(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】モーターサイクルに用いられる制御装置、及び、モーターサイクルのエンジンの回転数の制御方法
(51)【国際特許分類】
F02D 29/00 20060101AFI20220916BHJP
【FI】
F02D29/00 G
(21)【出願番号】P 2017146214
(22)【出願日】2017-07-28
【審査請求日】2020-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】井苅 佳秀
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084813(JP,A)
【文献】特開2006-329118(JP,A)
【文献】特開2012-026286(JP,A)
【文献】特開2015-224543(JP,A)
【文献】特開2013-194660(JP,A)
【文献】特開2005-344634(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0357449(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104343569(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(32)、変速機(34)、及び前記エンジン(32)と前記変速機(34)との間を接続又は切断するクラッチ(33)を有するモーターサイクル(100)に用いられる制御装置(20)であって、
前記エンジン(32)の回転数を取得する回転数取得部(21)と、
前記エンジン(32)の回転数を制御する制御部(12)が前記エンジン(32)の回転数を制御する際に用いる情報を生成し、該情報を該制御部(12)に出力する生成部(22)と、を備え、
前記生成部(22)は、
前記モーターサイクル(100)の発進時に、切断されている前記クラッチ(33)が接続状態になる場合において、
前記エンジン(32)の実際の出力トルクが、運転者が要求する前記エンジン(32)の出力トルクである運転者要求トルクよりも低くなって、前記回転数取得部(21)で取得される前記エンジン(32)の回転数が、予め設定された目標回転数に維持される前記情報の生成を終了する構成であり、
前記モーターサイクル(100)の走行中に、接続されている前記クラッチ(33)が切断状態又は不完全接続状態になる場合において、
前記エンジン(32)の実際の出力トルクが、
前記運転者要求トルクよりも低くなって、前記回転数取得部(21)で取得される前記エンジン(32)の回転数が、予め設定された目標回転数に
維持される前記情報
の生成
を開始する構成である、
制御装置。
【請求項2】
エンジン(32)、変速機(34)、及び前記エンジン(32)と前記変速機(34)との間を接続又は切断するクラッチ(33)を有するモーターサイクル(100)に用いられる制御装置(20)であって、
前記エンジン(32)の回転数を取得する回転数取得部(21)と、
前記エンジン(32)の回転数を制御する制御部(12)が前記エンジン(32)の回転数を制御する際に用いる情報を生成し、該情報を該制御部(12)に出力する生成部(22)と、を備え、
前記生成部(22)は、
前記モーターサイクル(100)の走行中に、接続されている前記クラッチ(33)が切断状態又は不完全接続状態になる場合において、
前記エンジン(32)の実際の出力トルクが、運転者が要求する前記エンジン(32)の出力トルクである運転者要求トルクよりも低くなって、前記回転数取得部(21)で取得される前記エンジン(32)の回転数が、予め設定された目標回転数になる前記情報を生成する構成であり、
前記情報は、前記制御部(12)が前記エンジン(32)の実際の出力トルクを制御する際に用いる目標トルクであり、
前記生成部(22)は、
前記目標トルクを、前記目標回転数と前記回転数取得部(21)で取得された前記エンジン(32)の回転数との差分に基づいて生成する構成であり、
前記運転者要求トルクを取得する要求トルク取得部(23)を備え、
前記生成部(22)は、
前記回転数取得部(21)で取得される前記エンジン(32)の回転数が増加して、前記目標回転数に到達するまでの間に、前記運転者要求トルクの単位時間当たりの増加量が閾値以上となった場合に、前記目標トルクの単位時間当たりの増加量が前記運転者要求トルクの単位時間当たりの増加量よりも少なくなるように、前記目標トルクを生成する構成である、
制御装置。
【請求項3】
前記生成部(22)は、
前記回転数取得部(21)で取得される前記エンジン(32)の回転数が増加して、前記目標回転数に到達した場合に、前記目標回転数に到達する直前の値よりも低い値を前記目標トルクとする構成である、
請求項
2に記載の制御装置。
【請求項4】
エンジン(32)、変速機(34)、及び前記エンジン(32)と前記変速機(34)との間を接続又は切断するクラッチ(33)を有するモーターサイクル(100)に用いられる制御装置(20)であって、
前記エンジン(32)の回転数を取得する回転数取得部(21)と、
前記エンジン(32)の回転数を制御する制御部(12)が前記エンジン(32)の回転数を制御する際に用いる情報を生成し、該情報を該制御部(12)に出力する生成部(22)と、を備え、
前記生成部(22)は、
前記モーターサイクル(100)の走行中に、接続されている前記クラッチ(33)が切断状態又は不完全接続状態になる場合において、
前記エンジン(32)の実際の出力トルクが、運転者が要求する前記エンジン(32)の出力トルクである運転者要求トルクよりも低くなって、前記回転数取得部(21)で取得される前記エンジン(32)の回転数が、予め設定された目標回転数になる前記情報を生成する構成であり、
前記生成部(22)は、
前記回転数取得部(21)で取得された前記エンジン(32)の回転数と前記目標回転数との差が規定値以下に収束した場合に、前記回転数取得部(21)で取得される前記エンジン(32)の回転数が増減を繰り返す前記情報を生成する構成である、
制御装置。
【請求項5】
前記制御部(12)と別体に構成されている、
請求項1~請求項
4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
エンジン(32)、変速機(34)、及び、前記エンジン(32)と前記変速機(34)との間を接続又は切断するクラッチ(33)を有するモーターサイクル(100)における、前記エンジン(32)の回転数の制御方法であって、
前記エンジンの回転数を取得する回転数取得ステップと、
前記エンジンの回転数を制御する制御部(12)が前記エンジン(32)の回転数を制御する際に用いる情報を生成する生成ステップと、
前記生成ステップで生成された前記情報を前記制御部(12)に出力する出力ステップと、
を有し、
前記生成ステップでは、
前記エンジン(32)の実際の出力トルクが、運転者が要求する前記エンジン(32)の出力トルクである運転者要求トルクよりも低くなって、前記回転数取得ステップで取得される前記エンジン(32)の回転数が、予め設定された目標回転数に
維持される前記情報を生成
し、
前記モーターサイクル(100)の発進時に、切断されている前記クラッチ(33)が接続状態になる場合において、前記生成ステップの前記情報の生成が終了され、
前記モーターサイクル(100)の走行中に、接続されている前記クラッチ(33)が切断状態又は不完全接続状態になる場合において、前記生成ステップの前記情報の生成が開始される、
エンジンの回転数の制御方法。
【請求項7】
エンジン(32)、変速機(34)、及び、前記エンジン(32)と前記変速機(34)との間を接続又は切断するクラッチ(33)を有するモーターサイクル(100)における、前記エンジン(32)の回転数の制御方法であって、
前記エンジンの回転数を取得する回転数取得ステップと、
前記エンジンの回転数を制御する制御部(12)が前記エンジン(32)の回転数を制御する際に用いる情報を生成する生成ステップと、
前記生成ステップで生成された前記情報を前記制御部(12)に出力する出力ステップと、
を有し、
前記生成ステップでは、
前記モーターサイクル(100)の走行中に、接続されている前記クラッチ(33)が切断状態又は不完全接続状態になる場合において、
前記エンジン(32)の実際の出力トルクが、運転者が要求する前記エンジン(32)の出力トルクである運転者要求トルクよりも低くなって、前記回転数取得ステップで取得される前記エンジン(32)の回転数が、予め設定された目標回転数になる前記情報を生成し、
前記情報は、前記制御部(12)が前記エンジン(32)の実際の出力トルクを制御する際に用いる目標トルクであり、
前記生成ステップでは、
前記目標トルクを、前記目標回転数と前記回転数取得ステップで取得された前記エンジン(32)の回転数との差分に基づいて生成し、
前記運転者要求トルクを取得する要求トルク取得ステップを備え、
前記生成ステップでは、
前記回転数取得ステップで取得される前記エンジン(32)の回転数が増加して、前記目標回転数に到達するまでの間に、前記運転者要求トルクの単位時間当たりの増加量が閾値以上となった場合に、前記目標トルクの単位時間当たりの増加量が前記運転者要求トルクの単位時間当たりの増加量よりも少なくなるように、前記目標トルクを生成する、
エンジンの回転数の制御方法。
【請求項8】
エンジン(32)、変速機(34)、及び、前記エンジン(32)と前記変速機(34)との間を接続又は切断するクラッチ(33)を有するモーターサイクル(100)における、前記エンジン(32)の回転数の制御方法であって、
前記エンジンの回転数を取得する回転数取得ステップと、
前記エンジンの回転数を制御する制御部(12)が前記エンジン(32)の回転数を制御する際に用いる情報を生成する生成ステップと、
前記生成ステップで生成された前記情報を前記制御部(12)に出力する出力ステップと、
を有し、
前記生成ステップでは、
前記モーターサイクル(100)の走行中に、接続されている前記クラッチ(33)が切断状態又は不完全接続状態になる場合において、
前記エンジン(32)の実際の出力トルクが、運転者が要求する前記エンジン(32)の出力トルクである運転者要求トルクよりも低くなって、前記回転数取得ステップで取得される前記エンジン(32)の回転数が、予め設定された目標回転数になる前記情報を生成し、
前記生成ステップでは、
前記回転数取得ステップで取得された前記エンジン(32)の回転数と前記目標回転数との差が規定値以下に収束した場合に、前記回転数取得ステップで取得される前記エンジン(32)の回転数が増減を繰り返す前記情報を生成する、
エンジンの回転数の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
モーターサイクルに用いられる制御装置、及び、モーターサイクルのエンジンの回転数の制御方法に関し、特に、エンジン、変速機、及びエンジンと変速機との間を接続又は切断するクラッチを有するモーターサイクルに用いられる制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モーターサイクル(自動二輪車又は自動三輪車)においては、運転者が、高い加速力での発進を所望してエンジンの回転数を大きくしすぎると、エンジンと変速機との間に介在するクラッチが接続する際に駆動輪が空転してしまい、高い加速力を得ることができない場合がある。特に、後輪駆動のモーターサイクルにおいては、自動四輪車と比べて車体重量が軽量であることに起因して、運転者がエンジンの回転数を大きくしすぎると、前輪が浮き上がる現象であるウィリーが発生して、車体挙動が不安定となりやすい。
【0003】
このため、近年、ラウンチコントロール(Launch control)と呼ばれる制御を採用して、発進時に安全で且つ高い加速力を得ることを可能としたモーターサイクルが提案されている(例えば特許文献1参照。)。ラウンチコントロール制御では、モーターサイクルが停止状態から発進するまで(つまり、エンジンと変速機との間に介在するクラッチが接続状態になるまで)の間において、エンジンの回転数が、安全で且つ高い加速力を得るのに好適な規定回転数に維持される。エンジンの回転数の維持には、例えば、レブリミッターが用いられる。詳しくは、ラウンチコントロール制御時、前記規定回転数でレブリミッターが作動するように設定される。運転者がスロットルグリップを操作し、エンジンの回転数が前記規定回転数以上となる位置にスロットルグリップを保持することにより、レブリミッターが作動し、エンジンの回転数が前記規定回転数に維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のモーターサイクルでは、停止状態から発進するまで(つまり、エンジンと変速機との間に介在するクラッチが接続状態になるまで)は、上述のラウンチコントロール制御によって、エンジンの回転数が好適な規定回転数に維持される。しかし、その後の段階(つまり、発進後)において、運転者が、クラッチを切断状態又は不完全接続状態(いわゆる半クラッチ状態)にすると、上述のラウンチコントロール制御が終了していることで、エンジンの回転数が安全で且つ高い加速力を得るのに好適ではない回転数になって、クラッチの再接続の直後に安全で且つ高い加速力を得ることが困難となる。
【0006】
本発明は、上述の課題を背景としてなされたものであり、エンジン、変速機、及びエンジンと変速機との間を接続又は切断するクラッチを有するモーターサイクルに用いられる制御装置であって、発進後のクラッチの再接続時に安全で且つ高い加速力を得ることが可能な制御装置を得ることを第1の目的とする。また、本発明は、エンジン、変速機、及びエンジンと変速機との間を接続又は切断するクラッチを有するモーターサイクルにおけるエンジンの回転数の制御方法であって、発進後のクラッチの再接続時に安全で且つ高い加速力を得ることが可能な制御方法を得ることを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制御装置は、エンジン、変速機、及び前記エンジンと前記変速機との間を接続又は切断するクラッチを有するモーターサイクルに用いられる制御装置であって、前記エンジンの回転数を取得する回転数取得部と、前記エンジンの回転数を制御する制御部が前記エンジンの回転数を制御する際に用いる情報を生成し、該情報を該制御部に出力する生成部と、を備え、前記生成部は、前記モーターサイクルの走行中に、接続されている前記クラッチが切断状態又は不完全接続状態になる場合において、前記回転数取得部で取得される前記エンジンの回転数が予め設定された目標回転数になる前記情報を生成する構成である。
【0008】
また、本発明に係るエンジンの回転数の制御方法は、エンジン、変速機、及び、前記エンジンと前記変速機との間を接続又は切断するクラッチを有するモーターサイクルにおける、前記エンジンの回転数の制御方法であって、前記エンジンの回転数を取得する回転数取得ステップと、前記エンジンの回転数を制御する制御部が前記エンジンの回転数を制御する際に用いる情報を生成する生成ステップと、前記生成ステップで生成された前記情報を前記制御部に出力する出力ステップと、を有し、前記生成ステップでは、前記モーターサイクルの走行中に、接続されている前記クラッチが切断状態又は不完全接続状態になる場合において、前記回転数取得ステップで取得される前記エンジンの回転数が予め設定された目標回転数になる前記情報を生成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、モーターサイクルの走行中に、接続されているクラッチが切断状態又は不完全接続状態になる場合において、取得されるエンジンの回転数が予め設定された目標回転数となるように、制御部がエンジンの回転数を制御する際に用いる情報が生成される。そのため、発進後のクラッチの再接続時に、エンジンの回転数を安全で且つ高い加速力を得るのに好適な回転数に維持することが可能となって、モーターサイクルを安全で且つ高い加速力で走行させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置が行う回転数一定制御の一例を説明するための図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置の回転数一定制御を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置が行う回転数一定制御の別の一例を説明するための図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置が行う回転数一定制御の別の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る制御装置は、モーターサイクルのエンジンを制御するエンジン制御装置の少なくとも一部である。本発明に係るエンジンの回転数の制御方法は、エンジン制御装置がモーターサイクルのエンジンの回転数を制御する際の制御方法のうちの、少なくとも一部である。以下の実施の形態では、本発明を用いたエンジン制御装置の一例について説明する。なお、以下の実施の形態は、あくまでも本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
【0012】
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置の構成を示す図である。
本実施の形態に係るエンジン制御装置1は、モーターサイクル100に搭載される。本実施の形態では、まず、エンジン制御装置1が搭載されるモーターサイクル100の概略構成について説明する。
【0013】
モーターサイクル100は、自動二輪車又は自動三輪車である。このモーターサイクル100は、エンジン32、変速段数が複数段の変速機34、及び、エンジン32と変速機34との間を接続又は切断するクラッチ33を有する。詳しくは、本実施の形態に係るクラッチ33は、エンジン32に接続されたフリクションプレート33aと、変速機34に接続されたクラッチプレート33bとを備えている。そして、フリクションプレート33aとクラッチプレート33bとが離れている状態においては、エンジン32の出力トルクは、変速機34に伝達されない。また、フリクションプレート33aとクラッチプレート33bとが接触している状態においては、エンジン32の出力トルクは、フリクションプレート33a及びクラッチプレート33bを介して、変速機34に伝達される。
【0014】
また、モーターサイクル100は、後輪42が駆動輪となっており、前輪41が非駆動輪となっている。このため、エンジン32の出力トルクは、クラッチ33、変速機34、及び変速機34と後輪42とを接続する図示せぬ伝達手段等を介して、後輪42に伝達される。
【0015】
また、本実施の形態に係るモーターサイクル100においては、運転者が要求するエンジン32の出力トルクを入力する手段として、スロットルグリップ31を有している。以下、運転者が要求するエンジン32の出力トルクを、運転者要求トルクと称する。詳しくは、運転手によって回転させられたスロットルグリップ31の基準位置からの回転量が大きくなるほど、運転者要求トルクが大きくなる。すなわち、後述の第2制御装置20によってエンジン32の出力トルクが抑制されていない状態においては、運転手によって回転させられたスロットルグリップ31の基準位置からの回転量が大きくなるほど、エンジン32の出力トルクが大きくなる。換言すると、運転手によって回転させられたスロットルグリップ31の回転量が大きくなるほど、エンジン32の回転数が高くなる。なお、運転者がスロットルグリップ31を操作しない場合、スロットルグリップ31は、基準位置に戻る。スロットルグリップ31が基準位置となっている場合、エンジン32の回転数はアイドリング回転数となる。
【0016】
また、本実施の形態に係るモーターサイクル100は、運転者がクラッチ33を操作する手段として、クラッチレバー35を有している。詳しくは、運転者がクラッチレバー35をグリップ36側に引き寄せ、クラッチレバー35とグリップ36との間の距離が第1規定距離以内になると、フリクションプレート33aとクラッチプレート33bとが離れた状態になる。すなわち、クラッチ33が切断された状態、換言すると、エンジン32と変速機34との間が切断された状態となる。このクラッチ33が切断された状態から、クラッチレバー35とグリップ36との間の距離を大きくしていくと、フリクションプレート33aとクラッチプレート33bとの間の距離が小さくなっていく。
【0017】
そして、フリクションプレート33aとクラッチプレート33bとは、やがて滑りながら接触する状態、つまり、不完全接続状態になる。この状態では、フリクションプレート33aがクラッチプレート33bに対して滑る分だけ、エンジン32の出力トルクが変速機34に伝達されない。すなわち、エンジン32の出力トルクの一部のみが、変速機34に伝達される。換言すると、クラッチ33は、いわゆる半クラッチ状態となる。この状態から、クラッチレバー35とグリップ36との間の距離をさらに大きくしていくと、クラッチプレート33bに対するフリクションプレート33aの押し付け力が増大していく。これにより、クラッチプレート33bに対するフリクションプレート33aの滑り量が減少していき、エンジン32の出力トルクが変速機34に伝達される割合が増加していく。
【0018】
そして、クラッチレバー35とグリップ36との間の距離をさらに大きくし、クラッチレバー35とグリップ36との間の距離が第2規定距離以上になると、フリクションプレート33aは、クラッチプレート33bに対して滑ることなく接触する状態、つまり、接続状態となる。すなわち、クラッチ33は、エンジン32の出力トルクの全てが変速機34に伝達される状態となる。換言すると、クラッチ33は、エンジン32の出力トルクが変速機34に実質的に100%伝達される状態となる。
【0019】
ここで、本実施の形態では、エンジン32と変速機34との間を切断状態にしているクラッチ33の状態を、第1状態と定義する。エンジン32と変速機34との間を不完全接続状態にしているクラッチ33の状態を、第2状態と定義する。また、エンジン32と変速機34との間を接続状態にしているクラッチ33の状態を、第3状態と定義する。
【0020】
モーターサイクル100のエンジン32を制御するエンジン制御装置1は、第1制御装置10及び第2制御装置20を備えている。
【0021】
第1制御装置10は、エンジン32の出力トルクが目標トルクとなるように、エンジン32の出力トルクを制御するものである。換言すると、第1制御装置10は、エンジン32の出力トルクが目標トルクとなる回転数に、エンジン32の回転数を制御するものである。第1制御装置10は、例えばECU(Electronic Control Unit)である。
【0022】
第2制御装置20は、第1制御装置10に、エンジン32の回転数を制御する際に用いる情報を出力するものである。本実施の形態に係るエンジン制御装置1は、クラッチ33が第1状態又は第2状態となっているときに、エンジン32の回転数を目標回転数に制御する回転数一定制御を行う。この際、第2制御装置20は、第1制御装置10に、エンジン32の回転数を制御する際に用いる情報を出力する。なお、本実施の形態では、第2制御装置20は、エンジン32の回転数を制御する際に用いる情報として、目標トルクを出力する。ここで、第2制御装置20が、本発明の「制御装置」に相当する。
【0023】
また、本実施の形態においては、第2制御装置20は、モーターサイクル100の車体挙動が不安定になった際、車体挙動を安定させるために、運転者要求トルクよりも値の小さな目標トルクを出力する機能も有する。すなわち、モーターサイクル100の車体挙動が不安定になったときにエンジン32の出力トルクを抑制する車体安定化制御をエンジン制御装置1が行う際、第2制御装置20は、第1制御装置10に、運転者要求トルクよりも値の小さな目標トルクを出力する。第2制御装置20は、例えばECUである。
【0024】
第1制御装置10は、演算部11及び制御部12を備えている。
演算部11は、運転者要求トルクを演算する機能部である。なお、演算部11は、スロットルグリップ31の位置(運転手によって回転させられたスロットルグリップ31の回転量)等に基づいて、運転者要求トルクを演算している。また、演算部11は、演算した運転者要求トルクを、制御部12と、第2制御装置20の後述する要求トルク取得部23とに送信する。
【0025】
制御部12は、エンジン32の出力トルクが目標トルクとなるように、エンジン32の出力トルクを制御する機能部である。換言すると、制御部12は、エンジン32の出力トルクが目標トルクとなる回転数に、エンジン32の回転数を制御するものである。詳しくは、第2制御装置20から目標トルクが送信されていない状態においては、制御部12は、演算部11で演算された運転者要求トルクを目標トルクとして、エンジン32の出力トルクを制御する。また、第2制御装置20から目標トルクが送信されている状態においては、制御部12は、場合により、エンジン32の出力トルクが第2制御装置20から送信された目標トルクとなるように、エンジン32の出力トルクを制御する。例えば、制御部12は、スロットルバルブの開度、エンジン32の各気筒の燃焼室への燃料供給量、及び燃焼室内への空気供給量等を調節することにより、エンジン32の出力トルクを目標トルクとなるように制御する。
【0026】
第2制御装置20は、回転数取得部21、生成部22、要求トルク取得部23、及び車体挙動検出部24を備えている。
【0027】
回転数取得部21は、エンジン32の回転数を取得する機能部である。回転数取得部21が取得したエンジン32の回転数は、生成部22に送られる。なお、エンジン32の回転数の取得方法は、任意である。例えば、エンジン32の実際の回転数である実回転数をセンサ等で検出し、当該実回転数を回転数取得部21が取得する構成でもよい。また例えば、制御部12が制御するスロットルバルブの開度、エンジン32の各気筒の燃焼室への燃料供給量、及び燃焼室内への空気供給量等に基づいて、エンジン32の回転数を算出し、当該算出された回転数を回転数取得部21が取得する構成でもよい。この際、エンジン32の回転数の算出は、回転数取得部21が行ってもよいし、制御部12が行ってもよいし、他の機能部が行ってもよい。
【0028】
生成部22は、回転数一定制御を行う際、エンジン32の回転数を制御する際に用いる情報を生成し、該情報を制御部12に出力する機能部である。具体的には、回転数一定制御を行う際、生成部22は、エンジン32の回転数が予め設定された目標回転数となる情報を生成し、該情報を制御部12に出力する。換言すると、制御部12は、エンジン32の回転数と予め設定された目標回転数との差が規定値以下となるように、前記情報を生成する。生成部22から制御部12への情報の出力は、少なくとも、モーターサイクル100が走行中であって、第3状態にあるクラッチ33が第1状態又は第2状態となり、エンジン32の回転数が規定回転数以上となる位置に運転者がスロットルグリップ31を保持している場合に行われる。
【0029】
なお、目標回転数は、クラッチ33によってエンジン32と変速機34との間を接続した際、高い加速力を得るのに好適な回転数である。例えば、目標回転数は、エンジン32が最高トルクとなる回転数近傍の回転数である。目標回転数は、例えば生成部22に、予め記憶されている。また、生成部22は、例えば、クラッチレバー35の位置に基づいて、クラッチ33の状態を判定している。また、生成部22は、例えば、前輪41の回転速度、又は後輪42の回転速度等に基づき、モーターサイクル100が走行しているか否かを判定している。なお、クラッチ33の状態を判定する機能部、及び、モーターサイクル100が走行しているか否かを判定する機能部を、生成部22とは異なる機能部として設けても勿論よい。
【0030】
また、生成部22から制御部12への該情報の出力、つまり回転数一定制御は、モーターサイクル100の停止中にも行われる。詳しくは、モーターサイクル100の停止中であって、クラッチ33の状態が第1状態となっていて、エンジン32の回転数が規定回転数以上となる位置に運転者がスロットルグリップ31を保持している場合に、生成部22は、エンジン32の回転数が目標回転数となる情報を生成し、該情報を制御部12に出力する。また、生成部22は、クラッチ33の状態が第2状態となっている間も、エンジン32の回転数が目標回転数となる情報の生成を継続し、該情報の制御部12への出力を継続する。そして、生成部22は、クラッチ33の状態が第3状態になると、エンジン32の回転数が目標回転数となる情報の生成を終了し、該情報の制御部12への出力を終了する。すなわち、生成部22は、第1状態となっていたクラッチ33の状態が第3状態になるまでの間、エンジン32の回転数が目標回転数となる情報を生成し、該情報を制御部12に出力する。
【0031】
ここで、本実施の形態では、生成部22は、エンジン32の回転数を制御する際に用いる情報として、制御部12がエンジン32の出力トルクを制御する際の目標トルクを生成する。
【0032】
図2は、本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置が行う回転数一定制御の一例を説明するための図である。
なお、
図2(a)は、回転数一定制御が行われた際の、エンジン32の実回転数の変遷を示している。詳しくは、
図2(a)の横軸は時間となっており、
図2(a)の縦軸はエンジン32の回転数となっている。また、
図2(a)に示す二点鎖線は、エンジン32の目標回転数101である。
図2(a)に示す実線は、エンジン32の実回転数102である。また、
図2(b)は、回転数一定制御が行われた際の、エンジン32の出力トルクの変遷を示している。詳しくは、
図2(b)の横軸は時間となっており、
図2(b)の縦軸はトルクとなっている。また、
図2(b)に示す二点鎖線は、演算部11で演算された運転者要求トルク111である。
図2(b)に示す実線は、エンジン32の出力トルク112である。上述のように、制御部12は、エンジン32の出力トルクが目標トルクとなるように、エンジン32の出力トルクを制御する。このため、
図2(b)に実線で示す出力トルク112は、生成部22が生成する目標トルクを表しているとも言える。なお、
図2(b)では、基準位置になっている状態からスロットルグリップ31を回転した際の運転者要求トルク111を示している。また、
図2(a)及び
図2(b)に示す破線は、実回転数102が目標回転数101に到達した時間を示している。
【0033】
生成部22は、エンジン32の実回転数102が目標回転数101となるように、目標トルクを生成する。そして、生成部22は、この目標トルクを制御部12へ出力する。詳しくは、生成部22は、目標回転数101と回転数取得部21が取得したエンジン32の実回転数102との差分に基づいて、目標トルクを増減させる。そして、制御部12は、エンジン32の出力トルク112が目標トルクとなるように、エンジン32の出力トルク112を制御する。換言すると、制御部12は、エンジン32の出力トルク112が目標トルクとなる回転数に、エンジン32の回転数を制御する。これにより、エンジン32の実回転数102は、目標回転数101となる。
【0034】
図2に示す回転数一定制御をさらに詳しく説明すると、生成部22は、回転数取得部21が取得したエンジン32の実回転数102が目標回転数101に到達するまでは、運転者要求トルク111を目標トルクとする。すなわち、エンジン32の実回転数102が目標回転数101に到達するまでは、制御部12は、エンジン32の出力トルク112が運転者要求トルク111となるように、エンジン32の出力トルク112を制御する。これにより、エンジン32の実回転数102を、目標回転数101へ早期に到達させることができる。すなわち、エンジン32の実回転数102と予め設定された目標回転数との差が規定値以下となるように、エンジン32の実回転数102を早期に目標回転数101近傍に収束させることができる。
【0035】
なお、運転者要求トルク111は、要求トルク取得部23から生成部22へ送信されてくる。詳しくは、要求トルク取得部23は、演算部11で演算された運転者要求トルク111を取得する機能部である。すなわち、演算部11から要求トルク取得部23へ、該演算部11で演算された運転者要求トルク111が送信される。そして、要求トルク取得部23は、演算部11で演算された運転者要求トルク111を生成部22へ送信する。
【0036】
エンジン32の実回転数102が目標回転数101に到達した後、生成部22は、目標トルクを運転者要求トルク111よりも低い値とする。そして、上述のように、生成部22は、目標回転数101とエンジン32の実回転数102との差分に基づいて、目標トルクを増減させる。また、制御部12は、エンジン32の出力トルク112が目標トルクとなるように、エンジン32の出力トルク112を制御する。すなわち、エンジン制御装置1は、生成部22によって目標トルクを増減させることにより、エンジン32の実回転数102が目標回転数101となるようにフィードバック制御する。
【0037】
なお、エンジン制御装置1が採用するフィードバック制御の種類は任意である。換言すると、生成部22は、エンジン制御装置1に採用されたフィードバック制御の種類に応じた方法により、目標回転数101とエンジン32の実回転数102との差分に基づいて、目標トルクを増減させればよい。
【0038】
例えば、エンジン32の実回転数102が目標回転数101より高い場合、生成部22は、目標トルクを減少させる。この際、目標トルクを減少させる量は、一定量であってもよいし、エンジン32の実回転数102と目標回転数101との差に応じて異ならせてもよい。また例えば、エンジン32の実回転数102が目標回転数101より高い場合であっても、エンジン32の実回転数102と目標回転数101との差が小さくなってきている場合、生成部22は、アンダーシュートを抑制するため、目標トルクの減少を中止してもよい。すなわち、生成部22は、目標トルクを変更しなくてもよいし、目標トルクを増加させてもよい。
【0039】
同様に、例えば、エンジン32の実回転数102が目標回転数101より低い場合、生成部22は、目標トルクを増加させる。この際、目標トルクを増加させる量は、一定量であってもよいし、エンジン32の実回転数102と目標回転数101との差に応じて異ならせてもよい。また例えば、エンジン32の実回転数102が目標回転数101より低い場合であっても、エンジン32の実回転数102と目標回転数101との差が小さくなってきている場合、生成部22は、オーバーシュートを抑制するため、目標トルクの増加を中止してもよい。すなわち、生成部22は、目標トルクを変更しなくてもよいし、目標トルクを減少させてもよい。
【0040】
モーターサイクル100が走行中、第3状態のクラッチ33が第1状態又は第2状態となった際にこのような回転数一定制御を行うことにより、モーターサイクル100が発進してラウンチコントロール制御が終了した後に、運転者が、エンジン32の回転数が規定回転数以上となる位置にスロットルグリップ31を保持し続けつつ、クラッチ33を第1状態又は第2状態にしても、再度クラッチ33が第3状態になった際に、エンジン32の実回転数102が目標回転数101近傍となる。これにより、モーターサイクル100が発進した後の段階においても、安全で且つ高い加速力を実現することができる。
【0041】
また、モーターサイクル100の停止中、クラッチ33の状態が第1状態となった際にこのような回転数一定制御を行うことにより、モーターサイクル100の発進時にも安全で且つ高い加速力を得ることができる。
【0042】
なお、本実施の形態では、生成部22は、エンジン32の回転数を制御する際に用いる情報として、制御部12がエンジン32の出力トルクを制御する際の目標トルクを生成した。これに限らず、生成部22が生成する情報は、制御部12がエンジン32の回転数を制御する際に用いることができる情報であればよい。例えば、生成部22は、エンジン32の回転数を制御する際に用いる情報として、目標回転数101そのものを生成してもよい。
【0043】
再び、
図1の説明に戻ると、車体挙動検出部24は、モーターサイクル100の不安定な車体挙動を検出する機能部である。モーターサイクル100の不安定な車体挙動とは、例えば、モーターサイクル100の前輪41が浮き上がる現象であるウィリーである。また例えば、モーターサイクル100の不安定な車体挙動とは、モーターサイクル100の後輪42が空転する現象であるスリップである。車体挙動検出部24は、ウィリー及びスリップのうちの少なくとも一方を検出した場合、生成部22に、モーターサイクル100の車体挙動が不安定であることを知らせる信号を送る。また、該信号を受けた生成部22は、制御部12に、運転者要求トルクよりも値の小さな目標トルクを出力する。そして、制御部12は、エンジン32の出力トルクが該目標トルクとなるようにエンジン32の出力トルクを制御し、モーターサイクル100の車体挙動の安定化を図る。すなわち、車体挙動検出部24がウィリー及びスリップのうちの少なくとも一方を検出した場合、エンジン制御装置1は、車体安定化制御を行う。
【0044】
この車体安定化制御は、クラッチ33が第3状態である場合に実行される。ここで、本実施の形態に係る生成部22は、回転数一定制御の際、エンジン32の回転数を制御する際に用いる情報として、制御部12がエンジン32の出力トルクを制御する際の目標トルクを生成する。また、生成部22は、車体安定化制御の際にも、制御部12がエンジン32の出力トルクを制御する際の目標トルクを生成する。このため、回転数一定制御から車体安定化制御へ移行する際、エンジン32の出力トルクを連続的に制御することができる。したがって、回転数一定制御から車体安定化制御へ移行する際、連続的にモーターサイクル100の車体挙動を制御でき、車体挙動の制御性が向上する。
【0045】
続いて、本実施の形態に係るエンジン制御装置1の回転数一定制御の制御フローについて説明する。
【0046】
図3は、本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置の回転数一定制御を示すフローチャートである。
ステップS1において、回転数一定制御の開始条件が成立したと生成部22が判定した場合、エンジン制御装置1は、ステップS2からステップS4で回転数一定制御を行う。モーターサイクル100が走行中の場合、回転数一定制御の開始条件は、クラッチ33の状態が第1状態又は第2状態となったことである。
【0047】
具体的には、ステップS2は、制御部12がエンジン32の回転数を制御する際に用いる情報を生成する、生成ステップである。ステップS2において生成部22は、エンジン32の回転数と目標回転数との差が規定値以下となるように、エンジン32の回転数を制御する際に用いる情報を生成する。本実施の形態では、生成部22は、上述のように、エンジン32の回転数を制御する際に用いる情報として、制御部12がエンジン32の出力トルクを制御する際の目標トルクを生成する。ステップS3は、生成ステップであるステップS2で生成された情報を制御部12に出力する、出力ステップである。ステップS3において生成部22は、ステップS2で生成された目標トルクを制御部12に出力する。ステップS4は、ステップS3で出力された情報に基づいて制御部12がエンジン32を制御する、制御ステップである。ステップS4において制御部12は、エンジン32の出力トルクが目標トルクとなるように、エンジン32の出力トルクを制御する。
【0048】
ステップS4の後、ステップS5において生成部22は、回転数一定制御を継続する条件が成立しているか否かを判定する。回転数一定制御を継続する条件は、クラッチ33の状態が第1状態又は第2状態となっていることである。回転数一定制御を継続する条件が成立している場合、ステップS2に戻って回転数一定制御が継続される。回転数一定制御を継続する条件が成立していない場合、ステップS6に進み、エンジン制御装置1は、回転数一定制御を終了する。
【0049】
以上、本実施の形態に係る第2制御装置20は、エンジン32、変速機34、及びエンジン32と変速機34との間を接続又は切断するクラッチ33を有するモーターサイクル100に用いられる制御装置である。第2制御装置20は、エンジン32の回転数を制御する制御部12がエンジン32の回転数を制御する際に用いる情報を生成し、該情報を制御部12に出力する生成部22を備える。また、生成部22は、モーターサイクル100の走行中に、接続されているクラッチ33が切断状態又は不完全接続状態になる場合、エンジン32の回転数が予め設定された目標回転数となる情報を生成し、制御部12に出力する。
【0050】
また、本実施の形態に係る第2制御装置20が行うエンジン32の回転数の制御方法は、エンジン32、変速機34、及びエンジン32と変速機34との間を接続又は切断するクラッチ33を有するモーターサイクル100における、エンジン32の回転数の制御方法である。本実施の形態に係るエンジン32の回転数の制御方法は、生成ステップと、出力ステップとを有する。生成ステップでは、エンジン32の回転数を制御する制御部12がエンジン32の回転数を制御する際に用いる情報を生成する。出力ステップでは、生成ステップで生成された情報を制御部12に出力する。また、生成ステップでは、モーターサイクル100の走行中に、接続されているクラッチ33が切断状態又は不完全接続状態となる場合に、エンジン32の回転数が予め設定された目標回転数になる情報を生成する。
【0051】
そのため、本実施の形態に係る第2制御装置20が採用されたモーターサイクル100においては、発進後のクラッチ33の再接続時に、エンジン32の回転数を安全で且つ高い加速力を得るのに好適な回転数に維持することが可能となって、モーターサイクル100を安全で且つ高い加速力で走行させることが可能となる。
【0052】
なお、上述したエンジン制御装置1の構成も、あくまでも一例である。例えば、第1制御装置10の演算部11を第2制御装置20に設け、演算部11と要求トルク取得部23とを1つの機能部として構成してもよい。すなわち、要求トルク取得部23に、演算部11の機能を持たせてもよい。このように要求トルク取得部23を構成した場合、要求トルク取得部23は、演算することによって運転者要求トルクを取得することとなる。また例えば、第1制御装置10及び第2制御装置20を1つのECUで構成する等、第1制御装置10及び第2制御装置20を一体で構成してもよい。なお、第1制御装置10と第2制御装置20とを別々のECUとしてエンジン制御装置1を構成した場合、第1制御装置10及び第2制御装置20を1つのECUとしてエンジン制御装置1を構成した場合と比べ、同じ処理能力のエンジン制御装置1を安価に得ることができる。このため、本実施の形態では、第1制御装置10と第2制御装置20とを別々のECUで構成している。すなわち、第1制御装置10と第2制御装置20とを別体に構成している。
【0053】
また、回転数一定制御を行う際の目標トルクの生成方法も、
図2で説明した方法に限定されるものではない。
【0054】
図4は、本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置が行う回転数一定制御の別の一例を説明するための図である。
なお、
図4(a)は、回転数一定制御が行われた際の、エンジン32の実回転数の変遷を示している。詳しくは、
図4(a)の横軸は時間となっており、
図4(a)の縦軸はエンジン32の回転数となっている。また、
図4(a)に示す二点鎖線は、エンジン32の目標回転数101である。
図4(a)に示す実線は、エンジン32の実回転数102である。
図4(a)に示す一点鎖線は、後述の出力トルク勾配制限制御を行わなかった場合のエンジン32の実回転数103である。また、
図4(b)は、回転数一定制御が行われた際の、エンジン32の出力トルクの変遷を示している。詳しくは、
図4(b)の横軸は時間となっており、
図4(b)の縦軸はトルクとなっている。また、
図4(b)に示す二点鎖線は、演算部11で演算された運転者要求トルク111である。
図4(b)に示す実線は、エンジン32の出力トルク112である。また、
図4(a)及び
図4(b)に示す破線は、後述の出力トルク勾配制限制御が開始された時間を示している。
【0055】
図2で示した回転数一定制御では、生成部22は、エンジン32の実回転数102が目標回転数101に到達するまでは、運転者要求トルク111を目標トルクとした。そして、当該構成により、エンジン32の実回転数102を、目標回転数101へ早期に到達させることを図った。すなわち、エンジン32の実回転数102を、早期に目標回転数101近傍に収束させることを図った。
【0056】
しかしながら、運転者要求トルク111の単位時間当たりの増加量が大きい場合、エンジン32の実回転数が目標回転数101に到達するまで、運転者要求トルク111を目標トルクとすると、エンジン32の実回転数を目標回転数101近傍に収束させるのにかえって時間がかかる場合がある。
図4(a)に示した出力トルク勾配制限制御を行わなかった場合のエンジン32の実回転数103からわかるように、エンジン32の実回転数103の目標回転数101に対するオーバーシュート量が大きくなってしまうからである。
【0057】
このため、
図4に示すように、エンジン32が目標回転数101に到達するまでの間に、運転者要求トルク111の単位時間当たりの増加量が閾値以上となった場合、エンジン制御装置1は、出力トルク勾配制限制御を行ってもよい。出力トルク勾配制限制御では、生成部22は、目標トルクの単位時間当たりの増加量が運転者要求トルク111の単位時間当たりの増加量よりも減少するように、目標トルクを生成する。また、生成部22は、このように生成された目標トルクを制御部12に出力する。そして、制御部12は、エンジン32の出力トルク112がこのように生成された目標トルクとなるように、エンジン32の出力トルク112を制御する。
【0058】
出力トルク勾配制限制御を行った場合、エンジン32の実回転数は、
図4(a)に示す実回転数102のようになる。すなわち、出力トルク勾配制限制御を行うことにより、エンジン32の実回転数102の目標回転数101に対するオーバーシュート量を小さくできる。このため、出力トルク勾配制限制御を行うことにより、エンジン32の実回転数102を、早期に目標回転数101近傍に収束させることができる。
【0059】
なお、出力トルク勾配制限制御において目標トルクを運転者要求トルク111よりも減少させる量は、任意である。目標トルクを一定の値だけ減少させてもよいし、運転者要求トルク111の単位時間当たりの増加量の大きさに応じて目標トルクの減少量を変更してもよい。また、出力トルク勾配制限制御を開始するタイミングも任意である。例えば、エンジン32が目標回転数101に到達するまでの間に、運転者要求トルク111の単位時間当たりの増加量が閾値以上となった場合、即座に出力トルク勾配制限制御を開始してもよい。また例えば、
図4に示すように、運転者要求トルク111の絶対値が規定値以上となった場合に、出力トルク勾配制限制御を開始してもよい。
【0060】
図5は、本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置が行う回転数一定制御の別の一例を説明するための図である。
なお、
図5(a)は、回転数一定制御が行われた際の、エンジン32の実回転数の変遷を示している。詳しくは、
図5(a)の横軸は時間となっており、
図5(a)の縦軸はエンジン32の回転数となっている。また、
図5(a)に示す二点鎖線は、エンジン32の目標回転数101である。
図5(a)に示す実線は、エンジン32の実回転数102である。また、
図5(b)は、回転数一定制御が行われた際の、エンジン32の出力トルクの変遷を示している。詳しくは、
図5(b)の横軸は時間となっており、
図5(b)の縦軸はトルクとなっている。また、
図5(b)に示す二点鎖線は、演算部11で演算された運転者要求トルク111である。
図5(b)に示す実線は、エンジン32の出力トルク112である。
【0061】
従来の自動二輪車においてラウンチコントロールを行う際、レブリミッターにより、エンジンの回転数が一定回転数に維持される。レブリミッターが作動すると、規定回転数に達した際、エンジンの燃焼室への燃料供給(燃料噴射)が停止される。この燃料供給の停止が繰り返されることにより、レブリミッターが作動すると、エンジン音は独特の断続音となる。このエンジンの断続音は、運転者にとって、魅力的な音に感じられる。
【0062】
そこで、
図5に示す回転数一定制御では、クラッチ33の状態が第1状態又は第2状態となっている際に、エンジン32の実回転数102と目標回転数101との差が規定値以下に収束した場合に、エンジン32の実回転数102が増減を繰り返すように、目標トルクを生成する。このように回転数一定制御を行うことにより、エンジン32から、レブリミッター作動時のような断続音を発することができる。このため、モーターサイクル100の運転者の使用感を向上させることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 エンジン制御装置、10 第1制御装置、11 演算部、12 制御部、20 第2制御装置、21 回転数取得部、22 生成部、23 要求トルク取得部、24 車体挙動検出部、31 スロットルグリップ、32 エンジン、33 クラッチ、33a フリクションプレート、33b クラッチプレート、34 変速機、35 クラッチレバー、36 グリップ、41 前輪、42 後輪、100 モーターサイクル、101 目標回転数、102 実回転数、103 実回転数(出力トルク勾配制限制御無し)、111 運転者要求トルク、112 出力トルク。