(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】ギャップ制御方法及び電気特性測定方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20220916BHJP
G01R 27/26 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
H01L21/66 Q
H01L21/66 L
G01R27/26 C
(21)【出願番号】P 2019056967
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-10-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「パルス光伝導法による半導体シリコンの超高感度不純物分析手法の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願。
(73)【特許権者】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】宮下 守也
(72)【発明者】
【氏名】前田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】久保田 弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕巳
(72)【発明者】
【氏名】橋新 剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 一博
(72)【発明者】
【氏名】葛川 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】松山 浩輝
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 祐希
(72)【発明者】
【氏名】古田 正昭
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-132236(JP,A)
【文献】特開2001-144154(JP,A)
【文献】特開平11-126811(JP,A)
【文献】特開昭64-82541(JP,A)
【文献】Masaaki Furuta,Noncontact evaluation for interface states by photocarrier counting,Japanese Journal of Applied Physics,日本,2018年,57, 031301,p1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01R 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体膜が形成された半導体の試料に対し所定のギャップ幅を空けてプローブ電極を配置する工程と、
パルス光伝導法による前記プローブ電極から前記試料への印加電圧V(t)と、前記試料の充電電圧v(t)と、の充電電圧比v(t)/V(t)を実測する工程と、
電極全体と試料表面間の傾きθを考慮したギャップ幅Wに対する充電電圧比v(t)/V(t)の理想曲線を求める工程と、
前記充電電圧比v(t)/V(t)の実測値と理想曲線とが一致する傾きθを特定する工程と、
前記傾きθを考慮したギャップ容量C
gapを求める工程と、を備え、
電極の直径をΦ、電極先端面を径方向にk個(kは2以上の整数)に等分割し、電極全表面積に占める領域の割合をα
kとしたとき、電極全体と試料表面間の傾きθを考慮したギャップ幅W
kは、下記式により求められ、
【数3】
凹凸と傾きを考慮しないギャップ幅をW
gapとし、誘電率をε
0とし、φ/kの領域を更にn個に分割して最も突起が大きいところからの変位をW
cnとし、n個に分割された各領域の面積をS
1~S
nとすると、前記傾きθを考慮したギャップ容量C
gapは、下記式により求められることを特徴とするギャップ制御方法。
【数4】
【請求項2】
誘電体膜が形成された半導体の試料に対し所定のギャップ幅を空けてプローブ電極を配置する工程において、
管状の絶縁性の合成樹脂材を前記プローブ電極の先端部に組込み、前記絶縁性の合成樹脂材の管先端と電極先端とのギャップを予め調整する工程と、
前記プローブ電極を上下方向に揺動可能に保持し、前記絶縁性の合成樹脂材の管先端を試料表面に当接させてギャップ調整する工程と、を備えることを特徴とする請求項1に記載されたギャップ制御方法。
【請求項3】
誘電体膜が形成された半導体の試料に対し所定のギャップ幅を空けてプローブ電極を配置する工程において、
ジンバル機構にプローブ電極を取り付けることで傾き調整し、且つ、静電容量変位計を前記プローブ電極に隣設して、ギャップ幅の測定を行うことを特徴とする請求項1に記載されたギャップ制御方法。
【請求項4】
前記請求項1乃至請求項3のいずれかに記載されたギャップ制御方法によりギャップ容量C
gapを求め、パルス光伝導法により電気特性を測定することを特徴とする電気特性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギャップ制御方法及び電気特性測定方法に関し、半導体ウェーハの電気特性、例えば半導体ウェーハに形成された誘電体膜の静電容量、或いは誘電体膜と半導体の界面準位を非破壊で測定する際、プローブ電極と半導体ウェーハ間のギャップ(空間)を精密に制御するギャップ制御方法及び電気特性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハの試料に電極を近づけて、試料の静電容量を測定する装置においては、試料の静電容量とプローブ電極-試料間のギャップ(空間)で生じる静電容量とが直列に配置される。従って、試料の静電容量を正しく計測する為には、ギャップの静電容量を正確に制御、把握することが求められる。
【0003】
ギャップの静電容量Cgapは、式1で表される。ギャップは空気で満たされているので誘電率ε0、電極面積Sは既知であるため、ギャップの静電容量を正しく求めるには、電極と試料間のギャップ幅Wgapを正確に計測することが求められる。
【0004】
【0005】
特許文献1においては、試料(半導体ウェーハ)のC-V特性などの電気特性を非破壊で測定する装置が開示されている。電気特性を測定する為には、測定用電極を試料に近づけて、測定用電極と試料表面間のギャップ幅を正しく計測する必要があり、その為の手段として、光のトンネリング現象を利用した測定方法を採用している。
【0006】
この光のトンネリング現象について説明すると、レーザ光を反射部によって幾何光学的な全反射条件で反射させる場合に、その反射面(電極保持面)と試料表面との間のギャップがレーザ光の波長と同程度以下の大きさになると、レーザ光の一部が反射面から試料の内部に浸出する。これがトンネリング現象といわれ、試料側に浸出す透過光の強度は、ギャップの幅に依存する。
【0007】
同様に、反射部の反射面で反射されるレーザ光の強度もギャップの幅に依存する。この反射光の強度とギャップとの関係は、マックスウェルの方程式を基礎とする計算で予め求めておくことができる。この関係を利用すれば、反射光の強度を測定することにより、ギャップの幅を求めることができる。
【0008】
また、非特許文献1には、パルス光伝導法(pulsephotoconductivity method : PPCM)により非破壊で界面準位密度を求める方法が開示され、そこで電極と試料との間のギャップ幅を測定値から求める方法が述べられている。
【0009】
非特許文献1に開示されるパルス光伝導法を実施する測定装置の等価回路を
図14に示す。
図14の等価回路では、シリコンウェーハの試料(酸化膜抵抗R
oxと酸化膜容量C
ox)12の上面(酸化膜側)に対し所定のギャップ(容量C
gap)を空けてプローブ電極(図示せず)が設置され、このプローブ電極からパルス電圧印加部11より試料12に対し矩形波状のパルス電圧が印加される。
尚、前記プローブ電極内には、光ファイバ(図示せず)が通され、前記パルス電圧の印加と同時に、試料12に対し紫外線(UV)のパルス光を照射できるように構成されている。
【0010】
また、試料12の下面側(シリコン基板側)には、試料中のフォトキャリアの移動に伴う過渡的な信号応答を拾うための同軸ケーブル(寄生容量Cf)13が設けられ、同軸ケーブルの他端の測定部15はプリアンプ(内部抵抗Rin)14を介してオシロスコープ(図示せず)に接続されている。
【0011】
また、前記寄生容量Cfと並列に充電抵抗Rcが接続され、それにより試料12を充電可能となされている。
また、測定部15には、負荷抵抗RLが接続されている。測定時においては、前記充電抵抗Rcを測定回路から除くと同時に負荷抵抗RLに切り替えることで、試料12の内部電界を緩和し、測定可能な状態を作るように構成されている。
【0012】
印加電圧は、プローブ電極と試料12の間のギャップ(容量Cgap)および酸化膜(酸化膜抵抗Roxと酸化膜容量Cox)、ケーブル寄生容量Cfに分配される。ギャップ幅に応じてギャップ部での印加電圧消費量が変わる為、酸化膜の電界強度が変化する。出力信号は、酸化膜の電界強度に依存する為、ギャップ幅を一定にすることが必要である。
【0013】
測定は、測定回路の回路方程式のパラメータを確定させるため、シリコン基板を強反転状態にし、酸化膜容量を固定値として取り扱う。
このため、測定シーケンスは、まず試料12の酸化膜を充電させ、その後に紫外線のパルス光を照射し、その時の過渡的な信号応答を観測するという流れになる。
【0014】
図15のグラフに充電電圧v(t)と印加電圧V(t)、光信号ΔV(t
d)を示す。矩形波パルス電圧を試料に印加して酸化膜容量を充電完了した後、試料に紫外線のパルス光を照射し過渡的な信号変化を観測する。その際の印加電圧V(t)と充電電圧v(t)の比は、
図14の等価回路より次式2となる。
【0015】
【0016】
Cgapはギャップ容量、Coxideは酸化膜容量、Cfは測定回路内ケーブルの浮遊容量である。この式中で、CoxideおよびCfは既知の定数である。
ギャップ幅Wgapを変数とし、それに対応する充電圧比v(t)/V(t)の理論曲線を予め作成し、この理論曲線と実測充電圧比v(t)/V(t)を比較することでギャップ幅を得ることができる。
【0017】
非特許文献1に開示される測定方法では、上記のように求めたギャップ幅に基づき酸化膜への電界強度を一定とし、光信号ΔV(td)から励起キャリア密度を算出し、キャリア密度の電圧依存グラフから印加電圧V(t)=0の時のキャリア密度を外挿で求めることで、界面準位密度が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【非特許文献】
【0019】
【文献】Masaaki Furuta, Kojiro Shimizu, Takahiro Maeta, Moriya Miyashita,Koji Izunome, and Hiroshi Kubota: Japanese Journal of Applied Physics, Vol.57,031301 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、非特許文献1に開示される電極と試料間のギャップ制御方法においては、試料のウェーハや試料ホルダーのうねり、電極の傾きなどにより、電極が試料表面に対して傾いている場合に、正確なギャップの静電容量が得られなくなるという課題があった。
精密な測定の為には、このギャップと試料の傾きを極小にすること、或いは傾きを測定の際の演算において補正し、ギャップ幅を正しく計測することが求められる。特にパルス光伝導法においては、正確な界面準位密度を求める為に、ギャップの精密な制御が求められる。
【0021】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、誘電体膜が形成された半導体の試料に対し所定のギャップ幅を空けてプローブ電極を配置する電気特性測定において、前記プローブ電極と試料表面間のギャップ幅を正しく計測し、それにより試料の電気特性の測定精度を向上することのできるギャップ制御方法及び電気特性測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係るギャップ制御方法は、誘電体膜が形成された半導体の試料に対し所定のギャップ幅を空けてプローブ電極を配置する工程と、パルス光伝導法による前記プローブ電極から前記試料への印加電圧V(t)と、前記試料の充電電圧v(t)と、の充電電圧比v(t)/V(t)を実測する工程と、電極全体と試料表面間の傾きθを考慮したギャップ幅Wに対する充電電圧比v(t)/V(t)の理想曲線を求める工程と、前記充電電圧比v(t)/V(t)の実測値と理想曲線とが一致する傾きθを特定する工程と、前記傾きθを考慮したギャップ容量C
gapを求める工程と、を備え、電極の直径をΦ、電極先端面を径方向にk個(kは2以上の整数)に等分割し、電極全表面積に占める領域の割合をα
kとしたとき、電極全体と試料表面間の傾きθを考慮したギャップ幅W
kは、下記式により求められ、
【数3】
凹凸と傾きを考慮しないギャップ幅をW
gapとし、空気の誘電率をε
0とし、φ/kの領域を更にn個に分割して最も突起が大きいところからの変位をW
cnとし、n個に分割された各領域の面積をS
1~S
nとすると、前記傾きθを考慮したギャップ容量C
gapは、下記式により求められることに特徴を有する。
【数4】
【0023】
尚、誘電体膜が形成された半導体の試料に対し所定のギャップ幅を空けてプローブ電極を配置する工程において、管状の絶縁性の合成樹脂材を前記プローブ電極の先端部に組込み、前記絶縁性の合成樹脂材の管先端と電極先端とのギャップを予め調整する工程と、前記プローブ電極を上下方向に揺動可能に保持し、前記絶縁性の合成樹脂材の管先端を試料表面に当接させてギャップ調整する工程と、を備えることが望ましい。
【0024】
或いは、誘電体膜が形成された半導体の試料に対し所定のギャップ幅を空けてプローブ電極を配置する工程において、独立する2つの軸を中心に回転するジンバル機構にプローブ電極を取り付けることで傾き調整し、且つ、静電容量変位計を前記プローブ電極に隣設して、ギャップ幅の測定を行うようにしてもよい。
【0025】
このような方法によれば、パルス光伝導法により充電電圧比v(t)/V(t)を実測するとともに、電極の傾きを考慮したギャップ幅に対する充電電圧比v(t)/V(t)の理想曲線を求め、電極の傾きθを特定する。これにより電極全体と試料表面間の傾きθを考慮したギャップ容量Cgapを求めることができ、それに基づき試料の電気特性を高精度に測定することができる。
【0026】
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係る電気特性測定方法は、前記ギャップ制御方法によりギャップ容量Cgapを求め、パルス光伝導法により電気特性を測定することに特徴を有する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、誘電体膜が形成された半導体の試料に対し所定のギャップ幅を空けてプローブ電極を配置する電気特性測定において、前記プローブ電極と試料表面間のギャップ幅を正しく計測し、それにより試料の電気特性の測定精度を向上することのできるギャップ制御方法及び電気特性測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の充電電圧比法における傾きの補正方法を説明するための電極先端の平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の充電電圧比法における傾きの補正方法を説明するための電極先端の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の充電電圧比法における傾きの補正方法を説明するための電極先端の他の断面図である。
【
図4】
図4は、電極先端に傾きがある場合の断面図である。
【
図5】
図5は、プローブ電極先端にPTFE管を設けた構造を示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図5のプローブ電極を複数並べた構成を示す断面図である。
【
図7】
図7は、ジンバル光学マウントにプローブ電極を取り付けた構成を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例1の結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、本発明の実施例1の結果を示す他のグラフである。
【
図10】
図10は、本発明の実施例2の装置構成を示す正面図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施例2の結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、本発明の実施例3の装置構成を説明するための側面図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施例3の結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、従来のパルス光伝導法を実施する測定装置の等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るギャップ制御方法の実施の形態について図面を用いて説明する。
本実施形態に係るギャップ制御方法は、誘電体膜が形成された半導体の試料に対し所定のギャップ幅を空けてプローブ電極を配置する電気特性測定において、ギャップ容量の誤差要因となる電極表面の凹凸、及び電極表面と試料表面間との傾きを補正する方法である。
【0030】
図1は、本発明のギャップ制御方法を適用する測定用電極(以下、単に電極とも称する)において、電極をその径方向に沿って等間隔に分割した場合の複数の領域を示す電極先端の平面図である。
図1において、電極1の直径(φとする)が数mmであるのに対し、電極表面の凹凸の周期は数μmであるので、電極の大きさに比べれば電極表面の凹凸の周期は非常に小さい。従って、
図1のように、電極径に沿ってk等分した領域の任意の一つの領域を触針式の粗さ計測器で計測することで、電極全領域の粗さを知ることができ、
図1の各領域1、2、・・・kの電極表面の凹凸は、各領域間で等しいものと近似される。
【0031】
粗さ測定の結果から、
図2の電極先端の断面図に示すように、φ/kの領域内で最も突起している点を基準とし、φ/kの領域を更にn個に分割して最も突起が大きいところからの変位をW
c2、W
c3、・・・W
cnとし、n個に分割された各領域の面積をS
1、S
2、S
3、・・・S
nとする。
電極が試料表面に対して
図3のように平行に設置されている場合、φ/kの領域の電極と試料間のギャップ容量C
kは、静電容量計で計測されたギャップ距離W
gapから、式3で表すことができる。
【0032】
【0033】
また、電極全体と試料表面間のギャップ容量Cgapは式4で表わされる。α1、α2、α3、・・・αkは、電極全表面積に占める領域1、2、3、・・・kの面積の割合である。
【0034】
【0035】
また、電極1表面と試料12の表面間で
図4に示すように傾きθがある場合は、電極の各領域2、3、・・・kにおける電極1と試料12表面間の距離W
2、W
3、・・・、W
kは式5で表され、電極1全体と試料12表面間のギャップ容量C
gapは式6で表わされる。
【0036】
【0037】
【0038】
即ち、傾きθを求めることができれば、式6によりプローブ電極1全体と試料12表面間の傾きθを考慮したギャップ容量Cgapを求めることができ、それに基づき試料の電気特性を高精度に測定することが可能となる。
【0039】
本発明に係るギャップ制御方法においては、プローブ電極1全体と試料表面間の傾きθは、次のようにして求める。
(1)矩形波パルス電圧を試料に印加して酸化膜容量を充電完了した後、試料に紫外線のパルス光を照射し過渡的な信号変化を観測する。その際の充電電圧v(t)と印加電圧V(t)とを測定し、充電電圧比v(t)/V(t)の実測プロットを取得する。
【0040】
(2)充電電圧比を算出するマクロ(式(2)に基づきCgap、Coxide、Cf値を設定すると各ギャップ幅におけるv(t)/V(t)値が算出されて理論曲線を表示するプログラム)を用い、ギャップ幅に対するv(t)/V(t)の理論曲線を求める。
この理論曲線を求めるにあたり、Cgapは、式(5)、(6)に示したように傾きθを含むため、Cgapを求めるためのθ値を適当に振り、実測プロットに重なる曲線を求めることにより傾き角度θを特定することができる。
【0041】
また、本実施形態においては、プローブ電極1と試料12間の傾きを最小とするために、絶縁性の合成樹脂材、例えばPTFE(polytetrafluoroethylene)管を用いたプローブ電極構造を採用している。
プローブ電極1の材質は金属である為、電極1の試料ウェーハ12への接触は、金属汚染の懸念から避けなければならない。試料12に対する電極1からの金属汚染防止と物理的ストレス軽減とのため、本実施形態においては、
図5に示すようなプローブ電極構造を採用している。
【0042】
図5に示すようにPTFE管4(管状のPTFE材)をプローブ電極1の先端部に履かせるように組込んでいる。PTFE管4先端とプローブ電極1先端のギャップをあらかじめ調整しておき、PTFE管4先端が試料12の表面に軽く接触することで、調整したギャップの状態で測定を行う。PTFE管4を組込んだプローブ電極1が試料表面に接触するため、その凹凸に応じて鉛直方向に自動で調整される必要がある。そのため、図示するように、プローブ電極1が取り付けられたメタルガイド6に対してスプリング7により上下方向に揺動可能な構造となっている。
【0043】
この機構により、
図6に示すように試料12の凹凸に追従してギャップ機構を一定にすることができる。尚、絶縁性の合成樹脂材としてPTFE材を選択した理由は、絶縁性の高さ、耐熱性の高さ、加工の容易性、等が挙げられる。
【0044】
また、本発明にあっては、ジンバル光学マウントを用いたギャップ幅の調整機構(ジンバル機構と称する)を採用してもよい。この機構により、プローブ電極1を試料面に対し平行となるように調整することができる。
即ち、
図7に示すようにジンバル機構21にプローブ電極1を取り付けることで傾き調整機構としている。また、この場合、静電容量変位計9をプローブ電極1の隣に取り付けることで、プローブ電極1と試料12面とのギャップ幅の測定を行うことが望ましい。
【0045】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、パルス光伝導法により充電電圧比v(t)/V(t)を実測するとともに、電極の傾きを考慮したギャップ幅に対する充電電圧比v(t)/V(t)の理想曲線を求め、電極の傾きθを特定した。これにより電極全体と試料表面間の傾きθを考慮したギャップ容量Cgapを求めることができ、それに基づき試料の電気特性を高精度に測定することができる。
【実施例】
【0046】
本発明に係るギャップ制御方法について、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施の形態に基づき以下の実験を行った。
【0047】
(実施例1)
実施例1では、充電電圧比法を用いた傾き補正について検証した。
直径300mmのシリコンウェーハに厚さ82.9nmの酸化膜を形成した試料を準備した。測定に使用する電極の横断面は円形状であって、その直径は3.15mmであり、中央に直径1mmの中空が形成されたものとした。
【0048】
電極表面の表面粗さを触針式の粗さ計測器で測定した結果を
図8のグラフに示す。
図8のグラフにおいて横軸は移動距離(μm)、縦軸は基準点との差(μm)である。
図8のグラフに示すように電極表面の凹凸の最大高低差は2.4μm程度であった。最大高さから、0.1μm間隔で全測定領域中の占有率を算出したものを表1に示す。
【0049】
【0050】
表1における基準からの距離が、式3におけるWC2、・・・WCnに相当し、電極面積×占有率が式3におけるS1、S2、・・・Snに相当する。
電極表面を径方向に例えば10等分すると、全電極面積に占める領域の占有率は、表2のようになる。
【0051】
【0052】
表2における占有率が、式4におけるα1、α2、・・・αkに相当する。
次いで、パルス光伝導法に従い、矩形波パルス電圧を試料に印加して酸化膜容量を充電完了した後、試料に紫外線のパルス光を照射し過渡的な信号変化を観測した。その際のギャップ幅と充電電圧比v(t)/V(t)の実測プロットを取得するとともに、式2、及び式6において前記実測との誤差が小さくなるような角度θを与えたときの理論曲線を計算した。
【0053】
具体的には、式2の充電電圧比を算出するマクロ(C
gap、C
oxide、C
f値を設定すると各ギャップ幅におけるv(t)/V(t)値が算出されプロットし曲線を引くことで理論曲線を表示するプログラム)を用い、C
gapを求めるためのθ値を適当に振り、実測プロットと重なる角度θを仮の電極傾きとした。その結果を
図9のグラフに示す。
図9のグラフにおいて、横軸はギャップ幅(μm)であり、縦軸は充電電圧比(v(t)/V(t))である。このとき実測プロットと一致するθは、0.96°となった。
【0054】
表面凹凸、傾きを考慮した理論曲線に対する実測平均値の誤差を表3に示す。
【0055】
【0056】
θ=0.96°と与えることで、表3のように、0.5~3.0μmの範囲では5%以内の誤差で理論曲線を算出することができた。この表面凹凸、傾きを考慮した理論曲線を用いて、試料の各点で実測した充電電圧比から補正されたギャップ幅を求めることができた。
【0057】
尚、上記手順によって酸化膜内電界強度を揃えて、パルス光伝導法による測定を行うことにより、精度よく光信号ΔV(td)を測定することが可能となる。
【0058】
(実施例2)
実施例2では、PTFE管(管状のPTFE材)プローブ構造について検証した。
装置構成として、
図10に示すように、PTFE管プローブ構造を10本のプローブに適用し、パルス光伝導法測定を行う機構を構築した。構築プロセスを以下に示す。
【0059】
(1)光ファイバに付属しているフェルール付SMAアダプタ(オス)とSMAアダプタ(メス)を接続する。
(2)フェルール付SMAアダプタのフェルール部先端にPTFE管を取り付け、プローブ電極(SMAアダプタのフェルール部)先端-PTFE管先端間のギャップを調整する。
(3)プラスチックネジを用いてSMAアダプタ(メス)をメタルガイドに取り付ける。この際、メタルガイド-SMAアダプタ間の絶縁のための雲母板とプローブを安定させ且つプローブの上下位置を調整するためのバネを組み込む。
(4)上記(1)~(3)を繰り返し10本のプローブをメタルガイドに取り付け、ウェーハ半径方向に並べる。
(5)メタルガイドをフォークリフトに取り付け、固定する。
【0060】
尚、上記プロセス(2)に関して、プローブ電極先端-PTFE管先端間のギャップを調整可能かつギャップの測定が可能な機構が必要となる。そこで、プローブ電極先端-PTFE管先端間のギャップ調整機構を構築した。具体的にはSMAアダプタ(メス)をアーム付スタンドに固定し、ステージ(ウェーハチャック)をZ軸方向に移動させ、PTFE管を押し込むことでギャップを調整した。ギャップ調整後、
図10の装置においてステージをX軸方向に移動させ、レーザ変位計でプローブ先端をスキャンすることでギャップ測定を行った。
【0061】
上記で構築した機構を充電波形や光信号を取得できるパルス光伝導法測定系として構築し、パルス光伝導法測定を行った。試料ウェーハは、p型シリコンウェーハ上に10nm厚の熱酸化膜を形成したものである。印加電圧は6V、電圧印加からパルス光印加までの遅延時間tdは1msecとした。
その結果、
図11(a)~(j)に示すように全てのプローブNo.1~No.10に対して充電波形を観測しながらギャップの状態を統一し、調整したプローブで光信号を取得できることを実際に確認した。
【0062】
(実施例3)
また、実施例3では、ジンバル機構を用いたパルス光伝導法測定におけるギャップ幅の調整について検証した。
図7に示した構成のようにジンバル光学マウント(T-OMG-KT03U、Zaber Technologies社製)にプローブ電極を取り付けることで傾き調整機構とした。取り付け手法としては、真鋳を用いたL字型の治具を作成し、プローブ電極とジンバル光学マウントを接続した。また、
図7に示したように静電容量変位計(MicroSense4830日本レーザー社製)プローブをプローブ電極隣に取り付けることで、ギャップ幅の測定を行う機構とした。取り付け手法としては、プローブ電極取り付け位置に対し、Z軸方向に50μm程度高い位置にてネジ留めを行った。
具体的なギャップ幅の調整方法を
図12(a)~(c)に示す。
【0063】
(1)即ち
図12(a)に示すようにプローブ電極と試料とのギャップ幅を10mm程度開け、ジンバル光学マウントの初期化により(θ,Φ)=(0,0)点出しする。
(2)次いで
図12(b)に示すようにギャップ幅を静電容量変位計値で1μmにマニュアル調整する。
(3)最後に
図12(c)に示すように充電電圧値が最大となるようθ・φ軸方向に±0.005°毎駆動させる。
【0064】
この機構を組み込んでパルス光伝導法による測定を行った。試料ウェーハは、N型シリコンウェーハに厚さ9.3nmの熱酸化膜を形成したものである。印加電圧は6V、t
dは5deg、ギャップ幅は、100nmである。
この測定結果を
図13に示す。
図13(a)は傾き調整前の波形であり、
図13(b)は傾き調整後の波形である。本機構による傾き調整により、光信号が大きく増加していることを確認した。
【0065】
以上の実施例の結果、電極と試料間のギャップ制御方法における、試料ウェーハや試料ホルダーのうねり、電極の傾きなどを正確に補正することができた。この結果、半導体ウェーハ上に形成された誘電体膜の電気容量測定、パルス光伝導法による誘電対膜の界面準位測定の測定精度が大幅に向上することを確認できた。
【符号の説明】
【0066】
1 プローブ電極
4 PTFE管
6 メタルガイド
12 試料
21 ジンバル機構