(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】外部共振器型半導体レーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/14 20060101AFI20220916BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20220916BHJP
【FI】
H01S5/14
H01S5/022
(21)【出願番号】P 2018149327
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】鄭 宇進
(72)【発明者】
【氏名】関根 尊史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 義則
(72)【発明者】
【氏名】栗田 典夫
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 利幸
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0265416(US,A1)
【文献】特開2014-063933(JP,A)
【文献】特開2003-318480(JP,A)
【文献】特開2008-060120(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101859974(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一又は複数のレーザダイオード光源とVBGとによって構成された外部共振器と、
前記レーザダイオード光源からの出力光を前記VBGに向けて出力すると共に、前記VBGからの戻り光が入力する光ファイバと、
前記VBGの配置位置を前記光ファイバにおける前記出力光及び前記戻り光の入出力端面に対して変位させる変位部と、を備え
、
前記変位部は、前記VBGから前記光ファイバへの前記戻り光の光量が変化するように前記VBGの配置位置を変位させる外部共振器型半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記変位部は、前記VBGを前記出力光の光軸に沿う方向に変位させる請求項1記載の外部共振器型半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記光ファイバの前記入出力端面と前記VBGとの間に集光レンズが配置されている請求項2記載の外部共振器型半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記光ファイバの前記入出力端面と前記VBGとの間にコリメートレンズが配置され、
前記変位部は、前記VBGを前記出力光の光軸と交差する方向に変位させる請求項1記載の外部共振器型半導体レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、外部共振器型半導体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体レーザ装置は、高効率、小型、軽量、長寿命といった優れた特徴を有している。このことから、半導体レーザ装置は、材料加工、固体レーザ励起、環境計測、分光分析、医療といった非常に幅の広い分野で応用されている。一方で、半導体レーザ装置から出力されるレーザ光は、大きな放射角及び広いスペクトル帯域を有している。このため、例えば固体レーザ励起などの分野では、レーザ光の発振スペクトルを安定して狭帯域化する技術が必要となっている。
【0003】
レーザ光の発振スペクトルを安定して狭帯域化する技術としては、例えば外部共振器型半導体レーザ装置が挙げられる。例えば特許文献1では、レーザ光の高出力化及び安定化を目的として、複数のLD光源とVBGとを用いて外部共振器を構成したレーザ装置が開示されている。また、例えば特許文献2では、レンズにより集光した光をVBG(Volume Bragg Grating)に入射させることで、レーザ光源の出力特性を調整する発光装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願第7212554号明細書
【文献】特表2007-527616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体レーザ装置の更なる応用のためには、レーザ光の安定した狭帯域化に加え、レーザ光の出力調整を行うことも重要な要素となる。しかしながら、上述した特許文献1,2のようなレーザ装置では、レーザ光の出力調整を行うためには、外部共振器を構成しているVBGを反射率の異なるVBGに交換する必要があり、出力調整の作業性が得られにくいという問題がある。
【0006】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、レーザ光の安定した狭帯域化が可能であり、かつ出力調整を容易に実施できる外部共振器型半導体レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る外部共振器型半導体レーザ装置は、一又は複数のレーザダイオード光源とVBGとによって構成された外部共振器と、レーザダイオード光源からの出力光をVBGに向けて出力すると共に、VBGからの戻り光が入力する光ファイバと、VBGの配置位置を光ファイバにおける出力光及び戻り光の入出力端面に対して変位させる変位部と、を備える。
【0008】
この外部共振器型半導体レーザ装置では、VBGを用いて外部共振器を構成することにより、外部共振器で共振する光の波長を選択できるため、レーザ光の安定した狭帯域化が可能となる。また、この外部共振器型半導体レーザ装置では、変位部によってVBGの配置位置を光ファイバの入出力端面に対して変位させることができる。これにより、VBGからの戻り光の戻り具合を光ファイバの入出力端面において変化させることができ、入出力端面に光学的に結合する戻り光の光量を調節することが可能となる。したがって、レーザ光の出力調整を容易に実施できる。
【0009】
変位部は、VBGを光の光軸に沿う方向に変位させてもよい。この場合、VBGの変位によって、VBGから戻り光の拡がり具合を光ファイバの入出力端面において変化させることができる。したがって、入出力端面に光学的に結合する戻り光の光量を容易に調節できる。
【0010】
光ファイバの入出力端面とVBGとの間に集光レンズが配置されていてもよい。この場合、VBGの変位量に対するVBGからの戻り光の拡がり具合の変化量を抑えることができる。したがって、入出力端面に光学的に結合する戻り光の光量をより細かく調節できる。
【0011】
光ファイバの入出力端面とVBGとの間にコリメートレンズが配置され、変位部は、VBGを出力光の光軸と交差する方向に変位させてもよい。この場合、VBGの変位によって、VBGで反射する光の光量を変化させることができる。したがって、入出力端面に光学的に結合する戻り光の光量を容易に調節できる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、レーザ光の安定した狭帯域化が可能であり、かつ出力調整を容易に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る外部共振器型半導体レーザ装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図1に示した外部共振器型半導体レーザ装置における出力調整の様子を示す概略図である。
【
図3】本開示の効果確認試験の結果を示す図である。
【
図4】第2実施形態に係る外部共振器型半導体レーザ装置の構成を示す概略図である。
【
図5】第3実施形態に係る外部共振器型半導体レーザ装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る外部共振器型半導体レーザ装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
[第1実施形態]
【0015】
図1は、第1実施形態に係る外部共振器型半導体レーザ装置の構成を示す概略図である。同図に示すように、第1実施形態に係る外部共振器型半導体レーザ装置1Aは、一又は複数のレーザダイオード光源2を集光系3によって光学的に結合してなる光源部4と、レーザダイオード光源2との間で外部共振器5を構成するVBG(Volume Bragg Grating)6と、光源部4とVBG6との間で光を導光する光ファイバ7と、VBG6の配置位置を変位させる変位部8とを備えて構成されている。
【0016】
本実施形態では、複数のレーザダイオード光源2によって光源部4が構成されている。また、集光系3は、例えば光ファイバカプラ等によって構成されている。光ファイバ7は、例えばコア100μmのマルチモードファイバによって構成されている。光ファイバ7における光源部4側の端部は、集光系に対して光学的に結合されている。また、光ファイバ7におけるVBG6側の端部は、光源部4からの光(以下「出力光La」と称す)を出力し、かつVBG6からの光(以下「戻り光Lb」と称す)が入力する入出力端面9となっている。入出力端面9には、必要に応じてコネクタ或いはフェルールを設けてもよい。コネクタを用いる場合には、例えばSMAコネクタといった同軸コネクタを用いることが好適である。
【0017】
VBG6は、入力された光をブラッグ反射することにより狭波長選択性及び狭角度選択性を呈する光学素子であり、ここでは出力光Laに対して90%以上の反射率を有する反射型のVBGが用いられている。VBG6は、例えば一辺が1mm、厚さ2mmの板状をなしている。VBG6は、光ファイバ7の入出力端面9から出力する出力光Laの光軸上に位置するように、マウント10上に配置されている。本実施形態では、出力光Laの光軸は、光ファイバ7の入出力端面9に対して直交した状態となっている。また、本実施形態では、光ファイバ7の入出力端面9とVBG6との間に集光レンズ11が配置されている。光ファイバ7の入出力端面9から出力する出力光Laは、集光レンズ11によって集光され、VBG6に入射する。VBG6では、入射した出力光Laのうちの特定の波長成分がブラッグ反射し、戻り光Lbとなる。戻り光Lbは、入出力端面9に光学的に結合して光ファイバ7に導光され、集光系3を経て各レーザダイオード光源2の活性層に回帰する。
【0018】
変位部8は、VBG6の配置位置を光ファイバ7の入出力端面9に対して変位させる部分である。本実施形態では、変位部8は、例えばマウント10に取り付けられたマイクロねじ12によって構成されている。マイクロねじ12は、入出力端面9側から見てVBG6の裏側に設けられている。このマイクロねじ12を操作することにより、VBG6が出力光Laの光軸に沿う方向に変位するようになっている。なお、変位部8は、マイクロねじ12に限られず、例えば圧電素子、パンタグラフ、バネなどの他の手段によって構成することもできる。また、変位部8は、電磁力等の非接触の手段によりステージ上のVBG6を変位させる構成であってもよい。なお、変位部8によるVBG6の移動量は、集光レンズ11の選択にもよるが、数mm程度である。一例として、集光レンズ11の径がφ10mmで焦点距離が7.5mmの場合、変位部8によるVBG6の移動量は、±2mm程度となる。
【0019】
変位部8によってVBG6を出力光Laの集光位置側に遠ざけると、
図1に示すように、入出力端面9におけるVBG6からの戻り光Lbの拡がり具合を小さくすることができる。これに対し、変位部8によってVBG6を入出力端面9側に近づけると、
図2に示すように、入出力端面9におけるVBG6からの戻り光Lbの拡がり具合を大きくすることができる。これにより、光ファイバ7の入出力端面9に光学的に結合する戻り光Lbの光量を調節することが可能となり、外部共振器型半導体レーザ装置1Aから出力されるレーザ光(不図示)の出力調整を行うことができる。
【0020】
図3は、本開示の効果確認試験の結果を示す図である。この効果確認試験では、各レーザダイオード光源に付加する駆動電流の値を1.8Aとし、外部共振器を構成しない場合(グラフA)、変位部によりVBGを集光レンズの集光位置に位置させた場合(グラフB)、変位部によりVBGを光ファイバの入出力端面の近傍に位置させた場合(グラフC)について、半導体レーザ装置から出力されるレーザ光のスペクトルプロフィールを計測した。
図3の横軸は波長、縦軸は強度(任意単位)となっている。
【0021】
図3に示す結果から、VBGを用いて外部共振器を構成した場合、外部共振器を構成しない場合に比べて、波長範囲が狭い急峻なピークが得られていることが分かる。また、VBGを集光レンズの集光位置に位置させた場合と、光ファイバの入出力端面の近傍に位置させた場合とでは、ピーク波形を維持したまま強度のみが変化していることが分かる。したがって、変位部によってVBGの配置位置を変位させる構成が、レーザ光の安定した狭帯域化及び出力調整の双方の実現に寄与することが結論付けられる。
【0022】
以上説明したように、外部共振器型半導体レーザ装置1Aでは、VBG6を用いて外部共振器5を構成することにより、外部共振器5で共振する光の波長を選択できるため、レーザ光の安定した狭帯域化が可能となる。また、この外部共振器型半導体レーザ装置1Aでは、変位部8によってVBG6の配置位置を光ファイバ7の入出力端面9に対して変位させることができる。これにより、VBG6からの戻り光Lbの戻り具合を光ファイバ7の入出力端面9において変化させることができ、入出力端面9に光学的に結合する戻り光Lbの光量を調節することが可能となる。したがって、レーザ光の出力調整を容易に実施できる。
【0023】
また、本実施形態では、変位部8は、VBG6を光の光軸に沿う方向に変位させる。この場合、VBG6の変位によって、VBG6からの戻り光Lbの拡がり具合を光ファイバ7の入出力端面9において変化させることができる。したがって、入出力端面9に光学的に結合する戻り光Lbの光量を容易に調節でき、レーザ光の出力調整を容易に実施できる。
【0024】
また、本実施形態では、光ファイバ7の入出力端面9とVBG6との間に集光レンズ11が配置されている。この場合、VBG6の変位量に対するVBG6からの戻り光Lbの拡がり具合の変化量を抑えることができる。したがって、入出力端面9に光学的に結合する戻り光Lbの光量をより細かく調節できる。
【0025】
なお、VBG6を用いて外部共振器5を構成することの利点として、部分反射ミラー等の素子を用いる場合と比べて、戻り光Lbの角度選択性を確保できる点が挙げられる。VBG6を用いる場合、出力光Laは、VBG6でブラッグ反射する。通常のミラーでの反射では、入射角度θと反射角度αとが等しくなるが、VBG6での反射では、入射角度θに対して反射角度がα±2Δθとなり、2Δθ分の角度幅を持つこととなる(Δθ=nλcosθn/Dsin2θ:ただし、式中、nはVBGの屈折率、λは入射する光の波長、DはVBGの厚さである)。したがって、VBG6に2Δθ分の角度ずれが生じたとしても、特定の波長成分の戻り光Lbを光ファイバ7の入出力端面9に光学的に結合させることができる。
[第2実施形態]
【0026】
図4は、第2実施形態に係る外部共振器型半導体レーザ装置の構成を示す概略図である。同図に示すように、第2実施形態に係る外部共振器型半導体レーザ装置1Bは、光ファイバ7の入出力端面9とVBG6との間の集光レンズ11の配置が省略されている点で第1実施形態と異なっている。VBG6は、第1実施形態と同様、例えば一辺が1mm、厚さ2mmの板状をなしている。
【0027】
このような第2実施形態においても、VBG6を用いて外部共振器5を構成することにより、外部共振器5で共振する光の波長を選択できるため、レーザ光の安定した狭帯域化が可能となる。また、この第2実施形態においても、変位部8によってVBG6の配置位置を光ファイバ7の入出力端面9に対して変位させることができる。これにより、VBG6からの戻り光Lbの戻り具合を光ファイバ7の入出力端面9において変化させることができ、入出力端面9に光学的に結合する戻り光Lbの光量を調節することが可能となる。したがって、レーザ光の出力調整を容易に実施できる。
【0028】
第2実施形態では、光ファイバ7の入出力端面9とVBG6との間に集光レンズ11が配置されていないため、第1実施形態と比べて、VBG6の変位量に対するVBG6からの戻り光Lbの拡がり具合の変化量を大きくすることができる。したがって、VBG6の配置位置を僅かに変位させるだけで、入出力端面9に光学的に結合する戻り光Lbの光量を大きく調節できる。
[第3実施形態]
【0029】
図5は、第3実施形態に係る外部共振器型半導体レーザ装置の構成を示す概略図である。同図に示すように、第3実施形態に係る外部共振器型半導体レーザ装置1Cは、変位部8によるVBG6の変位方向が第1実施形態と異なっている。
【0030】
より具体的には、本実施形態では、集光レンズ11に代えて、光ファイバ7の入出力端面9とVBG6との間にコリメートレンズ13が配置されている。コリメートレンズ13は、入出力端面9から出力する出力光Laを平行光化する素子である。また、本実施形態では、VBG6は、例えば一辺が1cm、厚さ2mmの板状をなしている。VBG6は、コリメートレンズ13によって平行光化された出力光Laのビームエッジを跨ぐようにマウント10上に配置されている。VBG6では、平行光化された出力光Laの一部のうちの特定の波長成分がブラッグ反射し、戻り光Lbとなる。出力光Laの残部は、VBG6には入射せず、例えば不図示の吸収部材或いは遮蔽部材等によって入出力端面9に戻らないように遮断される。
【0031】
また、本実施形態では、変位部8を構成するマイクロねじ12がVBG6の側面側に設けられている。そして、このマイクロねじ12を操作することにより、VBG6が出力光Laの光軸に交差(ここでは直交)する方向に変位するようになっている。変位部8によってVBG6を出力光La側に進出する方向に変位させると、VBG6で反射する出力光Laの範囲が広くなり、入出力端面9に光学的に結合する戻り光Lbの光量を大きくすることができる。一方、変位部8によってVBG6を出力光La側から退避する方向に変位させると、VBG6で反射する出力光Laの範囲が狭くなり、入出力端面9に光学的に結合する戻り光Lbの光量を小さくすることができる。
【0032】
このような第3実施形態においても、VBG6を用いて外部共振器5を構成することにより、外部共振器5で共振する光の波長を選択できるため、レーザ光の安定した狭帯域化が可能となる。また、この第3実施形態においても、変位部8によってVBG6の配置位置を光ファイバ7の入出力端面9に対して変位させることができる。これにより、VBG6からの戻り光Lbの戻り具合を光ファイバ7の入出力端面9において変化させることができ、入出力端面9に光学的に結合する戻り光Lbの光量を調節することが可能となる。したがって、レーザ光の出力調整を容易に実施できる。
【符号の説明】
【0033】
1A~1C…外部共振器型半導体レーザ装置、2…レーザダイオード光源、6…VBG、7…光ファイバ、8…変位部、9…入出力端面、11…集光レンズ、13…コリメートレンズ、La…出力光、Lb…戻り光。