(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】金属材料用表面処理剤並びに、表面処理被膜付金属材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20220916BHJP
【FI】
C23C26/00 C
(21)【出願番号】P 2018123269
(22)【出願日】2018-06-28
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【氏名又は名称】下田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【氏名又は名称】菅家 博英
(72)【発明者】
【氏名】内田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】配島 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】末内 優輝
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-505898(JP,A)
【文献】特開2004-035377(JP,A)
【文献】特開平10-110279(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103484857(CN,A)
【文献】特開2007-327107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M
2O・SiO
2(ここで、SiO
2/M
2Oのモル比は1.8以上7.0以下の範囲内
であり、Mはアルカリ金属である)で表される化合物及び/又は混合物(A)と、
安定化酸化ジルコニウム(B)と、
金属酸化物粒子及び粘土鉱物からなる群から選択され
る成分(C)(但し、化合物及び/又は混合物(A)又は安定化酸化ジルコニウム(B)を除く。)と、を含む、金属材料用表面処理剤
であって、
前記化合物及び/又は混合物(A)の含有量が、前記表面処理剤の全固形分に対して、42.8質量%以上87.5質量%以下の範囲内であり、
前記表面処理剤における、前記化合物及び/又は混合物(A)の質量(A
M
)と前記安
定化酸化ジルコニウム(B)の質量(B
M
)との比(B
M
/A
M
)が0.08以上0.5以
下の範囲内であり、且つ前記質量(A
M
)と、前記成分(C)の質量(C
M
)との比(C
M
/A
M
)が0.08以上0.5以下の範囲内である、金属材料用表面処理剤。
【請求項2】
前記安定化酸化ジルコニウム(B)が、CeO
2を安定化剤として含有し、酸化ジルコ
ニウム(ZrO
2)とCeO
2との質量比(CeO
2/ZrO
2)が0.01以上1.0以下の範囲内である、請求項
1に記載の金属材料用表面処理剤。
【請求項3】
前記化合物及び/又は混合物(A)におけるSiO
2/M
2Oのモル比が3.9以上6.0以下の範囲内である、請求項1
または2に記載の金属材料用表面処理剤。
【請求項4】
金属材料表面上に請求項1~
3のいずれか1項に記載の金属材料用表面処理剤を接触させて形成される被膜を有する、表面処理被膜付金属材料。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の金属材料用表面処理剤から形成される被膜を金属材料に付着させる工程を含む、表面処理被膜付金属材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用、家電用及びOA機器等の工業製品に組み込まれた電子部品及びマイクロ機器部品に使用される金属材料に対して好適な金属材料用表面処理剤並びに、金属材料を金属材料用表面処理剤で表面処理して得られた表面処理被膜付金属材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電及びOA機器等の工業製品においては、その製品を構成する電子部品及びマイクロ機器部品に金属材料が用いられている。これら工業製品は、屋内外、海岸付近及び工場における使用等、各種の環境下において使用される。このため、これら工業製品に用いられる金属材料は、これら環境を含む過酷な環境にも耐えることが要求されている。
【0003】
また、最近では、電子部品及びマイクロ機器部品に対する、高機能化及び高密度化の要請があり、これら部品の小型化及び微細化が進んでいる。このため、電子部品及びマイクロ機器部品に使用されている金属材料を保護することを目的に、金属材料の表面に表面処理被膜を設ける技術が開発されている。
【0004】
例えば、金属材料の表面に有機系の表面処理被膜を設ける態様がある。具体的には、有機成分を主体とした表面処理被膜を有する態様や、封止剤による有機系の保護被膜を設ける態様がある。より具体的には、金属材料の表面に水分散性の有機高分子樹脂を自己析出させて表面処理被膜を設ける方法(特許文献1)がある。また、特定のアクリル樹脂及び無機充填剤を含む封止剤による有機系の保護被膜を設ける方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-145034号公報
【文献】特開2005-298765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、金属材料はより過酷な環境で使用される場合が多いため表面処理被膜に対する性能要求は一層高まっている。特に、電子部品及びマイクロ機器部品等に使用される金属材料は、部品の製造において高温に曝されることや、自動車のエンジン付近や電子機器の内部に組み込まれた後に高温環境に曝されて使用されることがある。したがって金属材料への表面処理被膜には、高温環境下にて優れた耐熱性を有し、かつ、優れた密着性及び耐水性を有することが要求される。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、高温環境下において優れた耐熱性を有し、かつ、優れた密着性及び耐水性を有する表面処理被膜を金属材料の表面に設けることができる金属材料用表面処理剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記金属材料用表面処理剤を用いて、金属材料の表面に表面処理被膜を形成した表面処理被膜付金属材料を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)M2O・SiO2(ここで、SiO2/M2Oのモル比は1.8以上7.0以下の
範囲内であり、Mはアルカリ金属である)で表される化合物及び/又は混合物(A)と、
安定化酸化ジルコニウム(B)と、
金属酸化物粒子及び粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも1種を含む成分(C)(但し、前記化合物及び/又は混合物(A)又は安定化酸化ジルコニウム(B)を除く。)と、を含む、金属材料用表面処理剤。
(2)前記化合物及び/又は混合物(A)の含有量が、前記表面処理剤の全固形分に対して、42.8質量%以上87.5質量%以下の範囲内であり、
前記表面処理剤における、前記化合物及び/又は混合物(A)の質量(AM)と前記安定化酸化ジルコニウム(B)の質量(BM)との比(BM/AM)が0.08以上0.5以下の範囲内であり、且つ前記質量(AM)と、前記表面処理剤における前記成分(C)の質量(CM)との比(CM/AM)が0.08以上0.5以下の範囲内である、上記(1)に記載の金属材料用表面処理剤。
(3)前記安定化酸化ジルコニウム(B)が、CeO2を安定化剤として含有し、酸化ジルコニウム(ZrO2)とCeO2との質量比(CeO2/ZrO2)が0.01以上1.0以下の範囲内である、上記(1)または(2)に記載の金属材料用表面処理剤。
(4)前記混合物及び/又は化合物(A)におけるSiO2/M2Oのモル比が3.9以上6.0以下の範囲内である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の金属材料用表面処理剤。
(5)金属材料表面上に上記(1)~(4)のいずれかに記載の金属材料用表面処理剤表面処理剤を接触させて形成される被膜を有する、表面処理被膜付金属材料。
(6)上記(1)~(4)のいずれかに記載の金属材料用表面処理剤から形成される被膜を金属材料に付着させる工程を含む、表面処理被膜付き金属材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温環境下にて優れた耐熱性を有し、かつ、高温環境下に曝された後であっても密着性及び耐水性を有する表面処理被膜を金属材料の表面に形成させることができる金属材料用表面処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態に係る金属材料用表面処理剤及びその製造方法、並びに、表面処理被膜付金属材料について説明する。
まず、表面処理剤について説明する。
【0011】
本実施形態に係る金属材料用表面処理剤は、例えば金属材料の表面上に、耐食性、密着性、耐水性などの諸性能を総合的に満足し、かつ、高温に曝された場合であっても、耐食性及び密着性に優れる被膜を形成することができる表面処理剤である。本実施形態に係る金属材料用表面処理剤は、所定の化合物及び/又は混合物(A)と、安定化酸化ジルコニウム(B)と、成分(C)とを含む。なお、本明細書において「高温」とは、200℃以上を意味してよく、300℃以上を意味してよく、400℃以上を意味してもよい。
以下、本実施形態に係る表面処理剤に含まれる各成分について説明する。
【0012】
<化合物及び/又は混合物(A)>
本実施形態の表面処理剤は、所定の化合物及び/又は混合物(A)を含有する。化合物及び/又は混合物(A)は、アルカリ金属酸化物(M2O)とシリカ(SiO2)とを含む化合物及び/又は混合物であり、本明細書では「M2O・SiO2」で表す。アルカリ金属酸化物とシリカとのモル比(SiO2/M2O)は1.8以上7.0以下の範囲内であり、3.1以上6.5以下の範囲内であることが好ましく、3.9以上6.0以下の範囲内であることがより好ましい。上記モル比は、化合物や混合物を調製する際のアルカリ金属酸化物とシリカの原料仕込み割合から計算される。
化合物及び/又は混合物(A)の製造方法としては、特に限定されず既知の方法により
製造できる。例えばアルカリ金属酸化物とシリカとを混合して混合物を得てもよく、市販されているアルカリ金属酸化物とシリカとを含む化合物を用いてよい。また、アルカリ金属成分Mとしてはナトリウム、カリウム、リチウム等の金属成分が挙げられる。
【0013】
表面処理剤中における化合物及び/又は混合物(A)の含有量は特に限定されないが、表面処理剤中の全固形分に対して、42.8質量%以上87.5質量%以下の範囲内が好ましく、53.8質量%以上78.5質量%以下の範囲内がより好ましく、59.1質量%以上73.9質量%以下の範囲内がさらに好ましい。
なお、全固形分とは、化合物及び/又は混合物(A)、安定化酸化ジルコニウム(B)、並びに成分(C)の固形分の合計を意味し、溶媒などの揮発成分は含まれない。
【0014】
化合物及び/又は混合物(A)のより好ましい形態としては、アルカリ金属酸化物とシリカとのモル比が3.8以下であるアルカリ金属ケイ酸塩と、微粒子酸化ケイ素(D)と、を混合し、アルカリ金属酸化物とシリカとのモル比を3.9以上7.0以下の範囲内とした混合物が挙げられる。
アルカリ金属ケイ酸塩としては、広く市版されている液状のものが使用でき、水ガラス1号、2号、3号、カリウムシリケ-ト溶液、リチウムシリケート溶液等、アルカリ金属酸化物とシリカとのモル比が3.8以下のものが具体例として挙げられる。これらのアルカリ金属ケイ酸塩は単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0015】
微粒子酸化ケイ素(D)としては特段限定されるものではないが、その粒子表面あるいは一部にシラノール基を有し、平均粒子径が100nm以下のものが、好適に使用できる。より具体的には、スノーテックスC、スノーテックスCS、スノーテックスCM、スノーテックスO、スノーテックスOS、スノーテックスOM、スノーテックスNS、スノーテックスN、スノーテックスNM、スノーテックスS、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40(以上、日産化学株式会社)、アデライトAT-20N、アデライトAT-20A、アデライトAT-20Q(以上、株式会社ADEKA)などの球状のものが挙げられる。その他、スノーテックスUP、スノーテックスOUP、スノーテックスPS-S、スノーテックスPS-SO、スノーテックスPS-M、スノーテックスPS-MO、スノーテックスPS-L、スノーテックスPS-LO(以上、日産化学株式会社)などの非球状(鎖状や鱗片状)のものが挙げられる。さらに、アエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170(以上、日本アエロジル株式会社)などの、塩化ケイ素を空気中で燃焼酸化させて作製したものが挙げられる。また、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランの加水分解物が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上混合して使用してもよい。
【0016】
アルカリ金属酸化物とシリカとのモル比が3.8以下であるアルカリ金属ケイ酸塩と微粒子酸化ケイ素(D)とを混合させる温度は特に制限されるものではないが、通常20℃以上80℃以下の範囲内であり、より好ましくは35℃以上70℃以下の範囲内であり、さらに好ましくは50℃以上65℃以下の範囲内である。また、上記原料を混合することよって得られる化合物及び/又は混合物(A)のアルカリ金属酸化物とシリカとのモル比(SiO2/M2O)は、通常3.9以上7.0以下の範囲内であり、好ましくは3.9以上6.0以下の範囲内であり、より好ましくは4.0以上5.5以下の範囲内であり、特に好ましくは4.1以上5.0以下の範囲内である。
【0017】
<安定化酸化ジルコニウム(B)>
本実施形態の表面処理剤は、安定化酸化ジルコニウム(B)を含有する。安定化酸化ジルコニウム(B)は、安定化剤で安定化された酸化ジルコニウムであり、例えば、CaO、Y2O3、MgO、CeO2、Sc2O3、及びHfO2からなる群から選択された酸
化物で安定化された酸化ジルコニウムである。より具体的には、酸化ジルコニウムにCaO、Y2O3、MgO、CeO2、Sc2O3、及びHfO2からなる群から選択された1種若しくは2種以上の酸化物を固溶させた安定化酸化ジルコニウム、あるいは該安定化酸化ジルコニウムに分散強化剤としてAl2O3、TiO、Ta2O5、Nb2O5などを添加することによりさらに安定化した安定化酸化ジルコニウムが挙げられる。
【0018】
安定化酸化ジルコニウム(B)は、酸化ジルコニウムと酸化ジルコニウム以外の金属酸化物の総質量との質量比(ZrO2以外の金属酸化物)/(ZrO2)が0.01以上1以下の範囲内となるように配合することが好ましく、0.02以上0.43以下の範囲内となるように配合することがより好ましく、0.04以上0.33以下の範囲内となるように配合することが特に好ましい。なお、酸化ジルコニウム以外の金属酸化物としては、CaO、Y2O3、MgO、CeO2、Sc2O3、及びHfO2からなる群から選択された1種の酸化物又は2種以上の酸化物を含む混合物が挙げられる。
【0019】
安定化酸化ジルコニウム(B)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ジルコニウム塩と安定化元素を含む塩とを水に溶解させ、湿式混合することにより得られた溶液をアンモニア水に添加し、得られた沈殿物を濾過し、水洗し、焼成することにより安定化酸化ジルコニウムを得る方法が挙げられる。
前記ジルコニウム塩としては、例えば、ジルコニウム硝酸塩、水酸化ジルコニウムなどが挙げられる。安定化元素を含む塩としては、例えば、CaO、Y2O3、MgO、CeO2、Sc2O3、HfO2等の硝酸塩又は水酸化物が挙げられる。
また、焼成温度は、特に限定されないが、800~1450℃程度が好ましい。この温度範囲で焼成することにより、微細な安定化酸化ジルコニウムを得ることができる。
【0020】
焼成後に得られた安定化酸化ジルコニウムは、粉砕により平均粒子径を調整してもよい。平均粒子径としては、0.1μm以上10μm以下の範囲内が好ましく、0.2μm以上5μm以下の範囲内がより好ましく、0.3μm以上2μm以下の範囲内が特に好ましい。なお、平均粒子径の測定方法としては、レーザー回折・散乱法などの公知の粒度分布測定法などにて測定することができる。
【0021】
安定化酸化ジルコニウム(B)のより好ましい形態としては、CeO2を安定化剤とすることが挙げられ、酸化ジルコニウム(ZrO2)とCeO2との質量比(CeO2/ZrO2)が0.01以上1.0以下の範囲内が好ましく、0.02以上0.43以下の範囲内がより好ましく、0.04以上0.33以下の範囲内が特に好ましい。また、CeO2にCaO、SrO、BaO、Y2O3、La2O3、Ce2O3、Pr2O3、Nb2O3、Sc2O3、Eu2O3、Gd2O3、Tb2O3、Dr2O3、Ho2O3、Er2O3、Yb2O3、PbO、WO3、MoO3、V2O5、Ta2O5、及びNb2O5から選択される1種もしくは2種以上を添加した複合酸化物も使用可能である。複合酸化物としては、酸化セリウムとイットリアとの組み合わせが望ましい。
【0022】
表面処理剤中における安定化酸化ジルコニウム(B)の含有量は特に限定されないが、前記化合物及び/又は混合物(A)の質量(AM)と前記安定化酸化ジルコニウム(B)の質量(BM)との比(BM/AM)が0.08以上0.5以下の範囲内であることが好ましく、0.16以上0.37以下の範囲内であることがより好ましく、0.17以上0.31以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0023】
<成分(C)>
本実施形態の表面処理剤は、金属酸化物粒子及び粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも1種を含む成分(C)を含有する。なお、成分(C)には、既に説明した化合物及び/又は混合物(A)や安定化酸化ジルコニウム(B)に該当するものは含まれない。
【0024】
上記金属酸化物粒子を構成する成分としては、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、珪酸塩、リン酸塩、オキソ酸塩、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、及び酸化チタン、並びにこれらの複合物などが挙げられる。
また、上記粘土鉱物としては、例えば、多数のシートが積層されて形成される層状構造を有する層状粘土鉱物等を挙げることができる。層状粘土鉱物としては、例えば、層状ケイ酸塩鉱物等である。ここで、層を形成するシートは、ケイ素と酸素で構成された四面体シートであってもよいし、アルミニウム及び/又はマグネシウムを含有する八面体シートであってもよい。
【0025】
粘土鉱物(層状粘土鉱物)の具体例としては、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト等のスメクタイト族;バーミキュライト族;イライト、白雲母、金雲母、黒雲母等の雲母族;マーガライト、クリントナイト等の脆雲母族;スドーアイト等の緑泥石族;カオリナイト、ハロイサイト等のカオリン族;アンチゴライト等の蛇紋石等が挙げられる。粘土鉱物は、天然物でも合成物であってもよく、これらを単独で又は2種以上を併用して用いてもよい。
なお、本実施形態においては、成分(C)として、層状粘土鉱物(ホスト)の層間にゲスト化合物を取り込ませたインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、層状粘土鉱物の層間におけるイオンを他のイオンに交換したもの、表面処理(シランカップリング剤による表面処理、シランカップリング剤による表面処理と有機バインダによる表面処理との複合化処理等)を施したものも使用することができる。
成分(C)としては、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併せて使用してもよい。
【0026】
成分(C)の平均粒子径は、特に限定されないが、0.05μm以上15μm以下の範囲内であることが好ましく、0.1μm以上10μm以下の範囲内であることがより好ましく、0.2μm以上5μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。矩形である成分(C)においては、アスペクト比(長辺の長さ/短辺の長さ)が10以上100以下の範囲内であることが好ましく、20以上80以下の範囲内であることがより好ましく、30以上60以下の範囲内であることがさらに好ましい。
なお、平均粒子径の測定方法としては、レーザー回折・散乱法などの公知の粒度分布測定法などにて測定することができる。また、アスペクト比は、電子顕微鏡による観察により測定することができ、アスペクト比の算出の際には、少なくとも50個以上の平均値とすることが好ましく、100個以上の平均値とすることがより好ましい。
【0027】
表面処理剤中における成分(C)の含有量は特に限定されないが、化合物及び/又は混合物(A)の質量(AM)と、成分(C)の質量(CM)との比(CM/AM)が0.08以上0.5以下の範囲内であることが好ましく、0.16以上0.37以下の範囲内であることがより好ましく、0.17以上0.31以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0028】
表面処理剤は、被膜を形成するための各成分[成分(A)~(C)]を溶解または分散させるために、及び/又は濃度を調整するために、溶媒を含有していてもよい。
溶媒としては、水又は水と水混和性有機溶媒との混合物(水性媒体の体積を基準として50体積%以上の水を含有するもの)であれば特に限定されるものではない。水混和性有機溶媒としては、水と混和するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;N,N’-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル等のエーテル系溶媒;1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリ
ドン等のピロリドン系溶媒等が挙げられる。これらの水混和性有機溶媒は1種を水と混合させてもよいし、2種以上を水に混合させてもよい。
また、溶媒の含有量は、表面処理剤の全質量に対して、30質量%以上90質量%以下の範囲内であることが好ましく、40質量%以上80質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0029】
また、溶媒として水(例えば、脱イオン水)を使用する場合、表面処理剤のpHを6.0以上11.0以下の範囲内とすることが好ましい。より好ましいpHは9.0を中心として、8.0以上10.0以下の範囲内である。
なお、pHの調整にはアンモニア、炭酸、硝酸、有機酸などのpH調整剤を用いることができる。
【0030】
また、表面処理剤は、界面活性剤を含有していてもよい。
界面活性剤の種類は特に限定されず、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を用いることができる。
【0031】
表面処理剤の製造方法は特に限定されず、例えば、所定の溶媒に、上記各主成分[化合物及び/又は混合物(A)、安定化酸化ジルコニウム(B)、及び成分(C)等]を所定量添加し、必要に応じてpH調整剤、界面活性剤等の、他の成分を添加して混合することにより製造することができる。
なお、安定化酸化ジルコニウム(B)、成分(C)等を界面活性剤および水を含む水溶液に添加して、上記撹拌処理を施して分散液を作製して、その後、化合物及び/又は混合物(A)に添加して、表面処理剤を調製してもよい。なお、界面活性剤以外の、pH調整剤等の他の成分は分散液に添加してもよいし、化合物及び/又は混合物(A)を加えた表面処理剤に添加してもよい。
【0032】
上述した表面処理剤を用いることにより、表面処理被膜付金属材料を製造することができる。より具体的には、金属材料の表面上に上記表面処理剤を接触させて被膜を形成させることにより、表面処理被膜付金属材料を製造することができる。
【0033】
表面処理剤が適用される金属材料の種類としては特に限定されないが、鉄系金属材料、亜鉛めっき系鋼板、アルミニウム系金属材料、マグネシウム系金属材料、ニッケル系金属材料、チタン系金属材料、ジルコニウム系金属材料、銅系金属材料、錫系金属材料等の金属材料に適用することができる。なお、金属材料は金属以外の成分を含んでいてもよい。本実施形態の金属材料用表面処理剤は、特に、電子部品・マイクロ機器部品に用いられる電子向けの金属材料に好適に適用可能である。尚、以下の表面処理方法の説明においては、対象基材を電子向けの金属材料とするが、本実施形態の金属材料用表面処理剤の適用対象はこれに限定されるものではない。
【0034】
表面処理剤を金属材料の表面上に接触させる方法としては、特に限定されず、例えば、均一に金属材料表面に金属材料用表面処理剤を接触できれば特に制限されず、ロールコート法、浸漬法、スプレー塗布法等が挙げられる。
【0035】
金属材料表面上に形成された塗膜を乾燥する際の乾燥温度は、特に限定されるものではないが、通常80℃以上、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。また通常300℃以下、250℃以下が好ましく、220℃以下がより好ましい。乾燥時間も特に限定されるものではなく、通常1分以上、5分以上が好ましく、また通常60分以下、30分以下が好ましい。尚、乾燥方法は、特に限定されず、大気環境下において、熱風やインダクションヒーター、赤外線、近赤外線等により加熱して、金属表面処理剤を乾燥すればよい。また、加熱時間は上記記載したが、使用される金属材料の寸法(板幅、板厚
)、処理ラインの速度の他、金属表面処理剤中の化合物の種類等によって適宜最適な条件が選択される。
【0036】
金属材料表面上に金属材料用表面処理剤を接触させ乾燥した後の被膜の付着量は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1~50g/m2であり、より好ましくは0.5~20g/m2であり、更に好ましくは2.0~10g/m2である。金属材料表面の被膜は、金属材料表面全体を覆っていてもよく、本発明の効果を奏する限り金属材料表面の少なくとも一部に付着していてもよい。
【0037】
更に、前記金属材料用表面処理剤により形成された前記被膜上に、上層被膜を形成させてもよい。上層被膜は、上層被膜用表面処理剤を適用及び乾燥させることで形成可能である。ここで、上層被膜用表面処理剤は、塗布型の表面処理剤として使用されるものであることがより好ましい。上層被膜は、主として金属材料に対し、より高い電気絶縁性を付与することを目的として設ける。上層被膜用表面処理剤としては、シリコーン樹脂が好ましく、より好ましくはメチルフェニル系のシリコーン樹脂である。また、必要に応じて着色顔料、防錆顔料、熱伝導性を有する機能性顔料等を含有することができる。また、上層被膜を形成し得る塗膜を乾燥する際の加熱温度としては、300℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましい。上層被膜の厚さは、好ましくは1~100μmであり、より好ましくは5~30μmである。
【0038】
なお、本実施形態の表面処理被膜付金属材料の製造方法において、表面処理剤と金属材料との接触前に、必要に応じて、金属材料表面上の、油分、汚れ、研磨カスなどを除去する目的で、金属材料の表面に前処理を施してもよい。前処理を施すことにより、金属材料表面上を清浄することができ、表面が均一に濡れやすい状態となる。前処理方法としては、特に限定されないが、湯洗、溶剤洗浄、アルカリ脱脂洗浄、酸洗などの方法が挙げられる。なお、油分、汚れ及び研磨カスなどがなく、金属材料表面が均一に濡れやすい状態である場合は、前処理工程を省略してもよい。
【0039】
以上のように、本実施形態によって、金属材料等の表面上に、耐食性、密着性、耐水性、などの諸性能を総合的に満足し、高温環境に曝された場合においても、耐食性および密着性に優れる被膜を形成することができるので、長期にわたり金属材料を使用することが可能となる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明の作用効果を具体的に示す。下記実施例は本発明を限定するものではなく、条件の変化に伴って設計を変更したものは、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0041】
(試験板の作製)
試験板の作製方法を以下に説明する。まず、以下の市販材料を供試材として準備した。(i)冷延鋼板 SPCC-SD:板厚0.8mm
上記の供試材の表面を、日本パーカライジング社製のファインクリーナーE6406(濃度20g/L)を用いて処理し、表面上の油分や汚れを取り除いた。次に、水道水で水洗して表面が水で100%濡れることを確認したあと、更に純水を流しかけ、100℃で乾燥して表面上の水分を除去したものを試験板とした。
【0042】
(表面処理剤の調製)
表1に示す質量比(配合比率)となるように、各成分を水と混合し、表面処理剤を得た。表面処理剤における固形分濃度は25%とした。また、表面処理剤のpHは、アンモニア水、硝酸等を用いて「9」に調整した。
なお、表1の種類の欄に示す各記号の成分は、以下のように調製した。
また、表1中、「質量%」は、表面処理剤中の全固形分質量に対する割合を表す。表1中、「BM/AM」は、化合物及び/又は混合物(A)の質量(AM)と安定化酸化ジルコニウム(B)の質量(BM)との比を表す。表1中、「CM/AM」は、化合物及び/又は混合物(A)の質量(AM)と成分(C)の質量(CM)との比を表す。
【0043】
【0044】
<化合物及び/又は混合物(A):a1~a9の製造>
SiO2とM2Oのモル比が表2に示す値となるように、アルカリ金属ケイ酸塩を含む化合物及び/又は混合物を調製した。
【0045】
【0046】
<安定化酸化ジルコニウム(B):b1~b14の製造>
水酸化ジルコニウムを湿式ミルにて平均粒子径1.0μmまで粉砕し、粉砕後の水酸化ジルコニウムと水酸化セリウムとを、酸化物換算質量の比(ZrO2:CeO2)で85:15となるように湿式ミルにて湿式混合した。続いて、得られたスラリーを乾燥した後、1000℃で3時間焼成して粉砕することにより平均粒子径0.1μmの成分b1を得た。また、粉砕時間、および、水酸化ジルコニウムと水酸化セリウム(b14では水酸化イットリウム)との配合割合を適宜変更し、表3に示す平均粒子径及び(ZrO2:CeO2)の比となる成分b2~b14を製造した。
【0047】
【0048】
<成分(C):c1~c13の製造>
カオリンクレーを脱イオン水に添加し、固形分濃度を20質量%に調整した。その後、ダイノーミルを用いて粉砕し、平均粒子径が0.05μm、アスペクト比が40である成分c1を得た。また、粉砕条件を適宜変更し、表4に示す平均粒子径及びアスペクト比となる成分c2~c13を製造した。
【0049】
【0050】
得られた実施例1~55及び比較例1~8に係る表面処理剤を、バーコート塗装方法にて試験板の表面上に塗装し、その後、水洗することなく、200℃で10分間乾燥させることにより、片面当たり3g/m2の被膜を有する試験板(被膜付試験板)を得た。得られた被膜付試験板を用いて、以下の評価試験を行った。
【0051】
(評価試験の方法)
(1)耐食性
被膜付試験板を、JIS C60068-2-66:2001に準じ、温度:110℃、湿度:85%の条件下にて耐食性試験を実施し、浸漬した被膜の5%(面積率)が変色するまでの時間を評価した。
◎:120時間以上
○:48時間以上、120時間未満
△:24時間以上、48時間未満
×:24時間未満
【0052】
(2)密着性
被膜付試験板を、JIS K5400:1990に準じ、カッターで被膜に1mm角の碁盤目(100マス:10マス×10マス)状で傷を入れ、テープを貼り付けた後、テープを剥がして、被膜が剥離しなかった被膜のマス目を計測し、残存した割合を残存率として評価した。
◎:残存率91~100%
○:残存率71~90%
△:残存率51~70%
×:残存率0~50%
【0053】
(3)耐水性
被膜付試験板を50℃温水下に浸漬し、浸漬した被膜の5%(面積率)が変色するまで
の時間を評価した。
◎:120時間以上
○:48時間以上、120時間未満
△:24時間以上、48時間未満
×:24時間未満
【0054】
(4)高温環境に曝された後の耐食性および密着性
被膜付試験板をオーブンにて600℃で500時間加熱した後、25℃で24時間放置した。その後、上記(1)耐食性及び(2)密着性と同様の試験を実施した。
【0055】
(5)耐アルカリ性
被膜付試験板を5%NaOH水溶液に浸漬し、0.5時間後の外観を評価した。
◎:変化なし かつ、剥離なし
○:僅かに変色あり かつ 剥離なし
△:変色あり かつ 剥離なし
×:一部剥離
【0056】
(6)耐溶剤性
被膜付試験板をメチルエチルケトンに浸漬し、24時間後の外観を評価した。
◎:変化なし
○:僅かに変化あり
△:変色あり
×:一部剥離
【0057】
実施例1~55および比較例1~8の表面処理剤を用いて得られた被膜付試験板に関して、上記の(1)~(6)の評価を行った結果を、表5に示す。
なお、実用上の観点から、上記評価項目において「△」、「○」または「◎」であることが要求される。
【0058】