(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】水/有機物混合物を分離するためのナノポーラスカーボン膜の使用
(51)【国際特許分類】
C07C 29/76 20060101AFI20220916BHJP
C07C 31/08 20060101ALI20220916BHJP
C07C 31/12 20060101ALI20220916BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20220916BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220916BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220916BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
C07C29/76
C07C31/08
C07C31/12
B01D61/02 500
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02
(21)【出願番号】P 2019553944
(86)(22)【出願日】2017-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2017057183
(87)【国際公開番号】W WO2018177498
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-03-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日: 平成28年9月27日 掲載アドレス: http://dx.doi.org/10.1063/1.4963098
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518436250
【氏名又は名称】パリ シアンス エ レットル
(73)【特許権者】
【識別番号】508266546
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ パリ
(73)【特許権者】
【識別番号】505045610
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック(セーエヌエルエス)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リデリック ボケット
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ シリア
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ ラボリー
(72)【発明者】
【氏名】吉田 広顕
(72)【発明者】
【氏名】シモン グラヴェル
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/089130(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/027197(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/172050(WO,A2)
【文献】国際公開第2009/005010(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0141711(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104785133(CN,A)
【文献】国際公開第2015/075451(WO,A1)
【文献】HOU, Y. et al.,Interface-Induced Affinity Sieving in Nanoporous Graphenes for Liquid-Phase Mixtures,J. Phys. Chem. C,2016年02月08日,Vol. 120,pp. 4053-4060
【文献】AKBARI, A. et al.,Large-area graphene-based nanofiltration membranes by shear alignment of discotic nematic liquid crystals of graphene oxide,NATURE COMMUNICATIONS,2016年03月07日,7:10891
【文献】LI, G. et al.,Efficient dehydration of the organic solvents through graphene oxide (GO)/ceramic composite membranes,RSC Adv.,2014年,Vol. 4,pp. 52012-52015
【文献】WANG. J. et. al.,Rod-Coating: Towards Large-Area Fabrication of Uniform Reduced Graphene Oxide Films for Flexible Touch Screens,Adv. Mater.,2012年,Vol. 24,pp. 2874-2878
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/76 - 31/12
B01D 61/02 - 71/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を伴う有機化合物の流体混合物から
前記有機化合物を抽出するための方法であって、前記方法は、
- ナノポーラスカーボン膜に抽出される有機化合物の純粋な調製物と接触させる工程と、
- ナノポーラスカーボン膜の一方の面に混合物を接触させる工程と、
- ナノポーラスカーボン膜の他方の面から有機化合物を回収する工程と
を含
み、前記ナノポーラスカーボン膜は、多層GO膜であり、前記有機化合物はモノアル
コールであることを特徴とする方法。
【請求項3】
前記有機化合物は、
C
1
~C
12
アルコールであることを特徴とする
請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノポーラスカーボン膜は、多孔性支持層上に配置されることを特徴とする
請求項
1から4のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水/アルコール混合物または水/アルカン混合物のような水/有機物混合物の分離のためのカーボンをベースとする膜の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
水/有機物液体混合物からの水の分離(本明細書においては、「脱水」とも呼称する)は、種々の産業プロセスにおいて必要とされている。
【0003】
1つの例は、バイオマスからのアルコール(エタノールおよびブタノールのようなもの)の製造におけるアルコールの脱水である。これらのバイオアルコールの製造プロセスにおける第1工程は、バイオマスから誘導される糖の微生物発酵である。この発酵は、通常、約5~15%のアルコール濃度を有する水溶液を製造する。
【0004】
慣用の蒸留により、より高いアルコール濃度を得ることができる。しかしながら、この方法の効率は、水-アルコール共沸混合物の形成により制限される。たとえば、エタノールは、水とともに、95.5質量%のエタノールおよび4.5質量%の水を含有する共沸混合物を形成し、95.5%より高いエタノール含有量を有する蒸留物を得ることを妨げる。
【0005】
車両用燃料または燃料添加物のような大抵の用途において必要とされる高いレベルの純度を達成するために、さらなる脱水工程が必要である。
【0006】
アルコールの脱水のための種々の解決法が存在する(概説として、Huangらの文献(2008)を参照されたい)。最も一般的に用いられる方法は、たとえば、共沸蒸留および膜分離を含む。
【0007】
共沸蒸留は、「共留剤」と呼ばれる第3の成分の添加を含み、それは、分離すべき2種の成分とともに3成分共沸混合物を形成する。これは、それら成分の相対的揮発性の変化を誘起し、蒸留系からの分離が起きることを可能にする。エタノール-水共沸混合物の場合、最も一般的に用いられる共留剤は、ベンゼン、トルエン、およびシクロヘキサンである。
【0008】
共沸蒸留の欠点は、共留剤として用いられる生成物の毒性および可燃性によって引き起こされる安全性の問題に加えて、その高いエネルギーコストおよび大型かつ複雑な装置の必要性である。
【0009】
透析蒸発は、緻密な無孔性膜を通した部分的蒸発による液体の混合物の分離のための方法である。この分離機構は、膜を通した溶解-拡散である。供給液体混合物は、膜の片面と直接接触し、反対面から透過物を気体状態で取り除く。膜は、親水性(水透過-選択性)または疎水性(アルコール透過-選択性)のいずれであってもよい。しかしながら、水の小さい分子サイズのため、アルコール脱水のために用いられる大抵の膜は親水性である。
【0010】
現在、透析蒸発は、エタノールおよび水の分離のための最も効果的かつ省エネルギーなプロセスの1つと考えられている。
【0011】
しかしながら、この方法は、依然として、水-エタノール分離のために約80℃まで系を加熱することを必要とする。よって、慣用の蒸留または共沸蒸留の場合よりも低いものの、エネルギーコストを無視できない。
【0012】
一方の膜をベースとする分離方法は、逆浸透である。この方法は、溶液の一方の成分の通過を許し、他方の通過を防止する半透膜を用いる。自発浸透において、膜を自由に横断することができる成分(通常、溶媒)は、その濃度が高い側から、その濃度が低い側へと流れる。逆浸透においては、自発浸透プロセスとは逆方向の圧力を印加して、この流れの方向の逆転をもたらす。結果的に、溶媒は、膜を通して拡散することができ、透過物中に見出され、一方、溶質は、膜の供給側で濃縮される。
【0013】
現在、逆浸透は、特に熱的脱塩に比較してその非常に低いエネルギー要求量により、最も重要な脱塩技術である。アルコール脱水の場合においても、同一の利点が期待される。なぜなら、水からアルコールの分離のために、相変化を必要としないからである。しかしながら、エタノールおよび水のような、分離すべき化学種が中性であり、かつ非常に類似した寸法を有する場合、逆浸透の使用、および特に適切な半透膜の選択は、より問題が大きい。
【0014】
さらに、逆浸透を用いて水-アルコール混合物を分離することについて、いくつかの試みがなされている。エタノール分子のより大きい寸法のために、大抵の膜は、水を選択的に透過させる(Huら、2013)。一方、エタノールを選択的に透過させる膜の使用について1つの報告例がある(Tanimuraら、1990)。
【0015】
さらなる問題は、濃縮されたエタノール溶液の高い浸透圧である。Choudhuryら(1985)は、エタノール不透過性かつ水透過性の膜を用い、膜に対する供給材料が水/エタノール混合物である方法を記載している。分離された水は、透過物中に排出され、逆浸透プロセスが進行するにつれて混合物中のエタノールの濃度が上昇する。しかしながら、混合物中のエタノール濃度が高いときに、合理的な作動圧力によって克服するのが困難である非常に大きな浸透圧が発生する。特に、95.5%の共沸点より高くにエタノール濃度を増大させることは、ほとんど不可能である(約3000バールの高圧が必要である)。
【0016】
最近、新種の半透過性膜、ナノポーラスカーボン膜が、多くの関心を集めている。
【0017】
ナノポーラスカーボン膜は、カーボンナノチューブ膜、ナノポーラスグラフェン膜、および多層酸化グラフェン膜を含む。これら材料の全ては、同様の選択的透過性の特性を示し、ナノ濾過、脱塩、透析蒸発などのような膜分離を伴う用途において、それらを分子ふるいとして使用することが提案されてきている。
【0018】
カーボンナノチューブ膜は、画定された直径を有する短いカーボンナノチューブによって連結された、2つの穿孔グラフェンシートからなる。しかしながら、それらの実用的用途は、それらの製造の複雑さにより限定されている。
【0019】
ナノポーラスグラフェン膜は、画定された寸法のナノ細孔を有するグラフェンの単一シートから成る。しかしながら、予め画定された細孔寸法および高い細孔密度を有する大型のグラフェンシートを得ることは、依然として困難である。
【0020】
酸化グラフェン(GO)膜は、相互接続されたナノチャネルにより分離された積層型のGOナノシートから構成され、ナノチャネルは、膜を通した選択的透過を可能にする細孔を形成する。それらは、吹付、浸漬塗布、スピンコート、真空濾過などにより、種々の支持体上にGO溶液を堆積させることにより、比較的容易かつ安価に製造することができ、現在、最も一般的に使用される。さらに、GOシートは、無垢のグラフェンと同等の電気的性質、熱的性質、機械的性質および表面特性を有する、グラフェン様還元型GO(rGO)シートに変換することができる。
【0021】
グラフェンをベースとする膜、特にGOおよびrGO膜を、広範囲の用途における分離膜として使用することが提案されている(Lie, Jinら、2015)。それら用途は、気相分離または透析蒸発のような脱水方法(国際公開第2014/027197号)、あるいは水の精製(国際公開第2015/075451号)を含む。
【0022】
グラフェンをベースとする膜が、水を選択的に透過させることができることが報告されている。Nairら(2012)は、GO膜が水の障害のない透過を可能にする一方で、ヘリウムを含む他の液体、蒸気および気体に対して完全に不透過性にできることを報告する。Liu, Arabaleら(2014)は、有機溶媒および水の混合物のGO膜を通した透過を研究した。彼らは、エタノール、1-プロパノール、および2-プロパノール(IPA)のようなアルコールの透過速度は、水の透過速度の約1/80であったと報告する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【文献】Akbari, A., P. Sheath, S. T. Martin, D. B. Shinde, M. Shaibani, P. C. Banerjee, R. Tkacz, D. Bhattacharyya and M. Majumder; Nature communications 7: 10891 (2016)。
【文献】Choudhury, J. P., P. Ghosh and B. K. Guha; Biotechnology and Bioengineering 27(7): 1081-1084 (1985)。
【文献】Hu, M. and B. Mi; Environmental Science & Technology 47(8): 3715-3723 (2013)。
【文献】Huang, H.-J., S. Ramaswamy, U. W. Tschirner and B. V. Ramarao; Separation and Purification Technology 62(1): 1-21 (2008)。
【文献】Liu, G., W. Jin and N. Xu; Chem Soc Rev 44(15): 5016-5030 (2015)。
【文献】Liu, R., G. Arabale, J. Kim, K. Sun, Y. Lee, C. Ryu and C. Lee; Carbon 77: 933-938 (2014)。
【文献】Su, Y., V. G. Kravets, S. L. Wong, J. Waters, A. K. Geim and R. R. Nair; Nature communications 5: 4843 (2014)。
【文献】Tanimura, S., S.-i. Nakao and S. Kimura; AIChE Journal 36(7): 1118-1120 (1990)。
【文献】Wang, J., M. Liang, Y. Fang, T. Qiu, J. Zhang and L. Zhi; Advanced Materials 24(21): 2874-2878 (2012)。
【文献】Zhang, J., H. Yang, G. Shen, P. Cheng, J. Zhang and S. Guo; Chemical Communications 46(7): 1112-1114 (2010)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、水およびエタノールが純粋な成分として用いられる場合に、ナノポーラスカーボン膜が、一般的に、水およびエタノールの両方に対して透過性である一方で、水-エタノール混合物の存在下ではエタノールに対する高い透過性を維持すると同時に、水に対して完全に不透過性になる可能性があることを見出した。水と比較した際のエタノール分子の最大寸法を考慮すると、これは予測されなかった。これは、水の除去に依存する先行技術の方法とは対照的に、エタノール-水混合物からエタノールを除去することによる水-エタノール分離を達成することを可能にする。
【0025】
何らの理論にも束縛されることを臨むものではないが、この特異な分離の基本機構は、水と比較した際の、エタノールのカーボン表面への優先的吸着にあると信じられる。吸着したエタノールは膜の細孔を満たし、水の浸入を防止する。結果的に、エタノールのみが膜を通して流動することができる。
【0026】
本発明の目的は、混合物中からの有機化合物の抽出により、流体混合物中の有機化合物から水を分離するためのナノポーラスカーボン膜の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】GO膜またはrGO膜を通した浸透流を測定するのに用いられる実験装置の概略図である。
【
図2】GO膜を用いる(同一の結果はrGO膜についても観察される)、2つの異なる濃度の水を有するエタノール/水溶液(Et/W)およびブタノール/水溶液(Buth/W)に関して、メニスカスの初期位置からの距離を時間の関数としてプロットしたグラフであり、白抜きのシンボルはリザーバ(1)に連結されるメニスカスに対応し(Et/WまたはButh/W溶液)、半黒のシンボルはリザーバ(2)に連結されるメニスカスに対応し(EtまたはButh)、距離は、メニスカスがリザーバに向かって移動する方向を負として測定されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、水を伴う有機化合物の流体混合物から有機化合物を抽出するための方法を提供し、当該方法は、
- ナノポーラスカーボン膜の一方の面に混合物を接触させる工程と、
- ナノポーラスカーボン膜の他方の面から有機化合物を回収する工程と
を含む。
【0029】
本発明の方法を実施するために、ナノポーラスカーボン膜によって離隔された2つの区画を含む任意の分離装置を用いることができる。分離されるべき混合物は第1区画に配置され、抽出された有機化合物は第2区画で回収される。
【0030】
流体混合物は、液体混合物または気体混合物であることができる。
【0031】
好ましい実施形態によれば、ナノポーラスカーボン膜は、使用前に、少なくとも5分間にわたって、好ましくは5~30分間にわたって、抽出される化合物の純粋な調製物と接触させることにより、活性化される。
【0032】
前述の有機化合物は、膜の細孔の表面に対して水よりも高い親和性を有する任意の水溶性または水混和性化合物であることができる。
【0033】
特に、アルコールまたはアルカンであることができる。たとえば、C1~C12アルコール、より好ましくはC1~C8アルコール、さらにより好ましくはC1~C6アルコール、さらにより好ましくはC1~C4アルコール、あるいは、C1~C12アルカン、より好ましくはC1~C8アルカン、さらにより好ましくはC1~C6アルカン、さらにより好ましくはC1~C4アルカンであることができる。両方の場合において、直鎖状炭素鎖または分枝状炭素鎖を有することができる。アルコールの場合、モノアルコールまたはポリオール(特にグリコール)であることができ、また第1級アルコール、第2級アルコールまたは第3級アルコールであることができる。
【0034】
好ましいアルコールの例は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールである。
【0035】
好ましいアルカンは、メタン、エタン、プロパン、ブタンである。
【0036】
ナノポーラスカーボン膜は、カーボンナノチューブ膜、ナノポーラスグラフェン膜、あるいは、多層GOまたはrGO膜であることができる。
【0037】
細孔寸法は0.7nmより大きく、1.5nm未満、好ましくは1.4nm未満、より好ましくは1.3nm未満、さらにより好ましくは1.1nm未満、さらにより好ましくは1.1nm未満であるべきである。
【0038】
本明細書における「細孔寸法」とは、カーボンナノチューブ膜およびナノポーラスグラフェン膜の場合には細孔の直径を意味し、多層GOまたはrGO膜の場合においては、層間間隙の幅を意味する。
【0039】
典型的には、カーボンナノチューブ膜の場合において、ナノポーラスカーボン膜は、0.05μmから1μm、好ましくは100nmから500nmの厚さを有する。
【0040】
多層GOまたはrGO膜の場合においては、少なくとも2つの層、好ましくは少なくとも3つの層から300層までのGOシートまたはrGOシートを含み、0.05μmから1μm、好ましくは約0.1μmの厚さを有する。
【0041】
ナノポーラスカーボン膜は、単独で使用することもできるし、多孔性支持層の上に配置することができる。前述の多孔性支持層は、水から分離される有機化合物の透過を許すべきである。
【0042】
多孔性支持層は、非反応性ポリマー材料、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフルオロポリマー、または多孔性ポリカーボネート、あるいは混合セルロースエステルまたはセルロースアセテートから作製することができる。また、非制限的な例としてのアルミナ、シリカ、または二酸化チタンをベースとする多孔性セラミックのような、多孔性セラミック材料で作製することができる。
【0043】
好ましくは、多孔性支持層は、0.05μmから1μm、より好ましくは0.1μmから0.5μmの細孔寸法、および30μmから300μm、より好ましくは100μmから200μmの厚さを有する。
【0044】
ナノポーラスカーボン膜を多孔性支持層上に配置する場合、得られる複合濾過膜は、任意の配向で用いることができる。すなわち、カーボン膜面または多孔性支持体面のいずれを分離される混合物に接触させることができる。2つ以上の層の多孔性支持体と2つ以上の層のカーボン膜を交互配置した多層複合濾過膜に加えて、カーボン膜を多孔性支持層の両面に配置した複合濾過膜、あるいはまたカーボン膜を2つの多孔性支持層の間に配置した複合濾過膜も用いることができる。
【0045】
本発明は、透析蒸発、液-液抽出または逆浸透のような方法において用いることができ、かつ、水から関心のある有機化合物を分離することが所望される任意の分野において用いることができる。たとえば、エタノールのようなアルコールを乾燥させるためのバイオ燃料産業において用いることができる。また、天然ガスおよび天然ガス液体の脱水のために用いられるグリコールを再生するのに用いることができる。
【0046】
(図面の説明)
図1は、GO膜またはrGO膜を通した浸透流を測定するのに用いられる実験装置の概略図である。
【0047】
図2は、GO膜を用いる、2つの異なる濃度の水を有するエタノール/水溶液(Et/W)およびブタノール/水溶液(Buth/W)に関して、メニスカスの初期位置からの距離を時間の関数としてプロットしたグラフである。同一の結果は、rGO膜についても観察される。白抜きのシンボルはリザーバ(1)(Et/WまたはButh/W溶液)に連結されるメニスカスに対応し、半黒のシンボルはリザーバ(2)(EtまたはButh)に連結されるメニスカスに対応する。距離は、メニスカスがリザーバに向かって移動する方向を負として測定される。
【実施例】
【0048】
水/エタノール混合物の存在下での水およびエタノールの透過性、および水/ブタノール混合物の存在下での水およびブタノールの透過性について、酸化グラフェン(GO)膜および還元型酸化グラフェン(rGO)膜を試験した。
【0049】
Akbariら(2016)およびWangら(2012)に記載されるように、多孔質支持層(150μmの厚さおよび0.2μmの細孔寸法を有するPVDF)上のGOの薄層(厚さ0.1μm)の堆積物により、GO膜またはrGO膜を作製した。rGO膜を得るために、Suら(2014)またはZhangら(2010)により詳細を記載されたプロトコルにしたがって、アスコルビン酸を用いてGO膜を直接還元した。膜は、30g/Lの濃度を有するアスコルビン酸の溶液中、50±5℃において、24時間にわたって還元される。最後に、1時間にわたって真空下で乾燥する。それぞれの実験の前に、数分間にわたって膜をエタノール中に浸漬させる。膜のそれぞれは、約5mm×5mmである。
【0050】
以下に記載するように、膜を通した浸透流を測定することにより、これらの膜の半透過性挙動および得られる分離能力を評価する。
【0051】
膜を通した流れを測定するために用いられる実験装置を
図1に示す。膜(3)は、1.2mlの2つのリザーバの間に保持される。リザーバ(1)を、水/エタノール混合物または水/ブタノール混合物で満たす。リザーバ(2)をエタノールまたはブタノールで満たす(水の濃度0.25質量%)。それぞれのリザーバにガラスキャビパリ(5)を接続する。それぞれのキャピラリにおいて、メニスカスは、膜を通した流体流れにしたがって自由に移動する。カメラは、キャピラリ(6)内部のメニスカスの動きを記録する。GOまたはrGO被覆を有する膜の面が、リザーバ1に面する。
【0052】
同一の初期位置からの両方のメニスカスの変位を、時間の関数としてプロットする。2つの異なる濃度(4質量%および6質量%)の水を有するエタノール/水混合物に関する結果および10質量%の水を有するブタノール/水混合物に関する結果を、
図2に示す。
【0053】
所与の濃度に関して、メニスカスが同速度で反対方向に移動することが観察される。リザーバ(2)(Eth)に接続されるメニスカスは、そのリザーバに向かって移動する一方、リザーバ(1)(Eth/W)に接続されるメニスカスは、そのリザーバから離れるように移動する。これは、より高いエタノール濃度の側からより低いエタノール濃度の側ヘ向かう膜を通した流動があることを示すと同時に、より高い水濃度の側からより低い水濃度の側ヘ向かう膜を通した逆方向流動がないことを示す。これは、膜が、それを通して流れることができる唯一の種であるエタノールに対して半透過性であることを示す。