)の、サイドシル(9)に最も近い端部に位置する非変形部分(14)と、フロントフロアクロス部材(13)の、トンネル(7)に最も近い端部に位置する変形部分(16)とを備え、非変形部分(14)の塑性変形に対する耐性は、変形部分(16)の塑性変形に対する耐性よりも大きく、前記変形部分(16)の塑性変形に対する耐性は、前記フロントフロアパネル(11)の塑性変形に対する耐性よりも大きい、フロントフロア補強構造(1)。
【請求項2】
フロントフロアクロス部材(13)は、変形部分(16)および非変形部分(14)のみからなる、請求項1に記載のフロントフロア補強構造(1)。
【請求項3】
フロントフロアクロス部材(13)の非変形部分(14)は、短手方向に測定した場合に、フロントフロアクロス部材(13)の全長の40%~90%の範囲に含まれる長さを有する、請求項1または2に記載のフロントフロア補強構造(1)。
【請求項4】
フロントフロアクロス部材(13)の非変形部分(14)は、非変形部分(14)のサイドシル(9)に最も近い端部に位置する補強された非変形部分(36)と、非変形部分(14)のトンネル(7)に最も近い端部に位置する補強されていない非変形部分(37)とを備え、前記補強された非変形部分(36)の塑性変形に対する耐性は、前記補強されていない非変形部分(37)の塑性変形に対する耐性よりも大きい、請求項1~3のいずれか一項に記載のフロントフロア補強構造(1)。
【請求項5】
フロントフロアクロス部材(13)の非変形部分(14)は、少なくとも1300MPaの最大引張強度を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のフロントフロア補強構造(1)。
【請求項6】
フロントフロアクロス部材(13)の変形部分(16)は、少なくとも500MPaの引張強度、少なくとも0.6の破壊歪み、および少なくとも75°の臨界曲げ角度を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のフロントフロア補強構造(1)。
【請求項7】
フロントフロアクロス部材(13)は、鋼テーラード溶接ブランクからホットスタンピングされる、請求項1~6のいずれか一項に記載のフロントフロア補強構造(1)。
【請求項8】
フロントフロアクロス部材(13)は、鋼テーラードロールブランクからホットスタンピングされる、請求項1~7のいずれか一項に記載のフロントフロア補強構造(1)。
【請求項9】
フロントフロアパネル(11)は、少なくとも210MPaの降伏強度を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のフロントフロア補強構造(1)。
【請求項10】
フロントフロアクロス部材(13)の上方に位置し、サイドシル(9)からトンネル(7)に向かって短手方向に延びるサイドシル補強部(15)をさらに備え、前記サイドシル補強部(15)は、サイドシル(9)に取り付けられている、請求項1~9のいずれか一項に記載のフロントフロア補強構造(1)。
【請求項11】
フロントフロアクロス部材(13)の上方に位置し、トンネル(7)からサイドシル(9)に向かって短手方向に延びるトンネル補強部(17)をさらに備え、前記トンネル補強部(17)は、トンネル(7)に取り付けられている、請求項1~10のいずれか一項に記載のフロントフロア補強構造(1)。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載のフロントフロア補強構造(1)を製造する方法であって、
-フロントフロアパネル(11)を準備するステップと、
-トンネル(7)を準備するステップと、
-サイドシル(9)を準備するステップと、
-少なくとも1つのフロントフロアクロス部材(13)を準備するステップと、
-前記トンネル(7)、前記サイドシル(9)、および前記フロントフロアクロス部材(13)を前記フロントフロアパネル(11)に取り付けるステップと、
を備える、方法。
【請求項13】
-サイドシル補強部品(15)を準備するステップと、
-前記サイドシル補強部品(15)をサイドシル(9)に取り付けるステップと、
をさらに備える、請求項10に記載のフロントフロア補強構造(1)を製造するための請求項12に記載の方法。
【請求項14】
-トンネル補強部品(17)を準備するステップと、
-前記トンネル補強部品(17)をトンネル(7)に取り付けるステップと、
をさらに備える、請求項11に記載のフロントフロア補強構造(1)を製造するための請求項12または13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル内に電池パックを搭載する車両のフロントフロア補強構造に関する。本発明はさらに、このようなフロントフロア補強構造を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントフロア補強構造は、フロントフロアパネルと、少なくとも1つのフロントフロアクロス部材と、サイドシルと、トンネルと、を備える。
【0003】
フロントフロアクロス部材は、車両のフロントフロアに取り付けられ、車両のサイドシルから車両のトンネルまで短手方向に延在する構造部品である。それは、車両全体の剛性に関して、および側面衝突の場合に備えて車両構造を補強するように設計されている。車両にはいくつかのフロントフロアクロス部材が存在する可能性があり、フロントフロアクロス部材は車両の幅の半分に及ぶため、通常はトンネルの左右に少なくとも2つのフロントフロアクロス部材があり、通常は短手方向に並べて一対を形成する。さらにまた、例えば、フロントシートの下またはBピラーの高さに、車両の長さ方向に沿っていくつかの対の前記クロス部材を配置することができる。
【0004】
本発明は、より詳細には、車両のトンネルの容積が電池パックによって占有される、電気自動車またはハイブリッド車両のフロントフロア補強構造に関する。トンネルとは、従来の内燃機関車両の排気システムを格納する、乗員室のフロントフロア補強構造内にある中空の凹部のことである。この場合、トンネル内の容積が車両の1つまたは複数の電気モータに電力を供給する役割を果たす、電池パックの少なくとも一部によって占有されるハイブリッド自動車または完全な電気自動車を考える。
【0005】
車両が衝突事故に巻き込まれると、車両構造は、衝突物が乗員室に侵入するのを防ぐ役割、すなわち構造の侵入防止機能と、構造を機械的に変形させて衝突の機械的エネルギーを吸収する役割、すなわち構造のエネルギー吸収機能とによって、乗員を保護することが期待されている。
【0006】
フロントフロア補強構造は、より具体的には、衝突物が車両の側面と接触する衝突時の車両の挙動に関与し、以下では、この衝突を側面衝突と呼ぶ。
【0007】
このような側面衝突は、例えば、EuroNCAPポール側面衝突(EuroNCAP Pole Side Impact)などの様々な標準化された衝突試験で説明されており、この試験では、車両は、衝突時の相対初期速度が32km/hで固定ポールによって側面に衝突される。別の標準化された側面衝突試験は、EuroNCAP移動式変形バリヤ(AE-MDB)側面衝突であり、この試験では、車両は50km/hの速度で走行する長さの一部に及ぶ、1300kgの標準バリヤによって側面に衝突される。
【0008】
従来技術から、フロントフロアクロス部材が側面衝突の場合に侵入防止部品として作用するように、フロントフロア補強構造を設計することが知られている。フロントフロアクロス部材はまた、制限されかつ制御された方法で変形することによって、側面衝突時のエネルギー吸収への寄与を制限することもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、フロントフロアパネル自体は、衝突時の乗員の保護にはあまり関与しない。本発明の目的の1つは、フロントフロアパネルを利用して側面衝突時のエネルギー吸収を増大させるフロントフロア補強構造を提供することによって、フロントフロア補強構造のこの限界を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のために、本発明はトンネル内に電池パックを搭載する車両のフロントフロア補強構造に関し、該補強構造は、少なくとも、
-フロントフロアパネルと、
-サイドシルからトンネルに短手方向に延び、少なくともフロントフロアパネルに取り付けられるフロントフロアクロス部材と、
を備え、
前記フロントフロアクロス部材は、フロントフロアクロス部材の、サイドシルに最も近い端部に位置する非変形部分と、フロントフロアクロス部材の、トンネルに最も近い端部に位置する変形部分とを備え、非変形部分の塑性変形に対する耐性は、変形部分の塑性変形に対する耐性よりも大きく、前記変形部分の塑性変形に対する耐性は、前記フロントフロアパネルの塑性変形に対する耐性よりも大きい。
【0011】
本発明を適用することにより、側面衝突時にフロントフロア補強構造によって吸収されるエネルギーは、フロントフロアパネルの広い表面積の伸張変形により増加する。このように、任意の車両の既存部品であるフロントフロアパネルに、側面衝突時のエネルギー吸収という付加機能を持たせている。この既存部品に追加の役割を付与することによって、車両の重量を低減するため、および/または車両の製造コストを低減するため、および/または車両の安全性を高めるために、本発明を適用することができる。
【0012】
単独で、または任意の可能な技術的組合せに従って考慮される、本発明によるフロントフロア補強構造の他の任意の特徴によれば、
-フロントフロアクロス部材は、変形部分と非変形部分のみで構成される、
-フロントフロアクロス部材の非変形部分は、短手方向に測定された場合、フロントフロアクロス部材の全長の40%~90%の範囲内の長さを有する、
-フロントフロアクロス部材の非変形部分は、非変形部分のうちサイドシルに最も近い側の端部に位置する補強された非変形部分と、非変形部分のうちトンネルに最も近い側の端部に位置する補強されていない非変形部分とで構成されており、前記補強された非変形部分の塑性変形に対する耐性は、前記補強されていない非変形部分の塑性変形に対する耐性よりも大きい、
-フロントフロアクロス部材の非変形部分は、少なくとも1300MPaの最大引張強度を有する、
-フロントフロアクロス部材の変形部分は、引張強度が少なくとも500MPa、破壊歪みが少なくとも0.6、および臨界曲げ角度が少なくとも75°を有する、
-フロントフロアクロス部材は、鋼テーラード溶接ブランクからホットスタンピングされる、
-フロントフロアクロス部材は、鋼テーラードロールドブランクからホットスタンピングされる、
-フロントフロアパネルの降伏強度は少なくとも210MPaである、
-フロントフロア補強構造は、フロントフロアクロス部材の上方に位置し、サイドシルからトンネルに向かって短手方向に延びるサイドシル補強部品をさらに備え、前記サイドシル補強部品はサイドシルに取り付けられる、
-フロントフロア補強構造は、フロントフロアクロス部材の上方に位置し、トンネルからサイドシルに向かって短手方向に延びるトンネル補強部品をさらに備え、前記トンネル補強部品はトンネルに取り付けられる。
【0013】
本発明はさらに、本発明によるフロントフロア補強構造の製造方法に関し、該方法は、
-フロントフロアパネルを準備するステップと、
-トンネルを準備するステップと、
-サイドシルを準備するステップと、
-少なくとも1つのフロントフロアクロス部材を準備するステップと、
-前記トンネル、前記サイドシル、および前記フロントフロアクロス部材を前記フロントフロアパネルに取り付けるステップと、
を備える。
【0014】
単独で、または任意の可能な技術的組合せに従って考慮される、本発明による方法の他の任意選択の特徴によれば、本方法は、
-サイドシル補強部品を準備し、前記サイドシル補強部品をサイドシルに取り付けるステップと、
-トンネル補強部品を準備して、前記トンネル補強部品をトンネルに取り付けるステップと、
をさらに備える。
【0015】
本発明の他の態様および利点は、例として与えられ、添付図面を参照して行われる以下の説明を読むと明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明による車両の全体斜視図である。
図2】本発明によるフロントフロア補強構造の一部分の上方からの斜視図である。
図3】本発明によるフロントフロア補強構造の一部分の下方からの斜視図である(なお、この図には電池パックは示されていないことに注意)。
図4】本発明によるフロントフロア補強構造の一部分の上面図である。
図5A】EuroNCAPポール側面衝突の数値シミュレーションから得られた、本発明によるフロントフロア補強構造の一連の3つの上面図である。
図5B】EuroNCAPポール側面衝突の数値シミュレーションから得られた、本発明によるフロントフロア補強構造の一連の3つの上面図である。
図5C】EuroNCAPポール側面衝突の数値シミュレーションから得られた、本発明によるフロントフロア補強構造の一連の3つの上面図である。図5Aは衝突前の状況を示し、図5Bは衝突後30msの状況を示し、図5Cは衝突後65msの状況を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の説明では、「上方(above)」、「下方(below)」、「下部(lower)」、「上部(upper)」、「前部(front)」、「後部(rear)」、「横の(transverse)」、「横の(transversal)」、および「縦の(longitudinal)」という用語は、搭載車両の通常の方向に従って定義される。より具体的には、「上方(above)」、「下方(below)」、「下部(lower)」および「上部(upper)」という用語は、車両の仰角方向に従って定義され、「前部(front)」、「後部(rear)」および縦の(longitudinal)」という用語は、車両の前後方向に従って定義され、「横の(transversal)」および「横の(transverse)」という用語は、車両の幅に従って定義される。「右側」および「左側」という用語は、車両の通常の前方運転方向に向いている車両の乗員の基準に従って定義される。「実質的に平行」または「実質的に垂直」とは、平行または垂直方向から15°未満で逸脱できる方向を意味する。
【0018】
より具体的には、「破壊歪み」および「臨界曲げ角度」という用語は、Metallurgical Research Technology Volume 114,Number 6,2017の「衝突シミュレーション時の破壊を評価する方法-破壊歪み基準およびそれらの較正」においてPascal Dietschらによって定義された破壊歪み基準および臨界曲げ角度基準を指す。臨界曲げ角度は、標準化されたVDA-238-100規格に従って変形されたサンプルの背面で第1の亀裂が検出される角度を定義する。破壊歪みは、臨界曲げ角度に達したときの変形点における材料内の関連する等価歪みである。
【0019】
「制御された座屈」という用語は、圧縮荷重を受ける部品の変形モードを指し、部品は、部品の連続した局所座屈変形から生じる一連の連続する波を形成することによって、圧縮荷重の機械エネルギーを徐々に吸収する。結果として、圧縮荷重の方向に測定された部品の長さは、変形後、前記方向における部品の初期長さよりも短い。言い換えれば、部品が制御された座屈によって圧縮荷重に反応すると、圧縮荷重がプラスチックボトルの上部と底部との間に加えられるボトルと同様につぶれる。
【0020】
図1を参照して、トンネル7内に電池パック5を搭載するハイブリッド自動車または電気自動車3のフロントフロア補強構造1が説明される。
【0021】
図2および図4を参照すると、フロントフロア補強構造1は、フロントフロアパネル11と、フロントフロアクロス部材13とを備える。図2に示す特定の実施形態によれば、フロントフロア補強構造1は、サイドシル補強部品15をさらに備える。図2に示す特定の実施形態によれば、フロントフロア補強構造1は、トンネル補強部品17をさらに備える。
【0022】
図3および図4を参照すると、サイドシル9は、車両の側部に配置され、車両の側部に沿って長手方向に延在する。サイドシル9は、例えば、互いに組み立てられた複数の部品で作られている。
【0023】
図1図2図3、および図4を参照すると、トンネル7は、短手方向に乗員室の中央に位置され、前記乗員室の中央下部領域を閉鎖する。トンネル7は、ダッシュパネル19からリアフロア補強構造21まで長手方向に延在する。これは、2つの垂直壁8および水平上部壁9を備える。特定の実施形態によれば、トンネル7は、前記トンネル7を車両構造の残りの部分に組み付けるために、両側にトンネルフランジ10をさらに備える。特定の実施形態によれば、図2に示すように、トンネル7は、トンネルの内部容積および乗員室の内側空間を最適化するために、異なる高さに配置された複数の異なる水平上部壁9を備えることができる。添付の図面には示されていない特定の実施形態によれば、トンネル7は、その前端部に、水平上部壁9の上向きに曲がった部分が設けられたトンネルノーズと呼ばれる部分をさらに備える。特定の実施形態によれば、図2に示すように、トンネルの内部容積および乗員室の内側空間を最適化するために、トンネル内部容積が車両の後部に向かって小さくなるように、トンネルの垂直壁8は先細になる。トンネル7は、単一の部品で、または別々に製造され、例えばスポット溶接で一体に組み立てられた複数の部品で作られることができる。
【0024】
トンネル7内の電池パック5は、1つまたは複数の電池セルと、電池パック構造とを備える。電池セルは、車両の1つまたは複数の電気モータを作動させるための電気エネルギーを貯蔵および供給するように設計される。電池パック構造は、安全性を考慮して電池セルを外部環境や車両の乗員室から隔離し、電池セルが正常に機能するための最適な大気条件および温度条件を提供するように設計される。また、電池パック構造には、衝突時に電池セルを保護する役割、電池パックの車体への良好な固定性を確保する役割もある。電池パック5は、例えば、電池パックトレイを車両構造体に機械的にボルト止めすることにより、車体に取り付けられる。電池パック5は、例えば、200kg程度のかなりの質量を有する。
【0025】
図1図2、および図3を参照すると、フロントフロアパネル11は、車両の乗員室の前部部品の底部を閉鎖し、乗員室の前部から乗員室の後部に向かって延在するほぼ平坦なパネルである。特定の実施形態によれば、フロントフロアパネル11は、その剛性を高めるように設計されたフロントフロアパネルリブ12を備える。
【0026】
フロントフロアパネル11は、トンネル7の両側に配置された2つの別個のパネルから構成され、例えばスポット溶接またはレーザ溶接によって、その4つの側面のそれぞれにおいて、乗員室の前部のダッシュパネル19、後部のリアフロア補強構造21、サイドシル9、およびトンネル7に取り付ける。特定の実施形態では、フロントフロアパネル11は、トンネル7のフランジ10上に溶接して、前記トンネル7に取り付けられる。特定の実施形態では、フロントフロアパネル11は、サイドシル9またはトンネル7に直接取り付けられておらず、むしろ、添付の図には示されていない中間接続部品に取り付けられており、前記接続部品自体は、サイドシル9またはトンネル7に取り付けられている。
【0027】
特定の実施形態によれば、フロントフロアパネル11は、車両の全体的な剛性を確保し、衝突の場合に車両の乗員を保護するように設計された、少なくとも1つの補強要素18にさらに取り付けられる。前記短手方向補強要素18は、図2に示すように、例えばスポット溶接またはレーザ溶接によって、例えば前記フロントフロアパネル11の上方で、フロントフロアパネル11に取り付けられる。
【0028】
特定の実施形態によれば、フロントフロアパネル11は、車両の全体的な剛性を確保し、衝突の場合に車両の乗員を保護するように設計された、少なくとも1つの長手方向補強要素28にさらに取り付けられる。前記長手方向補強要素28は、例えばスポット溶接またはレーザ溶接によって、例えば図3に示すように前記フロントフロアパネル11の下方で、フロントフロアパネル11に取り付けられる。
【0029】
図2および図4を参照すると、フロントフロアクロス部材13は、フロントフロアパネル11の上方に位置し、サイドシル9からトンネル7まで実質的に短手方向に延在する。フロントフロアクロス部材13は、例えば、フロントフロアクロス部材13のクロス部材フランジ20をフロントフロアパネル11にスポット溶接することによって、フロントフロアパネル11に取り付けられる。フロントフロアクロス部材13およびフロントフロアパネル11は、フロントフロアクロス部材内容積を共に画定し、フロントフロアクロス部材内容積は、その下側がフロントフロアパネル11によって閉鎖され、その上側、前側、および後側がフロントフロアクロス部材13によって閉鎖される。フロントフロアクロス部材13は、サイドシル9の一方側とトンネル7の他方側とに隣接しているが、必ずしもサイドシル9やトンネル7に接触している必要はない。
【0030】
図2および図4では、図示されているフロントフロアクロス部材13は、車両の左側に配置されていることに注意すべきである。しかしながら、全ての説明は、車両の右側に位置する対称的なフロントフロアクロス部材13についても有効である。
【0031】
フロントフロアクロス部材13は、フロントフロアクロス部材13の、サイドシル9に最も近い端部に位置する非変形部分14と、フロントフロアクロス部材13の、トンネル7に最も近い端部に位置する変形部分16とを備える。非変形部分14の塑性変形に対する耐性は、変形部分16の塑性変形に対する耐性よりも大きい。さらに、変形部分16の塑性変形に対する耐性は、フロントフロアパネル11の塑性変形に対する耐性よりも大きい。例えば、塑性変形に対するより大きな耐性を得るために、非変形部分14の降伏強度と前記非変形部分14の厚さとの積は、変形部分16の降伏強度と前記変形部分16の厚さとの積よりも大きく、これ自体はフロントフロアパネル11の降伏強度と前記フロントフロアパネル11の厚さとの積よりも大きい。
【0032】
特定の実施形態によれば、図4に示すように、クロス部材非変形部分14は、サイドシル9に最も近い位置にあるフロントフロアクロス部材13の端部から短手方向に延在する補強された非変形部分36と、前記補強された非変形部分36の端部から前記クロス部材非変形部分16の端部まで延在する補強されていない非変形部分37とをさらに備える。前記補強された非変形部分36の塑性変形に対する耐性は、前記補強されていない非変形部分37の塑性変形に対する耐性よりも大きい。例えば、前記補強された非変形部分36の降伏強度と前記補強された非変形部分36の厚さとの積は、前記補強されていない非変形部分37の降伏強度と前記前記補強されていない非変形部分37の厚さとの積よりも大きい。
【0033】
図4を参照すると、フロントフロアパネル11は、サイドシル9からフロントフロアクロス部材13に垂直なラインまで拡がり、かつサイドシル9から最も離れて位置する非変形部分14の端部で前記フロントフロアクロス部材13と交差する、フロントフロアパネル11の表面の一部として画定されるサイドシルパネル部分24を備える。フロントフロアパネル11は、トンネル7からフロントフロアクロス部材13に垂直なラインまで拡がり、かつトンネル7から最も離れて位置する変形部分16の端部で前記フロントフロアクロス部材13と交差する、フロントフロアパネル11の表面の一部分として画定されるトンネルパネル部分26をさらに備える。
【0034】
図2に示す特定の実施形態によれば、フロントフロア補強構造1は、フロントフロアクロス部材13の上方でサイドシル9からトンネル7に向かって短手方向に延びるサイドシル補強部品15をさらに備える。サイドシル補強部品15は、例えば前記サイドシル補強部品15のサイドシル補強フランジ30上で溶接することによってサイドシル9に取り付けられる。特定の実施形態によれば、サイドシル補強部品15は、例えば、それをクロス部材フランジ20に溶接することによって、フロントフロアクロス部材13にさらに取り付けられる。特定の実施形態によれば、サイドシル補強部品15は、例えば溶接によってフロントフロアパネル11にさらに取り付けられる。
【0035】
図2に示す特定の実施形態によれば、フロントフロア補強構造1は、フロントフロアクロス部材13の上方でトンネル7からサイドシル9に向かって短手方向に延びるトンネル補強部品17をさらに備える。トンネル補強部品17は、例えば、前記側方トンネル補強部品17のトンネル補強フランジ40上での溶接によってトンネル7に取り付けられる。特定の実施形態によれば、トンネル補強部品17は、例えば、それをクロス部材補強フランジ20に溶接することによって、フロントフロアクロス部材13にさらに取り付けられる。特定の実施形態によれば、トンネル補強部品17は、例えば溶接によってフロントフロアパネル11にさらに取り付けられる。
【0036】
側面衝突時に、車両構造は、車両の側面に加えられた、トンネル7に向かって実質的に短手方向に向かう衝撃力Fを受ける。圧縮衝撃力Fの影響下で、フロントフロア補強構造1は、サイドシル9に対する衝撃力Fと、トンネル7によって及ぼされる、前記衝撃力Fに対する反力Rとの複合効果から生じる圧縮荷重を受ける。トンネル7は、例えば200kgという重大な質量を有する電池パック5を含むので、トンネル7は、衝撃力Fに匹敵する強度の非常に高い反力Rを発生させる非常に高い機械的慣性を示す。一方、例えば、トンネル7内に電池パック5を搭載しない従来の燃焼機関車両などの、ほぼ中空のトンネル7を有する車両の場合、トンネル7は非常に低い機械的慣性を有するであろうことに注意すべきである。このような場合、トンネル7は衝撃力Fの影響下で変形し、大きな反力Rを発生させないであろうし、結果として、トンネル7内に電池パック5が存在しない場合、フロントフロア補強構造1は、側面衝突時に大きな圧縮荷重を受けることはない。
【0037】
電池パック5を格納するトンネル7の場合、前記圧縮荷重の影響下で、変形部分16は制御された座屈によって変形するであろうが、非変形部分14は一般にその初期形状を保持し、圧縮荷重によってほとんど変形しないであろう。このようにして、フロントフロアクロス部材13は、侵入防止部品およびエネルギー吸収部品の両方として効果的に機能する。
【0038】
図5A図5Bおよび図5Cを参照すると、本発明によるフロントフロアクロス部材13の前述の設計は、フロントフロアパネル11の一部を伸張させることによって衝撃エネルギーの一部を吸収するというさらなる利点を示す。フロントフロアパネル11の前記伸張は、図5Bおよび図5Cに示す衝突試験シミュレーション結果に基づいて、フロントフロアパネル11のサイドシルパネル部分24内で、衝撃力Fに対して実質的に垂直ではない方向に延びる皺25が形成されることで証明される。実際、衝撃力Fに対して実質的に垂直な方向の皺の形成は、非常に小さいエネルギーを吸収するフロントフロアパネル11の純粋な圧縮変形を示す。一方、衝撃力Fに対して実質的に垂直ではなく、かつ前記衝撃力Fに実質的に平行な成分をかなり含む方向に向いた皺が形成されたことは、変形中にフロントフロアパネル11が伸張されたことを示す。フロントフロアパネル11のこの効果的な伸張挙動の物理的説明が、以下に与えられる。
【0039】
フロントフロアクロス部材13はフロントフロアパネル11よりも大きな、塑性変形に対する耐性を有し、かつ前記2つの部品は互いに取り付けられているので、側面衝突時に前記フロントフロアパネル11に及ぼされる物理的力および、その後の機械的変形は、前記フロントフロアクロス部材13の変形によって支配される。衝撃力Fおよび反力Rによって生成される圧縮荷重の影響下で、変形部分16は、制御された座屈によって変形し、その結果、短手方向に沿って測定された前記変形部分16の長さが漸進的に短くなる。一方、短手方向に沿って測定された非変形部分14の長さは圧縮荷重の影響を受けないが、それは変形部分16に取り付けられているので、前記非変形部分14は、側面衝突時に、実質的に短手方向の経路をたどってトンネル7に向かって移動する。
【0040】
フロントフロアクロス部材13の異なる部分の上記の動きの影響を受けて、側面衝突時にトンネルパネル部分26内のフロントフロアパネル11の材料は圧縮され、一方、クロス部材非変形部分14によって、サイドシルパネル部分24内のフロントフロアパネル11の材料の圧縮が防止される。前記サイドシルパネル部分24は、非変形部分14の動きによって、トンネル7に向かって実質的に短手方向に流される。同時に、サイドシルパネル部分24の材料は、サイドシル9、ならびに、リアフロア補強構造21、ダッシュパネル19、および例えば短手方向補強要素18または例えば長手方向補強要素28などの他の構造部品などの他の部品に、直接的に、または上述したように中間部品を介して間接的に取り付けられる。サイドシルパネル部分24が取り付けられる前記構造部品は、側面衝突時に変形しないか、またはわずかに変形するだけであるので、サイドシルパネル部分24は、側面衝突時に取付け領域内を移動しないか、またはほとんど移動しない。非変形部分14に取り付けられている領域内でのトンネル7に向かう短手方向の動きと、フロントフロアクロス部材13以外の他の部品に取り付けられている領域内では相対的な動きがないこととによるこの複合的な動きに対応するために、サイドシルパネル部分24の材料は、必然的に伸張タイプの変形を受ける。有利なことには、サイドシルパネル部分24の材料が、このように伸張変形することで、側面衝突時のフロントフロアパネル11のエネルギー吸収への高い寄与が確保される。
【0041】
特定の実施形態では、非変形部分14の長さとフロントフロアクロス部材13の全長との長さ比率は、短手方向に測定された場合、40%~90%の範囲に含まれる。有利なことには、長さ比率を最小の40%に固定することにより、側面衝突時に部品の長さの少なくとも40%が変形しないという事実の結果、側面衝突時にフロントフロアクロス部材13が侵入防止という重要な役割を果たすことが保証される。さらにまた、上述したフロントフロアパネル11の伸張変形が、実際には、短手方向の長さが非変形部分14の長さであるサイドシルパネル部分24内に局在化されるので、長さ比率を最小の40%に固定することによりサイドシルパネル部分24の最小面積も確保され、したがって、側面衝突時のフロントフロアパネル11の伸張変形がかなりの面積にわたって確実に発生し、それによってフロントフロア補強構造1の全体的なエネルギー吸収挙動に有利に寄与する。一方、長さ比率を90%に制限すると、フロントフロアクロス部材13の長さの最小10%が、クロス部材変形部分16に残る。有利なことには、クロス部材変形部分16を最小長さとすることにより、圧縮荷重の影響下で制御された座屈によって、部品の長さの少なくとも10%がエネルギーを吸収できるという事実の結果、側面衝突時にフロントフロアクロス部材13がエネルギー吸収に重要な役割を果たすことが保証される。さらにまた、クロス部材変形部分16を最小長さとすることにより、側面衝突時のクロス部材非変形部分14の上述した短手方向への動きが大きくなり、したがって、フロントフロアパネル11の良好な伸張挙動が確保され、それによってフロントフロア補強構造1のエネルギー吸収挙動に有利にさらに寄与することにもなる。
【0042】
フロントフロアクロス部材13がクロス部材変形部分16のみで構成されている場合には、側面衝突時のフロントフロアパネル11の上述の伸張挙動は発生しないことに注意すべきである。この場合、フロントフロアパネル11の表面全体は、クロス部材変形部分16の制御された座屈運動によって圧縮変形を受け、フロントフロアパネル11がその表面全体で圧縮されないようにする要素は存在しない。したがって、フロントフロアパネル11は、座屈によって圧縮荷重を受け止め、衝撃力Fに対して実質的に垂直な方向に向いた皺が形成される。このような変形は、本発明によって可能になる伸張挙動よりもはるかに少ない量のエネルギーしか吸収しない。
【0043】
一方、フロントフロアクロス部材13がクロス部材非変形部分14のみで構成されていると、フロントフロアクロス部材13によってフロントフロアパネル11が元の形状に維持されて変形し難くなり、衝突のエネルギーを吸収しない。
【0044】
クロス部材変形部分14およびクロス部材非変形部分16の位置が反転した場合、側面衝突時のフロントフロアパネル11の上述の伸張挙動は起こらないことにさらに注意すべきである。すなわち、フロントフロアクロス部材13のサイドシル9に最も近い位置にある部分の塑性変形に対する耐性が、フロントフロアクロス部材13のトンネル7に最も近い位置にある部分の塑性変形に対する耐性よりも小さければ、伸張挙動は観測されない。このような場合、圧縮荷重の影響下で、サイドシル9に最も近い位置にあるフロントフロアクロス部材13の部分は、制御された座屈によって変形するが、トンネル7に最も近い位置にあるフロントフロアクロス部材13の部分は、本質的にその初期形状を保持する。フロントフロアパネル11のサイドシル9に面して位置する部分は、フロントフロアクロス部材13のサイドシル9に最も近い位置にある部分の制御された座屈運動によって圧縮変形され、フロントフロアパネル11のトンネル7に最も近い位置にある部分は、本質的にその形状を保持する。本発明とは対照的に、塑性変形に対する最も高い耐性を有するフロントフロアクロス部材13の部分は、側面衝突時に短手方向に移動しないであろう。したがって、フロントフロアパネル11は、フロントフロアクロス部材13の一部分の短手方向の動きと、それが取り付けられている他の部品の相対的な動きがないこととによる複合的な影響を受けない。その結果、フロントフロアパネル11は伸張挙動を示さないであろう。このような設計を実施すると、フロントフロアパネル11のエネルギー吸収への寄与は、本発明の場合よりもはるかに小さくなるであろう。
【0045】
側面衝突の際、衝撃開始時に、衝突物によって加えられる衝撃力Fは、サイドシル9およびその近傍領域に集中する。同様に、その後に続く反力Rは、トンネル7およびその近傍領域に集中する。衝撃開始時におけるこの非常に高い応力集中のために、フロントフロアクロス部材13の両端に亀裂が形成されるリスクがある。特定の実施形態では、図2に示すように、フロントフロア補強構造1は、サイドシル9に取り付けられたサイドシル補強部品15を備える。有利なことには、前記サイドシル補強部品15は、衝撃力Fの影響による衝撃開始時に局所的な応力集中の一部を吸収し、それによってサイドシル9に最も近い位置にあるフロントフロアクロス部材13の領域での亀裂形成のリスクを最小限に抑える。特定の実施形態では、図2に示すように、フロントフロア補強構造1は、トンネル7に取り付けられたトンネル補強部品17を備える。有利なことには、前記トンネル補強部品17は、反力Rの影響による衝撃開始時に局所的な応力集中の一部を吸収し、それによってトンネル7に最も近い位置にあるフロントフロアクロス部材13の領域での亀裂形成のリスクを最小限に抑える。
【0046】
図4に示す特定の実施形態によれば、クロス部材非変形部分16は、補強された非変形部分36と、補強されていない非変形部分37とをさらに備える。衝撃開始時に、応力集中は、サイドシル9に最も近い位置にある補強された非変形部分36に位置される。有利なことには、前記補強された非変形部分36が前記補強されていない非変形部分37よりも高い塑性変形に対する耐性を有するという事実から、側面衝突時にクロス部材非変形部分14に亀裂が形成されるリスクが最小限に抑えられる。
【0047】
本発明の特定の実施形態では、フロントフロアパネル11は、210MPaを超える降伏強度を有する鋼で作られる。有利なことには、フロントフロアパネル11は側面衝突時に伸張されるので、前記フロントフロアパネル11の降伏強度が高くなることにより、側面衝突時に前記フロントフロアパネル11によって吸収されるエネルギーが増加するであろう。例えば、フロントフロアパネル11は、EuroNorm EN 10346によるHCT450Xなどの二相鋼で作られ、その厚さは0.6mm~0.9mmの範囲内にある。
【0048】
本発明の特定の実施形態では、フロントフロアクロス部材13の非変形部分14は、1300MPaより高い引張強度を有するプレス硬化鋼で形成される。一実施形態によれば、非変形部分14の鋼組成は、例えば、重量%で、0.20%≦C≦0.25%、1.1%≦Mn≦1.4%、0.15%≦Si≦0.35%、≦Cr≦0.30%、0.020%≦Ti≦0.060%、0.020%≦Al≦0.060%、S≦0.005%、P≦0.025%、0.002%≦B≦0.004%を含み、残りは、鉄および鋼精錬プロセスから生じる不可避の不純物である。この組成範囲では、プレス硬化後の非変形部分14の引張強度は、1300~1650MPaの間に含まれる。例えば、非変形部分14は、Usibor 1500(R)で構成されている。例えば、非変形部分14の厚さは、1.4mm~1.6mmの範囲内にある。
【0049】
本発明の特定の実施形態では、フロントフロアクロス部材13の非補強非変形部分37は、1300MPaより高い引張強度を有するプレス硬化鋼で作られる。一実施形態によれば、補強されていない非変形部分37の鋼組成は、例えば、重量%で、0.20%≦C≦0.25%、1.1%≦Mn≦1.4%、0.15%≦Si≦0.35%、≦Cr≦0.30%、0.020%≦Ti≦0.060%、0.020%≦Al≦0.060%、S≦0.005%、P≦0.025%、0.002%≦B≦0.004%を含み、残りは、鉄および鋼精錬プロセスから生じる不可避の不純物である。この組成範囲では、プレス硬化後の補強されていない非変形部分37の引張強度は、1300~1650MPaの間に含まれる。補強されていない非変形部分37は、例えば、Usibor 1500(R)で構成される。例えば、補強されていない非変形部分37の厚さは、1.4mm~1.6mmの範囲内にある。
【0050】
本発明の特定の実施形態では、フロントフロアクロス部材13の補強された非変形部分36は、1800MPaより高い引張強度を有するプレス硬化鋼で形成される。例えば、補強された非変形部分36の鋼組成は、重量%で、0.24%≦C≦0.38%、0.40%≦Mn≦3%、0.10%≦Si≦0.70%、0.015%≦Al≦0.070%、Cr≦2%、0.25%≦Ni≦2%、0.015%≦Ti≦0.10%、Nb≦0.060%、0.0005%≦B≦0.0040%、0.003%≦N≦0.010%、S≦0.005%、P≦0.025%を含み、残りは、鉄および精錬の結果生じる不可避の不純物である。この組成範囲であれば、プレス硬化後の補強された非変形部分36の引張強度は1800MPaより高い。例えば、補強された非変形部分36は、Usibor 2000(R)で構成されている。例えば、補強された非変形部分36の厚さは、1.4mm~1.6mmの範囲内にある。
【0051】
本発明の特定の実施形態では、フロントフロアクロス部材13の変形部分16は、500MPaより大きい引張強度、少なくとも0.6の破壊歪み、および少なくとも75°の臨界曲げ角度を有するプレス硬化鋼で作られる。例えば、このような鋼の組成は、重量%で、0.04%≦C≦0.1%、0.3%≦Mn≦2%、Si≦0.3%、Ti≦0.08%、0.015%≦Nb≦0.1%、Al≦0.1%、S≦0.05%、P≦0.1%、0.1%未満のCu、Ni、CrおよびMoを含み、残りは鉄および精錬の結果生じる不可避の不純物である。この組成範囲では、プレス硬化後の変形部分16の引張強度は500MPaより高い。例えば、変形部分16は、Ductibor 500(R)で作られる。例えば、変形部分16の厚さは、1.5mm~1.7mmの範囲内にある。
【0052】
上述したトンネル内に電池パックを搭載する車両用のフロントフロア補強構造には複数の利点があるが、その利点の中には、側面衝突時の衝突のエネルギー吸収にサイドシルパネル部分を関与させる可能性がある。次に、このようなフロントフロア補強構造の製造方法について説明する。
【0053】
この方法は、フロントフロアパネル11を準備するステップを備える。例えば、フロントフロアパネル11は、板金素材のコールドスタンピングによって作られる。
【0054】
本方法は、トンネル7を準備するステップをさらに備える。例えば、トンネルは、スタンピングまたは曲げによって個別に作られる、いくつかの異なる部品を一緒に溶接することによって作られる。
【0055】
本方法は、サイドシル9を準備するステップをさらに備える。例えば、サイドシル9は、スタンピングまたは曲げによって個別に作られるいくつかの異なる部品を一緒に溶接することによって作られる。
【0056】
この方法は、フロントフロアクロス部材13を準備するステップをさらに備える。特定の実施形態によれば、フロントフロアクロス部材13は、ホットスタンピング後の非変形部分14に対応する第1の部分と、ホットスタンピング後の変形部分16に対応する第2の部分とを有するテーラードブランクまたはテーラードロールブランクをホットスタンピングすることによって作られる。特定の実施形態によれば、フロントフロアクロス部材13は、ホットスタンピング後の補強された非変形部分36に対応する第1の部分と、ホットスタンピング後の補強されていない非変形部分37に対応する第2の部分と、ホットスタンピング後の変形部分16に対応する第3の部分とを有するテーラードブランクまたはテーラードロールブランクをホットスタンピングすることによって作られる。
【0057】
本方法は、前記トンネル7、前記サイドシル9、および前記フロントフロアクロス部材13を前記フロントフロアパネル11に取り付けるステップをさらに備える。例えば、トンネル7は、トンネルフランジ10をフロントフロアパネル11に溶接することによって取り付けられる。例えば、フロントフロアクロス部材13は、フロントフロアパネル11にクロス部材フランジ20を溶接することにより取り付けられる。
【0058】
特定の実施形態によれば、本方法は、サイドシル補強部品15を準備するステップと、前記サイドシル補強部品15をサイドシル9に取り付けるステップとをさらに備える。例えば、サイドシル補強部品15は、スタンピングまたは曲げによって作られる。例えば、サイドシル補強部品は、サイドシル補強フランジ30をサイドシル9に溶接することによって取り付けられる。
【0059】
特定の実施形態によれば、本方法は、トンネル補強部品17を準備するステップと、前記側方トンネル補強部品17をトンネル7に取り付けるステップとをさらに備える。トンネル補強部品17は、例えば、スタンピングや曲げによって形成される。例えば、トンネル補強部品17は、トンネル補強フランジ40をトンネル7に溶接することによって取り付けられる。
【0060】
特定の実施形態によれば、本方法は、少なくとも1つの短手方向補強要素18を準備するステップと、前記短手方向補強要素18をフロントフロアパネル11に取り付けるステップとをさらに備える。例えば、前記短手方向補強要素18は、スタンピングまたは曲げによって作られる。例えば、短手方向補強要素18は、前記フロントフロアパネル11上に溶接によって取り付けられる。
【0061】
特定の実施形態によれば、本方法は、少なくとも1つの長手方向補強要素18を準備するステップと、前記長手方向補強要素18をフロントフロアパネル11に取り付けるステップとをさらに備える。例えば、前記長手方向の補強要素18は、スタンピングまたは曲げによって作られる。例えば、長手方向の補強要素18は、前記フロントフロアパネル11上に溶接によって取り付けられる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C