(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】金属箔成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 33/00 20060101AFI20220916BHJP
F24C 15/14 20060101ALI20220916BHJP
B21D 53/00 20060101ALI20220916BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20220916BHJP
B21D 24/04 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
B21D33/00
F24C15/14 F
B21D53/00 Z
B21D22/20 Z
B21D24/04 A
(21)【出願番号】P 2018176825
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000222141
【氏名又は名称】東洋アルミエコープロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101409
【氏名又は名称】葛西 泰二
(74)【代理人】
【識別番号】100175385
【氏名又は名称】葛西 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100175662
【氏名又は名称】山本 英明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雅也
【審査官】山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-109069(JP,A)
【文献】特開2013-200099(JP,A)
【文献】特開2018-091602(JP,A)
【文献】特開2009-012006(JP,A)
【文献】特開平11-129036(JP,A)
【文献】特開平08-224700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 33/00
F24C 15/14
B21D 53/00
B21D 22/20
B21D 24/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隆起等の立体的形状を有する内方部と、その周囲の外方部とを備える金属箔成形体の製造方法であって、
金属箔から成る金属箔シート体を準備する準備工程と、
前記金属箔シート体における前記内方部に相当する内方領域を張り出し成形するための張り出し成形部と、前記金属箔シート体における前記外方部に相当する外方領域を挟んで押圧するための一対の皺押さえ部とを備える成形型に、前記金属箔シート体をセットするセッティング工程と、
前記外方領域を前記一対の皺押さえ部で挟んで押圧し、前記外方領域の面内方向の移動を阻止又は制限する押圧工程と、
前記内方領域を前記張り出し成形部により予め定めた立体的形状に張り出し成形する張り出し成形工程とを含み、
前記皺押さえ部により押圧される前記外方領域の面積は、前記張り出し成形部により張り出し成形される内方領域の面積よりも大きい、金属箔成形体の製造方法。
【請求項2】
前記外方領域の表面及び裏面の少なくとも一方に意匠が設けられている、請求項1記載の金属箔成形体の製造方法。
【請求項3】
前記意匠は印刷層から成る、請求項2記載の金属箔成形体の製造方法。
【請求項4】
前記金属箔は、アルミニウム箔である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の金属箔成形体の製造方法。
【請求項5】
前記一対の皺押さえ部の各接合面間のクリアランスは、前記金属箔シート体の厚みに等しく設定される、請求項1から請求項4のいずれかに記載の金属箔成形体の製造方法。
【請求項6】
前記金属箔成形体は、前記外方部に1つ以上の凹形状又は凸形状を備え、
前記成形型は、前記一対の皺押さえ部の一方の接合面に、前記凹形状又は凸形状を形成するための凹構造部又は凸構造部を備え、他方の接合面に、前記凹構造部又は凸構造部に嵌合し得る凸構造部又は凹構造部を備える、請求項1から請求項5のいずれかに記載の金属箔成形体の製造方法。
【請求項7】
前記張り出し成形工程の後に、前記内方領域に開口部を形成する開口部形成工程をさらに含む、請求項1から請求項6のいずれかに記載の金属箔成形体の製造方法。
【請求項8】
前記金属箔成形体はガスコンロ用マットを含み、前記開口部はガスバーナ用の開口部を含む、請求項7記載の金属箔成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ箔等の金属箔を用いて成形体を製造する方法に関し、特に、隆起等の立体的形状を有する内方部と、その周囲の外方部とを備える金属箔成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスコンロのガスバーナ周囲の周囲を覆って天板に汚れが付着するのを防止するためのガスコンロ用マットが従来提供されている。従来のガスコンロ用マットの一形態として、ガスバーナの汁受け皿部を覆うための、隆起させた内方部と、その周囲の平坦な外方部とを備えるものが知られている。上記のような形態を有する従来のガスコンロ用マットは、アルミ箔から成る金属箔シート体を絞り加工することで製造されている。すなわち、金属箔シート体における外方部に相当する領域(外方領域)を成形型(金型)の皺押さえ部で弾性的に挟み、この状態を維持したまま、内方部に相当する領域(内方領域)を絞り加工して隆起させる工程を採用している。このような金属箔の絞り加工によってガスコンロ用マットを製造する技術が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の製造方法において、金属箔シートの外方領域を弾性的に挟みつける成形型の皺押さえ部は、その間を外方領域が滑り移動できるように構成され、金属箔シート体の内方領域を絞り加工する際に、外方領域が内方領域側へ流れ込むのを許容している。そのため、絞り加工時に外方領域が内方領域側へ引き込まれる結果、外方領域が周方向に圧縮され、内方部から外方へ放射状に延びる多数の自由皺が生成されることになる。
【0005】
このように従来の製造方法では、ガスコンロ用マットの外方部に皺が生成されることが避けられないため、外方部の美観性が損なわれていた。特に、絞り加工前に、外方部に例えば模様や図柄等の意匠を設けた場合には、これを明瞭に表示させるのが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、内方部に隆起部等の立体的形状を有する金属箔成形体を製造するにあたり、外方部において皺が発生するのを抑制して、美観性を向上させた製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、隆起等の立体的形状を有する内方部と、その周囲の外方部とを備える金属箔成形体の製造方法であって、金属箔から成る金属箔シート体を準備する準備工程と、金属箔シート体における内方部に相当する内方領域を張り出し成形するための張り出し成形部と、金属箔シート体における外方部に相当する外方領域を挟んで押圧するための一対の皺押さえ部とを備える成形型に、金属箔シート体をセットするセッティング工程と、外方領域を一対の皺押さえ部で挟んで押圧し、外方領域の面内方向の移動を阻止又は制限する押圧工程と、内方領域を張り出し成形部により予め定めた立体的形状に張り出し成形する張り出し成形工程とを含み、皺押さえ部により押圧される外方領域の面積は、張り出し成形部により張り出し成形される内方領域の面積よりも大きいものである。
【0008】
このように構成すると、金属箔シート体の外方領域を皺押さえ部で押圧した状態で内方領域を張り出し成形するから、外方領域が面内方向に移動するのが阻止又は制限され、外方領域における皺の発生が抑制される。内方領域は金属の展性により変形する。又、外方領域の面積が内方領域の面積よりも大きいから、押圧工程で押圧力を及ぼす領域の面積が広くなる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、外方領域の表面及び裏面の少なくとも一方に意匠が設けられているものである。
【0010】
このように構成すると、金属箔成形体の外方部に意匠を明瞭に表示させることができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の構成において、意匠が印刷層から成るものである。
【0012】
このように構成すると、印刷層により、外方領域の表面に適度な潤滑性が付与される。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の構成において、金属箔は、アルミニウム箔であるものである。
【0014】
このように構成すると、金属箔をアルミニウム箔とするので、使用する金属箔シート体は、展性、耐熱性、防錆性に優れ、十分な強度を備え、比較的軽量であり、且つ、低コストとなる。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の発明の構成において、一対の皺押さえ部の各接合面間のクリアランスは、金属箔シート体の厚みに等しく設定されるものである。
【0016】
このように構成すると、張り出し成形工程においては、外方領域の金属箔シート体が内方領域側へ寄り集まって見かけ上金属箔シート体の厚みが厚くなろうとし一対の皺押さえ部の各接合面間のクリアランスを拡げようとする応力が生じるので、押圧工程においては、皺押さえ部による外方領域を挟んで押圧する力(押圧力)をその応力に十分対抗できる程度の押圧力に設定することでクリアランスの変動が生じないように皺押さえ部が外方領域を押さえているが、該クリアランスを金属箔シート体の厚みに等しく設定することで皺押さえ部による外方領域への押圧力が過剰にならない。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の発明の構成において、金属箔成形体は、外方部に1つ以上の凹形状又は凸形状を備え、成形型は、一対の皺押さえ部の一方の接合面に、凹形状又は凸形状を形成するための凹構造部又は凸構造部を備え、他方の接合面に、凹構造部又は凸構造部に嵌合し得る凸構造部又は凹構造部を備えるものである。
【0018】
このように構成すると、皺押さえ部の各接合面が凹構造部又は凸構造部を有するので、皺押さえ部の間に金属箔シート体を挟むと同時に、所望の立体的形状が外方部に形成される。
【0019】
請求項7記載の発明は、請求項1から請求項6のいずれに記載の発明の構成において、張り出し成形工程の後に、内方領域に開口部を形成する開口部形成工程をさらに含むものである。
【0020】
このように構成すると、張り出し成形により伸長方向に変形された領域に、開口部が形成される。
【0021】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明の構成において、金属箔成形体はガスコンロ用マットを含み、開口部はガスバーナ用の開口部を含むものである。
【0022】
このように構成すると、外方部における皺の生成が抑制されたガスコンロ用マットが製造される。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、外方領域における皺の発生が抑制されるから、外方部の美観性を向上させた金属箔成形体を提供することができる。内方領域に比べて大きい面積の外方領域を押圧するから、皺押さえ部が接触する接触面積を広く確保することができ、外方領域の面内方向の移動を阻止又は制限するのに必要な単位面積当たりの押圧力を小さく抑えることができる。又、外方部の平面形状が、矩形や正多角形など円形以外の形状であっても、外方部に皺が生成するのを抑制することができる。
【0024】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、皺の発生が抑制される外方部に意匠を形成するから、意匠が明瞭に表現される。よって意匠性の高い金属箔成形体を提供することができる。
【0025】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の効果に加えて、印刷層により適度な潤滑性が付与されるから、金属箔シート体と皺押さえ部と間の摩擦抵抗が減少する。従って、例えば皺押さえ部の表面に設けた凹凸等で、押圧工程の際に外周領域に立体的形状を形成する際に、金属箔シート体が凹部内へ滑り込みやすくなって変形が容易になるので、金属箔シート体に破れや表面の損傷等が発生するのを抑制できる。
【0026】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、金属箔がアルミニウム箔なので、高い展性により製造が容易になると共に、耐熱性、防錆性、強度、軽量性等の実用的特性を備える製品を、低コストで提供することができる。
【0027】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の発明の効果に加えて、一対の皺押さえ部の間に挟まれる外方領域に対し過剰な押圧力を作用させないから、外方領域を損傷したり、外方領域を展伸して厚みを低減させたりするおそれがない。
【0028】
請求項6記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の発明の効果に加えて、皺押さえ部の間に金属箔シート体を挟む工程によって所望の凹形状又は凸形状を外方部に形成することができるから、立体的形状を備える製品の製造が容易になる。
【0029】
請求項7記載の発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載の発明の効果に加えて、張り出し成形により伸長方向に変形させた内方領域に開口部を形成するから、開口部の縁部が皺を含まないので、例えば縁巻き部の形成が容易になる。
【0030】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明の効果に加えて、外方部における皺の生成が抑制されるから、美観性に優れたガスコンロ用マットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施の形態による製造方法により製造される金属箔成形体(ガスコンロ用マット)の一例を示すものであって、(A)は正面図であり、(B)は平面図である。
【
図2】
図1の金属箔成形体(ガスコンロ用マット)の使用状況を、
図1のA-A線の位置で断面して示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態による製造方法のセッティング工程を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態による製造方法の押圧工程を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態による製造方法のブランキング工程を示す断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態による製造方法の張り出し成形工程を示す断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態による製造方法の縁巻工程を示す断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態による製造方法の解放準備工程示す断面図である。
【
図9】本発明の実施の形態による製造方法の解放工程を示す断面図である。
【
図10】本発明に係る製造方法の異なる実施形態に関するものであって、外方領域に凹凸を付与する凹凸付与工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[金属箔成形体(ガスコンロ用マット)]
始めに、本発明により製造される金属箔成形体として、ガスコンロ用マットの構造について説明する。
【0033】
図1は、本発明の実施の形態による製造方法により製造される金属箔成形体(ガスコンロ用マット)の一例を示すものであって、(A)は正面図であり、(B)は平面図である。
図2は、
図1の金属箔成形体(ガスコンロ用マット)の使用状況を、
図1のA-A線の位置で断面して示す図である。
【0034】
本例のガスコンロ用マット1は、
図2に示すように、ガスコンロのガスバーナ13の周囲に装着される。装着対象とするガスコンロは、開口12が形成され、表面が平坦に仕上げられた天板11と、開口12内に配置されるガスバーナ13と、ガスバーナ13の周囲に配置され天板11の表面から突出するバーナリング14とを備える。又、ガスコンロの使用に際しては、ガスコンロ用マット1の上に、五徳15が載置される。
【0035】
図1及び
図2に示すように、ガスコンロ用マット1は、アルミニウム箔等の金属箔の成形体である環状のマット本体2を備える。マット本体2は、ガスバーナの周囲の天板11の表面を覆うことが可能な外形寸法を有し、中央に開口部3が形成された内方部4と、内方部4の外側の位置に段差を有するように形成された環状の段差部5と、段差部5から外方へ延びる外方部6とを備える。内方部4は、段差部5を介して、外方部6の面に対し直交する方向に突出するよう形成されている。従ってガスコンロ用マット1は、隆起した立体的形状を有する内方部4と、その周囲の平坦な外方部6とを備えるものとなっている。
【0036】
環状のマット本体2は、例えば厚みが10-100μmのアルミ箔を張り出し成形することによって製作され、開口部3、内方部4、段差部5、及び、外方部6が互いに同心状に形成される。内方部4及び外方部6の主要部分は平坦に形成される。
【0037】
内方部4に設けられる開口部3の孔径は、ガスバーナ13を挿通させることが可能であって、且つ、バーナリング14の外径よりも小径である。又、開口部3は、ガスバーナ13の基部に設けられる点火プラグや立ち消え防止用の安全装置と干渉しないように設計される。段差部5は、
図2に示すように、外方部6から起立して浅い筒状を成すものであり、その外径はバーナリング14の外径と等しいか又はこれより大きく設定され、起立高さは、バーナリング14が天板11の表面から突出する高さに対応するように設定される。外方部6は、段差部5から連続して外方へ延びる部分であり、その外径は、ガスバーナ13の周囲の天板の表面を覆うことが可能な寸法に設定され、外周縁が、五徳15と天板11の表面との接触位置よりも外側に位置するよう設定される。
【0038】
マット本体2は更に、外方部6の外周縁を起立させて形成した堤防部9を備えてもよい。堤防部9の開始位置は五徳15の外周に干渉しないような位置であり、堤防部9の高さ寸法は、吹きこぼれた液体の拡散を抑制できる程度の寸法に設定される。
【0039】
外方部6は更に、マット本体2の表面から突出するように形成された少なくとも1つの環状の液止め部7を備える。液止め部7は、五徳15がマット本体2に接する位置とは干渉しない位置に設けられ、断面が三角形状を成すように形成されたものである。又、高さ寸法は、五徳15と干渉しない高さであって、且つ段差部5の高さよりも低く設定される。これは、液止め部7の高さを段差部5より高くすると、段差部5と液止め部7との間に貯まった液体が、段差部5を超えて内方のバーナリング14側へ流動する可能性が生じるので、この問題を回避するためである。
【0040】
このような構成により、ガスコンロ用マット1は、ガスコンロに装着したときに、バーナリング14の周縁部から天板11に亘る領域を切れ目なく覆うことができると共に、マット本体2が、バーナリング14及び天板11の表面に適切に接触することができるので、調理時に吹きこぼれた液体等が、バーナリング14の表面の一部及びバーナリング14の周囲の天板11に接触することを防止できる。
【0041】
尚、液止め部7は、調理中に吹きこぼれてマット本体2の内方から外方へ向かって流動する液体に対する堰又は抵抗として機能する。
【0042】
開口部3に沿った内周縁には、縁巻加工により形成された第1の縁巻き部8をさらに備える。第1の縁巻き部8は、開口部3の端縁を巻き込んで形成したものであり、その下端が、内方部4の下面付近に位置するように設定される。第1の縁巻き部8を形成することにより内周縁の見かけの断面積(断面係数)を増大させて、強度を向上させることができる。又、第1の縁巻き部8を、巻き込み後の直径(例えば0.5~1mm)に応じた寸法で内方部4から表面側へ突出させることにより、吹きこぼれた液体に対する堤防機能を持たせることが可能である。
【0043】
外方部6は、外周縁に縁巻加工により形成された第2の縁巻き部10をさらに備える。第2の縁巻き部10は、堤防部9の端縁を上から下に巻き込んで形成したものであり、その下端が、堤防部9上端付近に位置するように設定される。第2の縁巻き部10を形成することにより外周縁の見かけの断面積(断面係数)を増大させて、強度を向上させることができる。又、第2の縁巻き部10を、巻き込み後の直径(例えば1.5~3mm)に応じた寸法で堤防部9から突出させることにより、吹きこぼれた液体に対する堤防機能を向上させることが可能である。
[製造方法]
次に、本発明によりガスコンロ用マットを製造する方法について説明する。
【0044】
図3~
図9は本発明の実施の形態による製造方法の各工程を説明するための断面図であり、
図3はセッティング工程、
図4は押圧工程、
図5はブランキング工程、
図6は張り出し成形工程、
図7は縁巻工程、
図8は解放準備工程、
図9は解放工程をそれぞれ示す。
【0045】
尚、説明を明快にするため、
図3~
図9においては、形状を簡素化した成形型と成形対象の金属箔シート体とのみ示し、成形型を動作させる駆動源や動力の伝達部材等は図示を省略した。又、金属箔シート体の厚み及び成形型の各部材間のクリアランスについては誇張して大きめに描いた。更に、製造されるガスコンロ用マットについても、開口部、液止め部、堤防部、第1の縁巻き部の各形態については、図示を省略した。
(成形型)
図3を参照して、本実施の形態の製造方法に用いる成形型20は、中央部から外側にかけて同心的に且つ上下に対向して配置される複数の部材から構成される。上側には、中央部から順に、フォームパンチ21、上側の皺押さえ部25A、ブランキングパンチ26、及び払い落とし28が配置される(以下、これらをまとめて上半部20Aと称する)。下側は、中央部にセンターブロック22と、センターブロック22の下面側を支持するワイプダウンブロックリテーナ23及びバックプレート24とが配置され、更に順に外側に向かって、下側の皺押さえ部25B、ドローリング27、及びカットエッジ29が配置される(以下、これらをまとめて下半部20Bと称する)。
【0046】
本例では、中央のフォームパンチ21とセンターブロック22とにより、張り出し成形部が構成される。又、本例における上下一対の皺押さえ部25A、25Bは、従来の絞り加工用の成形型のような、弾性的な支持構造は採用されていないものである。
(準備工程)
準備工程は、目的に応じて、金属箔から成る金属箔シート体を準備する工程である。金属箔シート体50は、製造しようとする製品の種類に応じて金属の種類、厚み、その他の物理的特性が選択された金属箔から成り、ガスコンロ用マットを製造する場合、厚みが10~100μm(好ましくは25~50μm)のアルミニウム箔が用いられる。厚みが薄すぎると成形時に割れが発生し易くなる。厚みを大きくし過ぎるとコストが上昇する。
【0047】
金属箔シート体50の外形寸法は、成形型20の成形範囲、すなわち上半部20Aと下半部20Bとが当接し得る範囲よりも大きく設定される。又、金属箔シート体50におけるガスコンロ用マットの内方部に相当する内方領域51の面積に比べて、外方部に相当する外方領域52の面積が大きくなるよう設定される。
【0048】
尚、図示は省略するが、外方領域52には、印刷により、模様、図柄、文字、絵等の所望の意匠が設けられる。本例では、金属箔シート体50の下面が使用時におけるガスコンロ用マットの表面になるので、印刷層は金属箔シート体50の下面に設けられる。
(セッティング工程)
セッティング工程は、張り出し成形部と一対の皺押さえ部とを備える成形型に、金属箔シート体をセットする工程である。目的に応じ準備した金属箔シート体50を、
図3に示すように、成形型20の上半部20Aと下半部20Bとの間に設けた空間に配置してセットする。このとき、外方領域52の印刷層が、上下に対向する一対の皺押さえ部25A、25B間に配置されるように設定する。又、金属箔シート体50の外周縁が、成形型20の成形範囲よりも外側にはみ出るように配置する。
(押圧工程)
押圧工程は、外方領域を一対の皺押さえ部で挟んで押圧し、外方領域の面内方向の移動を阻止又は制限する工程である。金属箔シート体50を成形型20にセットしたならば、
図4に示すように、成形型20の上半部20Aと下半部20Bとを接近させ、両者の間に外方領域52を挟み込む。内方領域51については、上側のフォームパンチ21が接触する。このとき、少なくとも上下の皺押さえ部25A、25Bのクリアランス及び押圧力を、外方領域52が面内方向に移動するのを阻止又は制限できるように設定する。具体的には、上下一対の皺押さえ部25A、25B間のクリアランスを、金属箔シート体50の厚み寸法に等しく設定する。例えば厚みが30μmの金属箔シート体50であればクリアランスを30μmに設定する。
【0049】
又、押圧力は、アルミニウム箔の場合、2~12kg/cm2(好ましくは3~8kg/cm2、更に好ましくは6~8kg/cm2)の範囲に設定するとよい。上記の押圧力は、従来の絞り加工時に採用されている押圧力に比べて、およそ4倍程度大きい値である。
【0050】
尚、ガスコンロ用マットの液止め部(
図1及び
図2参照)のような立体的形状を外方領域52に形成する場合、上下一対の皺押さえ部25A、25Bそれぞれの接合面に、対応する形態の凹構造部又は凸構造部を設ける。本例では、液止め部が下方に凸の形状となるので、上側の皺押さえ部25Aの接合面が凸構造部を備え、下側の皺押さえ部25Bの接合面が、上記凸構造部に嵌合し得る凹構造部を備えるものとすればよい。これにより、押圧工程を実行すると同時に、外方領域52に液止め部等の立体的形状を形成することができる。
【0051】
又、外方領域52の下面に形成した印刷層は、適度な潤滑性を有するので、下側の皺押さえ部25Bに対する摩擦抵抗を低減させる。従って、凸構造部と凹構造部との間に挟み込んで外方領域52に立体的形状を形成する際、外方領域52が凹構造部内へ滑り込みやすくなって変形が容易になるので、破れや表面の損傷が発生するのを抑制できるという効果を奏する。
(ブランキング工程)
ブランキング工程は、金属箔シート体を一定寸法に整形する工程である。上記のようにして、金属箔シート体50の外方領域52の面内方向移動を拘束した後、
図5に示すように、払い落とし28及びカットエッジ29を固定し、これらの内方側の部分全体を降下させる。これにより、ブランキングパンチ26とカットエッジ29との間で作用する剪断力で外方領域52の周縁領域が切断され、金属箔シート体50は、外径寸法が予め定められた一定寸法に整えられる。
(張り出し成形工程)
張り出し成形工程は、内方領域を張り出し成形部により予め定めた立体的形状に張り出し成形する工程である。上記ブランキング工程に続いて、上下一対の皺押さえ部25A、25Bで押圧して外方領域52を拘束した状態を維持したまま、
図6に示すように、フォームパンチ21をセンターブロック22の近傍まで降下させて、内方領域51をその展性により張り出し形成する。このとき、外方領域52は、面内方向への移動が阻止又は制限されているため、内方領域の51が変形する際に内方への流れ込みが生じにくくなるから、外方領域52における自由皺の発生が抑制される。又、張り出し成形される内方領域51の面積に比べて、押圧される外方領域52の面積(上下一対の皺押さえ部25A、25Bとの接触面積)が大きいので、外方領域52の内方側への流れ込みを阻止又は制限するのに必要とされる押圧力を低く抑えることができる。
【0052】
尚、フォームパンチ21は、成形面側の周縁部がテーパに形成されているため、これで内方領域51を押圧すると、内方領域51の下方へ突出した部分における周縁部分を同様のテーパ形状に形成することができる。
【0053】
本例では、上記の張り出し成形工程と同時に、ブランキングパンチ26及びドローリング27を、間に挟んだ外周領域52に対する押圧力を解除又は低減させた状態で、
図6のように降下させる。これにより、外周領域52における上下の皺押さえ部25A、25Bよりも外側に張り出した部分が、降下するブランキングパンチ26と下側の皺押さえ部25Bとの間に挟まれて、下方へ折り曲げられる。又、この折り曲げられた部分は、ブランキングパンチ26により表面がしごかれるため、湾曲しやすい状態となる。
(開口部形成工程)
図示は省略するが、張り出し成形工程で下方への突出形状に形成された内方領域51の中央を打ち抜いて、開口部を形成する。
(縁巻工程)
開口部の形成後、開口部の周縁部に縁巻き部を形成する工程を行い、第1の縁巻き部8(
図1及び
図2参照)を設ける。開口部を形成する領域は、張り出し成形により内方領域51を伸長方向に変形した領域であるから、皺を含まない。このため縁巻き部を形成するのが容易になるという利点を有している。
【0054】
他方、外周縁については、上下一対の皺押さえ部25A、25Bによる外方領域52の拘束状態を維持したまま、ブランキングパンチ26及びドローリング27を上昇させる。図示は省略するが、ブランキングパンチ26及びドローリング27の一方又は両方には、互いに向き合う面における内周縁部に断面円弧状の溝等の適宜構造が設けられており、上昇の際に、外周領域52の下方へ折り曲げられた部分をこの溝等の構造内へ導入することにより巻き込んで、
図7に示すような、第2の縁巻き部10(
図1及び
図2参照)を形成する。上記の折り曲げられた部分は、前段の工程で、降下するドローリング27によりしごかれて湾曲し易くされているため、縁巻き工程を円滑に行うことができる。
【0055】
尚、ブランキングパンチ26及びドローリング27の上昇に合わせて、フォームパンチ21も上昇させる。
(解放準備工程)
次いで、
図8に示すように、払い落とし28及びカットエッジ29の位置を基準として、センターブロック22、上下一対の皺押さえ部25A、25B、ブランキングパンチ26、ドローリング27を上昇させ、成形型20の上半部20A及び下半部20Bの各位置を、
図4に示す初期位置に復帰させる。
(解放工程)
最後に、
図9に示すように、成形型20の上半部20Aを上昇させて下半部20Bから離隔させ、得られた金属箔シート体50から成る金属箔成形体を取り出す。
【0056】
こうして得られた金属箔成形体(ガスコンロ用マット)は、外方領域52の面内方向の移動を阻止又は制限した状態で、内方領域51を張り出し成形によりその展性で変形させるものであるから、外方領域52に自由皺が発生するのが抑制される。その結果、外方領域52の表面に設けた印刷層が明瞭に表示されるので、美観性に優れた製品を提供することができる。
(凹凸付与工程)
図10は、本発明に係る製造方法の異なる実施形態に関するものであって、外方領域に凹凸を付与する凹凸付与工程を示す断面図である。
【0057】
ガスコンロ用マットの液止め部(
図1及び
図2参照)のような立体的形状を外方領域52に形成する方法として、
図10の(A)に示すように、上側の皺押さえ部25Aの一部を可動型40とし、下側の皺押さえ部25Bの接合面における対応する個所に凹部41を形成した成形型を用いることが考えられる。この成形型によれば、
図10の(B)に示すように、押圧工程において金属箔シート体50の外方領域52を上下一対の皺押さえ部25A、25B間に挟んで押圧した後、(C)に示すように、この押圧状態を維持したまま、可動型40を移動させて、液止め部に相当する部分を張り出し成形することができる。可動型40による外方領域52の変形量は、材料の伸び・厚みを考慮して設計される。このような方法により、外方領域52のうちの平坦部分を押圧したままの状態で立体的形状を形成するので、平坦部分にほとんど皺が形成されない製品を提供できるという利点が得られる。
【0058】
尚、本発明が対象とする金属箔成形体の形状は円形に限定されず、矩形、正方形、正六角形などの形態を採用することができる。本発明によれば、外方領域を拘束した状態で内方領域を張り出し成形するものであるから、全体形状が円形以外でも、外方領域に自由皺が発生するのを抑制することが可能である。従って本発明は、ガスコンロごとに個別に装着するための円形のガスコンロ用マットのほか、複数のガスコンロを含むガスレンジのトッププレート全体を覆う矩形のトッププレート覆いの製造にも適用することができる。
【0059】
外方領域に形成する液止め部等の立体的形状は、1つだけてもよいが、2つ以上設けることも可能である。その断面形状は、三角形状に限定されるものではなく、例えば半円形や矩形などの断面形状であってもよい。
【0060】
内方部の開口部の形状は、上記では円形としたが、これに限定されない。ガスコンロ用マットの場合、バーナリングの形態に応じて楕円形などに変更することが可能である。又、ガスバーナの基部付近に点火プラグや立ち消え防止用の安全装置などが設けられている場合、開口部は、これらを避けるような切欠部を有する形状としてもよい。
【0061】
又、第2の縁巻き部を形成する工程は、開口部形成工程と同時若しくはその前後、又は、第1の縁巻き部の形成工程と同時に行ってもよい。
【0062】
更に、内方部に形成する第1の縁巻き部及び外方部に形成する第2の縁巻き部は、いずれか一方だけ設けてもよく、両方とも省略してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…ガスコンロ用マット
2…マット本体
3…開口部
4…内方部
5…段差部
6…外方部
7…液止め部
8…第1の縁巻き部
9…堤防部
10…第2の縁巻き部
11…天板
12…開口
13…ガスバーナ
14…バーナリング
15…五徳
20…成形型
20A…上半部
20B…下半部
21…フォームパンチ
22…センターブロック
23…ワイプダウンブロックリテーナ
24…バックプレート
25A…上側の皺押さえ部
25B…下側の皺押さえ部
26…ブランキングパンチ
27…ドローリング
28…払い落とし
29…カットエッジ
50…金属箔シート体
51…内方領域
52…外方領域
尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。