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特許7142391物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うためのシステム、装置、および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うためのシステム、装置、および方法
(51)【国際特許分類】
   F03D 80/50 20160101AFI20220916BHJP
【FI】
F03D80/50
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021173157
(22)【出願日】2021-10-22
【審査請求日】2022-07-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519303966
【氏名又は名称】LEBO ROBOTICS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】浜村 圭太郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 真之
(72)【発明者】
【氏名】杉山 裕一
(72)【発明者】
【氏名】関 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】川端 大翔
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-309098(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0042102(US,A1)
【文献】国際公開第2018/155704(WO,A1)
【文献】特開2005-211884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 80/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うためのシステムであって、
前記物体上の所定の位置に取り付けられるように構成されている少なくとも1つの取付装置であって、前記少なくとも1つの取付装置には少なくとも1本のロープの一部が固定されており、前記少なくとも1本のロープは、前記少なくとも1つの取付装置から延在する、少なくとも1つの取付装置と、
前記少なくとも1つの取付装置から延在する前記少なくとも1本のロープを受け取り、前記少なくとも1本のロープを前記物体の前記少なくとも一部上の任意の位置に保持するように構成されている少なくとも1つのロープ保持装置であって、前記少なくとも1つのロープ保持装置は、前記物体の前記少なくとも一部上を移動可能である、少なくとも1つのロープ保持装置と、
前記物体の前記少なくとも一部のメンテナンスを行うように構成されたメンテナンス装置であって、前記メンテナンス装置は、前記少なくとも1つのロープ保持装置によって保持された前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部まで移動し、かつ、前記物体の前記少なくとも一部上を移動するように構成されている、メンテナンス装置と
を備えるシステム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの取付装置と前記少なくとも1つのロープ保持装置とを共に前記所定の位置まで移動させるための移動手段をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記移動手段は、飛行可能な装置である、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記物体の前記少なくとも一部上での位置を制御するための制御手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記メンテナンス装置が前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部まで移動するときの前記メンテナンス装置の空間位置と前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記位置とが連動するように、前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記位置を制御する、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記物体の前記少なくとも一部の内部に導線が延在しており、
前記少なくとも1つのロープ保持装置は、前記少なくとも1つの取付装置から前記導線に略平行に基準導線を配置可能であり、
前記メンテナンス装置は、前記導線の断線を検査するための検査手段を備え、
前記検査手段は、
前記導線と前記基準導線とにパルス信号を流すことと、
前記パルス信号の反射波形を検出することと
によって前記導線の断線を検査する、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記検査手段は、前記反射波形に基づいて、前記導線の断線箇所を検出する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記物体の前記少なくとも一部の内部に導線が延在しており、
前記メンテナンス装置は、前記導線の断線を検査するための電波を前記導線に流すための手段を備え、
前記少なくとも1つのロープ保持装置は、前記導線内を伝播する電波に応じた信号を検出する検出手段を備えている、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記物体は、洋上の風車であり、前記物体の前記少なくとも一部は、前記風車のブレードである、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記所定の位置は、風車のブレードのくびれた部分上の位置である、請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うための方法であって、
前記物体上の所定の位置に少なくとも1つの取付装置を移動させることと、
前記所定の位置に前記少なくとも1つの取付装置を取り付けることであって、前記少なくとも1つの取付装置には少なくとも1本のロープの一部が固定されており、前記少なくとも1本のロープは、前記少なくとも1つの取付装置から少なくとも1つのロープ保持装置に延在する、ことと、
前記物体の前記少なくとも一部上の任意の位置に前記少なくとも1つのロープ保持装置を移動させることと、
前記少なくとも1つのロープ保持装置によって、前記少なくとも1本のロープを前記物体の前記少なくとも一部上の前記任意の位置に保持することと、
前記少なくとも1つのロープ保持装置によって保持された前記少なくとも1本のロープをメンテナンス装置に接続することと、
前記少なくとも1つのロープ保持装置によって保持された前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部まで前記メンテナンス装置を移動させることと、
前記物体の前記少なくとも一部上で前記メンテナンス装置を移動させることと、
前記メンテナンス装置が前記物体の前記少なくとも一部上を移動している間に、前記物体の前記少なくとも一部のメンテナンスを行うことと
を含む方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの取付装置を移動させることは、前記少なくとも1つのロープ保持装置と共に前記少なくとも1つの取付装置を前記所定の位置に移動させることを含み、
前記少なくとも1つのロープ保持装置を移動させることは、前記所定の位置から前記任意の位置に前記少なくとも1つのロープ保持装置を移動させることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記物体の前記少なくとも一部まで前記メンテナンス装置を移動させることは、
前記メンテナンス装置が前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部まで移動するときの前記メンテナンス装置の空間位置と前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記位置とが連動するように、前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記位置を制御すること
を含む、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部から前記メンテナンス装置を移動させることにより、前記物体の前記少なくとも一部から前記メンテナンス装置を回収することをさらに含み、
前記メンテナンス装置を回収することは、
前記メンテナンス装置が前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部から移動するときの前記メンテナンス装置の空間位置と前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記位置とが連動するように、前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記位置を制御すること
を含む、請求項1012のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記物体の前記少なくとも一部の内部に導線が延在しており、
前記物体の前記少なくとも一部のメンテナンスを行うことは、
前記少なくとも1つのロープ保持装置を移動させることにより、前記少なくとも1つの取付装置と前記少なくとも1つのロープ保持装置との間に前記導線に略平行に基準導線を配置すること
前記メンテナンス装置が前記導線と前記基準導線とにパルス信号を流すことと、
前記メンテナンス装置が前記パルス信号の反射波形を検出することと
によって前記導線の断線を検査することを含む、請求項1013のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記導線の断線を検査することは、前記反射波形に基づいて、前記導線の断線箇所を検出することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記物体の前記少なくとも一部の内部に導線が延在しており、
前記物体の前記少なくとも一部のメンテナンスを行うことは、
前記メンテナンス装置が、前記導線の断線を検査するための電波を前記導線に流すことと、
前記少なくとも1つのロープ保持装置が、前記物体の前記少なくとも一部上を移動している間に、前記少なくとも1つのロープ保持装置が、前記導線内を伝播する電波に応じた信号を検出することと
を含む、請求項1013のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記物体は、洋上の風車であり、前記物体の前記少なくとも一部は、前記風車のブレードである、請求項1016のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記所定の位置は、風車のブレードのくびれた部分上の位置である、請求項1017のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うためのシステム、装置、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型風力発電機は、そのナセルが約100mの高さを有する。大型風力発電機のブレードの翼端周速は約100~120m/sであり、ブレードの風を切る方の縁であるリーディングエッジ(前縁)は、毎年約20μm摩耗する。また、大型風力発電機のブレードは雷による被害を受けやすい。そのため、ブレードには、耐雷対策として雷撃電流を地面に流すための受雷部(レセプタ)が設けられているが、故障により受雷部が導通不良であると、ブレードは、落雷よる雷撃電流を地面に流すことができずに大破してしまう。従って、大型風力発電機のブレードには、定期的なメンテナンスが必要である。
【0003】
既設の大型風力発電機のブレードのメンテナンスを行う方法として、代表的な3つの方法がある。第1の方法は、大型クレーンを用いてブレードを取り外し、地上に下ろしてからメンテナンスを行う方法である。第2の方法は、大型クレーンの先端にゴンドラを吊り下げ、ゴンドラに乗った作業員がメンテナンスを行う方法である。第3の方法は、作業員がブレード上に張られたロープを伝ってブレード上を移動してメンテナンスを行う方法である。
【0004】
第1の方法および第2の方法は、大型クレーンを用いるため、多くの費用および労力を要する。特に、第1の方法は、ブレードの取り外し工程および取り付け工程のために、莫大な費用および長期の工期が必要である。第2の方法および第3の方法は、作業員が高所で作業を行う必要があり、危険を伴う。
【0005】
特許文献1は、大型クレーンを用いることなく大型風力発電機のブレードのメンテナンスを行う方法を開示している。特許文献1のメンテナンス方法では、依然として作業員が高所で作業を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-7525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全かつ簡単に物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うためのシステム、装置、および方法を提供することを目的とする。本発明は、特に、物体へのアクセスが比較的に困難である場所(例えば、洋上)であっても、安全かつ簡単に物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うためのシステム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うためのシステムであって、
前記物体上の所定の位置に取り付けられるように構成されている少なくとも1つの取付装置であって、前記少なくとも1つの取付装置には少なくとも1本のロープの一部が固定されており、前記少なくとも1本のロープは、前記少なくとも1つの取付装置から延在する、少なくとも1つの取付装置と、
前記少なくとも1つの取付装置から延在する前記少なくとも1本のロープを受け取り、前記少なくとも1本のロープを前記物体の前記少なくとも一部上の任意の位置に保持するように構成されている少なくとも1つのロープ保持装置であって、前記少なくとも1つのロープ保持装置は、前記物体の前記少なくとも一部上を移動可能である、少なくとも1つのロープ保持装置と、
前記物体の前記少なくとも一部のメンテナンスを行うように構成されたメンテナンス装置であって、前記メンテナンス装置は、前記少なくとも1つのロープ保持装置によって保持された前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部まで移動し、かつ、前記物体の前記少なくとも一部上を移動するように構成されている、メンテナンス装置と
を備えるシステム。
(項目2)
前記少なくとも1つの取付装置と前記少なくとも1つのロープ保持装置とを共に前記所定の位置まで移動させるための移動手段をさらに備える、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記移動手段は、飛行可能な装置である、項目2に記載のシステム。
(項目4)
前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記物体の前記少なくとも一部上での位置を制御するための制御手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記メンテナンス装置が前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部まで移動するときの前記メンテナンス装置の空間位置と前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記位置とが連動するように、前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記位置を制御する、項目1~3のいずれか一項に記載のシステム。
(項目5)
前記物体の前記少なくとも一部の内部に導線が延在しており、
前記少なくとも1つのロープ保持装置は、前記少なくとも1つの取付装置から前記導線に略平行に基準導線を配置可能であり、
前記メンテナンス装置は、前記導線の断線を検査するための検査手段を備え、
前記検査手段は、
前記導線と前記基準導線とにパルス信号を流すことと、
前記パルス信号の反射波形を検出することと
によって前記導線の断線を検査する、項目1~4のいずれか一項に記載のシステム。
(項目6)
前記検査手段は、前記反射波形に基づいて、前記導線の断線箇所を検出する、項目5に記載のシステム。
(項目7)
前記物体の前記少なくとも一部の内部に導線が延在しており、
前記メンテナンス装置は、前記導線の断線を検査するための電波を前記導線に流すための手段を備え、
前記少なくとも1つのロープ保持装置は、前記導線内を伝播する電波に応じた信号を検出する検出手段を備えている、項目1~4のいずれか一項に記載のシステム。
(項目8)
前記物体は、洋上の風車であり、前記物体の前記少なくとも一部は、前記風車のブレードである、項目1~7のいずれか一項に記載のシステム。
(項目9)
前記所定の位置は、風車のブレードのくびれた部分上の位置である、項目1~8のいずれか一項に記載のシステム。
(項目10)
物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うためのシステムであって、
前記物体上の所定の位置に取り付けられるように構成されている少なくとも1つの取付装置であって、前記少なくとも1つの取付装置には少なくとも1本のロープの一部が固定されており、前記少なくとも1本のロープは、前記少なくとも1つの取付装置から延在する、少なくとも1つの取付装置と、
前記物体の前記少なくとも一部のメンテナンスを行うように構成されたメンテナンス装置であって、前記メンテナンス装置は、前記少なくとも1つの取付装置から延びる前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部まで移動し、かつ、前記物体の前記少なくとも一部上を移動するように構成されている、メンテナンス装置と
を備えるシステム。
(項目11)
物体の少なくとも一部のメンテナンスを支援するためのシステムであって、
前記物体上の所定の位置に取り付けられるように構成されている少なくとも1つの取付装置であって、前記少なくとも1つの取付装置には少なくとも1本のロープの一部が固定されており、前記少なくとも1本のロープは、前記少なくとも1つの取付装置から延在する、少なくとも1つの取付装置と、
前記少なくとも1つの取付装置から延在する前記少なくとも1本のロープを受け取り、前記少なくとも1本のロープを前記物体の前記少なくとも一部上の任意の位置に保持するように構成されている少なくとも1つのロープ保持装置であって、前記少なくとも1つのロープ保持装置は、前記物体の前記少なくとも一部上を移動可能である、少なくとも1つのロープ保持装置と
を備えるシステム。
(項目12)
物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うための方法であって、
前記物体上の所定の位置に少なくとも1つの取付装置を移動させることと、
前記所定の位置に前記少なくとも1つの取付装置を取り付けることであって、前記少なくとも1つの取付装置には少なくとも1本のロープの一部が固定されており、前記少なくとも1本のロープは、前記少なくとも1つの取付装置から少なくとも1つのロープ保持装置に延在する、ことと、
前記物体の前記少なくとも一部上の任意の位置に前記少なくとも1つのロープ保持装置を移動させることと、
前記少なくとも1つのロープ保持装置によって、前記少なくとも1本のロープを前記物体の前記少なくとも一部上の前記任意の位置に保持することと、
前記少なくとも1つのロープ保持装置によって保持された前記少なくとも1本のロープをメンテナンス装置に接続することと、
前記少なくとも1つのロープ保持装置によって保持された前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部まで前記メンテナンス装置を移動させることと、
前記物体の前記少なくとも一部上で前記メンテナンス装置を移動させることと、
前記メンテナンス装置が前記物体の前記少なくとも一部上を移動している間に、前記物体の前記少なくとも一部のメンテナンスを行うことと
を含む方法。
(項目13)
前記少なくとも1つの取付装置を移動させることは、前記少なくとも1つのロープ保持装置と共に前記少なくとも1つの取付装置を前記所定の位置に移動させることを含み、
前記少なくとも1つのロープ保持装置を移動させることは、前記所定の位置から前記任意の位置に前記少なくとも1つのロープ保持装置を移動させることを含む、項目9に記載の方法。
(項目14)
前記物体の前記少なくとも一部まで前記メンテナンス装置を移動させることは、
前記メンテナンス装置が前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部まで移動するときの前記メンテナンス装置の空間位置と前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記位置とが連動するように、前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記位置を制御すること
を含む、項目12または項目13に記載の方法。
(項目15)
前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部から前記メンテナンス装置を移動させることにより、前記物体の前記少なくとも一部から前記メンテナンス装置を回収することをさらに含み、
前記メンテナンス装置を回収することは、
前記メンテナンス装置が前記少なくとも1本のロープ上を前記物体の前記少なくとも一部から移動するときの前記メンテナンス装置の空間位置と前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記位置とが連動するように、前記少なくとも1つのロープ保持装置の前記位置を制御すること
を含む、項目12~14のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記物体の前記少なくとも一部の内部に導線が延在しており、
前記物体の前記少なくとも一部のメンテナンスを行うことは、
前記少なくとも1つのロープ保持装置を移動させることにより、前記少なくとも1つの取付装置と前記少なくとも1つのロープ保持装置との間に前記導線に略平行に基準導線を配置すること
前記メンテナンス装置が前記導線と前記基準導線とにパルス信号を流すことと、
前記メンテナンス装置が前記パルス信号の反射波形を検出することと
によって前記導線の断線を検査することを含む、項目12~15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記導線の断線を検査することは、前記反射波形に基づいて、前記導線の断線箇所を検出することを含む、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記物体の前記少なくとも一部の内部に導線が延在しており、
前記物体の前記少なくとも一部のメンテナンスを行うことは、
前記メンテナンス装置が、前記導線の断線を検査するための電波を前記導線に流すことと、
前記少なくとも1つのロープ保持装置が、前記物体の前記少なくとも一部上を移動している間に、前記少なくとも1つのロープ保持装置が、前記導線内を伝播する電波に応じた信号を検出することと
を含む、項目12~15のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
前記物体は、洋上の風車であり、前記物体の前記少なくとも一部は、前記風車のブレードである、項目12~18のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
前記所定の位置は、風車のブレードのくびれた部分上の位置である、項目12~19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安全かつ簡単に物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うためのシステム、装置、および方法を提供することができる。特に、本発明によれば、物体へのアクセスが比較的に困難である場所(例えば、洋上)であっても、安全かつ簡単に物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1B】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1C】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1D】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1E】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1F】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1G】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1H】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1I】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1J】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1K】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1L】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1M】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1N】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1O】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1P】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1Q】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図1R】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する図
図2】代替実施形態における取付装置300’を用いて、ロープを風車10のタワー17上の所定の位置に取り付ける例を示す図
図3】一例における取付装置300の構成を概略的に示す図
図4図1Eで一点鎖線の円形で囲まれた部分の詳細を示す図
図5】本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う方法の手順の一例(手順500)を示す図
図6A】ステップS508のブレードのメンテナンスを行うステップにおいて行われる具体的なフローの一例を示す図
図6B】ステップS508のブレードのメンテナンスを行うステップにおいて行われる具体的なフローの別の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
1.風車のブレードのメンテナンス
図1A図1Rを参照して、本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う手順を説明する。図1Aには、風車10の正面が示され、図1B図1Rには、風車10の右側面が示されている。図1B図1Rでは、メンテナンス対象のブレード11のみを示し、他の2枚のブレード12、13は省略している。図1Aに示される風車は、図面上時計回りに回転する風車であり、各ブレードの直線状の縁がリーディングエッジ(前縁)となる。
【0013】
本明細書において「風車」とは、風を受けて動力を得る装置のことをいう。風車の一例として、風力発電機が挙げられる。
【0014】
風車10は、ブレード11、12、13と、ナセル14と、ハブ15とを備えている。ナセル14は、発電機やギアボックス等を収納する筐体である。ハブ15は、ブレード11、12、13とナセル14とを回転可能に結合する部材である。図1A図1Rに示される風車10は、洋上に建設された風車である。風車10は、デッキ16をさらに備えており、作業員や作業用設備等は、洋上でデッキ16を足場とすることができる。
【0015】
本明細書において「メンテナンス」とは、物体の点検または保守のことをいう。メンテナンスの一例として、物体の表面を撮像すること、物体の受雷部の導通を検査すること、物体の内部を延在する導線の断線を検査すること、物体の表面を洗浄すること、物体の表面を研削および/または研磨すること、物体の表面に塗料を塗布すること、物体の表面にパテ、接着剤、シーラント等の材料を塗布すること等が挙げられる。
【0016】
本発明のシステムは、メンテナンス装置100と、ロープ保持装置200と、取付装置300とを備える。本発明のシステムは、移動装置400も備え得る。メンテナンス装置100は、ブレードのメンテナンスを行う装置である。ロープ保持装置200は、取付装置300から延びるロープをブレード上に保持する装置である。取付装置300は、ブレードに取り付く装置である。ロープは、取付装置300に固定されており、取付装置300がブレードに取り付くことにより、ロープは、取付装置300を介してブレード上に固定されることになる。移動装置400は、取付装置300およびロープ保持装置200をデッキからブレードまで移動させる装置である。移動装置400は、ドローン等の飛行可能な移動装置であり得るが、これに限定されない。取付装置300およびロープ保持装置200をブレードまで移動させることができる限り、任意の手段であり得る。
【0017】
図1Aおよび図1Bは、本発明のシステムを風車10のブレード11に取り付ける前の初期段階の様子を示す。図1Bは、図1Aの右側面図を示している。
【0018】
ブレード11のメンテナンスは、ブレード11が鉛直方向下向きに延びるようにブレード11を位置付けた状態で行われる。これは、作業員がブレード上に張られたロープを伝ってブレード上を移動してメンテナンスを行う従来の方法におけるブレードの状態と同じ状態であるため、既存の作業現場にも受け入れられやすい。ブレード11は、鉛直方向下向きに延びるように位置付けられると、図1Bに示されるように、リーディングエッジが垂直に対して傾斜する。傾斜角度は、約5度(場合によっては、約1度~約10度)であり得る。図1B図1Rでは、誇張して描写されている。
【0019】
本発明のシステムを風車10のブレード11に取り付ける前の準備段階において、システムの各要素がデッキ16上に準備される。図1Bに示される例では、ロープ保持装置200と、取付装置300とがデッキ16上に準備され、ロープ保持装置200が結合された取付装置300に移動装置400が結合された様子が示されている。図1Bでは、メンテナンス装置100は省略されているが、メンテナンス装置100もデッキ16上に準備され得る。
【0020】
ここで、ロープ保持装置200は、ロープ保持装置200が取付装置300から分離可能である限り、任意の手段で取付装置300に結合されることができる。ロープ保持装置200は、例えば、機械的な力によって取付装置300に結合されてもよいし、磁力よって取付装置300に結合されてもよいし、電気力によって取付装置300に結合されてもよいし、圧力または吸引力によって取付装置300に結合されてもよい。
【0021】
また、移動装置400は、移動装置400が取付装置300から離可能である限り、任意の手段で取付装置300に結合されることができる。移動装置400は、例えば、機械的な力によって取付装置300に結合されてもよいし、磁力よって取付装置300に結合されてもよいし、電気力によって取付装置300に結合されてもよいし、圧力または吸引力によって取付装置300に結合されてもよい。
【0022】
取付装置300およびロープ保持装置200において、後述する少なくとも1本のロープの一部を固定する段階で使用され得る少なくとも1本のテグスが内部を通過し得る。テグスは、例えば、取付装置300上のアイボルトを通過しかつそれに巻き付いて延在することによって、取付装置300に取り外し可能に固定され得る。取付装置300およびロープ保持装置200を通過したテグスの両端は、デッキ16上に、例えば、作業員によって保持される。すなわち、少なくとも1本のテグスは、デッキ16上の一端から取付装置300およびロープ保持装置200を通過してデッキ16上の他端まで延在することになる。
【0023】
図1Cおよび図1Dは、取付装置300を風車10のブレード11に取り付ける取付段階の様子を示す。
【0024】
図1Cでは、移動装置400が、ロープ保持装置200と共に取付装置300を運ぶ様子が示されている。取付装置300は、ブレード11に取付装置300を取り付けるための取付機構310を備えている。
【0025】
取付機構310は、取付装置300がブレード11に取り付くことを可能にする限り、任意の機構であり得る。例えば、取付機構310は、機械的な力によってブレード11に取付装置300を取り付ける機構であってもよいし、磁力よってブレード11に取付装置300を取り付ける機構であってもよいし、電気力によってブレード11に取付装置300を取り付ける機構であってもよいし、圧力または吸引力によってブレード11に取付装置300を取り付ける機構であってもよい。好ましくは、取付機構310は、機械的な力によってブレード11に取付装置300を取り付ける機構であり得る。
【0026】
一例において、取付機構310は、締め付け可能なバンドまたはベルトであり得る。
【0027】
図3は、本例における取付装置300の構成を概略的に示す。取付装置300は、取付機構310と、本体320とを備える。バンドまたはベルトである取付機構310は、本体320に固定された第1の端部311と、本体320に巻き取り可能に結合された第2の端部312とを有し、これにより、本体320と取付機構310とによって、空間313を形成している。
【0028】
例えば、ブレード11が空間313を通過した状態で、取付機構310の第2の端部312を巻き取ることにより、取付機構310でブレード11を締め付けることができる。ここで、第2の端部312を巻き取るための機構は問わない。取付装置300は、任意の機構を用いて、第2の端部312を巻き取ることができる。例えば、取付装置300は、第2の端部312が固定されたプーリーまたはローラを回転させることにより、第2の端部312を巻き取ることができる。このとき、プーリーまたはローラは、取付装置300の本体320内に内蔵されていてもよいし、本体320に外付けされていてもよい。
【0029】
上述した例では、第1の端部311が本体320に固定され、第2の端部312が巻き取り可能であることを説明したが、取付機構310の態様はこれに限定されない。例えば、第1の端部311および第2の端部312の両方が巻き取り可能であってもよい。例えば、バンドまたはベルトが伸縮自在であることにより、空間313を通過するブレード11を締め付けるようにしてもよい。
【0030】
再び図1Cおよび図1Dを参照すると、取付装置300は、ロープ保持装置200と共に、移動装置400によって風車10上の所定の位置まで移動させられる。所定の位置まで移動させられると、図1Dに示されるように、取付装置300は、所定の位置に取り付けられる。
【0031】
本例では、所定の位置は、風車10のブレード11の根元のくびれた部分である。所定の位置がメンテナンス対象のブレード上であることは、例えば後述する図1G等に示されるように取付装置300からロープを延ばしたときに、ブレード11の表面近くにロープを位置付けることができるため、好ましい。また、所定の位置がブレードのくびれた部分であることは、くびれた部分に隣接する膨らんだ部分によって取付装置300をずれないように取り付けることが可能であるため、好ましい。また、所定の位置がブレードの根元であることは、例えば後述する図1G等に示されるように取付装置300からロープを延ばしたときに、ブレード11全体に及ぶようにロープを延ばすことができるため、好ましい。
【0032】
取付装置300は、取付機構310を用いて、所定の位置に取り付けられることができる。例えば、取付装置300は、上述した締め付け可能なバンドまたはベルトでブレード11を締め付けることにより、ブレード11上の所定の位置に取り付けられることができる。
【0033】
ロープ保持装置200は、取付装置300と共に移動させられるため、取付装置300がブレード11の所定の位置に取り付けられると、ロープ保持装置200もブレード上の所定の位置に位置付けられることになる。
【0034】
図1Eは、取付装置300に少なくとも1本のロープ20の一部を固定する段階の様子を示す。なお、本例では、取付装置300をブレード11の所定の位置に取り付けた後に取付装置300に少なくとも1本のロープ20の一部を固定することを説明するが、取付装置300に少なくとも1本のロープ20の一部を固定するタイミングはこれに限定されない。例えば、取付装置300に少なくとも1本のロープ20の一部を固定した後に、図1B図1Dのように、取付装置300をブレード11の所定の位置に取り付けるようにしてもよい。この場合、上述した少なくとも1本のテグスは省略され得る。
【0035】
例えば、ブレード11上の取付装置300およびロープ保持装置200からデッキ16に延びるテグスの第1の端に1本のロープ20を取り付け、テグスの第2の端を引っ張ることで、そのロープ20が、テグスの代わりにブレード11上の取付装置300およびロープ保持装置200を通過することになる。テグスの第1の端がデッキ16に戻るように、テグスの第2の端をさらに引っ張ることで、デッキ16上にロープ20の両端が揃うことになる。これにより、取付装置300から2本のロープ部分(1本のロープの第1の部分と第2の部分)がデッキ16まで延びることになる。以下では、2本のロープ部分20がデッキ16まで延びることを例に説明する。もちろん、本発明は2本のロープ部分を利用することに限定されず、1本のロープまたは2以上のロープ部分が利用され得ることが理解される。
【0036】
少なくとも1本のロープ20は、例えば、テグスと同様に、取付装置300上のアイボルトを通過することにより、少なくとも1本のロープの一部が取付装置300に固定されることになる。ここで、「固定」とは、一方が他方に対して動かないことをいい、少なくとも1本のロープの一部が取付装置300に固定されることは、少なくとも1本のロープの一部が取付装置300に対して動かないことをいう。「固定」は、永続的な固定のみならず、一時的な固定も含む。例えば、少なくとも1本のロープは、取付装置300の第1の側のアイボルトを通過しかつそれに巻き付き、第2の側のアイボルトを通過しかつそれに巻き付いて、延在することにより、第1の側のアイボルトと第2の側のアイボルトとの間に延在するロープの部分は、取付装置300に固定されることになる。少なくとも1本のロープの一部を取付装置300に固定する態様はこれに限定されず、任意の態様で、少なくとも1本のロープの一部を取付装置300に固定することができる。
【0037】
例えば、ロープよりも軽いテグスを取付装置300に通した状態で取付装置300をブレード11の所定の位置に取り付けた後に、テグスとロープとを交換することで少なくとも1本のロープを取付装置300に固定することは、移動装置400によって運ばれる重量を軽くすることができる点で、取付装置300に少なくとも1本のロープの一部を固定した後に、図1B図1Dのように、取付装置300をブレード11の所定の位置に取り付けることよりも有利である。
【0038】
図4は、図1Eで一点鎖線の円形で囲まれた部分の詳細を示す。図4は、ロープ保持装置200が結合された取付装置300が、ブレード11のリーディングエッジL.E上でブレード11のくびれた部分に取り付けられている様子を示す。図4(a)は、リーディングエッジL.Eを上から見た図であり、図4(b)は、リーディングエッジL.Eを横から見た図である。便宜上、図4(a)におけるL.Eの右側を第1の側と呼び、L.Eの左側を第2の側と呼ぶ。
【0039】
取付装置300は、取付機構310を介してブレード11のくびれた部分に取り付けられている。取付機構310は、締め付け可能なバンドであり、第1の端部311および第2の端部312において本体320に固定されている。
【0040】
取付装置300は、ロープ固定手段321を備える。ロープ固定手段321は、複数のアイボルトとして示されているが、これに限定されない。ロープ固定手段321は、取付装置300に少なくとも1本のロープの一部を固定することができる限り、任意の手段であり得る。複数のアイボルト321は、取付装置300の第1の側および第2の側の両方に配置されている。
【0041】
ロープ保持装置200は、移動手段210を備える。移動手段210は、車輪として示されているが、これに限定されない。移動手段210は、ロープ保持装置200がブレード上を移動することを可能にする限り、任意の手段であり得る。車輪は、非駆動車輪であってもよいし、動力源によって駆動される駆動車輪であってもよい。例えば、ロープ保持装置200は、ウインチと非駆動車輪とを利用してブレード11上を移動するようにしてもよいし、ウインチ(およびロープ)を利用することなく、駆動車輪を利用してブレード11上を移動するようにしてもよい。ウインチを用いてブレード上を移動する場合、ウインチ(図示せず)は、ロープ保持装置200が備えていてもよいし、ロープ保持装置200の外部(例えば、取付装置300またはデッキ16)に備えられていてもよい。ウインチを利用してロープ保持装置200を移動させる場合、例えば、ロープ20とは別個の移動用ロープまたはワイヤを利用することができる。移動用ロープまたはワイヤは、例えば、取付装置300からロープ保持装置200に延在してもよいし、デッキ16から取付装置300を介してロープ保持装置200に延在してもよい。ウインチは、電動ウインチであってもよいし、デッキ16上の作業員が操作する手動ウインチであってもよい。
【0042】
ロープ保持装置200は、ロープ接続手段220を備える。ロープ接続手段220は、ロープに係合する係合部221と、ロープをガイドするガイド部222とを備え得る。
【0043】
係合部221は、例えば、駆動部によって駆動される係合ローラであり得る。係合ローラにロープが巻き付けられた状態で、駆動部により係合ローラを駆動することにより、ロープを前方または後方に送り出す力をロープに働かせることができる。これにより、ロープ保持装置200は、ロープに沿って移動することができる。係合部221は、同様の機能を達成することができる限り、他の任意の機構によって実装されることができる。
【0044】
ガイド部222は、ロープを係合部221へガイドする任意の機構である。ガイド部222は、例えば、ガイドローラであり得る。
【0045】
移動手段210およびロープ接続手段220は、取付装置300の第1の側および第2の側の両方に配置されている。
【0046】
ロープ20は、ロープ保持装置200の第1の側からロープ保持装置200に進入し、第1のガイド部222を経て係合部221に巻き付き、第2のガイド部222を経てロープ保持装置200から退出している。そして、ロープ20は、取付装置300の第1の側から取付装置300に進入し、第1のアイボルト321に巻き付き、取付装置300の第2の側の第2のアイボルト321まで延在し、第2のアイボルトに巻き付き、取付装置300から退出している。そして、ロープ20は、ロープ保持装置200の第2の側から侵入し、第2のガイド部222を経て係合部221に巻き付き、第1のガイド部222を経てロープ保持装置200から退出している。このようにして、ロープ20は、複数のアイボルト321によってその一部が固定され、ロープ保持装置200は、取付装置300から延びるロープ20を受け取ることになる。図4において、ロープ保持装置200および取付装置300の内部を通過するロープの部分は破線で描写されている。
【0047】
図1Fは、デッキ16上で、2本のロープ部分20をメンテナンス装置100に接続する段階の様子を示す。
【0048】
メンテナンス装置100は、メンテナンス装置100をロープ部分20に沿って移動させるための移動手段を備えている。移動手段は、例えば、ウインチである。メンテナンス装置100は、例えば2つのウインチを備え、2つのウインチの一方に1本のロープ部分が接続され、2つのウインチの他方にもう1本のロープ部分が接続される。メンテナンス装置100は、ウインチを用いてロープ部分20を巻き取ることによって、ロープ部分20を伝って上昇することができる。
【0049】
あるいは、メンテナンス装置100をロープ部分20に沿って移動させるための移動手段は、メンテナンス装置100の外部に備えられることができる。例えば、取付装置300がウインチ等の移動手段を備えることができ、取付装置300がウインチを用いてロープ部分20を巻き取ることによって、メンテナンス装置100はロープ部分20に沿って移動することができる。
【0050】
図1Gは、ロープ保持装置200を風車のブレード11上の任意の位置に配置する段階の様子を示す。
【0051】
ロープ保持装置200には、取付装置300から2本のロープ部分20が延びており、ロープ保持装置200は、これらのロープ部分20を受け取ることができる。2本のロープ部分20は、ロープ保持装置200を通過し、デッキ16上のメンテナンス装置100まで延びている。ロープ保持装置200は、ロープ保持装置200を通過するロープ部分20に係合することにより、ロープ部分20を保持することができる。
【0052】
一例では、デッキ16に備えられたウインチを利用して、ロープ保持装置200にブレード11上を移動させることが好ましい。ロープ保持装置200の機構を簡略化しかつ重量を軽量化することができるからである。これにより、移動装置400によるロープ保持装置200の移動を容易にすることができる。また、移動装置400として大型のものを利用する必要がなくなる。
【0053】
別の例では、電動ウインチを利用して、または、ウインチ(およびロープ)を利用することなく駆動車輪を利用して、ブレード11上を移動させることが好ましい。デッキ16上で作業員が手動ウインチを操作する必要がなくなり、人手を少なくすることができるからである。また、安全でない場所(例えば、洋上)で作業員が作業を行う必要性も低減することができる。
【0054】
ロープ保持装置200がブレード11上を移動し、ブレード11上の位置に留まることにより、ロープ部分20をその位置に保持することができる。
【0055】
例えば、ロープ保持装置200は、2本のロープ部分20が、ブレード11をリーディングエッジで二分したときの両側に位置するように、ロープ部分20をブレード11上に保持することができる。すなわち、第1のロープ部分20がブレード上の第1の側に位置し、第2のロープ20がブレード上のリーディングエッジを挟んで反対側第2の側に位置するように、ロープ保持装置200は、ロープ部分20をブレード11上に保持することができる。れにより、2本のロープ部分は、ブレード11の両側から延びることになる。
【0056】
このとき、例えば、ロープ保持装置200がブレード11の先端に位置すると、2本のロープ部分20のそれぞれは、風車のくびれ部分から先端まで延びることで有意な長さを有しており、従って、その重量も有意なものである。ロープ保持装置200は、軽量化されることで、それぞれのロープ部分よりも軽量であり得る。従って、ブレード11のリーディングエッジを挟んで両側に位置する2本のロープ部分20の重量と、ロープ保持装置200とブレード11との間の摩擦とにより、ロープ保持装置200は、ブレード11上に安定して配置されることができる。
【0057】
ロープ保持装置200が風車のブレード11上の適所(例えば、ブレードの先端)まで移動すると、メンテナンス装置100をブレード11まで移動させることになる。
【0058】
図1Hは、メンテナンス装置100を風車10のブレード11上に移動させる段階の様子を示す。
【0059】
メンテナンス装置100は、ブレード11上に配置されているロープ保持装置200から延在する2本のロープ部分20を伝ってブレード11まで移動することができる。上述したように、メンテナンス装置100は、例えば、メンテナンス装置100が備えるウインチ等の移動手段を用いて、2本のロープ部分20を伝ってブレード11まで移動するようにしてもよいし、メンテナンス装置100の外部に備えられているウインチ等の移動手段を利用して、2本のロープ部分20を伝ってブレード11まで移動するようにしてもよい。
【0060】
ロープ保持装置200は、ブレード11まで移動しているメンテナンス装置100の空間位置と、ロープ保持装置200のブレード11上での位置とが連動するように、ブレード11上を移動することができる。これにより、ブレード11上に2本のロープ部分20を保持する位置を、メンテナンス装置100の空間位置と連動させることができる。例えば、ロープ保持装置200は、ロープ保持装置200のブレード上の位置が、メンテナンス装置100の略真上に来るように、ブレード上を移動して、ブレード11上に2本のロープ部分20を保持する位置を変更することができる。これにより、ロープ部分20は、ブレード11上に配置されているロープ保持装置200からメンテナンス装置100まで垂直に延在することになり、メンテナンス装置100は、その姿勢または空間位置を制御される必要なく、あるいは、左右に振られることなく、ブレード11まで上昇することができる。また、ロープ保持装置200が2本のロープ部分を近接して保持することで、メンテナンス装置100が上昇するロープ部分も近接することになる。これにより、メンテナンス装置100は、2本のロープ部分20を上昇のために有効に活用することができる。例えば、2本またはそれより多くのロープ部分を伝って上昇することにより、1本のロープを伝って上昇する場合に比べて、安全かつ安定して上昇することができる。
【0061】
メンテナンス装置100がロープ20を伝って上昇することにより、図1Iに示されるように、ブレード11上に到達する。これにより、メンテナンス装置100をブレード11上に配置することができる。
【0062】
ブレード11上に到達したメンテナンス装置100は、任意の機構によって、ブレード11に取り付くことができる。メンテナンス装置100は、例えば、機械的な力によってブレード11に取り付くようにしてもよいし、磁力によってブレード11に取り付くようにしてもよいし、電気力によってブレード11に取り付くようにしてもよいし、圧力によってブレード11に取り付くようにしてもよい。機械的な力によってブレード11に取り付くための機構は、例えば、ブレード11を挟持するように付勢される一対のフレームであり得る。圧力によってブレード11に取り付くための機構は、例えば、負圧を発生させてブレード11に吸い付くための機構であり得る。
【0063】
メンテナンス装置100がブレード11に到達すると、風車のブレード11のメンテナンスが行われる。
【0064】
図1Jは、メンテナンス装置100がロープ部分20を伝ってブレード11のリーディングエッジ上を移動している様子を示す。メンテナンス装置100は、ロープ保持装置200と共にブレード11上を移動することができる。
【0065】
メンテナンス装置100がリーディングエッジに沿って移動するとき、メンテナンス装置100は、ブレード11に取り付いた状態を維持することができる。これにより、メンテナンス装置100は、浮き上がることなく、ブレード11のリーディングエッジ上を移動することができる。また、上述したように、ブレード11のリーディングエッジが垂直に対して約5度傾斜(場合によっては、約1度~約10度傾斜)しているため、メンテナンス装置100に働く重力は、メンテナンス装置100をブレード11のリーディングエッジに押し付けるように作用し、メンテナンス装置100の浮き上がりを阻止する。
【0066】
メンテナンス装置100は、ブレード11のリーディングエッジ上を移動しながら、ブレード11のメンテナンスを行う。例えば、メンテナンス装置100は、ブレード11のリーディングエッジ上を移動しながら、カメラを用いてリーディングエッジの表面を撮像する。例えば、メンテナンス装置100は、ブレード11のリーディングエッジ上を移動しながら、プローブを用いて受雷部(レセプタ)の導通を検査する。例えば、メンテナンス装置100は、ブレード11のリーディングエッジ上を移動しながら、プローブを用いて受雷部(レセプタ)に電波またはパルス信号を流し、ダウンコンダクタの断線または断線箇所を検査する。例えば、メンテナンス装置100は、ブレード11のリーディングエッジ上を移動しながら、洗浄装置を用いてリーディングエッジの表面を洗浄する。例えば、メンテナンス装置100は、ブレード11のリーディングエッジ上を移動しながら、サンダーを用いてリーディングエッジの表面を研磨する。例えば、メンテナンス装置100は、ブレード11のリーディングエッジ上を移動しながら、塗料塗布装置を用いてリーディングエッジの表面に塗料を塗布する。例えば、メンテナンス装置100は、ブレード11のリーディングエッジ上を移動しながら、電動ガンを用いてリーディングエッジの表面にパテ、接着剤、シーラント等の材料を塗布する。塗布された材料によってブレード11にあいた穴を埋めることができる。穴を埋めることは、穴をふさいでブレード11内に水が入らないようにすること等を目的とし、美観や完成度を要求しなくてもよい。
【0067】
メンテナンス装置100は、ウインチによる巻き取りおよび繰り出しを制御することにより、ブレード11のリーディングエッジ上をロープ20が延びる方向に、例えば、ブレードの先端からブレードの付根に向かう方向およびブレードの付根からブレードの先端に向かう方向に移動することができる。これにより、メンテナンス装置100は、ブレード11のリーディングエッジ上を往復移動しながら、メンテナンスを行うことができる。また、万が一メンテナンス装置100がブレード11から外れてしまっても、メンテナンス装置100のウインチが接続しているロープ20が命綱となり、メンテナンス装置100の転落を防止することができる。
【0068】
図1Kは、ロープ保持装置200が、ロープ部分20を伝ってブレード11のリーディングエッジ上を移動している様子を示す。
【0069】
ロープ保持装置200がリーディングエッジに沿って移動するとき、ロープ保持装置200は、ブレード11に取り付いた状態を維持することができる。これにより、ロープ保持装置200は、浮き上がることなく、ブレード11のリーディングエッジ上を移動することができる。また、上述したように、ブレード11のリーディングエッジが垂直に対して約5度傾斜(場合によっては、約1度~約10度傾斜)しているため、ロープ保持装置200に働く重力は、ロープ保持装置200をブレード11のリーディングエッジに押し付けるように作用し、メンテナンス装置100の浮き上がりを阻止する。
【0070】
ロープ保持装置200は、ブレード11のリーディングエッジ上を移動しながら、メンテナンス装置100と協働して、ブレード11のメンテナンスを行う。例えば、ロープ保持装置200は、ブレード11のリーディングエッジ上を移動しながら、カメラを用いてリーディングエッジの表面を撮像する。例えば、ロープ保持装置200は、ブレード11のリーディングエッジ上を移動しながら、メンテナンス装置100が送信する電波がブレード11中のダウンコンダクタを伝播するときの電波に応じた信号を検出することにより、ダウンコンダクタの断線または断線箇所を検査する。例えば、メンテナンス装置100は、ブレード11のリーディングエッジ上を移動しながら、ブレード11中のダウンコンダクタに略平行に基準導線を配置する。これにより、メンテナンス装置100が、ダウンコンダクタの断線または断線箇所を検査することを可能にする。
【0071】
ロープ保持装置200は、ウインチによる巻き取りおよび繰り出しを制御することにより、ブレード11のリーディングエッジ上をロープ20が延びる方向に、例えば、ブレードの先端からブレードの付根に向かう方向およびブレードの付根からブレードの先端に向かう方向に移動することができる。これにより、ロープ保持装置200は、ブレード11のリーディングエッジ上を往復移動しながら、メンテナンスを行うことができる。また、万が一ロープ保持装置200がブレード11から外れてしまっても、ロープ保持装置200が接続しているロープ20が命綱となり、ロープ保持装置200の転落を防止することができる。
【0072】
このようにして、メンテナンス装置100とロープ保持装置200とが協働することで、風車10のブレード11のメンテナンスが行われる。メンテナンスが完了すると、本発明のシステムは風車10のブレード11から回収されることになる。
【0073】
図1L図1Rは、本発明のシステムを風車10のブレード11から回収する段階の様子を示す。図1L図1Nは、メンテナンス装置100をブレード11から移動させる段階の様子を示し、図1O図1Rは、ロープ保持装置200および取付装置300をブレード11から移動させる段階の様子を示している。
【0074】
図1Lに示されるように、ロープ保持装置200がブレード11上の適所(例えば、ブレードの先端)まで移動すると、メンテナンス装置100をブレード11上から移動させることになる。メンテナンス装置100は、ロープ保持装置200によって保持されたロープ部分20を伝って下降することができる。メンテナンス装置100は、ロープ保持装置200から垂直方向下方に位置し得る。
【0075】
図1L図1Nに示されるように、ロープ保持装置200は、ブレード11から移動しているメンテナンス装置100の空間位置と、ロープ保持装置200のブレード11上での位置とが連動するように、ブレード11上を移動することができる。これにより、ブレード11上に2本のロープ部分20を保持する位置を、メンテナンス装置100の空間位置と連動させることができる。例えば、ロープ保持装置200がブレード11上を根元に向かう方向(図1Lおよび図1Mの紙面右斜め上方向)へ移動すると、メンテナンス装置100の位置がロープ保持装置200の略真下に来るように、メンテナンス装置100も図1Lおよび図1Mの紙面右方向に移動する。これにより、ブレード11上に配置されているロープ保持装置200とメンテナンス装置100との垂直方向の整列を維持することができ、メンテナンス装置100は、その姿勢または空間位置を制御される必要なく、あるいは、左右に振られることなく、ブレード11から下降することができる。また、ロープ保持装置200が2本のロープ部分を近接して保持することで、メンテナンス装置100が下降するロープ部分も近接することになる。これにより、メンテナンス装置100は、2本のロープ部分20を下降のために有効に活用することができる。例えば、2本またはそれより多くのロープ部分を伝って下降することにより、1本のロープを伝って下降する場合に比べて、安全かつ安定して上昇することができる。
【0076】
ロープ保持装置200のブレード11上での位置を制御しつつ、メンテナンス装置100を下降させることにより、図1Nに示されるように、メンテナンス装置100は、デッキ16に到達する。メンテナンス装置100がデッキ16に到達すると、メンテナンス装置100からロープ部分20が取り外される。さらに、ロープ保持装置200および取付装置300からもロープ部分20が取り外される。ロープ保持装置200および取付装置300からロープ部分20を取り外す態様は問わない。例えば、上述したテグスとロープとの交換と同じやり方で、ロープ部分20とテグスとを交換することにより、ロープ保持装置200および取付装置300からロープ部分20を取り外す(代わりに、テグスをロープ保持装置200および取付装置300に接続する)ようにしてもよい。あるいは、例えば、ロープ保持装置200および取付装置300を任意の機構で結合したうえで、(メンテナンス装置100に接続されていた)ロープ部分20の一方の端を引っ張ることで、(メンテナンス装置100に接続されていた)ロープ部分20の他方の端がロープ保持装置200および取付装置300を通過して外れる。
【0077】
次いで、図1Oに示されるように、移動装置400が取付装置300に結合される。移動装置400は、任意の手段で取付装置300に結合されることができる。移動装置400は、例えば、機械的な力によって取付装置300に結合されてもよいし、磁力よって取付装置300に結合されてもよいし、電気力によって取付装置300に結合されてもよいし、圧力または吸引力によって取付装置300に結合されてもよい。移動装置400は、取付装置300およびロープ保持装置200をブレード上からデッキまで移動させる装置である。移動装置400は、ドローン等の飛行可能な移動装置であり得るが、これに限定されない。取付装置300およびロープ保持装置200をブレード上から移動させることができる限り、任意の手段であり得る。移動装置400は、取付装置300およびロープ保持装置200をブレードまで移動させるときに用いられた移動装置と同じ装置であってもよいし、異なる装置であってもよい。好ましくは、同じ装置である。同じ装置を使うことで、追加コストの発生を抑制することができるからである。
【0078】
次に、図1Pに示されるように、取付機構310によるブレード11への取付が解除される。例えば、締め付け可能なバンドまたはベルトである取付機構310の締め付けを解除することによって、取付機構310によるブレード11への取付が解除される。例えば、取付装置300は、第2の端部312が固定されたプーリーまたはローラを回転させることにより、第2の端部312を繰り出すことで、取付機構310の締め付けを解除することができる。あるいは、例えば、取付装置300は、第1の端部311または第2の端部312を本体320から分離することにより、取付機構310の締め付けを解除することができる。取付装置300は、任意の機構により、第1の端部311または第2の端部312を本体320から分離することができる。
【0079】
次いで、図1Qおよび図1Rに示されるように、取付装置300は、ロープ保持装置200と共に、移動装置400によって、ブレード11上の所定の位置から移動させられる。そして、取付装置300は、ロープ保持装置200と共に、デッキ16に移動させられる。
【0080】
このようにして、メンテナンス装置100ならびにロープ保持装置200および取付装置300が風車10のブレード11から回収される。メンテナンス装置100ならびにロープ保持装置200および取付装置300が風車10のブレード11から回収された後、次のメンテナンス対象のブレード12または13が鉛直方向下向きに延びるように位置付けられるように、ブレード11、12、13が回転させられる。そして、次のメンテナンス対象のブレード12または13が鉛直方向下向きに延びるように位置付けられた状態で、図1B図1Rと同様の手順でそのブレードのメンテナンスが行われる。これは、メンテナンス対象のブレードすべてのメンテナンスが完了するまでくりかえされることができる。
【0081】
本発明のシステムを用いることで、洋上の風車10等の十分な足場がない風車であっても、ブレードのメンテナンスを安全かつ簡単に行うことができる。例えば、取付装置300によってロープを風車に設置することができるため、作業員によるロープの取付の必要がない。
【0082】
なお、本例では、取付装置300をブレード11の所定の位置から移動させる前に取付装置300からロープ20を取り外すことを説明したが、取付装置300からロープ20を取り外すタイミングはこれに限定されない。例えば、図1O図1Rに示されるように、取付装置300をブレード11の所定の位置からデッキ16に移動させた後に、取付装置300からロープ20を取り外すようにしてもよい。しかしながら、好ましくは、取付装置300をブレード11の所定の位置から移動させる前に取付装置300からロープ20を取り外すことである。取付装置300からロープ20を取り外すことで、移動装置400により運ばれる重量を軽くすることができ、移動装置400として大型のものを利用する必要がなくなるからである。これは、簡単なメンテナンスにつながり得る。
【0083】
上述した例では、取付装置300をブレード11上の所定の位置に移動させて、取付装置300を所定の位置に取り付けることを説明したが、取付装置300は、風車10上の任意の位置に移動させられて、任意の位置に取り付けられることができる。例えば、図2に示されるように、取付装置は、風車10のタワー17上の所定の位置に取り付けられることができる。
【0084】
図2は、代替実施形態における取付装置300’を用いて、ロープを風車10のタワー17上の所定の位置に取り付ける例を示す。図2は、一例として、図1Gと同様のロープ保持装置200を風車のブレード11上の任意の位置に配置する段階の様子を示す。
【0085】
本例では、移動装置400は、取付装置300’タワー17上の所定の位置まで移動させることができ、これとは別に、移動装置400が、ロープ保持装置200をブレード11上の任意の位置に移動させることができる。これにより、取付装置300から延びる少なくとも1本のロープが、ロープ保持装置200によってブレード上に保持される。
【0086】
取付装置300’は、風車10のタワー17上の所定の位置に、任意の手段で取り付けられることができる。例えば、取付装置300’は、機械的な力によって取り付けられてもよいし、磁力よって取り付けられてもよいし、電気力によって取り付けられてもよいし、圧力または吸引力によって取り付けられてもよい。
【0087】
ロープ保持装置200によって少なくとも1本のロープがブレード11上の任意の位置に保持されると、図1H図1Kと同様に、ブレード11のメンテナンスが行われる。
【0088】
メンテナンスが行われた後、取付装置300とロープ保持装置200とは、別個に回収されることになる。
【0089】
図1A図1Rを参照して説明した手順は、図2を参照して説明した代替実施形態の手順よりも、少なくとも以下の点で有利である。
【0090】
第一に、図1A図1Rを参照して説明した手順では、ロープ保持装置200および取付装置300の両方を、1ステップで風車10のブレード11上の位置まで移動させることができ、ロープ保持装置200および取付装置300のブレード11上への迅速な位置づけに貢献することができる。例えば、本発明の発明者の経験上、作業員が風車のナセル上にロープを取り付ける作業は、少なくとも1時間はかかっており、風車が洋上の風車である場合には、さらに多くの時間がかかっていた。これに対して、本発明の発明者は、飛行可能な装置である移動装置400によって保持装置200および取付装置300の両方を風車のブレードの位置まで移動させて、取付装置300をその位置に取り付けることによって、ロープを取り付ける作業を、ごく短時間で(例えば、約5分程度で)完了することができることを見出した。
【0091】
第二に、図1A図1Rを参照して説明した手順では、飛行可能な装置である移動装置400を用いるため、洋上の風車等の十分な足場がない場所であったとしても、十分な足場がある場所と同様に、ロープを取り付ける作業を、ごく短時間で完了することができる。さらには、ロープを人の手によって取り付ける必要がないため、洋上の風車等の十分な足場がない場所であっても、安全に風車のメンテナンスを行うことができる。
【0092】
第三に、図1A図1Rを参照して説明した手順では、取付装置300をブレード上に載せると、ロープ保持装置200も付随してブレード上に載ることになるため、ロープ保持装置200単体をブレードにアプローチさせる必要がない。特に、比較的に小型のロープ保持装置200をブレードにアプローチさせることは熟練の技術を伴い、困難であるところ、図1A図1Rを参照して説明した手順では、そのような熟練の技術を必要とせず、かつ、ロープ保持装置200がブレードへのアプローチ中にブレードに接触して破損するリスクも最小限である。
【0093】
第四に、図1A図1Rを参照して説明した手順では、ロープ保持装置200および取付装置300の両方を、1ステップで風車10のブレード11から回収することもでき、メンテナンスの作業時間を低減することができる。
【0094】
上述した例では、1つのメンテナンス装置100を用いて風車のブレードのメンテナンスを行うことを説明したが、複数のメンテナンス装置100を用いて風車のブレードのメンテナンスを行うことも可能である。
【0095】
上述した例では、1つのロープ保持装置200を用いることを説明したが、ロープ保持装置200の数は、1以上の任意の数であり得る。例えば、2つのロープ保持装置200、3つのロープ保持装置200、または、4つ以上のロープ保持装置200を用いることができる。さらに、上述した例では、2本のロープ部分20を用いることを説明したが、本発明は、これに限定されない。本発明では、少なくとも1本のロープを用いて風車のブレードのメンテナンスを行うことができる。
【0096】
図1A図1R図2を参照して説明したメンテナンス方法では、メンテナンス装置100をブレード11上に容易に配置することができる。メンテナンス装置100は、ロープ保持装置200によって保持されたロープを辿るだけでブレード11まで到達し、ブレード11上にランディングすることができる。このとき、ブレード11上にランディングする際に、メンテナンス装置100の姿勢を細かく制御する必要がない。メンテナンス装置100は、ロープ保持装置200によって保持されたロープによって、ブレード11上の適切なランディング位置にガイドされることができるからである。これにより、メンテナンス装置100が有するべきランディングのための機構を簡略化または省略することができる。また、ランディングが簡単であることから、ランディングの際の人手を少なくすることができる。さらに、ランディングの際に姿勢を細かく制御する必要がないことから、メンテナンス装置の重量を重くしたとしてもランディングの難易度への影響が小さい。従って。メンテナンス装置に多くの機能を搭載して一度に多くのメンテナンスを行わせるようにすることができる。これは、メンテナンスの効率化につながる。
【0097】
2.風車のブレードのメンテナンスを行うためのシステムの構成
本発明の風車のブレードのメンテナンスを行うためのシステムは、メンテナンス装置100と、ロープ保持装置200と、取付装置300とを備える。システムは、任意の数のメンテナンス装置100、任意の数のロープ保持装置200、および、任意の数の取付装置300を備えることができる。システムは、移動手段400も備えることができる。
【0098】
メンテナンス装置100は、風車のブレードのメンテナンスを行い、かつ、ロープ上をブレードまで移動し、かつ、ブレード上を移動するように構成されている限り、任意の構成を有することができる。
【0099】
メンテナンス装置100は、メンテナンスを行うための任意の手段を備えることができる。メンテナンスを行うための手段は、例えば、撮像手段と、導通検査手段と、断線検査手段と、洗浄手段と、研磨手段と、研削手段と、塗布手段とのうちの少なくとも1つを備えることができる。
【0100】
撮像手段は、物体の静止画または動画を撮像することが可能な任意のカメラであり得る。
【0101】
導通検査手段は、物体表面上の電導部に電流が流れるか検査することが可能な任意の手段であり得る。例えば、導通検査手段は、風車のブレードに設けられている受雷部に電流が流れるかを検査することが可能なプローブを備える。
【0102】
断線検査手段は、物体内部に延在する導線(例えば、風車のブレードのダウンコンダクタ)が断線しているか否か、または、断線個所がどこかを検査することが可能な任意の手段であり得る。例えば、断線検査手段は、ダウンコンダクタのレセプタにパルス信号を送信し、その反射波形を検出することが可能な送受信器を備える。例えば、断線検査手段は、ダウンコンダクタのレセプタに電波を流すことが可能なプローブを備える。このとき、実際に電波を発生させる送信器は、メンテナンス装置100が備えてもよいし、メンテナンス装置100の外部(例えば、風車のデッキ)に備えられていてもよい。また、断線検査手段を介して流された電波に応答した信号を検出する検出器を、ロープ保持装置200が備えることができる。
【0103】
洗浄手段は、物体を洗浄することが可能な任意の手段であり得る。例えば、洗浄手段は、洗浄液およびウエスを用いて汚れを払拭する機構であってもよい。このような機構を用いて、図1J示されるように風車10のブレード11上を移動しながら風車10のブレード11を洗浄する場合、ウエスをブレードに押し付けた状態でメンテナンス装置100がブレード上を移動することによって、洗浄が行われる。
【0104】
研磨手段は、物体を研磨することが可能な任意の手段であり得る。例えば、研磨手段は、サンドペーパー、グラインダ、ディスクグラインダ等を用いて研磨する機構であってもよい。サンドペーパー、グラインダ、または、ディスクグラインダを用いて、図1Jに示されるように風車10のブレード11上を移動しながら風車10のブレード11を研磨する場合、サンドペーパー、または、回転するグラインダをブレードに押し付けた状態でメンテナンス装置100がブレード上を移動することによって、研磨が行われる。
【0105】
研削手段は、物体を研削することが可能な任意の手段であり得る。例えば、研削手段は、リュータ(またはハンドグラインダもしくは精密グラインダ)、ベルトサンダー等を用いて研削する機構であってもよい。例えば、研削手段は、リュータ、または、ベルトサンダーを風車10のブレード11に押し付けることで、ブレード11の表面を研削することができる。
【0106】
塗布手段は、物体に材料を塗布することが可能な任意の手段であり得る。塗布手段が塗布する材料は、例えば、塗料、パテ、接着剤、シーラントを含む。例えば、塗布手段は、塗料を噴射可能な噴射装置であってもよい。このような噴射装置を用いて、図1Jに示されるように風車10のブレード11上を移動しながら風車10のブレード11に塗料を塗布する場合、噴射装置から塗料を噴射させた状態でメンテナンス装置100がブレード上を移動することによって、塗料の塗布が行われる。例えば、塗布手段は、パテ、接着剤、シーラント等を押出可能なコーキングガンであってもよい。このようなコーキングガンを用いて、図1Jに示されるように風車10のブレード11上を移動しながら風車10のブレード11にパテ、接着剤、シーラント等の材料を塗布する場合、材料を塗布すべき部分を撮像手段等を用いてあらかじめ識別し、メンテナンス装置100がブレード11上を移動して材料を塗布すべき部分に到達したときに材料を押出することによって、材料の塗布が行われる。
【0107】
なお、メンテナンスを行うための手段は、撮像手段、導通検査手段、断線検査手段、洗浄手段、研磨手段、研削手段、および塗布手段に限定されない。メンテナンス装置100は、上述した手段に代えて、または上述した手段に加えて、メンテナンスを行うための他の手段を備えるようにしてもよい。
【0108】
メンテナンス装置100は、例えば、通信手段を備えることができる。これにより、メンテナンス装置100の外部から信号を受信し、メンテナンス装置100の外部に信号を送信することができる。通信手段は、メンテナンス装置100の外部からの信号を無線で受信してもよいし、有線で受信してもよい。通信手段は、メンテナンス装置100の外部に信号を無線で送信してもよいし、有線で送信してもよい。通信手段は、例えば、メンテナンス装置100の各動作を制御するための信号をメンテナンス装置100の外部(例えば、操作者が使用する操作用端末)から受信することができる。通信手段は、例えば、撮像手段によって得られた画像データをメンテナンス装置100の外部に(例えば、操作者が使用する操作用端末)送信することができる。通信手段は、例えば、メンテナンス装置100の空間位置を示す信号をロープ保持装置200に送信することができる。通信手段は、例えば、ロープ保持装置200のブレード上での位置を示す信号をロープ保持装置200から受信することができる。
【0109】
なお、メンテナンス装置100の外部からの信号に従って、メンテナンス装置100の各動作が制御されることを説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、ブレードのメンテナンスを行うための一連の動作を実現するためのプログラムがメンテナンス装置100のメモリに格納されてもよく、メンテナンス装置100のプロセッサは、そのプログラムを読み出し、実行することにより、メンテナンス装置100を、ブレードのメンテナンスを自動的に行う装置として機能させることができる。
【0110】
メンテナンス装置100は、メンテナンス装置100がロープに沿って移動することを可能にする移動手段を備える。移動手段は、メンテナンス装置100がブレード上を移動することも可能にする。例えば、移動手段は、メンテナンス装置100がロープに沿って移動することを可能にするウインチを備える。例えば、移動手段は、メンテナンス装置100がブレード上を移動することを可能にする車輪を備える。車輪は、非駆動車輪であり得るが、動力源によって駆動される駆動車輪であってもよい。例えば、メンテナンス装置100は、ウインチと非駆動車輪とを用いてブレード上を移動するようにしてもよいし、ウインチ(およびロープ)を利用することなく、駆動車輪を用いてブレード上を移動するようにしてもよい。
【0111】
上述した例では、メンテナンス装置100が、メンテナンスを行うための手段と、通信手段と、メモリと、プロセッサと、移動手段とを備え得る例を説明したが、本発明は、これに限定されない。メンテナンス装置100の構成要素のうちの少なくとも1つがメンテナンス装置100の本体の外部に位置するシステムもまた本発明の範囲内である。例えば、メンテナンス装置100がウインチを備える代わりに、取付装置300がウインチを備えてもよい。この場合、取付装置300のウインチから延びるロープがメンテナンス装置100に固定され、取付装置300のウインチがロープを巻き取るまたは繰り出すことにより、メンテナンス装置100がブレード11までおよびブレード11上を移動するようにしてもよい。
【0112】
ロープ保持装置200は、取付装置300から延在する少なくとも1本のロープを受け取り、かつ、少なくとも1本のロープを風車のブレード上の任意の位置に保持し、かつ、ブレード上を移動可能なように構成されている限り、任意の構成を有することができる。
【0113】
図4を参照して上述したように、ロープ保持装置200は、移動手段210と、ロープ接続手段220とを備える。
【0114】
移動手段210は、ロープ保持装置200がブレード上を移動することを可能にする限り、任意の手段であり得る。移動手段210は、例えば、車輪または無限軌道等であってもよいし、ウインチと車輪または無限軌道との組み合わせであってもよい。
【0115】
ロープ接続手段220は、ロープ保持装置200にロープが接続することを可能にする限り任意の手段であり得る。ロープ接続手段220は、ロープに係合する係合部231と、ロープをガイドするガイド部232とを備え得る。
【0116】
係合部231は、図4に示されるように、駆動部によって駆動される係合ローラであり得る。係合ローラにロープが巻き付けられた状態で、駆動部により係合ローラを駆動することにより、ロープを前方または後方に送り出す力をロープに働かせることができる。これにより、ロープ保持装置200は、ロープに沿って移動することができる。係合部221は、同様の機能を達成することができる限り、他の任意の機構によって実装されることができる。
【0117】
ガイド部232は、ロープを係合部221へガイドする任意の機構である。ガイド部222は、例えば、ガイドローラであり得る。
【0118】
ロープ保持装置200は、例えば、制御ユニットと、通信ユニットとをさらに備え得る。
【0119】
制御ユニットは、ロープ保持装置200全体の動作を制御するように構成されている。制御ユニットは、例えば、通信ユニットによって受信された制御信号に従って、ロープ保持装置200の構成要素を制御することができる。制御ユニットは、例えば、通信ユニットによって受信された制御信号に従って、ロープ接続手段220を駆動し、接続されたロープを伝って移動することができる。制御ユニットは、例えば、通信ユニットによって受信された制御信号に従って、移動手段210を駆動し、ブレード上を移動することができる。
【0120】
制御ユニット210は、例えば、1または複数のプロセッサ等の任意の制御手段によって実装され得る。
【0121】
なお、ロープ保持装置200の外部からの信号に従って、ロープ保持装置200の各構成要素を制御することを説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、ロープ保持装置200の各構成要素の一連の動作を実現するためのプログラムが、ロープ保持装置200が備え得るメモリに格納されてもよく、制御ユニット210は、そのプログラムを読み出し、実行することにより、ロープ保持装置200を、自律的な装置として機能させることができる。
【0122】
通信ユニットは、ロープ保持装置200の外部から信号を受信することができる。これに加えて、通信ユニットは、ロープ保持装置200の外部に信号を送信するようにしてもよい。通信ユニットは、ロープ保持装置200の外部からの信号を無線で受信してもよいし、有線で受信してもよい。通信ユニットは、ロープ保持装置200の外部に信号を無線で送信してもよいし、有線で送信してもよい。通信ユニットは、例えば、ロープ保持装置200の各構成要素を制御するための制御信号をロープ保持装置200の外部(例えば、操作者が使用する操作用端末、メンテナンス装置100、または取付装置300)から受信することができる。通信ユニットは、例えば、ロープ保持装置200のブレード上での位置を示す信号をメンテナンス装置100に送信することができる。通信手段は、例えば、メンテナンス装置100の空間位置を示す信号をメンテナンス装置100から受信することができる。通信ユニットは、例えば、アンテナ等の任意の通信手段によって実装され得る。
【0123】
ロープ保持装置200は、カメラをさらに備えることができる。カメラは、物体の静止画または動画を撮像することが可能な任意のカメラであり得る。カメラによって撮像された静止画または動画は、例えば、ブレードの表面の状態を検査するために、あるいは、ロープ保持装置200のブレード上の位置を特定するために、あるいは、ロープ保持装置200に対するメンテナンス装置100の位置を特定するために利用されることができる。あるいは、カメラによって撮像された静止画または動画は、後述する検出器の表示画面を確認するために利用されることができる。
【0124】
ロープ保持装置200は、メンテナンス装置100の断線検査手段を介して送信された電波に応答した信号を検出する検出器をさらに備えることができる。検出器は、例えば、ブレードのダウンコンダクタに送信された電波に応じた信号を検出することができる。断線個所と非断線個所とでは検出される信号が異なるか、あるいは、非断線個所では信号を検出することができないことから、検出器の出力に基づいて断線の有無を検査し、または断線個所を検出することができる。検出器は、例えば、地中に埋設されたケーブルを探索することができる埋設ケーブル探索器と同様の原理を利用することで、ダウンコンダクタの断線を検出することができる。
【0125】
ロープ保持装置200は、ブレード上に配置可能な基準導線をさらに備えることができる。基準導線は、ロープ保持装置200と取付装置300との間に延在する。ロープ保持装置200が、取付装置300からブレードの先端に向かって移動することで、ロープ保持装置200は、基準導線をブレード上に配置することができる。このとき、ブレードの内部には導線が延在しており、配置された基準導線は、導線と略平行になり得る。ここで、「略平行」とは、2つの直線のなす角度が±5°となることをいう。
【0126】
このように、ロープ保持装置200は、取付装置300から延在する少なくとも1本のロープを受け取り、かつ、少なくとも1本のロープを風車のブレード上の任意の位置に保持し、かつ、ブレード上を移動するための機能を実現可能な最小限の構成を有することができる。これにより、ロープ保持装置200の重量を軽量化することができる。ロープ保持装置200は、例えば、約2kg以下の重量を有してもよいし、約1.5kg以下の重量を有してもよいし、約1kg以下の重量を有してもよい。ロープ保持装置200は、必要最低限の構成要素を搭載することにより、その重量を可能な限り軽量化することが好ましい。これにより、移動装置400による移動が容易になるからである。
【0127】
例えば、ロープ保持装置200の重量は、ブレード上に張られる少なくとも1本のロープよりも軽いことが好ましい。例えば、ブレード上に張られる少なくとも1本のロープは約5kgの重量を有するため、ロープ保持装置200は、約5kg未満の重量、例えば、約2kgの重量を有することが好ましい。
【0128】
ロープ保持装置200の重量は、メンテナンス装置100の重量よりも軽い。例えば、ロープ保持装置200の重量とメンテナンス装置100の重量との比は、約1:10、約1:20、約1:50、約1:100等であり得る。好ましくは、ロープ保持装置200の重量とメンテナンス装置100の重量との比は、約1:20~約1:50であり得る。
【0129】
例えば、ロープ保持装置200のサイズは、小型であることが好ましい。ロープ保持装置200は、例えば、約30000cm未満の体積、約25000cm未満の体積、約20000cm未満の体積、約15000cm未満の体積、約10000cm未満の体積、約5000cm未満の体積、約3000cm未満の体積、約1000cm未満の体積を有し得る。好ましくは、ロープ保持装置200は、約2000cm~約4000cmの体積を有し得る。
【0130】
例えば、ロープ保持装置200のサイズ(体積)とメンテナンス装置100のサイズ(体積)との比は、約1:10、約1:20、約1:50、約1:60、約1:100、約1:150、約1:200、約1:220等であり得る。好ましくは、ロープ保持装置200のサイズとメンテナンス装置100のサイズとの比は、約1:60~約1:220であり得る。
【0131】
取付装置300は、風車のブレード上の所定の位置に取り付けられ、かつ、少なくとも1本のロープの一部が固定されるように構成されている限り、任意の構成を有することができる。
【0132】
図3を参照して上述したように、取付装置300は、取付機構310と本体320とを備える。
【0133】
取付機構310は、取付装置300がブレード11に取り付くことを可能にする限り、任意の機構であり得る。例えば、取付機構310は、機械的な力によってブレード11に取付装置300を取り付ける機構であってもよいし、磁力よってブレード11に取付装置300を取り付ける機構であってもよいし、電気力によってブレード11に取付装置300を取り付ける機構であってもよいし、圧力または吸引力によってブレード11に取付装置300を取り付ける機構であってもよい。好ましくは、取付機構310は、機械的な力によってブレード11に取付装置300を取り付ける機構であり得る。
【0134】
一例において、取付機構310は、締め付け可能なバンドまたはベルトであり得る。例えば、取付機構310の第1の端部が本体320に固定され、第2の端部が本体320に牧鷺池可能に結合され得る。あるいは、例えば、第1の端部および第2の端部の両方が巻き取り可能であってもよい。締め付け可能なバンドまたはベルトは、簡単な機構または構造で取付装置300をブレード上に取り付けることができる点で好ましい。
【0135】
本体320は、制御ユニットと、通信ユニットとをさらに備え得る。
【0136】
制御ユニットは、取付装置300全体の動作を制御するように構成されている。制御ユニットは、例えば、通信ユニットによって受信された制御信号に従って、取付装置300の構成要素を制御することができる。制御ユニットは、例えば、通信ユニットによって受信された制御信号に従って、取付機構310を駆動し、取付装置300を所定の位置に取り付けることができる。制御ユニットは、例えば、通信ユニットによって受信された制御信号に従って、取付機構310を駆動し、取付装置300を所定の位置から解放することができる。
【0137】
制御ユニットは、例えば、1または複数のプロセッサ等の任意の制御手段によって実装され得る。取付装置300は、取付装置300の外部からの信号に従って、取付装置300の各構成要素を制御するようにしてもよいし、取付装置300の各構成要素の一連の動作を実現するためのプログラムが、取付装置300が備え得るメモリに格納されてもよく、制御ユニットは、そのプログラムを読み出し、実行することにより、取付装置300を、自律的な装置として機能させることができる。
【0138】
通信ユニットは、取付装置300の外部から信号を受信することができる。これに加えて、通信ユニットは、取付装置300の外部に信号を送信するようにしてもよい。通信ユニットは、取付装置300の外部からの信号を無線で受信してもよいし、有線で受信してもよい。通信ユニットは、取付装置300の外部に信号を無線で送信してもよいし、有線で送信してもよい。通信ユニットは、例えば、取付装置300の各構成要素を制御するための制御信号を取付装置300の外部(例えば、操作者が使用する操作用端末、メンテナンス装置100、またはロープ保持装置200)から受信することができる。通信ユニットは、例えば、アンテナ等の任意の通信手段によって実装され得る。
【0139】
本体320は、少なくとも1本のロープの一部を固定するための固定手段を備える。固定手段は、少なくとも1本のロープの一部を固定することができる限り、任意の手段であり得る。例えば、固定手段は、少なくとも1つのアイボルトであり、ロープを少なくとも1つのアイボルトに巻き付けることにより、少なくとも1本のロープの一部を固定することができる。
【0140】
移動手段400は、少なくとも取付装置300を風車上の所定の位置まで移動させることができる限り、任意の手段であり得る。移動手段400は、例えば、ドローン等の飛行可能な装置であり得る。あるいは、移動手段400は、例えば、伸縮可能な構造を有する装置(例えば、クレーン、はしご車)であり得る。あるいは、移動手段400は、取付装置300が備える移動手段(例えば、車輪、無限軌道等)であり得る。所定の位置は、例えば、風車のブレード上の位置、好ましくは、風車のブレードの根元の位置またはくびれた部分上の位置、さらに好ましくは、風車のブレードの根元のくびれた部分上の位置であり得る。あるいは、所定の位置は、例えば、風車のタワー上の位置、好ましくは、風車のタワーの上端であり得る。
【0141】
好ましくは、移動手段400は、取付装置300とロープ保持装置200とを共に所定の位置まで移動させ得る。これは、少なくとも以下の点で有利である。
【0142】
第一に、少なくとも1つのロープ保持装置200および少なくとも1つの取付装置300の両方を、1ステップで風車10のブレード11上の位置まで移動させることができ、少なくとも1つのロープ保持装置200および少なくとも1つの取付装置300のブレード11上への迅速な位置づけに貢献することができる。例えば、飛行可能な装置である移動手段400によって少なくとも1つのロープ保持装置200および少なくとも1つの取付装置300の両方を風車のブレードの位置まで移動させて、少なくとも1つの取付装置300をその位置に取り付けることによって、ロープを取り付ける作業を、ごく短時間で完了することができる。
【0143】
第二に、少なくとも1つの取付装置300をブレード上に載せると、少なくとも1つのロープ保持装置200も付随してブレード上に載ることになるため、少なくとも1つのロープ保持装置200単体をブレードにアプローチさせる必要がない。特に、比較的に小型のロープ保持装置200をブレードにアプローチさせることは熟練の技術を伴い、困難であるところ、取付装置300とロープ保持装置200とを共に所定の位置まで移動させることで、そのような熟練の技術を必要とせず、かつ、少なくとも1つのロープ保持装置200がブレードへのアプローチ中にブレードに接触して破損するリスクも最小限である。
【0144】
第三に、少なくとも1つのロープ保持装置200および少なくとも1つの取付装置300の両方を、1ステップで風車10のブレード11から回収することもでき、メンテナンスの作業時間を低減することができる。
【0145】
上述した例では、本発明のシステムが、メンテナンス装置100と、少なくとも1つのロープ保持装置200と、少なくとも1つの取付装置300とを備え、移動手段400も備え得ることを説明したが、本発明のシステムは、これらの構成要素の一部から構成されてもよく、これらの構成要素以外の構成要素が追加されてもよい。
【0146】
例えば、一実施形態において、本発明のシステムは、上述した構成要素のうち、メンテナンス装置100と、少なくとも1つの取付装置300とから構成されることができる。この実施形態では、少なくとも1つの取付装置300が、少なくとも1本のロープをブレード上に保持することになる。
【0147】
例えば、一実施形態において、本発明のシステムは、上述した構成要素のうち、少なくとも1つのロープ保持装置200と、少なくとも1つの取付装置300とから構成されることができる。この実施形態は、本発明のシステムは、ブレードのメンテナンスを支援するためのシステムであるといえる。すなわち、この実施形態では、本発明のシステムは、本明細書に記載されるメンテナンス装置のみならず、他のメンテナンス装置のために、ブレードにアクセスするためのロープをブレード上に提供することで、ブレードのメンテナンスを支援することができる。
【0148】
あるいは、この実施形態では、少なくとも1つのロープ保持装置200および少なくとも1つの取付装置300のうちの少なくとも1つにメンテナンス機能を持たせることもできる。これにより、少なくとも1つのロープ保持装置200および少なくとも1つの取付装置300によってブレードのメンテナンスを行うことができる。
【0149】
3.風車のブレードのメンテナンスを行う方法
図5は、本発明のシステムを用いて、風車のブレードのメンテナンスを行う方法の手順の一例(手順500)を示す。
【0150】
ステップS501は、風車10上の所定の位置に少なくとも1つの取付装置300を移動させるステップである。ここで、どのようにして所定の位置まで少なくとも1つの取付装置300を移動させるかは問わない。移動は、少なくとも1つの取付装置300による能動的な移動であってもよいし、少なくとも1つの取付装置300による受動的な移動であってもよい。好ましくは、移動手段400が、少なくとも1つの取付装置300を移動させることができる。
【0151】
所定の位置は、例えば、風車10のブレード11上の位置、好ましくは、風車10のブレード11の根元の位置またはくびれた部分上の位置、さらに好ましくは、風車10のブレード11の根元のくびれた部分上の位置であり得る。あるいは、所定の位置は、例えば、風車10のタワー17上の位置、好ましくは、風車10のタワー17の上端であり得る。
【0152】
ステップS502は、所定の位置に移動させられた少なくとも1つの取付装置300を所定の位置に取り付けるステップである。少なくとも1つの取付装置300は、取付機構310によって、所定の位置に取り付けられることができる。例えば、少なくとも1つの取付装置300の制御ユニットが、取付機構310を制御することにより、少なくとも1つの取付装置300を所定の位置に取り付けることができる。制御ユニットは、例えば、メモリに格納された命令に従って取付機構310を制御するようにしてもよいし、作業員からの命令に従って取付機構310を制御するようにしてもよい。
【0153】
少なくとも1本のロープの一部は、ステップS503の前に少なくとも1つの取付装置300に固定されていればよく、少なくとも1本のロープの一部が少なくとも1つの取付装置300に固定されるタイミングは問わない。例えば、ステップS501の前に取付装置300に固定されていてもよいし、ステップS502の後で少なくとも1つの取付装置300に固定されてもよい。少なくともステップS503の前には、少なくとも1つのロープは、少なくとも1つの取付装置300から少なくとも1つのロープ保持装置200に延在し、少なくとも1つのロープ保持装置200は、このロープを受け取ることになる。少なくとも1本のロープの一部が少なくとも1つの取付装置300に固定されることと、少なくとも1つの取付装置300が風車10の所定の位置に取り付けられることとの両方が行われることで、少なくとも1本のロープの風車10への取付が完了する。
【0154】
一実施形態において、ステップS501において、移動手段400が、少なくとも1つのロープ保持装置200と共に少なくとも1つの取付装置300を所定の位置に移動させ、ステップS502において、少なくとも1つの取付装置300を所定の位置に取り付けることができる。このとき、所定の位置は、風車10のブレード11上の位置である。また、移動手段400は、飛行可能な装置であり得る。これにより、図1B図1Dに示されるように、少なくとも1つのロープ保持装置200および少なくとも1つの取付装置300の両方を、1ステップで風車10のブレード11上の位置まで移動させることができ、そして、少なくとも1つの取付装置300をその位置に取り付けることができる。これは、少なくとも1つのロープ保持装置200および少なくとも1つの取付装置300のブレード11上への迅速な位置づけに貢献し得る。例えば、本発明の発明者の経験上、風車のナセル上にロープを人の手によって取り付ける作業は、少なくとも1時間はかかっており、風車が洋上の風車である場合には、さらに多くの時間がかかっていた。これに対して、本発明の発明者は、飛行可能な装置である移動手段400によって少なくとも1つのロープ保持装置200および少なくとも1つの取付装置300の両方を風車のブレードの位置まで移動させて、少なくとも1つの取付装置300をその位置に取り付けることによって、ロープを取り付ける作業を、ごく短時間で(例えば、約5分程度で)完了することができることを見出した。飛行可能な装置である移動手段400を用いるため、洋上の風車等の十分な足場がない場所であったとしても、十分な足場がある場所と同様に、ロープを取り付ける作業を、ごく短時間で完了することができるのである。ロープを取り付ける作業の作業時間を短縮することで、風車のメンテナンスにかかる時間を大幅に短縮することができる。さらには、ロープを人の手によって取り付ける必要がないため、洋上の風車等の十分な足場がない場所であっても、安全に風車のメンテナンスを行うことができる。
【0155】
ステップS503は、ブレード11上の任意の位置に、少なくとも1つのロープ保持装置200を移動させるステップである。ここで、どのようにしてブレード11上の任意の位置までロープ保持装置200を移動させるかは問わない。移動は、少なくとも1つのロープ保持装置200による能動的な移動であってもよいし、少なくとも1つのロープ保持装置200による受動的な移動であってもよい。例えば、少なくとも1つのロープ保持装置200の制御ユニットが、ロープ接続手段220を制御することにより、少なくとも1つのロープ保持装置200を移動させることができる。制御ユニットは、例えば、メモリに格納された命令に従ってロープ接続手段220を制御するようにしてもよいし、作業員からの命令に従ってロープ接続手段220を制御するようにしてもよい。
【0156】
例えば、ステップS501で、少なくとも1つの取付装置300のみが所定の位置に移動させられた場合には、ステップS503では、少なくとも1つのロープ保持装置200をブレード11まで移動させる必要がある。少なくとも1つのロープ保持装置200は、例えば、取付装置300から延在し得るロープを伝って、ブレード11まで移動し、そして、ブレード上の任意の位置までブレード上を移動することができる。
【0157】
例えば、ステップS501で、少なくとも1つのロープ保持装置200が少なくとも1つの取付装置300と共に所定の位置に移動させられた場合には、ステップS503は、所定の位置から任意の位置まで少なくとも1つのロープ保持装置200を移動させるステップを含む。例えば、ステップS503では、図1F図1Gに示されるように、所定の位置から任意の位置まで少なくとも1つのロープ保持装置200を移動させる。
【0158】
ブレード上の任意の位置は、例えば、ブレードの先端の位置であり得る。あるいは、ブレード上の任意の位置は、メンテナンス装置100をブレード11まで引き上げ始めるのに適した位置であり得る。あるいは、ブレード上の任意の位置は、例えば、メンテナンス装置100の位置に連動した位置であり得る。メンテナンス装置100の位置に連動した位置は、例えば、メンテナンス装置100の上方の位置であり得る。
【0159】
ステップS504は、少なくとも1つのロープ保持装置200によって、少なくとも1本のロープをブレード11上の位置に保持するステップである。ブレード上の位置は、ステップS503で少なくとも1つのロープ保持装置200が移動させられた位置である。ブレード11上に保持される少なくとも1本のロープは、少なくとも1つの取付装置300から少なくとも1つのロープ保持装置200に延在するロープである。
【0160】
例えば、図1F図1Gに示されるように、少なくとも1つのロープ保持装置200がブレード11上を任意の位置(例えば、ブレード11の先端)まで移動させた結果として、少なくとも1つのロープ保持装置200が受け取っている少なくとも1本のロープがブレード11上に保持される。少なくとも2本のロープがブレード11上に保持される場合、ブレード11上に保持された少なくとも2本のロープは、図3に示されるように、少なくとも1本のロープを含む第1のロープ群がブレードの第1の側から延び、少なくとも1本のロープを含む第2のロープ群がブレードの第2の側から延びるようになる。
【0161】
ステップS505は、ステップS504で少なくとも1つのロープ保持装置200によってブレード11上に保持された少なくとも1本のロープをメンテナンス装置100に接続するステップである。例えば、メンテナンス装置100のウインチに少なくとも1本のロープを接続することで、少なくとも1本のロープがメンテナンス装置100に接続される。
【0162】
ステップS505は、例えば、デッキ16上の作業員によって手動で行われることができる。
【0163】
少なくとも1つのロープ保持装置200がブレード11上に少なくとも1本のロープを保持している状態で、ステップS506において、少なくとも1つのロープ保持装置200によって保持された少なくとも1本のロープ上をブレード11までメンテナンス装置100を移動させる。例えば、図1G図1Iに示されるように、メンテナンス装置100をブレード11まで移動させる。メンテナンス装置100は、少なくとも1つのロープ保持装置200によって保持された少なくとも1本のロープを伝って、ブレードまで移動することができる。
【0164】
ステップS506でブレード11までメンテナンス装置100を移動させるとき、メンテナンス装置100が少なくとも1本のロープ上をブレード11まで移動するときのメンテナンス装置100の空間位置と少なくとも1つのロープ保持装置200の位置とが連動するように、少なくとも1つのロープ保持装置200の位置を制御するようにしてもよい。この制御は動的な制御であり得る。例えば、少なくとも1つのロープ保持装置200のブレード上の位置が、メンテナンス装置100の略真上に来るように、少なくとも1つのロープ保持装置200のブレード上を移動させ、少なくとも1つのロープ保持装置200がブレード11上に少なくとも1本のロープを保持する位置を制御することができる。これにより、少なくとも1本のロープは、ブレード11上の少なくとも1つのロープ保持装置200からメンテナンス装置100まで垂直に延在することになり、メンテナンス装置100は、その姿勢または空間位置を制御される必要なく、あるいは、左右に振られることなく、ブレード11まで移動することができる。さらに、重力の作用によりメンテナンス装置100が少なくとも1つのロープ保持装置200の略真下に来るように自然と移動することを利用して、少なくとも1つのロープ保持装置200をブレード11上で移動させることで、メンテナンス装置100の左右方向の移動を誘導することもできる。これは、作業員がデッキ16等からメンテナンス装置100の空間位置を制御する必要性を排除または低減することができ、人手を少なくすることにつながる。
【0165】
ステップS507は、メンテナンス装置100がブレード11まで移動した後、ブレード11上でメンテナンス装置100を移動させるステップである。ここで、どのようにしてブレード11上でメンテナンス装置100を移動させるかは問わない。
【0166】
例えば、図1I図1Jに示されるように、取付装置300から延在する少なくとも1本のロープ20を伝ってブレード11上でメンテナンス装置100を移動させることができる。別の例において、メンテナンス装置100が備え得る駆動車輪を利用して、ブレード11上でメンテナンス装置100を移動させることができる。別の例において、取付装置300から延在する少なくとも1本のロープ20とは別のロープを利用して、ブレード11上でメンテナンス装置100を移動させることができる。
【0167】
このとき、メンテナンス装置100は、任意の取付手段を介してブレード11にしっかりと取り付くことができる。これにより、メンテナンス装置100は、浮き上がることなく、ブレード11のリーディングエッジ上を移動することができる。また、ブレード11のリーディングエッジが垂直に対して約5度傾斜しているため、メンテナンス装置100に働く重力は、メンテナンス装置100をブレード11のリーディングエッジに押し付けるように作用し、メンテナンス装置100の浮き上がりを阻止する。ステップS507は、例えば、作業員が操作用端末によってメンテナンス装置100に制御信号を送信することに応じて行われてもよいし、ロボットがメンテナンス装置100に制御信号を送信することに応じて行われてもよい。あるいは、メンテナンス装置100が自律的にステップS507を行うようにしてもよい。
【0168】
ステップS507でメンテナンス装置100を移動させるステップは、ブレード11上で少なくとも1本のロープが延びる方向のうちの第1の方向にメンテナンス装置100を移動させることと、ブレード11上で少なくとも1本のロープが延びる方向のうちの第2の方向にメンテナンス装置100を移動させることとを含んでもよい。例えば、第1の方向は、ブレードの先端からブレードの根元に向かう方向であり、第2の方向は、ブレードの根元からブレードの先端に向かう方向である。メンテナンス装置100は、ウインチによる巻き取りまたは繰り出しを制御することにより、第1の方向または第2の方向に移動することができる。
【0169】
ステップS508は、メンテナンス装置100がブレード上を移動している間に、ブレードのメンテナンスを行うステップである。例えば、図1Jに示されるように、メンテナンス装置100がブレード11のリーディングエッジ上を移動している間に、メンテナンス装置100がブレード11のメンテナンスを行う。このとき、メンテナンス装置100は、任意の取付手段を介してブレード11にしっかりと取り付いている。これにより、メンテナンス装置100は、浮き上がることなく、洗浄手段、研磨手段等のメンテナンス手段をブレード11のリーディングエッジに押し付けることができる。また、ブレード11のリーディングエッジが垂直に対して約5度傾斜しているため、メンテナンス装置100に働く重力は、メンテナンス装置100をブレード11のリーディングエッジに押し付けるように作用し、メンテナンス装置100の浮き上がりを阻止する。ステップS508は、例えば、作業員が操作用端末によってメンテナンス装置100に制御信号を送信することに応じて行われてもよいし、ロボットがメンテナンス装置100に制御信号を送信することに応じて行われてもよい。あるいは、メンテナンス装置100が自律的にステップS508を行うようにしてもよい。
【0170】
ステップS508でメンテナンスを行った後、手順500は、本発明のシステムを回収するステップを含んでもよい。例えば、回収するステップは、少なくとも1本のロープ上をブレード11からメンテナンス装置100を移動させることにより、ブレード11からメンテナンス装置100を回収するステップを含む。これは、例えば、図1L図1Nに示されるように、メンテナンス装置100をブレード11からデッキ16に移動させることである。
【0171】
このとき、メンテナンス装置100が少なくとも1本のロープ上をブレード11から移動するときのメンテナンス装置100の空間位置と少なくとも1つのロープ保持装置200の位置とが連動するように、少なくとも1つのロープ保持装置200の位置を制御するようにしてもよい。この制御は動的な制御であり得る。例えば、少なくとも1つのロープ保持装置200のブレード上の位置が、メンテナンス装置100の略真上に来るように、少なくとも1つのロープ保持装置200のブレード上を移動させ、少なくとも1つのロープ保持装置200がブレード11上に少なくとも1本のロープを保持する位置を制御することができる。これにより、少なくとも1本のロープは、ブレード11上の少なくとも1つのロープ保持装置200からメンテナンス装置100まで垂直に延在することになり、メンテナンス装置100は、その姿勢または空間位置を制御される必要なく、あるいは、左右に振られることなく、ブレード11から(例えば、デッキ16まで)移動することができる。さらに、重力の作用によりメンテナンス装置100が少なくとも1つのロープ保持装置200の略真下に来るように自然と移動することを利用して、少なくとも1つのロープ保持装置200をブレード11上で移動させることで、メンテナンス装置100の左右方向の移動を誘導することもできる。これは、作業員がデッキ16等からメンテナンス装置100の空間位置を制御する必要性を排除または低減することができ、人手を少なくすることにつながる。
【0172】
図6Aは、ステップS508のブレードのメンテナンスを行うステップにおいて行われる具体的なフローの一例を示す。図6Aに示されるフローは、メンテナンス装置100が、ロープ保持装置200と協働して、ブレードの内部に延在する導線(ダウンコンダクタ)の断線を検査するためのフローであり、導線からの反射パルスに基づく断線検査が行われる。ロープ保持装置200は、この断線検査に利用される基準導線を備えているものとする。基準導線の一方の端部は、ロープ保持装置200に結合され、もう一方の端部は、取付装置3000に結合されることにより、基準導線は、ロープ保持装置200と取付装置300との間に延在する。
【0173】
ステップS5081は、少なくとも1つのロープ保持装置200を移動させることにより、ブレードの内部に延在する導線に略平行に基準導線を配置するステップである。基準導線の一方の端部がロープ保持装置200に結合され、もう一方の端部が少なくとも1つの取付装置300に結合されているため、少なくとも1つのロープ保持装置200をブレード上で少なくとも1つの取付装置300から離れるように移動させることにより、ブレード上に基準導線を配置することができる。このとき、少なくとも1つの取付装置300がブレード上に取り付けられていることが好ましい。ブレード上に配置される導線が、ブレードに沿ったものになるからである。さらに、少なくとも1つのロープ保持装置200の移動方向をブレードの内部に延在する導線の延在方向に略平行にすることで、ブレード上に配置される基準導線は、ブレードの内部に延在する導線に略平行になる。
【0174】
概して、ブレードの内部に延在する導線(ダウンコンダクタ)は、風車のブレードの先端の受雷部(レセプタ)から根元の方向に延在しており、これは、本発明のシステムのロープ保持装置200の移動方向と整合している。そのため、断線検査を行うために、ロープ保持装置200の移動を別様に設計および/または制御する必要がない。
【0175】
少なくとも1つのロープ保持装置200は、ブレード11の受雷部まで移動することが好ましい。これにより、ブレード11の受雷部と基準導線の末端とを揃えることができるからである。
【0176】
次いで、メンテナンス装置100がブレード11の受雷部および基準導線の末端の位置まで移動し、ステップS5082で、メンテナンス装置100が、受雷部を介して導線と、基準導線とにパルス信号を流す。
【0177】
ステップS5083では、メンテナンス装置が、ステップS5082で流したパルス信号の反射波形を検出する。検出された反射波形に基づいて、断線の有無、さらには、断線個所を検出することができる。これは、基準導線(断線していない導線)から得られた反射波形を基準として、導線から得られた反射波形を分析することによって達成され得る。例えば、TDR(Time Domein Reflectometry:時間領域反射)法を用いて、断線の有無、さらには、断線個所を特定することができる。
【0178】
ブレード内部の導線の断線個所を特定することで、断線個所の修理を迅速に行うことができるようになる。
【0179】
図6Bは、ステップS508のブレードのメンテナンスを行うステップにおいて行われる具体的なフローの別の一例を示す。図6Aに示されるフローは、メンテナンス装置100が、ロープ保持装置200と協働して、ブレードの内部に延在する導線(ダウンコンダクタ)の断線を検査するためのフローであり、導線を伝播する電波に応じた信号に基づく断線検査が行われる。
【0180】
ステップS5081’は、メンテナンス装置100が、導線の断線を検査するための電波を導線に流すステップである。メンテナンス装置100は、受雷部を介して導線に電波を流すことができる。メンテナンス装置100は、例えば、メンテナンス装置100が備える送信器によって発生させられた電波を導線に流すようにしてもよいし、メンテナンス装置100の外部(例えば、デッキ16上の送信器)から送信された電波を導線に流すようにしてもよい。好ましくは、メンテナンス装置100は、メンテナンス装置100の外部(例えば、デッキ16上の送信器)から送信された電波を導線に流し得る。これにより、メンテナンス装置100は送信器を備える必要がなく、メンテナンス装置100の重量化を防ぐことができるからである。
【0181】
ステップS5082’は、少なくとも1つのロープ保持装置200がブレード11上を移動している間に、導線内を伝播する電波に応じた信号を検出するステップである。少なくとも1つのロープ保持装置200は、検出器を用いて、電波に応じた信号を検出することができる。
【0182】
例えば、少なくとも1つのロープ保持装置200は、ブレード11の先端から根元までブレード11に沿って移動している間に、ブレードに沿った場所での信号を検出する。例えば、検出された信号を記録または監視し、特異的な信号(例えば、信号が検出されないまたは信号気レベルが弱い等)が検出された場所に断線が存在すると判断することができる。
【0183】
概して、ブレードの内部に延在する導線(ダウンコンダクタ)は、風車のブレードの先端の受雷部(レセプタ)から根元の方向に延在しており、これは、本発明のシステムのロープ保持装置200の移動方向と整合している。そのため、この断線検査においても、断線検査を行うために、ロープ保持装置200の移動を別様に設計および/または制御する必要がない。
【0184】
この断線検査においても、少なくとも1つの取付装置300がブレード上に取り付けられていることが好ましい。少なくとも1つのロープ保持装置200がブレードに沿って、かつ、ブレード内部に存在する導線に沿って移動することができ、検出器を導線にできるだけ近づけることができるからである。これにより、検出精度を向上させることができる。
【0185】
このような断線検査により、導線の断線の有無、さらには、断線個所を検出することができる。ブレード内部の導線の断線個所を特定することで、断線個所の修理を迅速に行うことができるようになる。
【0186】
上述したように、風車のブレードのメンテナンスを行う方法は、各ステップが作業員主導で行われてもよいし、各ステップがロボットによって自動的に行われるようにしてもよい。各ステップをロボットが行うようにすることで、作業員が現場に出る必要がなく、安全に風車のブレードのメンテナンスを行うことが可能になる。これは、洋上の風車等の十分な足場がない場所で特に顕著である。
【0187】
なお、本明細書において「移動している間」とは、ある位置から別の位置に向かって移動している期間のことをいい、必ずしも動き続けている必要はない。例えば、メンテナンス装置100がブレードの先端からブレードの付根に向かって移動している期間であって、メンテナンス装置100が前進と停止とを繰り返して移動している期間も、「移動している間」に含まれる。
【0188】
図1図6を参照して説明した例では、風車のブレードのメンテナンスを行うためのシステムおよび方法を説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明のシステムおよび方法によるメンテナンス対象は、メンテナンスを行う必要がある任意の物体であって、その表面上にロープを保持することができかつ保持されたロープを利用してメンテナンス装置を移動させることが可能な任意の物体の少なくとも一部であり得る。例えば、メンテナンス対象は、そのような物体の全体であってもよいし、一部であってもよい。上述した例では、任意の物体が風車であり、任意の物体の少なくとも一部が風車のブレードである。例えば、任意の物体がビルであり、任意の物体の少なくとも一部がビルの壁面であってもよく、任意の物体が飛行機であり、任意の物体の少なくとも一部が飛行機の主翼であってもよい。例えば、ビルの壁面であれば、雨による汚れを洗浄する必要がある。例えば、飛行機の主翼であれば、翼面を滑らかに保つために点検および洗浄する必要がある。例えば、ビルの屋上または壁面にロープを保持し、メンテナンス装置は、保持されたロープを利用してビルの屋上または壁面まで移動することが可能である。例えば、飛行機の主翼または胴体にロープを保持し、メンテナンス装置は、保持されたロープを利用して主翼または胴体まで移動することが可能である。
【0189】
上述した例では、ロープを利用したメンテナンス装置の移動は、垂直方向の移動(すなわち、上昇および下降)を伴う移動であったが、ロープを利用したメンテナンス装置の移動は、垂直方向の移動を伴わない移動であってもよい。ロープを利用したメンテナンス装置の移動は、水平面内の移動のみを伴う移動も含み得る。水平面内の移動のみを伴う移動であっても、取付装置を先行してメンテナンス対象に取り付け、ロープ保持装置によってロープをメンテナンス対象上に保持し、メンテナンス装置をロープ保持装置によって保持されたロープを伝ってメンテナンス対象まで移動させることができ、容易なメンテナンスを達成することができるからである。これは、特に、十分な足場がない場所に存在する対象のメンテナンスに有用である。十分な足場がない場所であっても、取付装置およびロープ保持装置を利用することで、ロープを対象に容易に取り付けることができるからである。
【0190】
メンテナンス対象の任意の物体は、好ましくは、高所にある物体である。ここで高所とは、地上の作業員の手が届かない高さの場所のことをいう。高所は、例えば、地上から約3m以上の高さの場所であってもよく、地上から約5m以上の高さの場所であってもよく、地上から約10m以上の高さの場所であってもよく、地上から約100m以上の高さの場所であってもよい。高所は、例えば、地上から約3m~約100mの高さの場所であってもよく、地上から約5m~約100mの高さの場所であってもよく、地上から約10m~約100mの高さの場所であってもよい。なお、地上は、屋外の場所であってもよく、屋内の場所であってもよい。
【0191】
また、メンテナンス装置100が任意の物体の少なくとも一部に取り付く面の角度は任意であるが、メンテナンス装置100が任意の物体の少なくとも一部に取り付く面は、垂直に対して傾斜していることが好ましい。メンテナンス装置100が傾斜面に取り付くことにより、取付手段による挟持力に加えて、メンテナンス装置100に働く重力が装置100を物体の少なくとも一部に押し付けるように作用し、メンテナンス装置100が物体の少なくとも一部上でより安定するからである。
【0192】
また、図1図6を参照して説明した例では、物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うための装置を説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明のシステムは、メンテナンスを行うことを含む任意の目的を達成するための機能を有するロボットであってもよい。例えば、任意の目的は、高所への物資の運搬目的であってもよい。物資を搭載させた装置を高所の物体(例えば、マンションのベランダの外壁等)に取り付けることにより、高所への物資の運搬を容易にすることが可能である。例えば、任意の目的は、物体の装飾目的であってもよい。装飾を施した装置を高所の物体に取り付けることにより、高所の物体を容易に装飾することが可能である。
【0193】
本明細書において、数について特に言及していない要素または英語での「a」または「the」に相当する冠詞が付された要素は、別様に指定されない限り、「少なくとも1つ」の要素を表すことが意図される。
【0194】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明は、安全かつ簡単に物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うためのシステムおよび方法を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0196】
10 風車
11、12、13 ブレード
14 ナセル
15 ハブ
16 デッキ
17 タワー
20 ロープ
100 メンテナンス装置
200 ロープ保持装置
300 取付装置
400 移動装置
【要約】
【課題】安全かつ簡単に物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うためのシステム、装置、および方法を提供すること
【解決手段】本発明の物体の少なくとも一部のメンテナンスを行うためのシステムは、前記物体上の所定の位置に取り付けられるように構成されている少なくとも1つの取付装置(300)と、前記少なくとも1つの取付装置から延在する少なくとも1本のロープを受け取り、前記少なくとも1本のロープを前記物体の前記少なくとも一部上の任意の位置に保持するように構成されている少なくとも1つのロープ保持装置(200)と、前記物体の前記少なくとも一部のメンテナンスを行うように構成されたメンテナンス装置(100)とを備える。
【選択図】図1K
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K
図1L
図1M
図1N
図1O
図1P
図1Q
図1R
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B