(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】アレイアンテナ制御装置及びアレイアンテナ制御方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/08 20060101AFI20220916BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
H04B7/08 680
H04B7/08 422
H01Q3/26 Z
(21)【出願番号】P 2018184425
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2020-07-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、総務省、「ミリ波帯による高速移動用バックホール技術の研究開発 ウ 高速鉄道環境でのシステム統合技術及び鉄道環境試験技術の開発 (ウ)-2 ユーザー向け列車内伝搬特性」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599108264
【氏名又は名称】株式会社KDDI総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和則
【審査官】谷岡 佳彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-509063(JP,A)
【文献】特開2004-128847(JP,A)
【文献】特表2020-520177(JP,A)
【文献】特開2009-105613(JP,A)
【文献】国際公開第2009/142000(WO,A1)
【文献】特開2000-196328(JP,A)
【文献】特開2006-217200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/08
H01Q 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子を備えるアレイアンテナの信号受信電力の大きさを検出する検出部と、
前記検出部が検出する信号受信電力の大きさが基準受信電力よりも小さい場合に、複数の前記アンテナ素子のうちの一部の前記アンテナ素子への給電を停止することにより、前記アレイアンテナのゲインを低下させるとともに、前記アレイアンテナの位相中心を変化させる制御を行う給電制御部と、
前記給電制御部による制御によって給電が停止されていない前記アンテナ素子についての受信振幅及び位相を、所望のビーム指向特性に基づいて制御する指向特性制御部と、
を備えるアレイアンテナ制御装置。
【請求項2】
前記アレイアンテナは、ミリ波帯の電磁波を受信する
請求項1に記載のアレイアンテナ制御装置。
【請求項3】
前記給電制御部は、
前記アレイアンテナの受信面に配列された複数の前記アンテナ素子のうち、受信波の波長に基づく領域に配列された前記アンテナ素子への給電を停止する
請求項1又は請求項2に記載のアレイアンテナ制御装置。
【請求項4】
前記給電制御部は、
前記検出部が検出する信号受信電力の大きさが基準受信電力よりも小さい場合に、前記アンテナ素子への給電を停止する場合において、前記アレイアンテナの受信面のうち前記アンテナ素子への給電が停止される領域を示す複数の給電パターンを順次変更することにより、前記アレイアンテナの位相中心を変化させる
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のアレイアンテナ制御装置。
【請求項5】
前記給電制御部は、
順次変更された前記複数の給電パターンのうち、信号受信電力がより大きい給電パターンを選択する
請求項4に記載のアレイアンテナ制御装置。
【請求項6】
複数のアンテナ素子を備えるアレイアンテナの信号受信電力の大きさを検出する検出手順と、
前記検出手順において検出される信号受信電力の大きさが基準受信電力よりも小さい場合に、複数の前記アンテナ素子のうちの一部の前記アンテナ素子への給電を停止することにより、前記アレイアンテナのゲインを低下させるとともに、前記アレイアンテナの位相中心を変化させる制御を行う給電制御手順と、
前記給電制御手順における制御によって給電が停止されていない前記アンテナ素子についての受信振幅及び位相を、所望のビーム指向特性に基づいて制御する指向特性制御手順と、
を有するアレイアンテナ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、アレイアンテナ制御装置及びアレイアンテナ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミリ波フェーズドアレイアンテナのビームアライメントに関する技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されるような従来技術によると、アレイアンテナの位置の変化によって、信号受信電力が大きく落ち込んでしまう場合がある。この場合において、従来技術によると、信号受信電力を回復させることが困難であるといった問題があった。
【0005】
本発明は、簡単な構造のアレイアンテナの信号受信電力が低下した場合に信号受信電力を回復させることができるアレイアンテナ制御装置及びアレイアンテナ制御方法を提供することを目的とする。
ここでいう簡単な構造とは、一般的なフェーズドアレーアンテナと異なり、各素子の位相器の構造を簡略化していることを意味する。すなわち、各アンテナ素子に対して細かい位相調整を行うという従来のフェーズドアレーの仕組みを簡略化し、複数の素子をまとめて、粗い位相調整を行うだけの簡単な仕組みでアンテナを作りこむことにより、一般的なフェーズドアレーアンテナに比べると若干性能は劣化するが大幅な劣化を防げるので、価格を抑えた大量生産に向いた故障もしにくい平易な構造で従来に比べてあまり見劣りしない性能を得ることができるというものである。
詳細は以下に述べるが、ボアサイトへのビームの向きを数点に止めることにより価格を抑え、かつ、そのためにビームを向けられない方向ができてしまう欠点を回避するという手法を用いているのが特徴である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、複数のアンテナ素子を備えるアレイアンテナの信号受信電力の大きさを検出する検出部と、前記検出部が検出する信号受信電力の大きさが基準受信電力よりも小さい場合に、複数の前記アンテナ素子のうちの一部の前記アンテナ素子への給電を停止することにより、前記アレイアンテナのゲインを低下させるとともに、前記アレイアンテナの位相中心を変化させる制御を行う給電制御部と、前記給電制御部による制御によって給電が停止されていない前記アンテナ素子についての受信振幅及び位相を、所望のビーム指向特性に基づいて制御する指向特性制御部と、を備えるアレイアンテナ制御装置である。
【0007】
本発明の一実施形態のアレイアンテナ制御装置において、前記アレイアンテナは、ミリ波帯の電磁波を受信する。
【0008】
本発明の一実施形態のアレイアンテナ制御装置において、前記給電制御部は、前記アレイアンテナの受信面に配列された複数の前記アンテナ素子のうち、受信波の波長に基づく領域に配列された前記アンテナ素子への給電を停止する。
【0009】
本発明の一実施形態のアレイアンテナ制御装置において、前記給電制御部は、前記検出部が検出する信号受信電力の大きさが基準受信電力よりも小さい場合に、前記アンテナ素子への給電を停止する場合において、前記アレイアンテナの受信面のうち前記アンテナ素子への給電が停止される領域を示す複数の給電パターンを順次変更することにより、前記アレイアンテナの位相中心を変化させる。
【0010】
本発明の一実施形態のアレイアンテナ制御装置において、前記給電制御部は、順次変更された前記複数の給電パターンのうち、信号受信電力がより大きい給電パターンを選択する。
【0011】
本発明の一実施形態は、複数のアンテナ素子を備えるアレイアンテナの信号受信電力の大きさを検出する検出手順と、前記検出手順において検出される信号受信電力の大きさが基準受信電力よりも小さい場合に、複数の前記アンテナ素子のうちの一部の前記アンテナ素子への給電を停止することにより、前記アレイアンテナのゲインを低下させるとともに、前記アレイアンテナの位相中心を変化させる制御を行う給電制御手順と、前記給電制御手順における制御によって給電が停止されていない前記アンテナ素子についての受信振幅及び位相を、所望のビーム指向特性に基づいて制御する指向特性制御手順と、を有するアレイアンテナ制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アレイアンテナの信号受信電力が低下した場合に信号受信電力を回復させることができるアレイアンテナ制御装置及びアレイアンテナ制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態のアレイアンテナ制御システムの機能構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態のアンテナ素子の配置の一例を示す図である。
【
図3】本実施形態のアレイアンテナ制御システムの動作の流れの一例を示す図である。
【
図4】本実施形態の検出部が検出する到来波の受信強度の時間変化の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態の位相中心の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態]
以下、図を参照して本実施形態のアレイアンテナ制御システム1の概要について説明する。
図1は、本実施形態のアレイアンテナ制御システム1の機能構成の一例を示す図である。
【0015】
アレイアンテナ制御システム1は、アレイアンテナAと、給電部Fと、アレイアンテナ制御装置10とを備える。
アレイアンテナAは、アレイ状に配置された複数のアンテナ素子Eを備えており、到来波ARWを受信する。アンテナ素子Eの配置の一例について、
図2を参照して説明する。
【0016】
図2は、本実施形態のアンテナ素子Eの配置の一例を示す図である。アレイアンテナAは、複数のアンテナ素子Eをその受信面に備える。本実施形態の一例において、アレイアンテナAは、8行×8列に配置された64個のアンテナ素子E(アンテナ素子E11~アンテナ素子E88)を備えている。これらアンテナ素子Eは、受信面のうち、受信対象の電磁波の波長λに基づく領域ARに配置される。本実施形態の一例では、領域ARには、その1辺の長さが受信対象の電磁波の波長λに応じた領域AR0と、その1辺の長さが受信対象の電磁波の波長λの半波長λ/2に応じた4つの領域AR1~領域AR4がある。
領域AR1は、左半波長領域とも称する。領域AR1には、8行×4列の32個のアンテナ素子E(アンテナ素子E11~アンテナ素子E48)が配置される。
領域AR2は、右半波長領域とも称する。領域AR2には、8行×4列の32個のアンテナ素子E(アンテナ素子E51~アンテナ素子E88)が配置される。
領域AR3は、上半波長領域とも称する。領域AR3には、4行×8列の32個のアンテナ素子E(アンテナ素子E11~アンテナ素子E84)が配置される。
領域AR4は、下半波長領域とも称する。領域AR4には、4行×8列の32個のアンテナ素子E(アンテナ素子E15~アンテナ素子E88)が配置される。
【0017】
アレイアンテナAの受信対象の電磁波の波長λの範囲は限定されない。一例として、本実施形態のアレイアンテナAは、ミリ波帯(概ね、波長:1~10mm、周波数:30~300GHz)の電磁波を受信する。例えば、アレイアンテナAは、WiGig(ワイギグ;登録商標)において利用される60GHz帯の電磁波を受信する。
【0018】
図1に戻り、給電部Fは、それぞれのアンテナ素子Eに給電する給電機能と、振幅及び位相を設定する移相機能とを有する。給電部Fは、アレイアンテナAの各アンテナ素子Eが受信した電磁波の受信信号RSをアレイアンテナ制御装置10に出力する。また、給電部Fは、アレイアンテナ制御装置10の出力に基づいて、アンテナ素子Eの振幅及び位相を可変に制御する。
なお、アレイアンテナAによって受信された到来波ARWの検波や復号については説明を省略する。
【0019】
アレイアンテナ制御装置10は、検出部110と、給電制御部120と、指向特性制御部130とを備える。
検出部110は、アンテナ素子Eの受信信号RSの受信電力の大きさを検出し、検出した結果を受信電力検出結果DAとして給電制御部120に出力する。すなわち、検出部110は、複数のアンテナ素子Eを備えるアレイアンテナAの信号受信電力の大きさを検出する。
【0020】
給電制御部120は、検出部110が出力する受信電力検出結果DAに基づいて、給電制御信号FCを生成する。この給電制御信号FCとは、アレイアンテナAが備える複数のアンテナ素子Eのうちの一部のアンテナ素子Eへの給電を停止する指示を示す信号である。すなわち、給電制御部120は、検出部110が検出する受信電力検出結果DA(信号受信電力の大きさ)に基づいて、複数のアンテナ素子Eのうちの一部のアンテナ素子Eへの給電を停止する制御を行う。
給電制御部120は、生成した給電制御信号FCを指向特性制御部130及びアレイアンテナAの給電部Fに対してそれぞれ出力する。
アレイアンテナAの給電部Fは、給電制御信号FCに基づいてアンテナ素子Eの給電状態を変更する。
【0021】
指向特性制御部130は、給電制御部120による制御によって給電が停止されていないアンテナ素子Eについての受信振幅及び位相を、所望のビーム指向特性DCに基づいて制御する。ここで所望のビーム指向特性DCは、アンテナ素子Eの給電パターンPに基づいて予め定められていてもよいし、外部の装置から指示されてもよい。
指向特性制御部130は、アレイアンテナAの給電部Fに対して、指向特性制御信号BFを出力する。
アレイアンテナAの給電部Fは、指向特性制御信号BFに基づいて、アレイアンテナAのビーム指向特性DCを変更する。
【0022】
[アレイアンテナ制御システム1の動作]
次に、
図3を参照して本実施形態のアレイアンテナ制御システム1の動作の一例について説明する。
図3は、本実施形態のアレイアンテナ制御システム1の動作の流れの一例を示す図である。
【0023】
(ステップS10)アレイアンテナ制御装置10の検出部110は、アレイアンテナAが受信した到来波ARWの信号受信電力の大きさを検出する。検出部110は、検出した結果を受信電力検出結果DAとして給電制御部120に出力する。
【0024】
(ステップS20)給電制御部120は、ステップS10において出力された受信電力検出結果DAが基準受信電力STよりも大きいか否かを判定する。ここで、基準受信電力STとは、受信電力の判定しきい値thとして予め定められた値である。
給電制御部120は、受信電力検出結果DAが基準受信電力STよりも大きいと判定した場合(ステップS20;YES)、処理をステップS40に進める。また、給電制御部120は、受信電力検出結果DAが基準受信電力ST以下であると判定した場合(ステップS20;NO)、処理をステップS30に進める。ここで
図4を参照して、給電制御部120による判定の具体例について説明する。
【0025】
図4は、本実施形態の検出部110が検出する到来波ARWの受信強度の時間変化の一例を示す図である。同図には、横軸に時刻tを、縦軸に到来波ARWの受信強度を示す。同図に示す一例では、時刻t0から時刻t1までの間、及び時刻t2以降において、到来波ARWの受信強度が判定しきい値th(基準受信電力ST)よりも大きい。また、時刻t1から時刻t2までの間において、到来波ARWの受信強度が判定しきい値th(基準受信電力ST)以下である。
【0026】
同図に示す一例の場合、給電制御部120は、時刻t0から時刻t1までの間、及び時刻t2以降において、受信電力検出結果DAが基準受信電力STよりも大きいと判定し(ステップS20;YES)、処理をステップS40に進める。また、給電制御部120は、時刻t1から時刻t2までの間において、受信電力検出結果DAが基準受信電力ST以下であると判定し(ステップS20;NO)、処理をステップS30に進める。
【0027】
すなわち、給電制御部120は、検出部110が検出する受信電力検出結果DA(信号受信電力の大きさ)が基準受信電力STよりも小さい場合に、複数のアンテナ素子Eのうちの一部のアンテナ素子Eへの給電を停止する制御を行う。
【0028】
(ステップS30)
図3に戻り、給電制御部120は、ステップS20における判定結果に基づいて、アンテナ素子Eへの給電を停止する。
一例として、給電制御部120は、予め定められた給電パターンPに基づいて給電制御を行う。ここで給電パターンPとは、アレイアンテナAの受信面に配列された複数のアンテナ素子Eのうち、給電を行うアンテナ素子Eの位置と給電しないアンテナ素子Eの位置との配置の種類を示す情報である。
【0029】
[給電パターンP1(全面給電)]
給電パターンP1において、給電制御部120は、
図2に示すアンテナ素子Eのうち、すべてのアンテナ素子Eに対して給電する。この給電パターンP1は、ステップS20において、受信電力検出結果DAが基準受信電力STよりも大きいと判定された場合など用いられる。
[給電パターンP2(左半波長給電)]
給電パターンP2において、給電制御部120は、
図2に示すアンテナ素子Eのうち、左半波長分の領域AR(同図の領域AR1)に配置されたアンテナ素子Eに対して給電し、右半波長分の領域AR(同図の領域AR2)に配置されたアンテナ素子Eに対して給電しない。すなわち、給電パターンP2において、給電制御部120は、領域AR2に配置されたアンテナ素子Eに対する給電を停止する。
[給電パターンP3(右半波長給電)]
給電パターンP3において、給電制御部120は、
図2に示すアンテナ素子Eのうち、右半波長分の領域AR(同図の領域AR2)に配置されたアンテナ素子Eに対して給電し、左半波長分の領域AR(同図の領域AR1)に配置されたアンテナ素子Eに対して給電しない。すなわち、給電パターンP3において、給電制御部120は、領域AR1に配置されたアンテナ素子Eに対する給電を停止する。
[給電パターンP4(上半波長給電)]
給電パターンP4において、給電制御部120は、
図2に示すアンテナ素子Eのうち、上半波長分の領域AR(同図の領域AR3)に配置されたアンテナ素子Eに対して給電し、下半波長分の領域AR(同図の領域AR4)に配置されたアンテナ素子Eに対して給電しない。すなわち、給電パターンP4において、給電制御部120は、領域AR4に配置されたアンテナ素子Eに対する給電を停止する。
[給電パターンP5(上半波長給電)]
給電パターンP5において、給電制御部120は、
図2に示すアンテナ素子Eのうち、下半波長分の領域AR(同図の領域AR4)に配置されたアンテナ素子Eに対して給電し、上半波長分の領域AR(同図の領域AR3)に配置されたアンテナ素子Eに対して給電しない。すなわち、給電パターンP5において、給電制御部120は、領域AR3に配置されたアンテナ素子Eに対する給電を停止する。
【0030】
ここで、領域AR1~領域AR4とは、いずれも受信対象の電磁波の波長λに基づいた領域である。すなわち、給電制御部120は、アレイアンテナAの受信面に配列された複数のアンテナ素子Eのうち、受信波の波長に基づく領域ARに配列されたアンテナ素子Eへの給電を停止する。
【0031】
(ステップS40)
図3に戻り、指向特性制御部130は、給電制御部120による給電制御の結果に基づいて、ビーム指向特性DCの制御を行う。
【0032】
アレイアンテナ制御装置10は、ステップS10~ステップS40による制御を行うことにより、アレイアンテナAの位相中心PCを変化させる。アレイアンテナAの位相中心PCの変化の一例について、
図5を参照して説明する。
【0033】
図5は、本実施形態の位相中心PCの変化の一例を示す図である。同図には、アレイアンテナ制御装置10が、給電パターンPを給電パターンP1(全面給電)から給電パターンP2(左半波長給電)に変更した場合の位相中心PCの変化を示す。この一例の場合、給電パターンP1(全面給電)の場合の位相中心PC1から、給電パターンP2(左半波長給電)の場合の位相中心PC2に、位相中心PCが変化する。
【0034】
なお、給電制御部120は、アレイアンテナAの受信面のうちアンテナ素子Eへの給電が停止される領域ARを示す複数の給電パターンを順次変更することにより、給電パターンが示す領域ARに配置されるアンテナ素子Eへの給電を停止するように構成されてもよい。
具体的には、給電制御部120は、ステップS30の処理を実施するごとに、上述した給電パターンP1~給電パターンP5を順次選択することにより(例えば、ラウンドロビン方式によって)、給電パターンPを変更する。
【0035】
[実施形態のまとめ]
以上説明したように、本実施形態のアレイアンテナ制御装置10は、給電制御部120を備えている。この給電制御部120は、信号受信電力の大きさに基づいて、複数のアンテナ素子Eのうちの一部のアンテナ素子Eへの給電を停止する制御を行う。
ここで、アレイアンテナAによって電磁波を受信する場合、アレイアンテナAの位置の変化によって、信号受信電力が大きく(例えば、20dB程度まで)落ち込んでしまう場合がある。
従来、信号受信電力が落ち込んだ場合には、ビームの向きを変更することにより落ち込みの回復を試みる場合があった。しかしながら、この従来の手法によると、ビームの向きを変更しても信号受信電力の落ち込みを回復させることができない場合が生じていた。
本実施形態のアレイアンテナ制御システム1によれば、アレイアンテナ制御装置10の給電制御部120が、信号受信電力の大きさに基づいて、複数のアンテナ素子Eのうちの一部のアンテナ素子Eへの給電を停止する制御を行う。この制御により、給電されているアンテナ素子Eの数が減少するため、給電停止前に比べてビーム幅が広がりゲインが低下する一方で、アレイアンテナAの位相中心PCを変化させることができる。アレイアンテナAの位相中心PCが変化すると、信号受信電力が大きく回復することがある。このアレイアンテナAの位相中心PCの変化による信号受信電力の回復幅(例えば、20dBの増加。)が、アンテナ素子Eの数の減少によるゲイン低下幅(例えば、3dBの減少。)よりも大きい場合がある。この場合、アンテナ素子Eへの給電停止によって、信号受信電力が大きく回復(例えば、20dB-3dB=17dBの増加。)する。つまり、本実施形態のアレイアンテナ制御装置10によれば、信号受信電力が低下した場合に、位相中心PCの変更により信号受信電力を回復させることができる。
【0036】
また、本実施形態のアレイアンテナ制御装置10は、ミリ波帯の電磁波を受信するアレイアンテナAを制御対象とする。ここで、比較的波長が短い帯域(例えば、ミリ波帯)の電磁波を受信する場合、アレイアンテナAの位置のわずかな変化によって、信号受信電力が大きく落ち込んでしまう場合がある。すなわち、位相中心PCの位置の変更によるアレイアンテナAの信号受信電力の回復の幅は、比較的波長が長い帯域に比べ、ミリ波帯などの比較的波長が短い帯域のほうが、より大きくなる。本実施形態のアレイアンテナ制御装置10は、ミリ波帯の電磁波を受信するアレイアンテナAを制御対象とすることにより、信号受信電力の回復幅をより大きくすることができる。
【0037】
また、本実施形態のアレイアンテナ制御装置10は、給電制御部120は、受信波の波長λに基づく領域ARに配列されたアンテナ素子Eへの給電を停止する。位相中心PCの移動幅が受信波の波長λに応じた幅である場合には、位相中心PCの移動幅が受信波の波長λに応じていない場合に比べて、位相中心PCの移動による信号受信電力の変動幅をより大きくすることができる。つまり、本実施形態のアレイアンテナ制御装置10によれば、信号受信電力の回復幅をより大きくすることができる。
【0038】
また、本実施形態のアレイアンテナ制御装置10は、給電制御部120が、検出部110が検出する受信電力検出結果DA(信号受信電力の大きさ)が基準受信電力STよりも小さい場合に、複数のアンテナ素子Eのうちの一部のアンテナ素子Eへの給電を停止する制御を行う。
一般的に、信号受信電力の大きさが小さい場合には、給電するアンテナ素子の数(つまり、ゲイン)を増加させることにより、信号受信電力の大きさを回復させる制御が行われる。しかしながら、このような従来の制御によると、給電するアンテナ素子の数が増加することにより消費電力が増加するという問題が生じる。また、このような従来の制御によると、信号受信電力の落ち込みを想定して、給電しないアンテナ素子を予備アンテナ素子として待機させておくことになり、アレイアンテナの面積が大きくなってしまうという問題が生じる。
本実施形態のアレイアンテナ制御装置10によれば、信号受信電力の大きさを回復させる場合にアンテナ素子Eへの給電を停止する構成であるため、消費電力の増加や面積の増大といった問題が生じない。つまり、アレイアンテナ制御装置10によれば、低消費電力かつ省面積のアレイアンテナAを実現することができる。
【0039】
また、本実施形態のアレイアンテナ制御装置10は、給電制御部120が、アレイアンテナAの受信面のうちアンテナ素子Eへの給電が停止される領域ARを示す複数の給電パターンPを順次変更することにより、給電パターンPが示す領域ARに配置されるアンテナ素子Eへの給電を停止する。このように構成することにより、アレイアンテナ制御装置10は、信号受信電力がより大きい給電パターンPを選択することができ、信号受信電力の回復幅をより大きくすることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態及びその変形を説明したが、これらの実施形態及びその変形は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態及びその変形は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0041】
なお、上述の各装置は内部にコンピュータを有している。そして、上述した各装置の各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0042】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…アレイアンテナ制御システム、10…アレイアンテナ制御装置、110…検出部、120…給電制御部、130…指向特性制御部、A…アレイアンテナ、E…アンテナ素子、F…給電部、ARW…到来波、RS…受信信号、DA…受信電力検出結果、FC…給電制御信号、BF…指向特性制御信号、DC…ビーム指向特性、AR…領域、ST…基準受信電力、PC…位相中心、λ…受信対象の電磁波の波長、th…判定しきい値、P…給電パターン