(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】液圧制御ユニット
(51)【国際特許分類】
B60T 8/88 20060101AFI20220916BHJP
B60T 8/34 20060101ALI20220916BHJP
F16K 37/00 20060101ALI20220916BHJP
B60G 13/08 20060101ALI20220916BHJP
F16K 31/06 20060101ALN20220916BHJP
B62K 25/04 20060101ALN20220916BHJP
【FI】
B60T8/88
B60T8/34
F16K37/00 D
B60G13/08
F16K31/06 310A
B62K25/04
(21)【出願番号】P 2018097794
(22)【出願日】2018-05-22
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100175743
【氏名又は名称】田渕 周作
(72)【発明者】
【氏名】大高 順
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-058539(JP,U)
【文献】特開2011-131706(JP,A)
【文献】特開2002-246229(JP,A)
【文献】米国特許第06111514(US,A)
【文献】特開2002-220041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B66B 1/00-1/52
F16K 31/06-31/11
F16K 37/00
B60G 13/08
B62K 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両挙動制御システム(10)に用いられる液圧制御ユニット(5)であって、
基体(51a)と、当該基体(51a)に組み込まれ、前記車両挙動制御システム(10)の作動液に生じさせる液圧を制御するための電磁弁(30)を含むコンポーネントと、を含む液圧制御機構(51)と、
前記コンポーネントの動作を制御する制御部(52b)を含む制御装置(52)と、
を備え、
前記制御装置(52)は、
前記電磁弁(30)の巻線(30d)に流れる電流の電流値を取得する取得部(52a)と、
前記電磁弁(30)の巻線(30d)への電流の印加開始時の前記電流値が上昇する過程において、前記電流値が一時的に下降する挙動を示したか否かを判定することによって、前記電磁弁(30)の固着の有無を診断する診断部(52c)と、
を含
み、
前記診断部(52c)は、前記電流値が継続的に下降する際の前記電流値の下降量が基準値より大きい場合、前記電流値が一時的に下降する挙動を示したと判定し、前記電磁弁(30)の固着が生じていないと診断し、
前記診断部(52c)は、温度に応じて前記基準値を変化させる、
液圧制御ユニット。
【請求項2】
前記診断部(52c)は、前記電磁弁(30)の巻線(30d)への電流の印加開始時の前記電流値が上昇する過程で前記電磁弁(30)の巻線(30d)に電力を供給する電源(6)の挙動が異常であったと判定された場合、前記電磁弁(30)の固着の診断結果を有効としない、
請求項
1に記載の液圧制御ユニット。
【請求項3】
前記制御装置(52)は、前記電磁弁(30)の固着が生じていると診断された場合、診断結果を報知装置(71)に報知させるための動作指令を出力する、
請求項1
又は2に記載の液圧制御ユニット。
【請求項4】
モータサイクル(100)の車両挙動制御システム(10)に用いられる、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の液圧制御ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、電磁弁の固着の有無を適切に診断することができる液圧制御ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータサイクル等の車両の挙動を制御するための車両挙動制御システムとして、作動液の液圧を利用するものがある。このような車両挙動制御システムでは、作動液に生じさせる液圧を制御する液圧制御ユニットが用いられている。液圧制御ユニットでは、具体的には、作動液の流路に設けられる電磁弁を動作させることによって作動液に生じさせる液圧が制御される。
【0003】
ここで、電磁弁の状態として、電磁弁における可動部であるアーマチュアが移動不能となる固着と呼ばれる状態があり、電磁弁が固着した場合には、液圧制御ユニットにより作動液の液圧を適切に制御することが困難となる。ゆえに、例えば、電磁弁が固着した際にドライバに対してその旨を報知し修理を促すために、電磁弁の固着の有無を診断することが必要となる。例えば、特許文献1では、ブレーキシステムにおいて、電磁弁の巻線に流れる電流の電流値に基づいて、電磁弁の固着等の機械的故障の有無を診断する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術等の従来の技術では、電磁弁の固着の有無を適切に診断することが十分であるとは言えず、電磁弁の固着の有無をより適切に診断することが望ましいと考えられる。例えば、特許文献1に開示されている技術によれば、電磁弁の巻線への電流の印加開始時の巻線に流れる電流値が上昇する過程において、当該電流値の検出値が電磁弁の固着が生じていない場合に想定される電流値として予め設定される値からどの程度ずれているかに基づいて、電磁弁の固着の有無が診断される。ところが、電磁弁の巻線に流れる電流の電流値は、電磁弁の固着の有無にかかわらず、例えば作動液の温度等に応じて変化し得るので、このような診断方法では、電磁弁の固着の有無を適切に診断することが困難となる場合がある。
【0006】
本発明は、上述の課題を背景としてなされたものであり、電磁弁の固着の有無を適切に診断することができる液圧制御ユニットを得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液圧制御ユニットは、車両挙動制御システムに用いられる液圧制御ユニットであって、基体と、当該基体に組み込まれ、前記車両挙動制御システムの作動液に生じさせる液圧を制御するための電磁弁を含むコンポーネントと、を含む液圧制御機構と、前記コンポーネントの動作を制御する制御部を含む制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記電磁弁の巻線に流れる電流の電流値を取得する取得部と、前記電磁弁の巻線への電流の印加開始時の前記電流値が上昇する過程において、前記電流値が一時的に下降する挙動を示したか否かを判定することによって、前記電磁弁の固着の有無を診断する診断部と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る液圧制御ユニットでは、制御装置は、液圧制御機構の電磁弁の巻線に流れる電流の電流値を取得する取得部と、当該電磁弁の巻線への電流の印加開始時の当該電流値が上昇する過程において、当該電流値が一時的に下降する挙動を示したか否かを判定することによって、当該電磁弁の固着の有無を診断する診断部とを含む。それにより、電磁弁の巻線に流れる電流の電流値に影響を与えるパラメータ(例えば、作動液の温度等)の変化によらずに、電磁弁の固着の有無を診断することができる。よって、電磁弁の固着の有無を適切に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るブレーキシステムが搭載されるモータサイクルの概略構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るブレーキシステムの概略構成を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る液圧制御ユニットの電磁弁の一例を示す断面模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る液圧制御ユニットの電流センサの一例を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る液圧制御ユニットの制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る液圧制御ユニットの制御装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施形態に係る液圧制御ユニットの電磁弁の巻線への電流の印加開始時における巻線に流れる電流値の推移の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る液圧制御ユニットについて、図面を用いて説明する。なお、以下では、二輪のモータサイクルのブレーキシステムに用いられる液圧制御ユニットについて説明しているが、本発明に係る液圧制御ユニットは、ブレーキシステム以外の他の車両挙動制御システム(例えば、サスペンションの減衰力を制御するためのシステム等)に用いられるものであってもよい。例えば、本発明に係る液圧制御ユニットをサスペンションの減衰力を制御するためのシステムに用いることによって、そのようなシステムの作動液に生じさせる液圧を制御するための電磁弁の固着の有無を適切に診断することができる。また、本発明に係る液圧制御ユニットは、二輪のモータサイクル以外の車両(例えば、バギー車、三輪のモータサイクル、自転車等の他の鞍乗り型車両又は四輪の車両等)の車両挙動制御システムに用いられるものであってもよい。なお、鞍乗り型車両は、ドライバが跨って乗車する車両を意味する。また、以下では、前輪制動機構及び後輪制動機構が、それぞれ1つずつである場合を説明しているが、前輪制動機構及び後輪制動機構の少なくとも一方が複数であってもよく、また、前輪制動機構及び後輪制動機構の一方が設けられていなくてもよい。
【0011】
また、以下で説明する構成及び動作等は一例であり、本発明に係る液圧制御ユニットは、そのような構成及び動作等である場合に限定されない。
【0012】
また、以下では、同一の又は類似する説明を適宜簡略化又は省略している。また、各図において、同一の又は類似する部材又は部分については、符号を付すことを省略しているか、又は同一の符号を付している。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略している。
【0013】
<液圧制御ユニットの構成>
図1~
図5を参照して、本発明の実施形態に係る液圧制御ユニット5の構成について説明する。
【0014】
液圧制御ユニット5は、モータサイクル100の車輪を制動する制動力を制御するためのものである。本実施形態では、液圧制御ユニット5は、モータサイクル100のブレーキシステム10に用いられる。ブレーキシステム10は、本発明に係る車両挙動制御システムの一例に相当し、作動液としてのブレーキ液の液圧を利用し、モータサイクル100の挙動を制動力によって制御するためのシステムである。
【0015】
図1は、液圧制御ユニット5を備えるブレーキシステム10が搭載されるモータサイクル100の概略構成を示す模式図である。
図2は、ブレーキシステム10の概略構成を示す模式図である。
【0016】
図1及び
図2に示されるように、ブレーキシステム10は、モータサイクル100に搭載される。モータサイクル100は、胴体1と、胴体1に旋回自在に保持されているハンドル2と、胴体1にハンドル2と共に旋回自在に保持されている前輪3と、胴体1に回動自在に保持されている後輪4とを備える。また、モータサイクル100は、情報を視覚的に表示する装置である表示装置71を備える。表示装置71は、ドライバに情報を報知する報知装置の一例に相当し、表示装置71としては、例えば、ディスプレイ又はランプが用いられる。
【0017】
ブレーキシステム10は、第1ブレーキ操作部11と、少なくとも第1ブレーキ操作部11に連動して前輪3を制動する前輪制動機構12と、第2ブレーキ操作部13と、少なくとも第2ブレーキ操作部13に連動して後輪4を制動する後輪制動機構14とを備える。また、ブレーキシステム10は、液圧制御ユニット5を備え、前輪制動機構12の一部及び後輪制動機構14の一部は、当該液圧制御ユニット5に含まれる。液圧制御ユニット5は、前輪制動機構12によって前輪3に付与される制動力及び後輪制動機構14によって後輪4に付与される制動力を制御する機能を担うユニットである。
【0018】
第1ブレーキ操作部11は、ハンドル2に設けられており、ドライバの手によって操作される。第1ブレーキ操作部11は、例えば、ブレーキレバーである。第2ブレーキ操作部13は、胴体1の下部に設けられており、ドライバの足によって操作される。第2ブレーキ操作部13は、例えば、ブレーキペダルである。
【0019】
前輪制動機構12及び後輪制動機構14のそれぞれは、ピストン(図示省略)を内蔵しているマスタシリンダ21と、マスタシリンダ21に付設されているリザーバ22と、胴体1に保持され、ブレーキパッド(図示省略)を有しているブレーキキャリパ23と、ブレーキキャリパ23に設けられているホイールシリンダ24と、マスタシリンダ21のブレーキ液をホイールシリンダ24に流通させる主流路25と、ホイールシリンダ24のブレーキ液を逃がす副流路26と、マスタシリンダ21のブレーキ液を副流路26に供給する供給流路27とを備える。
【0020】
主流路25には、込め弁(EV)31が設けられている。副流路26は、主流路25のうちの、込め弁31に対するホイールシリンダ24側とマスタシリンダ21側との間をバイパスする。副流路26には、上流側から順に、弛め弁(AV)32と、アキュムレータ33と、ポンプ34とが設けられている。主流路25のうちの、マスタシリンダ21側の端部と、副流路26の下流側端部が接続される箇所との間には、第1弁(USV)35が設けられている。供給流路27は、マスタシリンダ21と、副流路26のうちのポンプ34の吸込側との間を連通させる。供給流路27には、第2弁(HSV)36が設けられている。
【0021】
込め弁31は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。弛め弁32は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。第1弁35は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。第2弁36は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。後述するように、込め弁31、弛め弁32、第1弁35及び第2弁36の各々は、液圧制御ユニット5の電磁弁30の一例に相当する。
【0022】
液圧制御ユニット5は、上述した前輪制動機構12の一部及び後輪制動機構14の一部を含む液圧制御機構51と、液圧制御機構51の動作を制御する制御装置(ECU)52とを備える。
【0023】
液圧制御ユニット5の液圧制御機構51は、具体的には、基体51aと、当該基体51aに組み込まれブレーキシステム10のブレーキ液に生じさせる液圧を制御するための電磁弁30を含むコンポーネントとを含む。
【0024】
例えば、基体51aは、略直方体形状を有し、金属材料によって形成されている。液圧制御機構51の基体51aの内部には、主流路25、副流路26及び供給流路27が形成されており、電磁弁30(具体的には、込め弁31、弛め弁32、第1弁35及び第2弁36)、アキュムレータ33及びポンプ34が、ブレーキシステム10のブレーキ液に生じさせる液圧を制御するためのコンポーネントとして、組み込まれている。これらのコンポーネントの動作は、後述するように、液圧制御ユニット5の制御装置52によって制御される。なお、基体51aは、1つの部材によって形成されていてもよく、複数の部材によって形成されていてもよい。また、基体51aが複数の部材によって形成されている場合、各コンポーネントは、当該複数の部材に分かれて設けられていてもよい。
【0025】
以下、
図3を参照して、込め弁31等の電磁弁30のより詳細な構成について説明する。
【0026】
図3は、液圧制御ユニット5の電磁弁30の一例を示す断面模式図である。具体的には、
図3に例示されている電磁弁30は、液圧制御ユニット5の電磁弁30のうち非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁30である。
【0027】
図3に示されるように、液圧制御ユニット5の電磁弁30は、例えば、ケース30aと、アーマチュア30bと、タペット30cと、巻線30dと、コア30eと、スプリング30fと、第1流路30gと、第2流路30hとを含む。
【0028】
アーマチュア30bは、ケース30a内において当該ケース30aに対して相対的に往復移動可動な可動部に相当する。例えば、アーマチュア30bは、略円筒形状を有しており、ケース30aの内部に形成される内部空間内に配置され、当該アーマチュア30bの軸方向に沿って往復移動可能となっている。タペット30cは、アーマチュア30bに固定されており、当該アーマチュア30bと一体として移動可能となっている。例えば、タペット30cは、円形の断面形状を有する中実の棒状部材であり、アーマチュア30bの内周部に嵌合されて固定されている。
【0029】
巻線30dは、ケース30aに固定されており、供給される電力を用いて磁界を発生させる。例えば、巻線30dは、ケース30aの内部空間をアーマチュア30bの周方向に沿って囲むように設けられている。コア30eは、巻線30dにより生じる磁界によって磁化される鉄芯であり、例えば、略円筒形状を有している。コア30eは、ケース30aの内部空間においてアーマチュア30bと同軸上に配置され、当該コア30eの内周部には、タペット30cが挿通されている。コア30eが磁化されることによって、コア30eに近づく方向の磁力がアーマチュア30bに対して作用するようになっている。
【0030】
スプリング30fは、アーマチュア30bをコア30eから遠ざかる方向に付勢する。例えば、スプリング30fは、ケース30aの内部空間において、ケース30aの内周部とアーマチュア30bのコア30e側の端面との間に挟まれて設けられている。
【0031】
第1流路30g及び第2流路30hは、ケース30aの内部に形成されており、電磁弁30が設けられている主流路25、副流路26又は供給流路27の一部を形成している。また、第1流路30g及び第2流路30hは、ケース30a内において、タペット30cの先端部が収容されている空間を介して互いに接続されている。
【0032】
巻線30dに電流が印加されていない状態(つまり、非通電状態)において、アーマチュア30bは、
図3において実線で示されるように、スプリング30fによる付勢力によってコア30eから離隔した位置に保持されている。それにより、第1流路30g及び第2流路30hは、互いに連通された状態(つまり、電磁弁30が開放された状態)となっている。
【0033】
一方、巻線30dに電流が印加されている状態(つまり、通電状態)において、アーマチュア30bは、
図3において二点鎖線で示されるように、磁化されているコア30eとの間で生じる磁力によってタペット30cとともにコア30e側に吸引されて保持されている。それにより、第2流路30hの端部の開口がタペット30cの先端部により閉塞され、第1流路30g及び第2流路30hは、互いに遮断された状態(つまり、電磁弁30が閉鎖された状態)となる。
【0034】
ここで、液圧制御ユニット5には、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値を検出する電流センサ40が設けられている。なお、電流センサ40は、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。例えば、電流センサ40は、
図2に示されるように、各電磁弁30についてそれぞれ設けられており、各電流センサ40の検出結果は、制御装置52に出力され、制御装置52が行う処理に用いられる。
【0035】
具体的には、電流センサ40として、込め弁31、弛め弁32、第1弁35及び第2弁36には、それぞれ込め弁電流センサ41、弛め弁電流センサ42、第1弁電流センサ45及び第2弁電流センサ46が設けられている。このように、込め弁電流センサ41、弛め弁電流センサ42、第1弁電流センサ45及び第2弁電流センサ46の各々は、液圧制御ユニット5の電流センサ40の一例に相当する。
【0036】
以下、
図4を参照して、込め弁電流センサ41等の電流センサ40のより詳細な構成について説明する。
【0037】
図4は、液圧制御ユニット5の電流センサ40の一例を示す模式図である。
【0038】
図4に示されるように、液圧制御ユニット5の電流センサ40は、例えば、シャント抵抗40aと、オペアンプ40bとを含む。
【0039】
シャント抵抗40aは、電源6と接続される電磁弁30の巻線30dと直列に接続されている。電磁弁30の巻線30dには、二次電池等の電源6から電力が供給される。オペアンプ40bは、シャント抵抗40aに対して並列に接続されており、シャント抵抗40aの両端の間で生じる電圧を差動増幅して出力する。電流センサ40は、このようなシャント抵抗40aの抵抗値及びオペアンプ40bによる出力値に基づいて、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値を検出する。
【0040】
液圧制御ユニット5の制御装置52は、具体的には、液圧制御機構51の基体51aに組み込まれている上述したコンポーネントの動作を制御する。
【0041】
例えば、制御装置52の一部又は全ては、マイコン、マイクロプロセッサユニット等で構成されている。また、例えば、制御装置52の一部又は全ては、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。制御装置52は、例えば、1つであってもよく、また、複数に分かれていてもよい。また、制御装置52は、基体51aに取り付けられていてもよく、また、基体51a以外の他の部材に取り付けられていてもよい。
【0042】
図5は、液圧制御ユニット5の制御装置52の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0043】
図5に示されるように、制御装置52は、例えば、取得部52aと、制御部52bと、診断部52cとを含む。
【0044】
取得部52aは、各センサ又は制御装置52と異なる他の制御装置等から出力される情報を取得し、制御部52b及び診断部52cへ出力する。例えば、取得部52aは、モータサイクル100の走行状態に関する情報を取得し、制御部52bへ出力する。また、例えば、取得部52aは、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値を電流センサ40から取得し、診断部52cへ出力する。
【0045】
制御部52bは、液圧制御機構51の基体51aに組み込まれている上述したコンポーネントの動作を制御する。それにより、制御部52bは、前輪制動機構12によって前輪3に付与される制動力及び後輪制動機構14によって後輪4に付与される制動力を制御することができる。制御部52bは、上記のコンポーネントの動作を、例えば、モータサイクル100の走行状態に応じて制御する。
【0046】
例えば、通常状態、つまり、後述されるABS動作又は自動制動動作等が実行されない状態では、制御部52bによって、込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖され、第1弁35が開放され、第2弁36が閉鎖される。その状態で、第1ブレーキ操作部11が操作されると、前輪制動機構12において、マスタシリンダ21のピストン(図示省略)が押し込まれてホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧が増加し、ブレーキキャリパ23のブレーキパッド(図示省略)が前輪3のロータ3aに押し付けられて、前輪3に制動力が付与される。また、第2ブレーキ操作部13が操作されると、後輪制動機構14において、マスタシリンダ21のピストン(図示省略)が押し込まれてホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧が増加し、ブレーキキャリパ23のブレーキパッド(図示省略)が後輪4のロータ4aに押し付けられて、後輪4に制動力が付与される。
【0047】
ABS動作は、例えば、車輪(具体的には、前輪3又は後輪4)にロック又はロックの可能性が生じた場合に実行され、当該車輪に付与される制動力をドライバによるブレーキ操作部(具体的には、第1ブレーキ操作部11又は第2ブレーキ操作部13)の操作によらずに減少させる動作である。例えば、ABS動作が実行されている状態では、制御部52bによって、込め弁31が閉鎖され、弛め弁32が開放され、第1弁35が開放され、第2弁36が閉鎖される。その状態で、制御装置52によってポンプ34が駆動されることにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧が減少し、車輪に付与される制動力が減少する。
【0048】
自動制動動作は、例えば、モータサイクル100の旋回時等にモータサイクル100の姿勢を安定化する必要性が生じた場合に実行され、車輪(具体的には、前輪3又は後輪4)に付与される制動力をドライバによるブレーキ操作部(具体的には、第1ブレーキ操作部11又は第2ブレーキ操作部13)の操作によらずに生じさせる動作である。例えば、自動制動動作が実行されている状態では、制御部52bによって、込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖され、第1弁35が閉鎖され、第2弁36が開放される。その状態で、制御装置52によってポンプ34が駆動されることにより、ホイールシリンダ24のブレーキ液の液圧が増加し、車輪を制動する制動力が生じる。
【0049】
診断部52cは、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値に基づいて、電磁弁30の固着の有無を診断する。電磁弁30の固着は、電磁弁30における可動部であるアーマチュア30bが移動不能となる状態を意味する。このような電磁弁30の固着は、例えば、ブレーキシステム10のブレーキ液が高温となることに伴い当該ブレーキ液中のガス成分が気化すること、当該ブレーキ液が吸湿すること、又は当該ブレーキ液中の防腐剤による化学反応等に起因して生じ得る。
【0050】
診断部52cは、具体的には、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加開始時の当該巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程において、当該電流値が一時的に下降する挙動を示したか否かを判定することによって、電磁弁30の固着の有無を診断する。
【0051】
本実施形態では、制御装置52が行う電磁弁30の固着の診断に関する処理(主に、診断部52cが行う処理)によって、電磁弁30の固着の有無を適切に診断することが実現される。このような電磁弁30の固着の診断に関する処理については、後述にて詳細に説明する。
【0052】
<液圧制御ユニットの動作>
図6及び
図7を参照して、本発明の実施形態に係る液圧制御ユニット5の動作について説明する。
【0053】
図6は、液圧制御ユニット5の制御装置52が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6に示される制御フローは、具体的には、制御装置52が行う処理のうち電磁弁30の固着の診断に関する処理の流れに相当し、例えば、各電磁弁30についてそれぞれ並列的に実行される。また、
図6に示される制御フローは、例えば、ブレーキシステム10の起動後(換言すると、モータサイクル100の運転開始後)に開始される。
図6におけるステップS510及びステップS590は、制御フローの開始及び終了にそれぞれ対応する。
【0054】
図6に示される制御フローが開始されると、ステップS511において、診断部52cは、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加が開始されたか否かを判定する。電磁弁30の巻線30dへの電流の印加が開始されたと判定された場合(ステップS511/YES)、ステップS513に進む。一方、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加が開始されていないと判定された場合(ステップS511/NO)、ステップS511の判定処理が繰り返される。
【0055】
例えば、診断部52cは、電流センサ40の検出値に基づいて、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加が開始されたか否かを判定する。具体的には、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加が開始されると、巻線30dに流れる電流の電流値は、目標電流値に向けて上昇し始める。目標電流値は、具体的には、電磁弁30が閉鎖された状態に対応する位置にアーマチュア30bを適切に保持し得る電流値に設定される。ゆえに、診断部52cは、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値の挙動に基づいて、巻線30dへの電流の印加が開始されたか否かを判定することができる。
【0056】
なお、本明細書では、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加開始時は、具体的には、巻線30dに流れる電流の電流値が巻線30dへの電流の印加に伴い上昇し始めた後、当該電流値が目標電流値に到達するまでの間を意味する。
【0057】
ステップS513において、診断部52cは、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値の上昇が終了したか否かを判定する。電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値の上昇が終了したと判定された場合(ステップS513/YES)、ステップS515に進む。一方、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値の上昇が終了していないと判定された場合(ステップS513/NO)、ステップS513の判定処理が繰り返される。
【0058】
例えば、診断部52cは、電流センサ40の検出値に基づいて、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値の上昇が終了したか否かを判定する。具体的には、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値は、巻線30dに電流が印加されることにより上昇して目標電流値に到達した後、当該目標電流値に維持される。ゆえに、診断部52cは、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値の挙動に基づいて、巻線30dに流れる電流の電流値の上昇が終了したか否かを判定することができる。
【0059】
ステップS515において、診断部52cは、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程で、電磁弁30の巻線30dに電力を供給する電源6の挙動が異常であったか否かを判定する。電源6の挙動が異常であったと判定された場合(ステップS515/YES)、ステップS511に戻る。一方、電源6の挙動が正常であったと判定された場合(ステップS515/NO)、ステップS517に進む。
【0060】
例えば、モータサイクル100には、電源6の電圧値等の状態量を検出するセンサ(図示省略)が設けられ、診断部52cは、当該センサから制御装置52に出力される検出結果に基づいて、電源6の挙動が異常であったか否か(例えば、電源6の電圧値が過度に不安定であったか否か)を判定する。なお、制御装置52と異なる他の制御装置から制御装置52へ電源6の挙動が異常であったか否かを示す情報が出力される場合、診断部52cは、当該他の制御装置から出力されるそのような情報に基づいて、電源6の挙動が異常であったか否かを判定してもよい。
【0061】
ステップS517において、診断部52cは、電磁弁30の固着の有無を診断する。
【0062】
具体的には、診断部52cは、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加開始時の巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程において、当該電流値が一時的に下降する挙動を示したか否かを判定することによって、電磁弁30の固着の有無を診断する。この際、診断部52cは、巻線30dに流れる電流値が一時的に下降する挙動を示したと判定した場合、電磁弁30の固着が生じていないと診断する。
【0063】
図7は、液圧制御ユニット5の電磁弁30の巻線30dへの電流の印加開始時における巻線30dに流れる電流の電流値の推移の一例を示す模式図である。具体的には、
図7では、電磁弁30の固着が生じていない場合における巻線30dに流れる電流の電流値の推移が実線で示されており、電磁弁30の固着が生じている場合における巻線30dに流れる電流の電流値の推移が破線で示されている。また、
図7では、横軸は時間t[ms]を示し、縦軸は電流値i[A]を示している。
【0064】
電磁弁30の固着が生じていない場合、電磁弁30において、巻線30dに電流が印加されることに伴いコア30eが磁化されることによって、コア30eに近づく方向の磁力がアーマチュア30bに対して作用し、アーマチュア30bはタペット30cとともにコア30e側に吸引され、移動する。この際、アーマチュア30bは、巻線30dにより生じている磁界内を当該磁界に対して相対的に移動する。それにより、巻線30dにより生じる磁束を弱めるように逆起電力が巻線30dに生じる。ゆえに、
図7において実線で示されるように、巻線30dに流れる電流が上昇する過程において、当該電流値は一時的に下降する挙動を示す。例えば、
図7では、巻線30dに流れる電流の電流値が時刻t1において下降し始め、当該電流値の下降が時刻t2において終了している様子が示されている。
【0065】
一方、電磁弁30の固着が生じている場合、電磁弁30において、巻線30dに電流が印加されることに伴いコア30eが磁化されることによって、コア30eに近づく方向の磁力がアーマチュア30bに対して作用するものの、アーマチュア30bはコア30e側に移動しない。ゆえに、アーマチュア30bの移動に伴う逆起電力は巻線30dに生じないので、
図7において破線で示されるように、巻線30dに流れる電流が上昇する過程において、当該電流値は一時的に下降する挙動を示さない。
【0066】
上記のように、巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程において、電磁弁30の固着が生じていない場合には当該電流値は一時的に下降する挙動を示し、一方、電磁弁30の固着が生じている場合には当該電流値は一時的に下降する挙動を示さない。ゆえに、巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程において、当該電流値が一時的に下降する挙動を示したか否かを判定することによって、電磁弁30の固着の有無を診断することができる。
【0067】
診断部52cは、電磁弁30の固着の有無をより適切に診断する観点では、例えば、巻線30dに流れる電流の電流値が継続的に下降する際の当該電流値の下降量が基準値より大きい場合、当該電流値が一時的に下降する挙動を示したと判定し、電磁弁30の固着が生じていないと診断することが好ましい。上記基準値は、アーマチュア30bの移動に起因して巻線30dに逆起電力が生じたか否かを適切に判定し得る値に適宜設定され、例えば、電磁弁30の仕様及びブレーキシステム10のブレーキ液の仕様に基づいて設定される。
【0068】
なお、診断部52cは、上記下降量として、巻線30dに流れる電流の電流値の単位時間あたりの下降量を用いて、当該電流値が一時的に下降する挙動を示したか否かを判定してもよい。また、診断部52cは、上記下降量として、巻線30dに流れる電流の電流値が下降し始めてから当該電流値の下降が終了するまでの間における当該電流値の下降量を用いて、当該電流値が一時的に下降する挙動を示したか否かを判定してもよい。
【0069】
ここで、電磁弁30の固着の有無をさらに適切に診断する観点では、診断部52cは、温度に応じて上記基準値を変化させることが好ましい。
【0070】
例えば、診断部52cは、ブレーキシステム10のブレーキ液の温度に応じて上記基準値を変化させる。その場合、例えば、モータサイクル100には、ブレーキシステム10のブレーキ液の温度を検出するセンサ(図示省略)が設けられ、診断部52cは、当該センサから制御装置52に出力される検出結果に基づいて、上記基準値を変化させる。具体的には、診断部52cは、ブレーキシステム10のブレーキ液の温度が高いほど、基準値を大きくする。ブレーキ液の温度が高いほど、ブレーキ液の粘度は低いので、アーマチュア30bの移動速度は大きくなりやすい。それにより、アーマチュア30bの移動に伴って巻線30dに生じる逆起電力は大きくなりやすい。ゆえに、ブレーキ液の温度が高いほど基準値を大きくすることによって、電磁弁30の固着の有無をさらに適切に診断することができる。
【0071】
なお、診断部52cは、ブレーキシステム10のブレーキ液の温度に実質的に換算可能な他の物理量(例えば、電磁弁30の温度等)に応じて上記基準値を変化させてもよい。その場合、例えば、モータサイクル100には、ブレーキシステム10のブレーキ液の温度に実質的に換算可能な他の物理量を検出するセンサ(図示省略)が設けられ、診断部52cは、当該センサから制御装置52に出力される検出結果に基づいて、上記基準値を変化させる。
【0072】
次に、ステップS519において、診断部52cは、電磁弁30の固着が生じていると診断されたか否かを判定する。電磁弁30の固着が生じていると診断されたと判定された場合(ステップS519/YES)、ステップS521に進む。一方、電磁弁30の固着が生じていると診断されなかったと判定された場合(ステップS519/NO)、ステップS511に戻る。
【0073】
ステップS521において、制御装置52は、診断結果(具体的には、電磁弁30の固着が生じていると診断された旨を示す診断結果)を報知装置に報知させるための動作指令を出力する。
【0074】
例えば、制御装置52は、電磁弁30の固着が生じていると診断された場合、電磁弁30の固着が生じていると診断された旨を示す診断結果を表示させるための動作指令を表示装置71に出力し、当該診断結果を表示装置71に表示させる。なお、報知装置として、表示装置71以外の他の装置(例えば、音を出力する装置等)が用いられてもよい。
【0075】
【0076】
上記のように、
図6に示される制御フローでは、ステップS515でYESと判断された場合、ステップS517に進まずに、ステップS511に戻る。つまり、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加開始時の巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程で電源6の挙動が異常であったと判定された場合、電磁弁30の固着の診断が行われず、次回以降の巻線30dへの電流の印加開始時において、電磁弁30の固着の診断が行われる。電磁弁30の固着の有無をさらに適切に診断する観点では、このように、診断部52cは、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加開始時の巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程で電磁弁30の巻線30dに電力を供給する電源6の挙動が異常であったと判定された場合、電磁弁30の固着の診断結果を有効としないことが好ましい。
【0077】
なお、ステップS515は、ステップS517又はステップS519の後に実行されてもよい。そのような場合において、ステップS515でYESと判断された場合、ステップS521に進まずに、ステップS511に戻る。つまり、巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程で電磁弁30の巻線30dに電力を供給する電源6の挙動が異常であったと判定された場合、電磁弁30の固着の診断結果は有効とされず、電磁弁30の固着の診断が再度行われる。
【0078】
なお、上記では、診断部52cが電磁弁30の巻線30dへの電流の印加開始時の巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程において電磁弁30の固着の有無を診断する例について説明したが、このような処理に加えて、診断部52cは、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加終了時の巻線30dに流れる電流の電流値が下降する過程においても電磁弁30の固着の有無を診断してもよい。例えば、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加終了時において、巻線30dに流れる電流の電流値は、目標電流値から下降する。診断部52cは、巻線30dに流れる電流の電流値が下降するこのような過程において、当該電流値が一時的に上昇する挙動を示したか否かを判定することによって、電磁弁30の固着の有無を診断してもよい。この際、診断部52cは、巻線30dに流れる電流値が一時的に上昇する挙動を示したと判定した場合、電磁弁30の固着が生じていないと診断する。
【0079】
また、上記では、
図6に示される制御フローが各電磁弁30についてそれぞれ並列的に実行され、各電磁弁30についてそれぞれ固着の診断が行われる例について説明したが、固着の診断は、液圧制御ユニット5の一部の電磁弁30のみについて行われてもよい。なお、その場合、例えば、固着の診断の対象となる電磁弁30についてのみ電流センサ40が設けられる。
【0080】
<液圧制御ユニットの効果>
本発明の実施形態に係る液圧制御ユニット5の効果について説明する。
【0081】
液圧制御ユニット5では、診断部52cは、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加開始時の巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程において、当該電流値が一時的に下降する挙動を示したか否かを判定することによって、電磁弁30の固着の有無を診断する。上述したように、巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程において、電磁弁30の固着が生じていない場合には当該電流値は一時的に下降する挙動を示し、一方、電磁弁30の固着が生じている場合には当該電流値は一時的に下降する挙動を示さない。ゆえに、巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程において、当該電流値が一時的に下降する挙動を示したか否かを判定することによって、電磁弁30の固着の有無を診断することができる。
【0082】
さらに、診断部52cによる上記の電磁弁30の固着の有無の診断の処理によれば、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値に影響を与えるパラメータ(例えば、ブレーキシステム10のブレーキ液の温度等)の変化によらずに、電磁弁30の固着の有無を診断することができる。それにより、例えば、巻線30dに流れる電流の電流値の検出値が電磁弁30の固着が生じていない場合に想定される電流値として予め設定される値からどの程度ずれているかに基づいて電磁弁30の固着の有無を診断する場合と比較して、電磁弁30の固着の有無を適切に診断することができる。ゆえに診断部52cによる上記の電磁弁30の固着の有無の診断の処理によれば、電磁弁30の固着の有無を適切に診断することができる。
【0083】
好ましくは、液圧制御ユニット5では、電磁弁30の巻線30dに流れる電流の電流値が継続的に下降する際の当該電流値の下降量が基準値より大きい場合、当該電流値が一時的に下降する挙動を示したと判定し、電磁弁30の固着が生じていないと診断する。それにより、例えば電磁弁30及びブレーキ液の仕様に基づいて基準値を適切に設定することによって、電磁弁30のアーマチュア30bの移動に伴い上記電流値が一時的に下降する挙動を示したか否かをより適切に判定することができる。ゆえに、電磁弁30の固着の有無をより適切に診断することができる。
【0084】
好ましくは、液圧制御ユニット5では、診断部52cは、温度に応じて上記基準値を変化させる。それにより、例えばブレーキシステム10のブレーキ液の温度に応じて上記基準値を変化させることによって、ブレーキ液の粘度の変化に応じて基準値を適切に設定することができる。ゆえに、電磁弁30のアーマチュア30bの移動に伴い上記電流値が一時的に下降する挙動を示したか否かをさらに適切に判定することができる。ゆえに、電磁弁30の固着の有無をさらに適切に診断することができる。
【0085】
好ましくは、液圧制御ユニット5では、診断部52cは、電磁弁30の巻線30dへの電流の印加開始時の巻線30dに流れる電流の電流値が上昇する過程で電磁弁30の巻線30dに電力を供給する電源6の挙動が異常であったと判定された場合、電磁弁30の固着の診断結果を有効としないことが好ましい。それにより、電源6の挙動が異常であることに起因して、電磁弁30の固着の有無について誤診してしまうことを抑制することができる。例えば、電磁弁30の固着が生じているものの、電源6の電圧値が過度に不安定であることに起因して巻線30dに流れる電流の電流値が一時的に下降する挙動を示した場合に、電磁弁30の固着が生じていないと診断してしまうことを抑制することができる。ゆえに、電磁弁30の固着の有無をさらに適切に診断することができる。
【0086】
好ましくは、液圧制御ユニット5では、制御装置52は、電磁弁30の固着が生じていると診断された場合、診断結果を報知装置に報知させるための動作指令を出力する。それにより、電磁弁30の固着が生じている場合に、ドライバに対してその旨を報知することができ、例えば、モータサイクル100の修理をドライバに対して促すことができる。
【0087】
好ましくは、液圧制御ユニット5は、モータサイクル100の車両挙動制御システム(例えば、ブレーキシステム10)に用いられる。ここで、モータサイクル100では、他の車両と比較して、ブレーキ液の流路とエンジン等の駆動源との間の距離が短くなりやすい。ゆえに、ブレーキ液がエンジン等の駆動源から発せられる熱によって暖められやすく高温になりやすいので、ブレーキ液中のガス成分の気化が生じやすい。それにより、特に、モータサイクル100では、電磁弁30の固着が生じやすい。ゆえに、そのようなモータサイクル100の車両挙動制御システムに液圧制御ユニット5を用いることによって、電磁弁30の固着の有無を適切に診断することができる効果を有効に活用することができる。
【0088】
本発明は各実施の形態の説明に限定されない。例えば、各実施の形態の全て又は一部が組み合わされてもよく、また、各実施の形態の一部のみが実施されてもよい。また、例えば、各ステップの順序が入れ替えられてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 胴体、2 ハンドル、3 前輪、3a ロータ、4 後輪、4a ロータ、5 液圧制御ユニット、6 電源、10 ブレーキシステム、11 第1ブレーキ操作部、12 前輪制動機構、13 第2ブレーキ操作部、14 後輪制動機構、21 マスタシリンダ、22 リザーバ、23 ブレーキキャリパ、24 ホイールシリンダ、25 主流路、26 副流路、27 供給流路、30 電磁弁、30a ケース、30b アーマチュア、30c タペット、30d 巻線、30e コア、30f スプリング、30g 第1流路、30h 第2流路、31 込め弁、32 弛め弁、33 アキュムレータ、34 ポンプ、35 第1弁、36 第2弁、40 電流センサ、40a シャント抵抗、40b オペアンプ、41 込め弁電流センサ、42 弛め弁電流センサ、45 第1弁電流センサ、46 第2弁電流センサ、51 液圧制御機構、51a 基体、52 制御装置、52a 取得部、52b 制御部、52c 診断部、71 表示装置、100 モータサイクル。