(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】エラスターゼ阻害剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20220916BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220916BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220916BHJP
A61K 36/48 20060101ALI20220916BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20220916BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
A23L33/105
A61P43/00 111
A61P17/00
A61K36/48
A61K8/9789
A61Q19/08
(21)【出願番号】P 2019123580
(22)【出願日】2019-07-02
【審査請求日】2021-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】507103020
【氏名又は名称】株式会社アカシアの樹
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】片岡 武司
(72)【発明者】
【氏名】河地 泰臣
(72)【発明者】
【氏名】小川 壮介
(72)【発明者】
【氏名】清水 邦義
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-062989(JP,A)
【文献】特開2010-077123(JP,A)
【文献】特開2019-195309(JP,A)
【文献】Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2019年03月04日,Vol.83, No.3,pp.538-550
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/105
A61P 43/00
A61P 17/00
A61K 36/48
A61K 8/9789
A61Q 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アカシアの樹皮の抽出物を含む、エラスターゼ阻害剤(
ただし、アムラ(Phyllanthusemblica)の抽出物を配合することを特徴とするエラスターゼ活性阻害剤は除く)。
【請求項2】
前記アカシアが、Acacia mearnsii De Wild.である、請求項1に記載のエラスターゼ阻害剤。
【請求項3】
食品である、請求項1又は2に記載のエラスターゼ阻害剤。
【請求項4】
皮膚外用剤である、請求項1又は2に記載のエラスターゼ阻害剤。
【請求項5】
医薬品又は医薬部外品である、請求項1又は2に記載のエラスターゼ阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラスターゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表皮、真皮、及び皮下組織から構成されており、真皮は、主にコラーゲン及びエラスチンから構成されている。コラーゲン及びエラスチンは、互いに架橋構造を形成することによって、肌の柔軟性及び弾力性を保持している。エラスチンが、その分解酵素であるエラスターゼによって分解されると、コラーゲンとの架橋構造が破壊されて、肌の柔軟性及び弾力性が失われ、シワ等の問題が生じる。
【0003】
エラスチンは、皮膚に加えて、血管、靭帯、肺等の弾力性及び伸縮性が必要とされる組織に多く分布している。そのため、エラスターゼを阻害することによって、様々な組織における問題を解決することが期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、エラスターゼ阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等が鋭意検討した結果、アカシアの樹皮の抽出物がエラスターゼを阻害することを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、エラスターゼ阻害剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、各種サンプルを使用した場合のエラスターゼ活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態は、アカシアの樹皮の抽出物(以下「アカシア樹皮抽出物」という。)を含む、エラスターゼ阻害剤に関する。
【0009】
本明細書において、「アカシア」とは、アカシア(Acacia)属に属する樹木を意味する。アカシアとしては、例えば、Acacia mearnsii De Wild.、Acacia mangium Willd.、Acacia dealbata Link、Acacia decurrens Willd.、Acacia pycnantha Benth. 等が挙げられる。特に限定するものではないが、アカシアは、好ましくはAcacia mearnsii De Wild.又はAcacia mangium Willd.であり、より好ましくはAcacia mearnsii De Wild.である。
【0010】
アカシアの樹皮の調製方法、及び樹皮からの抽出方法は特に限定されず、公知の方法を使用することができる。例えば、特開2011-51992号公報、特開2010-105923号公報、特開2009-203209号公報等に記載の方法等を使用することができる。
【0011】
抽出溶媒としては、特に限定されないが、水、有機溶媒等が挙げられる。水は熱水であることが好ましい。有機溶媒は、好ましくはアルコールであり、より好ましくは炭素数1~4のアルコールであり、特に好ましくはエタノールである。抽出溶媒は、1種の溶媒を単独で使用してもよいし、2種以上の溶媒を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
特に限定するものではないが、アカシアの樹皮から熱水で抽出を行い、得られた抽出物から更に有機溶媒で抽出を行うことが好ましい。
【0013】
アカシア樹皮抽出物は、所定の方法で抽出した抽出物を精製したものでもよい。
【0014】
アカシア樹皮抽出物は、複数の成分を含んでいてもよいし、単一の成分のみを含んでいてもよい。アカシア樹皮抽出物の成分としては、例えば、プロフィセチニジン、プロロビネチニジン、プロシアニジン、プロデルフィニジン、ロビネチニドール、フィセチニドール、シリング酸、タキシフォリン、ブチン、スクロース、ピニトール等が挙げられる。
【0015】
エラスターゼ阻害剤は、経口的に使用してもよいし、非経口的に使用してもよい。非経口的使用としては、例えば局所的使用等が挙げられ、具体的には皮膚への適用等が挙げられる。
【0016】
エラスターゼ阻害剤は、例えば、食品、化粧品、医薬品、医薬部外品、動物用飼料等として使用することができる。食品としては、例えば、一般食品、保険機能食品(例えば、特定保健用食品、機能性表示食品、及び栄養機能食品)等が挙げられる。化粧品としては、例えば、皮膚外用剤等が挙げられる。
【0017】
エラスターゼ阻害剤は、様々な用途に使用することができる。エラスターゼ阻害剤の用途としては、例えば、皮膚のシワ抑制、皮膚のたるみ抑制、皮膚のハリを保つ、皮膚の弾力性の維持、皮膚のキメの維持、肌の潤い維持(肌の潤いを守る機能)、肌の保湿力維持(肌の保湿力を守る機能)、皮膚の老化抑制、血管の弾力性維持、靭帯の伸縮性維持、肺気腫化の予防等が挙げられる。
【0018】
真皮に含まれるエラスチンは、皮膚に弾力を与え、皮膚のハリを保つ働きをしている。そのため、エラスチンの分解を抑制するエラスターゼを阻害することによって、皮膚のシワ及びたるみを抑制し、皮膚のハリを保ち、皮膚の弾力性及びキメを維持することができる。
【0019】
真皮に含まれるエラスチンは、コラーゲンと共に、肌にうるおいを与えるヒアルロン酸を保持する働きをしている。そのため、エラスターゼを阻害することによって、肌の潤い及び保湿性を維持することができる。
【0020】
皮膚の老化原因として挙げられる紫外線及び加齢は、エラスターゼを過剰発現させることによって、エラスチンを変性又は破壊し、皮膚の弾力性を低下させる。そのため、エラスターゼを阻害することによって、皮膚の老化を抑制することができる。
【0021】
大動脈において、エラスチンは全乾燥重量の50%以上を占めており、血管壁の弾力を保つ働きをしている。加齢や動脈硬化により血管壁のエラスチンが減少することによって、また、動脈硬化巣でエラスターゼの産生が増加し、血管壁のエラスチンの分解が亢進することによって、血管壁の弾性が低下する。そのため、エラスターゼを阻害することによって、血管の弾力性を維持することができる。
【0022】
靭帯は主にコラーゲン及びエラスチンから構成されており、エラスチンは関節の安定や曲げ伸ばしに関与している。そのため、エラスターゼを阻害することによって、靭帯の伸縮性を維持することができる。
【0023】
肺気腫性変化は、肺胞壁の弾性が低下して肺胞が膨らんだまま縮むことができなくなること等によって生じる。肺に含まれるエラスチンは、肺に弾性を与える働きをしているため、エラスターゼ阻害により、肺胞壁の弾力低下を防止することができ、肺気腫化を予防することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0025】
<抽出物の調製>
アカシア(Acacia mearnsii De Wild.)の樹皮を粉砕し、100℃の熱水で抽出した。得られた溶液をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、熱水抽出物を得た。
【0026】
<エラスターゼ阻害活性試験>
ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF-Ad)由来のエラスターゼを用い、N-Succinyl-Ala-Ala-Ala-p-nitroanilideを基質として生成したnitroanilineの量を測定することにより、エラスターゼ活性を評価した。具体的な方法は以下のとおりである。
【0027】
(細胞溶解液の準備)
ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF-Ad)を、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)(高グルコース)(含1%ペニシリン-ストレプトマイシン及び10%ウシ胎児血清(FBS))を用いて、コンフルエントになるまでφ10cmディッシュにてCO2インキュベーター(37℃、5%CO2)内で培養した。
前培養した細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、細胞溶解液(1mM PMSF及び5%Triton X-100含有0.2M Tris-HCl(pH8.0
))にて、1.0×106cells/mlに再懸濁した。その後、超音波処理を行い、遠心(13,000rpm、4度、15分間)した後、上清(cell lysate)を回収した。
【0028】
(エラスターゼ活性の測定)
回収した上清(12.5μl)に0.2Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0、35.5μl)及び熱水抽出物(終濃度:80μg/ml、800μg/ml、又は3200μg/ml)を混合し、37℃で15分間インキュベートした。その後、5mMの基質:N-Succinyl-Ala-Ala-Ala-p-nitroanilide(50μl)を添加し、37℃で24時間インキュベートした。マイクロプレートリーダーで405nmにおける吸光度を測定し、エラスターゼ活性を算出した。
なお、ポジティブコントロールとして、エラスターゼ阻害剤であるホスホラミドン(終濃度:0.2μM)を使用し、コントロールとして、ジメチルスルホキシドを使用した。
【0029】
結果を表1及び
図1に示す。アカシア樹皮抽出物がエラスターゼを阻害することが確認された。
【表1】