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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】生簀及び養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/60 20170101AFI20220916BHJP
   A01K 61/80 20170101ALI20220916BHJP
   A01K 61/10 20170101ALI20220916BHJP
【FI】
A01K61/60 321
A01K61/80
A01K61/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018171157
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2019050803
(43)【公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2017176956
(32)【優先日】2017-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松井 由孝
(72)【発明者】
【氏名】道祖本 浩
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 茂
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-6142(JP,A)
【文献】特開昭63-222632(JP,A)
【文献】特開平7-76(JP,A)
【文献】特開昭61-100138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00 - 63/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で養殖魚を生育するために用いる養殖用の生簀であって、
筒状の側周部網体、および該側周部網体の上端縁に連結された上部網体を含む袋状の網生簀本体と、
前記側周部網体に取り付けられ、水面から所定の距離をもって位置するよう、複数の浮子によって支持されている部材を含むストッパと、
前記側周部網体の上部分および/または前記上部網体に取り付けられ、前記各浮子に着脱自在に係止される複数の係止具と、を有し、
前記ストッパに含まれる前記部材は、前記生簀を養殖水域に吊支した際、赤潮等水中懸濁物の発生領域より下方となる位置に取り付けられており、
前記上部網体は、各係止具が前記浮子に係止されている状態において水面近傍に位置するが、各係止具が前記浮子から外されると下方に移動して前記ストッパに含まれる前記部材に規制された箇所に留まるよう構成したことを特徴とする生簀。
【請求項2】
各係止具が浮子から外された状態において、各係止具が上部網体の上面に載置されるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の生簀。
【請求項3】
上部網体は、給餌部を有しており、
該給餌部は、上部網体に形成された開口部と、下端縁が開口部の開口端縁に連結された筒状網体とを有し、
開口部と筒状網体の境界部分に重りが取り付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の生簀。
【請求項4】
ストッパを、前記側周部網体に取り付けられた、前記部材としての側部枠体と、上部網体に取り付けられた上部枠体とで構成し、該上部枠体が前記側部枠体に係止されることにより前記上部網体の位置を規制するように構成したことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の生簀。
【請求項5】
ストッパを、前記側周部網体に取り付けられた、前記部材としての側部枠体で構成し、該側部枠体によって前記側周部網体の下方への移動と、前記上部網体の位置を規制するように構成したことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の生簀。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の生簀を用い、該生簀の各係止具を浮子に係止した状態で養殖水域に吊支し、前記生簀内で養殖魚を生育する養殖方法において、
水面付近に赤潮等水中懸濁物が発生あるいはその発生が予測されるとき、前記生簀の各係止具を浮子から外し、側周部網体のうちストッパに含まれる部材よりも水深方向上方の部分を畳み、水面近傍に位置する上部網体を前記赤潮等水中懸濁物の発生領域よりも下方に移動させることにより、生簀内で生育中の養殖魚を前記赤潮等水中懸濁物から退避させることを特徴とする養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幼魚から成魚へと成長する養殖魚の生育に用いる海洋設置物としての、養殖用の生簀と、これを用いた養殖方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物性プランクトンの異常増殖による赤潮の発生によって、海洋設置物としての網生簀内で養殖されている魚類の漁獲量が激減してしまい、海面養殖における養殖業が甚大な被害を受けている。
【0003】
そこで、従来より海面養殖に用いられる網生簀において、赤潮によって網生簀内で養殖中の魚類が死滅してしまうことを防止するための対策として、例えば、網生簀を海中の適当な深さに設置することにより網生簀内で養殖している魚類への赤潮被害を低減させ、必要に応じて海面に浮上させる浮沈式の養殖用生簀が知られている(特許文献1)。また、網生簀の内部と外部の水を着脱自在な不透水性のシート等によって分離することにより、赤潮が網生簀内部に侵入することを防ぐ養殖用網生簀の保護装置も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-76号公報
【文献】特開平10-178964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1による技術では、複数のフロートを用いて各フロートの浮力を調整することにより養殖生簀全体を海中と海面との間に浮沈させる必要があるため、作業に手間がかかる、との欠点があった。特許文献2による技術では、不透水性のシート等によって網生簀を覆うために網生簀の外周に不透水性のシートを案内するガイド枠を設置する必要があり、装置自体が大掛かりになる、との欠点があった。
【0006】
本発明は、大掛かりな装置を用いることなく、簡単な作業によって内部で生育中の養殖魚を赤潮から隔離させ、これにより、赤潮による養殖魚への被害を低減あるいは防止することができる養殖用の生簀と、これを用いた養殖方法と、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下では、本発明の理解を容易にするために、本発明の実施形態を示す図面に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る生簀(1)は、内部で養殖魚を生育するために用いるものであり、
筒状の側周部網体(22)、および側周部網体(22)の上端縁(22a)に連結された上部網体(24)を含む袋状の網生簀本体(2)と、
側周部網体(22)に取り付けられ、水面から所定の距離をもって位置するよう、複数の浮子(5a)によって支持されている部材を含むストッパと、
側周部網体(22)の上部分および/または上部網体(24)に取り付けられ、各浮子(5a)に着脱自在に係止される複数の係止具(62)と、を有する。
そして、ストッパに含まれる前記部材は、生簀(1)を養殖水域に吊支した際、赤潮等水中懸濁物(以下単に「赤潮」と言うこともある。)の発生領域より下方となる位置に取り付けられており、かつ、上部網体(24)は、係止具(62)が浮子(5a)に係止されている状態において水面近傍に位置するが、係止具(62)が浮子5aから外されると下方に移動してストッパに含まれる前記部材に規制された箇所に留まるよう構成したことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る生簀(1)によれば、赤潮発生前の通常の状態において、各係止具(62)が浮子(5a)に係止されて、上部網体(24)が水面に位置するようになっている。
また、赤潮の発生が予想された際には、各係止具(62)を浮子(5a)から外すことにより、側周部網体(22)におけるストッパより上方部分が上部網体(24)の下方において折り畳まれながら上部網体(24)がストッパの位置まで移動する。これにより、水底に対する生簀(1)全体の位置を移動(生簀(1)の底部分を水底方向へ近づける)させることなく、上部網体(24)を赤潮発生領域よりも下方に位置させることができる。
【0010】
本発明に係る生簀(1)において、各係止具(62)が浮子(5a)から外された状態において、各係止具(62)が上部網体(24)の上面に載置されるように構成するとよい。これにより、各係止具(62)が重りの機能を果たし、上部網体(24)を確実に赤潮発生領域よりも下方に移動させることができる。
【0011】
本発明に係る生簀(1)において、上部網体(24)は、給餌部(7)を有しており、給餌部(7)が、上部網体(24)に形成された開口部(72)と、下端縁(74b)が開口部(72)の開口端縁に連結された筒状網体(74)とを有し、開口部(72)と筒状網体(74)の境界部分に、重りが取り付けられていれもよい。これにより、上部網体(24)の中央部分も水流等によって浮き上がることなく確実に赤潮発生領域の下方に位置させることができる。
【0012】
本発明に係る生簀(1)において、ストッパを、側周部網体(22)に取り付けられた、前記部材としての側部枠体(4)と、上部網体(24)に取り付けられた上部枠体(6)とで構成し、上部枠体(6)が側部枠体(4)に係止されることにより上部網体(24)の位置を規制してもよい。または、ストッパを、側周部網体(22)に取り付けられた、前記部材としての側部枠体(4)で構成し、側部枠体(4)によって側周部網体(22)の下方への移動を規制するとともに、上部網体(24)の位置を規制することもできる。
【0013】
本発明に係る養殖方法は、本発明に係る上記生簀(1)を用い、該生簀(1)の各係止具(62)を浮子(5a)に係止した状態で養殖水域に吊支し、生簀(1)内で養殖魚を生育するものである。そして、養殖水域の水面付近に赤潮が発生あるいはその発生が予測されるとき、生簀(1)の各係止具(62)を浮子(5a)から外し、側周部網体(22)のうちストッパに含まれる部材よりも水深方向上方の部分を畳み、水面近傍に位置する上部網体(24)を赤潮の発生領域よりも下方に移動させる。これにより、生簀(1)内で生育中の養殖魚を赤潮から退避させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る生簀を用いた養殖方法によれば、係止具を浮子から外すという簡単な作業によって上部網体を赤潮領域よりも下方に移動させることができる。これにより、網生簀本体の内部にいる養殖魚を赤潮の発生領域から隔離することができ、赤潮による養殖魚への被害を容易に低減あるいは防止することができる。
赤潮等水中懸濁物とは、海、湖沼、河川などの開放水面または水面近くに滞留する懸濁物のことであり、赤潮と呼ばれる大量に発生したプランクトンや、火山灰その他の懸濁性のある有機質または無機質の粒子、などが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る生簀の一例と通常時(赤潮発生前)の水中への設置状態を示す概略斜視図である。
図2図1のA-A線に沿った断面図である。
図3図1の生簀の、赤潮発生後の状態を示す概略斜視図である。
図4図3のB-B線に沿った断面図である。
図5】本発明に係る生簀の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、赤潮等水中懸濁物として、海などの水面近くに滞留する赤潮を例示する。
まず、図1~5に基づき、本発明に係る生簀の構成例を説明する。
【0017】
<第1実施形態>
図1及び2に示すように、本発明の一例に係る生簀1は、水中での魚の養殖などに用いられるものであり、本例では、袋状の網生簀本体2と、該網生簀本体2が取り付けられる側部枠体4(ストッパの一例)および上部枠体6と、を有する。
【0018】
網生簀本体2は、筒状(本例では角筒状)の側周部網体22と、該側周部網体22の上端付近に連結された平面状の上部網体24と、前記側周部網体22の下端縁に連結された平面状の底部網体26と、を備えている。網生簀本体2は、本例では、略六面体状(平面視において正方形状または矩形状)に形成されているが、これに限定される趣旨ではない。他の多角面体状や、円柱体(平面視において真円形状または楕円形状)であってもよい。また網生簀本体2が袋状である限り、平面状の底部網体26を省略した形状であってもよい。
【0019】
本例では、側周部網体22の上端縁22aより下の位置に、本発明のストッパの一例としての側部枠体4が取り付けられている。側部枠体4の取り付け位置は、本例の生簀1を養殖水域に吊支(設置)した際、赤潮の発生領域より下方であることが必要である。詳細は後述する。
本例の側部枠体4は、支持具(ロープや細ワイヤーなど)3を介して、水面に浮かぶ複数の浮子(円柱状フロート)5aに固定支持され、これにより、各浮子5a(すなわち水面)から水底方向へ所定の距離をもって位置するようになっている。
【0020】
本例の浮子5aは、側周部網体22の上端縁22a外周面に沿って環状に並列配置されているが、この構成に限定する趣旨ではない。
【0021】
上部網体24の全周縁部には、上部枠体6が取り付けられている。上部枠体6には、側周部網体22の上端縁22aが取り付けられており、これにより上部網体24と側周部網体22は、上部枠体6を介して連結されている。本例の上部枠体6は、側部枠体4と同一の形状及び大きさに形成されている。
【0022】
上部網体24の中央付近には、給餌部7が形成されている。給餌部7は、図3及び4に示すように、上部網体24に形成された開口部(本例では矩形状)72と、筒状(本例では角筒状)の網体74とを有しており、筒状網体74の上端縁74aは、水面に浮かぶ複数の浮子(球状フロート)5bに連結され、筒状網体74の下端縁74bは、開口部72の開口端縁に連結されている。開口部72の開口端縁には開口枠体9が取り付けられており、上部網体24は上部枠体6と開口枠体9との間で展張されている。
なお、筒状網体74の上方大気側は、常時、網生簀本体2内へ餌を供給可能とするため開放されていてもよいが、好ましくは、餌を供給する場合にだけ開放され、その他の場合、閉じるように構成した網蓋(図示省略)が設置される。こうした開閉自在な網蓋を筒状網体74の上方大気側に設置することで、養殖魚の逃げ出し防止や鳥害対策など種々の効果が期待できる。
【0023】
筒状網体74の水深方向の長さは、側周部網体22の上端縁22aから側部枠体4が取り付けられる位置の長さと同一に形成されている。そして、筒状網体74は、上部網体24が水面近くに位置する際(赤潮発生前の通常時)には、上部網体24の開口部72の周縁部分に折り畳まれて配置されている。
【0024】
本例の上部枠体6には、フック等からなる複数の係止具62が取り付けられている。上部枠体6を水面方向へ引き上げつつ各係止具62をそれぞれ浮子5aに係止させることによって、網生簀本体2は各浮子5aに支持される。本例の各浮子5a,5bは、水面に浮かび、かつ各浮子5aは、上部網体24の周縁部に位置するように連結具(ロープなど)11を介して相互に連結されている。これにより、網生簀本体2は、通常時(赤潮発生前)において図2に示すように、各係止具62を介して各浮子5aに支持されて、上部網体24が水面近くに位置するように設置される。
【0025】
なお、本例の各係止具62は、上部枠体6を介して、側周部網体22および上部網体24に取り付けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、側周部網体22の上部分および/または上部網体24に取り付けられていればよい。また、本例の各係止具62は、側部枠体4を支持する各浮子5aに係止されているが、本発明はこれに限定されず、側部枠体4を支持する浮子と、係止具62が係止される浮子と、を別々にしてもよい。
【0026】
次に、作用を説明する。
本例の生簀1において、各係止具62を浮子5aから外し、上部網体24上に載置すると、図3及び4に示すように、上部網体24は自身の自重によって下方(水中)に移動する。さらに、本例の上部網体24は、上部網体24上に載置された各係止具62及び上部枠体6の重量によっても下方(水中)に移動するようになっており、このように各係止具62及び上部枠体6は重りとしても機能する。
【0027】
また、上部網体24の下方(水中)への移動にともなって、上部網体24の周縁部に連結された側周部網体22における側部枠体4より上方部分は、上部網体24の下方において網生簀本体2の内部に折り畳まれながら下方(水中)に移動するとともに、筒状網体74は、下端縁74bが上部網体24の開口端縁に引っ張られて下方に移動し、筒状となって水中に配置される。上部網体24は、側部枠体4の位置まで移動すると、上部枠体6が側部枠体4に係止され、上部枠体6が側部枠体4よりも下方(水底方向)へ移動することが規制されることにより止まるとともに、筒状網体74が伸びきると、下方(水底方向)への移動が止まるようになっている。このように、側部枠体4および筒状網体74は、上部網体24が下方に移動する際の位置を規制するストッパとして機能する。また、上部網体24の中央部分は、開口枠体9の重量によっても下方に移動するようになっており、このように開口枠体9は重りとしても機能する。
【0028】
ここで、赤潮は、水面近くの水深の浅い領域(主に水面から水深1m程度)で発生すること、また、発生した赤潮は、その生物種によっては夜間に垂直移動する場合があること、などが分かっている。特に、赤潮を構成する生物のうち、ラフィド藻類のシャットネラ属(黄褐色で遊泳性の単細胞生物)は昼夜で垂直移動して水深7~10m程度にまで移動する。そこで、シャットネラ属を主体とする赤潮の発生可能性が高い場合、側部枠体4が側周部網体22に取り付けられる位置は、側部枠体4がストッパとして機能し、上部網体24の位置を規制するにあたり、上部網体24が、赤潮が発生する水深、及び移動し得る水深より水底側下方(水面から例えば水深10~15m程度)に位置するよう考慮して設定される。
本実施形態における生簀1においては、上部枠体6が側部枠体4に係止されることにより上部網体24が側部枠体4の直ぐ上に位置する構成であり、側部枠体4が側周部網体22に取り付けられる位置は、水面から例えば水深10~15m程度とする。ただし、本発明において、側部枠体4が側周部網体22に取り付けられる位置は、水面下の水深10~15mに限定されるものではなく、発生が予測される赤潮の生物種に応じて、適宜、設定することができる。
赤潮構成生物としては、ラフィド藻類のシャットネラ属のほか、同じくラフィド藻類のヘテロシグマ・アカシオや、珪藻類(例えば、キートケロス属、スケルトネマ・コスタツム、リゾソレニア属、タラシオシラ属など)、渦鞭毛藻類(例えば、アレキサンドリウム属、ギムノディニウム属、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ、カレニア属など)、などが挙げられる。
【0029】
また、上部枠体6には、桟橋や各浮子5aに一端がくくり付けられた図示しないロープの他端が取り付けられており、このロープを巻き取ることにより上部網体24を水面まで引き上げることができるようになっている。ロープの巻き取り手法は、特に制限されず、例えば、作業者が手で引っ張りながら行ってもよく、また、船に設置のウインチを用いて行ってもよい。そして、各係止具62を各浮子5aに再度係止させることにより、上部網体24が水面に位置するように保持される。
【0030】
本例の生簀1を用いた養殖方法によれば、本例の生簀1の各係止具62を浮子5aに係止した状態で養殖水域に吊支(設置)し、生簀1内で養殖魚の生育が行われる。
赤潮発生前の通常時では、各係止具62は浮子5aに係止され、上部網体24は水面付近に位置する。
一方、異常時(養殖水域の水面付近に赤潮が発生し、あるいはその発生が予測された際)には、生簀1の各係止具62を浮子5aから外す。これにより、側周部網体22のうち側部枠体4よりも水深方向上方の部分が上部網体24の下方において折り畳まれながら上部網体24が側部枠体4の位置まで移動する。
このとき、側部枠体4の取り付け位置が、生簀1を養殖水域に吊支(設置)した際、赤潮の発生領域より下方であるため、水底に対する生簀1全体の位置を移動(生簀1の底部網体26位置を水底方向へ近づける)することなく、水面近傍に位置していた上部網体24を赤潮の発生領域よりも下方に位置させることができる。
【0031】
すなわち、本例の生簀1を用いた養殖方法は、生簀1の各係止具62を浮子5aから外すという簡単な作業によって上部網体24を赤潮領域よりも下方に移動させることができ、これにより網生簀本体2の内部で生育中の養殖魚を赤潮発生領域から隔離する(または退避させる)ことができ、赤潮による養殖魚への被害を容易に低減あるいは防止することができる。
【0032】
また、本例によれば、上部枠体6に取り付けられた各係止具62を上部網体24上に載置して上部網体24と一緒に水中へ沈めることにより、各係止具62が重りの機能を果たすので、これにより上部網体24を確実に赤潮の発生領域よりも下方へ移動させることができる。
【0033】
また、本例によれば、上部網体24が上部枠体6と開口枠体9との間において展張されているので、上部網体24の周縁部分上に各係止具62を載置して上部網体24を一緒に下方に移動させる際に、上部網体24の中央部分も確実に赤潮発生領域の下方に移動させることができる。
【0034】
また、本例において、上部枠体6を側部枠体4に係止させることにより、上部枠体6および側部枠体4を、上部網体24の位置を規制するストッパとして機能させることができる。
【0035】
また、本例において、上部枠体6、開口枠体9、各係止具62を、上部網体24が下方に移動している状態において上部網体24が上方に浮かんできてしまうことを防止する重りとして機能させることもできる。これにより、上部網体24を赤潮発生領域の下方に確実に位置させることができる。
【0036】
なお、本例では、各係止具62が上部枠体6に取り付けられた状態で上部網体24を下方に移動させるようになっているが、上部網体24の自重、上部枠体6、開口枠体9によって上部網体24が上方に浮かんできてしまうことを防止することができる場合には、上部網体24を下方に移動させるにあたり各係止具62を上部枠体6から外すようにしてもよい。
【0037】
<第2実施形態>
図5に示すように、本発明の他の例に係る生簀1aは、第1実施形態に係る生簀1(図1~4)における上部枠体6を備えておらず、各係止具62は上部網体24および側周部網体22の連結部に取り付けられている。そして、本例の生簀1aは、各浮子5aから各係止具62が外されると、上部網体24と側周部網体22の側部枠体4より上方が各網体22,24の自重によって下方に移動するようになっている。
【0038】
また、本例においても、各係止具62は上部網体24上に載置されることにより、上部網体24を下方に移動させる際の重りとして機能する。さらに、側周部網体22における側部枠体4の取り付け位置より上方部分は、側部枠体4の取り付け位置を軸として網生簀本体2の内部に折り畳まれてさらに下方に移動し、側部枠体4に規制されて止まり、これとともに上部網体24の下方への移動も止まるようになっている。このように、本例においても、側部枠体4は、上部網体24の、水中での位置を規制するストッパとして機能する。
【0039】
次に、作用を説明する。
本例の生簀1aにおいては、側周部網体22が側部枠体4の取り付け位置を軸として網生簀本体2の内部に折り畳まれながら側部枠体4よりもさらに下方に移動する。これにともない、側周部網体22の上端縁22aに連結されている上部網体24は、水面から側部枠体4の取り付け位置までの距離のおおよそ2倍の距離の深さまで移動する。このような構成において、側部枠体4が側周部網体22に取り付けられる位置は、上部網体24が、赤潮が発生する水深、及び移動し得る水深より水底側下方に位置するように考慮して、水面から例えば水深5~7.5m程度とする。
【0040】
また、給餌部7における筒状網体74の水深方向の長さは、水面から側部枠体4が取り付けられた位置までの距離の2倍前後の長さに形成される。
【0041】
本例の生簀1aによっても、第1実施形態の生簀1(図1~4)と同様の作用効果を奏することができる。
【0042】
<第3実施形態>
本発明の他の例に係る生簀は、その給餌部(図示省略)の構成が、第1実施形態の給餌部7(図3及び4)と異なり、その他の構成は第1実施形態と同一である。なお、以下では、図3及び4で付された部材、符号を用いて、本例の給餌部の説明をする。必要により第1実施形態の説明も参照されたい。
【0043】
本例の給餌部は、第1実施形態の給餌部7における筒状網体74の、浮子5bに対する上端縁74aの連結が着脱自在であることが必須である。その結果、浮子5bに取り付けた筒状網体74の上端縁74aを浮子5bから外し、かつ上部枠体6に取り付けた各係止具62を浮子5aから外した場合、上部網体24とともに自身の自重によって筒状網体74も下方へ移動し、両者ともに水中に配置されるようになっている。
【0044】
つまり、本例の給餌部を含む生簀を用いた場合、赤潮発生前の通常時であろうと、異常時(赤潮の発生時あるいはその発生が予測される際)であろうと、給餌部7における筒状網体74の上端縁74aが常に水面付近に位置される第1実施形態と比較して、筒状網体74の上端縁74aは、通常時には水面付近に配置されるが、異常時には下方へ移動し水中へ配置されうるように構成されている。したがって、本例では、第1実施形態と比較して、側部枠4のみ(筒状網体74は除かれる)が、給餌部7を含む上部網体24が下方に移動する際の位置を規制するストッパとして機能することとなる。

【0045】
本例の給餌部は、筒状網体74の上方大気側に第1実施形態で示した網蓋を設置しない場合、筒状網体74の上端縁74a付近が巾着状となっていることが好ましい。本例の給餌部は、それ自体が、異常時には、上部網体24とともに下方へ移動し、水中へ配置されるため、第1実施形態のごとく、上方大気側が開放されたままでは、水中へ配置された際に成育中の養殖魚が生簀から逃避してしまう恐れがある。そこで本例では、筒状網体74の上方大気側に網蓋を設置しない場合、筒状網体74の上端縁74a付近を巾着状に構成することによって、給餌部7を下方(水中)へ移動させるに先立ち、開放されていた給餌部7の上方大気側を絞り上げて閉口させれば、下方(水中)へ給餌部7を移動させても、養殖魚の逃げ出しを防止することができることとなる。
【0046】
本例の生簀によっても、第1実施形態の生簀1(図1~4)と同様の作用効果を奏することができる。
【0047】
<その他の実施形態>
前述の各実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。したがって、本発明は前述の各実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、前述の各実施形態に対し、適宜変更、改良等が加えられたものも本発明範囲に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1,1a…生簀
2…網生簀本体
22…側周部網体、22a…上端部
24…上部網体
26…底部網体
3…支持具
4…側部枠体(ストッパ)
5a,5b…浮子
6…上部枠体、62…係止具
7…給餌部
72…開口部
74…筒状網体、74a…上端縁、74b…下端縁
9…開口枠体(重り)
11…連結具
図1
図2
図3
図4
図5